原油価格下落で調整
- MRA商品市場レポート
2021年10月28日 第2064号 商品市況概況
◆昨日の商品市場(全体)の総括
「原油価格下落で調整」
【昨日の市場動向総括】
昨日の商品市場はエネルギー価格の下落を受けて、軒並みほとんどの商品が水準を切下げる展開となった。
イランの核合意復帰期待や米石油統計での在庫増加が価格を下押しした形だが、恐らく価格上昇に伴う需要減少(レーショニング)が意識されたことも影響したと見られる。
原油価格は冬場は高い水準を維持するとみられるが、冬場が終る、冬場の燃料調達に目処が立てば下落に転じると考えられるため、さらに冬の気温が低下するなどの要因がなければそろそろ上値は重くなると予想される。
ただ、実際に供給が始まり、我々消費者が「安くなったエネルギー」を手にすることができるのはまだ先であり、むしろこれまでの原油価格の上昇はこれから時間差をもって影響が顕在化するため、「市場価格と実際の価格の乖離」には注意したい。
なお、エネルギー価格の上昇は製造業だけではなく、サービス業にも影響が出るため「製造業だけのこと」と考えない方が良い(業種別資源価格のコストに占める比率はこちらから)。
https://marketrisk.jp/news-contents/contents/18256.html
その一方で、基本的に「地産地消」の商品である天然ガスは、米国の再びの厳冬予報を受けて大幅に水準を切り上げており、当面、厳冬を材料にした高値水準維持は続くと予想される。
【本日の見通し】
本日は、原油供給の増加期待が高まる中、昨日の流れを受けてエネルギー価格が続落し、供給不安の後退観測と相まって調整売り圧力が強まると考えられる。
イメージとしてはこれまで実際の需給で上昇する中で投機筋が相乗りしてきたことは否めず、現物を必要としない市場参加者の利益確定の動きが強まる、という感じだろう。
しかし、実際の供給は増加しておらず(これは昨日の米石油統計でも確認されている)、OPECも今のところ計画通りの増産しか検討していないとみられることから調整はあくまで調整に止まると予想され、高値圏は維持するだろう。
(原油価格下落リスクに関してはこちらのレポートを参照ください)
https://marketrisk.jp/news-contents/news/18781.html
本日は米国の需要動向の指標の1つである米週間新規失業保険申請件数と米GDPに注目している。特にGDPのインフレ関連統計は金融政策に影響を及ぼすため注目したい。
米週間新規失業保険申請件数 28.8万件(前週29.0万件)米GDP 前期比年率 市場予想 +2.6%(前期+6.7%)個人消費 +0.9%(+12.0%)GDPデフレータ +5.3%(+6.1%)コアデフレータ +4.5%(+6.1%)
【昨日のセクター別動向と本日の見通し】
◆原油
原油価格は大幅に下落した。アジア時間からやや軟調な推移となっていたが、米国時間に発表された米石油統計が市場予想以上の原油在庫増加を示したため、水準を切下げた。
また、余り材料が出てこなかった中東周りで、11月末までにイランが核協議に復帰することで合意した、と伝えられたことも売り材料となった。
これまで、需給バランスのタイト化(主に供給の遅れ)を材料に投機も巻き込んで原油価格は上昇してきたが、これらの弱気なニュースを受けて、一旦、投機筋の利益確定と、実需の生産者の価格下落に備えたヘッジ売りが重なったため、大幅な下落になったと考える。
昨日発表の米石油統計では、原油在庫は輸入の増加(+0.4MBD)で増加したが、稼働率が過去5年平均を若干上回る程度であり、製品供給は限定された。ただ、この状況においても原油生産が増えていないことは注目に値する。
ガソリン在庫は過去5年の最低水準を下回り、ディスティレート在庫も過去5年平均割れ、さらに今年は使用量が増えると考えられる灯油在庫も2.8MBと過去5年の最低水準である3.5MBを下回っており、製品需給はタイトだ。
製品出荷はやや減速したものの、それでも過去5年の最高水準に近いところで推移しており、輸出も同様で厳冬の影響も手伝って、世界のエネルギー消費は堅調と言える。
そのため、供給が制限される中では価格が高騰しやすい。ただ、景気の転換点には原油価格が高騰することは多いため、そろそろ下落のリスクを考えるべき時期にさしかかっていると考えている。
(原油価格下落リスクに関してはこちらのレポートを参照ください)
https://marketrisk.jp/news-contents/news/18781.html
本日は、まだ供給不足状態が解消しないため主に実需筋の安値拾いの買いが入るため、価格は上昇すると考える。ただし供給不足の状態が解消していないため、高値は維持すると考える。
◆石炭・LNG・天然ガス
豪州石炭スワップ先物価格は変わらずだった。中国では、「違法石炭業者の取り締まり強化」で、不法に積み上げられた在庫が市場に放出される、との見方が強まり、石炭価格が下落しているため、地合はやや軟調になっている。
中国の石炭輸入動向への説明力が高いバルチック海運指数は大幅に続落。例年の水準(1,900ポイント程度)の2倍を上回る水準を維持しており、この水準での上がり下がりはほとんど意味がないが、トレンドが下降気味になっており、海上輸送市場の状況改善(荷主にとっての状況改善)となっている。
JKM先物市場は上昇。中国政府による石炭市場介入策の影響で石炭価格が下落しているが、基本的に石炭需給とLNG需給では市場が異なるため、まだ域内のガス調達は継続していると見られる。
欧州天然ガスはプーチン大統領が国内のガス充填が終了後、欧州への輸出を増加させるように指示したことで下落した。ガスプロムのコメントでは11月8日に国内向けの充填は終了する模様。
同時にノルドストリーム2の開通を急ぐ動きが水面下で進行しているとみられ、恐らくこれを受けた輸出増加指示と考えられる。
米天然ガスは上昇。利益確定の動きで下落していたが、気温低下予報を受けた冬期の需給タイト化観測が価格を押し上げた形。
スポットLNGタンカーレートはスエズ以東・以西とも急騰した。やはり冬場に向けたLNG調達はこれからが本番で、例年通りであれば11月中がピークであり、12月上旬頃から落着くと予想されるが、今年は例年と異なり在庫水準が低いため、しばらくLNGの欧州・アジアでの奪い合いは続くとみる。
2021年10月1日~17日のLNG取引は前週比▲10%の670万トン(前週+16%の770万トン)、スポット調達のシェアは28%(28%)と変わらずだった。
輸入量の減少は主にスペイン、韓国、中国の減少によるもの。韓国・中国の輸入減少は長期契約分の減少によるもの。場合によると中国のガス供給には目処がたった可能性もゼロではないため、今後も週間輸出入動向は注目したい。
日本の輸入は+13%の増加。これは主に長期契約の中での調達増と考えられる。
石炭は中国の増産や規制強化の影響で水準を切下げる可能性が高まっているが、現物需給の緩和はまだ先とみられるため、高値維持の公算。
天然ガスはロシアの供給が早くても12月と見られていたところが11月となったことで、徐々に水準を切下げる展開。ただし厳冬予報は維持されており、ガス在庫の水準も低いことから高値圏は維持の公算。
◆非鉄金属
LME非鉄金属価格は下落した。中国不動産問題への懸念が根強く残る中、中国政府の石炭市場介入で電力供給が回復するのでは、との期待感が高まったことが背景。
しかし同時に発表された9月の中国工業セクター利益は前年比で伸び率が上昇している。概ね1ヵ月後の銅価格に影響が出るため10月の銅価格が前年比+45.7%の上昇になっていることとほぼ整合している。
鉱業セクター、エネルギーセクターの利益が資源価格の高騰で大幅に増加したことが影響したと考えられる(詳しくは昨日のトピックスを参照ください)。
本日は、この2日間の下落が大きかったことから、まず実需筋の買い戻しが入り上昇すると考える。
しかし、中国の電力問題がややトーンダウンしつつある中、投機も巻き込んで上昇してきた非鉄金属市場にも利益確定の動きが強まると予想されることから、上値も重かろう。
なお、非鉄金属市場の需給がタイト(アルミニウムのみ、石炭価格の下落で期近だけが若干のコンタンゴとなっている)な状態は続いており、高値圏での推移は継続の公算。
◆鉄鋼・鉄鋼原料
中国向け海上輸送鉄鉱石スワップは小幅に上昇、豪州原料炭スワップ先物は上昇、大連原料炭先物は下落、上海鉄鋼製品先物は続落した。
中国の不動産セクターの加熱沈静化(バブルのプチ崩壊)は継続する見込みであることで、鉄鋼製品価格の調整が続いている一方、まだ鉄鉱石価格は対製品価格比で割安であるため、物色されたと考える。
原料炭は中国国内の不正業者取り締まりの動きや、恐らく豪州からの輸出も再開される(非公式)ことから、国際価格は上昇し、中国の国内価格が下落する、という過程を経て水準を切下げると考える。
なお、弊社が取得可能な情報ソースでは公式に中国が豪州から石炭輸入を再開したとの報道は確認できていない。
本日は、鉄鋼製品先物価格の下落もあって水準を切下げる展開が予想されるが、鉄鋼製品在庫の減少や先物価格は調整しているものの鉄鋼製品現物価格は高止まりしていることから、下げ幅は限定されると考える。
◆貴金属
昨日の貴金属セクターは金が上昇し、その他の金属は下落した。金は金融引き締め観測が強まることで、金価格に対する説明力が高い10年長期金利が低下、実質金利を押し下げたことが材料となり、基準価格を切り上げつつ前日比小幅プラスとなった。
銀・PGMは株価の下落を受けて水準を切り下げた。
本日も長期金利動向に左右される展開を予想。ただし足下、インフレが強く意識されているため実質金利は下押し圧力がかかりやすく金価格は高値維持。
銀やPGMは株価の高値警戒感が強まり調整圧力が強まる展開が想定されるが、金価格の高値維持で大幅な調整にはならないか。
◆穀物
シカゴ穀物市場は上昇。米石油統計でエタノール在庫が低水準で推移していることが確認され、かつ、エタノール生産が大幅に増加したことが影響している。
低迷していた穀物価格だが、ここに来て「代替燃料」との意識が強まり、特に既に燃料としてポジションが確立されているエタノール向けの需要が増加する、との見方が価格を押し上げることとなった。
粗糖もブラジル国内のエタノール価格の上昇が顕著で、サトウキビは粗糖ではなくエタノール向けヘの需要が増加するとの見方が価格を押し上げている。
昨日も紹介しているが、エネルギー価格の上昇は生産コストにも影響を及ぼすため、このままエネルギー価格の上昇が続くようであればコストプッシュ型で穀物価格が上昇する可能性は否定できない。
本日は、市場参加者がバイオ燃料向けの需要増加を意識し始めていることから上昇余地を探る展開を予想。
※中長期見通しは個別セクターのコラムをご参照ください。
【昨日のトピックス】
昨日発表された中国工業セクター利益は前年比+16.3%と前月の+10.1%から伸びが加速した。内訳を見ると、鉱業セクターの利益が前年比+161.8%(前月+151.1%)と加速、特に石油・天然ガス関連企業の利益が増加したことが影響したとみられる。
鉱業セクター利益は銅価格に対する説明力が高いが、10月の銅価格の前年比上昇率はこれまで+45.7%となっており、概ね、工業セクター利益の伸びが1ヵ月程度遅れて非鉄金属価格に影響を与えるため、今回の統計はこれまでの動きと極めて整合的だ。
しかし、いわゆる製造業の利益の伸びは、+42.9%(前月+48.2%)と減速している、企業にもよるが自動車をはじめとする一般機械製造の伸びがエネルギー供給の制限で悪化、さらにエネルギーを加工して電気を製造する電気・熱も資源価格の上昇分を最終消費者に転嫁できないため、利益率が悪化している。
このように考えると、10月は電力供給不足が中国国内でも強く意識され、実際に計画停電が行われたことを考えると、10月の工業セクター利益はこれらの製造業の減速が相殺し、11月の非鉄金属価格の調整を肯定することになるだろう。
【マクロ見通しのリスクシナリオ】
・資源価格上昇によるインフレや、米テーパリング・利上げ観測を背景とした新興国通貨安で新興国が想定以上のペースで利上げを行わねばならず、世界的に金融引き締めモードに転じた場合(リスク資産価格の下落要因)。
・発電燃料供給不足による工場稼働停止や消費低迷で景気が減速する場合(リスク資産価格の下落要因)。
・中国恒大集団の債務問題が不動産セクター全体に波及し、世界的に株安となり経済活動が逆回転する場合(工業金属などの景気循環系商品を筆頭に、リスク資産価格の下落要因)。
・中国地方政府・中堅中小企業の財政状況悪化に伴う景気減速(これは人口動態を考えると、現実のリスクとなるのは2030年以降か)。
・環境重視型社会への急激な転換による、経済活動の鈍化リスク。成長ドライバーの1つとして期待される、中東・北アフリカ産油国が人口ボーナス期を活かせない(逆に鉱物産出国は高成長となる可能性も)。
逆に脱炭素に向けたインフラ投資の加速で資源価格が急上昇、金融緩和マネーが大量に市場に滞留する中でハイパーインフレとなるリスク。
・コロナウイルスの感染再拡大によるロックダウンが景気循環系商品の需要を減じる場合(価格下落要因)。
逆に想定以上に新型ワクチン・治療薬の開発が速やかに行われた場合は需要の増加要因に。
・来年の中間選挙を控えて、バイデン大統領が国内の支持を得られない場合。財政面や企業負担増の理由から造反が発生し、議会を通過しない場合は景気のリスクに(景気減速要因)。
・米財政出動が加速、景気回復期待を受けた価格上昇が顕著となる場合。
この場合、長期金利上昇でドル高が進行しやすく価格の下落を意識しなければならない。
・米中対立激化による、新冷戦構造が発現しブロック経済圏が発生して貿易活動が鈍化する場合(場合によると武力衝突も)。
「能動的に」軍事を行う方針に舵を切った中国習近平政権が、台湾統一を目指して侵略する可能性は高くなった。
・米テーパリング実施が、コロナの感染に苦慮する中南米、欧州・アフリカの新興国経済に悪影響を及ぼす場合(景気減速要因)。
・独総選挙結果を受けた連立政権樹立に難航し、域内最大経済国のドイツ経済が減速する場合、また、EUの指導力が低下し域内経済が停滞する場合(景気減速要因)。
・次の成長ドライバーとして期待されるインド経済が、期待通りの成長をできない場合(人種差別問題による国民の離反、市場開放・規制改革の遅れ、中国との対立など)。
2018年にすでに人口ボーナス期入りしているため、鉱物・エネルギーをはじめとする景気循環系商品需要の増加は2023~2024年頃。
・アフガン情勢の混乱が域内経済に混乱(大量の難民発生、コロナの感染拡大が欧州圏にもたらされるなど)をもたらし、米中対立を先鋭化させる場合(景気の減速要因)。
◆昨日の商品市場(個別)の総括
---≪エネルギー≫---
【原油価格見通し】
原油価格はこれまで脱炭素の流れで増産が見送られてきたことから直ちに供給増加ができないこと、OPECプラスの「追加」増産見送り、欧米投資銀行が100ドル原油予想を相次いで発表、投資熱が高まっていることなどから高値を維持すると考える。
特にこの冬は天然ガス・石炭の供給不足が解消する感じではないため、冬場の気温次第では一段の上昇も有り得る状況。
価格上昇に伴い米国のシェールオイル生産は回復、最大生産地域であり、生産コスト低いるPermianの生産はコロナ前の水準をほぼ回復した。
しかしその他の地域は回復が見られておらず、シェールオイル全体の10月の生産は2020年3月の8.56MBDよりも▲0.79MBD万少ない7.85MBDとなる見込み。
また、リグの稼働も脱炭素などの影響低調で、増産はこれまで掘削したが稼働させていなかった井戸の稼働によるものに止まっており、完成非稼働井戸数はピーク時の半分まで減少している。
まだ、需要を満たすだけの供給が起きていないことは事実である。
しかし、価格上昇の前提が厳冬であることであるため、冬場の調達に目処がたつ、あるいは暖冬だったということになれば、既に製造業PMIなどはピークアウトしており価格には調整圧力が掛ることになる。「不安定な中での価格上昇」と言える。
米国や消費国の要請でOPECプラスが11月会合で増産幅の拡大を決定する可能性もあり、この点もワイルドカードの1つだ。
さらに期間の長い中期的(来年の春以降)には、経口薬の開発などで恐らくコロナによる移動制限が解除され、輸送燃料需要が回復することからやはり上昇に転じるとみている。
米DOEの2021年供給は95.82MBD、需要は97.46MBD、需給バランスは▲1.78MBDの供給不足。
価格を下押ししてきたコロナであるが、徐々に「ウィズコロナ」に舵が切られつつあり感染拡大が価格下落に影響するステージは早晩終了するとみられる。
しかし、それはこの冬到来が懸念される第6波までに解消する、とは考え難いため引き続き景気循環系商品価格の下落要因である。
中国の輸入規模はその水準は世界最大であるものの、原油価格に余り影響を与えない中国の原油輸入は、9月は前年比▲15.3%の4,105万トン(前月▲6.2%の4,453万トン)と前年比で前月から減速感が強まった。同国の経済活動が鈍化している可能性を示唆するもの。
【見通しの固有リスク】
・気温低下による暖房向け燃料需要が増加、ないしは不稼働の液体系燃料発電(ディーゼルや重油)を有する国や地域が再稼働を決定した場合(価格の上昇要因)。
・電力・ガスをはじめとするエネルギー供給制限が経済活動を強制的に停止させ、需要が減少する場合(価格の下落要因)。
・米国経済が正常化する中でテーパリングなどの金融緩和解除が加速、急速なドル高を通じて投機的な売り圧力が高まる場合(価格の下落要因)。
・OPECプラスの増産ペースの遅れないしは上流部門投資不足による供給不足。またはイランを巡り武力衝突や制裁解除が遅れた場合(価格上昇要因)。
価格が上昇する中でOPEC諸国の減産維持統制が効かなくなり、増産競争に舵が切られる場合(下落要因)。
・脱炭素の進捗、生活様式の変化による構造的な需要減少が加速した場合(価格下落要因)。
・脱炭素の過剰な進捗による供給懸念(価格上昇要因)。
1.中東産油国の財政悪化によって情勢不安が顕在化、供給途絶リスクが高まる場合
2.中東以外の産油国の生産者の破綻
3.上流投資部門投資が減速し、インドなどの新興国需要顕在化時に供給が間に合わない場合
4.価格面、数量面で予算を確保できない産油国が、OSPを大幅に引き上げる場合(第3次オイルショック)
かなり過剰なペースで脱炭素が進められており、オイルメジャーも株主・政府の圧力を受けて脱炭素に舵を切り、タイムリーな原油増産が困難になっている。
この場合、「脱炭素移行期間の景気回復時」には十分な燃料供給が出来ないリスクが高まり、来年以降の価格上昇局面で原油価格が100ドルを超えるリスク(リスクシナリオの位置づけ)。
なお、脱炭素が完了しても100%原油が不要になることはなく、OPECの価格支配力が増すため、この場合でも価格は上昇へ。
【石炭価格見通し】
海上輸送石炭価格は高値を維持すると考える。中国・インドなどの石炭火力中心の地域の石炭在庫水準は低く、冬場の電力需要向けの調達は旺盛で、供給不足に伴い稼働を停止する工場が増加していることから。
中国政府は石炭供給不足を解消するため、環境規制強化の方針を解除し増産に舵を切り、消費者向けに価格上限設定や投機の規制強化なども強化する方針を表明した。
しかし今年の生産はそもそも過去5年の最高水準を維持しており決して減産していた訳ではないこと、冬場の増産が難しいことから、調整はあるものの高値で推移する可能性は高い。
石炭は「座礁資産」と呼ばれ、上流部門投資ができなくされていることから、増産をしているのはGlencoreや中国企業ぐらいであり、供給が不十分であること、需要側の構造はそう簡単には変わらないことを考えると、この冬場は極めて高い水準を維持することになろう。
9月の石炭輸入は前年比+76.1%の3,288万トン(前月+35.8%の2,805万2,000トン)と前月から急増し、過去5年レンジを上抜けた。国内の深刻な石炭不足を背景に輸入が増加している。
国別の内訳はまた後日となるが、豪州からも調達を再開したとみられる。そうであれば以前よりも石炭調達が容易になるため、国別の輸入動向には注目したい。
【見通しの固有リスク】
・今冬はラニーニャ発生が予想され、厳冬のリスクも意識されているが懸念に反して暖冬となる場合(価格下落要因)。
・電力・ガスをはじめとするエネルギー供給制限が経済活動を強制的に停止させ、需要が減少する場合(価格の下落要因)。
・Nord Stream2の稼働が早期に行われ、天然ガス価格が急落する場合(下落要因)。
・世界的な環境重視型世界へのシフトを受けた、石炭上流部門への投資規制強化による、供給減速懸念(価格の上昇要因。これは既に顕在化)。
・中国と豪州の対立、中国国内の生産能力増強に伴う、海上輸送炭需要の減少。
【天然ガス・LNG】
天然ガス価格は中国の経済活動が活発である一方、自然エネルギー供給(英国の風力、ブラジル・中国の水力など)が減少、火力発電向けの燃料需要が旺盛なこと、石炭価格も高値を維持していることから、価格は高値を維持すると考える。
ロシアプーチン大統領が欧州向けのガス供給増加の早期実施を指示したことで欧州のガス需給は緩和が予想され、LNGのスポットカーゴ需給も緩和が予想される。
恐らく、ノルドストリーム2の稼働開始に関し、欧州側から水面下で前向きな対応が見られたことからそれの見返り、と考えられる。
しかし、現在在庫が十分ではなく、在庫積み増しを継続しなければならない状況に変わりはないため、やはりこの冬(ないしは冬場の調達に目処が立つ1~2月頃まで)の間は高値が続くと予想される。
引き続き、ラニーニャ現象発生が懸念される中で冬場に突入し、厳冬の中、計画停電が行われる可能性がある。この場合、人命のリスクが無視できない。
9月の中国の天然ガス輸入は前年比+22.6%の1,062万トン(前月+11.5%の1,044万トン)と高い水準を維持している。季節的に見ると過去5年レンジを大きく上回った状態が続いている。
9月の中国のLNG輸入は前年比+17.8%の675万トン(前月+11.7%の665万トン)と過去5年レンジを大きく上回り、構造的な需要増加は続いている。
長期契約のLNGに関しては、原油リンクとなるため上昇見通しだが、価格反映までに3ヵ月程度の時間差があるため(消費者への影響はさらに3ヵ月後)、現時点ではまだ上昇していないと考えられる。次の懸念は夏のピーク時の電力・ガス価格への影響だろう。
【見通しの固有リスク】
・今冬はラニーニャ発生が予想され、厳冬のリスクも意識されているが懸念に反して暖冬となる場合(価格下落要因)。
・電力・ガスをはじめとするエネルギー供給制限が経済活動を強制的に停止させ、需要が減少する場合(価格の下落要因)。
・8月18日にNord Stream2が稼働しているとの誤ったデータが発表された直後、ガス価格が大幅に下落している。
政治的な要因でNord Stream2の稼働は遅れると考えられるが、同パイプラインが稼働して欧州のガス需給が緩和した場合(価格下落要因)。
・石炭と同様、「化石燃料であること」を理由に上流部門投資が制限される、あるいは原油生産減少による随伴ガス供給が減少する場合(構造的な価格上昇要因)。
・産油国の減産継続による随伴ガス供給の減少懸念。
【投機筋のポジション動向】
・直近の投機筋のポジションは以下の通り。
WTIはロングが565,720枚(前週比 +1,719枚)ショートが136,126枚(▲23,099枚)ネットロングは429,594枚(+24,818枚)
Brentはロングが344,905枚(前週比▲19,136枚)ショートが67,738枚(+4,618枚)ネットロングは277,167枚(▲23,754枚)
---≪LME非鉄金属≫---
【非鉄金属価格見通し】
非鉄金属価格は高値圏での推移になると考える。中国政府による電力供給改善策はあるがまだ実際に改善するには時間が掛り、足下供給面が強く材料視されているため。
しかし、比較的短い中期的には調整圧力が強まる展開を予想する。中国政府の石炭市場介入方針や、不動産市場のバブル抑制による市場混乱も監視しつつも当面放置する方針であることが、需給両面で価格を下押しするため。
エネルギー供給制限の非鉄金属価格への影響は、短期的には供給面で価格を押し上げ、中期的にはコストアップを通じた業績悪化に繋がり、価格の下押し要因となる。
なお、長期的にはインドの人口ボーナス期入り、まだ脱炭素の流れが続いていること、省エネの流れに変わりがないため、供給面・需要面の制限から価格が上昇するという見通しを変更する必要はないと考えている。
また、米政権による大規模なインフラ投資が行われる見通しであることも、鉱物資源需要の増加を通じて非鉄金属価格を押し上げよう。
しかし、バイデン政権支持率低下で、増税を伴う経済対策は受け入れられない可能性は高く、当初予定通りの規模で実行されるかは微妙に。超党派で合意しているため1兆ドルインフラ投資は実行されるとみるが、期待通りの規模にならない可能性も考える必要があるだろう。
【2021年LME金属需給見通し】
銅 生産 24,947千トン 需要 26,790千トン 需給 ▲842千トン
亜鉛 生産 14,045千トン 需要 14,069千トン 需給 ▲24千トン
鉛 生産 12,381千トン 需要 12,168千トン 需給 +213千トン
アルミ 生産 67,005千トン(67,716千トン) 需要 67,503千トン(66,444千トン) 需給 ▲498千トン(+1,272千トン)
ニッケル 生産 2,578千トン(2,573千トン) 需要 2,613千トン(2,612千トン) 需給 ▲34千トン(▲40千トン)
錫 生産 429千トン 需要 431千トン 需給 +28千トン
※カッコ内は修正前予想。
【中国重要統計の評価】
9月の中国製造業PMIは49.6(前月50.1)と市場予想の50.0を下回り、閾値である50を下回り、製造業の減速感が鮮明となった。しかし同時に発表された財新製造業PMIは50.0(市場予想49.5、前月49.2)と回復しており、ややまちまちの内容となっている。
製造業PMIの規模別の景況感を見ると中堅・中小企業の減速が鮮明だが、財新製造業PMIは中堅企業並びに輸出企業が主体であるため、直近の貿易統計で輸出がやや回復したことが影響した可能性はある。
しかし総じて減速していることは間違いがなさそうで、工業金属需要減速、並びに価格の下落要因となり得る。
内訳を見ると生産鈍化(50.9→49.5)、新規受注(49.6→49.3)、輸出新規受注(46.7→46.2)、受注残(45.9→45.6)と需要の鈍化が顕著である。
在庫水準は低いが増加しており、完成品在庫は47.7→47.2、原材料在庫は47.7→48.2、サプライヤー納期はほぼ変わらない(48.0→48.1)。
さらに細かく見ると、購買量は減少(50.3→49.7)、購入価格は上昇(61.3→63.5)、販売価格も上昇(53.4→56.4)している。
工業金属価格に対する説明力が高い新規受注在庫レシオは、完成品が1.045(前月1.040)と上昇、原材料が1.023(1.040)となった。
生産指数が低下していることと合わせて考えると、1.発電燃料・電気の不足で稼働が低下、2.原材料は積み上がるが製品は出荷される、3.価格転嫁も進んでいるが輸入価格の高騰は続き、レーショニングが起きている、4.総じて原材料需給は緩和し、完成品需給はタイトな状態、と整理できる。
これまで工業金属価格の上昇を牽引してきたのは中国の住宅セクターであるが、中国の建設業PMIは57.5(前月60.5)と減速した。中国政府による不動産セクター沈静化の動きが影響しているとみられる。
中国恒大集団の債務問題はその氷山の一角だろう。問題の顕在化はこれからではないだろうか。
9月の中国の貿易統計を見ると、ベンチマークである精錬銅の輸入は前年比▲43.8%の40万6,000トン(前月▲41.1%の39万4,017トン)と過去5年平均を下回り続けており、減速感が鮮明となっている。
一方、9月の銅精鉱の輸入は前年比▲1.3%の211万1,000トン(前月+18.6%の188万6,000トン)と高い水準を維持している。銅価格の上昇もあって精鉱輸入が増加しているようだ。しかし、エネルギー供給制限もあり10月・11月の鉱石輸入は減少し、精錬銅輸入が増加するとみる。
8月の銅スクラップの輸入は+60.2%の12万9,802トン(前月+98.9%の14万9,369トン)。
ただし全体としては輸入に下押し圧力が掛っている印象は否めず、しばらくは調整圧力が強まる展開が予想される。
工業金属のフロー需要に影響する工業生産は、1-9月期累計で前年比+11.8%(1-8月期+13.1%)と伸びが鈍化、単月でも前年比+3.1%(前月+5.3%)と減速が鮮明になっている。
やはり、電力供給不足や不動産セクターの減速の影響が大きい。
実際、1-9月期の不動産開発投資は前年比+8.8%の11兆2,568億元(1-8月期+10.9%の9兆8,060億元)と減速している。
この結果、ストック需要の指標である固定資産投資も年初来累計で+7.3%(+8.9%)と減速が明確に。公的セクターの伸び鈍化は所与としても、よりボリュームの大きな民間部門が前年比+9.8%(+11.5%)と伸びが減速していることは、中国政府によるバブル抑制行動が影響しているとみられる。
いずれも「伸び」が鈍化しているのみであり、中国の経済活動はまだ拡大していることは間違いがない。しかし、需要の伸びが想定を下回る場合、多くの場合供給過剰を誘発して価格の下押し要因となる。
【政策動向・脱炭素】
政策動向・脱炭素の流れは中長期的な材料。米バイデン政権は8年間で1兆2,000億ドルのインフラ投資計画実施計画。
道路・橋梁・主要プロジェクトに1,090億ドル、電力インフラに730億ドル、旅客・貨物鉄道に660億ドル、ブロードバンド・インターネットサービスに650億ドル、公共交通機関に490億ドル、空港に250億ドルを投じる。
さらには2022年度予算も戦後最大となる歳出を6兆ドルと、以上と戦後最大の水準とする方針。
これらの需要は景気に関係なく発生する需要であるため、需要の見通しは底堅く、価格の調整があっても下値余地は限定される可能性が高い。
これまで中国が鉱物セクターの需要動向に関して主役であり、今後も非鉄金属価格の動向は中国動向が左右するが、「新規の需要」については欧米動向が重要になる可能性は意識しておきたいところ。
この場合、米国の景気回復=ドル高・金属価格上昇、という構図も考えられる。
米国・中国・インドがどのような動きをするかに環境政策は左右されるが、ここまでの各国の動きを見ていると当面は環境向けに使用される金属の需要増加は「今後10年・20年の大きなテーマ」となる可能性が高い。
軽量化目的のアルミ、EV向けのニッケル、銅(通常25キロ/台の銅が使われるが、EVは80キロ/台)、蓄電池としての鉛、コバルト、リチウムなど。
2020年の中国の新エネルギー車の販売は前年比+7.5%の137万台(前年124万台)となった。全体の自動車販売が2,523万台なのでシェアは5.4%(4.9%)と上昇している。それでも電気自動車が非鉄金属市場の重要なテーマになるには、あと数年は要する見込み。
【見通しの固有リスク/個別金属の特殊要因】
・中国不動産大手恒大集団の破綻懸念が中国の住宅セクターに広がり、中国の不動産バブルがはじける場合(価格下落要因)。
・ロジスティクスに障害が残る中、非鉄金属の偏在が現物プレミアムを押し上げるリスク(北米で顕在化)。
・猛暑や渇水による燃料価格上昇で、1.電力供給不足による稼働停止・供給減少、2.発燃料価格の上昇を通じて生産コストが上昇する、場合(価格上昇リスク)。
・米国経済が正常化する中でドル高が進行し、投機買いが膨らんでいる非鉄金属市場で投機の手仕舞い売り圧力が高まる場合(下落リスク)。
・米中間選挙に向けて、米民主党が追加でインフラ投資(2兆ドルのクリーンインフラ投資など)を議会の採決を得て実行に移す場合(上昇リスク)。
・上流部門投資不足並びに鉱石の品位低下による、鉱山供給の制限。
・チリやペルーで広がる左派勢力伸長に伴う大衆迎合的な政策が可決し、鉱山生産に過剰なロイヤルティが適用される場合(供給減少ないしは生産コスト上昇で価格の上昇要因)。
チリで議論されている銅のロイヤルティ増税案の詳細は以下の通り。
年内実施予定の選挙結果では課税強化で生産コスト上昇、または減産となる可能性も。
3%の新ロイヤルティに加え、銅価格に連動して税額が賦課される仕組み。
2ドル~2.5ドル/ポンド(4,406~5,508ドル/トン):15%2.5ドル~3(5,508~6,609):35%3ドル~3.5(6,609~7,711):50%3.5ドル~4(7,710~8,813):60%4ドル~4.5(8,813~9,914):70%
年間販売量が5万トン未満の小規模生産者は品位95%の粗銅の場合▲5%の軽減税率、アノードの場合(99.4~99.6%)が適用される。
2023年までは現行の営業利益率によって5~14%の鉱業ロイヤルティが適用されるが、2024年以降は新税制を適用。
・メキシコは鉱業改革法の中で、エネルギー転換に必要なリチウムとその他の戦略的鉱物の採掘権をこれ以上容認しないとしており、これに銅やネオジム、プラセオジムなどのレア・アースも含まれる可能性。
・インドネシアが再び低品位ニッケル鉱石の輸出を制限する場合(ニッケル価格の上昇要因)。
・LMEベースメタルではないが、中国ではレア・アースの生産を国有企業に集約して管理する動きが強まっており、今後の自動車セクターの中核となる電気自動車生産のサプライチェーンに大きな影響を与える可能性。
レア・アース大手五鉱稀土は、親会社の中国五鉱集団がアルミ大手のチャイナルコやレア・アースの大産地である江西省政府との間でレア・アース関連資産の戦略的な再編交渉を進めていると発表。
中国政府が2020年および2021年に許可したレア・アースの採掘割当量を見ると、CMRE、チャイナルコ、江西省地方政府傘下企業の3社だけで、中国全土で採掘を許可された(ジスプロシウムなど)重希土類の割当量の67.9%、(ネオジムやセリウムなど)軽希土類の割当量の39.1%を占める。
・環境問題や人権問題(コンフリクト・メタルの問題)を背景とする鉱山供給の減少。
また、環境に配慮したメタル使用の義務化などが欧州で進む場合などのコストアップ(グリーン・メタルの義務化によるコスト増加)。
中国の環境規制強化に伴う供給の減少。エネルギー排出量の多い新疆ウイグル自治区でのアルミ生産は減産の影響は既に材料視されている。
【投機筋のポジション動向】
・LME投機筋買い越し金額 前週比+0.0%の345億ドル(前週 345億ドル)・LME投機筋買い越し数量 前週比▲1.4%の6,485.9千トン(前週 6,575.7千トン)
---≪鉄鋼原料≫---
【鉄鋼原料価格見通し】
鉄鉱石価格は中国政府の発電燃料供給不足と環境改善目的の鉄鋼製品生産減少、中国不動産セクターの調整は継続する可能性が高いことから鉄鋼向け需要が減少する見通しであることから、水準を切下げる展開を予想。
直近の工業生産、固定資産投資、不動産投資、工業セクター利益とも前年比ベースの減速が顕著であり、中国政府の想定通り中国経済は過熱が沈静化の方向に向かっている。
ただし、同時に中国政府は金融緩和を行っていること、米欧中のインフラ投資による建材向け需要増加観測を背景に下落したとしても下値余地は限定されるのではないか。
なお、鉄鉱石先物の期先の価格が限界生産コストの目安として意識されるが、100ドル程度で安定しており、やはり中長期的にはこの水準に価格が回帰すると考えている。
【中国の政策動向】
中国共産党は2021年から始まった新しい5ヵ年計画で鉄鋼生産量の削減の必要性を表明している。今のところ昨年の生産量を超えないようにする、というのが中国政府の目標。
最大生産都市である唐山市は、2021年20日~12月31日まで、大気汚染基準に違反し、データを改ざんした4社は7月~12月末まで▲30%減産、その他の16社は12月末まで▲30%の減産を新たに実施することを義務づけられている。
これにより、唐山市の粗鋼生産は前年比▲2,223万トンの1億2,177万トン、鉄鉱石需要は▲3,500万トン減少するとみられている。
別の話だが、半年後、北京オリンピック中に粗鋼生産が停止させられる可能性は高い。
粗鋼生産が減少すれば、鉄鉱石の在庫水準の指標である在庫日数も、分母が小さくなるため上昇が予想され、鉄鉱石価格の下落要因となる。これは原料炭も同様。
【中国重要統計の評価】
9月の中国鉄鋼業PMIは総合指数は45.0(前月41.8)と回復した。これは新規受注(31.6→39.0)、輸出向け新規受注(31.8→39.5)と回復したことによるものだが10月の大型連休や8月の洪水の影響もあってその反動の増加と考える方が適切だろう。
新規受注の回復を受けて新規受注・完成品レシオが1.12(0.94)となり、新規受注原材料レシオも1.00(0.89)の上昇となった。しかし完成品の方がレシオの上昇が顕著である。
このことは、生産抑制に伴い鉄鋼製品需給はタイトな状態が続く一方、鉄鋼原料需給は完成品ほどではないがやはりタイトであり、鉄鋼原料輸入が継続する可能性が高いことを示唆している。
特に、環境保護や生産制限によって国内供給が厳しく、海外からの輸入(豪州)ができなくなり、モンゴルからの供給もコロナの影響で制限されている原料炭価格はさらに高値を維持することになろう。
これまで工業金属価格の上昇を牽引してきたのは中国の住宅セクターであるが、中国の建設業PMIは57.5(前月60.5)と減速した。中国政府による不動産セクター沈静化の動きが影響しているとみられる。
中国恒大集団の債務問題はその氷山の一角だろう。問題の顕在化はこれからではないだろうか。
工業金属のフロー需要に影響する工業生産は、1-9月期累計で前年比+11.8%(1-8月期+13.1%)と伸びが鈍化、単月でも前年比+3.1%(前月+5.3%)と減速が鮮明になっている。
やはり、電力供給不足や不動産セクターの減速の影響が大きい。
実際、1-9月期の不動産開発投資は前年比+8.8%の11兆2,568億元(1-8月期+10.9%の9兆8,060億元)と減速している。
この結果、ストック需要の指標である固定資産投資も年初来累計で+7.3%(+8.9%)と減速が明確に。公的セクターの伸び鈍化は所与としても、よりボリュームの大きな民間部門が前年比+9.8%(+11.5%)と伸びが減速していることは、中国政府によるバブル抑制行動が影響しているとみられる。
いずれも「伸び」が鈍化しているのみであり、中国の経済活動はまだ拡大していることは間違いがない。しかし、需要の伸びが想定を下回る場合、多くの場合供給過剰を誘発して価格の下押し要因となる。
【中国鉄鋼製品輸出入・在庫動向】
9月の中国の鉄鋼製品の輸入は前年比▲56.5%の125万6,000トン(前月▲52.5%の106万3,000トン)と低迷し、過去5年平均を下回った状態が続いている。
9月の中国粗鋼生産は前年比▲21.2%の7,375万トン(前月▲13.2%の8,324万トン、前々月▲8.4%の8,679万トン、6月+1.5%の9,388万トン、5月+6.6%の9,945万トン)と減速が鮮明になっている。
一方、9月の鉄鋼製品の輸出は前年比+28.5%の492万トン(前月+37.3%の505万3,000トン)と前月から前年比の伸びを縮小させ過去5年平均を下回る水準。やはり国内供給を優先させていることが窺える。
なお、中国の鉄鋼製品需要は旺盛とみられるが、在庫水準は前週比▲42万200トンの1,369万トン(過去5年平均 1,079万2,000トン)と例年を上回り水準は高い。
【中国鉄鉱石輸出入・在庫動向】
原料である鉄鉱石の9月の輸入は前年比▲11.9%の9,560万トン(前月▲2.9%の9,749万トン)と減速した。中国政府の鉄鋼ミル稼働制限の動きが輸入を鈍化させたとみられる。また中国の鉄鉱石需要は鈍化している可能性がある。
鉄鉱石港湾在庫は前週比+600万トンの1億4,020万トン(過去5年平均1億2,946万トン)、在庫日数は31.1日(過去5年平均 30.0日)と数量ベース・日数ベースでも過去5年平均を上回り需給が緩和していることが確認されている。
在庫日数は粗鋼生産の水準の高さに依拠するため、中国政府の鉄鋼生産抑制方針を受けて在庫日数の上昇傾向は続き、価格を下押しすると予想される。
【中国原料炭輸出入・在庫動向】
原料炭は中国の生産活動回復が継続しているが、前年比の伸び鈍化が明確になってきたため(中国政府の方針通り)、価格は下落余地を探る動きになると考える。
また、中国政府は原料炭を含む石炭の国内生産を増加させる方針であることも、海上輸送原料炭価格を下押ししよう。
とは言え、環境規制強化の流れで世界的に原料炭供給を増加させられる地域が限定されることから、下落余地も同様に限定される都見るのが妥当だ。
9月の中国の原料炭輸入は前年比▲35.3%の434万6,477トン(前月▲35.8%の434万6,477トン)と再び減少しており、過去5年レンジを下回った状態が続いている。豪州からの輸入停止と、モンゴルからの輸入停滞(コロナの影響)、国内の鉄鋼生産削減政策が影響しているとみられる。
中国の港湾在庫の水準は鉄鋼の最大生産省である河北省の主要港である、京唐港の港湾在庫は前週比▲11万トンの94万トンと過去5年平均の124万6,000トンを大きく下回っている。
在庫日数は3.9日と、過去5年の平均である5.4日を下回り、タイトな状態。中国政府の方針を受けた粗鋼生産の減少の可能性は高いものの、在庫水準の異常な低さが価格を押し上げよう。
【見通しの固有リスク】
・中国の不動産セクター減速が、建材需要を減少させる可能性(鉄鋼製品価格の下落を通じて鉄鋼原料価格の下落要因)。
・世界的に広がる環境規制強化の流れで、鉄鉱石や原料炭などの生産に一定の影響が起きる場合(価格上昇要因)。
・コロナウイルスの感染拡大長期化による、鉱山生産の減少リスク(価格上昇要因)。
---≪貴金属≫---
【貴金属価格見通し】
【金】
金は下押し圧力が強まる展開が予想される。高まるインフレ懸念を背景に米FRBが早期利上げに動く可能性が出てきていること、一方で供給不安を背景に上昇している原油価格も冬場が終れば下落に転じる可能性が高いことから、どちらかと言えば実質金利は上昇する可能性が高いことから。
テーパリングが進捗する中では(というよりは、テーパリング宣言からテーパリング実施まで、その影響を織り込む中では)長期金利に上昇圧力が掛り、中期的に下落に転じる見通しに変化はない。
なお、過去5年平均を基準にすると名目金利1bpに対する金価格の感応度は±3.0ドル弱であり、米10年金利が現在の水準から30bp上昇すれば▲90ドルの下落圧力となる(60bpで▲180ドル)。
現在の金の実質金利で説明可能な価格(金基準価格)は1,701ドル(前日比+17ドル)、そこからの乖離(リスク・プレミアム)は95ドル(▲14ドル)。
リスク・プレミアムは、過去3ヵ月平均で120ドル、6ヵ月で170ドル、1年で175ドル、5年で180ドルとなっている。
なお、金価格を実質金利要因と為替要因に分類した場合、為替要因はリスク・プレミアムのところに内包されると整理している(為替は名目金利の影響も受けるので、純粋に為替の要因のみ切り出すのが困難であることから)。
※毎日回帰分析をアップデートし、リスク・プレミアム自体の水準を見直しているため、前日比の整合性が取れていない場合があります。
【銀】
銀価格は金価格との比較感で売買されるが、金銀レシオは現在、74.2倍。過去1年を基準にすると72倍、5年では80倍、2000年以降では66倍程度が妥当。
今後、さらに金銀レシオが低下するには、工業需要の増加が必須。今後、IT化の進捗でエレクトロニクス向けの需要が増加することが必要。太陽光パネルの増設は脱炭素の行きすぎヘの反発や、米国が太陽光パネルの主要生産国である中国からの調達を手控えると考えられ、影響は限定と考える。
なお、銀価格=金価格÷金銀レシオ であり、金銀レシオが低下することで金価格が変動した時の弾性値が上昇(ボラティリティは上昇し、足元金の2倍に上昇)する点は留意。
(例)金が2,000ドル、銀が20ドルのとき 金銀レシオが100倍→金価格±1ドルの変化で銀価格は±1セント変化 金の変化率は±0.05%、銀は±0.05%
金銀レシオが1倍→金価格±1ドルの変化で銀価格は±1ドル変化 金の上昇率は±0.05%、銀は±5%
【PGM】
プラチナ価格は銀価格との連動性が高い。これは供給過剰で投機的な取引の影響が強まっていることによる。プラチナの需給バランスはWPICデータを元にすると今年も除く投機で供給過剰であり、投機動向が価格を左右しやすい。
パラジウムは半導体供給低迷が自動車生産に影響を与える状況が来春ぐらいまでは続く可能性があるため、当面低水準での推移。しかし自動車販売が回復すれば再び高値圏へ。
9月の米自動車販売は年率1,218万台(市場予想1,300万台、前月1,306万台)と減速。目先はパラジウム価格の下落要因となりやすい。
中国の自動車販売は中国自動車工業協会の集計で以下の通りであり、明らかに伸びが減速している。半導体供給不足に加え国内景気の伸び減速が影響。
9月 前年比▲19.5%の206万6,000台8月 ▲17.4%の179万8,841台7月 ▲11.8%の186万3,550台。6月 ▲12.4%の201万5,309台5月 ▲3.0%の212万7,000台4月 +8.8%の225万台3月 +76.5%の252万5,000台2月 +371%の146万台1月 +30%の250万台
調査会社のオートフォーキャスト・ソリューションズによれば半導体不足による供給減少による減産が9月26日時点で▲893万4,000台に上るとし、2021年の減産規模は▲1,030万台に達するとみている。これは昨年の販売台数(7,700万台)の13.4%に相当する。
この回復がある、ないしは供給側の混乱(南アフリカ)による生産減少がなければ、PGM価格は低水準で推移しよう。
【見通しの固有リスク】
・アフガニスタン情勢がかなり混迷の度合いを深めており、周辺地域への影響(南欧など)が拡大し、軍事的な行動に発展、足下のリスク・プレミアムが低いことからリスク回避の見直し買いが入る場合(貴金属セクター全体の上昇要因)。
・主要生産国の南アフリカの電力供給不安や、コロナウイルスの影響拡大で供給が滞る場合(PGMの価格上昇要因)。
・コロナからの回復は各国まだらであり、先行する米国が金融正常化に動いた場合、新興国から資金が流出して信用リスクが高まる場合(安全資産価格の上昇要因)。
・米中の対立激化。バイデン政権は対中強硬姿勢を明確にしており、対立がさらに激化する場合(安全資産価格の上昇要因)。
・中国地方政府・中堅中小企業の財政状況悪化に伴う景気減速による安全資産需要の増加(実際に破綻が意識されるのは2030年以降か)。
・世界的な自動車販売の減速(米欧中)による、自動車向け排ガス触媒需要の減少(PGM)。
環境重視型社会へのシフトはパラジウム需要を増加させるが、さらに加速して「水素社会」まで到達すると、燃料電池車需要が増加して構造的にプラチナ価格の上昇要因となる可能性。
・コロナウイルスの感染拡大による、最大生産国の1つである南アフリカの鉱山稼働が電力供給問題もあって不安定であることによる供給懸念。
【投機筋のポジション動向】
・直近の投機筋のポジションは、金はロングが299,882枚(前週比 +1,379枚)、ショートが106,533枚(▲6,431枚)、ネットロングは193,349枚(+7,810枚)、銀が66,572枚(+3,084枚)、ショートが36,216枚(▲9,285枚)、ネットロングは30,356枚(+12,369枚)
・直近の投機筋のポジションは以下の通り。
プラチナはロングが30,917枚(前週比 ▲794枚)ショートが16,073枚(▲4,719枚)、ネットロングは14,844枚(+3,925枚)
パラジウムが2,882枚(▲38枚)、ショートが5,298枚(▲118枚)ネットロングは▲2,416枚(+80枚)
---≪農産品≫---
【穀物価格見通し】
シカゴ穀物価格は堅調な推移になると考える。冬場のラニーニャ現象の発生(北半球の天候相場は終了も、南半球の天候相場入り)が懸念されていることや、エネルギー価格の急騰により代替エネルギー需要が高まることが材料。
9月の中国の大豆輸入は前年比▲29.7%の688万トン(前月▲1.2%の948万8,000トン)と大幅に減少した。
Locust Watchではソマリア・イエメンでのサバクトビバッタの被害が深刻になっていることが指摘されている。
echiopi9月中旬以降、エチオピア北東部の繁殖地で群れの形成が確認された。今後、最終的な繁殖のために紅海とアデン海に沿った地域への移動(サウジアラビア南西部など)が懸念される。
https://www.fao.org/ag/locusts/common/ecg/75/en/211014update.jpg
【見通しの固有リスク】
・ラニーニャ現象発生観測による投機筋の買い圧力の強まり(価格の上昇要因)。
・環境重視型社会へのシフトにより、燃料向け穀物需要が増加する場合(価格の上昇要因)。現在はそれほどの数量でもない、バイオディーゼル向けの大豆需要増加など。
・新型コロナウイルスの影響拡大による、輸出活動の停滞(シカゴ定期を含む生産地価格の下落要因)。
【米農務省需給報告データ】
・米作付け意向面積トウモロコシ 9,114万エーカー(市場予想9,313万エーカー、前年9,699万エーカー)大豆 8,760万エーカー(9,010万エーカー、8,351万エーカー)小麦 4,636万エーカー(4,495万エーカー、4,466万エーカー)綿花 1,204万エーカー(1,215万エーカー、1,370万エーカー)
・米穀物最終作付け面積 実績(前年)トウモロコシ 9,269万エーカー(9,082万エーカー)大豆 8,756万エーカー(8,383万エーカー)小麦 4,674万エーカー(4,425万エーカー)
・10月米需給報告単収見通し(実績/市場予想/前月)トウモロコシ 176.5Bu/エーカー(175.6、176.3)大豆 51.5Bu/エーカー(51.0、50.6)小麦 44.3Bu/エーカー(NA、44.5)
・10月米需給報告生産見通し(実績/市場予想/前月)トウモロコシ 150億1,900万Bu(149億5,300万Bu、149億9,600万Bu)大豆 44億4,800万Bu(44億963万Bu、43億7,400万Bu)小麦 16億4,600万Bu(NA、16億9,700万Bu)
・10月米需給報告輸出見通し(実績/前月)トウモロコシ 25億Bu(24億7,500Bu)大豆 20億9,000万Bu(20億9,000万Bu)小麦 8億7,500Bu(8億7,500万Bu)
・10月米需給報告在庫見通し(実績/市場予想/前月)トウモロコシ 15億Bu(14億4,080万Bu、14億4,000万Bu)大豆 3億2,000万Bu(2億9,830万Bu、1億8,500万Bu)小麦 5億8,000万Bu(5億1,020万Bu、6億1,500万Bu)
・9月末四半期在庫 実績(前期末)トウモロコシ 12億3,600万Bu(41億1,100万Bu)大豆 2億5,600万Bu(7億6,900万Bu)小麦 17億8,000万Bu(8億4,500万Bu)
・10月CONABブラジル作付け面積(市場予想/前月)トウモロコシ 2,087万ha(2,087万ha、1,987万ha)大豆 3,992万ha(4,031万ha、3,853万ha)
・10月CONABブラジル生産量(市場予想/前月)トウモロコシ 1億1,631万トン(1億1,932万トン、8,575万トン) 単収 5,5756kg/ha(5,716kg/ha、4,316kg/ha)大豆 1億4,075万トン(1億4,408万トン、1億3,591万トン) 単収 3,526kg/ha(3,578kg/ha、3,527kg/ha)
【投機筋のポジション動向】
・直近の投機筋のポジションは以下の通り。
トウモロコシはロングが390,081枚(前週比 ▲12,645枚)、ショートが113,052枚(▲10,386枚)ネットロングは277,029枚(▲2,259枚)
大豆はロングが138,576枚(+4,318枚)、ショートが95,035枚(+2,767枚)ネットロングは43,541枚(+1,551枚)
小麦はロングが97,532枚(+2,804枚)、ショートが106,098枚(+6,836枚)ネットロングは▲8,566枚(▲4,032枚)
◆本日のMRA's Eye
「脱炭素がもたらす穀物価格上昇リスク」
世界中で多くの商品価格が上昇しコストプッシュ型インフレへの懸念が高まっている。
商品価格上昇の要因は商品によって異なるが、新型コロナウイルス発生に起因する労働力不足による生産障害、輸送手段の制限、景気悪化を防ごうとするための積極的な経済対策に加え、バイデン政権誕生で加速した脱炭素の動きが、既に欧州では先行して行われていた化石燃料供給の制限に拍車を掛け、冬場の気温低下観測を背景に化石燃料価格を押し上げたことも無視できない。
これらの要因のうち、コロナウイルスの影響や気温変化の影響による化石燃料価格の上昇は時間経過と共に緩和すると予想されるため、一時的な要因と考えて良い。
しかし、「脱炭素」については一時的なものにならず今後も商品価格の押し上げ要因となり得、その影響は農産品セクターまで及ぶ可能性がある。
まず需要面であるが、仮に再生可能エネルギーを推進する政策が推進されれば、穀物の一部が燃料として用いられることが想定される。
かつて米国でガソリンの添加材として、トウモロコシ由来のエタノールが用いられるようになってトウモロコシ需要が増加、トウモロコシ価格が急騰したことがある。
ここで重要なのは、政策変更によって「不連続に」需要が増加したことだ。当時のブッシュ政権は「2005年エネルギー政策法」を2005年8月に成立させ、その前後からトウモロコシ価格は上昇を始め、米穀物価格が上昇しやすいラニーニャ現象が長期にわたって発生していたことと相まって大幅に価格は上昇した。
同法案可決以降価格が上昇していることを考えると、制度変更で需要が増加する中で供給が制限(異常気象)されたことによる価格高騰と考えられる。
その後、リーマンショックや農産品への投資規制の強化が行われて価格は下落したが、需要の急速な変化に供給が耐えられない例の1つといえるだろう。
仮に同じことが大豆やその他の油脂類に起これば需要構造が変化して価格が上昇するのは想像に難くない。
脱炭素の動きは需要面のみならず、供給面にも影響を及ぼすと予想される。農産品はエネルギー消費がさほど大きくないというイメージが強いが、米農務省のデータを元に人件費などの農作業に必要なコスト合計に占める燃料・電気、肥料の比率がどの程度かを調べてみると、トウモロコシは2016-2020年平均で費用の17.1%が肥料代であり、4.2%が燃料・電気代で生産コストの2割程度が化石原料由来と実は影響が大きい。
実際、原油価格と比較してみると連動性は高い。
脱炭素が進む中で注目すべき点は、IEA(国際エネルギー機関)の推計では脱炭素を進めても化石原燃料の需要がゼロになることはなく、2050年にOPECのシェアが5割に達すると試算している点、脱炭素で二酸化炭素の排出を抑えるためにアンモニアを燃料として用いようとする動きが見られている点である。
現在、世界のアンモニア(窒素)生産はUSGSのデータを元にすると2020年基準で1億4,400万トン、そのうちの8割が肥料向けに用いられている。
もしこれを肥料ではなく燃料として用いた場合、かつてトウモロコシでエタノール需要増加が価格を押し上げたのと同じように、アンモニアの価格が構造的に上昇する展開が予想される。
数量のイメージがわきにくいため経済産業省のホームページを参考にすると、仮に日本の大手電力会社が全てアンモニア20%の混焼を行った場合、年間のアンモニア消費量は2,000万トンになると試算している。
これだけでも世界の供給量の13.9%に相当する(なお、経済産業省のホームページではアンモニアの世界生産を2019年基準で年間2億トンとしているため、供給量の10%に相当する)。
この場合、肥料の代替が進まなければ農家の肥料コスト負担が増加し、農産品の生産コストを大きく押し上げることになる。これは構造的に穀物の生産コストを押し上げ、消費者が購入する最終価格も押し上げることになるだろう。
もちろん、化学肥料に頼らない有機農法へのシフトが世界的に進んでいるのも事実で、人体への悪影響を考えると将来的にはそちらにシフトしていく方が望ましいのかもしれないが、その移行中は経済的な痛みを伴う構造変化になると予想される。
そしてそれは1年、2年といった短期間に達成できるものではない。このとき、食品価格が高騰する可能性があり財政的に厳しい貧困国で暴動が起きることも想定される。現在の流れが続くのならば構造的な価格上昇リスクへの備えが必要になると予想される。
◆主要ニュース
・1-9月期中国工業セクター利益
前年比+44.7%の6兆3,441億元(1-9月期+49.5%の5兆6,051億元)
9月+16.3%の7,387億元(前月+10.1%の6,803億元)
・9月独輸入物価指数 前月比+1.3%(前月+1.4%)
前年比+17.7%(+16.5%)
・11月独GfK消費者信頼感調査 +0.9(前月 +0.4)
・9月ユーロ圏マネーサプライM3 前年比+7.4%(前月+7.9%)
・9月米前渡商品貿易収支 ▲963億ドルの赤字(▲882億ドルの赤字)
・米MBA住宅ローン
申請指数 前週比 +0.3%(前週▲6.3%)
購入指数 +3.5%(▲4.9%)
借換指数 ▲1.6%(▲7.1%)
固定金利30年 3.30%(3.23%)
15年 2.59%(2.54%)
・9月米卸売在庫 前月比+1.1%(前月+1.2%)
小売在庫 ▲0.2%(+0.2%)
・9月米製造業耐久財受注速報
前月比▲0.4%(前月改定+1.3%)
除く輸送機器+0.4%(+0.3%)
製造業新規受注資本財非国防除く航空+0.8%(+0.5%)
・米国、WHOなどの国連機関の活動に台湾参加を呼びかけ。中国は非難。
・豪ダットン国防相、「中国が台湾を攻撃した場合、豪州は米国と共に行動するだろう。」
・米国、国家安全保障上の理由でチャイナテレコムの米国事業免許を取り消す方針を決定。
◆エネルギー・メタル関連ニュース
【エネルギー】
・DOE米石油統計 原油+4.3MB(クッシング▲3.9MB)
ガソリン▲2.0MB
ディスティレート▲0.4MB
稼働率+0.4
原油・石油製品輸出 7,547KBD(前週比+82KBD)
原油輸出 2,619KBD(▲58KBD)
ガソリン輸出 612KBD(+22KBD)
ディスティレート輸出 934KBD(+45KBD)
レジデュアル輸出 94KBD(▲16KBD)
プロパン・プロピレン輸出 1,191KBD(+44KBD)
その他石油製品輸出 1,981KBD(+48KBD)
・プーチン大統領、ロシア国内のガス在庫充填が終了後、欧州への天然ガス輸出開始を命令。ガスプロムは11月8日に国内施設の充填が終了するとしている。
・中国、計画外の新しい石油精製や石炭からオレフィンを製造するプロジェクトを禁止に。
・イラン核合意交渉団のトップを務めるアリ・バゲリ・カーニ氏、「再建協議は11月末までに再開される。」
【メタル】
・9月日本アルミ圧延品出荷 前年比+6.3%の15万8,353トン(前月+19.1%の14万4,866トン)
◆主要商品騰落率
【上昇率上位5商品】
商品名(カテゴリー)/前日比上昇率/年初来上昇率
1.NYM米天然ガス ( エネルギー )/ +5.44%/ +144.27%
2.CBTトウモロコシ ( 穀物 )/ +2.53%/ +15.13%
3.TCMガソリン ( エネルギー )/ +1.81%/ +72.78%
4.NYB綿花 ( その他農産品 )/ +1.67%/ +41.47%
5.SHF天然ゴム ( その他農産品 )/ +1.57%/ +0.22%
【下落率上位5商品】
商品名(カテゴリー)/前日比上昇率/年初来上昇率
66.LME錫 3M ( ベースメタル )/ ▲7.56%/ +71.03%
65.LMEアルミ 3M ( ベースメタル )/ ▲5.88%/ +34.59%
64.ビットコイン ( その他 )/ ▲5.11%/ +103.21%
63.LIFFEロブスタ ( その他農産品 )/ ▲3.35%/ +63.54%
62.ICEアラビカ ( その他農産品 )/ ▲3.24%/ +57.00%
※弊社が重要と考える主要商品の前日比騰落率上位・下位5品目です。
※限月交代に伴う価格の不連続性は考慮されていません。予めご容赦ください。
◆主要指標
【為替・株・金利・ビットコイン】
NY ダウ :35,490.69(▲266.19)
S&P500 :4,551.68(▲23.11)
日経平均株価 :29,098.24(▲7.77)
ドル円 :113.83(▲0.33)
ユーロ円 :132.08(▲0.30)
米10年債 :1.54(▲0.07)
中国10年債利回り :2.98(+0.00)
日本10年債利回り :0.10(▲0.01)
独10年債利回り :▲0.18(▲0.06)
ビットコイン :58,924.76(▲3172.14)
【MRAコモディティ恐怖指数】
総合 :30.56(▲0.27)
エネルギー :46.14(+1.38)
ベースメタル :31.68(+1.22)
貴金属 :26.00(▲1.27)
穀物 :20.50(+0.42)
その他農畜産品 :27.89(▲1.75)
【主要商品ボラティリティ】
WTI :19.69(+2.59)
Brent :18.65(+2.06)
米天然ガス :87.73(+0.18)
米ガソリン :21.51(+3.44)
ICEガスオイル :27.06(+1.86)
LME銅 :34.86(+0.48)
LMEアルミニウム :32.68(+3.96)
金 :17.97(▲0.15)
プラチナ :29.40(+0.32)
トウモロコシ :19.64(+1.56)
大豆 :17.97(▲0.15)
【エネルギー】
WTI :82.66(▲1.99)
Brent :84.58(▲1.82)
Oman :82.52(▲2.08)
米ガソリン :244.97(▲6.71)
米灯油 :251.48(▲6.25)
ICEガスオイル :726.75(▲16.25)
米天然ガス :6.20(+0.32)
英天然ガス :218.59(▲3.00)
【貴金属】
金 :1796.81(+3.90)
銀 :24.06(▲0.09)
プラチナ :1013.04(▲18.02)
パラジウム :1963.80(▲43.79)
※ニューヨーククローズ。
【LME非鉄金属】
(3ヵ月公式セトル)
銅 :9,605(▲200:244.5B)
亜鉛 :3,327(▲86:58.5B)
鉛 :2,381(▲42:49B)
アルミニウム :2,725(▲120:21C)
ニッケル :19,660(▲715:190B)
錫 :37,150(▲250:1600B)
コバルト :56,345(+37)
(3ヵ月ロンドンクローズ)
銅 :9573.50(▲188.50)
亜鉛 :3341.50(▲56.50)
鉛 :2367.00(▲48.00)
アルミニウム :2665.50(▲166.50)
ニッケル :19600.00(▲570.00)
錫 :34805.00(▲2845.00)
バルチック海運指数 :4,056.00(▲201.00)
※C=Cash-3M コンタンゴ、B=Cash-3M バック
【鉄鋼原料】
62%鉄鉱石スポット(CFR中国、1営業日前) :121.24(+0.39)
SGX鉄鉱石 :121.83(▲0.32)
NYMEX鉄鉱石 :122.36(▲0.11)
NYMEX豪州原料炭スワップ先物 :397.17(+1.50)
大連原料炭先物 :583.27(▲16.66)
上海鉄筋直近限月 :4,837(▲62)
上海鉄筋中心限月 :4,773(▲90)
米鉄スクラップ :625(▲5.00)
【農産物】
大豆 :1239.25(+1.25)
シカゴ大豆ミール :330.90(+4.00)
シカゴ大豆油 :61.42(▲0.89)
マレーシア パーム油 :5300.00(▲23.00)
シカゴ とうもろこし :557.25(+13.75)
シカゴ小麦 :759.75(+7.50)
シンガポールゴム :194.00(+1.70)
上海ゴム :13625.00(+210.00)
砂糖 :19.70(+0.04)
アラビカ :201.35(▲6.75)
ロブスタ :2247.00(▲78.00)
綿花 :110.52(+1.81)
【畜産物】
シカゴ豚赤身肉 :71.98(▲0.60)
シカゴ生牛 :127.23(+0.40)
シカゴ飼育牛 :156.50(+0.53)
※全ての価格は注記が無い限り、取引所で取引される通貨建。
※限月交代に伴う価格の不連続性は考慮されていません。予めご容赦ください。