CONTENTSコンテンツ

景気循環系商品堅調
  • MRA商品市場レポート

2022年1月18日 第2113号 商品市況概況

◆昨日の商品市場(全体)の総括


「景気循環系商品堅調」

【昨日の市場動向総括】

昨日の商品価格は米国主要市場が休場だったこともあり、方向感に欠ける展開となった。ただしオープンしている市場を振り返ると、エネルギーセクター、非鉄金属セクターに買いが入っている。

いずれも供給不安を材料に、昨年からポジションを落としていた投機が「割安」感からの買いを入れているためと考えられる。

ただ、投機が主導しているとは言っても実際に供給が地政学的リスクや上流部門投資不足、工業金属の最大消費国であり生産国である中国が、オミクロンの影響で生産が減少していること、といった供給面がフォーカスされていることも事実であり、投機が一方的に価格を押し上げている、という説明は適当ではない。

トンガの噴火の影響は本日のMRA's Eyeにまとめたので、そちらを参照いただきたい。

【本日の見通し】

本日の商品価格も供給面がほとんどの商品で意識されているため、高値圏での推移になるだろう。しかし同時にそれを受けた金融引き締め観測は根強く、ファイナンシャルな面での投資環境悪化(買いを入れ難い)が、価格の上昇を抑制すると考える。

本日予定されている材料としては、エネルギー供給懸念の材料の1つであるウクライナ問題の解決の糸口になる可能性がある、ドイツ・ロシア外相会合、原油価格動向を左右するOPEC月報に注目している。

また経済統計では米ニューヨーク連銀製造業指数と独ZEW景況感指数に注目している。

1月ニューヨーク連銀製造業指数 市場予想 25.0(前月 31.9)1月独ZEW景気期待指数 32.0(29.9) 現状指数 ▲8.8(▲7.4)

【昨日のトピックス】

昨日発表された中国の重要統計は総じて同国経済が減速していることを確認するないようだった。

Q421の中国実質GDPは、年初来 前年比+8.1%(市場予想+8.0%、前期+9.8%) 前年比+4.0%(+3.3%、+4.9%)、前期比+1.6(+1.2%、+0.2%)と市場予想は上回ったが前期からは減速が鮮明になった。

工業金属のフロー需要に影響する工業生産は、単月ベースでは+4.3%(前月+3.8%)とやや回復したが、1-12月累計で前年比+9.6%(1-11月期+10.1%)と伸びが鈍化しており、電力供給不足や不動産セクターの抑制によって工業活動が減速したと見られる。

不動産開発投資は1-12月期累計で前年比+4.4%の14兆7,602億元(1-11月期+6.0%の13兆7,314億元)と減速している。中国政府による不動産市場加熱抑制は継続していると見られる。

ストック需要の指標である固定資産投資も年初来累計で+4.9%(+5.2%)と減速。公的セクターの伸び鈍化は所与(+3.0%→+2.9%)だが、よりボリュームの大きな民間部門が前年比+7.0%(+7.7%)と減速していることの影響は小さくない。

以上を考えると、中国政府による不動産市場の過熱沈静化対策が奏功しているとも言えるが、同時に電力供給制限などのイベントリスクも顕在化した。

しかし、既にオミクロン株の影響で生産活動・経済活動が鈍化している他、オリンピック・パラリンピックの開催で「メンツ」のために必要以上にゼロコロナを目指すと考えられることも、経済活動を低迷させるだろう。

ただし、ソフトランディングを目指す中国政府の対策(不動産規制緩和・預金準備率引き下げ)の影響で減速は数ヵ月後に底入れするだろう。季節要因や、オリ・パラの開催を考えると、回復は3月以降になると見る。

【昨日のセクター別動向と本日の見通し】

◆原油

原油価格は続伸した。引き続き、OPECからの供給が十分ではないのでは、との見方や新年度入りしたファンド勢力が一斉に100ドル超え原油価格の予想を示し始めたことで、「割安」とされるエネルギーセクターの物色が始まったためと考えられる。

昨年、投機筋は株式市場が好調であり、金融引き締めやOPEC増産の効果によって需給が緩和すると見られていたエネルギーセクターではむしろ買いポジションを減らしていたため、ポジションが軽くなっている。

一方、金融引き締めで株価の上昇余地が限定されるとの見方から、より上昇余地があると見られる商品セクターに投資ウェイトをシフトさせている可能性がある。

ただ、現状は厳冬とOPECプラスの増産ペースの遅れから需給がタイトであることは事実であり、かつ、バックワーデーションの形状であることから投機の買いが入りやすいのは事実。

本日も、厳冬や供給懸念を背景とする買いが価格を押し上げそうだが、年初来のセクター上昇率は、エネルギーセクターが+11.6%、原油が+9.6%と突出しており、年初から積み上がっているとみられる投機の利益確定も予想されるため、頭重い推移となろう。

本日の注目材料はOPEC月報。2022年の生産・需要見通しに注目が集まる。DOE、IEA、OPECとも今年は3月頃から供給過剰に転じると予想しているが、OPEC見通しはどうか。

◆石炭・LNG・天然ガス

豪州石炭スワップ先物価格は上昇して220ドルを上回った。冬場の石炭調達は十分ではなく、中国のオリ・パラで生産減少が見込まれることも海上輸送石炭需要を増加させたとみられる。

中国の石炭輸入の指標の1つであるバルチック海運指数は続落し、過去5年レンジに到達した。中国がオリンピック・パラリンピックで経済活動を鈍化させる見通しであることが影響しているとみられる。

欧州天然ガス価格は下落。米国からのLNGカーゴ流入、中国のオリ・パラの影響による生産活動の鈍化、などが材料になった。しかし、ロシアからのガス供給は回復しておらず、在庫も低い状態であり調整したとは言え高い水準を維持している。

なお、域内最大の原発を有するフランスの原発稼働率は急速に回復しているが、まだ過去5年レンジの下限である。

米国天然ガスは気温低下見通しが広がっているため、高値を維持した。欧州向けの輸出増加や域内の気温低下で目先、上昇圧力が掛りやすい。

JKMは欧州天然ガスの低下もあって小幅に水準を切下げた。中国の経済活動鈍化が影響しているとみられる。ただ、それでもスポットLNGの需要は旺盛であり、北半球の冬が本格化する1~2月の上昇リスクは小さくない。

2022年1月3日~1月9日のLNG輸入は前週比+10%の920万トンとなった。うち、スポット取引のシェアは36%(前週29%)と上昇した。主に、北欧向けの輸出が増加したことが影響た。

一方、スエズ以東・以西ともタンカーレートが大幅に低下し、過去5年の最低水準を下回っている。しかしこれは足下の価格水準とは整合が取れておらず、引き続きタンカーレート動向は注視が必要だ。

本日の石炭価格は、中国の調達需要が鈍化する一方で生産も減速するとみられ、海上輸送炭需要は増加すると予想されることから、価格は高値維持。

影響がまだはっきりしないが、トンガの噴火の影響で軽石の発生も確認されており、同国港からの出航に影響が出て需給がタイト化するリスクは無視できない。

天然ガス価格は欧州の在庫水準が低い状態に変わりは無く、ロシアとウクライナの緊張、ガス供給元として期待される米国の気温急低下見通しを受けて高値を維持の公算。

◆非鉄金属

LME非鉄金属価格は総じて堅調な推移となった。中国の経済統計は予想を下回る悪い内容で非鉄金属価格の下押し要因となっていたが、オミクロン株の影響で中国の供給が制限されるとの見方や、中国政府が経済対策で預金準備率引き下げなどの金融緩和を行うのでは、との見方が価格を押し上げることとなった。

なお、銅と錫のオフワラント率も10%を回復、亜鉛や鉛が各々27.3%、24.5%、アルミは45.3%、ニッケルは55.0%のオフワラント率となっており、需給がタイトであることを示唆している。

また、昨年秋頃からポジションを落としていた投機筋が、2022年以降のテーマを商品・資源インフレにし始めた可能性はあり、その投機的な買いが価格を押し上げていると考えられることも影響として無視できない。

実際、先週のLME投機筋のポジションはロングが軒並み増加している。

本日も非鉄金属は中国の経済活動の鈍化と供給懸念を背景に、高値圏でのもみ合いになると考える。

◆鉄鋼・鉄鋼原料

中国向け海上輸送鉄鉱石スワップは小幅に下落、豪州原料炭スワップ先物は上昇、大連原料炭先物は下落、上海鉄鋼製品先物は下落した。

発表された中国の重要統計が市場予想を下回り、同国の経済活動が鈍化すると見られたことで鉄鋼製品価格が下落、それを受けて鉄鋼原料価格は下落することとなった。

本日は中国勢の動きが鈍化することが予想されるため、鉄鋼原料は軟調な推移が予想される。しかし、トンガの噴火によって船舶の航行に影響が出る可能性があること、豪州がサイクロン・洪水のシーズンに入っていることから、原料炭価格は高止まりしそうだ。

◆貴金属

昨日の貴金属セクターは高値圏でもみ合った。欧州で金利が上昇したことや、原油価格が上昇したことが相殺しあう形となった。PGMはパラジウムが前日比小幅安で引けている。

本日は手がかり材料に乏しく、金融引き締め観測を背景とする長期金利の上昇と、上昇を続ける原油価格を背景とする期待インフレ率の上昇が相殺しあうため、高値圏でのもみ合いを予想。

◆穀物

シカゴ穀物市場は休場だった。

本日の穀物価格は高値圏でのもみ合いになると考える。トンガの噴火の影響で反射的に買いが入る可能性はあるが、過去の噴火の例を見ても影響は限定されるため。

※中長期見通しは個別セクターのコラムをご参照ください。

市場データ・グラフ類の添付ファイルのサンプルはこちら。

【マクロ見通しのリスクシナリオ】

・実施が期待されていた1.75兆ドルの米税制・支出法案が複数議員の造反で成立しない、ないしは規模が縮小される場合(景気減速でリスク資産価格の下落要因に)。

・ロシアと西側諸国の軍事衝突のリスク(世界経済の減速要因)

・コロナウイルスの感染再拡大(オミクロン株の影響)によるロックダウンが景気循環系商品の需要を減じる場合(価格下落要因)。

・資源価格上昇によるインフレや、米テーパリング・利上げ観測を背景とした新興国通貨安で新興国が想定以上のペースで利上げを行わねばならず、世界的に金融引き締めモードに転じた場合(リスク資産価格の下落要因)。

・米中対立激化による、新冷戦構造が発現しブロック経済圏が発生して貿易活動が鈍化する場合(場合によると武力衝突も)。

・米中対立が、自国内の混乱などを理由に急に「手打ち」となった場合(景気のポジティブリスク・中国がさらに力を付け、将来米中が武力衝突するリスク)。

・発電燃料供給不足による工場稼働停止や消費低迷で景気が減速する場合(リスク資産価格の下落要因)。

・中国不動産問題の沈静化に時間が掛り、信用収縮に繋がる場合(工業金属などの景気循環系商品を筆頭に、リスク資産価格の下落要因)。

・中国地方政府・中堅中小企業の財政状況悪化に伴う景気減速(これは人口動態を考えると、現実のリスクとなるのは2030年以降か)。

・環境重視型社会への急激な転換による、経済活動の鈍化リスク。成長ドライバーの1つとして期待される、中東・北アフリカ産油国が人口ボーナス期を活かせない(逆に鉱物産出国は高成長となる可能性も)。

逆に脱炭素に向けたインフラ投資の加速で資源価格が急上昇、金融緩和マネーが大量に市場に滞留する中でハイパーインフレとなるリスク。

・来年の中間選挙を控えて、バイデン大統領が国内の支持を得られない場合。議席確保のためのなりふり構わない政策がインフレをもたらすリスク(景気加熱後に急減速する要因)。

・独政権交代後の国内求心力が低下、域内最大経済国のドイツ経済が減速する場合、また、EUの指導力が低下し域内経済が停滞する場合(景気減速要因)。

・ロシア・ウクライナ・ベラルーシ・欧州を巡る対立が激化し、軍事的な衝突が発生する場合(景気の減速を通じて景気循環系商品価格の下落要因)。

・次の成長ドライバーとして期待されるインド経済が、期待通りの成長をできない場合(人種差別問題による国民の離反、市場開放・規制改革の遅れ、中国との対立など)。

2018年にすでに人口ボーナス期入りしているため、鉱物・エネルギーをはじめとする景気循環系商品需要の増加は2023~2024年頃。

・アフガン情勢の混乱が域内経済に混乱(大量の難民発生、コロナの感染拡大が欧州圏にもたらされるなど)をもたらし、米中対立を先鋭化させる場合(景気の減速要因)。

◆本日のMRA's Eye


「トンガ噴火の影響」

南太平洋の島国、トンガでフンガトンガ・フンガハアパイ火山が大規模噴火を起こし、日本に津波も押し寄せて船舶が転覆するなどの被害が発生した。

今回の噴火によって海底ケーブルにも障害が発生している模様で、現在の被害がどの程度のものかは全く把握できて以内状況。現在、豪州・ニュージーランド政府が軍用機を派遣して状況を確認しているようだが、一刻も早い状況把握と支援体制についての検討が必要だろう。

今回の噴火は火山爆発指数では上から3番目の6に当たるとされ、直近、同様のレベルの噴火となったのはフィリピンのピナツボ火山だ。

ピナツボ火山の大噴火は1991年6月7日(前兆は数ヵ月前からあった)このときの噴煙は成層圏まで達し、噴出物が太陽光を遮って世界の平均気温が0.5度低下、日本では1993年にコメが不作となり、全国の作況指数が74と戦後最悪の数字となって、タイからコメを緊急輸入せざるを得なくなった。今回も同様のことが起きるのではないか、との指摘が出ている。

このときの主要穀物の価格(小麦、トウモロコシ、大豆、コメ)をみると、噴火直後はほとんど反応が無かった。

その後、小麦の価格が上昇を始めるが、米国の穀物生産が小麦からトウモロコシにシフトを始めて生産量が頭打ちとなる中で、エルニーニョ現象の発生が重なったためと考えられる。

なお、本コラムではラニーニャ現象発生時に穀物価格が上昇するケースが多いとしているが、豊作となりがちなエルニーニョ現象も局地的に異常気象をもたらす可能性があるため、必ずしもエルニーニョ=穀物価格下落ではない。

小麦価格下落後、穀物価格は1992年にかけて下落するが、1993年にかけてコメ価格の上昇に連れる形で水準を切り上げている。これまでメディアで取り上げられているように、コメの不作が影響した可能性は高い。

1992年~1993年にかけて、トウモロコシ、大豆、小麦、コメの生産量が過去のトレンドから乖離して世界的に減産となっている訳ではないが、需要は堅調に増加したため期待通りの増産ができなかったことも影響したと考えられる。

しかし、農産品の生産は気温状況よりも降雨や干ばつの影響の方が大きく、かつ、地球の気温は温室効果ガスや噴煙だけではなく、太陽の活動や地球内部の動きにも影響を受けるとされるため、ピナツボ火山が爆発したことのみが、爆発後2年~3年経過してから生産に影響を与えたと判断するのは難しい。

十分な情報が取得できていないが、まだ現在は情報収集のステージといえるだろう。今回の報道を受けて穀物のETFなどに買いが入ったようだが、上記の例の通りであれば時間差を以て生産に影響が及ぶため、かなり長期にわたって穀物のロングポジションを保有し続ける必要がある。また、火山の影響による不作が長期化する保証もない。

それよりは火山からの噴出物が海洋に流出しており、船舶の航行に影響が出る軽石が流出していることの方が目に見える危機としては影響が大きい。

というのも、トンガの近隣国である豪州東部は、メルボルン港(ビクトリア州)、ニューキャッスル港(ニューサウスウェールズ州)、ブリスベン港(クイーンズランド州)などの重要な港が位置しており、小麦や石炭の輸出に影響が出ると考えられる。

なお、鉄鉱石やガス資源は主要な輸出港が西部に位置しているため現状、影響は軽微と考えられるが噴出物の落下度合いによっては影響を免れないだろう。遠方ではあるが、太平洋側に主要な輸出港が位置するチリなどからの輸出への影響も注視する必要がある。

また、噴火が繰返され、余り考えたくないが津波が発生して主要資源国の港に深刻な被害が及ぶ場合、供給に影響が出ることはリスクとして忘れてはならない重要な点だ。


主要ニュース/エネルギー・メタル関連ニュース/主要商品騰落率/主要指数/市場の詳細データPDFは、有料版「MRA商品市場レポート」にてご確認いただけます。
【MRA商品市場レポート】について