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高まるインフレ懸念で総じてリスク資産高い
  • MRA商品市場レポート

2021年10月10日 第2051号 商品市況概況

◆昨日の商品市場(全体)の総括


「高まるインフレ懸念で総じてリスク資産高い」

【昨日の市場動向総括】

昨日の商品市場はインフレ系資産が引き続き物色される流れとなった。休み明けの中国勢が買いを入れてきた他、原油価格の上昇や石炭価格が上昇、全体としてコストプッシュ型のインフレを警戒したインフレ系資源(景気循環系資源)が物色された形。

なお、天然ガス供給増加観測が「期待されている」天然ガスは昨日も下落。一旦生産者のヘッジ売り、投機筋の手仕舞い売りが入っているためとみられるが、ロシアが実際に供給を開始したわけでもないことから、ややテクニカルな下落であると整理すべきだろう。

足下、日本の電力スポット価格とJKM価格の連動性がやや高まっているため、昨日は天然ガス価格の下落を受けて水準を切下げている。冬場の発電向けの燃料、ガス向けの原料確保は長期契約で取得しているため国内は問題ないと考えられるが、仮に想定以上の厳冬となった場合はこの限りではない。

引き続き、電力市場で電気を調達し、大手電力会社の燃調ベースの価格で電気を販売している新電力(全てがこの調達・販売形態ではない)の経営リスクは小さくないと考えられる。

【本日の見通し】

週明け月曜日は目立った手がかり材料に乏しい中、米テーパリングが今回の雇用統計を受けて「やはり予定通り11月宣言・12月実施」となる可能性が意識されているため、米長期金利に上昇圧力が掛りやすく、多くの商品に下押し圧力になると考えられる。

しかし、市場のコストプッシュ型のインフレへの懸念は根強く、インフレ系リスク資産が物色される流れは続きそうであり、また、冬場の電力・ガス確保が世界的に終了している訳ではないことも、価格を下支えしよう。

【昨日のセクター別動向と本日の見通し】

◆原油

原油価格は上昇した。米雇用統計は減速したものの同時にドル安が進行したこともあってそれほど積極的に材料とならなかったが、足下のガス・石炭供給不足が直ちに解消はしない、との見方から原油需給もタイトな状態が続くと見られたため。

なお、メキシコ湾の油田からの生産はまだ20万バレル強が回復していない模様であり、引き続き需給はタイト。

週明け月曜日は米雇用統計の減速もあり、需要面が「やや」減速する可能性があるものの即時増産が期待できるものはなく(最も増産として期待されるのは、メキシコ湾の生産回復だがそれも時間がかかっている)、高値圏を維持か。

◆石炭・LNG・天然ガス

豪州石炭スワップ先物価格は小幅に上昇。ロシアのガス供給期待や、中国政府による石炭増産指示などで価格が下落していたが、足下の供給不足が解消したわけではないため安値拾いの買いが入った。

中国政府は石炭増産指示を出したが、他の商品と同様即時に現物供給が増加するわけではない。

また減産してきたとはいえ2021年の中国の石炭生産(燃料炭・原料炭合計)は3月からの累計で前年比+0.3%、8月単体だと+2.9%と決して減少していた訳ではないことを考えると、これから冬場の増産が困難な時期にどれだけ増産ができるかは非常に不透明だ。

中国の石炭輸入動向への説明力が高いバルチック海運指数は小幅に下落。

JKM先物市場は続落して32ドル台に。ロシアのガス供給関連報道を材料にした。生産者の販売価格下落ヘッジと、(一部)投機の手仕舞い売りが入ったためと考えられる。

現在、日本の電力・ガス各社がどれだけのLNGを確保できているか統計上把握できないためなんとも言えないが(恐らく長期契約のため厳冬にならなければ十分な在庫は確保できている、と推察されるが...)、厳冬になった場合の追加調達時の価格上昇リスクは残る。

欧州天然ガスは続落。ロシアのガス供給期待で100ユーロを割り込んだ状態に。生産者のヘッジ売り、投機の利益確定の動きが重なったものの、現物を取得できていない実需家の安値拾いは続き、下落余地を限定した。依然、欧州在庫の水準は記録的な低さだ。

かなり大きく調整したが、それでも夏に入る前の水準(30ユーロ/mwh)より遙かに高い。今後、さらに下落があるとすれば10月18日のウクライナのパイプライン入札に、ロシアが参加するかどうか。

なお、ガスプロムのAmur加工プラントで買いが発生した。ガスプロムの声明では中国向けの供給は継続している、としている。

米天然ガスは下落。欧州ガスがロシア供給期待を背景に下落したことを受けて、連れ安となった。

しかし米国のLNG・プロパンガスとも在庫水準は低く、米国の冬場のガス供給は欧州ほどではないにせよ十分とは言えない。現状の在庫水準では気温次第で冬場の供給がショートする可能性はある(特にプロパンガス)。

一方、東西のLNG調達意欲は旺盛で、スポットLNGタンカーレートはスエズ以東・以西とも急騰している。明らかにピークシーズンに向けた調達圧力が高まっていることを示唆している。

2021年9月20日~9月26日のLNG取引は前週比+50万トンの690万トン(前週▲40万トンの640万トン)、スポット調達のシェアは24%(24%)で変わらず。

輸入量の増加は中国・韓国の輸入によるもの。スポットカーゴの供給国は様々だったが、主に中国に輸出された。やはり中国の発電燃料は不足していると見るべきである。

石炭は中国の増産指示はあるものの、まだ現物が確保できている訳ではないことから高値水準を維持すると考える。なお、生産コストに収れんしやすい期先の価格は110ドルを上回っており、供給過剰が解消してもこの水準は維持すると予想される。

天然ガスはロシアの供給期待が生産者のヘッジ売りや投機の手仕舞い売りを加速させているため軟調推移だが、在庫不足の状況が解消されている訳ではないため調達圧力も旺盛であり、下落余地も限定されると考える。

◆非鉄金属

LME非鉄金属価格は大幅に上昇した。休み明けの中国勢が休み中に価格が上昇したこともあって買い急いだこと、中国政府が電力価格の販売価格引き上げを容認する方針を示唆したことで、供給懸念に加えて生産コスト上昇懸念が強まったことが背景。

また、米雇用統計を受けてドル安が進行したことも主に投機の買い圧力を強める形となった。

週明け月曜日は週末の上げが大きかったことからまず売りから入ると考えられる。不動産セクターの減速懸念も引き続き材料視されよう。しかし、電力供給不足に伴う需給タイト感は根強く、下落しても余地は限定されると考える。

◆鉄鋼・鉄鋼原料

中国向け海上輸送鉄鉱石スワップは上昇、豪州原料炭スワップ先物は横這い、大連原料炭先物は下落、上海鉄鋼製品先物は上昇した。

休み明けの中国勢の在庫積み増しの動きが入ったためと考えられ、鉄鋼原料・鉄鋼製品とも水準を切り上げた。ただし大連原料炭先物は、中国政府による増産指示を受けてやや水準を切下げている。

本日も休日明けの中国背の在庫積み増しが予想されることから、鉄鋼原料価格は高値維持を予想。ただし、原料炭に関しては中国政府による石炭増産指示を受けてやや水準を切下げると考える。

◆貴金属

昨日の貴金属セクターは上昇した。米雇用統計を控えて景気減速への懸念が強まる中で長期金利が低下、それを受けて金は上昇していたが米雇用統計を受けて「テーパリングは予定通り」とみられ長期金利が反転上昇したため、引けに掛けて水準を切下げた。銀もほぼ同様の相場展開。

PGMは特段固有の材料があったというわけではないが、雇用統計が市場予想を下回ったものの雇用のミスマッチによるものであり回復は継続とみられ買い戻しが優勢となった。主に投機の買い戻しが継続していることによる上昇とみられる。

週明け月曜日は目立った材料がないものの、米雇用統計を受けてテーパリングのスケジュールに変化がないとみられたことから金銀は軟調推移、PGMは景気の回復観測を材料にした投機の買い戻しで堅調と見る。

◆穀物

シカゴ穀物市場は総じて軟調な推移となった。メキシコ保健当局がドイツの遺伝子組み換え大豆の輸出を認めなかったことで輸出市場の需給緩和観測が強まったことが背景、とされるが、正直なところこうしたイベント系の材料ではなく、ハーベスト・プレッシャーを背景とする小幅な調整、と整理する方が妥当だろう。

週明け月曜日は目立った材料がないが、引き続きハーベスト・プレッシャーに押される展開ながらも、安値拾いの買いは継続するため現状水準でのもみ合い継続と予想。

※中長期見通しは個別セクターのコラムをご参照ください。

市場データ・グラフ類の添付ファイルのサンプルはこちら。

【昨日のトピックス】

昨日、雇用統計が発表されたが市場予想を大きく下回る前月比+19.4万人(市場予想+50万人、前月+36.6万人)と市場予想を大きく下回った。

失業率は4.8%(市場予想4.8%、前月5.2%)と改善、労働参加率はさほど変わっていないため、やはり失業給付の終了で職に戻った人はそれなりにいたようです。

一方、労働時間に目を移すと週平均労働時間が34.8時間(34.7時間、34.6時間)と市場予想・前月とも上回っている。想定以上に雇用が満足に行えておらず、残業などの時間外労働の増加が増えているものと推察される。

この結果、実質賃金は前月比+0.6%(+0.4%、+0.4%)、前年比+4.6%(+4.6%、+4.0%)上昇しており、明らかに労働需給が逼迫していることをうかがわせるものだ。

これらのことは、特別給付終了で職に戻る人が増える一方、コロナの影響が大きかったこと、それに伴う郊外への移転(同じ職場に戻れない)、対人接触型ビジネスが今までと同じ環境ではなくなっていること、から「職を変える」動きが強まっていると考えられる。

実際、前回、大量雇用者の解雇があったリーマンショック時は、金融や不動産などのビジネスが縮小、IT産業など別の産業への労働者のシフトが起きている。これと同じとは言わないが、より高い賃金、より現在の住環境に適した職場、を雇用者が求めていることをうかがわせる統計だった

結果、雇用環境の改善は続いているが、雇用者と労働者の間のニーズのミスマッチが発生していることも同時に示唆する内容だった。雇用情勢の回復にはまだ時間がかかることになるだろう。

【マクロ見通しのリスクシナリオ】

・発電燃料供給不足による工場稼働停止や消費低迷で景気が減速する場合(リスク資産価格の下落要因)。

・中国恒大集団の債務問題が不動産セクター全体に波及し、世界的に株安となり経済活動が逆回転する場合(工業金属などの景気循環系商品を筆頭に、リスク資産価格の下落要因)。

・中国地方政府・中堅中小企業の財政状況悪化に伴う景気減速(これは人口動態を考えると、現実のリスクとなるのは2030年以降か)。

・環境重視型社会への急激な転換による、経済活動の鈍化リスク。成長ドライバーの1つとして期待される、中東・北アフリカ産油国が人口ボーナス期を活かせない(逆に鉱物産出国は高成長となる可能性も)。

逆に脱炭素に向けたインフラ投資の加速で資源価格が急上昇、金融緩和マネーが大量に市場に滞留する中でハイパーインフレとなるリスク。

・コロナウイルスの感染再拡大によるロックダウンが景気循環系商品の需要を減じる場合(価格下落要因)。

逆に想定以上に新型ワクチン・治療薬の開発が速やかに行われた場合は需要の増加要因に。

・来年の中間選挙を控えて、バイデン大統領が国内の支持を得られない場合。財政面や企業負担増の理由から造反が発生し、議会を通過しない場合は景気のリスクに(景気減速要因)。

・米財政出動が加速、景気回復期待を受けた価格上昇が顕著となる場合。

この場合、長期金利上昇でドル高が進行しやすく価格の下落を意識しなければならない。

・米中対立激化による、新冷戦構造が発現しブロック経済圏が発生して貿易活動が鈍化する場合(場合によると武力衝突も)。

「能動的に」軍事を行う方針に舵を切った中国習近平政権が、台湾統一を目指して侵略する可能性は高くなった。

・米テーパリング実施が、コロナの感染に苦慮する中南米、欧州・アフリカの新興国経済に悪影響を及ぼす場合(景気減速要因)。

・独総選挙結果を受けた連立政権樹立に難航し、域内最大経済国のドイツ経済が減速する場合、また、EUの指導力が低下し域内経済が停滞する場合(景気減速要因)。

・次の成長ドライバーとして期待されるインド経済が、期待通りの成長をできない場合(人種差別問題による国民の離反、市場開放・規制改革の遅れ、中国との対立など)。

2018年にすでに人口ボーナス期入りしているため、鉱物・エネルギーをはじめとする景気循環系商品需要の増加は2023~2024年頃。

・アフガン情勢の混乱が域内経済に混乱(大量の難民発生、コロナの感染拡大が欧州圏にもたらされるなど)をもたらし、米中対立を先鋭化させる場合(景気の減速要因)。

◆昨日の商品市場(個別)の総括


---≪エネルギー≫---

【原油価格見通し】

原油価格はこれまで脱炭素の流れで増産が見送られてきたことから直ちに供給増加ができないこと、OPECプラスの「追加」増産見送り、欧米投資銀行が100ドル原油予想を相次いで発表、投資熱が高まっていることなどから高値を維持すると考える。

特にこの冬は天然ガス・石炭の供給不足が解消する感じではないため、冬場の気温次第では一段の上昇も有り得る状況。

10月4日のOPECプラスは追加増産への期待があったがこれを見送り、当初予定通りの40万バレルの増産にとどめた。

サウジアラムコは「ガス価格の高騰で原油需要が50万バレル増加している」としており、9月のDOE予想を元にすれば10月は80万バレル程度の供給過剰であるため、メキシコ湾の生産回復に遅れが出ていることを考えると、ほぼ需給はバランスしていることになる。

しかし、供給が綱渡り状態であることは事実であり、冬場の気温次第で供給が不足する可能性は低くない。

中期的にはOPECの増産、米テーパリング開始、発電燃料供給不足が企業活動を鈍化させること、冬場の上昇による暖房需要の減少を背景に軟調な推移になると予想する。

テーパリングに関しては、前回実施時は中盤に原油価格は下落に転じており、今回テーパリング開始も価格の下押し要因となるが、利上げの先送り観測でドル安が進行するならしばらくは価格の下支え要因となる。

弊社年末に向けてBrentは60ドル台半ば、WTIは60ドル台前半への調整をメインシナリオとしていたが、足下の厳しい供給環境、代替品としての原油需要の高まりを考慮し各々10ドル程度引き上げた。

米DOEの2021年供給は96.10MBD、需要は97.37MBD、需給バランスは▲1.27MBDの供給不足。

価格を下押ししてきたコロナであるが、徐々に「ウィズコロナ」に舵が切られつつあり感染拡大が価格下落に影響するステージは早晩終了するとみられる。

しかし、それはこの冬到来が懸念される第6波までに解消する、とは考え難いため引き続き景気循環系商品価格の下落要因である。

中国の輸入規模はその水準は世界最大であるものの、原油価格に余り影響を与えない中国の原油輸入は、8月は前年比▲6.2%の4,453万トン(前月▲19.6%の4,124万トン)と前年比では減速しているが、大幅に増加している。

中国は輸入に関して価格感応度が高いため、7月・8月の価格下落時の輸入が増加している。需要の回復もあろうが、主に戦略備蓄向けと考えられる。

【見通しの固有リスク】

・気温低下による暖房向け燃料需要が増加、ないしは不稼働の液体系燃料発電(ディーゼルや重油)を有する国や地域が再稼働を決定した場合(価格の上昇要因)。

・電力・ガスをはじめとするエネルギー供給制限が経済活動を強制的に停止させ、需要が減少する場合(価格の下落要因)。

・コロナの変異株が猛威を振るいワクチンが効かない場合(需要減少で下落リスク)。

・米国経済が正常化する中でテーパリングなどの金融緩和解除が加速、急速なドル高を通じて投機的な売り圧力が高まる場合(価格の下落要因)。

・OPECプラスの増産ペースの遅れないしは上流部門投資不足による供給不足。またはイランを巡り武力衝突や制裁解除が遅れた場合(価格上昇要因)。

価格が上昇する中でOPEC諸国の減産維持統制が効かなくなり、増産競争に舵が切られる場合(下落要因)。

・脱炭素の進捗、生活様式の変化による構造的な需要減少が加速した場合(価格下落要因)。

・脱炭素の過剰な進捗による供給懸念(価格上昇要因)。

1.中東産油国の財政悪化によって情勢不安が顕在化、供給途絶リスクが高まる場合

2.中東以外の産油国の生産者の破綻

3.上流投資部門投資が減速し、インドなどの新興国需要顕在化時に供給が間に合わない場合

4.価格面、数量面で予算を確保できない産油国が、OSPを大幅に引き上げる場合(第3次オイルショック)

かなり過剰なペースで脱炭素が進められており、オイルメジャーも株主・政府の圧力を受けて脱炭素に舵を切り、タイムリーな原油増産が困難になっている。

この場合、「脱炭素移行期間の景気回復時」には十分な燃料供給が出来ないリスクが高まり、来年以降の価格上昇局面で原油価格が100ドルを超えるリスク(リスクシナリオの位置づけ)。

なお、脱炭素が完了しても100%原油が不要になることはなく、OPECの価格支配力が増すため、この場合でも価格は上昇へ。

【石炭価格見通し】

海上輸送石炭価格は堅調な推移になると考える。中国・インドなどの石炭火力中心の地域の石炭在庫水準は低く、冬場の電力需要向けの調達は旺盛で、供給不足に伴い稼働を停止する工場が増加していることから考えても分るように、今後も石炭調達は継続するとみられ高値維持の公算。

中国政府は石炭供給不足を解消するため、環境規制強化の方針を解除し増産に舵を切った。しかし今年の生産はそもそも過去5年の最高水準を維持しており決して減産していた訳ではないこと、冬場の増産が難しいことから、影響は限定されて高値で推移する可能性は高い。

石炭は「座礁資産」と呼ばれ、上流部門投資ができなくされていることから、増産をしているのはGlencoreや中国企業ぐらいであり、供給が不十分であること、需要側の構造はそう簡単には変わらないことを考えると、この冬場は極めて高い水準を維持することになろう。

8月の石炭輸入は前年比+35.8%の2,805万2,000トン(前月+15.6%の3,017万8,000トン)と前月から水準は減少したが、昨年の水準を上回った。過去5年平均は上回っている。

猛暑・渇水による発電燃料としての石炭需要増加と、中国の経済活動回復に伴う電力需要の増加が続いているためと考えられる。

【見通しの固有リスク】

・今冬はラニーニャ発生が予想され、厳冬のリスクも意識されているが懸念に反して暖冬となる場合(価格下落要因)。

・電力・ガスをはじめとするエネルギー供給制限が経済活動を強制的に停止させ、需要が減少する場合(価格の下落要因)。

・Nord Stream2の稼働が早期に行われ、天然ガス価格が急落する場合(下落要因)。

・世界的な環境重視型世界へのシフトを受けた、石炭上流部門への投資規制強化による、供給減速懸念(価格の上昇要因。これは既に顕在化)。

・中国と豪州の対立、中国国内の生産能力増強に伴う、海上輸送炭需要の減少。

【天然ガス・LNG】

天然ガス価格は中国の経済活動が活発である一方、自然エネルギー供給(英国の風力、ブラジル・中国の水力など)が減少、火力発電向けの燃料需要が旺盛なこと、石炭価格も高値を維持していることから、価格は高値を維持すると考える。

ロシアプーチン大統領が欧州向けのガス供給に前向きな発言をしているが、だからといって実際に輸出が始まった訳ではなく、また、在庫不足の状態に変わりはないこと、ノルドストリーム2の稼働も来年の可能性が出てきたことから価格は高値維持。

引き続き、ラニーニャ現象発生が懸念される中で冬場に突入し、厳冬の中、計画停電が行われる可能性がある。この場合、人命のリスクが無視できない。

8月の中国の天然ガス輸入は前年比+11.5%の1,044万トン(前月+27.0%の934万トン)と減少したが、季節的に見ると過去5年レンジを大きく上回った状態が続いている。

8月の中国のLNG輸入は前年比+11.7%の665万トン(前月+12.6%の567万トン)と過去5年レンジを上回り構造的な需要増加は続いているが、やや伸びは鈍化した。

長期契約のLNGに関しては、原油リンクとなるため上昇見通しだが、価格反映までに3ヵ月程度の時間差があるため(消費者への影響はさらに3ヵ月後)、現時点ではまだ上昇していないと考えられる。次の懸念は夏のピーク時の電力・ガス価格への影響だろう。

【見通しの固有リスク】

・今冬はラニーニャ発生が予想され、厳冬のリスクも意識されているが懸念に反して暖冬となる場合(価格下落要因)。

・電力・ガスをはじめとするエネルギー供給制限が経済活動を強制的に停止させ、需要が減少する場合(価格の下落要因)。

・8月18日にNord Stream2が稼働しているとの誤ったデータが発表された直後、ガス価格が大幅に下落している。

政治的な要因でNord Stream2の稼働は遅れると考えられるが、同パイプラインが稼働して欧州のガス需給が緩和した場合(価格下落要因)。

・石炭と同様、「化石燃料であること」を理由に上流部門投資が制限される、あるいは原油生産減少による随伴ガス供給が減少する場合(構造的な価格上昇要因)。

・産油国の減産継続による随伴ガス供給の減少懸念。

【投機筋のポジション動向】

・直近の投機筋のポジションは以下の通り。

WTIはロングが548,561枚(前週比 +21,038枚)ショートが150,254枚(▲3,455枚)ネットロングは398,307枚(+24,493枚)

Brentはロングが395,059枚(前週比+3,964枚)ショートが62,382枚(+241枚)ネットロングは332,677枚(+3,723枚)

---≪LME非鉄金属≫---

【非鉄金属価格見通し】

非鉄金属価格は中国の不動産バブル抑制が不動産市場全体に波及する可能性が高いこと、直近の直近の工業生産、固定資産投資、不動産投資、工業セクター利益も減速が顕著であり、当面、加熱した景気の沈静化に中国政府が舵を切る可能性が高いことから軟調推移を予想。

ただし、この冬にかけては発電燃料の不足を背景とする電力供給不足リスクが顕在化しており、強制的に生産が停止される金属が増えることから供給面で価格はサポートされるため下落余地は限定されると考える。

ロシアの欧州向けガス供給観測、中国政府による石炭増産指示が報じられているが、だからといって直ちに現状の厳しい需給環境が緩和するわけではない。

実施が期待されている米インフラ投資法案が、バイデン政権支持率低下で当初予定通り実行されるかが微妙になってきた。超党派で合意しているため実行されるとみるが、期待通りの規模にならない可能性も考える必要がある。

その一方で、電力・ガスをはじめとするエネルギー供給制限は経済活動を強制的に停止させ、工場向けの金属需要を減少させる可能性もあるため、発電燃料の不足は短期的には供給制限で価格を支えるが、工場稼働停止の場合、即時に需要が減少するため短期的には下落要因と整理するのが妥当か(価格への影響は通常、需要面の影響の方が供給面よりも大きい)。

なお、長期的にはインドの人口ボーナス期入り、まだ脱炭素の流れ、省エネの流れに変わりがないため、供給面・需要面の制限から価格が上昇するという見通しを変更する必要はないと考えている。

【LME金属需給見通し】

(2021年)

銅 生産 24,947千トン 需要 26,790千トン 需給 ▲842千トン

亜鉛 生産 14,045千トン 需要 14,069千トン 需給 ▲24千トン

鉛 生産 12,381千トン 需要 12,168千トン 需給 +213千トン

アルミ 生産 67,716千トン 需要 66,444千トン 需給 +1,272千トン

ニッケル 生産 2,573千トン 需要 2,612千トン 需給 ▲40千トン

錫 生産 429千トン 需要 431千トン 需給 +28千トン

【中国重要統計の評価】

9月の中国製造業PMIは49.6(前月50.1)と市場予想の50.0を下回り、閾値である50を下回り、製造業の減速感が鮮明となった。しかし同時に発表された財新製造業PMIは50.0(市場予想49.5、前月49.2)と回復しており、ややまちまちの内容となっている。

製造業PMIの規模別の景況感を見ると中堅・中小企業の減速が鮮明だが、財新製造業PMIは中堅企業並びに輸出企業が主体であるため、直近の貿易統計で輸出がやや回復したことが影響した可能性はある。

しかし総じて減速していることは間違いがなさそうで、工業金属需要減速、並びに価格の下落要因となり得る。

内訳を見ると生産鈍化(50.9→49.5)、新規受注(49.6→49.3)、輸出新規受注(46.7→46.2)、受注残(45.9→45.6)と需要の鈍化が顕著である。

在庫水準は低いが増加しており、完成品在庫は47.7→47.2、原材料在庫は47.7→48.2、サプライヤー納期はほぼ変わらない(48.0→48.1)。

さらに細かく見ると、購買量は減少(50.3→49.7)、購入価格は上昇(61.3→63.5)、販売価格も上昇(53.4→56.4)している。

工業金属価格に対する説明力が高い新規受注在庫レシオは、完成品が1.045(前月1.040)と上昇、原材料が1.023(1.040)となった。

生産指数が低下していることと合わせて考えると、1.発電燃料・電気の不足で稼働が低下、2.原材料は積み上がるが製品は出荷される、3.価格転嫁も進んでいるが輸入価格の高騰は続き、レーショニングが起きている、4.総じて原材料需給は緩和し、完成品需給はタイトな状態、と整理できる。

これまで工業金属価格の上昇を牽引してきたのは中国の住宅セクターであるが、中国の建設業PMIは57.5(前月60.5)と減速した。中国政府による不動産セクター沈静化の動きが影響しているとみられる。

中国恒大集団の債務問題はその氷山の一角だろう。問題の顕在化はこれからではないだろうか。

8月の中国の貿易統計を見ると、ベンチマークである精錬銅の輸入は前年比▲41.1%の39万4,017トン(前月▲44.3%の42万4,280トン)と過去5年平均を下回り続けており、減速感が鮮明となっている。

8月の銅精鉱の輸入は前年比+18.6%の188万6,000トン(前月+5.5%の189万トン)と高い水準を維持している。TCの上昇もあって製錬需要が増加したと考えられる。

8月の銅スクラップの輸入は+60.2%の12万9,802トン(前月+98.9%の14万9,369トン)。

ただし全体としては輸入に下押し圧力が掛っている印象は否めず、しばらくは調整圧力が強まる展開が予想される。

工業金属のフロー需要に影響する工業生産は、1-8月期累計で前年比+13.1%(1-7月期+14.4%)と伸びが鈍化、単月でも 前年比+5.3%(前月+6.4%)と鈍化が鮮明になっている。

ストック需要の指標である固定資産投資も年初来累計で+8.9%(+10.3%)と明確に減速。公的セクターの伸び鈍化は所与としても、よりボリュームの大きな民間部門が前年比+11.5%(+13.4%)と伸びが減速していることは、中国政府によるバブル抑制行動が影響しているとみられる。

中国政府が最も懸念している不動産開発投資はまだ前年比+10.9%(1-7月期+12.7%の8兆4,895億元)と高い伸びを維持しているがそれでも減速基調にあり、新築住宅販売の前年比上昇も+0.16%(前月+0.30%)と伸びが鈍化している。

いずれも「伸び」が鈍化しているのみであり、中国の経済活動が回復していることは間違いがない。しかし、需要の伸びが想定を下回る場合、多くの場合供給過剰を誘発して価格の下押し要因となる。

【政策動向・脱炭素】

政策動向・脱炭素の流れは中長期的な材料。米バイデン政権は8年間で1兆2,000億ドルのインフラ投資計画実施計画。

道路・橋梁・主要プロジェクトに1,090億ドル、電力インフラに730億ドル、旅客・貨物鉄道に660億ドル、ブロードバンド・インターネットサービスに650億ドル、公共交通機関に490億ドル、空港に250億ドルを投じる。

さらには2022年度予算も戦後最大となる歳出を6兆ドルと、以上と戦後最大の水準とする方針。

これらの需要は景気に関係なく発生する需要であるため、需要の見通しは底堅く、価格の調整があっても下値余地は限定される可能性が高い。

これまで中国が鉱物セクターの需要動向に関して主役であり、今後も非鉄金属価格の動向は中国動向が左右するが、「新規の需要」については欧米動向が重要になる可能性は意識しておきたいところ。

この場合、米国の景気回復=ドル高・金属価格上昇、という構図も考えられる。

米国・中国・インドがどのような動きをするかに環境政策は左右されるが、ここまでの各国の動きを見ていると当面は環境向けに使用される金属の需要増加は「今後10年・20年の大きなテーマ」となる可能性が高い。

軽量化目的のアルミ、EV向けのニッケル、銅(通常25キロ/台の銅が使われるが、EVは80キロ/台)、蓄電池としての鉛、コバルト、リチウムなど。

2020年の中国の新エネルギー車の販売は前年比+7.5%の137万台(前年124万台)となった。全体の自動車販売が2,523万台なのでシェアは5.4%(4.9%)と上昇している。それでも電気自動車が非鉄金属市場の重要なテーマになるには、あと数年は要する見込み。

【見通しの固有リスク/個別金属の特殊要因】

・中国不動産大手恒大集団の破綻懸念が中国の住宅セクターに広がり、中国の不動産バブルがはじける場合(価格下落要因)。

・ロジスティクスに障害が残る中、非鉄金属の偏在が現物プレミアムを押し上げるリスク(北米で顕在化)。

・猛暑や渇水による燃料価格上昇で、1.電力供給不足による稼働停止・供給減少、2.発燃料価格の上昇を通じて生産コストが上昇する、場合(価格上昇リスク)。

・米国経済が正常化する中でドル高が進行し、投機買いが膨らんでいる非鉄金属市場で投機の手仕舞い売り圧力が高まる場合(下落リスク)。

・米中間選挙に向けて、米民主党が追加でインフラ投資(2兆ドルのクリーンインフラ投資など)を議会の採決を得て実行に移す場合(上昇リスク)。

・上流部門投資不足並びに鉱石の品位低下による、鉱山供給の制限。

・チリやペルーで広がる左派勢力伸長に伴う大衆迎合的な政策が可決し、鉱山生産に過剰なロイヤルティが適用される場合(供給減少ないしは生産コスト上昇で価格の上昇要因)。

チリで議論されている銅のロイヤルティ増税案の詳細は以下の通り。

年内実施予定の選挙結果では課税強化で生産コスト上昇、または減産となる可能性も。

3%の新ロイヤルティに加え、銅価格に連動して税額が賦課される仕組み。

2ドル~2.5ドル/ポンド(4,406~5,508ドル/トン):15%2.5ドル~3(5,508~6,609):35%3ドル~3.5(6,609~7,711):50%3.5ドル~4(7,710~8,813):60%4ドル~4.5(8,813~9,914):70%

年間販売量が5万トン未満の小規模生産者は品位95%の粗銅の場合▲5%の軽減税率、アノードの場合(99.4~99.6%)が適用される。

2023年までは現行の営業利益率によって5~14%の鉱業ロイヤルティが適用されるが、2024年以降は新税制を適用。

・インドネシアが再び低品位ニッケル鉱石の輸出を制限する場合(ニッケル価格の上昇要因)。

・環境問題や人権問題(コンフリクト・メタルの問題)を背景とする鉱山供給の減少。

また、環境に配慮したメタル使用の義務化などが欧州で進む場合などのコストアップ(グリーン・メタルの義務化によるコスト増加)。

中国の環境規制強化に伴う供給の減少。エネルギー排出量の多い新疆ウイグル自治区でのアルミ生産は減産の影響は既に材料視されている。

【投機筋のポジション動向】

・LME投機筋買い越し金額 前週比▲7.5%の272億ドル(前週 294億ドル)・LME投機筋買い越し数量 前週比▲4.8%の6,017.1千トン(前週 6,319.7千トン)

---≪鉄鋼原料≫---

【鉄鋼原料価格見通し】

鉄鉱石価格は中国政府の発電燃料供給不足と環境改善目的の鉄鋼製品生産減少、中国不動産セクターの先行き不安が鉄鋼向け需要を減じることから、水準を切下げる展開を予想。

直近の工業生産、固定資産投資、不動産投資、工業セクター利益とも前年比ベースの減速が顕著であり、中国政府の想定通り中国経済は過熱が沈静化の方向に向かっている。

ただし、同時に中国政府は金融緩和を行っていること、米欧中のインフラ投資による建材向け需要増加観測を背景に下落したとしても下値余地は限定されるのではないか。米国では鉄鋼製品価格上昇が継続している。

なお、鉄鉱石先物の期先の価格が限界生産コストの目安として意識されるが、100ドル程度で安定しており、やはり中長期的にはこの水準に価格が回帰すると考えている。

【中国の政策動向】

中国共産党は2021年から始まった新しい5ヵ年計画で鉄鋼生産量の削減の必要性を表明している。今のところ昨年の生産量を超えないようにする、というのが中国政府の目標。

最大生産都市である唐山市は、2021年20日~12月31日まで、大気汚染基準に違反し、データを改ざんした4社は7月~12月末まで▲30%減産、その他の16社は12月末まで▲30%の減産を新たに実施することを義務づけられている。

これにより、唐山市の粗鋼生産は前年比▲2,223万トンの1億2,177万トン、鉄鉱石需要は▲3,500万トン減少するとみられている。

別の話だが、半年後、北京オリンピック中に粗鋼生産が停止させられる可能性は高い。

粗鋼生産が減少すれば、鉄鉱石の在庫水準の指標である在庫日数も、分母が小さくなるため上昇が予想され、鉄鉱石価格の下落要因となる。これは原料炭も同様。

【中国重要統計の評価】

9月の中国鉄鋼業PMIは総合指数は45.0(前月41.8)と回復した。これは新規受注(31.6→39.0)、輸出向け新規受注(31.8→39.5)と回復したことによるものだが10月の大型連休や8月の洪水の影響もあってその反動の増加と考える方が適切だろう。

新規受注の回復を受けて新規受注・完成品レシオが1.12(0.94)となり、新規受注原材料レシオも1.00(0.89)の上昇となった。しかし完成品の方がレシオの上昇が顕著である。

このことは、生産抑制に伴い鉄鋼製品需給はタイトな状態が続く一方、鉄鋼原料需給は完成品ほどではないがやはりタイトであり、鉄鋼原料輸入が継続する可能性が高いことを示唆している。

特に、環境保護や生産制限によって国内供給が厳しく、海外からの輸入(豪州)ができなくなり、モンゴルからの供給もコロナの影響で制限されている原料炭価格はさらに高値を維持することになろう。

これまで工業金属価格の上昇を牽引してきたのは中国の住宅セクターであるが、中国の建設業PMIは57.5(前月60.5)と減速した。中国政府による不動産セクター沈静化の動きが影響しているとみられる。

中国恒大集団の債務問題はその氷山の一角だろう。問題の顕在化はこれからではないだろうか。

工業金属のフロー需要に影響する工業生産は、1-8月期累計で前年比+13.1%(1-7月期+14.4%)と伸びが鈍化、単月でも 前年比+5.3%(前月+6.4%)と鈍化が鮮明になっている。

ストック需要の指標である固定資産投資も年初来累計で+8.9%(+10.3%)と明確に減速。公的セクターの伸び鈍化は所与としても、よりボリュームの大きな民間部門が前年比+11.5%(+13.4%)と伸びが減速していることは、中国政府によるバブル抑制行動が影響しているとみられる。

中国政府が最も懸念している不動産開発投資はまだ前年比+10.9%(1-7月期+12.7%の8兆4,895億元)と高い伸びを維持しているがそれでも減速基調にあり、新築住宅販売の前年比上昇も+0.16%(前月+0.30%)と伸びが鈍化している。

いずれも「伸び」が鈍化しているのみであり、中国の経済活動が回復していることは間違いがない。しかし、需要の伸びが想定を下回る場合、多くの場合供給過剰を誘発して価格の下押し要因となる。

【中国鉄鋼製品輸出入・在庫動向】

8月の中国の鉄鋼製品の輸入は前年比▲52.5%の106万3,000トン(前月▲59.8%の105万トン)と低迷し、過去5年平均を下回った状態が続いている。

8月の中国粗鋼生産は前年比▲12.2%の8,324万トン(前月▲7.0%の8,679万トン、前々月+2.5%の9,388万トン、前々々月+7.8%の9,945万トン)と減速が鮮明になった。前年比での伸びが鈍化。生産調整の影響が出ている。

一方、8月の鉄鋼製品の輸出は前年比+37.3%の505万3,000トン(前月+35.6%の567万トン)と前月から前年比の伸びを拡大した。ただし、過去5年平均を下回る水準に減少しており、やはり国内供給を優先させていることが窺える。

なお、中国の鉄鋼製品需要は旺盛とみられるが、在庫水準は前週比+16万6,000トンの1,460万8,000トン(過去5年平均 1,164万トン)と例年を上回り水準は高い。

【中国鉄鉱石輸出入・在庫動向】

原料である鉄鉱石の7月の輸入は前年比▲21.4%の8,851万トン(前月▲12.1%の8,942万トン)と減速した。中国政府の鉄鋼ミル稼働制限の動きが輸入を鈍化させたとみられる。

また中国の鉄鉱石需要は鈍化している可能性がある。

なお、中国の最大の輸入相手である豪州では鉱山の人繰りが付かず生産が停滞しているとの指摘もあるが、直近5月の輸出統計では明確な減速は確認されていない。

鉄鉱石港湾在庫は前週比+350万トンの1億3,350万トン(過去5年平均1億2,646万トン)、在庫日数は29.6日(過去5年平均 28.6日)と数量ベース・日数ベースでも過去5年平均を上回り急速に需給が緩和していることが確認されている。

在庫日数は粗鋼生産の水準の高さに依拠するため、中国政府の鉄鋼生産抑制方針を受けて在庫日数の上昇傾向は続き、価格を下押しすると予想される。

【中国原料炭輸出入・在庫動向】

原料炭は中国の生産活動回復が継続しているが、前年比の伸び鈍化が明確になってきたため(中国政府の方針通り)、価格は下落余地を探る動きになると考える。

また、中国政府は原料炭を含む石炭の国内生産を増加させる方針であることも、海上輸送原料炭価格を下押ししよう。

とは言え、環境規制強化の流れで世界的に原料炭供給を増加させられる地域が限定されることから、下落余地も同様に限定される都見るのが妥当だ。

8月の中国の原料炭輸入は前年比▲34.7%の468万2,831トン(前月▲48.8%の377万1,291トン)と回復しているが、過去5年レンジを下回った状態が続いている。豪州からの輸入停止と、モンゴルからの輸入停滞(コロナの影響)、国内の鉄鋼生産削減政策が影響しているとみられる。

中国の港湾在庫の水準は鉄鋼の最大生産省である河北省の主要港である、京唐港の港湾在庫は前週比▲13万トンの100万トンと過去5年平均の124万1,000トンを下回っている。

在庫日数は4.1日と、過去5年の平均である5.2日を下回り、タイトな状態。中国政府の方針を受けた粗鋼生産の減少の可能性は高いものの、在庫水準の異常な低さが価格を押し上げよう。

【見通しの固有リスク】

・中国の不動産セクター減速が、建材需要を減少させる可能性(鉄鋼製品価格の下落を通じて鉄鋼原料価格の下落要因)。

・世界的に広がる環境規制強化の流れで、鉄鉱石や原料炭などの生産に一定の影響が起きる場合(価格上昇要因)。

・コロナウイルスの感染拡大長期化による、鉱山生産の減少リスク(価格上昇要因)。

---≪貴金属≫---

【貴金属価格見通し】

【金】

金はしばらく上昇圧力が強まる展開が予想される。米テーパリングは早期に行われるものの、ぺースが緩慢で利上げはまだ先と強調されたことで、一旦調整的に長期金利の下押し圧力が強まるため。

また、足下のエネルギー価格の上昇が期待インフレ率を高止まりさせ、実質金利に下押し圧力を掛けることも価格を下支えしよう。

ただしテーパリングが進捗する中では(というよりは、テーパリング宣言からテーパリング実施まで、その影響を織り込む中では)長期金利に上昇圧力が掛り、中期的に下落に転じる見通しに変化はない。

なお、過去5年平均を基準にすると名目金利1bpに対する金価格の感応度は±3.0ドル弱であり、米10年金利が現在の水準から30bp上昇すれば▲90ドルの下落圧力となる(60bpで▲180ドル)。

現在の金の実質金利で説明可能な価格(金基準価格)は1,624ドル(前日比▲1ドル)、そこからの乖離(リスク・プレミアム)は133ドル(+2ドル)。

リスク・プレミアムは、過去3ヵ月平均で120ドル、6ヵ月で170ドル、1年で185ドル、5年で175ドルとなっている。

なお、金価格を実質金利要因と為替要因に分類した場合、為替要因はリスク・プレミアムのところに内包されると整理している(為替は名目金利の影響も受けるので、純粋に為替の要因のみ切り出すのが困難であることから)。

※毎日回帰分析をアップデートし、リスク・プレミアム自体の水準を見直しているため、前日比の整合性が取れていない場合があります。

【銀】

銀価格は金価格との比較感で売買されるが、金銀レシオは現在、77.5倍。過去1年を基準にすると72倍、5年では80倍、2000年以降では66倍程度が妥当。

今後、さらに金銀レシオが低下するには、工業需要の増加が必須。今後、IT化の進捗でエレクトロニクス向けの需要が増加することが必要。太陽光パネルの増設は脱炭素の行きすぎヘの反発や、米国が太陽光パネルの主要生産国である中国からの調達を手控えると考えられ、影響は限定と考える。

なお、銀価格=金価格÷金銀レシオ であり、金銀レシオが低下することで金価格が変動した時の弾性値が上昇(ボラティリティは上昇し、足元金の2倍に上昇)する点は留意。

(例)金が2,000ドル、銀が20ドルのとき 金銀レシオが100倍→金価格±1ドルの変化で銀価格は±1セント変化 金の変化率は±0.05%、銀は±0.05%

 金銀レシオが1倍→金価格±1ドルの変化で銀価格は±1ドル変化 金の上昇率は±0.05%、銀は±5%

【PGM】

プラチナ価格は銀価格との連動性が高い。これは供給過剰で投機的な取引の影響が強まっていることによる。プラチナの需給バランスはWPICデータを元にすると今年も除く投機で供給過剰であり、投機動向が価格を左右しやすい。

パラジウムは半導体供給低迷が自動車生産に影響を与える状況が来春ぐらいまでは続く可能性があるため、当面低水準での推移。しかし自動車販売が回復すれば再び高値圏へ。

8月の米自動車販売は年率1,218万台(市場予想1,300万台、前月1,306万台)と減速。目先はパラジウム価格の下落要因となりやすい。

中国の自動車販売は中国自動車工業協会の集計で以下の通りであり、明らかに伸びが減速している。半導体供給不足に加え国内景気の伸び減速が影響。

8月 前年比▲17.4%の179万8,841台7月 ▲11.8%の186万3,550台。6月 ▲12.4%の201万5,309台5月 ▲3.0%の212万7,000台4月 +8.8%の225万台3月 +76.5%の252万5,000台2月 +371%の146万台1月 +30%の250万台

調査会社のオートフォーキャスト・ソリューションズによれば半導体不足による供給減少の累積は7月16日時点で167万8,000台となっており、2019年1-7月期の966万9,484台から▲17.4%減少している。

この回復がある、ないしは供給側の混乱(南アフリカ)による生産減少がなければ、PGM価格は低水準で推移しよう。

【見通しの固有リスク】

・アフガニスタン情勢がかなり混迷の度合いを深めており、周辺地域への影響(南欧など)が拡大し、軍事的な行動に発展、足下のリスク・プレミアムが低いことからリスク回避の見直し買いが入る場合(貴金属セクター全体の上昇要因)。

・主要生産国の南アフリカの電力供給不安や、コロナウイルスの影響拡大で供給が滞る場合(PGMの価格上昇要因)。

・コロナからの回復は各国まだらであり、先行する米国が金融正常化に動いた場合、新興国から資金が流出して信用リスクが高まる場合(安全資産価格の上昇要因)。

・米中の対立激化。バイデン政権は対中強硬姿勢を明確にしており、対立がさらに激化する場合(安全資産価格の上昇要因)。

・中国地方政府・中堅中小企業の財政状況悪化に伴う景気減速による安全資産需要の増加(実際に破綻が意識されるのは2030年以降か)。

・世界的な自動車販売の減速(米欧中)による、自動車向け排ガス触媒需要の減少(PGM)。

環境重視型社会へのシフトはパラジウム需要を増加させるが、さらに加速して「水素社会」まで到達すると、燃料電池車需要が増加して構造的にプラチナ価格の上昇要因となる可能性。

・コロナウイルスの感染拡大による、最大生産国の1つである南アフリカの鉱山稼働が電力供給問題もあって不安定であることによる供給懸念。

【投機筋のポジション動向】

・直近の投機筋のポジションは、金はロングが295,939枚(前週比 +2,125枚)、ショートが113,357枚(▲12,058枚)、ネットロングは182,582枚(+14,183枚)、銀が63,957枚(▲533枚)、ショートが47,578枚(▲207枚)、ネットロングは16,379枚(▲326枚)

・直近の投機筋のポジションは以下の通り。

プラチナはロングが32,414枚(前週比 +506枚)ショートが26,899枚(+644枚)、ネットロングは5,515枚(▲138枚)

パラジウムが2,829枚(+271枚)、ショートが6,059枚(+251枚)ネットロングは▲3,230枚(+20枚)

---≪農産品≫---

【穀物価格見通し】

シカゴ穀物価格は堅調な推移になると考える。冬場のラニーニャ現象の発生(北半球の天候相場は終了も、南半球の天候相場入り)が懸念されていることや、その他の商品価格が上昇する中で割安感がまだある穀物セクターが物色される可能性が高まっているため。

8月の中国の大豆輸入は前年比▲1.2%の948万8,000トン(前月▲14.0%の867万トン)と回復し、過去5年水準を上回った。依然として中国の大豆在庫の水準は低いため、相応の輸入需要があると見られる。

Locust WatchではFAOの予想通り、降雨がなかったため群生相の発生は極めて抑制されている。Locust Watchでも今のところ差し迫った危機の発生リスクは指摘されていない。

しかし、ラニーニャ現象発生に伴うサイクロン発生リスクも低くないため、再び越冬できるバッタの数が増加する可能性も有り得るため、引き続き注意が必要だ。
http://www.fao.org/ag/locusts/common/ecg/75/en/210923update.jpg

【見通しの固有リスク】

・ラニーニャ現象発生観測による投機筋の買い圧力の強まり(価格の上昇要因)。

・環境重視型社会へのシフトにより、燃料向け穀物需要が増加する場合(価格の上昇要因)。現在はそれほどの数量でもない、バイオディーゼル向けの大豆需要増加など。

・新型コロナウイルスの影響拡大による、輸出活動の停滞(シカゴ定期を含む生産地価格の下落要因)。

【米農務省需給報告データ】

・米作付け意向面積トウモロコシ 9,114万エーカー(市場予想9,313万エーカー、前年9,699万エーカー)大豆 8,760万エーカー(9,010万エーカー、8,351万エーカー)小麦 4,636万エーカー(4,495万エーカー、4,466万エーカー)綿花 1,204万エーカー(1,215万エーカー、1,370万エーカー)

・米穀物最終作付け面積 実績(前年)トウモロコシ 9,269万エーカー(9,082万エーカー)大豆 8,756万エーカー(8,383万エーカー)小麦 4,674万エーカー(4,425万エーカー)

・9月米需給報告単収見通し(実績/市場予想/前月)トウモロコシ 176.3Bu/エーカー(175.6、174.6)大豆 50.6Bu/エーカー(50.4、50.0)小麦 44.5Bu/エーカー(NA、44.5)

・9月米需給報告生産見通し(実績/市場予想/前月)トウモロコシ 149億9,600万Bu(149億137万Bu、147億5,000万Bu)大豆 43億7,400万Bu(43億6,526万Bu、43億3,900万Bu)小麦 16億9,700万Bu(NA、16億9,700万Bu)

・9月米需給報告輸出見通し(実績/前月)トウモロコシ 24億7,500万Bu(24億Bu)大豆 20億9,000万Bu(20億5,500万Bu)小麦 8億7,500Bu(8億7,500万Bu)

・9月米需給報告在庫見通し(実績/市場予想/前月)トウモロコシ 14億800万Bu(13億4,137万Bu、12億4,200万Bu)大豆 1億8,500万Bu(1億8,152万Bu、1億5,500万Bu)小麦 6億1,500万Bu(6億1,259万Bu、6億2,700万Bu)

・9月末四半期在庫 実績(前期末)トウモロコシ 12億3,600万Bu(41億1,100万Bu)大豆 2億5,600万Bu(7億6,900万Bu)小麦 17億8,000万Bu(8億4,500万Bu)

・10月CONABブラジル作付け面積(市場予想/前月)トウモロコシ 2,087万ha(2,087万ha、1,987万ha)大豆 3,992万ha(4,031万ha、3,853万ha)

・10月CONABブラジル生産量(市場予想/前月)トウモロコシ 1億1,631万トン(1億1,932万トン、8,575万トン) 単収 5,5756kg/ha(5,716kg/ha、4,316kg/ha)大豆 1億4,075万トン(1億4,408万トン、1億3,591万トン) 単収 3,526kg/ha(3,578kg/ha、3,527kg/ha)

【投機筋のポジション動向】

・直近の投機筋のポジションは以下の通り。

トウモロコシはロングが410,799枚(前週比 +24,622枚)、ショートが113,794枚(+6,163枚)ネットロングは297,005枚(+18,459枚)

大豆はロングが137,547枚(▲3,558枚)、ショートが86,146枚(+9,761枚)ネットロングは51,401枚(▲13,319枚)

小麦はロングが96,203枚(+11,343枚)、ショートが88,891枚(+386枚)ネットロングは7,312枚(+10,957枚)

◆本日のMRA's Eye


「鉱物資源価格が2030年まで上がると考える理由とは」

中国の政策変更の背景

7月に発表された中国の4-6月期の実質GDPは前年比+7.9%と前期の+18.3%から減速、年初来の実質GDPも+12.7%(+18.3%)と伸びが鈍化した。足下の成長ペースの減速は昨年から続く新型コロナ対策が一巡し、今年7月の中国共産党結党100周年記念行事を終えて過剰な景気刺激の必要性がなくなり、むしろ昨年から発生している住宅セクターの加熱をいかに抑制するかに軸足が移ったと考えられる。

中国のGDPの構成は4割弱が個人投資で6割が投資であり、新型コロナの影響による景気減速を回避するための刺激策もその効果を考えると投資に偏らざるを得なくなる。

そのため、中国共産党政府自身が昨年から指摘しているように、経済への波及効果が大きい住宅セクターを刺激することは経済対策の常道ではあるが、先進国で見られたように人口動態がピークアウト後の住宅バブル崩壊はその影響が大きくなるため、長期政権を目指す習近平国家主席は「バブルを作った後に処理をするのも自分」であることから早期に手を打ち始めていると考えられる。

成長を続け世界の工場となった中国は、人口動態のピークアウトという構造的な経済成長ペースの減速に直面しつつある。これに対応するために中国共産党は2人っ子政策を修正し3人まで子供を持つことを認め、学習塾の非営利団体化、習近平思想教育の義務化、企業の国有化や富裕層の資産を再配分、中所得者層の拡充を打ち出した。

中国は依然として経済が急拡大する「人口ボーナス期」にあると考えられるが、国連の推計では中国は2010年に成長のピークを迎え2032年頃に高齢者と子供に対する生産年齢人口の数が2倍を切る「人口オーナス期」入りして構造的な経済成長が難しくなると予想される。

通常、新興国が先進国化するとそれに伴って工業化が進み、より子供の高学歴化が進んで子供1人あたりの教育費が上昇するため少子化が進みやすくなる。

恐らく今回の中国政府の決定は塾などの余分な出費を規制して子供の養育費を削減し、少子化に歯止めを掛けることが目的と考えられる。

国民の数を増やすことは移民などの受け入れによって可能であるが、14億人からなる国である。国連の推計では人口オーナス期入りする2032年からの10年間で人口は2,000万人程度減ることが予想されている。

最も移民を受け入れてきた米国でも国連の推計では2010年から2020年の10年間974万人しか移民を受け入れていない。

ただでさえ人権問題で世界的に批判されている中国が、これを遙かに上回る移民を他国から引き受けて人口減少を食い止めるのは非現実的だ。

結果、国内での子作り奨励、という選択肢になるのだろう。しかし、一度生活様式が変わった社会の有り様を変えることは難しいし、それに対する反発も強いと予想されることから思想教育も合わせて行ったのではないだろうか。

中国共産党は同時に中間所得者層の拡充を政策に上げている。中国は2010年頃から農村部人口が都市部人口を下回り、米国による関税引き上げによる制裁が続く中でより安価な労働力を求めて製造業は中国国外に流出した。結果、「中所得国の罠」に中国が陥っている可能性は低くない。

これを何とかしたい、と考えているのだろうがこの流れを逆流させることは容易ではなく、この結果、中国の工業向けの資源需要の伸びは減速していくと考えるのが妥当だろう。

しかしこれは長期的な見通しであり、中国の資源需要は2030年頃まで増加していくことが予想され、特に消費シェアが大きい鉱物資源の需要動向は中国の動向が左右することに変わりはない。

脱炭素の流れは続くか~継続ならば戦略物資は変わる

中国の長期的な需要見通しの減速はあるものの、次の世界経済の牽引約として期待されているインドが2018年から人口ボーナス期入りしているため、為政者に政策のミスがなければ近代化目的のインフラ投資が行われるため鉱物資源需要の増加となる。

多くの場合、橋梁や電線網の整備、ガス水道の整備で鉄筋や亜鉛、アルミ、銅などの需要が増加する。弊社はこの人口動態に依拠した構造的な需要増加が見込まれるため2020年頃からの金属価格上昇を兼ねてから予想してきた。

しかし、ここに来て急に「脱炭素」の動きが加速しており、鉱物資源の需給バランスを大きく変える可能性が出てきた。

今のところ欧州主導で始まった脱炭素の動きは環境規制強化を訴える米バイデン政権の誕生で大きなうねりとなっている。この動きが今後も続くかどうかは不透明だが、脱炭素を契機に今まで社会インフラ投資に後ろ向きだった欧米が積極対応に方向転換したことは間違いがない。

米バイデン大統領は5年で1兆ドルに及ぶインフラ投資計画を推進する方針で道路や橋梁向けに1,100億ドル、電力網に730億ドル、鉄道整備に660億ドル、高速通信網整備に650億ドル、水道網に550億ドルが投じられる計画だ。全てが金属資源需要ではないが、電線向けには銅やアルミが、橋梁整備には鉄鋼製品と防食剤として亜鉛、ビルなどの構造物建築にはアルミの需要増加が見込まれる。

この他、増税を軸に再生可能エネルギーへの投資も増加させる見込みであり、この場合、バッテリー向けのニッケル、コバルト、リチウム、太陽光向けの銀、場合によって燃料電池車や水素の利用が進めばプラチナなどの需要増加が見込まれ、IT化が強化されればエレクトロニクス向けの接点部品として金や銀、すず、電化製品向けの銅などの需要増加が見込まれる。

これらの需要の総量が、中国の鉱物需要を上回ることにはならないが、これまでほとんど需要が増加することがなかった先進国・地域の新規需要であるため、今後、欧米の投資動向は鉱物資源価格への影響が増すことが予想される。そしてこれらの投資は今後10年のうちに行われる計画だ。

つまり、中国の構造的な成長減速が見込まれる2030年までに行われるということであり、この10年、鉱物資源の戦略的な重要性が高まることになる。

これまでエネルギー確保のために中東・北アフリカの重要性は高かかったが、鉱物資源を多数有する振興地域であるアフリカが戦略的に重要な地域となる。なお鉱産資源需要が高まったとしても、化石燃料の需要が急にゼロになることはなく、国際エネルギー機関が「脱炭素に楽観的な」シナリオを想定した場合でも化石燃料の新興国向け、化学製品向けの需要は増加し、OPECのシェアが6割を超えると予想しており、脱炭素が進む中では原油価格が上昇する可能性も高いのだ。

産油国も販売量がもし減るならば、当然販売価格を引き上げてくると予想されるためだ。シェアが大きければなおさらである。

供給側にも変化が

こうした流れを受けて資源国側の動きにも変化が出てきた。これまでも需要が増加して価格が上昇する局面では鉱産国側の発言権がまし、いわゆる「資源ナショナリズム」が台頭することがしばしばあった。この10年を振り返ってみても、インドネシアやフィリピンなど、自国に処理工場を設置しない企業の資源の国外持ち出しを認めないなどの規制が行われてきた。

しかしこの1年では、世界最大の銅生産国であるチリでは銅鉱山に対するロイヤルティ・フィ(権益)を大幅に引き上げる「新鉱業ロイヤルティ法案」を上院鉱業エネルギー委員会が可決、施行に向けて調整中と報じられている。

これによりチリの鉱山からの収入は増えるが、生産者並びに消費者は増税分がコストアップとなる。明らかに「今後の銅需要増加を見越して、仮に課税強化があっても需要は減らない」と見越した動きだ。

また、脱炭素を進める場合の鍵となる資源として注目されていたコバルトの最大生産国であるコンゴ民主共和国は、中国企業グループと国有企業とのジョイントベンチャーに関し、公正と効率の観点から契約を見直すとしており、この中には中国側がインフラ投資が終了した後に取得できるコバルト・銅鉱山の権益68%の見直しも含まれている。

そもそも中国のインフラ整備も進んでいなかったと報じられており、それに伴う見直しとされているが立場が変わったことによる契約の巻き戻しで、これもある意味資源ナショナリズムといえるだろう。

恐らくこうした動きが今後、鉱産国全体で強まることが予想され、鉱物資源の需給が逼迫する可能性は低くない。

また需要が増加してくればこれまで生産しても採算が取れなかったため開発しなかった深部鉱床の開発が進むことも予想される。当然、生産コストが上昇することになるため需給以外の要因で生産コストが押し上げられ、さらに鉱物資源価格が上昇することになる。

同じコストという意味では脱炭素を達成するためのクリーンエネルギー投資コストや脱炭素を達成するために「排出権」を購入して実質的にカーボン・ゼロを達成しようとする国や企業も出てくるだろう。

恐らくそのコストも販売される金属価格に付加され、価格の上昇要因となる。そしてそのとき初めて消費者が脱炭素に絡むコスト負担の大きさに気づくことになる。

問題はもしそのコスト上昇に、最終消費者が耐えられなかった場合だ。環境問題は他人事であり誰かが代わりにやってくれるものと捉える人が多いのは事実だ。となると、炭素税や販売価格の引き上げといった形で消費者が負担する形になった場合、「そこまでのコストを掛けてやるべきことなのか?」という反論が出てくることになる。

そしてもし仮に、「脱炭素はやり過ぎだった」という話になった場合、上記の政策が逆回転する可能性が出てくる。現在のようにほとんど全ての人やメディアが脱炭素で一致している時こそ、そのリスクが大きいと考えるべきである。

◆主要ニュース


・8月日本毎月勤労統計
 現金給与総額 前年比+0.7%(前月+0.6%)
 実質賃金総額 +0.2%(+0.3%)

・8月日本経常収支
(季節調整済)1兆426億円の黒字(前月1兆4,134億円の黒字)
(調整前) 1兆6,656億円の黒字(1兆9,108億円の黒字)
 貿易収支 ▲3,724億円の赤字(6,223億円の黒字)
 輸出 6兆5,138億円(7兆2,203億円)
 輸入 6兆8,862億円(6兆5,980億円)
 サービス収支 ▲1,949億円の赤字(▲5,849億円の赤字)
 第一次所得収支 2兆4,259億円の黒字(2兆996億円の黒字)

・9月日本企業倒産 前年比▲10.61%(前月▲30.13%)

・9月日本景気ウォッチャー調査
 現状判断DI 42.1(前月34.7)
 先行き判断DI 56.6(43.7)

・9月中国財新サービス業PMI 53.4(前月46.7)
 コンポジット 51.4(47.2)

・8月独経常収支 118億ユーロの黒字(前月179億ユーロの黒字)
 貿易収支107億ユーロの黒字(179億ユーロの黒字)
 輸出 前月比▲1.2%(+0.6%)、輸入+3.5%(▲3.6%)

・9月米雇用統計
 非農業部門雇用者数 前月比+194千人(前月改定+366千人(速報比+131千人))
 民間部門雇用者数 +317千人(+332千人)
 製造業雇用者数 +26千人(+31千人)

・9月米失業率 4.8%(前月 5.2%)
 不完全雇用率 8.5%(8.8%)
 労働参加率 61.6%(61.7%)
 時間当たり平均賃金 前月比+0.6%(+0.4%)
 前年比+4.6%(+4.0%)
 週平均労働時間 34.8時間(34.6時間)

・米国、タリバン政権とカタールで会談。撤退後初。

・中国政府、民間企業が報道事業を禁止する案を公表。共産党政権に対して批判的な報道を封じ込める狙い。

◆エネルギー・メタル関連ニュース


【エネルギー】

・ベイカー・ヒューズ週間米国石油リグ稼働数433(前週比+5)
 ガスリグ 99(前週比±0)。

・内モンゴル自治区政府、10月末までに72ヵ所の炭鉱の生産制限を解いて能力最大限まで増産することを指示。

・日産、2050年までに世界で生産設備を電動化、製造時CO2をゼロに。

・GS、「プーチンの発言があっても、欧州のガス供給危機を緩和する可能性は低い。」

【メタル】

・ザンビアのKonkola銅鉱山、停電の影響で生産停止。

・中国国務院(李克強首相座長)、「電力価格はベンチマークに対して最大20%上昇する可能性がある。中国のエネルギー不足の悪化を解消するために、電力価格の上昇を容認するだろう。」

◆主要商品騰落率


【上昇率上位5商品】

商品名(カテゴリー)/前日比上昇率/年初来上昇率
1.CME木材 ( その他農産品 )/ +6.52%/ ▲17.44%
2.パラジウム ( 貴金属 )/ +5.80%/ ▲15.09%
3.プラチナ ( 貴金属 )/ +4.56%/ ▲4.06%
4.LMEニッケル 3M ( ベースメタル )/ +4.22%/ +15.63%
5.SGX鉄鉱石 ( 鉄鋼原料 )/ +4.08%/ ▲21.02%

【下落率上位5商品】

商品名(カテゴリー)/前日比上昇率/年初来上昇率
66.ICE欧州天然ガス ( エネルギー )/ ▲9.49%/ +293.99%
65.欧州排出権 ( その他 )/ ▲3.38%/ +78.98%
64.NYB綿花 ( その他農産品 )/ ▲2.68%/ +41.58%
63.NYM米天然ガス ( エネルギー )/ ▲1.97%/ +119.18%
62.CBT小麦 ( 穀物 )/ ▲0.98%/ +14.60%

※弊社が重要と考える主要商品の前日比騰落率上位・下位5品目です。
※限月交代に伴う価格の不連続性は考慮されていません。予めご容赦ください。

◆主要指標


【為替・株・金利・ビットコイン】
NY ダウ :34,746.25(▲8.69)
S&P500 :4,391.34(▲8.42)
日経平均株価 :28,048.94(+370.73)
ドル円 :112.24(+0.61)
ユーロ円 :129.85(+0.90)
米10年債 :1.61(+0.04)
中国10年債利回り :2.90(+0.03)
日本10年債利回り :0.09(+0.02)
独10年債利回り :▲0.15(+0.03)
ビットコイン :53,993.31(▲190.93)

【MRAコモディティ恐怖指数】
総合 :31.71(+0.09)
エネルギー :49.83(▲0.26)
ベースメタル :25.05(+0.63)
貴金属 :31.90(+1.7)
穀物 :21.23(▲0.38)
その他農畜産品 :29.95(▲0.22)

【主要商品ボラティリティ】
WTI :22.16(▲0.65)
Brent :20.24(▲0.62)
米天然ガス :87.98(▲0.07)
米ガソリン :22.56(▲1)
ICEガスオイル :25.57(+0.06)
LME銅 :21.52(▲0.75)
LMEアルミニウム :22.48(▲1.96)
金 :14.60(▲0.82)
プラチナ :34.73(+2.63)
トウモロコシ :26.77(▲0.03)
大豆 :14.60(▲0.82)

【エネルギー】
WTI :79.35(+1.05)
Brent :82.39(+0.44)
Oman :80.35(+0.38)
米ガソリン :236.62(+3.18)
米灯油 :247.37(+1.41)
ICEガスオイル :716.75(+12.25)

【電力】
日本ベースロード:9.73(▲4.20)
日本ピークロード:9.25(▲5.12)
TTF in USD:29.39(▲2.96)
JKM in USD:32.06(▲1.02)
NBP in USD:4.80(▲23.30)
Henry Hub:5.57(▲0.11)
NEWCS :238.60(+6.70)

【貴金属】
金 :1757.13(+1.35)
銀 :22.68(+0.07)
プラチナ :1028.59(+44.89)
パラジウム :2079.17(+114.02)
※ニューヨーククローズ。

【LME非鉄金属】
(3ヵ月公式セトル)
銅 :9,236(+59:10B)
亜鉛 :3,112(+77:14C)
鉛 :2,198(+43:57B)
アルミニウム :2,923(▲7:20.5C)
ニッケル :18,890(+650:20C)
錫 :36,000(+850:925B)
コバルト :52,985(±0.0)

(3ヵ月ロンドンクローズ)
銅 :9350.00(+44.00)
亜鉛 :3168.50(+108.50)
鉛 :2225.00(+40.50)
アルミニウム :2959.50(+17.50)
ニッケル :19160.00(+775.00)
錫 :36290.00(+990.00)
バルチック海運指数 :5,650.00(+3.00)
※C=Cash-3M コンタンゴ、B=Cash-3M バック

【鉄鋼原料】
62%鉄鉱石スポット(CFR中国、1営業日前) :121.73(+4.30)
SGX鉄鉱石 :123.08(+4.83)
NYMEX鉄鉱石 :122.86(+4.76)
NYMEX豪州原料炭スワップ先物 :388(±0.0)
大連原料炭先物 :581.42(▲2.62)
上海鉄筋直近限月 :5,925(+90)
上海鉄筋中心限月 :5,765(+116)
米鉄スクラップ :595(±0.0)

【農産物】
大豆 :1243.00(▲4.25)
シカゴ大豆ミール :317.50(▲1.30)
シカゴ大豆油 :61.33(▲0.57)
マレーシア パーム油 :5152.00(+116.00)
シカゴ とうもろこし :530.50(▲3.50)
シカゴ小麦 :734.00(▲7.25)
シンガポールゴム :182.30(+2.30)
上海ゴム :13310.00(+355.00)
砂糖 :20.29(+0.45)
アラビカ :201.35(+3.45)
ロブスタ :2117.00(▲2.00)
綿花 :110.60(▲3.05)

【畜産物】
シカゴ豚赤身肉 :90.25(+0.40)
シカゴ生牛 :125.58(+0.30)
シカゴ飼育牛 :159.48(▲0.88)

※全ての価格は注記が無い限り、取引所で取引される通貨建。
※限月交代に伴う価格の不連続性は考慮されていません。予めご容赦ください。