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中国統計減速と欧州危機で高安まちまち
  • MRA商品市場レポート

2021年11月16日 第2076号 商品市況概況

◆昨日の商品市場(全体)の総括


「中国統計減速と欧州危機で高安まちまち」

【昨日の市場動向総括】

昨日の商品市場は天然ガスをはじめとするエネルギーや貴金属、穀物、その他農産品価格が上昇し、工業金属価格が下落する展開となった。

昨日発表された中国の重要統計(工業生産、小売売上高、固定資産投資、不動産投資など)が市場予想を下回る内容で、不動産バブル抑制方針を受けた中国の景気減速(強制的な調整)が継続している、と見られたことが材料となった。

また、米インフレ懸念の高まりを受けた長期金利の上昇がドル高を誘発したことが材料となった。通常、インフレ国通貨は下落するが、足下はインフレ懸念→利上げ→名目金利上昇で、ドルには上昇圧力が掛りやすい。

欧州のガス供給不安がベラルーシ問題を背景に高まっていることが、再び発電燃料価格の上昇と電力供給懸念を強める形になっている(詳しくはエネルギーのコラムを参照ください)。

今回のベラルーシの一件(難民流入策やガス供給途絶)は、プーチン大統領の支持ではなく、独裁者ルカシェンコ大統領の暴走と考える方が正しく、既に露・仏の対話ももたれていることを考えると、沈静化すると考えられるが欧州最後の独裁者であるルカシェンコ大統領がさらに暴走するリスクは有り得る。

東では「皇帝」を目指していた習近平が皇帝になり損ねている。歴史的な実績が何もないことがその背景。となると、名誉欲が非常に高い習近平国家主席が、毛沢東も?小平もなし得なかった「祖国統一=台湾併合」を3期目就任以降、本気で実施してくる可能性は高いと見るべきだろう。

この場合、アジアの輸送に大きな問題が生じることになるため、小さなリスクではない。

【本日の見通し】

本日も金融市場はインフレリスクを警戒、商品市場(特にエネルギー周り)はロシアを軸とする欧州情勢に左右され、非常に神経質な推移になると考える。

ただし、ほとんどの商品が総じて供給不足の状態にあるため、高値圏は維持するのではないか。

予定されている材料では米各連銀総裁の講演や発言(セントルイス連銀総裁、リッチモンド連銀総裁、カンザスシティ連銀総裁、アトランタ連銀総裁、ミネアポリス連銀総裁、サンフランシスコ連銀総裁、フィラデルフィア連銀)に注目したい。

テーパリングのペース加速などに発言があるかに注目したい。

経済統計では米小売売上高に注目している。雇用は回復しているが、インフレ懸念が強まる中で消費が回復しているか。

10月米小売売上高 前月比+1.5%(前月+0.7%) 除く自動車 +1.0%(+0.8%) 除く自動車・ガソリン +0.7%(+0.7%) 除く自動車・建材 +1.0%(+0.4%)

【昨日のセクター別動向と本日の見通し】

◆原油

原油価格は上昇した。特段目立った材料がなく、米エネルギー省やOPECの予想でも来年が供給過剰になる見通しであり、この状況を受けてOPECプラスメンバーも12月の増産は予定通り、とした発言が相次ぐ中、米戦略備蓄の放出も見送られていることが結局買い材料となった。

目先の需給タイト感の解消がなく、ドル高が進行したものの価格は上昇した。

市場では米戦略備蓄の放出を期待する向きも多い。しかし過去、戦略備蓄が放出されても、それが下落の切っ掛けになったことがないわけではないが、持続的に価格が低下したことはない。

ちなみに現在の戦略備蓄は完全に生産が停止したとして40日分程度であり、「在庫は使えばなくなるもの」であることから、当たり前だが全量を放出することはあり得ない。

本日も「物理的な供給増加有無」に焦点が当たっているため、為替や経済統計といったマクロ系の指標には余り反応せず、高値圏のもみ合い継続と考える。

その手がかり材料としてIEA月報に注目が集まる。需要見通しはOPEC・DOEとも下方修正であり、増産を先進国と揃って中東に要請したIEAがどのように判断している化に注目したい。

◆石炭・LNG・天然ガス

豪州石炭スワップ先物価格は小幅に下落。中国の生産統計で10月の石炭生産が3億5,709万トンと過去最高水準となったことを受け、輸入需要が減少するとの見方が強まっていることが材料になっている。

しかし、気温低下が顕著になる11月以降の増産が予定通りできるかは不透明であり、引き続き冬場の需給はタイトとみるべきだろう。実際、中国6大電力の石炭在庫日数は15日分しかなく、中国国家発展改革委員会が主張するように20日分の在庫があるといっても過去5年レンジよりも低い水準であるため十分とは言い難い。

中国の石炭輸入動向への説明力が高いバルチック海運指数は下げ止まっていたが、昨日は再び下落した。年末商戦を控えて荷動きが再び活発化する時期でも有るため、季節的なものだろう。

JKM先物市場は上昇。ベラルーシが「ロシアからのガス供給を遮断することも有り得る」と発言したことで、一気に供給懸念が高まっているため。

ウクライナのルカシェンコ大統領は、EUが制裁を解除しない限り、390億立方メートル/年のパイプラインを遮断する、と発言している。ロシアから欧州へのガス供給はそのほとんどがウクライナとベラルーシを通過するため、ここが遮断されればかなり供給が厳しくなる。

ロシアはウクライナに対して圧力を掛け(間接的に欧州に圧力)、ベラルーシを通じて欧州に対して圧力を掛けているように見える。

ルカシェンコが移民や難民をポーランド国境に集結させているのはプーチンの指示ではなく、恐らくロシアの庇護があるとの前提でルカシェンコが暴走したと考えるのが適切で(独裁者は独断と偏見で暴走しがち)、恐らくプーチン大統領はそこまで望んでいなかったと思われる。

ただ、ここまで露骨な圧力を掛ける見返りがノルドストリーム2の早期稼働、というのはそのメリットと西側諸国からの圧力を考えるととても釣り合うように見えない。

場合によるとロシア国内でもインフレ懸念が台頭しているため、1.国民の不満を逸らす、2.場合によるとノルドストリーム2の稼働が可能、という2面作戦ではなかろうか。ただいずれも証拠がないため推測となる。

米国天然ガスは、欧州のガス供給危機問題再燃を受けた輸出需要増加観測で上昇した。

スポットLNGタンカーレートはスエズ以東・以西とも横這い。とは言え、例年の水準を超えてタンカー需要は旺盛であり、東西ともLNG調達は継続すると予想される。

2021年11月1日~7日のLNG取引は前週比+21%の770万トン(前週▲13.5%の634万トン)、スポット調達のシェアは30%(23%)と上昇した。

長期契約・スポット調達の増加は主に日本、中国、台湾、韓国の調達増加によるもので季節要因。特に日本はスポットカーゴを追加で取得している。

石炭は中国の増産や規制強化の影響で水準を切下げているが、国内供給は中国以外でも十分ではないため、少なくとも冬場は高値維持の公算。

天然ガスはベラルーシ問題を背景に欧州の供給懸念が再び台頭したため、再び上昇余地を探る展開に。

◆非鉄金属

LME非鉄金属価格は下落した。中国の重要統計が発表され、工業生産に一部回復が見られたが通年では減速しており、固定資産投資、不動産投資とも減速したことから水準を切下げる動きとなった。

また、米金利が再度上昇していることでドル高が進行したことも価格を下押しした。

昨日発表された中国の工業金属のフロー需要に影響する工業生産は、1-10月累計で前年比+10.9%(1-9月期+11.8%)と伸びが鈍化した。ただし単月ベースでは+3.5%(+3.1%)とやや伸びが回復している。

1-10月期の中国不動産開発投資は前年比+7.2%の12兆4,934億元(1-9月期+8.8%の11兆2,568億元)と減速が続いている。

この結果、ストック需要の指標である固定資産投資も年初来累計で+6.1%(+7.3%)と減速が明確になった。

公的セクターの伸び鈍化は所与としても、よりボリュームの大きな民間部門が前年比+8.5%(+9.8%)と伸びが減速していることは、中国政府によるバブル抑制行動が影響しているとみられる。

ただし、いずれも伸びの減速でありマイナスにはなっていないことから、中国の成長は継続しており需要面は価格を押し上げる可能性がある。価格上昇はこれを満たすだけの十分な供給ができていないことによる。

本日は最大消費国である中国の経済統計減速と、米ドル高基調を受けて軟調推移を予想。ただし目先のチャートポイントである50日移動平均線が意識されているため、大幅な続落にはならないと予想。

◆鉄鋼・鉄鋼原料

中国向け海上輸送鉄鉱石スワップは大幅に下落、豪州原料炭スワップ先物は上昇、大連原料炭先物は大幅に下落、上海鉄鋼製品先物はまちまちだった。

中国不動産関連統計、固定資産投資の減速を受けた最終需要(鉄鋼製品需要)の減少観測が強まる中、在庫の十分な鉄鉱石価格は大幅に下落、まだ供給が十分ではないが、国内生産が始まった原料炭は国内価格が下落し、輸入品価格が上昇する展開となった。

本日も鉄鋼製品生産減少に伴う供給不足が鉄鋼製品価格を高止まりさせるものの、需要見通しが経済統計を受けて弱気に転じていることから、在庫の十分な鉄鉱石価格は低水準での推移を継続、原料炭については中国炭価格は下落、海上輸送価格は上昇(中国の輸入増加)の展開を予想。

ただし両者(鉄鉱石・原料炭)とも徐々に水準を切下げる展開へ。

◆貴金属

昨日の貴金属セクターは金銀が下落、PGMは上昇した。米長期金利上昇に伴う実質金利上昇が金の基準価格を押し下げたが、ロシアがクリミア半島に10万人規模の軍隊を集結させている、との報道やベラルーシルカシェンコ大統領がEUに対してガスパイプラインの遮断や、ポーランド経由での難民・移民流入策を弄し、ガス供給不足で混乱する欧州諸国の反発は必至、との見方が強まったことがリスク・プレミアムを押し上げる形となった。

銀価格は金に連れる形だったが、安全資産として物色された金には着いて行けず、水準を切下げた。PGMは株価が高よりしたこともあって水準を切り上げた(その後下落して、前日比プラス)。

PGMに関してはロシアと欧州諸国との対立を受けた、制裁強化観測に伴う供給制限が意識された感も否めない。

本日も市場にくすぶるインフレ懸念が期待インフレ率だけではなく、長期金利も押し上げているため、金銀は軟調な推移を予想。PGMも金銀価格に連れる形で水準は切り下がるが、ロシア問題が材料視される可能性はあり、高値維持の公算。

◆穀物

シカゴ穀物市場はまちまち。トウモロコシは下落。例年を上回るペースで収穫が進んでいることから、ハーベスト・プレッシャーが強まったためと考えられる。

大豆は収穫進捗率が92%だがほぼ過去5年平均程度でトウモロコシほど収穫ペースは早くない。しかし、10月の大豆圧砕高は1億8,399万3,000Bu(市場予想1億8,194万5,000Bu)と、市場予想を上回ったことが材料となった。

小麦は上昇して一時9年振りの高値圏に。ラニーニャ現象の発生による供給減少が顕在化しており、ロシア・ウクライナ問題を背景とする黒海周辺の供給減少懸念も材料として意識された。

ロシアは穀物輸出税の引き上げを通じて、穀物類の国外流出に歯止めを掛ける以降。国内の供給も十分でないと考えられる。

本日もラニーニャ現象の発生を材料とする世界的な供給不安で穀物類は上昇余地を探る展開を予想。

※中長期見通しは個別セクターのコラムをご参照ください。

市場データ・グラフ類の添付ファイルのサンプルはこちら。

【昨日のトピックス】

Q321の日本のGDPが発表されたが、前期比▲0.8%、前期比年率▲3.0%と前期の+1.5%から急速に減速して2四半期ぶりのマイナス成長となった。また、市場予想の▲0.7%も大きく下回るサプライズに。寄与度を見るとマイナス成長の主因は個人消費(寄与度▲0.6%)。

個人消費の落ち込みは、半導体不足による自動車販売の低迷や、パソコン需要が一巡し、耐久財が▲13.1%となったことによる。コロナの影響緩和によってサービスは+0.1%と横這いだったが、耐久財の減速を相殺するには至らず。

シェアの大きな設備投資も前期比▲3.8%(市場予想▲0.6%、前期+2.2%)と減速、半導体不足も影響し、自動車や生産機械が低迷。

一方、先月発表された米国のGDPも減速しているが前期比+1.1%とプラス成長を維持してはいるが、前期の+7.9%からは大幅な減速となっている。減速の背景となったのは日本と同様個人消費の減速(+7.9%→+1.1%)によるもの。

コロナのデルタ株の感染拡大が影響した。また、物流の停滞やハリケーン「アイダ」の影響に拠る生産活動の停滞も影響したと考えられる。

今後、日米で大きく状況が異なるのが輸入物価指数の伸び。日本は各国の金融政策正常化の流れを受けた円安基調を受けて、米国以上に輸入物価が上昇している状況。輸入物価上昇で日本経済がスタグフレーション入りする可能性があることは大きなリスクに。

【マクロ見通しのリスクシナリオ】

・資源価格上昇によるインフレや、米テーパリング・利上げ観測を背景とした新興国通貨安で新興国が想定以上のペースで利上げを行わねばならず、世界的に金融引き締めモードに転じた場合(リスク資産価格の下落要因)。

・米中対立激化による、新冷戦構造が発現しブロック経済圏が発生して貿易活動が鈍化する場合(場合によると武力衝突も)。

・米中対立が、自国内の混乱などを理由に急に「手打ち」となった場合(景気のポジティブリスク・中国がさらに力を付け、将来米中が武力衝突するリスク)。

・発電燃料供給不足による工場稼働停止や消費低迷で景気が減速する場合(リスク資産価格の下落要因)。

・中国不動産問題の沈静化に時間が掛り、信用収縮に繋がる場合(工業金属などの景気循環系商品を筆頭に、リスク資産価格の下落要因)。

・中国地方政府・中堅中小企業の財政状況悪化に伴う景気減速(これは人口動態を考えると、現実のリスクとなるのは2030年以降か)。

・環境重視型社会への急激な転換による、経済活動の鈍化リスク。成長ドライバーの1つとして期待される、中東・北アフリカ産油国が人口ボーナス期を活かせない(逆に鉱物産出国は高成長となる可能性も)。

逆に脱炭素に向けたインフラ投資の加速で資源価格が急上昇、金融緩和マネーが大量に市場に滞留する中でハイパーインフレとなるリスク。

・コロナウイルスの感染再拡大によるロックダウンが景気循環系商品の需要を減じる場合(価格下落要因)。

・来年の中間選挙を控えて、バイデン大統領が国内の支持を得られない場合。議席確保のためのなりふり構わない政策がインフレをもたらすリスク(景気加熱後に急減速する要因)。

・独政権交代後の国内求心力が低下、域内最大経済国のドイツ経済が減速する場合、また、EUの指導力が低下し域内経済が停滞する場合(景気減速要因)。

・ロシア・ウクライナ・ベラルーシ・欧州を巡る対立が激化し、軍事的な衝突が発生する場合(景気の減速を通じて景気循環系商品価格の下落要因)。

・次の成長ドライバーとして期待されるインド経済が、期待通りの成長をできない場合(人種差別問題による国民の離反、市場開放・規制改革の遅れ、中国との対立など)。

2018年にすでに人口ボーナス期入りしているため、鉱物・エネルギーをはじめとする景気循環系商品需要の増加は2023~2024年頃。

・アフガン情勢の混乱が域内経済に混乱(大量の難民発生、コロナの感染拡大が欧州圏にもたらされるなど)をもたらし、米中対立を先鋭化させる場合(景気の減速要因)。

◆個別商品市場中期見通し


---≪エネルギー≫---

【原油価格見通し】

原油価格はこれまで脱炭素の流れで増産が見送られてきたことから直ちに供給増加ができないこと、OPECプラスの追加増産見送り、厳冬見通しを背景に高値を維持するが、石炭・天然ガスの供給増加観測や、景気の循環的な減速もあるため、高値を維持しつつも水準を切下げる展開を予想する。

原油価格上昇に伴い米国のシェールオイル生産は回復、最大生産地域であり、生産コスト低いるPermianの生産はコロナ前の水準をほぼ回復した。

しかしその他の地域は回復が見られておらず、シェールオイル全体の11月の生産は2020年3月の8.56MBDよりも▲0.79MBD万少ない7.85MBDとなる見込み。

また、リグの稼働も脱炭素などの影響低調で、増産はこれまで掘削したが稼働させていなかった井戸の稼働によるものに止まっており、完成非稼働井戸数はピーク時の半分まで減少している。

まだ、需要を満たすだけの供給が起きていないことは事実である。

しかし、価格上昇の前提が厳冬であることであるため、冬場の調達に目処がたつ、あるいは暖冬だったということになれば、既に製造業PMIなどはピークアウトしており価格には調整圧力が掛ることになる。「不安定な中での価格上昇」と言える。

期間の長い中期的(来年の春以降)には、経口薬の開発などで恐らくコロナによる移動制限が解除され、輸送燃料需要が回復することからやはり上昇に転じるとみている。

米DOEの2021年供給は95.93MBD(前月95.82MBD)、需要は97.52MBD(97.46MBD)、需給バランスは▲1.59MBDの供給不足((▲1.78MBDの供給不足)。

2022年は供給が101.41MBD(101.31MBD)、需要が100.89MBD(100.96MBD)、需給バランスは+0.52MBDの供給過剰(+0.35MBDの供給過剰)。

価格を下押ししてきたコロナであるが、徐々に「ウィズコロナ」に舵が切られつつあり感染拡大が価格下落に影響するステージは早晩終了するとみられる。

しかし、それはこの冬到来が懸念される第6波までに解消する、とは考え難いため引き続き景気循環系商品価格の下落要因である。

【見通しの固有リスク】

・気温低下による暖房向け燃料需要が増加、ないしは不稼働の液体系燃料発電(ディーゼルや重油)を有する国や地域が再稼働を決定した場合(価格の上昇要因)。

・電力・ガスをはじめとするエネルギー供給制限が経済活動を強制的に停止させ、需要が減少する場合(価格の下落要因)。

・米国経済が正常化する中で金融緩和解除が加速、急速なドル高を通じて投機的な売り圧力が高まる場合(価格の下落要因)。

・OPECプラスの増産ペースの遅れないしは上流部門投資不足による供給不足。またはイランを巡り武力衝突や制裁解除が遅れた場合(価格上昇要因)。

価格が上昇する中でOPEC諸国の減産維持統制が効かなくなり、増産競争に舵が切られる場合(下落要因)。

・脱炭素の進捗、生活様式の変化による構造的な需要減少が加速した場合(価格下落要因)。

・脱炭素の過剰な進捗による供給懸念(価格上昇要因)。

1.中東産油国の財政悪化によって情勢不安が顕在化、供給途絶リスクが高まる場合

2.中東以外の産油国の生産者の破綻

3.上流投資部門投資が減速し、インドなどの新興国需要顕在化時に供給が間に合わない場合

4.価格面、数量面で予算を確保できない産油国が、OSPを大幅に引き上げる場合(第3次オイルショック)

なお、脱炭素が完了しても100%原油が不要になることはなく、OPECの価格支配力が増すため、この場合でも価格は上昇へ。

【石炭価格見通し】

海上輸送石炭価格は高値を維持すると考える。中国政府主導の増産・価格引き下げ策の影響で水準は低下したものの、中国・インドなどの石炭火力中心の地域の石炭在庫水準はまだ低く、冬場の電力需要向けの調達は旺盛で、供給不足に伴い稼働を停止する工場が増加していることから。

中国政府主導による石炭増産は、これから冬が本格化するなかで、主要生産地が中国北部であることを考えると思った通りの増産ができるとは考え難い。

ただ、10月の生産は3億5,709万トンと過去最高水準となった。しかし問題は寒さが厳しくなる11月以降も増産が可能かどうかである。

10月の注意国の石炭輸入は前年比+96.2%の2,694万トン(前月+76.1%の3,288万トン)と過去5年レンジを上回っているが国内生産の増加で減速した。国内生産の増加や工場の稼働減速で、国内需給が緩和している可能性がある。

【見通しの固有リスク】

・今冬はラニーニャ発生の見込みで厳冬のリスクも意識されているが、懸念に反して暖冬となる場合(価格下落要因)。

・電力・ガスをはじめとするエネルギー供給制限が経済活動を強制的に停止させ、需要が減少する場合(価格の下落要因)。

・Nord Stream2の稼働が早期に行われ、天然ガス価格が急落する場合(下落要因)。

・世界的な環境重視型世界へのシフトを受けた、石炭上流部門への投資規制強化による、供給減速懸念(価格の上昇要因。これは既に顕在化)。

・中国と豪州の対立、中国国内の生産能力増強に伴う、海上輸送炭需要の減少。

【天然ガス・LNG】

天然ガス価格は中国の経済活動が活発である一方、自然エネルギー供給(英国・スペインの風力、ブラジル・中国の水力など)が減少、火力発電向けの燃料需要が旺盛なこと、石炭価格も高値を維持していることから、価格は高値を維持すると考える。

ロシア・プーチン大統領が欧州向けのガス供給増加の早期実施を指示したことで欧州のガス需給は緩和が予想され、LNGのスポットカーゴ需給も緩和が予想される。

恐らく、ノルドストリーム2の稼働開始に関し、欧州側から水面下で前向きな対応が見られたことからそれの見返り、と考えられる。

しかし、現在在庫が十分ではなく、在庫積み増しを継続しなければならない状況に変わりはないため、やはりこの冬(ないしは冬場の調達に目処が立つ2~3月頃まで)の間は高値が続くと予想される。

引き続き、ラニーニャ現象発生が懸念される中で冬場に突入し、厳冬の中、計画停電が行われる可能性がある。この場合、人命のリスクが無視できない。

10月の中国の天然ガス輸入は前年比+8.3%の938万トン(前月+22.6%の1,062万トン)と過去5年レンジを上回っているが、輸入の増加ペースは減速している。工場の稼働減速で国内供給が間に合い始めている可能性はある。

9月の中国のLNG輸入は前年比+17.8%の675万トン(前月+11.7%の665万トン)と過去5年レンジを大きく上回り、構造的な需要増加は続いている。

長期契約のLNGに関しては、原油リンクとなるため上昇見通しだが、価格反映までに3ヵ月程度の時間差があるため(消費者への影響はさらに3ヵ月後)、現時点ではまだ上昇していないと考えられる。次の懸念は夏のピーク時の電力・ガス価格への影響だろう。

【見通しの固有リスク】

・今冬はラニーニャ発生の見込みで厳冬のリスクも意識されているが、懸念に反して暖冬となる場合(価格下落要因)。

・電力・ガスをはじめとするエネルギー供給制限が経済活動を強制的に停止させ、需要が減少する場合(価格の下落要因)。

・Nord Stream2が稼働して欧州のガス需給が緩和した場合(価格下落要因)。

・石炭と同様、「化石燃料であること」を理由に上流部門投資が制限される、あるいは原油生産減少による随伴ガス供給が減少する場合(構造的な価格上昇要因)。

・産油国の減産継続による随伴ガス供給の減少懸念(価格上昇要因)。

【投機筋のポジション動向】

・直近の投機筋のポジションは以下の通り。

WTIはロングが552,579枚(前週比 +3,948枚)ショートが131,267枚(+1,929枚)ネットロングは421,312枚(+2,019枚)

Brentはロングが325,795枚(前週比▲3,091枚)ショートが85,762枚(+6,712枚)ネットロングは240,033枚(▲9,803枚)

---≪LME非鉄金属≫---

【非鉄金属価格見通し】

非鉄金属価格には調整圧力が強まる展開が予想される。中国政府の強制増産によって石炭価格の調整が進み、電力供給状況も改善するとの期待が強まる中、精錬品の供給不安が和らぐこと、中国経済が不動産市場の調整で減速しており製造業PMIを見るに世界景気も一旦ピークアウトしていると考えられることが背景。

しかし、電力供給が100%再開したわけではなく、冬場の気温次第では再び生産が停止となる可能性もあるためリスクは上向き。

なお、長期的にはインドの人口ボーナス期入り、まだ脱炭素の流れが続いていること、省エネの流れに変わりがないため、供給面・需要面の制限から価格が上昇するという見通しを変更する必要はないと考えている。

また、米政権による大規模なインフラ投資が行われる見通しであることも、鉱物資源需要の増加を通じて非鉄金属価格を押し上げよう。

しかし、バイデン政権支持率低下で、増税を伴う経済対策は受け入れられない可能性は高く、当初予定通りの規模で実行されるかは微妙に。1兆ドルインフラ投資は成立したが、1.75兆ドルの歳入・歳出法案の行方は不透明であり、実行されない可能性も考える必要があるだろう。

【2021年LME金属需給見通し】

銅 生産 24,842千トン(24,947千トン) 需要 25,514千トン(26,790千トン) 需給 ▲672千トン(▲842千トン)

亜鉛 生産 14,103千トン(14,045千トン) 需要 14,172千トン(14,069千トン) 需給 ▲106千トン(▲24千トン)

鉛 生産 12,437千トン(12,381千トン) 需要 12,242千トン(12,168千トン) 需給 +194千トン(+213千トン)

アルミ 生産 67,005千トン(67,716千トン) 需要 67,503千トン(66,444千トン) 需給 ▲498千トン(+1,272千トン)

ニッケル 生産 2,620千トン(2,578千トン) 需要 2,735千トン(2,613千トン) 需給 ▲115千トン(▲34千トン)

錫 生産 413千トン(429千トン) 需要 425千トン(431千トン) 需給 ▲13千トン(+28千トン)

※カッコ内は修正前予想。

【中国重要統計の評価】

10月の中国製造業PMIは49.2(前月49.6)と市場予想の49.7を下回り、閾値である50を下回り、製造業の減速感が鮮明となった。電力供給に伴う生産の減少(49.5→48.4)に加え、新規受注が48.8(前月49.3)と急減速した。価格上昇も消費を冷やしたとみられる。

工業金属に対する説明力が高い新規受注在庫レシオは、供給不足に伴う在庫減少の影響が大きく、新規受注の減少はあったものの水準を切り上げ、足下の原材料・製品需給がタイト化していることを示唆する内容であり、循環的な景気調整に伴う価格下落時の下落余地を限定へ。

価格上昇の背景には投機の買いポジションが高水準にあることも影響。そもそもタイトな需給ファンダメンタルズを背景に投機買いが価格を押し上げている可能性は否定できない。

これまで工業金属価格の上昇を牽引してきたのは中国の住宅セクターであるが、中国の建設業PMIは56.9(前月57.5)と2ヵ月連続で減速した。

エネルギー供給不足による経済活動の停滞や、中国政府による不動産セクター加熱沈静化の動きが継続している影響とみられる。

中国恒大集団の債務問題はその氷山の一角で、問題の顕在化はこれからではないだろうか。

10月の中国の貿易統計を見ると、ベンチマークである精錬銅の輸入は前年比▲33.5%の41万1,000トン(前月▲43.8%の40万6,000トン)と過去5年平均を下回り続けているが、前月からは季節的な需要が増加している。

一方、銅精鉱の輸入は前年比+6.3%の179万7,000トン(前月▲1.3%の211万1,000トン)と高い水準を維持している。銅価格の上昇もあって精鉱輸入が増加しているようだ。

エネルギー不足の影響で輸入の伸びが減速していたが、中国政府の対策推進によりやや国内生産が回復した可能性はある。ただ、銅製錬事業者の10月の稼働率は86.1%と前月、過去5年の最低水準より低く、まだ回復は確認されていない。

9月の銅スクラップの輸入は+68.3%の13万4,454トン(前月+60.2%の12万9,802トン)。

統計からはまだ中国の工場の生産・稼働の混乱は続いており、正常化はまだ先になると予想される。

工業金属のフロー需要に影響する工業生産は、1-10月累計で前年比+10.9%(1-9月期+11.8%)と伸びが鈍化した。ただし単月ベースでは+3.5%(+3.1%)とやや伸びが回復している。

電力不足や不動産セクターの減速が影響しているとみられる。

実際、1-10月期の中国不動産開発投資は前年比+7.2%の12兆4,934億元(1-9月期+8.8%の11兆2,568億元)と減速が続いている。

この結果、ストック需要の指標である固定資産投資も年初来累計で+6.1%(+7.3%)と減速が明確に。公的セクターの伸び鈍化は所与としても、よりボリュームの大きな民間部門が前年比+8.5%(+9.8%)と伸びが減速していることは、中国政府によるバブル抑制行動が影響しているとみられる。

ただし、いずれも伸びの減速でありマイナスにはなっていないことから、中国の成長は継続しており需要面は価格を押し上げる可能性がある。価格上昇はこれを満たすだけの十分な供給ができていないことによる。

しかし、需要の伸びが想定を上回っている以上、電力供給などの問題が解決すれば供給が増加し価格の下押し要因となる。

【政策動向・脱炭素】

政策動向・脱炭素の流れは中長期的な材料。米バイデン政権は8年間で1兆2,000億ドルのインフラ投資計画実施計画。

道路・橋梁・主要プロジェクトに1,090億ドル、電力インフラに730億ドル、旅客・貨物鉄道に660億ドル、ブロードバンド・インターネットサービスに650億ドル、公共交通機関に490億ドル、空港に250億ドルを投じる。

さらには2022年度予算も戦後最大となる歳出を6兆ドルと、以上と戦後最大の水準とする方針。

これらの需要は景気に関係なく発生する需要であるため、需要の見通しは底堅く、価格の調整があっても下値余地は限定される可能性が高い。

これまで中国が鉱物セクターの需要動向に関して主役であり、今後も非鉄金属価格の動向は中国動向が左右するが、「新規の需要」については欧米動向が重要になる可能性は意識しておきたいところ。

この場合、米国の景気回復=ドル高・金属価格上昇、という構図も考えられる。

米国・中国・インドがどのような動きをするかに環境政策は左右されるが、ここまでの各国の動きを見ていると当面は環境向けに使用される金属の需要増加は「今後10年・20年の大きなテーマ」となる可能性が高い。

軽量化目的のアルミ、EV向けのニッケル、銅(通常25キロ/台の銅が使われるが、EVは80キロ/台)、蓄電池としての鉛、コバルト、リチウムなど。

2020年の中国の新エネルギー車の販売は前年比+7.5%の137万台(前年124万台)となった。全体の自動車販売が2,523万台なのでシェアは5.4%(4.9%)と上昇している。それでも電気自動車が非鉄金属市場の重要なテーマになるには、あと数年は要する見込み。

【見通しの固有リスク/個別金属の特殊要因】

・中国不動産大手恒大集団の破綻懸念が中国の住宅セクターに広がり、中国の不動産バブルがはじける場合(価格下落要因)。

・ロジスティクスに障害が残る中、非鉄金属の偏在が現物プレミアムを押し上げるリスク(北米で顕在化)。

・猛暑や渇水による燃料価格上昇で、1.電力供給不足による稼働停止・供給減少、2.発燃料価格の上昇を通じて生産コストが上昇する、場合(価格上昇リスク)。

・米国経済が正常化する中でドル高が進行し、投機買いが膨らんでいる非鉄金属市場で投機の手仕舞い売り圧力が高まる場合(下落リスク)。

・米中間選挙に向けて、米民主党が追加でインフラ投資(2兆ドルのクリーンインフラ投資など)を議会の採決を得て実行に移す場合(上昇リスク)。

・上流部門投資不足並びに鉱石の品位低下による、鉱山供給の制限。

・チリやペルーで広がる左派勢力伸長に伴う大衆迎合的な政策が可決し、鉱山生産に過剰なロイヤルティが適用される場合(供給減少ないしは生産コスト上昇で価格の上昇要因)。

チリで議論されている銅のロイヤルティ増税案の詳細は以下の通り。

年内実施予定の選挙結果では課税強化で生産コスト上昇、または減産となる可能性も。

3%の新ロイヤルティに加え、銅価格に連動して税額が賦課される仕組み。

2ドル~2.5ドル/ポンド(4,406~5,508ドル/トン):15%2.5ドル~3(5,508~6,609):35%3ドル~3.5(6,609~7,711):50%3.5ドル~4(7,710~8,813):60%4ドル~4.5(8,813~9,914):70%

年間販売量が5万トン未満の小規模生産者は品位95%の粗銅の場合▲5%の軽減税率、アノードの場合(99.4~99.6%)が適用される。

2023年までは現行の営業利益率によって5~14%の鉱業ロイヤルティが適用されるが、2024年以降は新税制を適用。

・メキシコは鉱業改革法の中で、エネルギー転換に必要なリチウムとその他の戦略的鉱物の採掘権をこれ以上容認しないとしており、これに銅やネオジム、プラセオジムなどのレア・アースも含まれる可能性。

・インドネシアが再び低品位ニッケル鉱石の輸出を制限する場合(ニッケル価格の上昇要因)。

・LMEベースメタルではないが、中国ではレア・アースの生産を国有企業に集約して管理する動きが強まっており、今後の自動車セクターの中核となる電気自動車生産のサプライチェーンに大きな影響を与える可能性。

レア・アース大手五鉱稀土は、親会社の中国五鉱集団がアルミ大手のチャイナルコやレア・アースの大産地である江西省政府との間でレア・アース関連資産の戦略的な再編交渉を進めていると発表。

中国政府が2020年および2021年に許可したレア・アースの採掘割当量を見ると、CMRE、チャイナルコ、江西省地方政府傘下企業の3社だけで、中国全土で採掘を許可された(ジスプロシウムなど)重希土類の割当量の67.9%、(ネオジムやセリウムなど)軽希土類の割当量の39.1%を占める。

・環境問題や人権問題(コンフリクト・メタルの問題)を背景とする鉱山供給の減少。

また、環境に配慮したメタル使用の義務化などが欧州で進む場合などのコストアップ(グリーン・メタルの義務化によるコスト増加)。

中国の環境規制強化に伴う供給の減少。エネルギー排出量の多い新疆ウイグル自治区でのアルミ生産は減産の影響は既に材料視されている。

【投機筋のポジション動向】

・LME投機筋買い越し金額 前週比▲8.0%の282億ドル(前週 307億ドル)・LME投機筋買い越し数量 前週比▲4.2%の5,837.4千トン(前週 6,090.3千トン)

---≪鉄鋼原料≫---

【鉄鋼原料価格見通し】

鉄鉱石価格は中国政府の発電燃料供給不足と環境改善目的の鉄鋼製品生産減少、中国不動産セクターの調整は継続する可能性が高いことから鉄鋼向け需要が減少する見通しであることから、水準を切下げる展開を予想。

ただ、現在の鉄鋼製品価格は「対鉄鉱石で割高、対原料炭対比で割安」であり、この状況が安定化した場合、「鉄鋼製品価格下落、鉄鉱石価格上昇、原料炭価格下落」となるシナリオの蓋然性が高い。

しかし、既に鉄鉱石在庫は絶対水準・在庫日数水準でも過去5年の最高水準を上回っており、現状、製鉄所の稼働停止が続くのであれば「もう要らない状態」である。

となると、当面は鉄鉱石価格は低迷を余儀なくされ、製鉄所の稼働がエネルギー問題などが解消して再稼働するまでは低迷し、その後、割安になりすぎた水準が訂正される中で上昇に転じる、と考えるのが妥当ではないか。

また、来年は米欧中のインフラ投資による建材向け需要増加が期待されることも、鉄鉱石価格のさらなる下落を抑制すると考える。

なお、鉄鉱石先物の期先の価格が限界生産コストの目安として意識されるが、100ドル程度だった期先の水準は70ドル台まで低下しており、中期的な価格の目線はかなり低下した状態にある。

【中国の政策動向】

中国共産党は2021年から始まった5ヵ年計画で鉄鋼生産量の削減の必要性を表明している。今のところ昨年の生産量を超えないようにする、というのが中国政府の目標。

最大生産都市である唐山市は、2021年20日~12月31日まで、大気汚染基準に違反し、データを改ざんした4社は7月~12月末まで▲30%減産、その他の16社は12月末まで▲30%の減産を新たに実施することを義務づけられている。

これにより、唐山市の粗鋼生産は前年比▲2,223万トンの1億2,177万トン、鉄鉱石需要は▲3,500万トン減少するとみられている。

別の話だが、半年後、北京オリンピック中に粗鋼生産が停止させられる可能性は高い。

粗鋼生産が減少すれば、鉄鉱石の在庫水準の指標である在庫日数も、分母が小さくなるため上昇が予想され、鉄鉱石価格の下落要因となる。これは原料炭も同様。

【中国重要統計の評価】

10月の中国鉄鋼業PMIは総合指数は38.30(前月45.0)と大幅に悪化した。これはエネルギー供給不足による中国政府による不動産市場の規制強化や、エネルギー供給不足の影響が消費にも及び新規受注が減速(39.0→28.2)、輸出向け新規受注(39.5→38.7)と減速した影響によるもの。

価格に対する説明力が高い新規受注・完成品レシオは0.92(前月1.12)と急減速して需給は緩和、新規受注原材料レシオも0.76(1.00)の大幅な減速となった。当面、鉄鋼製品・鉄鋼原料価格には需給ファンダメンタルズ面で下押し圧力が掛りやすい展開が続くと予想される。

ただし、電力供給が回復すれば鉄鋼業の稼働も回復、稼働停止中に失われたペントアップ需要が需要と価格を押し上げると考えられ、米経済対策が実施されることも考えると、下落余地も限定か。

これまで工業金属価格の上昇を牽引してきたのは中国の住宅セクターであるが、中国の建設業PMIは56.9(前月57.5)と2ヵ月連続で減速した。

エネルギー供給不足による経済活動の停滞や、中国政府による不動産セクター加熱沈静化の動きが継続している影響とみられる。

中国恒大集団の債務問題はその氷山の一角で、問題の顕在化はこれからではないだろうか。

工業金属のフロー需要に影響する工業生産は、1-10月累計で前年比+10.9%(1-9月期+11.8%)と伸びが鈍化した。ただし単月ベースでは+3.5%(+3.1%)とやや伸びが回復している。

電力不足や不動産セクターの減速が影響しているとみられる。

実際、1-10月期の中国不動産開発投資は前年比+7.2%の12兆4,934億元(1-9月期+8.8%の11兆2,568億元)と減速が続いている。

この結果、ストック需要の指標である固定資産投資も年初来累計で+6.1%(+7.3%)と減速が明確に。公的セクターの伸び鈍化は所与としても、よりボリュームの大きな民間部門が前年比+8.5%(+9.8%)と伸びが減速していることは、中国政府によるバブル抑制行動が影響しているとみられる。

ただし、いずれも伸びの減速でありマイナスにはなっていないことから、中国の成長は継続しており需要面は価格を押し上げる可能性がある。価格上昇はこれを満たすだけの十分な供給ができていないことによる。

しかし、需要の伸びが想定を上回っている以上、電力供給などの問題が解決すれば供給が増加し価格の下押し要因となる。

【中国鉄鋼製品輸出入・在庫動向】

10月の中国の鉄鋼製品の輸入は前年比▲41.6%の112万7,000トン(前月▲56.5%の125万6,000トン)と低迷し、過去5年平均を下回った状態が続いている。

10月の中国粗鋼生産は前年比▲24.5%の7,158万トン(前月▲21.2%の7,375万トン、8月▲13.2%の8,324万トン、7月▲8.4%の8,679万トン、6月+1.5%の9,388万トン、5月+6.6%の9,945万トン)と減速が鮮明になっている。

一方、10月の鉄鋼製品の輸出は前年比+11.3%の449万7,000トン(前月+28.5%の492万トン)と前月から前年比の伸びを縮小させ過去5年平均を下回る水準。やはり国内供給を優先させていることが窺える。

なお、中国の鉄鋼製品需要は旺盛とみられるが、在庫水準は前週比▲41万3,000トンの1,257万6,000トン(過去5年平均 985万トン)と例年を上回り水準は高いが減少傾向が顕著になっている。

なお、週間ベースの在庫減少は例年(過去5年平均)を下回りつつある。電力供給や石炭供給が回復を始めた可能性がある。

【中国鉄鉱石輸出入・在庫動向】

10月の鉄鉱石の輸入は前年比▲14.2%の9,160万トン(前月11.9▲11.9%の9,560万トン)と減速した。中国政府の製鋼所稼働制限の動きと在庫の積み上がりで輸入が減速している。

鉄鉱石港湾在庫は前週比+250万トンの1億4,760万トン(過去5年平均1億2,986万6,000トン)、在庫日数は35.7日(過去5年平均 29.1日)と数量ベース・日数ベースでも過去5年平均を上回り需給が緩和していることは明確で、価格の下押し要因となる。

【中国原料炭輸出入・在庫動向】

原料炭は中国の生産活動回復が継続しているが、前年比の伸び鈍化が明確になってきたため(中国政府の方針通り)、価格は下落余地を探る動きになると考える。

また、中国政府は原料炭を含む石炭の国内生産を増加させる方針であることも、海上輸送原料炭価格を下押ししよう。

とは言え、環境規制強化の流れで世界的に原料炭供給を増加させられる地域が限定されることから、下落余地も同様に限定される都見るのが妥当だ。

9月の中国の原料炭輸入は前年比▲35.3%の434万6,477トン(前月▲35.8%の434万6,477トン)と再び減少しており、過去5年レンジを下回った状態が続いている。豪州からの輸入停止と、モンゴルからの輸入停滞(コロナの影響)、国内の鉄鋼生産削減政策が影響しているとみられる。

中国の港湾在庫の水準は鉄鋼の最大生産省である河北省の主要港である、京唐港の港湾在庫は前週比+37万トンの190万トンと過去5年の最高水準である216万トンに迫っている。

在庫日数は8.6日と、過去5年の最高水準である8.8日に迫っており、急速に需給が緩和している。中国政府の生産調整や石炭生産の増加によるので、鉄鋼製品価格との比較感ではさらに下がることになろう。

【見通しの固有リスク】

・中国の不動産セクター減速が、建材需要を減少させる可能性(鉄鋼製品価格の下落を通じて鉄鋼原料価格の下落要因)。

・世界的に広がる環境規制強化の流れで、鉄鉱石や原料炭などの生産に一定の影響が起きる場合(価格上昇要因)。

・コロナウイルスの感染拡大長期化による、鉱山生産の減少リスク(価格上昇要因)。

---≪貴金属≫---

【貴金属価格見通し】

【金】

金は短期的に上昇圧力が強まる展開が予想される。米テーパリング開始、利上げ、といった長期金利上昇に伴う実質金利上昇が価格を下押しする、というのが中期的な見通しであるものの、足下の物流の目詰まりやエネルギー価格高騰によるインフレに歯止めが掛っておらず、実質金利に下押し圧力が掛っているため。

ただ、米FRBはテーパリング開始を宣言、来年6月には終了するが、「そのまま利上げが行われる(シームレス利上げ」)の可能性や、テーパリングのペースが加速するケースもインフレが恒常化するリスクが高い状況を考えると排除できず、価格に下押し圧力が掛りやすい展開は継続すると考える。

5年期待インフレ率、5年後5年期待インフレ率共に上昇しており、市場は想定以上にインフレ恒常化を懸念していると考えられる。

また、もう少し長い視点でこの15年を見たときに、10年期待インフレ率が名目金利を上回るのはQE1が行われていた2010年以降2回目であり、さらに2000年以降でも期待インフレ率が名目金利を上回っていたことはない。

この状況を勘案すると、11月のFOMCでは「今は利上げはない」との議長説明だったが、今後利上げが行われる可能性は低くないと考える。このことは貴金属価格の下押し要因となろう。

一方で供給不安を背景に上昇している原油価格も冬場が終れば下落に転じる可能性が高いことから、どちらかと言えば実質金利は上昇する可能性が高い。

なお、過去5年平均を基準にすると名目金利1bpに対する金価格の感応度は±3.0ドル弱であり、米10年金利が現在の水準から30bp上昇すれば▲90ドルの下落圧力となる(60bpで▲180ドル)。

現在の金の実質金利で説明可能な価格(金基準価格)は1,702ドル、そこからの乖離(リスク・プレミアム)は161ドル。

リスク・プレミアムは、過去3ヵ月平均で125ドル、6ヵ月で165ドル、1年で175ドル、5年で180ドルとなっている。

なお、金価格を実質金利要因と為替要因に分類した場合、為替要因はリスク・プレミアムのところに内包されると整理している(為替は名目金利の影響も受けるので、純粋に為替の要因のみ切り出すのが困難であることから)。

【銀】

銀価格は金価格との比較感で売買されるが、金銀レシオは現在、73.7倍。過去1年を基準にすると72倍、5年では80倍、2000年以降では66倍程度が妥当。

今後、さらに金銀レシオが低下するには、工業需要の増加が必須。今後、IT化の進捗でエレクトロニクス向けの需要が増加することが必要。

太陽光パネルの増設は米中対立の激化で進まないと見られたが、支持率低下にあえぐ米バイデン政権が「協調できるところでは協調する」という方針にトーンダウンしたため、今後、太陽光向けの需要は増加するのではないか。

なお、銀価格=金価格÷金銀レシオ であり、金銀レシオが低下することで金価格が変動した時の弾性値が上昇(ボラティリティは上昇し、足元金の2倍に上昇)する点は留意。

(例)金が2,000ドル、銀が20ドルのとき 金銀レシオが100倍→金価格±1ドルの変化で銀価格は±1セント変化 金の変化率は±0.05%、銀は±0.05%

 金銀レシオが1倍→金価格±1ドルの変化で銀価格は±1ドル変化 金の上昇率は±0.05%、銀は±5%

【PGM】

プラチナ価格は自動車の半導体供給不足の影響で急落していたが、半導体供給が回復しつつあるため、来春以降は需要増加で価格は上昇圧力を強める展開が予想される。

ただしそれでも需給バランスは投機を除けば供給過剰であり、投機筋の「思惑」が価格を左右しやすい。足下、パラジウムからプラチナへの「触媒再シフト」が見られているため、底堅い推移となろう。

パラジウムは半導体供給低迷が自動車生産に影響を与える状況が来春ぐらいまでは続く可能性があるため、当面低水準での推移。しかし自動車販売が回復すれば再び高値圏へ。

10月の米自動車販売は年率1,299万台(市場予想1,218万台、前月1,250万台)と回復。目先はパラジウム価格の上昇要因となりやすい。

中国の自動車販売は中国自動車工業協会の集計で以下の通りであり、明らかに伸びが減速している。半導体供給不足に加え国内景気の伸び減速が影響。

10月 前年比 ▲9.0%の233万3,000台9月 ▲19.5%の206万6,000台8月 ▲17.4%の179万8,841台7月 ▲11.8%の186万3,550台。6月 ▲12.4%の201万5,309台5月 ▲3.0%の212万7,000台4月 +8.8%の225万台3月 +76.5%の252万5,000台2月 +371%の146万台1月 +30%の250万台

調査会社のオートフォーキャスト・ソリューションズによれば半導体不足による供給減少による減産が9月26日時点で▲893万4,000台に上るとし、2021年の減産規模は▲1,030万台に達するとみている。これは昨年の販売台数(7,700万台)の13.4%に相当する。

この回復がある、ないしは供給側の混乱(南アフリカ)による生産減少がなければ、PGM価格は低水準で推移しよう。

【見通しの固有リスク】

・主要生産国の南アフリカの電力供給不安や、コロナウイルスの影響拡大で供給が滞る場合(PGMの価格上昇要因)。

・米国をはじめとする先進諸国が金融引き締め方向に舵を切っており、アフリカや中南米、東南アジア、東欧など新興国から資金が流出して信用リスクが高まる場合(安全資産価格の上昇要因)。

・中国地方政府・中堅中小企業の財政状況悪化に伴う景気減速による安全資産需要の増加(実際に破綻が意識されるのは2030年以降か)。

・世界的な自動車販売の減速(米欧中)による、自動車向け排ガス触媒需要の減少(PGM)。

環境重視型社会へのシフトが加速、「水素社会」まで到達すると、燃料電池車需要が増加して構造的にプラチナ価格の上昇要因となる可能性。

【投機筋のポジション動向】

・直近の投機筋のポジションは、金はロングが341,111枚(前週比 +30,020枚)、ショートが90,930枚(▲5,032枚)、ネットロングは250,181枚(+35,052枚)、銀が65,013枚(+511枚)、ショートが28,098枚(▲3,289枚)、ネットロングは36,915枚(+3,800枚)

・直近の投機筋のポジションは以下の通り。

プラチナはロングが30,260枚(前週比 +1,390枚)ショートが12,630枚(▲876枚)、ネットロングは17,630枚(+2,266枚)

パラジウムが2,701枚(+219枚)、ショートが5,655枚(▲218枚)ネットロングは▲2,954枚(+437枚)

---≪農産品≫---

【穀物価格見通し】

シカゴ穀物価格は堅調な推移になると考える。冬場のラニーニャ現象の発生(北半球の天候相場は終了も、南半球の天候相場入り)が懸念されていることや、エネルギー価格の急騰により代替エネルギー需要が高まることが材料。

足下、特に黒海周辺の生産減少、政治的な対立による供給懸念が意識されている。

10月の中国の大豆輸入は前年比▲41.2%の611万トン(前月▲29.7%の688万トン)と大幅に減少し、過去5年レンジを下回った。

中国の大豆港湾在庫は過去5年レンジの最高水準は下回っているが、高い水準を維持している。)

Locust Watchではソマリア・イエメンでのサバクトビバッタの新世代の繁殖が始まっており、今後、大きな被害をもたらす可能性が出てきた。今後の動向次第だが、現在では大規模な群れの発生は確認されていないようだ(小規模な群生はケニア北東部とエリトリアに到着)。
https://www.fao.org/ag/locusts/common/ecg/75/en/211103update.jpg

【見通しの固有リスク】

・ラニーニャ現象発生による投機筋の買い圧力の強まり(価格の上昇要因)。

・環境重視型社会へのシフトにより、燃料向け穀物需要が増加する場合(価格の上昇要因)。現在はそれほどの数量でもない、バイオディーゼル向けの大豆需要増加など。

・新型コロナウイルスの影響拡大による、輸出活動の停滞(シカゴ定期を含む生産地価格の下落要因)。

【米農務省需給報告データ】

・米作付け意向面積トウモロコシ 9,114万エーカー(市場予想9,313万エーカー、前年9,699万エーカー)大豆 8,760万エーカー(9,010万エーカー、8,351万エーカー)小麦 4,636万エーカー(4,495万エーカー、4,466万エーカー)綿花 1,204万エーカー(1,215万エーカー、1,370万エーカー)

・米穀物最終作付け面積 実績(前年)トウモロコシ 9,269万エーカー(9,082万エーカー)大豆 8,756万エーカー(8,383万エーカー)小麦 4,674万エーカー(4,425万エーカー)

・11月米需給報告単収見通し(実績/市場予想/前月)トウモロコシ 177.0Bu/エーカー(176.9、176.5)大豆 51.2Bu/エーカー(51.9、51.5)小麦 44.3Bu/エーカー(NA、44.3)

・11月米需給報告生産見通し(実績/市場予想/前月)トウモロコシ 150億6,200万Bu(150億4,996万Bu、150億1,900万Bu)大豆 44億2,500万Bu(44億8,257万Bu、44億4,800万Bu)小麦 16億4,600万Bu(NA、16億4,600万Bu)

・11月米需給報告輸出見通し(実績/前月)トウモロコシ 25億Bu(25億Bu)大豆 20億5,000万Bu(20億9,000万Bu)小麦 8億6,000Bu(8億7,500万Bu)

・11月米需給報告在庫見通し(実績/市場予想/前月)トウモロコシ 14億9,300万Bu(14億8,361万Bu、15億Bu)大豆 3億4,000万Bu(3億6,611万Bu、3億2,000万Bu)小麦 5億8,300万Bu(5億8,188万Bu、5億1,500万Bu)

・9月末四半期在庫 実績(前期末)トウモロコシ 12億3,600万Bu(41億1,100万Bu)大豆 2億5,600万Bu(7億6,900万Bu)小麦 17億8,000万Bu(8億4,500万Bu)

・11月CONABブラジル作付け面積(市場予想/前月)トウモロコシ 2,089万ha(2,086万ha、2,087万ha)大豆 4,027万ha(4,042万ha、3,992万ha)

・11月CONABブラジル生産量(市場予想/前月)トウモロコシ 1億1,671万トン(1億1,929万トン、1億1,631万トン) 単収 5,587kg/ha(5,717kg/ha、5,575kg/ha)大豆 1億4,201万トン(1億4,415万トン、1億4,075万トン) 単収 3,526kg/ha(3,569kg/ha、3,526kg/ha)

【投機筋のポジション動向】

・直近の投機筋のポジションは以下の通り。

トウモロコシはロングが476,313枚(前週比 ▲6,421枚)、ショートが101,015枚(+1,390枚)ネットロングは375,298枚(▲7,811枚)

大豆はロングが123,904枚(▲12,034枚)、ショートが96,320枚(+19,138枚)ネットロングは27,584枚(▲31,172枚)

小麦はロングが117,465枚(+7,697枚)、ショートが98,262枚(+6,390枚)ネットロングは19,203枚(+1,307枚)

◆本日のMRA's Eye


「プラチナ価格は春頃から再び上昇か」

プラチナ価格はコロナウイルスの感染拡大による市場の混乱で一時564ドルまで水準を切り下げた。

しかしその後、脱炭素の流れを受けた「燃料電池車向けの需要増加期待」が強まり、給付金を原資とする個人投資家の増加もあって急速に上昇し1,339.73ドルまで上昇、再び下落その後上昇。足下は1,000ドル前後での推移となっており、その他の商品とも同じであるが価格の変動性は極めて高い状態が続いている。

プラチナ価格は自動車向けの触媒需要が主な工業需要となるが、構造的に供給過剰幅が拡大しやすくなっているため結果的に投機取引の動向に振られやすい。

言葉を換えると、市場参加者の思惑が価格に影響を与えやすい金属の1つといえる。

ワールド・プラチナ・インベストメント・カウンシル(WPIC)の9月レポートでは、2021年のプラチナ需給バランスは自動車向けの触媒需要の回復が遅れていることや、昨年12月に再稼働したアングロ・アメリカン・プラチナムACPフェイズAユニットが再開したことを背景に、投機需要も含めて+19万オンスの供給過剰を見込むとしており、しばらく投機需要動向が価格を左右しやすい状況が続くと予想される。

少し今年のプラチナ価格動向を振り返ると、春先からのプラチナ価格下落は、これまでプラチナ価格の上昇を牽引してきた燃料電池車向けの需要増加が「急に起きるわけではない」ということを市場参加者が認知したこともあるが、それ以上に半導体供給制限が解消せず、自動車販売が想定を下回る状態が続いたことが影響している。

自動車販売は直近1-9月までのデータを元にすると、昨年比で+12.1%の大幅な増加となっているが、コロナの影響がなかった2019年と比較すると▲9.4%と回復している訳ではない。半導体供給の制限がプラチナ需要を減じるとの見方が強まったためである。

その後、7月のFOMCで年内テーパリング実施の可能性が示唆され、8月末のジャクソンホールシンポジウムで年内テーパリングが強く示唆される中で水準を大きく切り下げる流れとなった。

しかし、ほとんどテーパリングの実施が確定的である、といった方向性を示した9月のFOMC以降はむしろ価格水準を切り上げる展開となっている。

前回、プラチナ価格が反転上昇したのは、米利上げ開始後の2016年に入ってからであるが、今回の価格上昇は前回と同様、景気過熱を背景とする利上げ観測が9月FOMCで強まったことが背景と考えるのが妥当だろう。

前回テーパリング時も利上げ観測が強まる中で2年金利が上昇し、ツイストする形で10年金利が低下したためこれに似た動きが起きていると考えられる。

この結果、貴金属価格に対する価格説明力が高い実質金利の構成要素である期待インフレ率は、2010年以来初めて、2000年以降でも2回しかない、「期待インフレ>名目金利」の状態になっている。

この状況を受けてFRBは11月のFOMCでそこまで積極的ではないものの、利上げ実施の可能性を否定はしなかった。場合によるよると来年6月のテーパリング完了から速やかに利上げが行われる可能性が否定できなくなっている。

FF金利先物ベースでは来年9月頃の利上げを既に織り込み始めており、この状況だと利上げの可能性が意識されるため、徐々に期待インフレ率が低下し、プラチナを含む貴金属セクター価格の下押し圧力が強まることが予想される。

ただ、2021年のプラチナ価格を押し下げてきた最大の要因は自動車向けの需要が減少したことによるものであり、世界の半導体供給が来年の春頃から回復することや、2021年初から中国で普通乗用車導入された「国6a」規制、今年半に大型車に対して導入された「国VI」排ガス規制、環境規制強化をさらに進める欧州では「Euro6d/temp」規制、米国では「Tier 3」の段階的導入がプラチナ需要を増加させると考えられるほか、長らく続くプラチナ・パラジウムの価格差がパラジウムからプラチナへの代替需要を増加させることも需要を増加させ、価格を押し上げると考える。

さらにこうした実需面の需給タイト化観測は「投機筋にとっては投資しやすいストーリー」であるともいえ、半導体供給回復までは低迷が続こうが、春先以降、価格は上昇に転じると考えられる。

◆主要ニュース


・Q321日本実質GDP速報
 前期比▲0.8%(前期確定+0.4%)
 前期比年率▲3.0%(+1.5%)
 GDPデフレータ 前年比▲1.1%(▲1.1%)
 民間消費支出 前期比▲1.1%(+0.9%)
 民間住宅 ▲2.6%(+2.0%)
 民間企業設備投資 ▲3.8%(+2.2%)
 公的固定資本形成(政府公共投資) ▲1.5%(▲2.1%)

・9月日本鉱工業生産改定  前月比▲5.4%(速報比変わらず、前月改定▲3.6%)
 前年比▲2.3%(±0.0%、+8.8%)
 出荷▲6.1%(+0.1%、▲4.4%)、▲4.5%(+0.1%、+7.2%)
 在庫+3.4%(▲0.3%、▲0.1%)、+0.5%(▲0.3%、▲3.7%)

・10月インド卸売物価指数 前年比+12.54%(前月+10.66%)

・1-10月期中国工業生産 前年比+10.9%(1-9月期+11.8%)
 10月 前年比+3.5%(前月+3.1%)

・1-10月期中国工業生産 前年比+10.9%(1-9月期+11.8%)
 10月 前年比+3.5%(前月+3.1%)

・1-10月期中国固定資産投資 前年比+6.1%(1-9月期+7.3%)
 公的+4.1%(+5.0%)、民間+8.5%(+9.8%)

・1-10月期中国小売売上高 前年比+14.9%の35兆8,511億元
(1-9月期+16.4%の31兆8,057億元)
 10月+4.9%の4兆454億元(前月+4.4%の3兆6,833億元)

・10月中国新築住宅価格
 前年比値上がり 56都市(前月59都市)
 横ばい 2都市(0都市)
 値下がり 12都市(11都市)
 前月比値上がり 13都市(27都市)
 横ばい 5都市(7都市)
 値下がり 52都市(36都市)

・10月中国新築住宅価格 前月比▲0.25%(前月▲0.08%)

・1-10月期中国不動産開発投資 前年比+7.2%の12兆4,934億元(1-9月期+8.8%の11兆2,568億元)

・10月中国調査失業率 4.9%(前月4.9%)

・9月ユーロ圏貿易収支(季節調整済) 61億ユーロの黒字(前月97億ユーロの黒字)
 調整前 73億ユーロの黒字(48億ユーロの黒字)

・10月インド貿易収支 ▲1,973億ドルの赤字(前月▲2,259億ドルの赤字)
 輸出 前年比 +43.1%(+22.6%)
 輸入 +62.5%(+84.8%)

・11月ニューヨーク連銀製造業景況感指数 30.9 (前月19.8)
 仕入価格 83.0(78.7)
 販売価格 50.8(43.5)
 入荷遅延 32.2(38.0)
 新規受注 28.8(24.3)
 受注残 12.7(18.5)
 在庫水準 9.3(12.0)
 雇用者数 26.0(17.1)
 6ヵ月先景況指数 36.9(52.0)

・北京証券取引所の取引開始。

・NATO、ロシアのウクライナ国境付近への軍展開に対して警告。

・ウクライナ ゼレンスキー大統領、10万のロシア軍が国境近辺に展開。

・仏露首脳会談、ベラルーシ西部のポーランドなどとの国境に多数の移民が押し寄せている問題で、緊張緩和が必要との考え方で一致。

・EUベラルーシに対する制裁を拡大。EUはベラルーシが意図的に移民を集め、EU側に越境させていると指摘。

◆エネルギー・メタル関連ニュース


【エネルギー】

・UAEマズルーイ エネルギー相、「40万バレルの増産で十分だろう。」

・米与党民主党シューマー院内総務、SPRを放出するようバイデン政権に呼びかけ。

・ロイヤル・ダッチ・シェル、社名からロイヤル・ダッチを外し、シェルに。

・JERA、米Freeportに25億ドルを出資。

・Gazprom、月曜日のウクライナ経由のパイプラインオークションに参加せず。

【メタル】

・Ivanhoe鉱山、コンゴ民主共和国のKamoa-Kakula銅鉱山の第一フェーズの生産目標を92,500-100,000トンに引き上げ。第二フェーズでは40万トンが生産される見込み。3,018ドルのキャッシュコストは稼働と共に低下の見込み。

・Peru Antamina銅・亜鉛鉱山稼働再開。

◆主要商品騰落率


【上昇率上位5商品】

商品名(カテゴリー)/前日比上昇率/年初来上昇率
1.ICE欧州天然ガス ( エネルギー )/ +5.53%/ +263.10%
2.NYM米天然ガス ( エネルギー )/ +4.72%/ +97.60%
3.欧州排出権 ( その他 )/ +4.20%/ +102.30%
4.CBT大豆ミール ( 穀物 )/ +2.65%/ ▲14.43%
5.SHF天然ゴム ( その他農産品 )/ +2.41%/ ▲1.58%

【下落率上位5商品】

商品名(カテゴリー)/前日比上昇率/年初来上昇率
66.SHF 銀 ( 貴金属 )/ ▲3.90%/ ▲12.11%
65.LMEアルミ 3M ( ベースメタル )/ ▲2.32%/ +33.02%
64.SHF錫 ( ベースメタル )/ ▲1.80%/ +95.05%
63.LME亜鉛 3M ( ベースメタル )/ ▲1.79%/ +16.72%
62.LME鉛 3M ( ベースメタル )/ ▲1.74%/ +16.55%

※弊社が重要と考える主要商品の前日比騰落率上位・下位5品目です。
※限月交代に伴う価格の不連続性は考慮されていません。予めご容赦ください。

◆主要指標


【為替・株・金利・ビットコイン】
NY ダウ :36,087.45(▲12.86)
S&P500 :4,682.80(▲0.05)
日経平均株価 :29,776.80(+166.83)
ドル円 :114.12(+0.23)
ユーロ円 :129.73(▲0.62)
米10年債 :1.61(+0.05)
中国10年債利回り :2.92(▲0.01)
日本10年債利回り :0.07(▲0.01)
独10年債利回り :▲0.23(+0.03)
ビットコイン :63,899.87(▲436.68)

【MRAコモディティ恐怖指数】
総合 :33.97(▲0.21)
エネルギー :78.12(▲0.19)
ベースメタル :23.73(▲0.44)
貴金属 :22.31(▲0.52)
穀物 :20.95(+0.51)
その他農畜産品 :25.19(▲0.33)

【主要商品ボラティリティ】
WTI :29.27(▲0.01)
Brent :23.45(▲0.06)
米天然ガス :79.70(▲1.43)
米ガソリン :29.18(+0.25)
ICEガスオイル :27.13(▲0.12)
LME銅 :22.23(+0.01)
LMEアルミニウム :37.05(▲0.19)
金 :18.49(+1.13)
プラチナ :26.29(▲1.01)
トウモロコシ :19.94(▲0.16)
大豆 :18.49(+1.13)

【エネルギー】
WTI :80.88(+0.09)
Brent :82.16(▲0.01)
Oman :81.17(▲0.51)
米ガソリン :232.88(+1.74)
米灯油 :239.81(▲0.56)
ICEガスオイル :693.75(▲4.75)
米天然ガス :5.02(+0.23)
英天然ガス :204.79(+10.74)

【貴金属】
金 :1862.84(▲2.06)
銀 :25.06(▲0.25)
プラチナ :1089.82(+4.02)
パラジウム :2152.74(+41.33)
※ニューヨーククローズ。

【LME非鉄金属】
(3ヵ月公式セトル)
銅 :9,732(+115:113B)
亜鉛 :3,256(+6:10B)
鉛 :2,356(+2:33B)
アルミニウム :2,678(▲1:0B)
ニッケル :19,800(+50:150B)
錫 :37,800(▲100:1150B)
コバルト :59,200(▲22)

(3ヵ月ロンドンクローズ)
銅 :9667.00(▲78.50)
亜鉛 :3208.50(▲58.50)
鉛 :2317.50(▲41.00)
アルミニウム :2634.50(▲62.50)
ニッケル :19615.00(▲320.00)
錫 :37400.00(▲175.00)
バルチック海運指数 :2,807.00(▲37.00)
※C=Cash-3M コンタンゴ、B=Cash-3M バック

【鉄鋼原料】
62%鉄鉱石スポット(CFR中国、1営業日前) :87.93(▲5.90)
SGX鉄鉱石 :91.56(▲0.54)
NYMEX鉄鉱石 :92.36(▲1.04)
NYMEX豪州原料炭スワップ先物 :377(+2.67)
大連原料炭先物 :407.87(▲140.35)
上海鉄筋直近限月 :4,374(+24)
上海鉄筋中心限月 :4,191(▲144)
米鉄スクラップ :630(+3.00)

【農産物】
大豆 :1257.25(+23.25)
シカゴ大豆ミール :371.70(+9.60)
シカゴ大豆油 :58.20(▲0.77)
マレーシア パーム油 :5390.00(▲15.00)
シカゴ とうもろこし :576.50(▲0.75)
シカゴ小麦 :826.25(+9.25)
シンガポールゴム :191.40(+0.40)
上海ゴム :13380.00(+315.00)
砂糖 :19.74(▲0.27)
アラビカ :222.75(+3.05)
ロブスタ :2302.00(▲13.00)
綿花 :117.62(▲0.07)

【畜産物】
シカゴ豚赤身肉 :75.80(▲0.08)
シカゴ生牛 :131.78(▲0.35)
シカゴ飼育牛 :155.93(▲0.33)

※全ての価格は注記が無い限り、取引所で取引される通貨建。
※限月交代に伴う価格の不連続性は考慮されていません。予めご容赦ください。