クリスマス休暇で動意薄い
- MRA商品市場レポート
2021年12月27日 第2104号 商品市況概況
◆昨日の商品市場(全体)の総括
「クリスマス休暇で動意薄い」
【昨日の市場動向総括】
昨日の商品価格は欧米主要市場がクリスマス休暇で休場のため、方向感に欠ける展開となった。
上昇した商品はパーム油や欧州排出権、LME錫などだが、正直な所ポジション調整の買い戻し、と考えるのが妥当。
一方で、これまで大幅に上昇してきた欧州天然ガス価格は急落している。LNGが米国から欧州に大量に向かっている、との報道が下げの切っ掛けとされているが、それよりはクリスマス前に「生産者が利益確定の売りヘッジ」を入れた可能性の方が高かろう。
ロシアとウクライナの問題も非常に深刻な状況ではあるものの、不思議なものでクリスマスが重なると「一旦休戦」となるため、本件は1月以降のNATO・米国・ロシアの会談まで棚上げになると考えるのが良さそうだ。
【本日の見通し】
週明け月曜日もクリスマス休暇で不在の市場参加者が多いため、動意薄く現状水準でもみ合うものと考える。
しかし、オミクロン株の影響の緩和観測を背景に株価が上昇、楽観が戻っていることから総じて堅調な推移になると考える。
しかし、欧米が金融引き締め方向に舵を切っているため、買い戻しは長く続かずに中期的な下げトレンドが維持されると考える。
月曜日の注目材料は、余り市場参加者は注目していないが、中国の工業セクター利益に注目している。
この指標はLME非鉄金属との親和性が高く、伸び率が鈍化傾向にあるため恐らく月曜日も売り材料になると予想される。
【昨日のトピックス】
昨日、閣議決定となった2022年度予算案は、20日に成立した補正予算案と合わせて16ヵ月予算となるが、一般会計の総額は143兆円と過去最大となる。
基本的に需要がない中で公的需要を増加させる戦略は否定されないが、ここまでの規模になると将来的な財政負担を意識せざるを得ない。
基本的に国債の償還原資は将来の税金である。そして余剰資金が貯蓄に回っていれば基本的には融資先が乏しい中で資金が国債に向かうのは明らかであり、この状態でも何とかなりそうだ。
しかし、以前から指摘されているように、そろそろ団塊世代が年金受給対象となり、かつ、円安や資源高を背景とするインフレが懸念されている。特に後者は資金の国外流出を伴うため、持続的に資金が流出すれば国債の国内消化に大きな影響を及ぼすことになる。
また、仮に脱炭素のための投資が加速することになればそれが資金需要を生むため、国債に回る資金が減少し金利が上昇することもあり得る。
こうした事態が直ちに顕在化し、我々の生活に大きな影響を及ぼすまでにはまだ時間があると考えられるが、日本は構造的に「人口オーナス期」入りしており、今後、歳入の原資として当てになる所得税や消費税も減少することは明らかだ。
そろそろ野放図な財政拡張から、出口を考え始める時ではないだろうか。
【昨日のセクター別動向と本日の見通し】
◆原油
原油価格はBrentが下落した。クリスマス休暇で市場が閑散となる中、新しい材料も出てきていないため、ポジション調整的な取引が主体だったためと考えられる。
週明け月曜日は欧州市場が休場ということもあり、やはり方向感が出難い展開が続くと予想。100日~200日移動平均線のレンジワークを継続すると予想。
◆石炭・LNG・天然ガス
豪州石炭スワップ先物価格は小幅に上昇。欧米市場がクリスマス休暇で閑散ななか、小動きだった。中国の石炭輸送の指標の1つであるバルチック海運指数は小幅に続落。
欧州天然ガス価格は続落。米国から欧州向けに少なくとも15隻のLNG船が向かっていることで、目先の供給懸念が緩和したため。ただ、恐らくクリスマス休暇に入る生産者が、休暇前に「高値でヘッジをしておく」動きの影響の方が大きかったのではないだろうか。
なお、ヤマルパイプライン経由でのガス供給は昨日も回復していない。プーチン大統領は「ドイツやフランスからの要請が無いから」としているが、恐らく価格が高いため、アジアや米国からLNGを購入していることが影響しているのだろう。
ロシアからのガス購入はスポットや原油連動のものが多いが、現状、スポットで購入するよりも割安なLNGを海外に求めた方が良いとの合理性が独側に働いたためと考えられる。
ただし、欧州のガス在庫の水準は回復しておらず、ロシアからのガス共有が必要な状態は変わらないため、「新年度入り」してからロシア産のガスを求める動きになるのではないか。
しかし、在庫の絶対水準が低い上(ドイツの在庫水準も低い)、欧州の気温は低下していること、ウクライナ・ロシアの対立が思惑的な買いを誘う可能性が有ること、域内の原発稼働も低いことから、調整があったといっても春が来るまでは高い水準での推移になるのではないか。
実際、こうした需給のタイト化を織り込んでか、2022年のガス価格は高いままである。
JKMは欧州天然ガスの下落もあって全ゾーン続落。懸念していた2022年のJKM価格も35ドル台に下落している。供給懸念が無ければ期先の価格、13~15ドル程度が妥当なラインだろうが、この供給がタイトな状態が解消するにはまだ時間が掛りそうだ。
一方、スエズ以東・以西ともタンカーレートが大幅に低下し、過去5年の最低水準まで水準を切下げている。このタンカーレートの水準を見るに、東西とも目先のLNG調達に目処が立ったことを示唆している。しかしこれは足下の価格水準とは整合が取れておらず、引き続きタンカーレート動向は注視が必要だ。
2021年12月6日~12月12日のLNG取引は前週比▲9%の770万トン(前週+17%の840万トン)となった。スポット調達のシェアは29%(29%)と横這い。
日本、韓国、中国、台湾のターム契約による調達が減少した、スポットの比率は高く冬場に向けた輸入需要は旺盛。
米天然ガス市場は休場だった。
週明け月曜日も欧州市場が休場で、市場参加者が限定されるが北アジア・欧州・米西部の気温低下見通しを背景に、石炭価格は高値を維持する公算。
天然ガス価格はクリスマス休暇前の生産者側の売りヘッジで下落したが、基本的に在庫不足と気温低下の状況に変化はないため、高値を維持すると見る。
◆非鉄金属
LME非鉄金属価格は総じて堅調な推移となった。欧米市場参加者がクリスマス休暇で取引が閑散な中、景気の先行きへの楽観から恐らく休暇前の実需筋による買いが入ったと考えられる。
週明け月曜日は引き続き欧米の参加者の大半がクリスマス休暇で不在とみられ動意薄く、小動きになると考える。
ただし、中国で鉱業セクター利益が発表される予定。前回は前年比+24.6%と伸び率が鈍化、非鉄金属価格の下落要因となったが、今回はどうか。同指標の非鉄金属価格への説明力は高いため、取引薄い中で想定外の数字となった場合(基本は減速とみているが、良好な数字となった場合)、価格が急騰する可能性も排除せず。
◆鉄鋼・鉄鋼原料
中国向け海上輸送鉄鉱石スワップは小幅に上昇、豪州原料炭スワップ先物は下落、大連原料炭先物は上昇、上海鉄鋼製品先物は上昇した。
中国政府はオリンピック・パラリンピック期間中の製鉄所の大規模な稼働停止を否定している、との報道があったがさほど材料視はされなかった。実際、複数の都市が環境問題などを理由に稼働を引き下げる見通しであるため。
週明け月曜日は中国工業セクター利益が発表されるが、非鉄金属ほど価格ヘの影響が大きくない。しかし、工業セクター利益の伸びは鈍化傾向にあるため、鉄鋼製品価格の下押し材料となり、結果、鉄鋼原料価格も下押しされよう。
◆貴金属
昨日の貴金属セクターは小動きながら底堅い推移となった。原油価格の上昇や株価の戻りでリスクテイクが回復している他、期待インフレ率の上昇が金価格を高値に維持しているため。
金はイタリア国債などの利回り格差から米長期債が物色される流れを受けて、金融緩和解除モードであるにもかかわらず高値を維持している。
PGM・銀は株価の戻りによるリスクテイク再開が価格を押し上げている。
週明け月曜日はクリスマス休暇で市場参加者が限定されるが、景気への楽観が再び強まっていることから株価が上昇、短期金利が上昇、長期金利にも上昇圧力が掛っていること、原油価格の戻りが期待インフレ率を高止まりさせるため、金は横這い、株の戻りでPGMと銀は上昇すると考える。
◆穀物
シカゴ穀物市場は休場だった。
週明け月曜日は引き続き欧米市場参加者の多くがクリスマス休暇で不在であるが、生産地の減産観測が価格を押し上げており、リスクテイク再開によるドル安も手伝って、高値を維持する見込み。
※中長期見通しは個別セクターのコラムをご参照ください。
【マクロ見通しのリスクシナリオ】
・実施が期待されていた1.75兆ドルの米税制・支出法案がマンチン上院議員の造反で成立しない、ないしは規模が縮小される場合(景気減速でリスク資産価格の下落要因に)。
・ロシアと西側諸国の軍事衝突のリスク(世界経済の減速要因)
・コロナウイルスの感染再拡大(オミクロン株の影響)によるロックダウンが景気循環系商品の需要を減じる場合(価格下落要因)。
・資源価格上昇によるインフレや、米テーパリング・利上げ観測を背景とした新興国通貨安で新興国が想定以上のペースで利上げを行わねばならず、世界的に金融引き締めモードに転じた場合(リスク資産価格の下落要因)。
・米中対立激化による、新冷戦構造が発現しブロック経済圏が発生して貿易活動が鈍化する場合(場合によると武力衝突も)。
・米中対立が、自国内の混乱などを理由に急に「手打ち」となった場合(景気のポジティブリスク・中国がさらに力を付け、将来米中が武力衝突するリスク)。
・発電燃料供給不足による工場稼働停止や消費低迷で景気が減速する場合(リスク資産価格の下落要因)。
・中国不動産問題の沈静化に時間が掛り、信用収縮に繋がる場合(工業金属などの景気循環系商品を筆頭に、リスク資産価格の下落要因)。
・中国地方政府・中堅中小企業の財政状況悪化に伴う景気減速(これは人口動態を考えると、現実のリスクとなるのは2030年以降か)。
・環境重視型社会への急激な転換による、経済活動の鈍化リスク。成長ドライバーの1つとして期待される、中東・北アフリカ産油国が人口ボーナス期を活かせない(逆に鉱物産出国は高成長となる可能性も)。
逆に脱炭素に向けたインフラ投資の加速で資源価格が急上昇、金融緩和マネーが大量に市場に滞留する中でハイパーインフレとなるリスク。
・来年の中間選挙を控えて、バイデン大統領が国内の支持を得られない場合。議席確保のためのなりふり構わない政策がインフレをもたらすリスク(景気加熱後に急減速する要因)。
・独政権交代後の国内求心力が低下、域内最大経済国のドイツ経済が減速する場合、また、EUの指導力が低下し域内経済が停滞する場合(景気減速要因)。
・ロシア・ウクライナ・ベラルーシ・欧州を巡る対立が激化し、軍事的な衝突が発生する場合(景気の減速を通じて景気循環系商品価格の下落要因)。
・次の成長ドライバーとして期待されるインド経済が、期待通りの成長をできない場合(人種差別問題による国民の離反、市場開放・規制改革の遅れ、中国との対立など)。
2018年にすでに人口ボーナス期入りしているため、鉱物・エネルギーをはじめとする景気循環系商品需要の増加は2023~2024年頃。
・アフガン情勢の混乱が域内経済に混乱(大量の難民発生、コロナの感染拡大が欧州圏にもたらされるなど)をもたらし、米中対立を先鋭化させる場合(景気の減速要因)。
◆個別商品市場中期見通し
---≪エネルギー≫---
【原油価格見通し】
原油価格は米国が金融引き締めのスタンスに舵を切りつつある中で、米上院で税制・支出法案に造反が発生、来年の米経済見通しが下方修正される可能性が出てきたこと、オミクロン株の致死率は低いものの感染力が強いため、入院者数が増加していることからロックダウンの懸念も続くことから、中期(1~3ヵ月)的には水準を切り下げる展開になるとみる。
ウクライナを巡るロシアと欧米の対立で仮にロシアのエネルギー企業が制裁された場合、ガス供給のみならず原油供給も制限される可能性があること、価格下落があれば、1月4日のOPECプラス閣僚級会合で増産が見送られる可能性もあること、米国の窮状を見透かしたイランの核交渉が不調であり、イランからの原油供給増加も難しくなってきたことから、下落余地も限定されよう。
原油価格上昇に伴い米国のシェールオイル生産は回復、最大生産地域であり、生産コスト低いるPermianの生産はコロナ前の水準をほぼ回復した。
しかしその他の地域は回復が見られておらず、シェールオイル全体の12月の生産は2020年3月の8.56MBDよりも▲0.66MBD万少ない7.93MBDとなる見込み。
また、リグの稼働も脱炭素などの影響低調で、増産はこれまで掘削したが稼働させていなかった井戸の稼働によるものに止まっており、完成非稼働井戸数はピーク時の半分まで減少している。
期間の長い中期的(来年の春以降)には、経口薬の開発やコロナとの付き合い方が分る(もうウィズ・コロナで走るしかない)などで恐らくコロナによる移動制限が解除され、輸送燃料需要が回復することからやはり上昇に転じるとみている。
米DOEの2021年供給は95.59MBD(前月95.93MBD)、需要は96.90MBD(97.52MBD)、需給バランスは▲1.31MBDの供給不足(▲1.59MBDの供給不足)。
2022年は供給が101.41MBD(101.41MBD)、需要が100.89MBD(100.89MBD)、需給バランスは+0.47MBDの供給過剰(+0.52MBDの供給過剰)。
【見通しの固有リスク】
・ロシアのウクライナ侵攻に対して、欧米がロシアのエネルギー企業に制裁、供給が逼迫下場合(価格の上昇要因)。
・気温低下による暖房向け燃料需要が増加、ないしは不稼働の液体系燃料発電(ディーゼルや重油)を有する国や地域が再稼働を決定した場合(価格の上昇要因)。
・電力・ガスをはじめとするエネルギー供給制限が経済活動を強制的に停止させ、需要が減少する場合(価格の下落要因)。
・米国経済が正常化する中で金融緩和解除が加速、急速なドル高を通じて投機的な売り圧力が高まる場合(価格の下落要因)。
・OPECプラスの増産ペースの遅れないしは上流部門投資不足による供給不足。またはイランを巡り武力衝突や制裁解除が遅れた場合(価格上昇要因)。
あるいは上流部門投資をしてこなかった結果、思った増産ができない場合(価格上昇要因)。
価格が上昇する中でOPEC諸国の減産維持統制が効かなくなり、増産競争に舵が切られる場合(下落要因)。
・脱炭素の進捗、生活様式の変化による構造的な需要減少が加速した場合(価格下落要因)。
・脱炭素の過剰な進捗による供給懸念(価格上昇要因)。
1.中東産油国の財政悪化によって情勢不安が顕在化、供給途絶リスクが高まる場合
2.中東以外の産油国の生産者の破綻
3.上流投資部門投資が減速し、インドなどの新興国需要顕在化時に供給が間に合わない場合
4.価格面、数量面で予算を確保できない産油国が、OSPを大幅に引き上げる場合(第3次オイルショック)
なお、脱炭素が完了しても100%原油が不要になることはなく、OPECの価格支配力が増すため、この場合でも価格は上昇へ。
【石炭価格見通し】
海上輸送石炭価格は高値を維持すると考える。中国政府主導の増産・価格引き下げ策の影響で水準は低下したものの、中国・インドなどの石炭火力中心の地域の石炭在庫水準はまだ低く、冬場の電力需要向けの調達は旺盛で、供給不足に伴い稼働を停止する工場が増加していることから。
中国政府主導による石炭増産は、これから冬が本格化するなかで、主要生産地が中国北部であることを考えると思った通りの増産ができるとは考え難い。
ただ、11月の生産は3億7,084万トンと過去最高水準となった。しかし問題は寒さが厳しくなる12月~3月も増産が可能かどうかである。
11月の中国の石炭輸入は前年比+198.1%の3,505万2,000トン(前月+96.2%の2,694万トン)と過去5年レンジを上回っている。豪州からの輸入もオフィシャルに再開しており、国内需給は緩和期待が高まる。
【見通しの固有リスク】
・ロシアのウクライナ侵攻に対して、欧米がロシアのエネルギー企業に制裁、供給が逼迫下場合(価格の上昇要因)。
・今冬はラニーニャ発生が厳冬リスクを高めているが、懸念に反して暖冬となる場合(価格下落要因)。
・電力・ガスをはじめとするエネルギー供給制限が経済活動を強制的に停止させ、需要が減少する場合(価格の下落要因)。
・Nord Stream2の稼働が早期に行われ、天然ガス価格が急落する場合(下落要因)。ただしこの可能性は後退。
・世界的な環境重視型世界へのシフトを受けた、石炭上流部門への投資規制強化による、供給減速懸念(価格の上昇要因。これは既に顕在化)。
【天然ガス・LNG】
天然ガス価格は中国の経済活動が活発である一方、ロシアからのガス供給が回復せず、欧州域内最大の原発を保有するフランスの原発稼働率がメンテナンスの影響などで低下していることから火力発電向けの燃料需要が旺盛なこと、石炭価格も高値を維持していること、独新政権のカーボンクレジットに下限(60ユーロ、罰金が100ユーロなので恐らくそれ以上には上昇しない)を付ける方針などを受けたカーボンクレジット価格の上昇で、価格は高値を維持すると考える。
ノルドストリーム2はドイツ当局が承認プロセスに入っていると伝えられているが、通常のスケジュールだと2022年3月頃まで掛る見込みである。しかし、ウクライナを巡る混乱でノルドストリーム2自体が延期される可能性も否定はできず、急に供給不安が高まっている状況。
仮にウクライナと戦闘状態に入れば、常識的に考えてもウクライナ経由でガスが欧州に供給されるとは考え難い。その場合、戦闘の期間にもよるが長びけば春先以降の欧州のガス需給にも大きな影響が出ることが予想される。
武力による現状変更を認めると、今後、中国の武力による現状変更も認めることになるため欧米の反発は非常に強いと考えられ、ロシアが実際に軍事侵攻した場合、かなり大規模な戦闘になるリスクがある。
仮に、ガスプロムが欧州のガスタンクを充填しても欧州在庫は過去5年の最低水準を回復できない見込みであり、やはりこの冬(ないしは冬場の調達に目処が立つ2~3月頃まで)の間は高値が続くと予想される。
JKMの期間構造変化による期先のJKM価格の上昇は懸念だが、まだ2023年ゾーンが上昇するには至っておらず、早晩この需給がタイトな状態は解消する、と市場は見ていると考えられる。しかし仮に2023年まで上昇してきた場合、構造変化の可能性があるため、十分な注意が必要だ。
石炭忌避の動きから先進国ではCoal to Gasが加速するとみられること、この冬場の調達不足が来年も影響すること、が意識されこの水準が定常化するかもしれない。
現在はラニーニャ現象が発生しているが多くの場合、その後にエルニーニョ現象が発生することが多い。気象庁の分析では、3~5月、アジア地域は高温になることが予想されるため、天然ガス価格が春先も高い可能性は有り得る(なお、過去の傾向通りであれば、夏場は冷夏に)。
そう考えると2023年春以降の15ドル割れの水準は「割安」といえるが、構造の変化が継続するならば早晩、このゾーンの価格も上昇することが懸念される。
そんな中、主要電力会社がJEPX向けの販売価格をJKM連動に変更しつつある。この場合、JEPXの価格の上限はJKMに連動し、下限はJLCが目安となる。
11月の中国の天然ガス生産は前年比+5.2%の177億3,000万立方メートル(前月+15.8%の164億5,000万立方メートル)と増加、過去5年レンジを上回っている。
11月の中国の天然ガス輸入は前年比+16.9%の1,073万トン(前月+8.3%の938万トン)と過去5年レンジを上回っており、輸入ペースが加速している。
11月の中国のLNG輸入は前年比+4.4%の690万1,275トン(前月+22.9%の616万9,091トン)と過去5年レンジを上回っているが、前月ほどの水準ではなくなっている。価格上昇に伴うカーゴの手当の見送りなどもあったのではないか。
中国はパイプライン経由での天然ガスは主にトルクメニスタンから行っているが、「シベリアの力」パイプラインが開通して以降、ロシアからの調達も増加している。
ロシアの中国向け輸出は増加していた。そもそもシベリアの力経由での輸出は2021年で85億立方メートルに増加させる見込みであり、輸出の増加は契約通りとするロシアの主張に沿っている。
11月までの輸出が81.0億立方メートルであり(天然ガス1トン=1,220立方メートルと換算)、単純計算だと2021年の輸出見通しは88.4億立方メートルと計画を上回る。11月のLNG輸入の鈍化は、そのためとみるのが妥当か。
長期契約のLNGに関しては、原油リンクとなるため上昇見通しだが、価格反映までに3ヵ月程度の時間差があるため(消費者への影響はさらに3ヵ月後)、現時点ではまだ上昇していないと考えられる。次の懸念は夏のピーク時の電力・ガス価格への影響だろう。
【見通しの固有リスク】
・今冬はラニーニャ発生が厳冬リスクを高めているが、懸念に反して暖冬となる場合(価格下落要因)。
・電力・ガスをはじめとするエネルギー供給制限が経済活動を強制的に停止させ、需要が減少する場合(価格の下落要因)。
・Nord Stream2が稼働して欧州のガス需給が緩和した場合(価格下落要因)。
・石炭と同様、「化石燃料であること」を理由に上流部門投資が制限される、あるいは原油生産減少による随伴ガス供給が減少する場合(構造的な価格上昇要因)。
・産油国の減産継続による随伴ガス供給の減少懸念(価格上昇要因)。
【投機筋のポジション動向】
・直近の投機筋のポジションは以下の通り。
WTIはロングが483,233枚(前週比 ▲9,352枚)ショートが136,096枚(+10,743枚)ネットロングは347,137枚(▲20,095枚)
Brentはロングが245,999枚(前週比+1,294枚)ショートが91,581枚(+933枚)ネットロングは154,418枚(+361枚)
---≪LME非鉄金属≫---
【非鉄金属価格見通し】
非鉄金属価格は調整圧力が強まる展開を予想する。
欧米の利上げ観測や、米国の税制・歳出法案が廃案や修正を余儀なくされる可能性が出てきたことで、インフラ投資向けの需要が減速する可能性が強まっているため。
ただし、短期的には厳冬による燃料供給不足で精錬品の供給懸念が強まるため、一定の下支え効果がもたらされると予想する。
また、ロシアとウクライナの対立を受けた、ロシアに対する制裁強化懸念が強まっており、RusalやNornickelに対する制裁が行われ、供給が減少する可能性が意識されることも供給面からニッケルやアルミ、銅の価格を下支えしよう。
実際、LME指定倉庫在庫の水準はリーマンショック前の価格高騰時の水準まで低下しており、供給面のリスクが浮き彫りになっている。
既にLMEインデックスはこのときの水準を上回っており地合は強い。しかし景気の循環的な減速と春先に向けての生産回復から数ヵ月のスパンでは一旦下落すると考えるのが妥当だろう。
また、中国の不動産市場の調整で減速しており製造業PMIを見るに世界景気も一旦ピークアウトしていると考えられることも中期的に価格を押し下げると考える。
なお、長期的にはインドの人口ボーナス期入り、まだ脱炭素の流れが続いていること、省エネや脱炭素の流れに変わりがないため、供給面・需要面の制限から価格が上昇するという見通しを変更する必要はないと考えている。
また、米政権による1兆ドルのインフラ投資は実施される見通しであることも、鉱物資源需要の増加を通じて非鉄金属価格を押し上げよう。
しかし、バイデン政権支持率低下で、増税を伴う経済対策は受け入れられない可能性は高く、当初予定通りの規模で実行されるかは微妙に。1兆ドルインフラ投資は成立したが、1.75兆ドルの歳入・歳出法案の行方は不透明であり、当初想定していたほどの需要増加にはならない可能性。
【2022年LME金属需給見通し】
銅 生産 26,351千トン(前年25,043千トン) 需要 26,782千トン(25,613千トン) 需給 ▲432千トン(▲571千トン)
亜鉛 生産 14,293千トン(13,975千トン) 需要 14,423千トン(14,092千トン) 需給 ▲130千トン(▲117千トン)
鉛 生産 12,437千トン(12,437千トン) 需要 12,463千トン(12,243千トン) 需給 ▲26千トン(+194千トン)
アルミ 生産 69,003千トン(68,782千トン) 需要 70,441千トン(70,116千トン) 需給 ▲1,438千トン(▲1,334千トン)
ニッケル 生産 2,927千トン(2,886千トン) 需要 2,960千トン(2,758千トン) 需給 ▲33千トン(▲75千トン)
錫 生産 423千トン(413千トン) 需要 428千トン(425千トン) 需給 ▲5千トン(▲13千トン)
※カッコ内は修正前予想。
【金属固有の材料】
・インドネシアニッケル銑鉄(NPI)生産、2022年はこれまでの能力増強で増産の見込み。
2020年の新規追加キャパシティは36万7,000トン、2021年は10万1,000トン。
これらの新規キャパシティからの2021年の生産見通しは38万5,000トン(前年比+19万5,000トン)、2022年は45万6,000トン(7万1,000トン)の見込み(BBG調べ)
中国の発電量を見ると、11月は前年比+1.9%の6,540億kwhと前月の+4.9%、6,390kwh唐は増加しているが前年比較での伸び率は鈍化している。一方で電力消費は前年比+3.9%の6,718kwh(前月+7.0%の6,603kwh)と伸びは鈍化しているが水準は発電量を上回っている。
同時同量の原則があるため両者は同じ数値であるべきだが、統計の集計方法によるものと考えられる。しかし、需給は寄りタイトであることは間違いがなくまだ本格的に電力依存の高い精錬品の生産が回復している感じはない。
同時に発表された中国の非鉄金属生産は概ね回復しているが、アルミの生産はまだ過去5年の最高水準を上回るには至っておらず(ニッケルは直近の生産統計の発表なし)、アルミ、ニッケルは金曜日は上昇している。
これは中国の問題、需要の問題というよりはウクライナ問題を受けた米国のロシアに対する制裁への懸念が影響したと考える方が妥当だろう。
早ければ2022年早々に軍事侵攻が行われる、との見方も広がっており、その場合はアルミ・ニッケルの価格はさらに上昇することになるだろう(ただしリスク要因との位置づけ)。
【中国重要統計の評価】
11月の中国の製造業PMIは50.1(前月49.2)と改善した。生産が52.0(48.4)と回復したことが影響した。しかし、新規受注(48.8→49.4)、輸出新規受注(46.6→48.5)と回復しているものの依然として50の閾値を大半のサブインデックスが下回っている。
50の閾値を上回っているのは生産と購買量、かなり低下したが投入価格指数、業界動向指数のみであり、統計としてはそこまで強い統計だったとは言い難い。
価格に対する説明力が高い新規受注・在庫レシオは、原材料在庫レシオが1.036(前月1.038)と低下、完成品在庫レシオは1.031(1.054)と低下しており、再び原材料・完成品を巡る需給は緩和している。非鉄金属価格をはじめとする工業金属価格の下押し要因となる。
一方で、これまで工業金属価格の上昇を牽引してきたのは中国の住宅セクターであるが、鉄鋼業PMIは59.1(前月56.9)と改善している。
昨年からの不動産セクターの規制強化で減速傾向が強まっていた。しかし、エバーグランデ問題を皮切りに住宅市場が混乱する可能性が高まったため、中国政府は「三道紅線」を設定、レバレッジ規制の遵守状況によって開発業者の借り入れ能力が決まる。
しかし、この規制導入で健全な企業、国有企業ですら物件の買い取りを渋り始めたため、この規制を緩和し物件取得目的の債務に関しては、借入比率の算出に含めないとした。恐らくこの規制の若干の緩和が建設業セクターのマインドを改善した物と考えられる。
ただしレバレッジ規制は継続する見込みであり、不動産セクター全体に下押し圧力が掛かっている状況に大きな変化はない。
11月の中国の貿易統計を見ると、ベンチマークである精錬銅の輸入は前年比▲9.1%の51万402トン(前月▲33.5%の41万1,000トン)と過去5年平均を上回り輸入が増加した。
10月は9月の下落で9,000ドルまで水準が低下していたため、輸入が加速したとみられる。
一方、銅精鉱の輸入は前年比+19.6%の218万8,000トン(前月+6.3%の179万7,000トン)と高い水準を維持している。国内在庫水準の低さと、通常年末にかけて増加する電線向けの投資需要の回復が影響しているとみられる。
エネルギー不足の影響で輸入の伸びが減速していたが、中国政府の対策推進によりやや国内生産が回復した可能性はある。ただ、銅製錬事業者の10月の稼働率は86.1%と前月、過去5年の最低水準より低く、まだ回復は確認されていない。
11月の銅スクラップの輸入は前年比+76.6%の16万4,652トン(前月+98.1%の13万3,011トン)。
統計からはまだ中国の工場の生産・稼働の混乱は続いており、正常化はまだ先になると予想される。
工業金属のフロー需要に影響する工業生産は、単月ベースでは+3.8%(前月+3.5%)とやや回復したが、1-11月累計で前年比+10.1%(1-10月期+10.9%)と伸びが鈍化しており、電力供給不足によって工業活動が減速したと見られる。
一方、不動産開発投資は1-11月期累計で前年比+6.0%の13兆7,314億元(1-10月期+7.2%の12兆4,934億元)とこちらも減速している。習近平国家主席が直々に不動産規制緩和の指示を出したことも頷ける。
ストック需要の指標である固定資産投資も年初来累計で+5.2%(+6.1%)とこちらも減速が鮮明に。公的セクターの伸び鈍化は所与(+4.1%→+3.0%)としても、よりボリュームの大きな民間部門が前年比+7.7%(+8.5%)と伸びが減速しており、全体として中国政府によるバブル抑制行動が影響したと考えられる
ただし、中国政府は不動産規制緩和と、預金準備率の引き下げといった景気刺激策の影響で減速は数ヵ月後に底入れするだろう。電力供給の制限やオリ・パラの開催を考えると、回復は3月以降になるのではないか。
【政策動向・脱炭素】
政策動向・脱炭素の流れは中長期的な材料。米バイデン政権は8年間で1兆2,000億ドルのインフラ投資計画実施計画。
道路・橋梁・主要プロジェクトに1,090億ドル、電力インフラに730億ドル、旅客・貨物鉄道に660億ドル、ブロードバンド・インターネットサービスに650億ドル、公共交通機関に490億ドル、空港に250億ドルを投じる。
さらには2022年度予算も戦後最大となる歳出を6兆ドルと、以上と戦後最大の水準とする方針。
しかし、民主党内でも1.75兆ドルの税制・支出法案に造反する議員が出てきており想定通りの規模や内容で景気刺激が行われるかどうかは微妙になってきた。
これまで中国が鉱物セクターの需要動向に関して主役であり、今後も非鉄金属価格の動向は中国動向が左右するが、「新規の需要」については欧米動向が重要になる可能性は意識しておきたいところ。
この場合、米国の景気回復=ドル高・金属価格上昇、という構図も考えられる。
米国・中国・インドがどのような動きをするかに環境政策は左右されるが、ここまでの各国の動きを見ていると当面は環境向けに使用される金属の需要増加は「今後10年・20年の大きなテーマ」となる可能性が高い。
軽量化目的のアルミ、EV向けのニッケル、銅(通常25キロ/台の銅が使われるが、EVは80キロ/台)、蓄電池としての鉛、コバルト、リチウムなど。
なお、EV戦略に慎重なスタンスだったトヨタ自動車が2030年までにEV車を350万台/年販売する方針。
そもそもトヨタは世界で一番モーターやバッテリーを組み込んだ自動車を販売してきた企業であり、その企業が本気になったということは、現在、EV車販売首位のテスラの販売能力を遙かに上回ると予想される。
この場合、バッテリー向け資源需要が構造的な増加局面に入る可能性が高まることになる。
ただし、バッテリーの必須資源を、政治的な対立が予想され、安定的なサプライヤーとしての信用が高くない中国以外からの調達をどれだけ引き上げることができるかも非常に重要な論点となる。
脱炭素の一環でEV戦略を国として進めるならば、資源外交はより重要になる。戦略物資が新しく1つ加わったと考えるべきである(アンモニアや水素の製造で引き続き原油は必須資源)。
【見通しの固有リスク/個別金属の特殊要因】
・ウクライナ問題を巡り、ロシアが欧米から制裁を受けてニッケルやアルミなど、同国への供給依存が高い商品の供給が逼迫する場合(価格の上昇要因)。
・中国不動産大手恒大集団の破綻懸念が中国の住宅セクターに広がり、中国の不動産バブルがはじける場合(価格下落要因)。
・ロジスティクスに障害が残る中、非鉄金属の偏在が現物プレミアムを押し上げるリスク(北米で顕在化)。
・猛暑や渇水による燃料価格上昇で、1.電力供給不足による稼働停止・供給減少、2.発燃料価格の上昇を通じて生産コストが上昇する、場合(価格上昇リスク)。
・米国経済が正常化する中でドル高が進行し、投機買いが膨らんでいる非鉄金属市場で投機の手仕舞い売り圧力が高まる場合(下落リスク)。
・上流部門投資不足並びに鉱石の品位低下による、鉱山供給の制限。
・チリやペルーで広がる左派勢力伸長に伴う大衆迎合的な政策が可決し、鉱山生産に過剰なロイヤルティが適用される場合(供給減少ないしは生産コスト上昇で価格の上昇要因)。
ペルーは新大統領のペドロ・カスティジョが指名したミーシャ・バスケス新首相は、鉱山課税を変更するために必要とされる憲法改正は優先事項ではないとし、今のところ課税強化は棚上げとなっていると見られる。
一方、チリでは上院が(修正の可能性を含み)以下の法案を可決。12月19日の大統領選決選投票の結果で、左派のガブリエル・ボリック氏が勝利したため、法制化される可能性が高い。
3%の新ロイヤルティに加え、銅価格に連動して税額が賦課される仕組み。
2ドル~2.5ドル/ポンド(4,406~5,508ドル/トン):15%2.5ドル~3(5,508~6,609):35%3ドル~3.5(6,609~7,711):50%3.5ドル~4(7,710~8,813):60%4ドル~4.5(8,813~9,914):70%
年間販売量が5万トン未満の小規模生産者は品位95%の粗銅の場合▲5%の軽減税率、アノードの場合(99.4~99.6%)が適用される。
2023年までは現行の営業利益率によって5~14%の鉱業ロイヤルティが適用されるが、2024年以降は新税制を適用。
・メキシコは鉱業改革法の中で、エネルギー転換に必要なリチウムとその他の戦略的鉱物の採掘権をこれ以上容認しないとしており、これに銅やネオジム、プラセオジムなどのレア・アースも含まれる可能性。
・インドネシアが再び低品位ニッケル鉱石の輸出を制限する場合(ニッケル価格の上昇要因)。
・LMEベースメタルではないが、中国ではレア・アースの生産を国有企業に集約して管理する動きが強まっており、今後の自動車セクターの中核となる電気自動車生産のサプライチェーンに大きな影響を与える可能性。
レア・アース大手五鉱稀土は、親会社の中国五鉱集団がアルミ大手のチャイナルコやレア・アースの大産地である江西省政府との間でレア・アース関連資産の戦略的な再編交渉を進めていると発表。
中国政府が2020年および2021年に許可したレア・アースの採掘割当量を見ると、CMRE、チャイナルコ、江西省地方政府傘下企業の3社だけで、中国全土で採掘を許可された(ジスプロシウムなど)重希土類の割当量の67.9%、(ネオジムやセリウムなど)軽希土類の割当量の39.1%を占める。
・環境問題や人権問題(コンフリクト・メタルの問題)を背景とする鉱山供給の減少。
また、環境に配慮したメタル使用の義務化などが欧州で進む場合などのコストアップ(グリーン・メタルの義務化によるコスト増加)。
中国の環境規制強化に伴う供給の減少。エネルギー排出量の多い新疆ウイグル自治区でのアルミ生産は減産の影響は既に材料視されている。
【投機筋のポジション動向】
・LME投機筋買い越し金額 前週比▲1.8%の247億ドル(前週 251億ドル)・LME投機筋買い越し数量 前週比+1.0%の5,220.7千トン(前週 5,171.0千トン)
---≪鉄鋼原料≫---
【鉄鋼原料価格見通し】
鉄鉱石価格は短期的にはオリンピック・パラリンピック前の駆け込み需要で堅調な推移が予想されるが、年明け以降は北部の生産が減少するため、「在庫積み増しの時期ではあるが、価格は低迷」すると予想される。
既に鉄鉱石在庫は絶対水準・在庫日数水準でも過去5年の最高水準を上回っており、現状、製鉄所の稼働停止が続くのであれば「もう要らない状態」である。
ただ、より高品質の海外鉱石・海外炭を求める動きも同時に強まるとみられ、海上輸送市場は底堅い推移となるのではないか。
一方、来年は米欧中のインフラ投資による建材向け需要増加が期待されることも、鉄鉱石価格は底堅い推移になるだろう。
なお、鉄鉱石先物の期先の価格が限界生産コストの目安として意識されるが、80ドル程度に低下していた期先の水準は90ドル台まで上昇しており、中期的な価格の目線はやや切り上がっている。
原料炭については中国の国内生産の回復と、豪州からの輸入再開で徐々に中国の国内需給が緩和すると見られるため、長期的には下落に転じると考える。
しかし足下は豪州の中国向け輸出再開を受けて海上輸送市場が逼迫すると見られ、海上輸送炭価格は一旦上昇余地を探る動きに。
【中国の政策動向】
中国共産党は2021年から始まった5ヵ年計画で鉄鋼生産量の削減の必要性を表明している。今のところ昨年の生産量を超えないようにする、というのが中国政府の目標。
最大生産都市である唐山市は、2021年20日~12月31日まで、大気汚染基準に違反し、データを改ざんした4社は7月~12月末まで▲30%減産、その他の16社は12月末まで▲30%の減産を新たに実施することを義務づけられている。
これにより、唐山市の粗鋼生産は前年比▲2,223万トンの1億2,177万トン、鉄鉱石需要は▲3,500万トン減少するとみられている。
中国3番目の鉄鋼ハブである山東省は、2021-2025年の5ヵ年計画で、素行の環境上限(一般炭消費量535キログラム、2020年は547キログラム)、硫化物排出を0.3キログラム(2020年 0.85キログラム)、窒素化合物排出を0.6キログラム(1.6キログラム)、水の使用量を2.85立法メートル(3立方メートル)に低減させる計画。
なお、来年開幕のオリ・パラの期間、北京市、天津市、河北省、山西省、山東省、河南省では粗鋼生産を▲30%以上削減、河北省唐山市は大気汚染物質の排出を▲40%以上削減、山西省は鉄鋼やアルミ、鋳造、セメントなどの建材生産を制限、河北省はセメント生産を制限する方針を打ち出している。
概ね、新年以降3月15日までが規制対象期間になるが、これに備えた「駆け込み生産」があと2週間ほど続くことになるだろう。
粗鋼生産が減少すれば、鉄鉱石の在庫水準の指標である在庫日数も、分母が小さくなるため上昇が予想され、鉄鉱石価格の下落要因となる。これは原料炭も同様。
【中国重要統計の評価】
11月の中国鉄鋼業PMIは総合指数は36.6(前月38.30)と減速が続いた。冬場で市場全体の活動が鈍化していること、環境保全や電力供給不足を背景とする生産制限が生産活動を鈍化させていることが影響した。
実際、サブインデックスの新規受注は減速(39.0→28.2→25.9)、輸出向け新規受注(39.5→38.7→34.8)と内外需とも減速している。価格は低下したものの需要を喚起するには至っていない。
価格に対する説明力が高い新規受注・完成品レシオは0.91(前月0.92)と低下しており製品需給は緩和している。生産調整(36.8→33.5)があっても在庫積み上がりやすい地合になっており、足下の需要が旺盛ではないことを示唆している。
これまで工業金属価格の上昇を牽引してきたのは中国の住宅セクターであるが、鉄鋼業PMIは59.1(前月56.9)と改善している。
昨年からの不動産セクターの規制強化で減速傾向が強まっていた。しかし、エバーグランデ問題を皮切りに住宅市場が混乱する可能性が高まったため、中国政府は「三道紅線」を設定、レバレッジ規制の遵守状況によって開発業者の借り入れ能力が決まる。
しかし、この規制導入で健全な企業、国有企業ですら物件の買い取りを渋り始めたため、この規制を緩和し物件取得目的の債務に関しては、借入比率の算出に含めないとした。恐らくこの規制の若干の緩和が建設業セクターのマインドを改善した物と考えられる。
ただしレバレッジ規制は継続する見込みであり、不動産セクター全体に下押し圧力が掛かっている状況に大きな変化はない。
一方、製造業PMIは50.1(前月49.2)と改善した。生産が52.0(48.4)と回復したことが影響した。しかし、新規受注(48.8→49.4)、輸出新規受注(46.6→48.5)と回復しているものの依然として50の閾値を大半のサブインデックスが下回っている。
50の閾値を上回っているのは生産と購買量、かなり低下したが投入価格指数、業界動向指数のみであり、統計としてはそこまで強い統計だったとは言い難い。
工業金属のフロー需要に影響する工業生産は、単月ベースでは+3.8%(前月+3.5%)とやや回復したが、1-11月累計で前年比+10.1%(1-10月期+10.9%)と伸びが鈍化しており、電力供給不足によって工業活動が減速したと見られる。
一方、不動産開発投資は1-11月期累計で前年比+6.0%の13兆7,314億元(1-10月期+7.2%の12兆4,934億元)とこちらも減速している。習近平国家主席が直々に不動産規制緩和の指示を出したことも頷ける。
ストック需要の指標である固定資産投資も年初来累計で+5.2%(+6.1%)とこちらも減速が鮮明に。公的セクターの伸び鈍化は所与(+4.1%→+3.0%)としても、よりボリュームの大きな民間部門が前年比+7.7%(+8.5%)と伸びが減速しており、全体として中国政府によるバブル抑制行動が影響したと考えられる
ただし、中国政府は不動産規制緩和と、預金準備率の引き下げといった景気刺激策の影響で減速は数ヵ月後に底入れするだろう。電力供給の制限やオリ・パラの開催を考えると、回復は3月以降になるのではないか。
【中国鉄鋼製品輸出入・在庫動向】
11月の中国の鉄鋼製品の輸入は前年比▲23.0%の142万4,000トン(前月▲41.6%の112万7,000トン)と回復した。国内製鉄所の稼働が低迷(主要生産地である唐山市の高炉稼働率は過去5年平均である72.8%を下回る72.2%)を受けて、輸入品需要が高まったと考えられる。
11月の中国粗鋼生産は前年比▲25.1%の6,931万トン(10月▲24.5%の7,158万トン、9月▲21.2%の7,375万トン、8月▲13.2%の8,324万トン、7月▲8.4%の8,679万トン、6月+1.5%の9,388万トン、5月+6.6%の9,945万トン)と大気汚染防止の観点と、燃料供給の問題から生産減少が続いている。
一方、11月の鉄鋼製品の輸出は前年比▲0.9%の436万1,000トン(前月+11.4%の450万トン)と前月から前年比の伸びを縮小させ過去5年の最低水準に。やはり国内供給を優先させていることが窺える。
なお、中国の鉄鋼製品需要は鈍化しているとみられるが、在庫水準は前週比▲46万8,000トンの1,063万2,000トン(過去5年平均 816万4,000トン)と例年を上回るが季節的な減少が続いている。
【中国鉄鉱石輸出入・在庫動向】
11月の鉄鉱石の輸入は前年比+7.0%の1億496万トン(前月▲14.2%の9,160万トン)と急増した。鉄鉱石在庫の水準が低かったこと、価格が急落したことによる割安感からの輸入増加だったと考えられる。
ただし、鉄鉱石在庫の水準は既に高いため、鉄鉱石価格が割安ではあるものの12月以降の輸入は減速するのではないか。
鉄鉱石港湾在庫は前週比▲170万トンの1億5,580万トン(過去5年平均1億3,116万トン)、在庫日数は41.5日(過去5年平均 32.1日)と数量ベース・日数ベースでも過去5年の最高水準を上回っており、需給が緩和していることは明確で価格の下押し要因となる。
【中国原料炭輸出入・在庫動向】
原料炭は中国の生産活動回復が継続しているが、前年比の伸び鈍化が明確になってきたため(中国政府の方針通り)、価格は下落余地を探る動きになると考える。
また、中国政府は原料炭を含む石炭の国内生産を増加させる方針であることも、海上輸送原料炭価格を下押ししよう。
とは言え、環境規制強化の流れで世界的に原料炭供給を増加させられる地域が限定されることから、下落余地も同様に限定される都見るのが妥当だ。
10月の中国の原料炭輸入は前年比+108.0%の774万1,656トン(前月▲25.7%の438万4,018トン)と急回復。豪州からの輸入が前月の77万7,915トンから、267万793トンに増加したことが寄与した。国内の稼働が落ちる中では「高品位」な海外炭を求める動きが強まる。
中国の港湾在庫の水準は鉄鋼の最大生産省である河北省の主要港である、京唐港の港湾在庫は前週比▲4万トンの176万トンとなり、過去5年の最高水準である192万トンを下回った。駆け込み増産の影響だろう。
在庫日数は8.7日と、過去5年の最高水準である9.4日を下り、以前からはやや需給がタイト化したことが窺える。
【見通しの固有リスク】
・中国の不動産セクター減速が、建材需要を減少させる可能性(鉄鋼製品価格の下落を通じて鉄鋼原料価格の下落要因)。
・世界的に広がる環境規制強化の流れで、鉄鉱石や原料炭などの生産に一定の影響が起きる場合(価格上昇要因)。
・コロナウイルスの感染拡大長期化による、鉱山生産の減少リスク(価格上昇要因)。
---≪貴金属≫---
【貴金属価格見通し】
【金】
金価格は米FRBはテーパリングを加速、早ければ来年3月にも利上げが行われる可能性が否定出来なくなって来たため、総じて軟調な推移になりやすい。
ただし、市場の反応はこれと異なり「利上げによって成長鈍化、ないしは他国の国債利回りとの比較感で10年債利回りが低下」となっており、テーパリングペース加速と全く整合していない。
また、インフレ懸念がまだ払拭仕切れていないこともあって、しばらくは高値での推移が続くのではないか。
以上を勘案すると、結局の所、金価格は1,700ドル~1,800ドルのレンジで推移する可能性が高く、FRBが懸念しているように5%や6%のインフレが続くのならば、このレンジが上振れする可能性がある(逆の場合は下振れる)と言うことだろう。
なお、過去5年平均を基準にすると名目金利1bpに対する金価格の感応度は±3ドル弱であり、米10年金利が現在の水準から30bp上昇すれば▲90ドルの下落圧力となる(60bpで▲180ドル)。
現在の金の実質金利で説明可能な価格(金基準価格)は1,658ドル(前週比▲3ドル)、そこからの乖離(リスク・プレミアム)は160ドル(+23ドル)。
リスク・プレミアムは、過去3ヵ月平均で131ドル、6ヵ月で156ドル、1年で162ドル、5年で183ドルとなっている。
なお、金価格を実質金利要因と為替要因に分類した場合、為替要因はリスク・プレミアムのところに内包されると整理している(為替は名目金利の影響も受けるので、純粋に為替の要因のみ切り出すのが困難であることから)。
【銀】
銀価格は金価格との比較感で売買されるが、金銀レシオは現在、79.1倍。過去1年を基準にすると72倍、5年では80倍、2000年以降では66倍程度が妥当。
今後、さらに金銀レシオが低下するには、工業需要の増加が必須。今後、IT化の進捗でエレクトロニクス向けの需要が増加することが必要。
太陽光パネルの増設は、バイデン政権が再びウイグル人自治区向けの制裁を強化しているため十分な需要の伸びが期待できず、しばらく、太陽光向けの需要は低迷すると見る。
なお、銀価格=金価格÷金銀レシオ であり、金銀レシオが低下することで金価格が変動した時の弾性値が上昇(ボラティリティは上昇し、足元金の2倍に上昇)する点は留意。
(例)金が2,000ドル、銀が20ドルのとき 金銀レシオが100倍→金価格±1ドルの変化で銀価格は±1セント変化 金の変化率は±0.05%、銀は±0.05%
金銀レシオが1倍→金価格±1ドルの変化で銀価格は±1ドル変化 金の上昇率は±0.05%、銀は±5%
【PGM】
プラチナ価格は自動車の半導体供給不足の影響で急落していたが、半導体供給が回復しつつあるため、来春以降は需要増加で価格は上昇圧力を強める展開が予想される(中期的な見通し)。
需給バランスは投機を除けば供給過剰であり、投機筋の「思惑」が価格を左右しやすい。その意味ではトヨタ自動車がEVに舵を切ったことは、PGM需要と価格にとってはかなりマイナスな材料となる。
ただ、車での移動が大半である米国が充電ステーションを整備してまでEVに舵を100%切るとは考え難く、来年の中間選挙で民主党が苦戦することはほぼ必定であることを考えると、一定のガソリン車需要は残る(あるいは減少ペースが脱炭素派が期待するほどのものではない)可能性を排除しない。
また、仮に脱炭素が加速するならば、EVではなくて燃料電池車、という選択も残されている。この場合、パラジウムではなくプラチナが使用されるため、いずれのシナリオでも、長期的にはパラジウムの価格は下押し圧力が掛りやすい。
とはいえ、当面は自動車販売動向を注視する必要。
11月の米自動車販売は年率1,286万台(市場予想1,342万台、前月1,299万台)と減速、目先はパラジウム価格の下落要因に。
中国の自動車販売は中国自動車工業協会の集計で以下の通り自動車販売の低迷は続いている。半導体供給の回復で反転すると考えるが、Q122以降になろう。
11月 前年比 ▲9.0%の252万2,000台10月 ▲9.0%の233万3,000台9月 ▲19.5%の206万6,000台8月 ▲17.4%の179万8,841台7月 ▲11.8%の186万3,550台。6月 ▲12.4%の201万5,309台5月 ▲3.0%の212万7,000台4月 +8.8%の225万台3月 +76.5%の252万5,000台2月 +371%の146万台1月 +30%の250万台
調査会社のオートフォーキャスト・ソリューションズによれば半導体不足による供給減少による減産が9月26日時点で▲893万4,000台に上るとし、2021年の減産規模は▲1,030万台に達するとみている。これは昨年の販売台数(7,700万台)の13.4%に相当する。
この回復がある、ないしは供給側の混乱(南アフリカ)による生産減少がなければ、PGM価格は低水準で推移しよう。
【見通しの固有リスク】
・主要生産国の南アフリカの電力供給不安や、コロナウイルスの影響拡大で供給が滞る場合(PGMの価格上昇要因)。
南アフリカ政はEskomの一部石炭火力に対する温室効果ガス排出規制を免除する申し出を棄却したことで、同国の3分1の電力供給16,000MWの供給が困難になる可能性。
・米国をはじめとする先進諸国が金融引き締め方向に舵を切っており、アフリカや中南米、東南アジア、東欧など新興国から資金が流出して信用リスクが高まる場合(安全資産価格の上昇要因)。
・中国地方政府・中堅中小企業の財政状況悪化に伴う景気減速による安全資産需要の増加(実際に破綻が意識されるのは2030年以降か)。
・世界的なEVシフト加速による、PGM需要の激減。
ただし、環境重視型社会へのシフトが加速、「水素社会」まで到達すると、燃料電池車需要が増加して構造的にプラチナ価格の上昇要因となる可能性。
【投機筋のポジション動向】
・直近の投機筋のポジションは、金はロングが298,142枚(前週比 ▲2,376枚)、ショートが95,741枚(+12,408枚)、ネットロングは202,401枚(▲14,784枚)、銀が63,669枚(+739枚)、ショートが41,685枚(+8,588枚)、ネットロングは21,984枚(▲7,849枚)
・直近の投機筋のポジションは以下の通り。
プラチナはロングが27,853枚(前週比 +797枚)ショートが24,122枚(+3,128枚)、ネットロングは3,731枚(▲2,331枚)
パラジウムが2,637枚(▲225枚)、ショートが6,411枚(+818枚)ネットロングは▲3,774枚(▲1,043枚)
---≪農産品≫---
【穀物価格見通し】
シカゴ穀物価格は堅調な推移になると考える。冬場のラニーニャ現象の発生(北半球の天候相場は終了も、南半球の天候相場入り)による供給懸念が強まっていることや、脱炭素進捗に伴う代替エネルギー需要が高まることが材料。
11月の中国の大豆輸入は前年比▲10.6%の857万トン(前月▲41.2%の611万トン)と急速に回復し、過去5年平均を回復した。
中国の大豆港湾在庫は過去5年レンジの最高水準は下回っているが、高い水準を維持している。)
Locust Watchではソマリアで発生したバッタが周辺地域に展開を始めている。ただし例年よりも小雨であるため、影響は限定されているとの印象。
しかし、ソマリアの一部とエチオピア南部に群れが移動しており、現在、食糧危機で治安が悪化しているエチオピアでの蝗害発生による、さらなる治安の悪化は無視できないリスクになっていると考えるべきだろう。
https://www.fao.org/ag/locusts/common/ecg/75/en/211223HoA.jpg
【見通しの固有リスク】
・ラニーニャ現象発生による投機筋の買い圧力の強まり(価格の上昇要因)。
・環境重視型社会へのシフトにより、燃料向け穀物需要が増加する場合(価格の上昇要因)。現在はそれほどの数量でもない、バイオディーゼル向けの大豆需要増加など。
・新型コロナウイルスの影響拡大による、輸出活動の停滞(シカゴ定期を含む生産地価格の下落要因)。
【米農務省需給報告データ】
・米作付け意向面積トウモロコシ 9,114万エーカー(市場予想9,313万エーカー、前年9,699万エーカー)大豆 8,760万エーカー(9,010万エーカー、8,351万エーカー)小麦 4,636万エーカー(4,495万エーカー、4,466万エーカー)綿花 1,204万エーカー(1,215万エーカー、1,370万エーカー)
・米穀物最終作付け面積 実績(前年)トウモロコシ 9,269万エーカー(9,082万エーカー)大豆 8,756万エーカー(8,383万エーカー)小麦 4,674万エーカー(4,425万エーカー)
・12月米需給報告単収見通し(実績/市場予想/前月)トウモロコシ 177.0Bu/エーカー(NA、177.0)大豆 51.2Bu/エーカー(NA、51.2)小麦 44.3Bu/エーカー(NA、44.3)
・12月米需給報告生産見通し(実績/市場予想/前月)トウモロコシ 150億6,200万Bu(NA、150億6,200万Bu)大豆 44億2,500万Bu(NA、44億2,500万Bu)小麦 16億4,600万Bu(NA、16億4,600万Bu)
・12月米需給報告輸出見通し(実績/前月)トウモロコシ 25億Bu(NA、25億Bu)大豆 20億5,000万Bu(NA、20億5,000万Bu)小麦 8億4,000Bu(NA、8億6,000万Bu)
・12月米需給報告在庫見通し(実績/市場予想/前月)トウモロコシ 14億9,300万Bu(14億7,479万Bu、14億4,000万Bu)大豆 3億4,000万Bu(3億5,471万Bu、3億4,000万Bu)小麦 5億9,800万Bu(5億8,921万Bu、5億8,300万Bu)
・9月末四半期在庫 実績(前期末)トウモロコシ 12億3,600万Bu(41億1,100万Bu)大豆 2億5,600万Bu(7億6,900万Bu)小麦 17億8,000万Bu(8億4,500万Bu)
・11月CONABブラジル作付け面積(市場予想/前月)トウモロコシ 2,089万ha(2,086万ha、2,087万ha)大豆 4,027万ha(4,042万ha、3,992万ha)
・11月CONABブラジル生産量(市場予想/前月)トウモロコシ 1億1,671万トン(1億1,929万トン、1億1,631万トン) 単収 5,587kg/ha(5,717kg/ha、5,575kg/ha)大豆 1億4,201万トン(1億4,415万トン、1億4,075万トン) 単収 3,526kg/ha(3,569kg/ha、3,526kg/ha)
【投機筋のポジション動向】
・直近の投機筋のポジションは以下の通り。
トウモロコシはロングが495,864枚(前週比 +13,436枚)、ショートが69,243枚(▲2,371枚)ネットロングは426,621枚(+15,807枚)
大豆はロングが123,569枚(▲1,688枚)、ショートが60,348枚(▲5,255枚)ネットロングは63,221枚(+3,567枚)
小麦はロングが109,485枚(▲2,488枚)、ショートが97,520枚(+1,214枚)ネットロングは11,965枚(▲3,702枚)
◆本日のMRA's Eye
「2022年商品市場動向展望」
1.マクロ
世界経済はコロナのワクチン開発による経済活動の再開と、コロナの影響による景気減速を回避するための景気刺激策を受けて回復していたが、2021年後半にかけて景気過熱を意識した金融正常化、インフレ伸張に伴う新興国を中心とした利上げが相次ぎ、減速感を強める展開となった。
この利上げの流れも、英中銀が利上げに転じたこと、場合によると米国が3月にも利上げを行う可能性が出てきたことで「終盤戦」にさしかかっていると言える。
しかし来年は米国で中間選挙が実施される予定であり、中国も習近平国家主席が第三期目を目指すなど政治的な事情で「景気後退を許すわけに行かない」状況になると予想される。
そのための景気刺激策が断続的に行われると予想されるため、景気は年後半に向けて持ち直すというのが基本的な見方だ。
ただ、テーパリングのペース加速や利上げのペース加速が経済をクラッシュさせる可能性や、「中国とインドのW人口ボーナス期入り」」「脱炭素」の流れが強まる中での強制的な熱源変更が特に鉱物資源インフレをもたらし、かつ、上流部門投資の減速から原油やガスなどの化石燃料価格の高騰をもたらす可能性がある。
2000年のドットコムバブル崩壊以降、世界中で続いてきた金融緩和策の継続もあって、このままの状態が続けば世界的にインフレリスクに晒されることが懸念される。
この状況でラニーニャ現象が発生しており、食品価格が高騰している他、厳冬に伴う北半球の燃料供給不足もあって場合によると暴動が起きる可能性が無視できなくなっている。
日本は景況感格差もあって円安が進行しやすく、スタグフレーションに陥る可能性がある。ドル建て価格が上昇する中では、為替の1円の変動による円建て価格の変化幅が拡大するため(為替デルタの上昇)、この価格変動リスクの制御も企業や家計部門の重要な課題となるだろう。
また長期的な話だがこの状況で日本の人口動態は日々悪化しているため、こうした外的リスクへの抵抗力が低下していることは来年以降大きな議論になると考えられる。
2.原油・エネルギー
原油価格は短期と長期に分けて議論する必要があるが、短期的には世界的な金融緩和解除・引き締めバイアスを受けた景気の循環的な調整を受けて下値余地を探る動きになると考える。
ただ北半球の冬場の気温が低下していることで一定の暖房燃料向け需要が期待されること、価格が下落する中ではOPECプラスが追加増産に二の足を踏む可能性があることを考えると、それほど大きく下がらず、春先から夏にかけて下落し、その後、米中などの経済対策の影響やコロナの経口薬などの対策進捗で需要回復が予想されることから、再び価格は上昇に転じると考えている。
しかし、利上げが断続的に行われ、景気回復のペースを鈍化させるため価格のピークは2021年の水準を超えてくるのは、何らかのイベントリスク(ウクライナ問題を巡ってロシアが制裁され、エネルギー供給が絞られる場合、リビアの混乱やイランからの供給減少、厳冬・猛暑など)が顕在化しなければ難しいのではないか。
石炭に関しては、中国が増産バイアスを掛け、豪州に対して行っていた制裁も解除していることから、やはり冬場が終了すれば下落すると見るのが適切だろう。
しかし、仮にこの冬が厳しい厳冬となった場合、春先以降も夏に向けての調達圧力が強まるため、それほど大きな下落にならないリスクはつきまとう。
3.非鉄金属
中国の恒大集団の債務問題を切っ掛けに不動産セクターの調整が続いている。基本的には金融危機まで到達しなければリーマン型の景気減速にはならない。恐らくそこは中国政府もコントロールできていると考えられるが、不動産の過剰供給状態は解消していないため「時間を掛けて悪化していく」と考えるのが妥当だろう。
ただ、中国の経済はかなり個人消費主体の経済に移行してきたが、景気刺激をしようとした場合、まだ投資に傾斜せざるを得ない。結果、インフラ投資需要が増加すると考えられるため、銅や亜鉛、アルミ、ニッケルなどの建材需要も増加が予想される。
また米国も1兆ドル規模のインフラ投資を実施する見込みであり、このことも需要増加で価格を押し上げることになるだろう。
これに加え、トヨタがEVに舵を切ったことでその他の企業も追随する可能性が出てくる。EV需要が実際に非鉄金属市場を大きく左右する用になるにはまだ年単位で時間が必要と考えられるが、思惑的な買いが入りやすくなるためインフレがテーマになる年であることからニッケルや銅の価格への影響は無視できなくなるだろう。
こうした構造的な変化による需要増加に我が意を得た鉱産国は資源ナショナリズムに走る国が多く、南米やインドネシア、アフリカなどでもこの動きが強まることが予想される。この供給面の問題も価格を押し上げると予想される。
4.貴金属
貴金属は米国の金融緩和解除と金融引き締め見通しを背景に名目金利が上昇すること、また、前年比+6%、+7%といった過剰なインフレは沈静化していくことが想定されるため、実質金利には上昇圧力が掛りやすい。
結果、貴金属のベンチマークである金価格は下落、太陽光発電への過剰な期待が価格を押し上げていた銀価格にも年後半にかけて下押し圧力が強まる展開が予想される。
PGMは半導体供給制限による自動車販売減少が需要を減じて価格を押し下げてきたが、恐らくQ222あたりから半導体供給が回復して自動車販売も回復すると期待されることから中期的には上昇余地を探る動きになると予想される。
長期についてはEVシフトが強まる中で排ガス触媒としてのPGM需要が減少するため構造的に下押し圧力が掛りやすくなると予想されるが、それが2022年のうちに顕在化するかと言えばそれはまだないのではないか
5.農産品
再び発生したラニーニャ現象の影響で世界的に穀物供給が不安定で、ラニーニャ現象が終了すると期待されている3月頃までは穀物価格は上昇しやすい地合が続くと考えられる。
その後、恐らくエルニーニョ現象が発生することが想定されるが、これにより食品価格は下落に転じると予想される。やや懸念しているのが脱炭素進捗により、従来であれば食用(飼料含む)に用いていた穀物が本来の使い方ではなくエネルギーに用いられるなどのリスクだろう。
この場合、構造的に需要が増加することになるため価格の上昇要因となる。既に国連の食品価格指数は「アラブの春」の水準を超えており、さらなる価格上昇があった場合各国で暴動に繋がりかねない。
これは極端な話、日本も同様だ。日本で暴動が起きるとは考え難いが、国内情勢が不安定化する可能性は高い。
◆主要ニュース
・11月日本全国消費者物価指数 前年比+0.6%(+0.1%)
除く生鮮+0.5%(+0.1%)
除く生鮮エネルギー▲0.6%(▲0.7%)
・11月日本企業向けサービス価格指数 前年比+1.1%(前月+1.0%)
・11月日本住宅着工戸数 前年比+3.7%の84.8万戸(前月+10.4%の89.2万戸)
・中国、2022年3月5日から全人代を開幕。人民政治協商会議は3月4日に北京で開幕。
・イタリア、2022年予算案を可決。財政赤字を2021年の9.4%から5.6%に減らす計画。
◆エネルギー・メタル関連ニュース
【エネルギー】
・ベイカー・ヒューズ週間米国石油リグ稼働数480(前週比+5)
ガスリグ 106(前週比+2)。
・サウジアラビア、中国人民解放軍の支援を得て弾道ミサイルを製造へ。
・イラン核協議、27日に再開。
【メタル】
・神戸製鋼所、三菱マテリアルが共同保有している銅管事業会社、コベルコマテリアル銅管、国内ファンドの丸の内キャピタルに売却。安価な海外製品との競争が厳しく、収益性が悪化したため。
・11月日本アルミ圧延品出荷 前年比+10.9%の16万5,563トン
・インドネシア石炭生産 Adaro Energy Tbk PT、7億2,800万ドルを投じてアルミ精錬所を建設予定。
・三井物産、双日、フィリピンのコーラル・ベイニッケル社を住友金属鉱山に190億円で売却。物産・双日はポートフォリオ見直しの一環、住友金属鉱山はEV向けのニッケル・コバルトの供給網拡充が目的。
◆主要商品騰落率
【上昇率上位5商品】
商品名(カテゴリー)/前日比上昇率/年初来上昇率
1.MDEパーム油 ( その他農産品 )/ +3.20%/ +31.61%
2.欧州排出権 ( その他 )/ +2.53%/ +132.92%
3.TCM灯油 ( エネルギー )/ +2.17%/ +47.21%
4.LME錫 3M ( ベースメタル )/ +1.46%/ +92.38%
5.TCMガソリン ( エネルギー )/ +1.19%/ +51.64%
【下落率上位5商品】
商品名(カテゴリー)/前日比上昇率/年初来上昇率
66.ICE欧州天然ガス ( エネルギー )/ ▲17.75%/ +374.86%
65.ICEガスオイル ( エネルギー )/ ▲1.28%/ +55.20%
64.SHF鉛 ( ベースメタル )/ ▲1.22%/ +4.79%
63.LMEアルミ 3M ( ベースメタル )/ ▲0.98%/ +42.39%
62.ICE Brent ( エネルギー )/ ▲0.92%/ +46.99%
※弊社が重要と考える主要商品の前日比騰落率上位・下位5品目です。
※限月交代に伴う価格の不連続性は考慮されていません。予めご容赦ください。
◆主要指標
【為替・株・金利・ビットコイン】
NY ダウ :休場( - )
S&P500 :休場( - )
日経平均株価 :28,782.59(▲15.78)
ドル円 :114.38(▲0.01)
ユーロ円 :129.47(▲0.10)
米10年債 :1.49(±0.0)
中国10年債利回り :2.82(+0.00)
日本10年債利回り :0.07(+0.00)
独10年債利回り :▲0.25(±0.0)
ビットコイン :50,908.79(+59.59)
【MRAコモディティ恐怖指数】
総合 :31.15(▲2.04)
エネルギー :55.11(▲6.13)
ベースメタル :22.25(▲2.85)
貴金属 :24.73(▲2.54)
穀物 :26.01(±0)
その他農畜産品 :27.02(▲0.38)
【主要商品ボラティリティ】
WTI :65.56(±0)
Brent :35.23(▲21.45)
米天然ガス :62.59(±0)
米ガソリン :60.04(±0)
ICEガスオイル :42.20(▲21.42)
LME銅 :16.69(▲3.23)
LMEアルミニウム :24.66(▲5.51)
金 :17.68(±0)
プラチナ :21.86(▲4.66)
トウモロコシ :15.01(±0)
大豆 :17.68(±0)
【エネルギー】
WTI :休場( - )
Brent :76.14(▲0.71)
Oman :休場( - )
米ガソリン :休場( - )
米灯油 :休場( - )
ICEガスオイル :653.00(▲8.50)
米天然ガス :休場( - )
英天然ガス :267.82(▲57.78)
【貴金属】
金 :1817.32(+8.51)
銀 :23.02(+0.14)
プラチナ :976.51(+1.40)
パラジウム :1947.91(▲2.52)
※ニューヨーククローズ。
【LME非鉄金属】
(3ヵ月公式セトル)
銅 :9,566(▲16:16B)
亜鉛 :3,535(+23:46B)
鉛 :2,273(▲18:36B)
アルミニウム :2,842(+12:6.5B)
ニッケル :20,125(+75:170B)
錫 :38,905(+5:945B)
コバルト :70,262(▲4)
(3ヵ月ロンドンクローズ)
銅 :9597.00(▲42.00)
亜鉛 :3517.00(▲1.00)
鉛 :2272.00(+5.00)
アルミニウム :2820.00(▲28.00)
ニッケル :20090.00(+20.00)
錫 :39150.00(+565.00)
バルチック海運指数 :2,219.00(▲10.00)
※C=Cash-3M コンタンゴ、B=Cash-3M バック
【鉄鋼原料】
62%鉄鉱石スポット(CFR中国、1営業日前) :122.75(▲0.09)
SGX鉄鉱石 :114.22(+0.44)
NYMEX鉄鉱石 :休場( - )
NYMEX豪州原料炭スワップ先物 :341(▲0.33)
大連原料炭先物 :334.58(+0.92)
上海鉄筋直近限月 :4,692(+32)
上海鉄筋中心限月 :4,513(+63)
米鉄スクラップ :休場( - )
【農産物】
大豆 :休場( - )
シカゴ大豆ミール :休場( - )
シカゴ大豆油 :休場( - )
マレーシア パーム油 :5121.00(+159.00)
シカゴ とうもろこし :休場( - )
シカゴ小麦 :休場( - )
シンガポールゴム :193.00(+0.20)
上海ゴム :14240.00(±0.0)
砂糖 :休場( - )
アラビカ :休場( - )
ロブスタ :2462.00(±0.0)
綿花 :休場( - )
【畜産物】
シカゴ豚赤身肉 :休場( - )
シカゴ生牛 :休場( - )
シカゴ飼育牛 :休場( - )
※全ての価格は注記が無い限り、取引所で取引される通貨建。
※限月交代に伴う価格の不連続性は考慮されていません。予めご容赦ください。