週末を控えたポジション調整で総じて軟調
- MRA商品市場レポート
2022年1月24日 第2118号 商品市況概況
◆昨日の商品市場(全体)の総括
「週末を控えたポジション調整で総じて軟調」
【昨日の市場動向総括】
昨日の商品価格は欧州・米国の天然ガス価格が急騰したものの、その他の商品は軒並み水準を切下げる展開となった。
個別要因はあるものの、ロシア・ウクライナ情勢不安を背景に、この週末に政治的に大きな動きがあるかもしれない、との見方からこれまで買われてきた商品は一旦手仕舞いで売られ、売られてきた商品は買い戻された(いわゆるポジションクローズ)と考えられる。
注目の米露外相会談は予想通り目立った進展は無かった(詳しくは昨日のトピックスをご参照ください)。
当面、景気加熱・インフレ抑制のための金融緩和解除や利上げの影響で経済のファンダメンタルズが減速する中、供給不安が続き、急落のリスクを高めながら商品価格が高い状態が続くと予想される。
【本日の見通し】
週明け月曜日の商品価格は、株価がリスク回避の動きで軟調に推移する中、供給リスクがいろいろな商品で顕在化しているため高値圏での推移が続くと予想される。
月曜日に予定されている材料で注目は米欧の製造業PMI。今週発表されたフィラデルフィア連銀製造業景況指数は23.2(市場予想19.0、前月15.4)と改善しているが、同様の改善となるか。
独製造業PMI 市場予想 57.0(前月57.4)ユーロ圏製造業PMI 57.5(58.0)米製造業PMI 56.7(57.7)
【昨日のトピックス】
昨日、注目の米露外相会談が開催され、米国側がロシアが昨年12月に提示した欧州安全保障の合意案について来週回答するということで合意、回答を受けて再度外相会談を行うことでも合意した。
12月に合意した欧州安全保障案は、米国がNATOのさらなる東方拡大を排除すること、旧ソ連国のNATO加盟を排除することが謳われている。
また、NATO加盟国ではない地域に軍基地を建設しないといったことも要求されており、実質的に旧ソ連領土はロシアが取り返すことが可能になる内容であり、これらの対象国との関係を考えると、米国がこれを飲むとは思えない。
また、ロシアがこれらの国々に侵攻・征服したとしても旧ソ連時代に有してきた国土防衛のための兵力は200万人を超えたが、現在は30万人程度で、GDP規模も韓国を下回る規模と、財政的にも複数の国を束ね、武力で統治することも普通に考えて相当困難である。
このような非常に高めの球を投げてきている背景には、ロシア側の安全保障の問題があると考えられる。上述の通り、それほど国力があるわけでは無いためだ。
そのため、非常に現実的な見通しでは、圧力をギリギリまで掛けて、ロシア東部の親ロシア地域の独立を促し、実質的・自発的にロシアに併合していくという考えなのではないだろうか。地域的にはロシア語を話し、ロシア人と考えている人も少なくない。
ただし、バイデン大統領は「ロシアは軍事侵攻するとみているし、その情報も得ている」として、軍事行動実施時にはドル取引の禁止、SWIFTからの除外などが行われる可能性がある。
なお、非常に懸念されている資源会社に対する制裁は、ドル取引禁止となれば実質的に決済ができないため輸出は特定地域(中国など)に限られることになるだろう。この場合、原油、ガス、石炭、ニッケル、銅、PGMなどの価格急騰が予想される(既に金属市場はこれを織り込み始めた)。
引き続き話し合いでの決着をメインシナリオと考えたいが、ロシアは仮に軍事侵攻したとしても、NATO軍は動かない(ジョージアやクリミアの時もNATO軍は動かなかった)、仮に制裁があってもエネルギーの安全保障のカードを持っていることから制裁もしのげる、と判断したうえでのこの行動であるため、軍事侵攻のカードを取り下げられる状態ではないと言える。
緊迫した状態が続くことになるだろう。
※中長期見通しは個別セクターのコラムをご参照ください。
【マクロ見通しのリスクシナリオ】
・実施が期待されていた1.75兆ドルの米税制・支出法案が複数議員の造反で成立しない、ないしは規模が縮小される場合(景気減速でリスク資産価格の下落要因に)。
・ロシアと西側諸国の軍事衝突のリスク(世界経済の減速要因)
・コロナウイルスの感染再拡大(オミクロン株の影響)によるロックダウンが景気循環系商品の需要を減じる場合(価格下落要因)。
・資源価格上昇によるインフレや、米テーパリング・利上げ観測を背景とした新興国通貨安で新興国が想定以上のペースで利上げを行わねばならず、世界的に金融引き締めモードに転じた場合(リスク資産価格の下落要因)。
・米中対立激化による、新冷戦構造が発現しブロック経済圏が発生して貿易活動が鈍化する場合(場合によると武力衝突も)。
・米中対立が、自国内の混乱などを理由に急に「手打ち」となった場合(景気のポジティブリスク・中国がさらに力を付け、将来米中が武力衝突するリスク)。
・発電燃料供給不足による工場稼働停止や消費低迷で景気が減速する場合(リスク資産価格の下落要因)。
・中国不動産問題の沈静化に時間が掛り、信用収縮に繋がる場合(工業金属などの景気循環系商品を筆頭に、リスク資産価格の下落要因)。
・中国地方政府・中堅中小企業の財政状況悪化に伴う景気減速(これは人口動態を考えると、現実のリスクとなるのは2030年以降か)。
・環境重視型社会への急激な転換による、経済活動の鈍化リスク。成長ドライバーの1つとして期待される、中東・北アフリカ産油国が人口ボーナス期を活かせない(逆に鉱物産出国は高成長となる可能性も)。
逆に脱炭素に向けたインフラ投資の加速で資源価格が急上昇、金融緩和マネーが大量に市場に滞留する中でハイパーインフレとなるリスク。
・来年の中間選挙を控えて、バイデン大統領が国内の支持を得られない場合。議席確保のためのなりふり構わない政策がインフレをもたらすリスク(景気加熱後に急減速する要因)。
・独政権交代後の国内求心力が低下、域内最大経済国のドイツ経済が減速する場合、また、EUの指導力が低下し域内経済が停滞する場合(景気減速要因)。
・ロシア・ウクライナ・ベラルーシ・欧州を巡る対立が激化し、軍事的な衝突が発生する場合(景気の減速を通じて景気循環系商品価格の下落要因)。
・次の成長ドライバーとして期待されるインド経済が、期待通りの成長をできない場合(人種差別問題による国民の離反、市場開放・規制改革の遅れ、中国との対立など)。
2018年にすでに人口ボーナス期入りしているため、鉱物・エネルギーをはじめとする景気循環系商品需要の増加は2023~2024年頃。
・アフガン情勢の混乱が域内経済に混乱(大量の難民発生、コロナの感染拡大が欧州圏にもたらされるなど)をもたらし、米中対立を先鋭化させる場合(景気の減速要因)。
◆昨日のセクター別動向と見通し
---≪エネルギー≫---
【昨日の原油市場と見通し】
昨日の原油価格は下落した。昨年後半から供給懸念を材料に上昇し、後半は投機の買いによる上昇が顕著だったが、株価の下落や米露外相会談が取りあえず時間を買う内容となったことで、週末のイベントリスクを警戒した手仕舞い売りが入ったためと考えられる。
週明け月曜日の原油価格は、米露外相会談を受けた米国の回答に注目が集まるが、基本的には直ちに状況が改善するわけではないため、高値圏を維持すると考える。
中・長期的にはOPECプラスの供給能力への懸念、気温低下に伴う季節的な需要増加が続いているため高値を維持すると考える。ただし、米金融引き締めのペースが加速する可能性が高く、景気の減速と季節要因で春先に向けて価格が調整する見通しを変更する必要は無いと考えている。
その観点では来週予定されているFOMC、並びにパウエルFRB議長の会見は注目だ。
ただし、期間の長い中期的(来年の春以降)には、ウィズコロナの進捗で行動制限が解除され、輸送燃料需要(特に航空機向けの需要)が回復することからやはり上昇に転じると見ている。
年明け以降、各調査機関やファンドマネージャーの原油価格見通しは、「株価に比べて割安だ」「供給が間に合わない」というコメントが多数であり、100ドル、200ドル、という数字も上げられている(詳しくは本日のMRA's Eyeを参照ください)。
リーマンショック前後の100ドル超えの時は、投資銀行が油田や製油所、タンカーの現物に投資を行ないエネルギー「現物」資産の「ロングポジション」を有している状態だったが、その状態で調査部門は「株価よりも割安だ」「供給が間に合わない」というロジックで100ドル、200ドル、といった予想を発表しており、そのときと同じ流れにある。
このときと市場環境が異なるため同列には議論できないが、足下の需給がタイトであることは事実であり、この数ヵ月で供給が間に合うとは考え難いため、1~2月は原油価格は弊社が想定している以上に強含むと予想され、仮にウクライナ問題が顕在化すれば100ドル原油も短期的になくはないだろう。
また、より長期的な観点では、脱炭素が継続するとの前提に立ち、「脱炭素による供給制限と、消費者側の脱炭素の動きは特にエネルギー需要のドライバーである新興国では遅々として進まない可能性が高いこと」を考えると、水準を切り上げていく展開が予想される。
問題はこの長期にわたる価格上昇を、消費者側が本当に許容できるかどうかだろう。
【見通しの固有リスク】
・ロシアのウクライナ侵攻に対して、欧米がロシアのエネルギー企業に制裁、供給が逼迫下場合(価格上昇要因)。
・電力・ガスをはじめとするエネルギー供給制限が経済活動を強制的に停止させ、需要が減少する場合(価格下落要因)。
・米国経済が正常化する中で金融緩和解除が加速、急速なドル高を通じて投機的な売り圧力が高まる場合(価格下落要因)。
・OPECプラスの増産ペースの遅れないしは上流部門投資不足による供給不足。あるいは上流部門投資をしてこなかった結果、思った増産ができない場合(価格上昇要因)。
価格が上昇する中でOPEC諸国の減産維持統制が効かなくなり、増産競争に舵が切られる場合(下落要因)。
・脱炭素の進捗、生活様式の変化による構造的な需要減少が加速した場合(価格下落要因)。
・脱炭素の過剰な進捗による供給懸念(価格上昇要因)。
1.中東産油国の財政悪化によって情勢不安が顕在化、供給途絶リスクが高まる場合
2.中東以外の産油国の生産者の破綻
3.上流投資部門投資が減速し、インドなどの新興国需要顕在化時に供給が間に合わない場合
4.価格面、数量面で予算を確保できない産油国が、OSPを大幅に引き上げる場合(第3次オイルショック)
なお、脱炭素が完了しても100%原油が不要になることはなく、OPECの価格支配力が増すため、この場合でも価格は上昇へ。
【石炭市場のまとめと見通し】
豪州石炭スワップ先物価格は小幅に下落したが、225ドル近辺での推移が続いた。オリ・パラ期間中の中国の石炭生産が抑制されるとみられる中で、海上輸送炭需要の増加が続いている。中国、インドの在庫水準は決して高くない。
なお、石炭が高いからといってLNGや天然ガスにシフトする、ということは発電設備の保有状況によるため価格裁定の影響は限界がある。
インドネシアの石炭輸出制限は、国内市場への供給義務(DMO)を満たした企業139社に対して緩和している。石炭の売り手は販売量の4分の1を買い手に販売しなければならず、価格は70ドルが上限で、これを遵守できた企業から輸出が認められるが、まだ審査中の企業が複数残っているようだ。
中国の石炭輸入の指標の1つであるバルチック海運指数は続落し、過去5年レンジ水準まで低下している。
週明け月曜日の石炭価格は、海上輸送炭需要が堅調に推移するとみられるため、高値圏での推移を予想する。
中期的には、春先に向けて暖房向けの需要が減少して下落した後、再び上昇に転じるとみているが、ラニーニャ現象が夏頃まで継続する見通しの中、豪州が洪水のシーズンに入ることもあって、この下落余地が限定される可能性はある。
また、オリンピック・パラリンピックが終了した後、工場向けの需要増加が見込まれる中国勢の買い圧力が強まることも下落余地を限定するリスクがある。
中国政府主導による石炭増産は、冬が本格化するなかで、主要生産地が中国北部であることを考えると思った通りの増産ができるとは考え難い。
しかし、12月の生産は3億8,467万トンと(前月3億7,084万トン)と過去最高水準となった。
その結果、12月の中国の石炭輸入は前年比▲20.8%の3,095万トン(前月+198.1%の3,505万2,000トン)と急速に減速している。
しかし、寒さが厳しくなる1~2月の増産有無、オリンピック・パラリンピックが終了すれば工場の稼働は再開するため、「豪州の洪水シーズン中の、中国の工場稼働再開」は価格上昇リスクを高めるとみている。
【見通しの固有リスク】
・ロシアのウクライナ侵攻に対して、欧米がロシアのエネルギー企業に制裁、石炭供給が逼迫する場合(価格の上昇要因)。
・今冬はラニーニャ発生が厳冬リスクを高めているが、懸念に反して暖冬となる場合(価格下落要因)。
・電力・ガスをはじめとするエネルギー供給制限が経済活動を強制的に停止させ、需要が減少する場合(価格の下落要因)。
・Nord Stream2の稼働が停止され、天然ガス価格が上昇する場合(上昇要因)。
・世界的な環境重視型世界へのシフトを受けた、石炭上流部門への投資規制強化による、供給減速懸念(価格の上昇要因。これは既に顕在化)。
【天然ガス・LNG市場のまとめと見通し】
昨日の欧州天然ガス価格は上昇した。米露外相会談でやや緊張が緩和したものの、ロシアからの輸入が制限されるとの懸念から水準を切り上げる展開となった。
米国天然ガスは気温低下見通しや欧州天然ガス価格の上昇もあって水準を切り上げ。JKMも欧州ガス価格の上昇もあって水準を切り上げている。
なお、バイデン政権はロシアからのガス供給が停止した場合に備えてカタールにLNG輸出の協力要請をしたようだが、原油ですら十分な供給を約束してもらえなかったことを考えると、ほとんど意味が無いと考えられる。
仮に欧州向けを強化すれば、アジア向けが厳しくなるためJKM価格の上昇要因となり得る。
週明け月曜日もウクライナ情勢を巡り神経質な推移が続くと予想されるが、基本、急に緊張が緩和するとは考え難いためガス価格は堅調な推移が予想される。
JKMに関しては中国からのカーゴ輸出増加報道を受けてしばらくは需給緩和観測が強まることになるだろう。
中期的にガス価格は、冬場の終了に伴う季節的な需要減少から価格は下落すると考えているが、ウクライナ情勢が緊迫し、実際にロシアからの供給が制限されれば水準は切り上がることになるだろう。
また一昨年の猛暑から始まる欧州の天然ガス在庫の減少は危機的な状態にあり、今のままだと今年の夏が普通の夏になったとしても十分なガスが確保できない可能性は高く、2022年一杯のTTFやJKM価格を高止まりさせている。
仮にノルドストリーム2が予定通り夏頃に稼働を始めれば、供給の安定で2023年は危機を脱する、というのが希望的観測も含めたメインシナリオではある。
この状況を打破するためには、恐らく(ドイツを除き)原発をクリーンエネルギーと位置づける国が増加すると考えられる。なお、域内最大の原発を有するフランスの原発稼働率は急速に回復しているが、まだ過去5年レンジの下限である。
なお、ドイツは原発再稼働にスペインのサンチェス政権と共に反対しており、全会一致が前提のEUの取り決めの中で、原発が再稼働できるかは微妙なところだ。
スペインのサンチェス政権は極左のポデモスとの連立政権であるが、支持率が低下しているため2023年12月の解散総選挙で敗北する可能性が高いが、それまでは脱原発政策は維持される見通し。
LNGの最大輸入国となった中国だが、12月の中国の天然ガス生産は前年比+2.6%の1,439万2,000トントン(前月+5.2%の1,363万8,000トン)と増加、過去5年レンジを上回っているが増加ペースは鈍化した。※1立方メートル0.7692トンとしてトンベースとした数値。
12月の中国の天然ガス輸入は前年比+3.7%の1,165万トン(前月+16.9%の1,073万トン)と過去5年レンジを上回っているが輸入ペースは鈍化している。
12月の中国のLNG輸入は前年比+0.5%の762万8,875トン(前月+4.4%の690万1,275トン)と過去5年レンジを上回っているが水準は減少している。
中国はパイプライン経由での天然ガスは主にトルクメニスタンから行っているが、「シベリアの力」パイプラインが開通して以降、ロシアからの調達も増加している。
ロシアの中国向け輸出は増加していた。そもそもシベリアの力経由での輸出は2021年で85億立方メートルに増加させる見込みだが、輸出の増加は契約通りとするロシアの主張に沿っている。
12月までの輸出が91.9億立方メートルであり(天然ガス1トン=1,220立方メートルとして弊社算出)、この計画を上回ったことになる。
ガス調達は、天然ガス生産→天然ガス輸入→LNG輸入の優先順位と考えられるが、天然ガス生産の増加、ロシアからの輸入増加(シベリアの力2)により、LNGの輸入需要が低下する可能性がある。
しかし、環境面からCoal to Gasを進める可能性が高いため、顕著にスポットLNG需要が減少するというわけではないだろう。
【見通しの固有リスク】
・ラニーニャ現象による厳冬の影響が価格上昇をもたらしているが、予想に反して冬場が早く終了したり暖冬になったりする場合(価格下落要因)。
・電力・ガスをはじめとするエネルギー供給制限が経済活動を強制的に停止させ、需要が減少する場合(価格の下落要因)。
・Nord Stream2が稼働して欧州のガス需給が緩和した場合(価格下落要因)。
・石炭と同様、「化石燃料であること」を理由に上流部門投資が制限される、あるいは原油生産減少による随伴ガス供給が減少する場合(構造的な価格上昇要因)。
・産油国の減産継続による随伴ガス供給の減少懸念(価格上昇要因)。
【投機筋のポジション動向】
・直近の投機筋のポジションは以下の通り。
WTIはロングが503,178枚(前週比 +18,808枚)ショートが117,397枚(▲6,468枚)ネットロングは385,781枚(+25,276枚)
Brentはロングが318,059枚(前週比+3,356枚)ショートが70,181枚(+5,405枚)ネットロングは247,878枚(▲2,049枚)
---≪工業金属≫---
【昨日の非鉄金属市場と見通し】
昨日のLME非鉄金属価格は高安まちまちとなった。マクロの影響を強く受けやすい銅や、3ヵ月先渡しが3,100ドルに近接して投機的には一旦手仕舞いを入れやすかったアルミなどは下落したが、その他の金属は上昇している。
ウクライナ問題を背景にロシアへの制裁が意識されている。また、半導体需要の増加を背景に顕著な上昇となっている錫も再び水準を切り上げた。
週明け月曜日も、ロシア問題を背景とする供給制限と、エネルギー不足に焦点が当たり高値を維持すると考える。
下落があるとするとウクライナ情勢の緩和だが、現状、米国がボールを持っている状態で、いつの間にか「どこまでロシアに譲歩するか」の状態になっているが、ここで妥協すると欧州の信頼やまた国内からの支持率も低下するため、まだ解決には時間が掛るだろう。
足下、欧州の電力供給問題は解消しておらず、各地で発生する悪天候や天災の影響で、多くの鉱物資源の生産・出荷に影響が出ており、かつ、ゼロコロナを標榜し、オリンピック・パラリンピックを目前に控える中国は、積極的にロックダウンを行っていることから、再び供給懸念が強まっている。
中国の発電量を見ると、12月は前年比▲0.6%の7,234億kwhと前月の前年比+1.9%の6,540億kwhから減少、一方で電力消費は前年比+26.1%の8,156億kwh(前月+3.9%の6,718kwhh)と伸びは加速しており、発電量を上回っている。
同時同量の原則があるため両者は同じ数値であるべきだが、統計の集計方法によるものと考えられる。
しかし、需給はタイトな状態が続いているといえ、本格的に電力依存の高い精錬品の生産が回復している感じはない。そのため、精錬品の価格は高止まりすると見る。
中期的には、ロシアに対する制裁はリスク要因と整理すると、米国の急速な利上げとそれに追随する新興国の利上げで一旦調整し、その後、経済対策の効果(米国のインフラ投資や、中国の金融緩和など)の影響、脱炭素向けの資源需要の増加で上昇に転じると考えている。
米バイデン政権は8年間で1兆2,000億ドルのインフラ投資を実施の計画で、主に以下の分野に資金が配分される。
道路・橋梁・主要プロジェクトに1,090億ドル、電力インフラに730億ドル、旅客・貨物鉄道に660億ドル、ブロードバンド・インターネットサービスに650億ドル、公共交通機関に490億ドル、空港に250億ドル。
長期的にはインドの人口ボーナス期入り、まだ脱炭素の流れが続いていること、省エネや脱炭素の流れに変わりがないこと、世界的な資源国の「資源ナショナリズムの流れ」を受けて、供給面・需要面の制限から価格が上昇するという見通しを変更する必要はないと考えている。
【2022年LME金属需給見通し】
銅 生産 26,351千トン(前年25,043千トン) 需要 26,782千トン(25,613千トン) 需給 ▲432千トン(▲571千トン)
亜鉛 生産 14,293千トン(13,975千トン) 需要 14,423千トン(14,092千トン) 需給 ▲130千トン(▲117千トン)
鉛 生産 12,437千トン(12,437千トン) 需要 12,463千トン(12,243千トン) 需給 ▲26千トン(+194千トン)
アルミ 生産 69,003千トン(68,782千トン) 需要 70,441千トン(70,116千トン) 需給 ▲1,438千トン(▲1,334千トン)
ニッケル 生産 2,927千トン(2,886千トン) 需要 2,960千トン(2,758千トン) 需給 ▲33千トン(▲75千トン)
錫 生産 423千トン(413千トン) 需要 428千トン(425千トン) 需給 ▲5千トン(▲13千トン)
※カッコ内は修正前予想。
【見通しの固有リスク/個別金属の特殊要因】
・ウクライナ問題を巡り、ロシアが欧米から制裁を受けてニッケルやアルミなど、同国への供給依存が高い商品の供給が逼迫する場合(価格の上昇要因)。
・中国不動産セクターの調整が長びき、中国の不動産バブルがはじける場合(価格下落要因)。
・ロジスティクスに障害が残る中、非鉄金属の偏在が現物プレミアムを押し上げるリスク(欧米で顕在化)。
・猛暑や渇水による燃料価格上昇で、1.電力供給不足による稼働停止・供給減少、2.発燃料価格の上昇を通じて生産コストが上昇する、場合(価格上昇リスク)。
・米国経済が正常化する中でドル高が進行し、投機買いが膨らんでいる非鉄金属市場で投機の手仕舞い売り圧力が高まる場合(下落リスク)。
・上流部門投資不足並びに鉱石の品位低下による、鉱山供給の制限。
・チリやペルーを始めとする鉱産国で資源ナショナリズムの流れが強まっていること、あるいは対欧米政策で「後部資源大国」である中国が特定資源の供給を制限する場合(供給減少ないしは生産コスト上昇で価格の上昇要因)。
・環境に配慮したメタル使用の義務化などが欧州で進む場合などのコストアップ(グリーン・メタルの義務化によるコスト増加)。
【投機筋のポジション動向】
・LME投機筋買い越し金額投機筋ネット買い越し・LME投機筋買い越し数量-0.063987602
【昨日の鉄鋼原料市場と見通し】
中国向け海上輸送鉄鉱石スワップは上昇、豪州原料炭スワップ先物は上昇、大連原料炭先物は下落、上海鉄鋼製品先物は上昇した。
中国政府による景気刺激目的のプライムレート下げや、中国のプライムレート下げなどの影響で春節後の需要が想定以上に堅調とみられていることが価格を押し上げたようだ。
週次の鉄鋼製品在庫は前週比+50万トンの1,105万9,000トン(過去5年平均 1,052万7,000トン)と例年を上回っているが在庫の積み上げペースは緩慢。
鉄鉱石港湾在庫は前週比▲165万トンの1億5,505万トン(過去5年平均1億3,306万6,000トン)、在庫日数は41.3日(過去5年平均 32.6日)と数量ベース・日数ベースでも過去5年の最高水準を上回っており、需給が緩和している。
しかし、上述の通り足下の在庫積み上げは春節後、オリ・パラ終了後を見越したものと考えられる。
原料炭は最大生産地区である河北省の主要港である、京唐港の港湾在庫は前週比▲6万トンの168万トンとなり、過去5年の最高水準である210万トンを下回っている。
在庫日数は8.3日と、過去5年の最高水準である9.6日を下回り、需給はややタイト化している。
週明け月曜日は中国勢の動きが鈍化しているものの、製鉄所の稼働低下から高品質の海外鉱石・海外炭を求める動きは継続するため、売買は低迷するものの海外輸送原料価格は堅調な推移が予想される。
また中期的には、オリンピック・パラリンピックの終了に伴う工場の増産が見込まれ、かつ、春先頃からプライムレート下げなどの影響で中国の需要が緩やかながら回復すると見込まれることから、上昇すると予想される。
オリ・パラの期間、北京市、天津市、河北省、山西省、山東省、河南省では粗鋼生産を▲30%以上削減、河北省唐山市は大気汚染物質の排出を▲40%以上削減、山西省は鉄鋼やアルミ、鋳造、セメントなどの建材生産を制限、河北省はセメント生産を制限する方針を打ち出している。
粗鋼生産が減少すれば、鉄鉱石の在庫水準の指標である在庫日数も、分母が小さくなるため上昇が予想され、鉄鉱石価格の下落要因となる。これは原料炭も同様。
長期的な観点では供給が増加を上回り、現在の生産コストに近い水準である期先の価格(90ドル程度)まで水準を切下げる展開が予想されるが、中国に加えてインドが人口ボーナス期入りしているため、構造的な需要の増加が見込まれることから高値圏での維持を見込む。
特に原料炭は供給ソースが制限されるため高値を維持するだろう。
【見通しの固有リスク】
・中国の不動産セクター減速が、建材需要を減少させる可能性(鉄鋼製品価格の下落を通じて鉄鋼原料価格の下落要因)。
・世界的に広がる環境規制強化の流れで、鉄鉱石や原料炭などの生産に一定の影響が起きる場合(価格上昇要因)。
・コロナウイルスの感染拡大長期化による、鉱山生産の減少リスク(価格上昇要因)。
【工業金属関連の中国重要統計の評価】
◆製造業PMI
12月の製造業PMIは50.3(前月50.1)と改善した。生産が51.4(52.0)とやや減速下が、原材料在庫(47.7→49.2)、完成品在庫(47.9→48.5)の増加などが水準を押し上げた。
景気は基本的には減速基調にあるため、在庫の積み上がりは必ずしも良い在庫の積み上がりとは言えない。また、投入価格(52.9→48.1)、卸価格(48.9→45.5)と低下しており、徐々に需給環境は緩和しているようだ。
実際、需給状況の指標である新規受注在庫レシオは、完成品が1.02(前月1.03)、原材料が1.01(1.04)と低下しており、中国の製品・原材料需給は緩和していると考えられる。
また、PMIは改善しているものの主に大企業(50.2→51.3)の改善によるもので、中小企業の景況感は悪化(48.5→46.5)している。中国製造業の景況感は決して良いとは言えない。
◆鉄鋼業PMI
12月の中国鉄鋼業PMIは総合指数は38.7(前月36.6)と改善したが、50の閾値を割り込む状態が2020年6月から続いている。引き続き、中国政府による住宅セクターの抑制が続いていると考えられる。新年早々、恒大集団の株が香港で取引停止になるなど、同国の不動産市場の混乱は続いている。
サブインデックスの新規受注は低迷(39.0→28.2→25.9→28.1)、輸出向け新規受注も(39.5→38.7→34.8→36.3)と、内外需とも低迷が続いており、在庫水準も完成品在庫が31.8(前月28.6)、原材料在庫が35.2(32.8)と低いものの前月からは増加している。
価格に対する説明力が高い新規受注・完成品レシオは0.88(前月0.91)と低下しており製品需給は緩和している。原材料レシオは0.80(前月0.79)と小幅に上昇しているが水準は低い。
◆建設業PMI
中国の鉄鋼需要を牽引してきたのは建設セクターだが、12月の建設業PMIは56.3(前月59.1)と閾値の50は上回っているが、減速感が強まっている。
まとめると、全体として需要は不動産セクター、自動車など低迷しており、輸出税還付の廃止も輸出需要の減速に大きな影響を及ぼした。中国政府は国内の炭素排出抑制を目的として粗鋼生産を2021年度程度に抑えると予想される。
◆工業生産・固定資産投資・不動産投資
工業金属のフロー需要に影響する工業生産は、単月ベースでは+4.3%(前月+3.8%)とやや回復したが、1-12月累計で前年比+9.6%(1-11月期+10.1%)と伸びが鈍化しており、電力供給不足や不動産セクターの抑制によって工業活動が減速したと見られる。
不動産開発投資は1-12月期累計で前年比+4.4%の14兆7,602億元(1-11月期+6.0%の13兆7,314億元)と減速している。中国政府による不動産市場加熱抑制は継続していると見られる。
ストック需要の指標である固定資産投資も年初来累計で+4.9%(+5.2%)と減速。公的セクターの伸び鈍化は所与(+3.0%→+2.9%)だが、よりボリュームの大きな民間部門が前年比+7.0%(+7.7%)と減速していることの影響は小さくない。
とは言え、ソフトランディングを目指す中国政府の対策(不動産規制緩和・預金準備率引き下げ)の影響で減速は数ヵ月後に底入れするだろう。
電力供給の制限やオリ・パラの開催を考えると、回復は3月以降になると見る。
◆自動車販売
2021年の中国全国乗用車市場情報連合会が発表した2021年の自動車総販売台数は前年比+4.5%の2,050万台、そのうちEVは244万台となっている。
なお、EV戦略に慎重なスタンスだったトヨタ自動車が2030年までにEV車を350万台/年販売する方針。モーターやバッテリーを組み込んだ自動車を販売トップのトヨタがEVに舵を切った場合、他社も追随する可能性。
◆貿易統計
(銅)
12月の中国の貿易統計を見ると、ベンチマークである精錬銅の輸入は前年比+15.0%の58万9,000トン(前月▲9.1%の51万402トン)と過去5年レンジを上回り輸入が増加した。
国内の電力供給不足による生産制限を受けて輸入が増加したとみられる。
一方、銅精鉱の輸入は前年比+9.6%の206万トン(前月+19.6%の218万8,000トン)と高い水準を維持している。TCが高止まりする中、上海在庫が著しく少なく季節的には2月~3月にかけてが在庫の積み増し時期に当たるため、それに備える動きと考えられる。
エネルギー不足の影響で輸入の伸びが減速していたが、中国政府の対策推進によりやや国内生産が回復した可能性はある。
中国の大規模銅製錬事業者の12月の稼働率は96.0%と前月唐は回復しているが、同じ時期の過去5年平均は下回っている。
12月の銅スクラップの輸入は前年比+38.4%の16万1,619トン(前月+76.6%の16万4,652トン)。
(鉄鋼製品・鉄鋼原料)
12月の中国の鉄鋼製品の輸入は前年比▲26.9%の100万1,000トン(前月▲23.0%の142万4,000トン)と減速。
12月の中国粗鋼生産は前年比+2.3%の8,619万トン(前月▲25.1%の6,931万トン10月▲24.5%の7,158万トン、9月▲21.2%の7,375万トン、8月▲13.2%の8,324万トン、7月▲8.4%の8,679万トン、6月+1.5%の9,388万トン、5月+6.6%の9,945万トン)と急回復。
燃料供給の回復や、1~3月のオリ・パラ期間中の稼働停止を見込んだ前倒し生産が進んだため。
12月の鉄鋼製品の輸出は前年比+3.6%の502万6,450トン(前月▲0.9%の436万1,000トン)と前月からやや回復したが、それでも過去5年の最低水準であり国内供給を優先させていることが窺える。
12月の鉄鉱石の輸入は前年比▲11.0%の8,607万トン(前月+7.0%の1億496万トン)と急減速した。鉄鉱石の港湾在庫が積み上がり、かつ、1~3月のオリ・パラ期間中の製鉄所の稼働が低下することを見込んだ前倒し調達が一巡したためと考えられる。ほぼこれまでの予想通り。
12月の中国の原料炭輸入は前年比+109.7%の748万7,956トン(前月+108.0%の774万1,656トン)と減速も高い水準を維持。豪州からの輸入は272万5,682トン(前月267万793トン)と高い水準を維持した。
---≪貴金属≫---
【昨日の貴金属市場と見通し】
昨日の貴金属セクターは金銀・プラチナに週末を控えた調整売り圧力が強まったが、パラジウムは高値を維持した。
ウクライナ情勢を背景とするロシアに対する制裁観測が、PGM供給制限を意識させているため貴金属セクターは安全資産需要と供給懸念で高値を維持している。また、金曜日は長期金利の低下に伴う実質金利の低下が価格を下支えした。
週明け月曜日も、ウクライナ・ロシア情勢不安を背景にした安全資産需要と、株価の調整に伴う金利低下で貴金属価格は高値を維持する見通し。
金価格は、地政学的リスクの高まりでリスク・プレミアムが上昇しており、安全資産需要の高まりでしばらくの間、高値で推移すると予想される。
また、今年は食品価格の高騰をはじめとするインフレの懸念が強いため、現在懸念されているロシア・ウクライナ以外にも地政学的リスクが顕在化する可能性が高い。
しかし中長期的には米国の利上げに伴う名目金利の上昇と、インフレ懸念の沈静化にともなう実質金利の上昇を受けて水準を切り下げるというのがメインシナリオだ。
供給懸念を背景とするインフレは時間経過と共に沈静化し、今の水準を維持するとは考え難い。
現在の金の実質金利で説明可能な価格(金基準価格)は1,529ドル、そこからの乖離(リスク・プレミアム)は306ドル。
リスク・プレミアムは5年平均で185ドルであり、地政学的リスクが後退した場合、金価格が100ドル超下落する余地があることを示唆している。
以上を勘案すると、結局の所、金価格は当面1,700ドル~1,800ドルをコア・レンジとする推移が予想される。
銀価格は金価格が高止まりすることから同様に高い水準での推移が予想される。金銀レシオを80倍とすれば、コア・レンジは21.25~22.50ドル、ということになる。
長期的には自動車や家電製品のハイテク化の中で接点部品としての需要(電線やはんだなど)増加で、電子製品向けの需要が増加し、金銀レシオは過去5年平均程度の65倍程度を目指す(工業活動が回復する)ことになるだろう。この場合は、26.15~27.70がコア・レンジとなると予想される。
プラチナ・パラジウムは恐らく半導体供給不足が2023年まで長びくことが予想されるため、しばらくの間は供給過剰を背景に投機の動きが価格を左右することになる。
逆説的だが、現在、ウクライナ問題でロシアヘの制裁懸念が強まっているが、まだ供給が制限されていないものの(供給過剰に変わりは無いものの)買いが入りやすくなるといったイメージ。
長期的にはEVヘのシフトで需要が減少して価格が下落する、との見方があるが、新興国の自動車が全てEVとなる可能性は低い。
実際、車での移動が大半である米国が充電ステーションを整備してまでEVに舵を100%切るとは考え難く、来年の中間選挙で脱炭素を進める民主党が苦戦することはほぼ必定であることを考えると、一定のガソリン車需要は残る(あるいは減少ペースが脱炭素派が期待するほどのものではない)可能性を排除しない。
【見通しの固有リスク】
・ウクライナ問題を巡って欧米諸国がロシアの鉱山会社に対して制裁を科し、供給減少が起きる場合(価格上昇リスク)。
・主要生産国の南アフリカの電力供給不安や、コロナウイルスの影響拡大で供給が滞る場合(PGMの価格上昇要因)。
南アフリカ政はEskomの一部石炭火力に対する温室効果ガス排出規制を免除する申し出を棄却したことで、同国の3分1の電力供給16,000MWの供給が困難になる可能性。
・米国をはじめとする先進諸国が金融引き締め方向に舵を切っており、アフリカや中南米、東南アジア、東欧など新興国から資金が流出して信用リスクが高まる場合(安全資産価格の上昇要因)。
・中国地方政府・中堅中小企業の財政状況悪化に伴う景気減速による安全資産需要の増加(実際に破綻が意識されるのは2030年以降か)。
・世界的なEVシフト加速による、PGM需要の激減。
ただし、環境重視型社会へのシフトが加速、「水素社会」まで到達すると、燃料電池車需要が増加して構造的にプラチナ価格の上昇要因となる可能性。
【投機筋のポジション動向】
・直近の投機筋のポジションは、金はロングが290,528枚(前週比 +426枚)、ショートが96,321枚(+5,956枚)、ネットロングは194,207枚(▲5,530枚)、銀が65,985枚(▲208枚)、ショートが36,285枚(▲2,360枚)、ネットロングは29,700枚(+2,152枚)
・直近の投機筋のポジションは以下の通り。
プラチナはロングが27,304枚(前週比 ▲447枚)ショートが20,075枚(▲2,387枚)、ネットロングは7,229枚(+1,940枚)
パラジウムが2,682枚(▲22枚)、ショートが5,991枚(+309枚)ネットロングは▲3,309枚(▲331枚)
---≪農産品≫---
【昨日の穀物市場と見通し】
昨日の穀物価格は高安まちまちとなった。トウモロコシは米週間輸出統計で輸出が倍増したことを受けて上昇に転じた。大豆と小麦は前日の上昇が大きかったこともあってその反動で水準を切下げたと考えられる。
週明け月曜日の穀物価格は、ウクライナ情勢の悪化を背景に小麦輸出が低迷するとの懸念から高値圏での推移を予想。
中期的にはシカゴ穀物価格は堅調な推移になると考える。冬場のラニーニャ現象が冬で終了せず、北半球の重要な生育期である夏場まで継続する見通しが示されていることや、脱炭素進捗に伴う代替エネルギー需要が高まること、ロシアとウクライナの対立を背景にした供給制限懸念などが材料。
12月の中国の大豆輸入は前年比+17.9%の887万トン(前月▲10.6%の857万トン)と過去5年平均を上回った。
中国の大豆港湾在庫は過去5年レンジの最高水準は下回っているが、高い水準を維持しており、以前ほど需給は逼迫していない。
Locust Watchではソマリアとエチオピアに影響が限定されているが、ソマリアで発生した群生相の一部がエチオピア南部、ケニア北部に飛来している。
今のところ北アフリカ全域に大きな被害をもたらすような状態ではない。https://www.fao.org/ag/locusts/common/ecg/75/en/220106update.jpg
【見通しの固有リスク】
・ラニーニャ現象継続による投機筋の買い圧力の強まり(価格の上昇要因)。
・環境重視型社会へのシフトにより、燃料向け穀物需要が増加する場合(価格の上昇要因)。現在はそれほどの数量でもない、バイオディーゼル向けの大豆需要増加など。
・新型コロナウイルスの影響拡大による、輸出活動の停滞(シカゴ定期を含む生産地価格の下落要因)。
【米農務省需給報告データ】
・米作付け意向面積トウモロコシ 9,114万エーカー(市場予想9,313万エーカー、前年9,699万エーカー)大豆 8,760万エーカー(9,010万エーカー、8,351万エーカー)小麦 4,636万エーカー(4,495万エーカー、4,466万エーカー)綿花 1,204万エーカー(1,215万エーカー、1,370万エーカー)
・米穀物最終作付け面積 実績(前年)トウモロコシ 9,269万エーカー(9,082万エーカー)大豆 8,756万エーカー(8,383万エーカー)小麦 4,674万エーカー(4,425万エーカー)
・1月米需給報告単収見通し(実績/市場予想/前月)トウモロコシ 177.0Bu/エーカー(177.1、177.0)大豆 51.4Bu/エーカー(51.3、51.2)小麦 44.3Bu/エーカー(NA、44.3)
・1月米需給報告生産見通し(実績/市場予想/前月)トウモロコシ 151億1,500万Bu(150億7,818万Bu、150億6,200万Bu)大豆 44億3,500万Bu(44億3,400万Bu、44億2,500万Bu)小麦 16億4,600万Bu(NA、16億4,600万Bu)
・1月米需給報告輸出見通し(実績/前月)トウモロコシ 24億2,500万Bu(NA、25億Bu)大豆 20億5,000万Bu(NA、20億5,000万Bu)小麦 8億2,500Bu(NA、8億4,000万Bu)
・1月米需給報告在庫見通し(実績/市場予想/前月)トウモロコシ 15億4,000万Bu(14億8,315万Bu、14億9,300万Bu)大豆 3億5,000万Bu(3億5,319万Bu、3億4,000万Bu)小麦 6億2,800万Bu(6億926万Bu、5億9,800万Bu)
・12月末四半期在庫 実績(前期末)トウモロコシ 116億738万Bu(116億4,700万Bu、12億3,500万Bu)大豆 31億4,900万Bu(31億2,781万Bu、2億5,700万Bu)小麦 13億9,000万Bu(14億1,496万Bu、17億7,400万Bu)
・1月CONABブラジル作付け面積(市場予想/前月)トウモロコシ 2,094万ha(2,087万ha、2,094万ha)大豆 NA(4,049万ha、4,035万ha)
・1月CONABブラジル生産量(市場予想/前月)トウモロコシ NA(1億1,574万トン、1億1,718万トン) 単収 NA(5,546kg/ha、5,596kg/ha)大豆 1億4,050万トン(1億3,582万トン、1億4,279万トン) 単収 NA(3,355kg/ha、3,539kg/ha)
【投機筋のポジション動向】
・直近の投機筋のポジションは以下の通り。
トウモロコシはロングが476,449枚(前週比 ▲14,879枚)、ショートが88,311枚(+4,475枚)ネットロングは388,138枚(▲19,354枚)
大豆はロングが179,661枚(▲2,061枚)、ショートが51,646枚(+8,196枚)ネットロングは128,015枚(▲10,257枚)
小麦はロングが106,763枚(+6,348枚)、ショートが101,923枚(+42枚)ネットロングは4,840枚(+6,306枚)
◆本日のMRA's Eye
「100ドル原油は有り得るか」
原油価格が上昇し、弊社が想定している「春先に向けて調整」のシナリオが崩れ始めている。それでも米中央銀行の金融引き締め方針を受けて新興国も利上げに動かざるを得ず、結果的に需要のドライバーである新興国の経済活動が鈍化すること、価格上昇が需要を抑制することから下落に転じると考えている。
しかし、比較的短期的な目線、非常に長期的な目線で見たときには100ドルを超える展開が否定できなくなってきた。正直、100という数字にほとんど意味は無いのだが、「投資」を考えている市場参加者からすれば非常に良い目安となるため、この数字が重視されているという印象である。
昨年1年間の値動きをCFTCのポジション動向で振り返ってみると、市場のドライバーとなるのは規模的に「実需のショートの積増し/手仕舞い、投機のロングの積増し/手仕舞い」状況に左右される。次いで取引規模的には実需のロング、かなり規模が小さくなって投機のショート、という感じになる。
1年を通じてみると、一貫して投機のロングが減少し、実需のショートも減少、その結果価格が上昇しているため「実需の買い戻しが価格を押し上げた」と簡単にまとめることができる。
その後、景気が緩やかに回復する中で価格は上昇を続けたが、米テーパリングが意識される中で水準を切下げる動きが強まった。このとき、投機も実需もポジションを落としている。経済活動が鈍化する中で原油需要の伸びが鈍化すると見られたためと考えられる。
オミクロンショックで大きく水準を切下げた後、12月から再び価格は高騰を始めるが、これはテーパリング開始後に実需のショートが減少したことを切っ掛けとするものだ。
価格急騰が始まったのは売買高が急減し始めた年末にかけて。この商い薄い中で価格が上昇したのは、実需のショートの買い戻しによるものであり、現物供給への懸念が強まったため、年末を控えた買い戻しが優勢になったためと見られる。
背景にはリビアからの供給が内乱の影響で減少し、OPECプラスも想定通りの増産ができていないことが意識され始めたことが挙げられる。
その後、投機と実需のロングが増加して価格はさらに上昇した。いるつまり年初からの上昇は厳冬などの影響による需要回復観測と、「インフレ期待」を材料に、昨年1年間一貫してロングポジションを減らしてきた投機筋の新規買いポジション形成が要因、と考えるのが妥当だ。
しかし、OPECプラスの増産は期待通りではないにせよ増加が見込まれること、さすがに米生産者もこの価格水準だと増産バイアスが掛ると予想され、恐らく3月頃(価格が上昇を始めた昨年10月頃に増産を決断していても、実際に増産が始まるのに5ヵ月程度の時間が掛るため)と考えられること、春先にかけては気温上昇で暖房需要が減少すること、利上げや金融引き締めの加速が需要を減じることから、この価格高騰の状況でも春先にかけては下落すると考えるのが妥当だ。
ただ、1~2月にかけて供給環境が急に改善するとは思えないため、まずこのタイミングで90ドルを試す局面が出てくると想定される。
となると、しばらくは金融的な目線が原油価格の水準を決めることが想定される。初めて原油価格が100ドルを超えたとき、どのような議論があったか思い出してみると、「実質価格はまだ安い」という論調が投資銀行の中では主に行われてきた。
つまり、物価上昇は需要の回復に伴うものであり、その物価上昇率を考慮すればまだ原油の実質価格は安く、上昇余地があるという論調である。基本的に物価上昇を調整すると、物価が調整されているためある特定期間の価格はこの平均値に回帰する、という考え方がある。その観点では現在の価格は中国がWTOに加盟して以降の均衡価格程度である。
しかし、100ドルを超えるときの議論は「過去最高値」であり、オイルショック時点の価格が参照されていた。もし、改めてこのロジックを持ち出すのであれば原油価格は170ドル~200ドルまで上昇してもおかしくないことになる。しかし、100ドルを超えるには、1.堅調な需要、2.その需要を満たすだけの供給が困難、という2つの条件が必須となる。
定常的に100ドルを上回っていた2000年代中頃から2010年代中頃にかけては、中国の需要が顕著に増加する、ということが起きていた。また、1980年~1990年代の投資不足が重なり、供給が間に合わなかったことも重なった。
さらに、3.投資銀行を主体とする投機的なプレイヤーが現物市場にも参入し、レバレッジが効いた取引を行っていたこともこれに拍車を掛けた。
恐らく、現在は1.2.は満たすが、3.はボルカー・ルールの導入などによって満たすことが難しいため、恐らく価格が100ドルを超えるには、さらに化石燃料需要が増加する必要があると考えられる。
恐らく、脱炭素の流れは継続して供給が制限されるものの、新興国の主たるエネルギー源は恐らく化石燃料のままと考えられる為、それは新興国、特にインドの需要が増加することが必要であり、コロナの移動制限解除も必要となるため、恐らく2023年に入ってからになるのではないか。
主要ニュース/エネルギー・メタル関連ニュース/主要商品騰落率/主要指数/市場の詳細データPDFは、有料版「MRA商品市場レポート」にてご確認いただけます。
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