日米で異なる株価動向とドル円相場
- MRA外国為替レポート
2021年9月13日号
◆先週の市場総括
先週は日米株式が異なる動き。米国株は感染拡大による業績懸念から景気敏感株は上値の重い値動き。前週の雇用統計が予想よりも弱め。また地区連銀経済報告では企業の見通しは総じて楽観的ながら外食・移動・観光分野での影響が指摘された。
一方、供給懸念や労働不足感がインフレ圧力を強めていることも確認された。
週末の生産者物価指数の上昇率は高止まり。米10年債利回りは1.3%台半ば。ハイテク株も週末にかけて上値が重かった。
一方日本株は総裁選による与党敗北リスクの後退、新政権の政策への期待感が続き、相対的な割安感の修正から堅調に推移して3万円の大台を維持した。
ドル円相場は109円台後半で始まり週央にかけて110円40銭に上昇したが週末にかけて反落し110円割れで引け。
ユーロは週末にかけて下落。ユーロ円相場は130円台半ばで始まり130円割れへ。ユーロドル相場は1.1880近辺で始まり週末は1.1810近辺。
ECB理事会ではパンデミック緊急購入プログラム(PEPP)による資産購入ペースの縮小開始が決定されたが、テーパリングではなく微調整とされ、既存の公的債務購入プログラム(PSPP)への回帰が想定されており、緩和的な金融政策が継続されるとみられている。
月曜日の東京市場では日経平均が大幅高。引き続き政局不透明感の後退、次期首相・政権による政策への期待で、先物主導、値がさ株・大型株中心に上昇した。
29,500円台で高寄りした後、25,500円~600円で上下し後場に一段高。一時29,700円をつけ引けは前週末比+531円高の29,659円。TOPIXは6営業日続伸し2,041ポイントと1990年8月以来31年ぶりの高値をつけた。
為替市場は米国市場がレーバーデーで休場となることもありアジア時間から小動き。ドル円相場は109円70銭で始まり80銭近辺でもみ合い。
欧州市場ではやや上昇し109円90銭近辺でもみ合いその後は109円85銭で動意なく推移。ユーロ円相場は130円40銭で始まり30銭~40銭で上下動。欧州市場では130円40銭近辺でもみ合い引けた。ユーロドル相場は1.1880で始まり1.1870近辺でもみ合い。欧州市場では1.1860~70で推移した。
火曜日の東京市場では日経平均が続伸。29,800円台後半で高寄りし早々に3万円の大台をつけた。ただここまでの急伸で利益確定売りも入り伸び悩み。その後は29,900円を中心に上下した。引けは前日比+256円高の29,916円。
国内の感染者数が減少傾向を示し、日本株にネガティブな要因がさらに解消してきたとの見方で海外勢の見直し買いも入った。
ドル円相場は109円80銭台で始まり109円80銭中心に上下。ユーロ円相場は130円40銭~50銭で上下動。ユーロドル相場は1.1870で始まり1.1880近辺でもみ合い。
東証引け後から夕刻、欧州時間に入るとドル円相場が上昇。110円台に乗せ米国市場でも堅調。110円20銭近辺でもみ合い引けは110円30銭近辺。ドルは対ユーロでもしっかり。
ユーロドル相場は1.1860~80で上下した後1.1840~50で推移。引けは1.1840。ユーロ円相場は底固く推移。130円50銭~60銭でもみ合い引けは130円60銭。
発表されたドイツZEW景況感指数(9月)は期待指数が前月40.4から26.5へ予想30.3を下回り低下。ユーロ圏も数字も42.7から31.1へ低下した。
米10年債利回りは入札を控えて上昇し1.377%。ドルを支えた。
休場明けの米国株は、感染者数が40百万人を超えたことで警戒感から景気敏感株が売られ、金融緩和継続期待でハイテク株が底固い値動き。NYダウは前週末比▲269ドル安の35,100ドル。ナスダックは+10ドル高の15,374ドル。一方VIX指数は+1.73ポイント上昇して18.14。
水曜日の東京市場では日経平均が続伸。引き続き自民党総裁選挙を前に立候補者の政策アピール合戦から政策期待による買いが続いた。
日経平均は昼前に30,200円台に上昇。ただその後は伸び悩み30,000円台でもみ合い。引け際に強含んで前日比+265円高の30,181円で引けた。
為替市場は小動き。ドル円相場は110円30銭近辺で、ユーロ円相場は130円60銭~70銭で、ユーロドル相場は1.1840~50で、それぞれもみ合い、動意薄。東証引けにかけてドル円相場は110円40銭台へ、ユーロドル相場は1.1830へとややドル高に振れたが一時的だった。
欧州市場ではユーロ安円高が際立った。ユーロ円相場は130円20銭に下落。連れてドル円相場は110円20銭近辺に反落した。ユーロドル相場は1.1810へ下落。
その後米国市場ではいずれも方向感なく上下動となった。ドル円相場は110円40銭に反発したが20銭~40銭で上下した後110円30銭で引け。
ユーロドル相場は1.18ちょうど~1.1830で上下して引けは1.1820。ユーロ円相場は130円30銭中心に上下して引け。
米国株は朝方買いが先行したが感染拡大、景気回復鈍化懸念で下落に転じた。公表されたベージュブック(米地区連銀経済報告)では、経済成長は緩やかなペースで若干下方にシフト、外食・移動・観光分野で感染拡大の影響がみられた、とした。
ただ企業の見通しは楽観的で、労働需要は引き続き強まっていると記された。雇用情勢が底固いとの見方は株価の下値を支えた。
NYダウは前日比▲68ドル安の35,031ドル。ナスダックは▲87ドル安の15,286ドル。米10年債利回りはやや低下して1.336%。
木曜日の東京市場では日経平均は9営業日ぶりに反落。ここまでの急伸、3万円の大台乗せで利益確定売りが優勢だった。ただ下値も限定的。政策期待は根強く強気の投資家心理は維持された。
寄付きは29,950円でその後は3万円をはさんでもみ合い。後場は29,000円台に押されてもみ合いとなったが引けは大台を回復。前日比▲173円安の30,008円。
ドル円相場は110円30銭で始まりやや下落して110円10銭~20銭でもみ合い。夕刻から欧州市場にかけて米10年債利回りが1.32%に低下したのに連れて109円90銭に下落してもみ合いとなった。
ユーロ円相場は130円30銭で始まり軟調。夕刻は130円ちょうど~10銭。ユーロドル相場は1.1820近辺でもみ合い、夕刻にかけてドルが軟調となったことで1.1830~40にやや上昇した。
この日は欧州でECB理事会が開催された。政策金利は据え置きとなったが、パンデミック緊急資産購入プログラム(PEPP)による債券購入ペースを現状の毎月800億ユーロから縮小することが決定された。
ラガルド総裁は会見で楽観的な景気見通しを示したが、今回の決定は量的緩和縮小ではなく微調整であると述べた。
市場はPEPPの縮小も、通常の公的債券購入プログラム(PSPP)に移行するものととらえられた。金融正常化への第一歩ともいえるが、従来の緩和的な金融政策の変更ととらえる見方はなお少ない。
これを受けてユーロは下落。ユーロドル相場は1.1810割れ、ユーロ円相場は129円70銭に下落した。
米国株は軟調。NYダウは4営業日続落。朝方の雇用関連指数はしっかりだったが感染拡大が懸念された。航空機が下落。バイデン政権による薬価引き下げでヘルスケア関連株が下落。不動産株も軟調。NYダウは前日比▲151ドル安の34,879ドル。ナスダックは▲38ドル安の15,248ドル。VIX指数は+0.84ポイント上昇して18.80。
米10年債利回りは朝方1.336%に反発していたが低下に転じて1.299%。ドル円相場も連れて109円60銭台に下落し引けは109円70銭近辺。
ユーロドル相場は下げ一服となり1.1830。ユーロ円相場は129円70銭~80銭でもみ合い。
週次の失業保険新規申請件数は310千件と前週345千件から減少。継続受給者数も2,805千件から2,783千件に減少し、雇用情勢の改善傾向を示した。
金曜日の東京市場では日経平均が反発。特別清算指数(SQ)にからむ買いが押し上げ。引き続き政策期待が下支え、底固いアジア株も上昇に寄与。前日比+373円高の30,381円で引け。
ドル円相場は109円70銭~80銭で上下した後堅調に推移。夕刻から欧州市場朝方には110円ちょうど近辺に上昇した。ユーロ円相場は129円70銭~80銭で上下した後130円30銭に上昇した。
ユーロドル相場は1.1830近辺でもみ合い、欧州市場朝方には1.1850近辺に上昇した。米国株は下落。NYダウは5営業日続落。感染拡大で売りが優勢となり、またインフレ懸念、長期金利上昇はハイテク株の上値を抑制した。
NYダウは▲271ドル安の34,607ドル、ナスダックは▲132ドル安の15,115ドル。VIX指数は+2.15ポイント上昇し20.95。
米10年債利回りは1.341%。生産者物価指数の高い上昇率、クリーブランド連銀総裁のタカ派発言を受け上昇した。
発表された米国の生産者物価指数(8月)は前月比+0.7%と前月+1.0%から上昇は鈍化したものの高水準で予想+0.6%を上回った。
前年同月比は+8.3%と前月+7.8%から上昇率は加速。コア指数は前月比+0.6%、前年同月比は+6.7%と前月+6.2%から上昇率が加速した。
タカ派として知られるクリーブランド連銀総裁は、デルタ株感染拡大の影響は限定的、年内の量的緩和縮小開始を支持、2022年上半期に終了することを支持する、と述べた。
ドル円相場は109円80銭~90銭台で上下し引けは109円90銭。ユーロは軟調。ユーロドル相場は1.1810に、ユーロ円相場は129円80銭に下落して引けた。
◆今週の3つの注目ポイント
1.米国の消費者物価指数
火曜日に消費者物価指数(CPI、8月)が発表される。先週の生産者物価指数が上昇率加速ないし高止まりを示したことでインフレが警戒されている。そうしたなかCPIも強い数字となれば金利上昇圧力となる。この場合はドルを押し上げる可能性がある。
一方、弱い数字でも企業の価格転嫁が厳しいとの見方で業績懸念から株価を抑制する可能性がある。市場全体がリスクオフに傾きやすい点には留意が必要だ。
この場合は投機ポジションの調整で一時的かつ値幅は限定的ながら円高に振れる可能性がある。
2.米国の小売・生産・雇用情勢
感染拡大が懸念されるなか、景況感や小売や生産の実数値が強弱いずれのイメージを印象づけるか。弱気に傾いた市場心理を強気に転ずるためにはかなり強い数字が必要で、リスクは弱気サイドが強そうだ。
水曜日 NY連銀製造業景気指数(9月、予想17.1、前月18.3)鉱工業生産(8月、前月比、予想+0.4%、前月+0.9%)設備稼働率(同、予想76.3%、前月76.1%)
木曜日 小売売上高(8月、前月比、予想▲0.8%、前月▲1.1%)フィラデルフィア連銀製造業景気指数(9月、予想19.2、前月19.4)週間新規失業保険申請件数
金曜日 ミシガン大学消費者信頼感指数(9月速報、予想72.9、前月70.3)
3.中国の経済指標
中国景気の減速懸念は根強い。今週は水曜日に8月の重要指標の発表があるが、景況感PMIのみならず、実数値がなお減速を示すか。絶対水準としての伸び率をどうみるか。
小売売上高(前年同月比、予想+7.0%、前月+8.5%)、鉱工業生産(同、予想+5.8%、前月+6.4%)、都市部固定資産投資(同、予想+9.1%、前月+10.3%)、が発表される。
◆今週のMRA's Eye
日米で異なる株価動向とドル円相場
先週は日米で株価のパフォーマンスに明確な差異がみられた。米国株は感染再拡大による経済正常化の停滞、景気回復ペースの鈍化が懸念され景気敏感株を中心に調整気味に推移した。
一方、日経平均の上昇基調は止まらず。菅首相退陣表明、総裁選を前にした立候補者の政策アピールが続き、与党過半数割れ懸念の後退、新政権による政策への期待が株価を押し上げた。また国内感染拡大にピークアウト感が生じていることも心理的な支えに。
この間は堅調な米国株に大きく出遅れ、日本株は相対的に割安となってきたが、日本株に弱気でいる理由が解消したことで、買い直し、割安の修正が生じた面もあろう。
日本株の動向とドル円相場の関係だけをみると、株高ほどにドル高円安が生じていないという見方もある。
しかし足元の日本株の上昇は日本固有の要因によるもので、グローバルなリスク選好・リスク回避の状況とは異なる。グローバルなリスク選好・株高であれば円安が進みやすい。
またその背景に米国経済の拡大、米国経済主導のグローバル景気拡大、ドル金利の上昇、などがあればドル高となる。
こうした海外、グローバルな状況が日本株を押し上げているのであればドル高円安が進むだろう。ただ今回は状況が異なる。
日本株に見直し買いが入り、米国株よりもアウトパフォームした局面としては、民主党政権からの政権交代の可能性が明確となり、その後の総選挙で自民党が勝利した2012年以降が想起される。
いわゆる「アベノミクス」により、景気回復、株高・円安が大きく進んだとされる。
ただ「アベノミクス」の効果、株高・円安は割り引いて考える必要がある。海外経済の動向、とくに米国経済がリーマンショックによる低迷から明確にリバウンド、景気拡大に転じたタイミングと一致したことが大きい。
国内要因のみならず、海外情勢も株高円安を推し進める方向に働いており、すべてをアベノミクスの成果・影響とすべきではない。
株高円安の背景としては、日銀による超金融緩和策の導入、いわゆる「黒田バズーカ」が寄与したことは異論がない。
ただ金融政策は、財政政策と金融政策の協調はあるべきだとしても、ときの政権の政策に左右されるべきではなく、政治から独立して決定されるのが本来の姿だ。
政治が経済政策として金融緩和を謳うのは中央銀行の政策への介入となり踏み込み過ぎだろう。
こうした点を踏まえたうえで、再度、「アベノミクス」の状況下と現状を比較すれば、株高や円安(ドル高円安)の勢いが異なってくるのは当然だ。
グローバルなリスクオン・オフが円安・円高と株高・株安をもたらす結果として、株と円相場が連動する。アベノミクスのもとでは米国経済が大底から転換したタイミングで、そもそも日本の政策動向にかかわらず株高・ドル高・円安となりやすかった。
そこにアベノミクス、日銀の強力な金融緩和が重なり、強烈な株高・円安をもたらした。日銀の超金融緩和を背景に円先安感が強まり、海外投資家は日本株買いに走りながらも、円の先安感から為替リスクはヘッジし傍らで円売りドル買いを行った。日米金利差があるなかでは、円売りドル買いの為替ヘッジにより金利差が手に入る。そのためあえて円のリスクをとる必要がなかった。
加えて投機筋は積極的に円売りを行ったために円安は加速した。日米の金融政策格差、金利差は明確にドル高円安を示していたが、それをアベノミクスが強調したかたちだ。
これに対し、日本株が日本の独自要因で上下する場合、株高円安とならない。
とくに金融政策に大きな変化がない場合、円相場には大きな影響が生じない。足元では、米国あるいはグローバルに景気減速懸念がむしろ強まっている。中国景気は減速基調にある。米国では感染再拡大が市場心理に影を落とす。FRBは金融正常化に動き始めたが緩慢だ。
景況格差や金融政策格差はドル高円安を示唆するが、その差異は強烈ではない。
この局面で海外勢が日本株買いに動いた場合、日米短期金利差がないために、為替リスクヘッジによる金利収入のプラス効果がない。ヘッジしてもしなくても良い状態だ。
海外勢の日本株買いが円買い・円高につながる可能性もある。米国経済の勢い、すでに最高値圏にまで上昇しきった米国株、など海外情勢を踏まえれば、菅政権から新政権への「疑似的な」政権交代では、日本株高に連動した円安(ドル高円安)は生じない。
ドル円相場はとくに米国の状況次第であることに変化はない。
◆主要指標
【対円レート】
ドル :109.94(+0.22)
ユーロ :129.89(+0.15)
英ポンド :152.18(+0.35)
豪ドル :80.839(▲0.02)
カナダドル :86.62(▲0.01)
スイスフラン :119.789(+0.11)
ブラジルレアル :20.9522(▲0.15)
中国人民元 :17.051(+0.05)
韓国ウォン(日本円=100) :9.403(+0.02)
【対ドルレート】
ユーロ :1.1814(▲0.001)
英ポンド :1.3839(+0.000)
豪ドル :0.7356(▲0.001)
カナダドル :1.2692(+0.003)
スイスフラン :0.9176(+0.001)
ブラジルレアル :5.2468(+0.042)
中国人民元 :6.4443(▲0.011)
韓国ウォン :1169.03(▲0.50)
【主要国政策金利】
米国 :0.25
ユーロ :0.00
日本 :0.00
【主要国長期金利】
米10年債 :1.34(+0.04)
米2年債 :0.21(+0.00)
日本10年債利回り :0.05(+0.01)
日本2年債利回り :0.05(+0.00)
独10年債利回り :▲0.33(+0.03)
独2年債利回り :▲0.70(+0.01)
【主要株価指数・ビットコイン】
NY ダウ :34,607.72(▲271.66)
NASDAQ :15,115.49(▲132.76)
S&P500 :4,458.58(▲34.70)
日経平均株価 :30,381.84(+373.65)
ドイツ DAX :15,609.81(▲13.34)
インド センセックス :休場( - )
中国上海総合 :3,703.11(+9.98)
ブラジル ボベスパ :114,285.90(▲1,075.00)
英国FT250 :23,733.56(▲66.38)
ビットコイン :45077.81(▲1178.29)
【主要商品価格】
WTI :69.72(+1.58)
Brent :72.92(+1.47)
米ガソリン :215.40(+5.43)
米灯油 :214.60(+3.23)
金 :1787.58(▲7.00)
銀 :23.74(▲0.30)
プラチナ :960.75(▲20.21)
パラジウム :2138.37(▲41.63)
銅 :9533.50(+153:18.5C)
アルミニウム :2907.00(+79:10.5C)
※貴金属はニューヨーククローズ。ベースメタルは3ヵ月公式セトル価格。
※C=Cash-3M コンタンゴ、B=Cash-3M バック
シカゴ大豆 :1275.25(+16.50)
シカゴ とうもろこし :502.75(+6.75)
シカゴ小麦 :675.00(▲6.50)
※全ての価格は注記が無い限り、取引所で取引される通貨建。
※限月交代に伴う価格の不連続性は考慮されていません。予めご容赦ください。
※ 「休場」となっているものは、取引所が休場ないしはデータ更新時点で最新データを取得できなかった場合を指します。