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金融引き締めと地政学リスクで下落する商品目立つ
  • MRA商品市場レポート

2022年1月25日 第2119号商品市況概況

◆昨日の商品市場(全体)の総括


「金融引き締めと地政学リスクで下落する商品目立つ」

【昨日の市場動向総括】

昨日の商品価格はウクライナ・ロシア情勢の悪化による特定資源の供給懸念と、それに伴う欧州経済の減速懸念、さらには全く沈静化の兆しが見えないインフレに対して米国をはじめとする各国が金融引き締めで対応せざるを得ない状況になっていること、といった強弱材料が混在して高安まちまちとなったが、下落した商品の方が多かった。

ロシアのウクライナ侵攻はないと考えていたが、ドイツのベアボック外相の発言を見るとドイツは既にロシアに対する制裁には及び腰であり(SWIFT排除など)、ある程度ウクライナ侵攻を諦めてしまっている可能性がある。

実際、バルト3国がウクライナに対する米国製の武器供与を米国からの承認を得たのに対して、ドイツは武器供与を拒否している。平和的な解決を、ということもあるかもしれないが脱原発を掲げ、環境面に配慮してガスを用いる方針のドイツからすれば、ロシアとの対立を回避したい、というのが本音だろう。

対ロシア・対中国で「強硬派」と思われていたベアボック外相は、米国が主張するロシアのSWIFT除外を「有効ではない」として否定している。じつはそこまで両国に対して敵対的ではないのかもしれない。

引き続きロシア情勢と米金融情勢がリスク資産価格に下押し圧力を掛ける展開が予想される。

【本日の見通し】

本日はFOMCが開催されるが結果発表は明日であり、基本的に市場はこれを材料にしない。そのためロシア情勢不安が材料視されるため、ロシアからの供給が多い商品は上昇、その他の商品は下落しよう。

また、欧州での生産比率が高い商品も上昇すると予想され、精錬品やステンレス鋼、化学製品など、幅広い商品に影響が出ると予想される。

本日予定されている材料としては独IFO景況感指数と、米コンファレンスボード消費者信頼感、IMF経済見通しに注目している。

独IFO景況感指数は企業景況感指数が94.5(前月94.7)と減速、現況指数(96.9→96.1)も悪化の見込み。ただ、期待指数は93.0(92.6)と小幅に改善見通し。

米コンファレンスボード消費者信頼感は111.1(前月115.8)と減速見込みであり、エネルギーをはじめとする景気循環系商品価格の下押し材料となろう。

IMFの景気見通しは、足下のインフレとそれに伴う各国の金融引き締めバイアス(除くトルコ・日本)がどの程度、世界経済に影響するか、またオミクロンの特に中国の経済活動への影響ヘの評価に注目している

【昨日のトピックス】

昨日発表された欧米の製造業PMIはまちまちの内容となった。ドイツの製造業PMIはロシアとの緊張やエネルギー供給懸念があるものの60.5(前月57.41)と大幅に改善した。

水準の上昇は供給制限の緩和によって生産が回復したことによる。一方、サービス業PMIも52.2(前月49.9)と大幅に改善、オミクロンの影響にも関わらず消費者がウィズコロナに順応しつつあることを示唆。

先月時点での調査はこのように改善しているが、ウクライナを巡る情勢のここまでの悪化を織り込んでいるものではないため、2月のPMIは減速が見込まれる。

【昨日のセクター別動向と本日の見通し】

◆原油

原油価格は下落した。欧米の製造業PMIは特に欧州が強く、ファンダメンタルズ的には景気の減速観測がやや後退する内容だったが、米国の金融引き締め加速やロシア情勢不安に伴う電力供給制限が欧州経済を悪化させる、との見方の方が昨日は勝り、ドル高進行もあって水準を切下げる展開となった。

現在の価格水準はロシアに対する制裁によって供給が途絶することをある程度織り込んだものであり、供給面に根ざした価格上昇。さらに上昇があるとすれば実際に制裁が行われた場合になるだろう。

本日もウクライナ情勢不安を背景に高値を維持すると考えるが、同時に景気減速への懸念が強まっていることや、株の調整によって年初以降に買いを入れていた投機の利益確定の動きが強まることから、以前よりも下振れリスクが高まっている点には注意。

◆石炭・LNG・天然ガス

豪州石炭スワップ先物価格は上昇して225ドル台を維持。ロシアのウクライナ向けの石炭供給停止や、オリンピック・パラリンピック期間中の中国の生産抑制観測が価格を高値に維持している。

中国の石炭輸入の指標の1つであるバルチック海運指数は続落し、過去5年レンジ水準まで低下している。

欧州天然ガス価格は急騰。LNGカーゴの供給増加見通しで下落していたが、ロシアに対して制裁が行われ、ノルドストリーム2の稼働が起きなければ実質的に欧州へのガス供給が不足するため、供給懸念が強まっていることから。

このコラムで指摘しているように、ガス在庫の不足をLNGで全てカバーするのは難しい。

バイデン政権はカタールに対して欧州向けのLNGカーゴを増やすよう、依頼をしているが原油の増産ですら一蹴されていることを考えると、ほぼ不可能だろう。

この状況を打破するために、恐らく(ドイツ・スペインを除き)原発をクリーンエネルギーと位置づける国が増加すると考えられる。

なお、域内最大の原発を有するフランスの原発稼働率は急速に回復しているが、まだ過去5年レンジの下限である。

米国天然ガスは、気温の低下見通しで上昇。カーゴの流動性が限定されるため、欧州の価格が高かったとしても、直ちにアービトラージが行われる状態ではない。

JKMは欧州天然ガス価格の上昇を受けて再び上昇している。これまで中国のカーゴ供給増加で下落していたが、ロシア情勢次第では再びLNGカーゴ市場がタイト化するとの見方から。

JKM野期間構造は再び2022年~2023年冬の水準が30ドルに迫る展開。この場合、夏場の電力供給制限やスポット電力価格の上昇圧力が強まるため、欧州情勢は日本にとっても他人事ではない。

供給問題が解消すれば2023年~2024年の先物水準である12~14ドル程度の水準に低下することが予想されるが、この水準も昨日は上昇しており(これまで期近が上昇しても2023年~2024年ゾーンはさほど上昇しなかった)、ロシア問題の長期化に伴う構造的なLNG供給不足が懸念され始めた可能性がある。

2022年1月10日~1月16日のLNG輸入は前週比▲3%の890万トン(前週+10%の920万トン)となった。

うち、スポット取引のシェアは23%(前週36%)と低下した。中国、韓国、日本、台湾向けのスポット輸出が減少したことによる。

中国はターム契約での調達を前週比+26%と増加させており、スポットカーゴの調達は減少している。オリンピック・パラリンピック期間中の需要減少を考慮したものと考えられる。

スエズ以東・以西ともタンカーレートが大幅に低下し、過去5年の最低水準を下回っており、足下のスポットLNG価格の下落と整合がとれてきた。

本日の石炭価格は、中国の調達需要が鈍化する一方で生産も抑制されているため、海上輸送炭価格は高止まりと考える。

天然ガス価格は欧州情勢の悪化を受けたLNGカーゴの奪い合いが再燃するとみられ、高値を維持。

ロシア情勢が沈静化すれば急落するとみるが、今のところ軍事行動の可能性は日に日に高まっている状況。

◆非鉄金属

LME非鉄金属価格は大幅に下落した。供給制限に伴うLME非鉄金属在庫の減少は継続しているものの、米利上げ加速や欧州情勢不安を受けた欧州経済の鈍化観測を受け、年初からテーマ性を重視して買いを入れてきた投機筋が、利益確定の売りを入れたためと考えられる。

昨日発表されたロシアのニッケル・PGM生産大手Nornickelの決算では、Q421のニッケル・銅・PGM生産は浸水の影響などで生産が減少していたOktyabrskyやTaimyrskyの生産が回復したことで前期比では増加したが、前年比では大幅な減少となった。

2021年のニッケル生産は前年比▲18%の19万3,006トン、銅は▲16%の40万6,841トン、パラジウムは▲7%の261万6,000オンス、プラチナは▲8%の64万1,000オンスだった。

2022年のガイダンス(メタルニュース参照)ではいずれも増産見通しであるが、現在世界中の懸念となっているウクライナ問題を受けた制裁動向次第だろう。

本日は昨日の下落が大きかったことから、実需筋の安値拾いの買いで上昇、その後はロシアの供給懸念と米金融引き締めを背景とする株安の綱引きとなり高値でもみ合うと考える。

ただ、年初からの上昇が投機の買いに主導されるものであることを考えると、調整圧力の方が強く、どちらかと言えば水準を切り下げる可能性が高いと考える。

◆鉄鋼・鉄鋼原料

中国向け海上輸送鉄鉱石スワップは下落、豪州原料炭スワップ先物は上昇、大連原料炭先物は上昇、上海鉄鋼製品先物は小幅に下落した。

中国がオリンピック・パラリンピックを控えて製鉄所の稼働が低迷するとみられ、既に昨年のうちに鉄鉱石在庫は積み終えていることから小幅に水準を切下げた。

原料炭はそもそも供給が十分でない中、主要供給国であるロシアに対する制裁への懸念が価格を高値に押し上げていると考える(前倒し調達圧力の高まり)。

なお、仮にロシアに制裁があっても、ロシア→中国の原料炭輸出は変わらないどころかむしろ増加すると見られるため、中国国内の生産を制限する要因にはならないが、中国外への影響は小さくない。

本日は中国勢の動きが鈍化しているものの、鉄鋼製品価格が在庫減少を受けて堅調に推移しているため高値を維持すると考える。

◆貴金属

昨日の貴金属セクターは高安まちまち。

金価格は実質金利が低下したため金基準価格が上昇して1,542ドルとなった。リスク・プレミアムは300ドル超え水準で高値維持。銀は金銀レシオが75倍近辺まで低下していたため、割高感から売り戻された。

PGMはロシアからの供給途絶懸念で高値維持。プラチナは銀価格の下落に押されて前日比マイナスで引けている。

本日も、ロシア情勢不安を背景に貴金属セクターは安全資産需要と、供給不安で高値維持の公算。

◆穀物

シカゴ穀物市場はトウモロコシ・小麦が上昇、大豆が下落した。いずれも供給面が意識されたが、トウモロコシはウクライナが世界3位のトウモロコシ輸出国になる見通しであり、小麦と共にロシアとの緊張に伴う輸出減少観測が価格を押し上げた。

小麦はロシア・ウクライナ両国からの輸出停止観測が価格を押し上げている。大豆はブラジルの天候状況改善による生産増加観測が価格を下押しした。

本日の穀物価格は、引き続き、ロシア・ウクライナ情勢不安を背景に高値で推移すると考える。

※中長期見通しは個別セクターのコラムをご参照ください。

市場データ・グラフ類の添付ファイルのサンプルはこちら。

【マクロ見通しのリスクシナリオ】

・ロシアと西側諸国の軍事衝突のリスク、それに乗じて中国が台湾に侵攻するリスク(世界経済の減速要因)

・コロナウイルスの感染再拡大(オミクロン株の影響)によるロックダウンが景気循環系商品の需要を減じる場合(価格下落要因)。

・資源価格上昇によるインフレや、米テーパリング・利上げ・BS縮小観測を背景とした新興国通貨安で新興国が想定以上のペースで利上げを行わねばならず、世界的に金融引き締めモードに転じた場合(リスク資産価格の下落要因)。

・米中対立激化による、新冷戦構造が発現しブロック経済圏が発生して貿易活動が鈍化する場合(場合によると武力衝突も)。

・米中対立が、自国内の混乱などを理由に急に「手打ち」となった場合(景気のポジティブリスク・中国がさらに力を付け、将来米中が武力衝突するリスク)。

・発電燃料供給不足による工場稼働停止や消費低迷で景気が減速する場合(リスク資産価格の下落要因)。

・中国不動産問題の沈静化に時間が掛り、信用収縮に繋がる場合(工業金属などの景気循環系商品を筆頭に、リスク資産価格の下落要因)。

・中国地方政府・中堅中小企業の財政状況悪化に伴う景気減速(これは人口動態を考えると、現実のリスクとなるのは2030年以降か)。

・環境重視型社会への急激な転換による、経済活動の鈍化リスク。成長ドライバーの1つとして期待される、中東・北アフリカ産油国が人口ボーナス期を活かせない(逆に鉱物産出国は高成長となる可能性も)。

逆に脱炭素に向けたインフラ投資の加速で資源価格が急上昇、金融緩和マネーが大量に市場に滞留する中でハイパーインフレとなるリスク。

・来年の中間選挙を控えて、バイデン大統領が国内の支持を得られない場合。議席確保のためのなりふり構わない政策がインフレをもたらすリスク(景気加熱後に急減速する要因)。

・独政権交代後の国内求心力が低下、域内最大経済国のドイツ経済が減速する場合、また、EUの指導力が低下し域内経済が停滞する場合(景気減速要因)。

・ロシア・ウクライナ・ベラルーシ・欧州を巡る対立が激化し、軍事的な衝突が発生する場合(景気の減速を通じて景気循環系商品価格の下落要因)。

・次の成長ドライバーとして期待されるインド経済が、期待通りの成長をできない場合(人種差別問題による国民の離反、市場開放・規制改革の遅れ、中国との対立など)。

2018年にすでに人口ボーナス期入りしているため、鉱物・エネルギーをはじめとする景気循環系商品需要の増加は2023~2024年頃。

・アフガン情勢の混乱が域内経済に混乱(大量の難民発生、コロナの感染拡大が欧州圏にもたらされるなど)をもたらし、米中対立を先鋭化させる場合(景気の減速要因)。

◆本日のMRA's Eye


「スズ価格高騰~半導体バブルの影響」

錫価格は記録的な上昇となっており、2020年のコロナショックで大幅に下落して3ヵ月先渡し価格が12,700ドルを付けてから、3倍以上の上昇となっている。

背景には需要の回復に対して十分な供給がされていない、いわゆるミクロの需給ファンダメンタルズが影響していると見られる。

非鉄金属市場動向を語る上では需給ファンダメンタルズが重要であることはその他の商品と同様であるが、株式市場などのその他の影響も受けるため、他市場動向の分析は必須だ。

その意味で、流動性が高く製造業全体で使用され、市場参加者の認知度や情報の提供量も比較的多い銅はマクロ経済動向やその他の市場動向の影響を受けやすい。

しかし、錫は流動性が低くはんだとしての需要が主な需要であり、産業全体に広がっているという訳ではないことから、銅やアルミなどに比べるとマクロ経済の影響が限定される傾向が強い。

錫の主要用途はエレクトロニクス製品に用いられる半導体向けであるが、コロナの影響によって需要構造が変化したとみられる。つまり、コロナの影響でリモートワークが定着し、PCをはじめとするハイテク製品の需要が増加したのだ。

また、自動車や家電製品のハイテク化も進んでおり、コロナが無かったとしても需要が増加傾向にあったことは事実だろう。また、コロナによって在宅勤務が当たり前のように行われ、在宅での楽しみのために玩具やPCなどの需要が増加したことは想像に難くない。

錫価格と半導体出荷の前年比増加率と、錫価格の間には高い相関が見られるが、足下の半導体出荷の回復はリーマンショック後回復に次ぐ水準である。

一方、供給面に関しては最大消費国でありかつ、生産国である中国の錫鉱石輸入が低迷している。これはコロナの影響で中国の錫鉱石輸入シェアの8割を占めるミャンマーからの供給が減少したことが影響した。

また、精錬品に関しても悪天候の影響でインドネシアからの供給が滞ったことや、中国国内生産についてはラニーニャ現象が切っ掛けとなり欧州での再生可能エネルギー供給が減少、発電燃料不足が最大生産国である中国にも波及して電力供給が制限され、中国の生産が減少したことも需給をタイト化させた。

また、今年はオリンピック・パラリンピックが予定されており、そのための工場稼働低下なども供給面を制限したとみられる。

足下はLME・上海とも若干の在庫積増しがみられ、需給のタイト感はやや緩和している状態だ。需給見通しも、供給の回復やFRBの金融引き締め加速による景気の減速から年後半にかけて、前年比ベースで緩和する見通しである。

しかし、半導体供給はまだ制限された状態が続いており、恐らく解消は2023年にずれ込むとの見方が大勢を占めている。即ち2023年に半導体供給がフル稼働した場合、さらに錫の需要が増加する可能性があるということだ。

それでも金融引き締めや、中国のバブル抑制方針、春先に向けて気温が上昇する中では電力供給制限も緩和すると期待されることからやはり一旦価格は調整すると見るのが妥当だろう。

ただし、弊社は年末にかけて錫価格が下落すると予想していたが、調整後、年央から来年似掛けてまた上値を試す展開になる可能性を否定できなくなってきた。また春で終了するとみられていたラニーニャ現象が、今年の夏まで続く見通しであることを考えると、東南アジア地区の供給に悪影響を及ぼす可能性があるため、この点も価格を上振れさせるだろう。


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