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市場の利上げ織り込みがひとまず一服
  • MRA外国為替レポート

2021年11月8日号

◆先週の市場総括


先週はイベントが盛り沢山。米国をはじめ各国で金融政策決定会合が相次いだ。総じて予想通り、ないし利上げ期待にもかかわらず金利据え置きで警戒感が後退。

FRBは量的緩和縮小の開始を決定。パウエル議長は市場の早期利上げ観測を牽制。

週末の米雇用統計は良好な数字。諸々のイベント通過で利上げを織り込み上昇していた長期金利は低下。為替市場では金利上昇・通貨高にかけたポジションが解消され反落。最も売られていた円が買い戻され週末には全面高となった。

ドル円相場は114円台で上値が重く週末にかけて113円台前半に下落して引け。ユーロ円相場は132円を挟んで上下した後、週末には一時130円台に下落して131円台前半で引けた。

ポンド円相場は週初156円で始まり155円~156円で上下したがBOE金融政策決定会合後に急落し153円に下落して引け。豪ドル円相場も85円台後半から週末には84円ちょうどに下落した。

米国株は堅調。良好な企業決算や強い米経済指標・景気回復基調の確認が支えとなり史上最高値を更新した。日経平均は総選挙で自民党が単独過半数を確保するなど政局不透明感が解消して大幅高。米国株の堅調にも支えられて3万円の大台に近づく動きに。週末は29,600円近辺で引けた。

月曜日の東京市場では日経平均が大幅高。およそ1か月ぶりの高値となった。総選挙で自民党が予想を上回る議席を確保。安定多数を単独で確保したことで、政局不透明感が後退し安心感が広がり、幅広い銘柄が買われた。岸田首相は大型経済対策を今月中旬までに策定するとした。

寄付きは29,500円近辺で大幅高寄り。その後も29,500円~600円で推移して引けにかけてじり高。引けは前週末比+754円高の29,647円。

日曜日に発表された中国のPMI景況感指数(10月)は製造業が前月49.6から49.2へ、サービス業が53.2から52.4へ、ともに小幅悪化。

一方で民間調査の財新製造業PMIは前月50.0から50.6へ改善し景況感の分かれ目である50を維持した。

ドル円相場は114円ちょうど近辺で始まり朝方は底固く20銭に上昇する場面もあった。株高とともに午前中から円は軟調で夕刻、欧州時間朝方には114円40銭に上昇した。

ユーロ円相場も同様に131円90銭で始まり、131円80銭~132円ちょうどで上下。その後は堅調で132円40銭に上昇した。

ユーロドル相場は1.1550~1.1560で横ばい推移。米国株は小幅ながら全面高。主要3指数はそろって史上最高値を更新した。

NYダウは朝方に史上初めて36,000ドルを付けたがFOMCを前に伸び悩み。引けは前週末比+94ドル高の35,913ドル。ナスダックは+97ドル高の15,595ドル。VIX指数は+0.15ポイント小幅上昇して16.41。

朝方発表されたISM製造業景気指数(10月)は60.8と前月61.1から低下したが予想60.2を上回り、なお高水準を維持した。一方、製造業PMI(10月)確報は速報59.2から58.4へ下方修正された。

米10年債利回りは朝方1.6%近辺に上昇していたが低下に転じて1.56%。2年債利回りは0.50%近辺。

ドルは軟調。ユーロドル相場は1.1570~1.1580でのもみ合いの後、一段高、ユーロ高ドル安に振れて1.16台に乗せた。ドル円相場は欧州から米国市場にかけて114円20銭~30銭でもみ合い。NY市場引けにかけてさらに下落して114円ちょうど近辺。

ユーロ円相場は132円20銭中心に132円ちょうど~40銭で上下し、引けは132円30銭近辺。

火曜日の東京市場では日経平均が3日ぶり反落。前日に700円以上の大幅高となったこと、FOMCを前の持ち高調整から利益確定売りが入った。一方、好決算銘柄には買いが入り底固さも。引けは▲126円安の29,520円。ドル円相場は114円ちょうどで始まり上値重く、午後に入ると113円70銭近辺でのもみ合いに。

ユーロ円相場も同様に上値重く132円30銭で始まり10銭~20銭でもみ合いの後、さらに131円90銭~132円ちょうどでもみ合い。円が買い戻される展開。

ユーロドル相場は動意薄で1.16ちょうど~1.1610近辺で推移した。

オーストラリア準備銀行(豪中銀)はこの日、金融政策決定会合を開催。24年4月償還の中期国債の上限利回りの設定を撤廃してイールドカーブコントロールを終了。23年中の利上げの可能性を示唆した。

一方、政策金利は据え置き、また量的緩和は現状のペースを少なくとも22年2月まで続けるとした。

欧州時間には製造業PMI(10月)の改定値が発表された。ユーロ圏は58.5から58.3へ、ドイツは58.2から57.8へ下方修正されて水準はなお高いものの年初来最低となった。

ユーロは下落。ユーロドル相場は1.1590近辺へ、さらに米国時間には1.1580近辺でもみ合い。円買い戻しはさらに進みユーロ円相場は131円50銭に下落。ドル円相場は113円50銭に下落。ただ米国市場では円高一服、円安に振れた。

ドル円相場は113円80銭中心にもみ合い、一段高となり113円90銭~114円ちょうど。ユーロ円相場は132円10銭に反発し引けは132円ちょうど近辺。

米国株は堅調。NYダウは4営業日続伸。予想を上回る決算発表が続き、好決算銘柄中心に買われた。ただこの日から2日間にわたり開催されるFOMCの結果を前に様子見姿勢も強く上げ幅は限定的。ナスダックは+53ドル高の15,649ドル。VIX指数は▲0.38ポイント低下の16.03。

米10年債利回りはやや低下して1.552%。2年債は0.454%。ともに小幅低下。原油価格WTIが82.97ドル。前日比▲1ドル程度下落した。ドルインデックスは94ポイント台に上昇。

水曜日の東京市場は祝日で休場。アジア時間の為替市場はFOMCの結果を前に小動き。ドル円相場は114円ちょうど近辺で始まり午前中に113円80銭に小幅下落。その後は80銭~90銭で方向感なく推移。

ユーロ円相場は132円ちょうどから131円80銭に下落した後は131円90銭~132円で推移。

ユーロドル相場は1.1580近辺でもみ合い。欧州市場から米国市場にかけてFOMCを前にドルがやや堅調。ドル円相場は113円70銭から114円10銭台に上昇。ユーロドル相場は1.1560へユーロ安ドル高。ユーロ円相場は131円80銭近辺で推移した。

発表された米国のADP雇用報告(10月)は雇用者数前月比が前月の+523千人に続き+571千人と予想+400千人を上回り大幅な増加が続いた。

ISM非製造業景気指数(10月)は前月61.9から66.7へ大幅に上昇し予想61.8を大きく上回った。新規受注指数は63.5から69.7へ、価格指数は77.5から82.9へ上昇した。供給停滞や入荷遅延、人出不足が依然として懸念材料。

製造業新規受注(9月)は前月比+0.2%と前月+1.0%に続き増加。サービス業PMI(10月)改定値は速報58.2から58.7へ上方修正された。いずれも良好な数字。

注目のFOMCでは市場の予想通り量的緩和縮小(テーパリング)の開始が決定された。11月から購入額を、国債を▲100億ドル、MBS(モーゲージ債)を▲50億ドル、減少。このペースで保てば来年6月にはテーパリングは終了し、以降は残高維持となる。

声明では、インフレ高騰は一時的とされたが、断定的な表現から「想定される」と後退。いくつかの業種ではかなりの価格上昇がみられる、とインフレ警戒感は強まった。

パウエル議長は会見で、テーパリングと利上げは別とあらためて強調し、市場の早期利上げ観測を牽制した。

ただ市場は2022年に2回の利上げを織り込んだまま。米2年債利回りはやや低下して0.475%も、10年債利回りは1.5%台前半に低下した場面もあったが上昇して1.605%。ドル円相場は114円ちょうど近辺で上下し引け。

ユーロドル相場はユーロ高ドル安に振れて1.1610。ユーロ円相場は132円10台でもみ合いの後、一段高となり132円30銭~40銭。

米国株は堅調。主要3指数はいずれも連日の史上最高値更新。テーパリング決定も冷静に受け止められた。良好な経済指標や決算が支え。NYダウは前日比+104ドル高の36,157ドル。ナスダックは+161ドル高の15,811ドル。VIX指数は▲0.93ポイント低下して15.10。

原油価格WTIは翌日のOPEC閣僚級会合を前にポジション調整の売りに押されて大幅安の80.86ドル。

木曜日の東京市場では日経平均は反発。未明に公表されたFOMCの結果は想定通りで不透明感後退、イベント通過の安心感、米国株の堅調が支えとなり、朝方は火曜日引値から+350円高となる場面もあった。

ただその後は主要企業決算を前に伸び悩み。3万円の大台も意識された。引けは+273円高の29,794円。

ドル円相場はしっかり。114円ちょうどで始まり昼には114円20銭に上昇して夕刻までもみ合い。一方、ユーロは下落。ユーロドル相場は1.1610で始まり一貫して下落し1.1550。

ユーロ円相場も132円30銭で始まり60銭に上昇したが、反落して夕刻には131円40銭へ大幅安となった。FRBと対比してECBが利上げに慎重との見方がユーロを押し下げた。

ECBシュナール専務理事は、高インフレ懸念は理解するが来年にかけて目に見えて低下する確証がある、来年利上げが実施される可能性は極めて低い、と述べた。

またBOE英国中銀の金融政策決定会合では政策金利が据え置かれた。インフレ高騰により今後数か月で利上げが必要になる、とされたが、ベイリー総裁は市場の利上げ期待の大きさに警戒感を表明した。

ポンドは大幅下落。ポンド円相場は利上げ見送りを受けて日本時間夕刻の156円から米国時間午前中にかけて153円台半ばへ急落した。

米国市場にかけてユーロも一段安。ユーロドル相場は1.1530に下落してようやく下げ一服。1.1550台に持ち直して引け。ユーロ円相場も131円80銭に反発した後131円ちょうど近辺に急反落。その後持ち直して131円40銭台。

OPEC産油国閣僚会議では現在の緩慢な減産縮小ペース(毎月日量40万バレルの増産)を12月も維持することが確認された。原油価格WTIは下落。増産ペース加速は見送られたものの上値重く、売りが勝って78.81ドルに大幅下落。

米10年債利回りはパウエルFRB議長の利上げ牽制発言の余韻もあり、一時1.50%近くに低下したが引けはやや戻して1.533%。

米国株はまちまち。NYダウは利食い売りに押されて午後にかけて軟調だったが引けにかけて戻し、下げ幅を縮めて引けは▲33ドル安の36,124ドル。長期金利低下で金融株が弱い。ハイテク株には金利低下が追い風。好決算もあり半導体関連株はしっかり。ナスダックは+128ドル高の15,940ドル。

週次の失業保険新規申請件数は269千件と前週283千件から減少。コロナ禍前の水準にさらに近づいた。継続受給者数も前週2,239千件から2,105千件に減少しコロナ禍以降の最小。

金曜日の東京市場では日経平均は反落。雇用統計前に利益確定売りが優勢。また主要企業決算で資源価格上昇の影響や半導体など部品供給不足の悪影響が明らかになったことが嫌気された。ただ下値も限定的。

前日引値近辺で始まり29,500円近辺に下落した後は下げ止まり。引けにかけて持ち直して前日比▲182円安の29,611円。

ドル円相場は113円80銭近辺で始まり60銭~70銭でもみ合い。その後夕刻から欧州市場にかけては113円80銭~90銭で上下した。

ユーロ円相場は131円40銭台~50銭で始まり20銭に下落。ただその後夕刻にかけて持ち直し131円50銭。

ユーロドル相場は1.1550台から1.1540へ下落するも持ち直し1.1560。総じて雇用統計前に動きは鈍かった。欧州市場から米国市場にかけてはユーロが下落。雇用統計発表前にユーロドル相場は1.1510に、ユーロ円相場は131円30銭に下落した。

注目の米雇用統計(10月)は、非農業部門雇用者数・前月比が+531千人と前月+312千人(速報+194千人から大幅上方修正)から増加ペースが加速し予想+450千人を上回った。

失業率は前月4.8%からさらに低下して4.6%。正社員として雇用希望もパート等一時就業している人も加味した失業率U6は前月の8.5%から8.3%に低下。

平均時給は前年同月比で+4.6%から+4.9%に上昇率が加速。前月比は+0.6%から+0.4%に減速したが高水準だった。

ただこうした数字を受けても米長期金利はむしろ低下。利上げを十分に織り込んだ状態からひとまずイベント通過で債券に買い戻しが入った。

10年債は1.455%に、2年債は0.405%に。ドルは金利低下に伴い下落。ドル円相場を中心に円買い戻しが強まり円高に振れた。ドル円相場は雇用統計発表直後に114円ちょうど近辺に上昇したが113円30銭に大幅反落。引けは113円40銭。

ユーロドル相場は1.1570に上昇した後、1.1550~70で上下し引けは1.1570。

ユーロ円相場は130円90銭に下落した後、反発して131円20銭。ポンド円相場も米国株は堅調。雇用統計がしっかりとした数字となり米国景気の回復を確認。

NYダウは史上最高値を更新して+203ドル高の36,327ドル。ナスダックは+31ドル高の15,971ドル。VIX指数は+1.04ポイント上昇して16.48。

原油価格WTIは+2.73ドルの大幅反発となり80ドル台を回復、81.54ドルで週末の取引を終えた。

◆今週の3つの注目ポイント


1.米国の経済指標

インフレが市場のテーマとなるなか、物価指標に注目が集まる。

火曜日 生産者物価指数(10月、前月比、予想+0.6%、前月+0.5%、コア、予想+0.5%、前月+0.2%、前年同月比は前月が+8.6%、コア+6.8%)

水曜日 消費者物価指数(同、前月比、予想+0.5%、前月+0.4%、コア、予想+0.4%、前月+0.2%、前年同月比、予想+5.8%、前月+5.4%、コア、予想+4.2%、前月+4.0%)週間新規失業保険申請件数

金曜日 ミシガン大学消費者信頼感指数(11月速報、予想72.0、前月71.7)

2.当局者発言

今週はFOMC明けでFRB当局者の発言が解禁。とくにインフレや利上げに関しての見解が注目される。

月曜日 パウエル議長、クラリダ副議長、セントルイス、サンフランシスコ、ミネアポリス、各連銀総裁の発言機会

火曜日 パウエルFRB議長、ECBラガルド総裁が発言。ECBの金融正常化に慎重な姿勢が確認されるか。またBOEイギリス中銀のベイリー総裁も発言。利上げ実施に向け意見が割れ、先週は利上げが見送られポンド反落のきっかけとなったがどのような発言となるか。

3.欧州の経済指標

先週ユーロは週末にかけて対ドルで下落し1.15ちょうどに迫った。米欧景況格差や金融政策格差が意識された結果とみられるが、今週の経済指標が年初来安値更新を促すか。半面でドルインデックスを押し上げるか。

火曜日にZEW景況感指数(11月、ドイツ、予想20.0、前月22.3、ユーロ圏、前月21.0)、木曜日に欧州委員会が経済見通しを公表、金曜日にユーロ圏鉱工業生産(9月、前月比、予想▲0.2%、前月▲1.6%、前年同月比、予想+4.5%、前月+5.1%)、が発表される。

◆今週のMRA's Eye


市場の利上げ織り込みがひとまず一服

現状の為替市場におけるリスクバイアスを整理すれば、中長期的には景気回復持続によるインフレ高止まり、金融正常化(量的緩和縮小・終了や利上げ実施・織り込み)による長期金利上昇、金融政策格差による通貨強弱の継続、金融正常化で先行する通貨に対する円安基調の継続、だ。

一方、短期的には、過剰な利上げ織り込みの揺り戻し、長期金利上昇の一時的停滞ないし一時的低下、金融政策格差に賭けたポジションとくに円売りの手仕舞いによる一時的円高、だ。

先週は後者、短期的なリスクが顕在化したと整理するのが良いのではないか。中長期的な相場環境には変化がない。

前週のECB(欧州中銀)、BOC(カナダ中銀)に続き、先週はFRBを始め、BOE(イギリス中銀)、RBA(オーストラリア準備銀行)、など中央銀行の金融政策決定会合が相次いだ。

金融正常化で注目される米国FRBだが、それ以外の中銀にも動きがみられ、あるいはFRBに先行する中銀もある。総じて量的緩和縮小・終了や利上げを睨んでいるが、市場は利上げをすでに織り込み、長期金利は上昇。

一連の会合が終了したところで、長期金利上昇はひとまず一服。金融政策格差を材料に、これらの通貨に対して円売り・円安が進んでいたが、手仕舞いにより週末にかけて円は買い戻しにより全面高となった。

BOCは前週の会合で政策金利は据え置いたが量的緩和の終了を決定。利上げ条件の達成時期を2022年後半から2022年半ばへやや前倒しした。

これに対して市場は2022年に4回の利上げを織り込み。ECBは金融政策決定会合を開きラガルド総裁は、インフレ高騰は予想より長引く可能性があるが一時的でいずれ2%の目標を下回る見通し、として、2022年の利上げ実施を否定した。

RBAはイールドカーブコントロールを撤廃。2023年の利上げ実施への道が開かれた。ただRBNZ(ニュージーランド準備銀行)がすでに利上げを実施していることもあり、市場はより速いタイミングでの利上げ実施を織り込んでいる。

BOEは一部に利上げ予想もあったが政策金利は据え置き。インフレ高止まりにより今後数か月で利上げが必要になる、とされたものの、ベイリー総裁は市場が利上げを織り込み過ぎていることに警戒感を示した。

そうしたなかで開催されたFOMCでは市場の予想通り量的緩和縮小の開始、来年央で終了することが決定された。ただ今回はメンバーの予測がなく利上げに関しては明確なスタンスは確認できなかった。

パウエル議長は依然として量的緩和縮小と利上げは別、と慎重姿勢を崩さず。来年の後半に利上げを実施する可能性が開かれたことをあらためて確認するにとどまった。

市場はFRBの利上げは2022年に2回を織り込んでいる。FRB内には2022年の利上げを主張・予測するタカ派もいる。3ヵ月ごとのFOMCで示されるメンバーの政策金利予測が、9月会合では6月会合より利上げ開始時期の前倒し、2022年の利上げ実施可能性を示したことから、市場がそうした観測を強めるのも無理はない。

仮に2回であれば、6月に量的緩和を終了した後、年後半、9月と12月の可能性が高いだろう。あるいは10-12月に1回か。

パウエル議長はなおも利上げに慎重姿勢を示し、市場の早期利上げ観測を牽制している。しかし足元ではインフレ高騰が一時的とばかり言えなくなりつつあり、パウエル議長の「外堀」が埋まりつつあるのも事実だ。

ただすでに2022年に2回の利上げを織り込んだ状態からは、さらなる利上げ前倒しや上乗せを想定することは難しい。

利上げをより反映しやすい2年債利回りは足元で0.5%に乗せてきた。ここからさらに上昇するには、よほど利上げタイミングが前倒しになるか、利上げ開始後の利上げペースが加速するとの見方が強まるか、が必要だ。

あとは実際の利上げ開始が近づくにつれて水準が切り上がっていくかたちとならざるをえない。

となると、金利面でドル相場の鍵を握るのは、ここからは2年債より10年債となりそうだ。

10年債利回りは期間が長いだけに足元でも利回りが上昇する余地はある。ただ2年債と異なり利上げ時期や回数だけで利回りが上下するわけではない。インフレリスクや景況感、株価動向、投資家スタンス、など様々な要因が利回りに影響しやすい。

実体経済の状況はとくに変わっていない。景気回復は続きインフレは高止まり、むしろ高インフレが長期化するリスクは強まっている。大きな流れとして長期金利の上昇基調は不変だろう。

ただ先週にかけて一連の各国中銀による会合が終わり、さらなる金融正常化加速、利上げ織り込みの上乗せが難しかったことで、ひとまず金利上昇にかけたポジションが調整局面を迎え、米長期金利がやや低下したとみてよさそうだ。

市場は金融当局の先回りをし、いわば利上げ催促といった状態になっている。BOE総裁はそうしたリスクを指摘しているのだろう。パウエル議長もそうした市場先行の過度な金利上昇リスクに配慮しているとみられる。

足元のインフレ率上昇の背景には、資源価格上昇、供給制約、景気回復・需要拡大、が混在している。

このうち当局がコントロールできるのは景気回復・需要拡大に対して金融政策で景気過熱リスクを抑制すること。資源価格の上昇や供給制約は金融政策の埒外だ。

その意味で気にするのは労働需給の逼迫。インフレ要因に賃金上昇がスパイラル的に働くようであれば中央銀行の出番とみるだろう。

当局者が高インフレは一時的とする理由は、震源価格の上昇や供給制約が一時的であるとの見方に加え、これは金融政策の担当外だという表明でもあろう。逆にこれらは景気抑制要因でもある。利上げか様子見か、意見が割れるところだ。

供給制約要因は排除してインフレリスクを割り引いて考え、需給にもとづく基調のインフレ圧力を重要視する。

一方、市場は表面のインフレ率を重視し当局の金融正常化スタンスを追い抜く。以前は当局のインフレ警戒や金融正常化スタンスよりも市場は慎重な見方をし、長期金利は抑制されていた。

しかし夏場以降、当局の金融正常化を先取りし、利上げ早々に織り込んで長期金利は上昇。とくに2年債利回りの上昇が各国で顕著となった。ただここからの長期金利上昇のパスは複雑となりそうだ。

上昇基調だとしても2年債と10年債では金利動向に大きな差が生じる。2年債はじりじりと、10年債は紆余曲折ありながらの金利上昇が予想される。

為替相場も9月下旬以降のような一本調子の円安、ドル高円安、クロス円相場での円安進行、とはなりにくい。利上げ織り込みや円売りポジションの積み上がりも踏まえれば、緩慢な円安、緩慢なドル高円安、とみたほうがよいだろう。

円高に振れるのは短期リスク。主としてFRBの利上げに対する織り込みに修正が生じるか。今回はECBやBOEその他が牽引したがグローバルないし米国のリスクが中心となる。

きっかけとして想定されるファンダメンタルズ面での要因は、資源価格・原油価格の大幅反落、供給網の正常化など。

ただこれらは大きなトレンド転換や急激な改善は期待できず、市場心理の変化も手持ちポジションの微調整にとどまりそうだ。根底の見方を覆すまでには至らないだろう。

◆主要指標


【対円レート】
ドル :113.41(▲0.35)
ユーロ :131.19(▲0.25)
英ポンド :153.063(▲0.51)
豪ドル :83.933(▲0.25)
カナダドル :91.045(▲0.30)
スイスフラン :124.265(▲0.39)
ブラジルレアル :20.4632(+0.16)
中国人民元 :17.74(▲0.03)
韓国ウォン(日本円=100) :9.566(▲0.05)

【対ドルレート】
ユーロ :1.1567(+0.001)
英ポンド :1.3498(▲0.000)
豪ドル :0.74(▲0.000)
カナダドル :1.2457(+0.000)
スイスフラン :0.9127(±0.0)
ブラジルレアル :5.5424(▲0.061)
中国人民元 :6.3988(+0.002)
韓国ウォン :1185.42(+2.90)

【主要国政策金利】
米国 :0.25
ユーロ :0.00
日本 :0.00

【主要国長期金利】
米10年債 :1.45(▲0.07)
米2年債 :0.40(▲0.02)
日本10年債利回り :0.06(▲0.01)
日本2年債利回り :0.06(+0.01)
独10年債利回り :▲0.28(▲0.06)
独2年債利回り :▲0.73(▲0.02)

【主要株価指数・ビットコイン】
NY ダウ :36,327.95(+203.72)
NASDAQ :15,971.59(+31.28)
S&P500 :4,697.53(+17.47)
日経平均株価 :29,611.57(▲182.80)
ドイツ DAX :16,054.36(+24.71)
インド センセックス :休場( - )
中国上海総合 :3,491.57(▲35.30)
ブラジル ボベスパ :104,824.20(+1,412.10)
英国FT250 :23,596.79(+125.68)
ビットコイン :60976.2(▲388.85)

【主要商品価格】
WTI :81.27(+2.46)
Brent :82.74(+2.20)
米ガソリン :232.09(+2.83)
米灯油 :245.56(+4.90)

金 :1818.36(+26.32)
銀 :24.16(+0.36)
プラチナ :1036.23(+7.41)
パラジウム :2040.09(+34.34)
銅 :9430.00(▲140:310B)
アルミニウム :2522.00(▲144:31.5C)
※貴金属はニューヨーククローズ。ベースメタルは3ヵ月公式セトル価格。
※C=Cash-3M コンタンゴ、B=Cash-3M バック

シカゴ大豆 :1192.25(▲17.00)
シカゴ とうもろこし :553.00(▲6.25)
シカゴ小麦 :766.50(▲7.25)

※全ての価格は注記が無い限り、取引所で取引される通貨建。
※限月交代に伴う価格の不連続性は考慮されていません。予めご容赦ください。
※ 「休場」となっているものは、取引所が休場ないしはデータ更新時点で最新データを取得できなかった場合を指します。