供給懸念でエネルギーセクター高い
- MRA商品市場レポート
2022年1月17日 第2113号 商品市況概況
◆昨日の商品市場(全体)の総括
「供給懸念でエネルギーセクター高い」
【昨日の市場動向総括】
昨日の商品価格はバルクコモディティや貴金属、非鉄金属の一角がドル高進行を材料にして下落したものの、エネルギーセクターは堅調な推移となった。
株価が調整色を強める中で比較感でエネルギーは割安だ、厳冬と供給制限で需給がタイトである、というロジック、ファンダメンタルズ的な背景を材料にエネルギーが物色される流れが、その他の商品にも影響していると見られる。
しかし、S&P500とBrentの前年比上昇率の間には高い相関があり、現在のBrentの前年比上昇率はほぼ回帰分析で説明可能な水準にあることを考えると、投機的な観点ではさらにBrentが上昇するには株価の上昇が必要条件となるため、この状態が長続きするのは難しかろう。
実際、昨日発表された米小売売上高は前月比▲1.9%(市場予想▲0.1%、前月+0.2%)、除く自動車・ガソリンでは▲2.5%(▲0.2%、▲0.1%)と急減速しており米国の消費動向が堅調とは言い難い。
となると、価格上昇はカザフスタンやリビア、ウクライナ問題を背景とする供給問題がより材料視されていると考えるのが妥当だろう(詳しくはエネルギーセクターのコラムの解説をご参照ください)。
【本日の見通し】
週明け月曜日は米国市場がキング牧師生誕記念日で休場のため、主要参加者が市場に不在の中で動意薄く、金曜日の反動で上昇した商品は下落、下落した商品は上昇する展開が予想されるが、ドル高バイアスが復活しているため総じて頭重い推移となるだろう。
予定されている材料で注目は、中国の主要統計。不動産セクターを中心に減速圧力が強まっているが、工業金属のフロー・ストックの需要の指標である工業生産や不動産投資・固定資産投資の動向に注目している。
また、中国のGDPは減速が見込まれているため、工業金属価格の下落要因となろう。
鉱工業生産 年初来 市場予想 +9.7%(1-11月+10.1%) 12月 +3.7%(+3.8%)固定資産投資 年初来 +4.8%(+5.2%)不動産投資 年初来 +5.2%(+6.0%)Q421中国GDP 前年比+3.3%(+4.9%)
【昨日のトピックス】
昨日発表された中国の貿易統計は、輸出が前年比+20.9%(市場予想+20.0%、前月+22.0%)と市場予想を上回った。
中国の2021年の地域別の輸出を見ると、対米が前年比+27.5%、欧州が+32.6%となっており、人権問題やコロナ問題で対立していたにも関わらず、これらの地域向けの輸出は増加している。
経済対策による米経済の回復でパソコン輸出や年末商戦向けの玩具輸出が増加したことが輸出増加を後押ししたようだ。
一方、入は+19.5%(+27.8%、+31.7%)と市場予想を大幅に下回っている。不動産セクターの調整が続いていることが全体的な輸入需要を押し下げたと見られる。
しかし、地域別で見るとやはり米国(+32.7%)からの輸入は堅調であり、次いでアセアン諸国(+30.8%)、欧州(+19.9%)となっている。
中国がトランプ政権時代に約束した米国産品の輸入額増額を守る、というつもりは元々あるわけでは無く、「必要なものは買う、米国は関係無い」というスタンスであることは間違いが無いと思われるが、前月から輸入額の伸びが加速しているのは、恐らく冬場に向けたガス輸入の増加とその価格が上昇したことによるものだろう。
当面、米中の「共依存」の関係は続くと思われる。それは、中国が国際商流に組み込まれてから20年が経つため、これを解きほぐして行くには同じ期間とまでは言わないものの、10年単位で時間が掛ることになるだろう。
それにはコストも人的負担も、政治的な摩擦も伴うが、中国がサプライチェーンの中核に据えられていることのリスクを欧米諸国は認識し始めているため、少なくとも米国経済圏の中では新たなサプライチェーンの構築を模索することが予想される。
【昨日のセクター別動向と本日の見通し】
◆原油
原油価格は続伸した。アジア時間は前日の下落の反動で上昇、欧州時間に一旦伸び悩んだが、米国時間オープンから積極的な買いが入って上値を試す動きとなった。
米国で発表された個人消費は正直悪い内容だったが、原油価格はこれをほぼ無視して上昇している。
足下の価格上昇の切っ掛けはOPECプラスによる供給不足発生が材料だったが、年明け以降、投資銀行やファンドマネージャーは「100ドル・200ドル」「供給不足は解消しない」「株よりも割安」というコメントを多く発言しており、良いか悪いかは別にしても、割安感から投資先を商品にして買いを入れてくる可能性がたかまっている。
需給バランスがタイトであることは間違いが無いが、先行きの見通しはまだ需給が緩和することが見込まれているため、「この四半期だけ」の買いかもしれないが、明らかにトーンが変わったといえる(詳しくはセクター別の中期見通しを参照ください)。
週明け月曜日はキング牧師の生誕記念日で米国が休場のため動意薄く、まずは利益確定の売りに押される流れになると考える。
◆石炭・LNG・天然ガス
豪州石炭スワップ先物価格は上昇して200ドルを超える水準での推移となった。インドネシアの石炭禁輸は段階的に解除される見通しが示されているが、まだ供給が十分とは言えないこと、中国の燃料炭港湾在庫が減少したことなどが材料となっている。
中国の石炭輸入の指標の1つであるバルチック海運指数は急速に低下し、過去5年レンジまで低下した。中国がオリンピック・パラリンピックで経済活動を鈍化させる見通しであることが影響しているとみられる。
欧州天然ガス価格は高値圏を維持。ロシア・ウクライナの軍事的な衝突懸念が意識される中、欧米とロシアの協議も目立った進展がないため、高値を維持することとなった。欧州の天然ガス在庫の減少は続いている。
この状況が続けば、春~夏までに十分なガス在庫を確保できずにガス価格が高止まりする展開は、よほど冬が暖かく無い限り最早メインシナリオではないか。
なお、域内最大の原発を有するフランスの原発稼働率は急速に回復しているが、まだ過去5年レンジの下限である。
米国天然ガスは前日、急落したが200日移動平均線のサポートラインは維持している。最大消費地区である東海岸の気温急低下見通しが価格を下支えしている。
JKMは欧州天然ガスの低下もあって小幅に水準を切下げた。2022年のガス価格は20ドルを目指す展開に。ただしそれでもスポットLNGの需要は旺盛であり、北半球の冬が本格化する1~2月の上昇リスクは小さくない。
2022年1月3日~1月9日のLNG輸入は前週比+10%の920万トンとなった。うち、スポット取引のシェアは36%(前週29%)と上昇した。主に、北欧向けの輸出が増加したことが影響た。
一方、スエズ以東・以西ともタンカーレートが大幅に低下し、過去5年の最低水準を下回っている。しかしこれは足下の価格水準とは整合が取れておらず、引き続きタンカーレート動向は注視が必要だ。
週明け月曜日の石炭価格は供給不足と気温低下による需要増加が価格を下支えするが、中国の工場稼働がオリンピック・パラリンピックやオミクロン株の影響で低下するため、上昇余地も限定されると考える。
天然ガス価格は欧州の在庫水準が低い状態に変わりは無く、ロシアとウクライナの緊張、ガス供給元として期待される米国の気温急低下見通しを受けて高値を維持の公算。
◆非鉄金属
LME非鉄金属価格はアルミ・ニッケルは前日比プラスで引けたがその他の非鉄金属価格は下落した。最大消費国であり生産国である中国の貿易統計では輸入の伸び減速が確認されており、不動産セクターの調整や、電力供給制限の影響が国内経済活動にマイナスに作用していることを示唆するものであり、売り材料となった。
しかし昨日最も価格に影響を与えたのはドル高の進行であり、ほとんどの金属がドル高進行局面で水準を切下げた。その中で価格が上昇したのがアルミとニッケル、鉛であり、ロシア・ウクライナ問題を背景とする供給不安や米国の気温低下によるバッテリー向け需要の増加が意識されたとみられる。
なお、銅と錫のオフワラント率は10%を切っており、足下の需要が減速していることを示唆しているが、その他の金属は亜鉛や鉛が各々28.1%、24.1%、アルミは43.9%、ニッケルに至っては54.1%のオフワラント率となっており、需給がタイトであることを示唆している。
週明け月曜日は米国市場が休場であることから様子見気分が強いと見ているが、中国の重要統計(工業生産や固定資産投資)が減速見通しであること、GDPも減速が予想されていることから軟調な推移になると予想。
ただし週末の下落が大きかったこともあって、取引序盤は安値拾いの買いで上昇か。
◆鉄鋼・鉄鋼原料
中国向け海上輸送鉄鉱石スワップは下落、豪州原料炭スワップ先物は下落、大連原料炭先物は上昇、上海鉄鋼製品先物は直近限月が上昇、中心限月が下落した。
ブラジルの豪雨の影響で鉄鉱石輸出が停滞しているが、中国勢が来る旧正月を控えて調達を前倒ししたため、輸入需要が減速していることが価格を押し下げた。
石炭についても同様で動きは鈍いが、基本的な供給制限の状態に変わりは無く豪クイーンズランド州のサイクロンの影響による洪水で供給が制限されるのではとの見方が価格を高値に維持している。
週明け月曜日は、中国の製鉄所の稼働低下が見込まれるため調達が十分な鉄鉱石価格はやや軟調な推移になるとみるが、ブラジル・豪州の洪水の影響で鉄鉱石・原料炭とも供給に懸念が出るため、高値維持の公算。
◆貴金属
昨日の貴金属セクターは総じて軟調な推移となった。米金融政策がタカ派に傾き、3月の利上げの可能性が高まる中で長期金利が上昇して実質金利が上昇、さらにドル高も進行したことが売り材料となった。
ただし金はウクライナ問題を背景とするリスク回避の、PGMはロシアに対する制裁への懸念などが価格を下支えしている状況。
週明け月曜日は米国市場が休場のため動意薄く、もみ合いになると考えるが、ドル高バイアスが再び強まっているため総じて軟調な推移になると予想。
◆穀物
シカゴ穀物市場はまちまち。トウモロコシは原油価格の上昇を受けたエタノール向け需要増加観測が価格を押し上げる形に。大豆は中国の輸入が急速に増加しているが、それでも過去5年平均程度で推移していることやドル高進行が価格を下押しした。
小麦については米需給報告での在庫見通しの上方修正や、ドル高進行が売り材料となった。
週明け月曜日はドル高バイアスが回復しているため軟調な推移になるとみるが、いずれの穀物もチャートのサポートラインでサポートされているため、軟調ながらも底堅い推移になると考える。
※中長期見通しは個別セクターのコラムをご参照ください。
【マクロ見通しのリスクシナリオ】
・実施が期待されていた1.75兆ドルの米税制・支出法案が複数議員の造反で成立しない、ないしは規模が縮小される場合(景気減速でリスク資産価格の下落要因に)。
・ロシアと西側諸国の軍事衝突のリスク(世界経済の減速要因)
・コロナウイルスの感染再拡大(オミクロン株の影響)によるロックダウンが景気循環系商品の需要を減じる場合(価格下落要因)。
・資源価格上昇によるインフレや、米テーパリング・利上げ観測を背景とした新興国通貨安で新興国が想定以上のペースで利上げを行わねばならず、世界的に金融引き締めモードに転じた場合(リスク資産価格の下落要因)。
・米中対立激化による、新冷戦構造が発現しブロック経済圏が発生して貿易活動が鈍化する場合(場合によると武力衝突も)。
・米中対立が、自国内の混乱などを理由に急に「手打ち」となった場合(景気のポジティブリスク・中国がさらに力を付け、将来米中が武力衝突するリスク)。
・発電燃料供給不足による工場稼働停止や消費低迷で景気が減速する場合(リスク資産価格の下落要因)。
・中国不動産問題の沈静化に時間が掛り、信用収縮に繋がる場合(工業金属などの景気循環系商品を筆頭に、リスク資産価格の下落要因)。
・中国地方政府・中堅中小企業の財政状況悪化に伴う景気減速(これは人口動態を考えると、現実のリスクとなるのは2030年以降か)。
・環境重視型社会への急激な転換による、経済活動の鈍化リスク。成長ドライバーの1つとして期待される、中東・北アフリカ産油国が人口ボーナス期を活かせない(逆に鉱物産出国は高成長となる可能性も)。
逆に脱炭素に向けたインフラ投資の加速で資源価格が急上昇、金融緩和マネーが大量に市場に滞留する中でハイパーインフレとなるリスク。
・来年の中間選挙を控えて、バイデン大統領が国内の支持を得られない場合。議席確保のためのなりふり構わない政策がインフレをもたらすリスク(景気加熱後に急減速する要因)。
・独政権交代後の国内求心力が低下、域内最大経済国のドイツ経済が減速する場合、また、EUの指導力が低下し域内経済が停滞する場合(景気減速要因)。
・ロシア・ウクライナ・ベラルーシ・欧州を巡る対立が激化し、軍事的な衝突が発生する場合(景気の減速を通じて景気循環系商品価格の下落要因)。
・次の成長ドライバーとして期待されるインド経済が、期待通りの成長をできない場合(人種差別問題による国民の離反、市場開放・規制改革の遅れ、中国との対立など)。
2018年にすでに人口ボーナス期入りしているため、鉱物・エネルギーをはじめとする景気循環系商品需要の増加は2023~2024年頃。
・アフガン情勢の混乱が域内経済に混乱(大量の難民発生、コロナの感染拡大が欧州圏にもたらされるなど)をもたらし、米中対立を先鋭化させる場合(景気の減速要因)。
◆個別商品市場中期見通し
---≪エネルギー≫---
【原油価格見通し】
原油価格はOPECプラスの供給能力への懸念、気温低下に伴うある意味季節的な需要増加が続いているため高値を維持すると考える。ただし、米金融引き締めや季節要因で春先に向けて価格が調整する見通しを変更する必要は無いと考えている。
足下の原油価格上昇は、厳冬や渇水、異常気象に伴う不慮の化石燃料需要の増加が前提となるが、ウクライナやリビア、ロシアに対する制裁といった供給面が強く意識されたものである。
上昇の入り口は実需のショート買い戻しの影響によるものだが、年明け以降は投機の買いが価格上昇をさらに加速させていると考えている。
年明け以降、各調査機関やファンドマネージャーの原油価格見通しは、「株価に比べて割安だ」「供給が間に合わない」というコメントが多数であり、100ドル、200ドル、という数字も上げられている。
リーマンショック前後の100ドル超えの時は、投資銀行が油田や製油所、タンカーの現物に投資を行ないエネルギー「現物」資産の「ロングポジション」を有している状態だったが、その状態で調査部門は「株価よりも割安だ」「供給が間に合わない」というロジックで100ドル、200ドル、といった予想を発表しており、そのときと同じ流れにあるともいえる。
このときと市場環境が異なるため同列には議論できないが、足下の需給がタイトであることは事実であり、この数ヵ月で供給が間に合うとは考え難いため、1~2月は原油価格は弊社が想定している以上に強含むと予想される。
ただし、春にかけては気温が上昇するほか、米国のインフレ抑制が加速する可能性が高いこと、それに伴う新興国の金融引き締め、価格上昇に伴うレーショニングが発生するため、やはりそれでも3~4月にかけては下落すると考えている。
ただし、期間の長い中期的(来年の春以降)には、経口薬の開発やコロナとの付き合い方が分る(もうウィズ・コロナで走るしかない)などで恐らくコロナによる移動制限が解除され、輸送燃料需要が回復することからやはり上昇に転じると見ている。
また、より長期的な観点では、脱炭素が継続するとの前提に立つと、「脱炭素による供給制限と、消費者側の脱炭素の動きは特にエネルギー需要のドライバーである新興国では遅々として進まない可能性が高いこと」を考えると、水準を切り上げていく展開が予想される。
問題はこの長期にわたる価格上昇を、消費者側が本当に許容できるかどうかだろう。
米DOEの2022年供給は101.15MBD(前月100.93MBD)、需要は100.52MBD(100.46MBD)、需給バランスは+0.53MBDの供給過剰(+0.47MBDの供給過剰)。
【見通しの固有リスク】
・ロシアのウクライナ侵攻に対して、欧米がロシアのエネルギー企業に制裁、供給が逼迫下場合(価格上昇要因)。
・電力・ガスをはじめとするエネルギー供給制限が経済活動を強制的に停止させ、需要が減少する場合(価格下落要因)。
・米国経済が正常化する中で金融緩和解除が加速、急速なドル高を通じて投機的な売り圧力が高まる場合(価格下落要因)。
・OPECプラスの増産ペースの遅れないしは上流部門投資不足による供給不足。あるいは上流部門投資をしてこなかった結果、思った増産ができない場合(価格上昇要因)。
価格が上昇する中でOPEC諸国の減産維持統制が効かなくなり、増産競争に舵が切られる場合(下落要因)。
・脱炭素の進捗、生活様式の変化による構造的な需要減少が加速した場合(価格下落要因)。
・脱炭素の過剰な進捗による供給懸念(価格上昇要因)。
1.中東産油国の財政悪化によって情勢不安が顕在化、供給途絶リスクが高まる場合
2.中東以外の産油国の生産者の破綻
3.上流投資部門投資が減速し、インドなどの新興国需要顕在化時に供給が間に合わない場合
4.価格面、数量面で予算を確保できない産油国が、OSPを大幅に引き上げる場合(第3次オイルショック)
なお、脱炭素が完了しても100%原油が不要になることはなく、OPECの価格支配力が増すため、この場合でも価格は上昇へ。
【石炭価格見通し】
海上輸送石炭価格はインドネシアからの石炭供給減少と、北半球の気温低下見通しを受けて高値を維持すると考える。また、この状態で豪州が洪水のシーズンに入ることも、海上輸送石炭市場需給のタイト化観測を強めることになるだろう。
懸念は、オリンピック・パラリンピックが終了した後、工場向けの需要増加が見込まれる中国勢の買い圧力が強まり、「下がってくれると期待された春先にかけて石炭価格が下落しない」リスクである。
中国政府主導による石炭増産は、冬が本格化するなかで、主要生産地が中国北部であることを考えると思った通りの増産ができるとは考え難い。
ただ、11月の生産は3億7,084万トンと過去最高水準となった。しかし問題は寒さが厳しくなる12月~3月も増産が可能かどうかである。
12月の中国の石炭輸入は前年比▲20.8%の3,095万トン(前月+198.1%の3,505万2,000トン)と急速に減速した。国内生産の増加や、オリンピック・パラリンピック期間中の工場稼働停止に伴う需要減少などが影響したとみられる。
しかし、逆にオリンピック・パラリンピックが終了すれば稼働は再開するため、「豪州の洪水シーズン中の、中国の工場稼働再開」は価格上昇リスクを高めるとみている。
【見通しの固有リスク】
・ロシアのウクライナ侵攻に対して、欧米がロシアのエネルギー企業に制裁、供給が逼迫下場合(価格の上昇要因)。
・今冬はラニーニャ発生が厳冬リスクを高めているが、懸念に反して暖冬となる場合(価格下落要因)。
・電力・ガスをはじめとするエネルギー供給制限が経済活動を強制的に停止させ、需要が減少する場合(価格の下落要因)。
・Nord Stream2の稼働が早期に行われ、天然ガス価格が急落する場合(下落要因)。ただしこの可能性は後退。
・世界的な環境重視型世界へのシフトを受けた、石炭上流部門への投資規制強化による、供給減速懸念(価格の上昇要因。これは既に顕在化)。
【天然ガス・LNG】
天然ガス価格は中国の経済活動が活発である一方、ロシアからのガス供給が回復せず、欧州域内最大の原発を保有するフランスの原発稼働率がメンテナンスの影響などで大幅に低下していることから火力発電向けの燃料需要が旺盛なこと、石炭価格も高値を維持していること、欧州排出権価格が高止まりしていることから価格は高値を維持すると考える。
ただし、米国からのLNG輸出の増加が価格の上昇を抑制するため、価格の急騰リスクは抑制されている状況。
ノルドストリーム2はドイツ当局が承認プロセスに入っていると伝えられているが、直近のニュースだと今年の夏以降に認可の見通しで、ウクライナ問題を巡る欧州のガス供給リスクは継続すると予想される。
その可能性は高くないとみているが、仮にウクライナとロシアが戦闘状態に入れば、常識的に考えてもウクライナ経由でガスが欧州に供給されるとは考え難い。
米民主党は「ロシアがウクライナに進行した場合」ノルドストリーム2の稼働を妨げる法案を発表した。法案が成立した後、15日以内にパイプラインに制裁を科すとする共和党テッドクルーズ上院議員の案(棄却)の代案となる。
ただし、仮に制裁が行われればノルドストリーム2が稼働しないため、欧州は危機的なガス供給不足に直面することが予想される。
JKMの期間構造変化による期先のJKM価格の上昇は懸念だが、まだ2023年ゾーンが上昇するには至っておらず、早晩この需給がタイトな状態は解消する、と市場は見ていると考えられる。しかし仮に2023年まで上昇してきた場合、構造変化の可能性があるため、十分な注意が必要だ。
石炭忌避の動きから先進国ではCoal to Gasが加速するとみられること、この冬場の調達不足が来年も影響すること、が意識されこの水準が定常化するかもしれない。
そんな中、主要電力会社がJEPX向けの販売価格をJKM連動に変更しつつある。というのも、夏場が猛暑、冬場が厳冬になって電力需要が増加した場合、スポットで天然ガスを追加調達しなければならず、必然、スポット電力価格はJKM価格の影響を受けることになるためだ。
何もなければスポット電力価格は原油が基準となるJLCベースの価格に収れんするはずだが、原油とガスは需給バランスが壊れたときの裁定が十分働かないため、気象変化によるスポット調達需要が増加した場合はJKM価格の方が著しく高い、ということが今後も起きると見られる。
しかし、25ドルや30ドルといった水準の天然ガスで発電コストがカバーできる業者も限られるため、赤字の状態で電力を卸市場に供給することが非現実的であることを考えると、この構造変化が継続するとした場合、卸電力価格が上昇するだけで鳴く、電力供給不足が発生するリスクは非現実的ではないといえる。
11月の中国の天然ガス生産は前年比+5.2%の177億3,000万立方メートル(前月+15.8%の164億5,000万立方メートル)と増加、過去5年レンジを上回っている。
12月の中国の天然ガス輸入は前年比+3.7%の1,165万トン(前月+16.9%の1,073万トン)と過去5年レンジを上回っているが輸入ペースは鈍化している。
11月の中国のLNG輸入は前年比+4.4%の690万1,275トン(前月+22.9%の616万9,091トン)と過去5年レンジを上回っているが、前月ほどの水準ではなくなっている。価格上昇に伴うカーゴの手当の見送りなどもあったのではないか。
中国はパイプライン経由での天然ガスは主にトルクメニスタンから行っているが、「シベリアの力」パイプラインが開通して以降、ロシアからの調達も増加している。
ロシアの中国向け輸出は増加していた。そもそもシベリアの力経由での輸出は2021年で85億立方メートルに増加させる見込みであり、輸出の増加は契約通りとするロシアの主張に沿っている。
11月までの輸出が81.0億立方メートルであり(天然ガス1トン=1,220立方メートルと換算)、単純計算だと2021年の輸出見通しは88.4億立方メートルと計画を上回る。11月のLNG輸入の鈍化は、そのためとみるのが妥当か。
【見通しの固有リスク】
・ラニーニャ現象による厳冬の影響が価格上昇をもたらしているが、予想に反して冬場が早く終了したり暖冬になったりする場合(価格下落要因)。
・電力・ガスをはじめとするエネルギー供給制限が経済活動を強制的に停止させ、需要が減少する場合(価格の下落要因)。
・Nord Stream2が稼働して欧州のガス需給が緩和した場合(価格下落要因)。
・石炭と同様、「化石燃料であること」を理由に上流部門投資が制限される、あるいは原油生産減少による随伴ガス供給が減少する場合(構造的な価格上昇要因)。
・産油国の減産継続による随伴ガス供給の減少懸念(価格上昇要因)。
【投機筋のポジション動向】
・直近の投機筋のポジションは以下の通り。
WTIはロングが484,370枚(前週比 +21,776枚)ショートが123,865枚(▲5,904枚)ネットロングは360,505枚(+27,680枚)
Brentはロングが314,703枚(前週比+38,596枚)ショートが64,776枚(▲4,423枚)ネットロングは249,927枚(+43,019枚)
---≪LME非鉄金属≫---
【非鉄金属価格見通し】
非鉄金属価格は短期的には電力問題や異常気象、オミクロンの感染拡大に起因する供給制限が価格を押し上げるが、中期的には調整圧力が強まる展開を予想する。
足下、欧州の電力供給問題は解消しておらず、ブラジルのミナスジェライス州では豪雨の影響で多くの鉱物資源の生産・出荷に影響が出ており、かつ、ゼロコロナを標榜し、オリンピック・パラリンピックを目前に控える中国は、積極的にロックダウンを行っていることから、再び供給懸念が強まっている。
中国の発電量を見ると、11月は前年比+1.9%の6,540億kwhと前月の+4.9%、6,390kwh唐は増加しているが前年比較での伸び率は鈍化している。一方で電力消費は前年比+3.9%の6,718kwh(前月+7.0%の6,603kwh)と伸びは鈍化しているが水準は発電量を上回っている。
同時同量の原則があるため両者は同じ数値であるべきだが、統計の集計方法によるものと考えられる。しかし、需給は寄りタイトであることは間違いがなくまだ本格的に電力依存の高い精錬品の生産が回復している感じはない。
また、ロシアとウクライナの対立を受けてロシアに対する制裁強化懸念が強まっており、RusalやNornickelに対する制裁が行われた場合などを想定すると、ただでさえ供給が制限されているニッケル、アルミ、銅の価格を押し上げるだろう。
循環的な景気の調整に加えて足下のインフレや景気過熱を沈静化する目的で、中国政府が不動産市場の過熱沈静化を継続していることや、米FRBは完全に金融引き締めに舵を切っていることが価格上昇を抑制することになるため、やはり冬場の特殊な状況が終了すれば価格は下落する、というのが基本的な見方だ。
なお、長期的にはインドの人口ボーナス期入り、まだ脱炭素の流れが続いていること、省エネや脱炭素の流れに変わりがないこと、世界的な資源国の「資源ナショナリズムの流れ」を受けて、供給面・需要面の制限から価格が上昇するという見通しを変更する必要はないと考えている。
また、米政権による1兆ドルのインフラ投資は実施される見通しであることも、鉱物資源需要の増加を通じて非鉄金属価格を押し上げよう。
しかし、バイデン政権支持率低下で、増税を伴う経済対策は受け入れられない可能性は高く、当初予定通りの規模で実行されるかは微妙に。1兆ドルインフラ投資は成立したが、1.75兆ドルの歳入・歳出法案の行方は不透明であり、当初想定していたほどの需要増加にはならない可能性。
【2022年LME金属需給見通し】
銅 生産 26,351千トン(前年25,043千トン) 需要 26,782千トン(25,613千トン) 需給 ▲432千トン(▲571千トン)
亜鉛 生産 14,293千トン(13,975千トン) 需要 14,423千トン(14,092千トン) 需給 ▲130千トン(▲117千トン)
鉛 生産 12,437千トン(12,437千トン) 需要 12,463千トン(12,243千トン) 需給 ▲26千トン(+194千トン)
アルミ 生産 69,003千トン(68,782千トン) 需要 70,441千トン(70,116千トン) 需給 ▲1,438千トン(▲1,334千トン)
ニッケル 生産 2,927千トン(2,886千トン) 需要 2,960千トン(2,758千トン) 需給 ▲33千トン(▲75千トン)
錫 生産 423千トン(413千トン) 需要 428千トン(425千トン) 需給 ▲5千トン(▲13千トン)
※カッコ内は修正前予想。
【金属固有の材料】
・インドネシアニッケル銑鉄(NPI)生産、2022年はこれまでの能力増強で増産の見込み。
2020年の新規追加キャパシティは36万7,000トン、2021年は10万1,000トン。
これらの新規キャパシティからの2021年の生産見通しは38万5,000トン(前年比+19万5,000トン)、2022年は45万6,000トン(7万1,000トン)の見込み(BBG調べ)
【中国重要統計の評価】
製造業PMIは50.3(前月50.1)と改善した。生産が51.4(52.0)とやや減速下が、原材料在庫(47.7→49.2)、完成品在庫(47.9→48.5)の増加などが水準を押し上げた。
景気は基本的には減速基調にあるため、在庫の積み上がりは必ずしも良い在庫の積み上がりとは言えない。また、投入価格(52.9→48.1)、卸価格(48.9→45.5)と低下しており、徐々に需給環境は緩和しているようだ。
実際、需給状況の指標である新規受注在庫レシオは、完成品が1.02(前月1.03)、原材料が1.01(1.04)と低下しており、中国の製品・原材料需給は緩和していると考えられる。
また、PMIは改善しているものの主に大企業(50.2→51.3)の改善によるもので、中小企業の景況感は悪化(48.5→46.5)している。中国製造業の景況感は決して良いとは言えない。
12月の中国鉄鋼業PMIは総合指数は38.7(前月36.6)と改善したが、50の閾値を割り込む状態が2020年6月から続いている。引き続き、中国政府による住宅セクターの抑制が続いていると考えられる。新年早々、恒大集団の株が香港で取引停止になるなど、同国の不動産市場の混乱は続いている。
サブインデックスの新規受注は低迷(39.0→28.2→25.9→28.1)、輸出向け新規受注も(39.5→38.7→34.8→36.3)と、内外需とも低迷が続いており、在庫水準も完成品在庫が31.8(前月28.6)、原材料在庫が35.2(32.8)と低いものの前月からは増加している。
価格に対する説明力が高い新規受注・完成品レシオは0.88(前月0.91)と低下しており製品需給は緩和している。原材料レシオは0.80(前月0.79)と小幅に上昇しているが水準は低い。
中国の鉄鋼需要を牽引してきたのは建設セクターだが、12月の建設業PMIは56.3(前月59.1)と閾値の50は上回っているが、減速感が強まっている。
まとめると、全体として需要は不動産セクター、自動車など低迷しており、輸出税還付の廃止も輸出需要の減速に大きな影響を及ぼした。中国政府は国内の炭素排出抑制を目的として粗鋼生産を2021年度程度に抑えると予想される。
12月の中国の貿易統計を見ると、ベンチマークである精錬銅の輸入は前年比+15.0%の58万9,000トン(前月▲9.1%の51万402トン)と過去5年レンジを上回り輸入が増加した。国内の電力供給不足による生産制限を受けて輸入が増加したとみられる。
一方、銅精鉱の輸入は前年比+9.6%の206万トン(前月+19.6%の218万8,000トン)と高い水準を維持している。TCが高止まりする中、上海在庫が著しく少なく季節的には2月~3月にかけてが在庫の積み増し時期に当たるため、それに備える動きと考えられる。
エネルギー不足の影響で輸入の伸びが減速していたが、中国政府の対策推進によりやや国内生産が回復した可能性はある。ただ、銅製錬事業者の10月の稼働率は86.1%と前月、過去5年の最低水準より低く、まだ回復は確認されていない。
11月の銅スクラップの輸入は前年比+76.6%の16万4,652トン(前月+98.1%の13万3,011トン)。
統計からはまだ中国の工場の生産・稼働の混乱は続いており、正常化はまだ先になると予想される。
工業金属のフロー需要に影響する工業生産は、単月ベースでは+3.8%(前月+3.5%)とやや回復したが、1-11月累計で前年比+10.1%(1-10月期+10.9%)と伸びが鈍化しており、電力供給不足によって工業活動が減速したと見られる。
一方、不動産開発投資は1-11月期累計で前年比+6.0%の13兆7,314億元(1-10月期+7.2%の12兆4,934億元)とこちらも減速している。習近平国家主席が直々に不動産規制緩和の指示を出したことも頷ける。
ストック需要の指標である固定資産投資も年初来累計で+5.2%(+6.1%)とこちらも減速が鮮明に。公的セクターの伸び鈍化は所与(+4.1%→+3.0%)としても、よりボリュームの大きな民間部門が前年比+7.7%(+8.5%)と伸びが減速しており、全体として中国政府によるバブル抑制行動が影響したと考えられる
ただし、中国政府は不動産規制緩和と、預金準備率の引き下げといった景気刺激策の影響で減速は数ヵ月後に底入れするだろう。電力供給の制限やオリ・パラの開催を考えると、回復は3月以降になるのではないか。
【政策動向・脱炭素】
・政策動向・脱炭素の流れは中長期的な材料。米バイデン政権は8年間で1兆2,000億ドルのインフラ投資計画実施計画。
道路・橋梁・主要プロジェクトに1,090億ドル、電力インフラに730億ドル、旅客・貨物鉄道に660億ドル、ブロードバンド・インターネットサービスに650億ドル、公共交通機関に490億ドル、空港に250億ドルを投じる。
しかし、民主党内でも1.75兆ドルの税制・支出法案に造反する議員が出てきており想定通りの規模や内容で景気刺激が行われるかどうかは微妙になってきた。
これまで中国が鉱物セクターの需要動向に関して主役であり、今後も非鉄金属価格の動向は中国動向が左右するが、「新規の需要」については欧米動向が重要になる可能性は意識しておきたいところ。
米国・中国・インドがどのような動きをするかに環境政策は左右されるが、ここまでの各国の動きを見ていると当面は環境向けに使用される金属の需要増加は「今後10年・20年の大きなテーマ」となる可能性が高い。
軽量化目的のアルミ、EV向けのニッケル、銅(通常25キロ/台の銅が使われるが、EVは80キロ/台)、蓄電池としての鉛、コバルト、リチウムなど。
2021年の中国全国乗用車市場情報連合会が発表した2021年の自動車総販売台数は前年比+4.5%の2,050万台、そのうちEVは244万台となっている。
なお、EV戦略に慎重なスタンスだったトヨタ自動車が2030年までにEV車を350万台/年販売する方針。
そもそもトヨタは世界で一番モーターやバッテリーを組み込んだ自動車を販売してきた企業であり、その企業が本気になったということは、現在、EV車販売首位のテスラの販売能力を遙かに上回ると予想される。
この場合、バッテリー向け資源需要が構造的な増加局面に入る可能性が高まることになる。
ただし、バッテリーの必須資源を、政治的な対立が予想され、安定的なサプライヤーとしての信用が高くない中国以外からの調達をどれだけ引き上げることができるかも非常に重要な論点となる。
脱炭素の一環でEV戦略を国として進めるならば、資源外交はより重要になる。戦略物資が新しく1つ加わったと考えるべきである(アンモニアや水素の製造で引き続き原油は必須資源)。
【見通しの固有リスク/個別金属の特殊要因】
・ウクライナ問題を巡り、ロシアが欧米から制裁を受けてニッケルやアルミなど、同国への供給依存が高い商品の供給が逼迫する場合(価格の上昇要因)。
・中国不動産セクターの調整が長びき、中国の不動産バブルがはじける場合(価格下落要因)。
・ロジスティクスに障害が残る中、非鉄金属の偏在が現物プレミアムを押し上げるリスク(欧米で顕在化)。
・猛暑や渇水による燃料価格上昇で、1.電力供給不足による稼働停止・供給減少、2.発燃料価格の上昇を通じて生産コストが上昇する、場合(価格上昇リスク)。
・米国経済が正常化する中でドル高が進行し、投機買いが膨らんでいる非鉄金属市場で投機の手仕舞い売り圧力が高まる場合(下落リスク)。
・上流部門投資不足並びに鉱石の品位低下による、鉱山供給の制限。
・チリやペルーで広がる左派勢力伸長に伴う大衆迎合的な政策が可決し、鉱山生産に過剰なロイヤルティが適用される場合(供給減少ないしは生産コスト上昇で価格の上昇要因)。
ペルーは新大統領のペドロ・カスティジョが指名したミーシャ・バスケス新首相は、鉱山課税を変更するために必要とされる憲法改正は優先事項ではないとし、今のところ課税強化は棚上げとなっていると見られる。
一方、チリでは上院が(修正の可能性を含み)以下の法案を可決。12月19日の大統領選決選投票の結果で、左派のガブリエル・ボリック氏が勝利したため、法制化される可能性が高い。
3%の新ロイヤルティに加え、銅価格に連動して税額が賦課される仕組み。
2ドル~2.5ドル/ポンド(4,406~5,508ドル/トン):15%2.5ドル~3(5,508~6,609):35%3ドル~3.5(6,609~7,711):50%3.5ドル~4(7,710~8,813):60%4ドル~4.5(8,813~9,914):70%
年間販売量が5万トン未満の小規模生産者は品位95%の粗銅の場合▲5%の軽減税率、アノードの場合(99.4~99.6%)が適用される。
2023年までは現行の営業利益率によって5~14%の鉱業ロイヤルティが適用されるが、2024年以降は新税制を適用。
・メキシコは鉱業改革法の中で、エネルギー転換に必要なリチウムとその他の戦略的鉱物の採掘権をこれ以上容認しないとしており、これに銅やネオジム、プラセオジムなどのレア・アースも含まれる可能性。
・インドネシアはニッケル、ニッケル中間製品のみならず、銅、錫、ボーキサイトにも課税強化や輸出制限を検討(該当金属価格の上昇要因)。
・LMEベースメタルではないが、中国ではレア・アースの生産を国有企業に集約して管理する動きが強まっており、今後の自動車セクターの中核となる電気自動車生産のサプライチェーンに大きな影響を与える可能性。
レア・アース大手五鉱稀土は、親会社の中国五鉱集団がアルミ大手のチャイナルコやレア・アースの大産地である江西省政府との間でレア・アース関連資産の戦略的な再編交渉を進めていると発表。
中国政府が2020年および2021年に許可したレア・アースの採掘割当量を見ると、CMRE、チャイナルコ、江西省地方政府傘下企業の3社だけで、中国全土で採掘を許可された(ジスプロシウムなど)重希土類の割当量の67.9%、(ネオジムやセリウムなど)軽希土類の割当量の39.1%を占める。
・環境問題や人権問題(コンフリクト・メタルの問題)を背景とする鉱山供給の減少。
また、環境に配慮したメタル使用の義務化などが欧州で進む場合などのコストアップ(グリーン・メタルの義務化によるコスト増加)。
中国の環境規制強化に伴う供給の減少。エネルギー排出量の多い新疆ウイグル自治区でのアルミ生産は減産の影響は既に材料視されている。
【投機筋のポジション動向】
・LME投機筋買い越し金額 前週比+8.4%の311億ドル(前週 287億ドル)・LME投機筋買い越し数量 前週比+9.8%の6,268.4千トン(前週 5,706.7千トン)
---≪鉄鋼原料≫---
【鉄鋼原料価格見通し】
鉄鉱石価格は短期的にはオリンピック・パラリンピック前の駆け込み需要で堅調な推移が予想されるが、開催期間中は北部の生産が減少するため、「在庫積み増しの時期ではあるが、価格は低迷」すると予想される。
既に鉄鉱石在庫は絶対水準・在庫日数水準でも過去5年の最高水準を上回っており、現状、製鉄所の稼働停止が続くのであれば「もう要らない状態」である。
しかし、稼働率が低下する中では歩留まりの高いより高品質の海外鉱石・海外炭を求める動きも同時に強まるとみられ、海上輸送市場は底堅い推移となるのではないか。
一方、今年は米欧中のインフラ投資による建材向け需要増加が期待されることも、鉄鉱石価格は底堅い推移になるだろう。
なお、鉄鉱石先物の期先の価格が限界生産コストの目安として意識されるが、90ドル台まで上昇しており、中期的な価格の目線はやや切り上がっている。
原料炭については中国の国内生産回復はあったが、インドネシアの石炭禁輸措置に加え、豪州が洪水のシーズンに入ることから前倒し調達圧力が強まるとみられ高値圏を維持する公算。ただし、長期的には中国の増産や、コロナの影響緩和で下落に転じると考える。
【中国の政策動向】
中国共産党は2021年から始まった5ヵ年計画で鉄鋼生産量の削減の必要性を表明している。今のところ昨年の生産量を超えないようにする、というのが中国政府の目標。
最大生産都市である唐山市は、2021年20日~12月31日まで、大気汚染基準に違反し、データを改ざんした4社は7月~12月末まで▲30%減産、その他の16社は12月末まで▲30%の減産を新たに実施することを義務づけられている。
これにより、唐山市の粗鋼生産は前年比▲2,223万トンの1億2,177万トン、鉄鉱石需要は▲3,500万トン減少するとみられている。
中国3番目の鉄鋼ハブである山東省は、2021-2025年の5ヵ年計画で、素行の環境上限(一般炭消費量535キログラム、2020年は547キログラム)、硫化物排出を0.3キログラム(2020年 0.85キログラム)、窒素化合物排出を0.6キログラム(1.6キログラム)、水の使用量を2.85立法メートル(3立方メートル)に低減させる計画。
なお、今年開幕のオリ・パラの期間、北京市、天津市、河北省、山西省、山東省、河南省では粗鋼生産を▲30%以上削減、河北省唐山市は大気汚染物質の排出を▲40%以上削減、山西省は鉄鋼やアルミ、鋳造、セメントなどの建材生産を制限、河北省はセメント生産を制限する方針を打ち出している。
概ね、新年以降3月15日までが規制対象期間になるが、これに備えた「駆け込み生産」があと2週間ほど続くことになるだろう。
粗鋼生産が減少すれば、鉄鉱石の在庫水準の指標である在庫日数も、分母が小さくなるため上昇が予想され、鉄鉱石価格の下落要因となる。これは原料炭も同様。
【中国重要統計の評価】
12月の中国鉄鋼業PMIは総合指数は38.7(前月36.6)と改善したが、50の閾値を割り込む状態が2020年6月から続いている。引き続き、中国政府による住宅セクターの抑制が続いていると考えられる。新年早々、恒大集団の株が香港で取引停止になるなど、同国の不動産市場の混乱は続いている。
サブインデックスの新規受注は低迷(39.0→28.2→25.9→28.1)、輸出向け新規受注も(39.5→38.7→34.8→36.3)と、内外需とも低迷が続いており、在庫水準も完成品在庫が31.8(前月28.6)、原材料在庫が35.2(32.8)と低いものの前月からは増加している。
価格に対する説明力が高い新規受注・完成品レシオは0.88(前月0.91)と低下しており製品需給は緩和している。原材料レシオは0.80(前月0.79)と小幅に上昇しているが水準は低い。
中国の鉄鋼需要を牽引してきたのは建設セクターだが、12月の建設業PMIは56.3(前月59.1)と閾値の50は上回っているが、減速感が強まっている。
まとめると、全体として需要は不動産セクター、自動車など低迷しており、輸出税還付の廃止も輸出需要の減速に大きな影響を及ぼした。中国政府は国内の炭素排出抑制を目的として粗鋼生産を2021年度程度に抑えると予想される。
製造業PMIは50.3(前月50.1)と改善した。生産が51.4(52.0)とやや減速下が、原材料在庫(47.7→49.2)、完成品在庫(47.9→48.5)の増加などが水準を押し上げた。
景気は基本的には減速基調にあるため、在庫の積み上がりは必ずしも良い在庫の積み上がりとは言えない。また、投入価格(52.9→48.1)、卸価格(48.9→45.5)と低下しており、徐々に需給環境は緩和しているようだ。
実際、需給状況の指標である新規受注在庫レシオは、完成品が1.02(前月1.03)、原材料が1.01(1.04)と低下しており、中国の製品・原材料需給は緩和していると考えられる。
工業金属のフロー需要に影響する工業生産は、単月ベースでは+3.8%(前月+3.5%)とやや回復したが、1-11月累計で前年比+10.1%(1-10月期+10.9%)と伸びが鈍化しており、電力供給不足によって工業活動が減速したと見られる。
一方、不動産開発投資は1-11月期累計で前年比+6.0%の13兆7,314億元(1-10月期+7.2%の12兆4,934億元)とこちらも減速している。習近平国家主席が直々に不動産規制緩和の指示を出したことも頷ける。
ストック需要の指標である固定資産投資も年初来累計で+5.2%(+6.1%)とこちらも減速が鮮明に。公的セクターの伸び鈍化は所与(+4.1%→+3.0%)としても、よりボリュームの大きな民間部門が前年比+7.7%(+8.5%)と伸びが減速しており、全体として中国政府によるバブル抑制行動が影響したと考えられる
ただし、中国政府は不動産規制緩和と、預金準備率の引き下げといった景気刺激策の影響で減速は数ヵ月後に底入れするだろう。電力供給の制限やオリ・パラの開催を考えると、回復は3月以降になるのではないか。
【中国鉄鋼製品輸出入・在庫動向】
12月の中国の鉄鋼製品の輸入は前年比▲26.9%の100万1,000トン(前月▲23.0%の142万4,000トン)と減速した。国内製鉄所の稼働は例年並みで(主要生産地である唐山市の高炉稼働率は過去5年平均である73.7%程度となる73.8%)あり、国内の経済活動が過熱しているというわけではなさそうだ。
11月の中国粗鋼生産は前年比▲25.1%の6,931万トン(10月▲24.5%の7,158万トン、9月▲21.2%の7,375万トン、8月▲13.2%の8,324万トン、7月▲8.4%の8,679万トン、6月+1.5%の9,388万トン、5月+6.6%の9,945万トン)と大気汚染防止の観点と、燃料供給の問題から生産減少が続いている。
一方、12月の鉄鋼製品の輸出は前年比+3.6%の502万6,450トン(前月▲0.9%の436万1,000トン)と前月からやや回復したが、それでも過去5年の最低水準であり国内供給を優先させていることが窺える。
なお、中国の鉄鋼製品需要は鈍化しているとみられるが、在庫水準は前週比+10万6,000トンの1,055万9,000トン(過去5年平均 981万6,000トン)と例年を上回る。
【中国鉄鉱石輸出入・在庫動向】
11月の鉄鉱石の輸入は前年比+7.0%の1億496万トン(前月▲14.2%の9,160万トン)と急増した。鉄鉱石在庫の水準が低かったこと、価格が急落したことによる割安感からの輸入増加だったと考えられる。
ただし、鉄鉱石在庫の水準は既に高いため、鉄鉱石価格が割安ではあるものの12月以降の輸入は減速するのではないか。
鉄鉱石港湾在庫は前週比+70万トンの1億5,670万トン(過去5年平均1億3,331万6,000トン)、在庫日数は41.7日(過去5年平均 32.7日)と数量ベース・日数ベースでも過去5年の最高水準を上回っており、需給が緩和していることは明確で価格の下押し要因となる。
【中国原料炭輸出入・在庫動向】
原料炭は中国の生産活動回復が継続しているが、前年比の伸び鈍化が明確になってきたため(中国政府の方針通り)、価格は下落余地を探る動きになると考える。
また、中国政府は原料炭を含む石炭の国内生産を増加させる方針であることも、海上輸送原料炭価格を下押ししよう。
とは言え、環境規制強化の流れで世界的に原料炭供給を増加させられる地域が限定されることから、下落余地も同様に限定される都見るのが妥当だ。
11月の中国の原料炭輸入は前年比+108.0%の774万1,656トン(前月▲25.7%の438万4,018トン)と急回復。豪州からの輸入が前月の77万7,915トンから、267万793トンに増加したことが寄与した。国内の稼働が落ちる中では「高品位」な海外炭を求める動きが強まる。
中国の港湾在庫の水準は鉄鋼の最大生産省である河北省の主要港である、京唐港の港湾在庫は前週比▲6万トンの168万トンとなり、過去5年の最高水準である210万トンを下回っている。
在庫日数は8.3日と、過去5年の最高水準である9.6日を下回り、需給はややタイト化したことが窺える。
【見通しの固有リスク】
・中国の不動産セクター減速が、建材需要を減少させる可能性(鉄鋼製品価格の下落を通じて鉄鋼原料価格の下落要因)。
・世界的に広がる環境規制強化の流れで、鉄鉱石や原料炭などの生産に一定の影響が起きる場合(価格上昇要因)。
・コロナウイルスの感染拡大長期化による、鉱山生産の減少リスク(価格上昇要因)。
---≪貴金属≫---
【貴金属価格見通し】
【金】
金価格は米FRBが金融引き締めに舵を切りつつある中で長期金利が上昇、期待インフレ率も低下圧力が掛る中で実質金利が上昇しており、基準価格を切下げる展開が予想されるため、やはり軟調な推移になると考える。
しかし同時に、地政学的リスクの高まりでリスク・プレミアムが上昇しており、安全資産需要の高まりが金価格を高値に維持すると考える。今年は食品価格の高騰をはじめとするインフレの懸念が強いため、地政学的リスクが顕在化する可能性が高い。
しかし、逆に言えば地政学的リスクが後退すれば、金価格は比較的大きな下落になるだろう。
現在の金の実質金利で説明可能な価格(金基準価格)は1,556ドル、そこからの乖離(リスク・プレミアム)は262ドル。
リスク・プレミアムは、過去3ヵ月平均で145ドル、6ヵ月で156ドル、1年で162ドル、5年で184ドルとなっている。
なお、金価格を実質金利要因と為替要因に分類した場合、為替要因はリスク・プレミアムのところに内包されると整理している(為替は名目金利の影響も受けるので、純粋に為替の要因のみ切り出すのが困難であることから)。
以上を勘案すると、結局の所、金価格は当面1,700ドル~1,800ドルをコア・レンジとする推移が予想される。
なお、過去5年平均を基準にすると名目金利1bpに対する金価格の感応度は±3ドル弱であり、米10年金利が現在の水準から30bp上昇すれば▲90ドルの下落圧力となる(60bpで▲180ドル)。
【銀】
銀価格は金価格との比較感で売買されるが、金銀レシオは現在、79.2倍。過去1年を基準にすると72倍、5年では80倍、2000年以降では66倍程度が妥当で、長期的には65倍程度を目指す(工業活動が回復する)ことになるだろう。
今後、さらに金銀レシオが低下するには、工業需要の増加が必須。今後、IT化の進捗でエレクトロニクス向けの需要が増加することが必要だが、半導体供給が回復すれば自動車向けの需要が回復するため、春先頃から金銀レシオには下押し圧力が掛ると見ている。
なお、銀価格=金価格÷金銀レシオ であり、金銀レシオが低下することで金価格が変動した時の弾性値が上昇(ボラティリティは上昇し、足元金の2倍に上昇)する点は留意。
(例)金が2,000ドル、銀が20ドルのとき 金銀レシオが100倍→金価格±1ドルの変化で銀価格は±1セント変化 金の変化率は±0.05%、銀は±0.05%
金銀レシオが1倍→金価格±1ドルの変化で銀価格は±1ドル変化 金の上昇率は±0.05%、銀は±5%
【PGM】
プラチナ価格は自動車の半導体供給不足が解消すると期待されるため、2022年は緩やかな上昇を見込んでいる。しかし、想定以上に半導体供給の回復に時間が掛りそうであり戻りも限定されそうだ。
需給バランスは投機を除けば供給過剰であり、投機筋の「思惑」が価格を左右しやすい。その意味ではトヨタ自動車がEVに舵を切ったことは、PGM需要と価格にとってはかなりマイナスな材料となる。
ただ、車での移動が大半である米国が充電ステーションを整備してまでEVに舵を100%切るとは考え難く、来年の中間選挙で民主党が苦戦することはほぼ必定であることを考えると、一定のガソリン車需要は残る(あるいは減少ペースが脱炭素派が期待するほどのものではない)可能性を排除しない。
また、仮に脱炭素が加速するならば、EVではなくて燃料電池車、という選択も残されている。この場合、パラジウムではなくプラチナが使用されるため、いずれのシナリオでも、長期的にはパラジウムの価格は下押し圧力が掛りやすい。
とはいえ、当面は自動車販売動向を注視する必要。
12月の米自動車販売は年率1,244万台(市場予想1,310万台、前月1,286万台)と減速、目先はパラジウム価格の下落要因に。
中国の自動車販売は中国自動車工業協会の集計で以下の通り自動車販売の低迷は続いている。半導体供給の回復で反転すると考えるが、Q122以降になろう。
11月 前年比 ▲9.0%の252万2,000台10月 ▲9.0%の233万3,000台9月 ▲19.5%の206万6,000台8月 ▲17.4%の179万8,841台7月 ▲11.8%の186万3,550台。6月 ▲12.4%の201万5,309台5月 ▲3.0%の212万7,000台4月 +8.8%の225万台3月 +76.5%の252万5,000台2月 +371%の146万台1月 +30%の250万台
この回復がある、ないしは供給側の混乱(南アフリカやロシアに対する制裁)による供給減少がなければ、PGM価格は低水準で推移しよう。
【見通しの固有リスク】
・ウクライナ問題を巡って欧米諸国がロシアの鉱山会社に対して制裁を科し、供給減少が起きる場合(価格上昇リスク)。
・主要生産国の南アフリカの電力供給不安や、コロナウイルスの影響拡大で供給が滞る場合(PGMの価格上昇要因)。
南アフリカ政はEskomの一部石炭火力に対する温室効果ガス排出規制を免除する申し出を棄却したことで、同国の3分1の電力供給16,000MWの供給が困難になる可能性。
・米国をはじめとする先進諸国が金融引き締め方向に舵を切っており、アフリカや中南米、東南アジア、東欧など新興国から資金が流出して信用リスクが高まる場合(安全資産価格の上昇要因)。
・中国地方政府・中堅中小企業の財政状況悪化に伴う景気減速による安全資産需要の増加(実際に破綻が意識されるのは2030年以降か)。
・世界的なEVシフト加速による、PGM需要の激減。
ただし、環境重視型社会へのシフトが加速、「水素社会」まで到達すると、燃料電池車需要が増加して構造的にプラチナ価格の上昇要因となる可能性。
【投機筋のポジション動向】
・直近の投機筋のポジションは、金はロングが290,102枚(前週比 ▲6,481枚)、ショートが90,365枚(+5,137枚)、ネットロングは199,737枚(▲11,618枚)、銀が66,193枚(+1,085枚)、ショートが38,645枚(+4,456枚)、ネットロングは27,548枚(▲3,371枚)
・直近の投機筋のポジションは以下の通り。
プラチナはロングが27,751枚(前週比 +71枚)ショートが22,462枚(+1,544枚)、ネットロングは5,289枚(▲1,473枚)
パラジウムが2,704枚(▲7枚)、ショートが5,682枚(▲221枚)ネットロングは▲2,978枚(+214枚)
---≪農産品≫---
【穀物価格見通し】
シカゴ穀物価格は堅調な推移になると考える。冬場のラニーニャ現象の発生(北半球の天候相場は終了も、南半球の天候相場入り)による供給懸念が強まっていることや、脱炭素進捗に伴う代替エネルギー需要が高まること、ロシアとウクライナの対立を背景にした供給制限懸念などが材料。
12月の中国の大豆輸入は前年比+17.9%の887万トン(前月▲10.6%の857万トン)と過去5年平均を上回った。
中国の大豆港湾在庫は過去5年レンジの最高水準は下回っているが、高い水準を維持しており、以前ほど需給は逼迫していない。
Locust Watchではソマリアとエチオピアに影響が限定されているが、ソマリアで発生した群生相の一部がエチオピア南部、ケニア北部に飛来している。
今のところ北アフリカ全域に大きな被害をもたらすような状態ではない。
https://www.fao.org/ag/locusts/common/ecg/75/en/220106update.jpg
【見通しの固有リスク】
・ラニーニャ現象継続による投機筋の買い圧力の強まり(価格の上昇要因)。
・環境重視型社会へのシフトにより、燃料向け穀物需要が増加する場合(価格の上昇要因)。現在はそれほどの数量でもない、バイオディーゼル向けの大豆需要増加など。
・新型コロナウイルスの影響拡大による、輸出活動の停滞(シカゴ定期を含む生産地価格の下落要因)。
【米農務省需給報告データ】
・米作付け意向面積トウモロコシ 9,114万エーカー(市場予想9,313万エーカー、前年9,699万エーカー)大豆 8,760万エーカー(9,010万エーカー、8,351万エーカー)小麦 4,636万エーカー(4,495万エーカー、4,466万エーカー)綿花 1,204万エーカー(1,215万エーカー、1,370万エーカー)
・米穀物最終作付け面積 実績(前年)トウモロコシ 9,269万エーカー(9,082万エーカー)大豆 8,756万エーカー(8,383万エーカー)小麦 4,674万エーカー(4,425万エーカー)
・1月米需給報告単収見通し(実績/市場予想/前月)トウモロコシ 177.0Bu/エーカー(177.1、177.0)大豆 51.4Bu/エーカー(51.3、51.2)小麦 44.3Bu/エーカー(NA、44.3)
・1月米需給報告生産見通し(実績/市場予想/前月)トウモロコシ 151億1,500万Bu(150億7,818万Bu、150億6,200万Bu)大豆 44億3,500万Bu(44億3,400万Bu、44億2,500万Bu)小麦 16億4,600万Bu(NA、16億4,600万Bu)
・1月米需給報告輸出見通し(実績/前月)トウモロコシ 24億2,500万Bu(NA、25億Bu)大豆 20億5,000万Bu(NA、20億5,000万Bu)小麦 8億2,500Bu(NA、8億4,000万Bu)
・1月米需給報告在庫見通し(実績/市場予想/前月)トウモロコシ 15億4,000万Bu(14億8,315万Bu、14億9,300万Bu)大豆 3億5,000万Bu(3億5,319万Bu、3億4,000万Bu)小麦 6億2,800万Bu(6億926万Bu、5億9,800万Bu)
・12月末四半期在庫 実績(前期末)トウモロコシ 116億738万Bu(116億4,700万Bu、12億3,500万Bu)大豆 31億4,900万Bu(31億2,781万Bu、2億5,700万Bu)小麦 13億9,000万Bu(14億1,496万Bu、17億7,400万Bu)
・1月CONABブラジル作付け面積(市場予想/前月)トウモロコシ 2,094万ha(2,087万ha、2,094万ha)大豆 NA(4,049万ha、4,035万ha)
・1月CONABブラジル生産量(市場予想/前月)トウモロコシ NA(1億1,574万トン、1億1,718万トン) 単収 NA(5,546kg/ha、5,596kg/ha)大豆 1億4,050万トン(1億3,582万トン、1億4,279万トン) 単収 NA(3,355kg/ha、3,539kg/ha)
【投機筋のポジション動向】
・直近の投機筋のポジションは以下の通り。
トウモロコシはロングが491,328枚(前週比 ▲35,669枚)、ショートが83,836枚(+2,320枚)ネットロングは407,492枚(▲37,989枚)
大豆はロングが181,722枚(+8,560枚)、ショートが43,450枚(+844枚)ネットロングは138,272枚(+7,716枚)
小麦はロングが100,415枚(▲2,137枚)、ショートが101,881枚(+3,409枚)ネットロングは▲1,466枚(▲5,546枚)
◆本日のMRA's Eye
「資源インフレ・高ボラティリティ時代への備え」
資源インフレの扉を叩いたコロナウイルスの発生
2021年は新型コロナウイルス禍からの脱却の年となったが、コロナからの脱却によりこの長い間ほとんど想定していなかった「インフレへの扉」を開いた可能性がある。今回のインフレは主に鉱物資源を主体に発生すると考えられるが、同時にエネルギー価格も上昇する展開が予想される。
インドや中国のインフラ投資需要が加速すると思われること、米中対立を背景とするサプライチェーンの見直しに伴う投資が各地で起きる可能性があること、脱炭素のためのインフラ投資が行われる見通しであること、化石燃料の上流部門投資が制限されることが背景である。
インドや中国のインフラ投資は近代化を目的とする投資であり、労働人口が非労働人口の2倍以上の時に近代化投資が加速する「人口ボーナス期」に入っていることが影響している。
このときの投資規模は人口の規模と国土に比例するためインド・中国で大規模な投資が継続することは鉱物資源の需要増加に直結する。
また、米国と中国の対立が続く場合、米国も中国に対抗して生産性向上のための国内インフラ投資が必要になるし、その他の国も米国向け・中国向けの2種類の仕様に対応する必要がでてくる。このことも設備投資需要を増加させるだろう。
しかしより問題なのが脱炭素の動きが加速している点だ。
市場では脱炭素の期限を決めて推進することに対して懐疑的な見方も出始めているが、先進国は程度の差こそあれ、脱炭素の動きは継続すると予想される。脱炭素は国際的に共通のルールを決めて強制的に熱源を別の熱源に交換するであり経済合理性がなかったとしても別の熱源を利用することを意味し、エネルギーの価格は上昇することになる。
また、これまでエネルギーとして用いていなかった資源をエネルギーとして使うため、代替エネルギーとして選定された商品の市場需給は著しくゆがむことになる。
代表的なのはバッテリーに用いるニッケルやコバルト、リチウム、バイオ燃料に用いられるパーム油や大豆油、二酸化炭素の排出を抑制するために石炭と混焼するアンモニアなど。これらの商品価格は需要が増加するため上昇することが見込まれる。
一方、脱炭素の進捗で需要が減る見通しの原油や石炭も化学品や水素の原料としての需要は継続するとみられ、技術革新が起きない限り需要はなくならないと予想される。
さらに言えばOPEC諸国以外の国では積極的な上流部門投資が手控えられるためOPECのシェアが上昇し、競争相手が減る中で「価格コントロールが容易」になることが予想される。競合が減る以上値下げ競争が起きにくくなるため、販売量が減るならばOPECは価格を引き上げるだろう。
このような状況を受けて既に資源国では資源ナショナリズム的な動きが強まっており、南米ではロイヤリティフィの引き上げが検討され、インドネシアはEVに使用する資源の輸出を制限する方針を表明し、中国が強く関与していたコンゴ民主共和国も鉱山権益について見直しをすると表明している。
結局、「需要がある中で」生産者側の支配力が増すため価格の絶対水準は上昇し、かつ、生産者側の思惑で価格が乱高下しやすくなることを意味する。
エネルギーについても供給能力が制限されることを考えると価格水準が高いだけでなく、異常気象発生による需要増加時の対応能力が低下するため価格は乱高下することになる。
なお、もし異常気象が温暖化によるものであれば脱炭素を進めた先の目標が1.5度の気温上昇であり、気温が下がる訳ではないため今後も異常気象は頻発することが予想される。
企業業績への影響
上述のシナリオ通りであれば、資源価格が上昇することによってコストプッシュ型のインフレが発生する可能性が高い。
日本は国内で消費される、あるいは加工して海外に輸出する商品のほとんどを海外からの輸入に頼っている。
輸入金額の大きな商品がより海外市況の影響を受けるがその点では原油や石炭を用いる業種のコスト負担が重くなることになる。また、これらの輸入品を加工して販売する二次市場、三次市場が存在するため実際の市場規模は輸入額よりも遙かに大きい。
例えば原油からナフサを製造し、そこからエチレンやベンゼンといった石油化学基礎製品を製造し、さらに加工して誘導品を製造、その後、様々な産業に用いられるといった具合である。発電のために用いられるLNGや石炭もそこからの製造品である電力市場という市場が存在している。
では具体的にどういった業種が影響を受けるか。弊社が試算した費用に占めるエネルギーや資源のコストに占める比率はリンク先のグラフの通りで、資源価格の影響を受けない業種はないといっても言い過ぎではない。
特に電気やガスは製造業・非製造業を問わず用いられているため、影響は全ての業種に及ぶといって良いだろう。
費用は「数量×価格」のかけ算で決まる
これまで日本はこうした資源価格の上昇リスクを主に数量を減らす方法で回避してきた。相見積もりを取って手数料を削ったり、設計を変えて使用数量を減らしたりといった方法が採用されてきた。
企業の原料・燃料調達コストは「数量×価格」で決定されるためこの数量部分を小さくすることで全体のコストを抑制する手法である。
しかしこの手法が有効なのは価格水準がさほど動かない場合に限られる。例えば数量を▲10%削減しても、価格が20%増加すれば全体のコストは8%増加してしまう(図表のA>Bとなる場合)。
これを回避するために、サプライチェーンの中で少しずつこの価格上昇分を負担するということも行われてきたが、産業全体を考えた時にコストアップになっていることは変わらないし、使っている商品をゼロにすることはできない。
そのため今後はこうした数量のマネジメントを行うと同時に、価格の変動リスクについてもマネジメントする必要が出てくる。商品市場の代表銘柄である原油や銅の価格変動性は既に高まっている状況だ。
欧米では先物や金融商品を用いた価格変動リスクヘッジを活用している企業も多いが、数量削減に加えてこうしたツールを用いることも選択肢の一つだろう。
ただ、実際にそれを行う場合は「事前に」リスク量の測定や体制作りを行う必要がある。
実際に価格が上昇してからは打てる手が限られるからだ。サプライヤーから固定の価格で調達するといったことも選択肢であるが、この場合サプライヤー側が価格変動リスクを制御する体制を作る必要が出てくるため、結局は誰かがこの価格変動リスクを制御する必要性に迫られることになる。
個人への影響は
企業が自社で価格リスクの変動を制御できたとしても100%価格リスクから解放されるわけではなく、最終的には価格上昇分が最終消費者である消費者に転嫁されることが予想される。
このとき、最も直接的に影響を受けるのが電気やガソリンなどのエネルギー価格の上昇で、車による移動が中心の郊外に居住する人の生活への影響は小さくない。
脱炭素の動きが継続するならば企業側は設備投資が必要になるため、最終的にはこのコストは消費者に転嫁されることになるだろう。
また、企業がエネルギー価格を直接引き上げなくても温室効果ガス削減を抑制する目的で炭素税といった形で国民負担になる可能性も有り得る。
また、原油価格が上昇することで化学製品価格が上昇し、ペットボトル、弁当のトレイ、洗剤や洋服に用いる合成繊維の価格が上昇することも想定される。
この他、脱炭素の目的でアンモニアが石炭と混焼されるようになると窒素市場の需給が逼迫し、化学肥料の価格を押し上げて食品価格を押し上げる可能性があるほか、再生可能エネルギー普及のために大豆油やパーム油などの食用に今日される油脂類の価格が上昇することもあり得る。
かつて米国でガソリンの添加剤としてトウモロコシ由来のエタノール需要が増加した時も同様のことが起きた。家畜の餌となる穀物類の価格が上昇すれば肉類の価格への影響も無視できない。
個人の場合も同様で、使用数量を減らす他、価格変動リスクを回避するために先物市場の活用や金融商品の活用もリスクコントロールの手段として検討する必要が出てくるかもしれない。
これらはインフレが現実となった場合の世界で起きること、検討しなければならないことだが、国民負担が増加するにつれ「ここまで負担をして行うことなのか?」という声が上がる可能性は低くない。
しかしその場合でも、脱炭素の動きや米中対立によるサプライチェーンの見直しの動きが全くなくなってしまうことは考え難い。金融政策や先行きの経済見通し格差から円安が進む可能性も高い。
この20年近くデフレに悩まされてきた日本だが、ほとんどの人が慣れていない「高い水準で資源価格が乱高下する世の中」を想定して事前に準備しておくことが必要だろう。
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