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米国の弱い統計とFRBのタカ派発言で景気循環銘柄軟調
  • MRA商品市場レポート

2021年8月5日 第2006号 商品市況概況

◆昨日の商品市場(全体)の総括


「米国の弱い統計とFRBのタカ派発言で景気循環銘柄軟調」

【昨日の市場動向総括】

昨日の商品市場は引き続きエネルギーや非鉄金属などの景気循環系商品が売られ、ビットコインや、農産品、天然ガスなど景気の影響を受けにくい非景気循環銘柄が物色された。

昨日発表された米統計はADP雇用統計、MBA住宅ローン申請件数とも弱めの内容であり、米国の景気回復ペースが「正常化」に向かっているものを確認するもの。ISM非製造業指数は改善したが、内訳をよく見るとそれほど強い内容ではなかった(詳しくは昨日のトピックスを参照)。

この中で、FRBクラリダ副議長が年内のテーパリングの発表と2023年利上げを示唆した発言をしたことで長期金利が上昇、株も下落、ドル高も進行したため引けに掛けては水準を切り下げる動きとなった。

昨日最も下落したのはシカゴ材木。米FRBによる利上げや金融緩和解除があるならば長期金利の上昇につながり、住宅向け需要が減速するとみられたことが材料となったようだ。

【本日の見通し】

本日は昨日発表された米雇用統計の前哨戦であるADP雇用統計が市場予想を大きく下回ったことから、手がかり材料待ちで様子見気分強く、もみ合うものと予想する。

ただし、コロナの変異株の感染拡大が景気の先行きに暗い影を落としているが、ワクチンの開発は終わり、(100%効くわけではないが)治療薬もいくつか見つかっていることから、やはり正常化に進むと考えるのは妥当であり、金融緩和局面で上昇していた商品には下押し圧力が掛りやすいと考える。

本日、イランでライシ大統領の就任式があるが、特段、原油価格の変動要因にはならないのではないか。

【昨日のセクター別動向と本日の見通し】

◆エネルギー

原油価格は下落した。米ADP雇用統計の減速や、クラリダFRB副議長のタカ派的な発言を受けたドル高進行、米石油統計の原油在庫増加が材料となった。

この下落でBrent、WTIとも100日移動平均線のサポートラインを目指して水準を切下げた。ただしこの水準はザラ場でも割り込んでいない(Brent:69.80ドル、WTI:66.95ドル)が意識される展開。

昨日発表の米石油統計は原油が予想比弱気、ガソリンが強気、ディスティレートが弱気な内容だった。

全体として米国内の出荷が低迷し、輸出が増加している形。コロナのデルタ株の影響や、価格上昇によるレーショニングが発生している可能性は否定出来ない。

ただ、「まだ」回復傾向は維持していると考えるべきであり、ワクチン接種進捗で米国の移動制限が解除された場合、脱炭素で増産が困難な状況下、米国内の製品需給の逼迫は不可避とみる。

原油は生産が横這い、輸入は減少(▲0.1MBD)、稼働率は上昇(+0.2%)、在庫は+3.6MMBの大幅な増加となった。在庫日数は+0.2日の26.5日と、過去5年平均を下回っている。

原油価格に影響が大きいクッシング在庫は▲543KB(▲1,268KB)と減少した。PADD2の稼働は▲2.5%と低下したが輸入は減少(▲0.3MBD)。稼働率の水準自体が高いことと輸入の減少で在庫減少が継続している。

石油製品在庫は、ガソリン(▲5.3MB)、ディスティレート(+0.8MB)とまちまち。在庫水準はガソリンが過去5年の最低水準に近づき、在庫日数も過去5年平均を割り込んでいる。結果、ガソリンクラックはこの時期としては過去5年の最高水準を大きく上回っている。

ディスティレートも在庫の絶対水準は過去5年平均を割り込み、在庫日数も過去5年平均を下回っている。製品需給は実はタイトだ。

弊社はコロナショック後以降、石油製品の出荷動向に注目しているが、米ガソリン出荷は前年比+8.4%の9.42MBD(+9.9%の9.49MBD)と先週から減速した。コロナの影響がなかった2019年と比較すると▲1.4%(▲0.5%)と減速傾向が強まっている。

ディスティレートは前年比+11.0%の3.77MBD(+11.5%の3.82MBD、2019年比▲1.3%(+0.5%))と再び減速している。

製品全体では前年比+12.4%の20.54MBD(+12.5%の20.64MBD、2019年比▲2.8%(▲2.1%))と伸びが減速。価格上昇により、陸上輸送燃料の需要が減少したとみられる。一方でジェット燃料(ケロシン)の出荷は回復している。

米経済活動は回復過程にあるが、まだまだらな回復となっている。

輸出は+16.4%の5.55MBD(+15.5%の5.49MBD、2019年比+10.4%(+8.0%))と堅調。出荷+輸出は+13.2%の26.09MBD(+13.2%の26.13MBD、2019年比▲0.3%(▲0.2%))と2019前年比でマイナスが2週続いている。

豪州石炭スワップ先物価格は上昇し、150ドルを超える水準を維持。猛暑や渇水の影響で夏場の調達圧力は続いているとみられる。バルチック海運指数は小幅に下落も季節的にみて水準は非常に高い。

JKM先物市場は欧州ガス価格の下落もあって、小幅に下落したが15ドル台を維持。

欧州天然ガスは上昇。前日、気温の低下見通しを受けて利益確定の売りが出て下落したこともあり、需給のタイトさを背景に割安感からの買いが入ったと見られる。米天然ガス価格は米東部の気温上昇見通しで小幅に上昇。

スポットLNGタンカーレートはスエズ以東が上昇、以西は横這い。ただし上記の通り欧州のパイプライン経由のガス供給が再び減少する可能性が高く、LNG価格は上昇圧力が掛るとみる。

2021年7月26日~8月1日のLNG取引は前週比+23%の760万トン(前週▲4%の630万トンで、うち、28%がスポット調達であり先週の27%とシェアはほとんど変わらなかった。

LNG取引量の増加は中国・日本・韓国の輸入増加に因るものであるが、これは台風などの天候要因で陸揚げが前週からずれ込んだことによるもの。欧州のLNGの価格輸入は前週比+18%の大幅な増加となった。域内のガス供給減少が影響したとみられる。

本日の原油価格はこの数日間の下落が大きかったことから、一旦買い戻しが入ると考える。ただし市場はテーパリング実施観測と、コロナのデルタ株を材料にしており、地合はそれほど強くない。

石炭・LNGは原油に比べて投機の影響を受け難く、需給ファンダメンタルズが重用になるが、基本需給はタイトであり高値維持の公算。

LNGは欧州の主要ガス田のメンテナンス、北海の嵐の影響、ロシアからの供給制限の影響で再びLNGカーゴ市場がタイト化するとみられる。

◆非鉄金属

LME非鉄金属価格は下落した。中国もコロナのデルタ株の影響で経済活動鈍化の可能性が高まる中、米FRBメンバーのタカ派的な発言を受けたドル高と株安が利益確定の売り圧力を強めたため。ただしLME指定倉庫在庫指定倉庫在庫は軒並み減少しており、下げ幅を削った。

本日は、米テーパリングが予定通り行われるとの見方やデルタ株の感染拡大による経済活動停滞への懸念から軟調推移を予想する。ただし明日の米雇用統計を見極めたいとする向きが多いため、小動きを想定。

◆鉄鋼・鉄鋼原料

中国向け海上輸送鉄鉱石スワップは小幅に下落、大連先物は上昇、豪州原料炭スワップ先物は上昇、大連原料炭先物は上昇、上海鉄鋼製品先物は上昇した。

鉄鋼製品価格が下落したため、割安感からの在庫積み増しが行われ、鉄鋼製品価格上昇が鉄鋼原料価格を押し上げた。トレーディング的に鉄鉱石先物の窓埋めの動きはまだみられていない。

本日も中国の経済活動鈍化と生産抑制のトーンダウンで鉄鋼製品価格が軟調な推移になると予想されることから、鉄鉱石価格も水準を切下げると予想する。ただし在庫水準は日数ベースで低いため、高値は維持する公算。

◆貴金属

昨日の貴金属セクターは金価格が上昇したが、銀・プラチナは株価の下落もあって利益確定に押され、パラジウムは前日とほぼ変わらなかった。

米統計の減速を受けた長期金利の低下を受けて水準を急速に切り上げていたが、FRBメンバーのタカ派的な発言を受けて急速に水準を切下げた。

本日は、手がかり材料探しで明日の雇用統計を控えて様子見気分強く、いずれの貴金属ももみ合い推移を予想する。

◆穀物

シカゴ穀物市場は軟調な推移となった。米統計は市場予想に反して悪い内容だったが(ISM非製造業指数はそれほど良い内容ではない)、クラリダFRB副議長のタカ派的な発言を受けてドル高が進行したことが材料。

本日も昨日の米統計のまちまちな内容を受けて、明日の雇用統計を控えて方向感が出難い展開。ただ米景気への楽観が後退している中でもテーパリングが予定通り行われると見られていることがドル高を誘発するため、軟調推移を予想。

※中長期見通しは個別セクターのコラムをご参照ください。

市場データ・グラフ類の添付ファイルのサンプルはこちら。

【昨日のトピックス】

昨日発表された米統計は強弱まちまちの内容。

ISM非製造業景況指数は64.1(前月60.1)と大幅に改善したが、内訳を見ると入荷遅延指数(68.5→72.0)、仕入価格(79.5→82.3)、輸出向け新規受注(50.7→65.8)となったことが影響している。

しかし、入荷遅延はロジスティクスの問題であり、仕入価格上昇も需要がやや増加(62.1→63.7)する中で供給に制限があること、によるものであり必ずしもポジティブな数値の上昇ばかりではない。

また、輸出向け新規受注が増加しているが、新規受注自体の増加は小幅に止まり、受注残は減少(65.8→63.5)していることを考えると、「米国内の需要」は低迷している可能性がある。

ただ、悪くなったとは言え統計の絶対水準は高く、雇用も9月初旬の特別給付金の終了を控えて職探しが始まっているとみられる。

しかしその一方でADP雇用統計は前月比+33万人(市場予想++69万人、前月+68万人)と低迷した。Q221よりも水準が低く雇用の伸びが鈍化していることを確認する内容。

ただし、ISM指数は前月と比較した今月の状況をヒアリングする統計であるため、雇用環境は改善していると考えられる。ただ、コロナのデルタ株の感染拡大が雇用回復(特にボリュームの大きい対人接触型ビジネスの雇用回復)の遅れに繋がる可能性があるため、先行きは不透明だ。

【マクロ見通しのリスクシナリオ】

・来年の中間選挙を控えて、バイデン大統領が国内の支持を得られない場合。財政面や企業負担増の理由から造反が発生し、議会を通過しない場合は景気のリスクに(景気減速要因)。

・米財政出動が加速、景気回復期待を受けた価格上昇が顕著となる場合。

この場合、長期金利上昇でドル高が進行しやすく価格の下落を意識しなければならない。

夏のジャクソンホールのシンポジウムでのテーパリング開始宣言が妥当だが、6月のFOMCでFRBはタカ派に転じた可能性が高く、場合によると7月FOMCで宣言される可能性も否定出来ず。

・コロナウイルスの感染再拡大(変異種に対してワクチンの効果が期待ほどではなかった場合など。既に中国製のワクチンは新興国で接種されているが、殆ど効果が出ていない)によるロックダウンが景気循環系商品の需要を減じる場合(価格下落要因)。これは既に欧州、インド、東南アジア、日本などで顕在化。

逆に想定以上にワクチン・治療薬の開発が速やかに行われた場合は需要の増加要因に。

・環境重視型社会への急激な転換による、経済活動の鈍化リスク。成長ドライバーの1つとして期待される、中東・北アフリカ産油国が人口ボーナス期を活かせない(逆に鉱物産出国は高成長となる可能性も)。

逆に脱炭素に向けたインフラ投資の加速で資源価格が急上昇、金融緩和マネーが大量に市場に滞留する中でハイパーインフレとなるリスク。

・米中対立激化による、新冷戦構造が発現しブロック経済圏が発生して貿易活動が鈍化する場合(場合によると武力衝突も)。

「能動的に」軍事を行う方針に舵を切った中国習近平政権が、台湾統一を目指して侵略する可能性は高くなった。

・次の成長ドライバーとして期待されるインド経済が、期待通りの成長をできない場合(人種差別問題による国民の離反、市場開放・規制改革の遅れ、中国との対立など)。

2018年にすでに人口ボーナス期入りしているため、鉱物・エネルギーをはじめとする景気循環系商品需要の増加は2023~2024年頃。

・中国地方政府・中堅中小企業の財政状況悪化に伴う景気減速(これは人口動態を考えると、現実のリスクとなるのは2030年以降か)。

◆昨日の商品市場(個別)の総括


---≪エネルギー≫---

【原油価格見通し】

原油価格は値を戻してきたが、OPECプラスの増産が始まっていること、株価が中国政府の同国企業締め付けの影響で調整していることから調整的に下押し圧力が強まると考える。

また、正常化が前提であるものの、ここに来てコロナの変異株の感染が拡大、ワクチン接種が世界で最も進んでいるイスラエルでもワクチンの有効性が低下していることは、需要の下押し要因に。

ただ、ジャクソンホールシンポジウムあたりからの下落を想定していたが、7月FOMCのコメントでは、今後数回の会合でテーパリングのスケジュールを決定すると見られるため、直ちにファイナンシャルな面で価格が下がりにくい環境になってきたと考える。

年末、Brentは60ドル台半ば、WTIは60ドル台前半への調整をメインシナリオとしているが、5ドル程度上振れる可能性が出てきたと考えている。

【見通しの固有リスク】

・ワクチン接種が進捗せず、同時に変異株が猛威を振るいワクチンが効かない場合(需要減少で下落リスク)。

・米国経済が正常化する中でテーパリングなどの金融緩和解除が加速、急速なドル高を通じて投機的な売り圧力が高まる場合(価格の下落要因)。

・OPECプラスの増産タイミングの見誤りによる、供給不足。またはイランを巡り武力衝突や制裁解除が遅れた場合(価格上昇要因)。

価格が上昇する中でOPEC諸国の減産維持統制が効かなくなり、増産競争に舵が切られる場合(下落要因)。

米国の橋渡しでイランとサウジを初めとするスンニ派諸国が和解、中東の緊張が緩和するシナリオも排除せず(下落要因)。

・脱炭素の進捗、生活様式の変化による構造的な需要減少が加速した場合

1.中東産油国の財政悪化によって情勢不安が顕在化、供給途絶リスクが高まる場合

2.中東以外の産油国の生産者の破綻

3.上流投資部門投資が減速し、インドなどの新興国需要顕在化時に供給が間に合わない場合

4.価格面、数量面で予算を確保できない産油国が、OSPを大幅に引き上げる場合(第3次オイルショック)

などが価格上昇要因に。

・脱炭素の過剰な進捗による供給懸念(価格上昇要因)。

かなり過剰なペースで脱炭素が進められており、裁判所を使ってまでシェルに脱炭素推進を促し、ヘッジファンドが株主としてエクソンに対して脱炭素を促し、自身のポートフォリオの価値を上げる目的で取締役を送り込むといったことも常態化しはじめており、「比較的タイムリーな増産」が可能だった米国の生産が増えない可能性は極めて高い。

この場合、「脱炭素移行期間には十分な燃料供給が出来ないリスク」が高まり、来年以降の価格上昇局面で原油価格が100ドルを超えるリスク(ただしまだリスクシナリオの位置づけ)。

なお、脱炭素が完了しても100%原油が不要になることはなく、OPECの価格支配力が増すため、この場合でも価格は上昇へ。

【石炭価格見通し】

海上輸送石炭価格は高値圏を維持すると予想される。最大消費国である中国の電力需要が拡大していること、北半球の気温上昇、渇水による水力発電能力の低下で火力発電向けの燃料需要が増加、価格の上昇トレンドが継続していること、昨年からの猛暑・厳冬で在庫水準が低いためスポット調達圧力が強い状態が続くと考えられるため。

また、欧州排出枠価格が供給減少により2021年の需給がタイトとみられることもファイナンシャルな面で価格を押し上げると考える(取引量は少ないが、ETFなども存在)。

中国政府は国内炭の供給能力増強にシフトしているが、経済活動の回復に供給が十分ではない。夏場の調達に目処が立てば調整すると見られるが、足下、中国の6大電力会社の石炭在庫水準は過去5年レンジの最低水準と低く、高値圏維持を予想。

ただし、3月の豪雨の影響で供給が減少していた豪州の輸出増加や、環境規制強化の中で石炭需要は減速するとみられること、脱炭素の流れと逆行するが中国政府は海外との対立によって石炭調達に支障が出ることを回避するため、国内生産を増加させていることから海上輸送炭価格の上値は重くなると予想される。

6月の石炭輸入は前年比+12.3%の2,839万2,000トン(前月▲4.6%の2,104万トン)と回復した。猛暑・渇水による発電燃料としての石炭需要増加と、中国の経済活動回復に伴う電力需要の増加が続いているためと考えられる。

中国6大電力会社の石炭在庫の水準は低く、まだ、季節的な石炭輸入需要の増加は続くと考える。石炭価格の下落は夏場の在庫調達が一巡する必要があるため、7月頃までは高止まりする可能性が高い。

【見通しの固有リスク】

・世界的な環境重視型世界へのシフトを受けた、石炭上流部門への投資規制強化による、供給減速懸念。短期的には価格の上昇要因。

・中国と豪州の対立、中国国内の生産能力増強に伴う、海上輸送炭需要の減少。

・北半球の夏場の猛暑(/冷夏)・冬場の厳冬(暖冬)。

・エルニーニョ現象発生が予想される夏場に、北半球が猛暑となるリスク(気象庁の分析では冷夏になりやすい。日本は西日本が猛暑になる可能性)

【天然ガス・LNG】

天然ガス価格は中国の経済活動が活発である一方、猛暑や水不足による水力発電からの電力供給低下で、火力発電向けの燃料需要が旺盛なこと、同時に海上輸送石炭価格も高い水準で推移していること、欧州のメンテナンスや悪天候、ロシアからの供給減少で欧州の域内需給がタイト化していること、などを背景にスポット玉の調達圧力が強まることから、高値を維持する見込み。

6月の中国のLNG輸入は前年比+15.9%の672万トン(前月+34.4%の703万トン)と過去5年レンジを大きく上回り、構造的な需要増加が続いている。

なお、6月の天然ガス輸入は前年比+26.2%の1,021万トン(前月+31.6%の1,032万トン)と減少し、過去5年レンジの最高水準程度まで水準を切下げたが、構造的な需要の増加が変化した、というような内容ではなかった。

長期契約のLNGに関しては、原油リンクとなるため上昇見通しだが、価格反映までに3ヵ月程度の時間差があるため(消費者への影響はさらに3ヵ月後)、現時点ではまだ上昇していないと考えられる。次の懸念は夏のピーク時の電力・ガス価格への影響だろう。

【見通しの固有リスク】

・米国がノルドストリーム2の建設を容認した場合、欧州ガス需給の緩和(ロシア増産で下落要因)。

・ウクライナやベラルーシといったロシアと欧州の緩衝帯との政治的な軋轢によって、結果的にロシア産ガスの供給がロシア側の都合でコントロールされた場合(実際にロシアが行動を起こした場合、多くのケースで価格の上昇要因)。

・産油国の減産継続による随伴ガス供給の減少懸念。

・北半球の夏場の猛暑(/冷夏)・冬場の厳冬(暖冬)。

・エルニーニョ現象発生が予想される夏場にかけて、北半球が猛暑となるリスク(気象庁の分析では冷夏になりやすい。日本は西日本が猛暑になる可能性)

【投機筋のポジション動向】

・直近の投機筋のポジションは以下の通り。

WTIはロングが601,411枚(前週比 +8,365枚)ショートが151,647枚(+7,341枚)ネットロングは449,764枚(+1,024枚)

Brentはロングが391,275枚(前週比+34,239枚)ショートが79,616枚(▲15,579枚)ネットロングは311,659枚(+49,818枚)

---≪LME非鉄金属≫---

【非鉄金属価格見通し】

非鉄金属価格は、最大消費国である中国の需要の伸びがやや鈍化しているとみられること、中国政府による企業の締め付けがマインドを悪化させていることから軟調な推移になると考える。

しかし同時にコロナの影響や渇水に伴うエネルギー不足で供給面の問題も噴出していること、企業のデフォルトが増えたことで中国人民銀行が金融緩和(預金準備率の引き下げ)を実施していることから、下落余地も限定されると考えている。

7月の中国製造業PMIは50.4(前月50.9)と市場予想の50.8、前月共に下回った。まだ閾値の50は上回っているが中国の経済活動の過剰な回復は沈静化の方向に向かっていると考えられる。

内訳を見ると生産が鈍化(51.9→51.0)、新規受注(51.5→50.9)、輸出新規受注(48.1→47.7)、受注残(46.6→46.1)と需要が全て鈍化している。

その一方でまだ在庫水準は低いが、完成品在庫は46.7→47.6と増加に転じている。

工業金属価格に対する説明力が高い新規受注在庫レシオは、完成品が1.069(前月1.093)、原材料が1.067(1.073)と両指数とも小幅に低下しており国内の需給が緩和していることをうかがわせる。

これまで非鉄金属価格の上昇を牽引してきたのは中国の住宅セクターであるが、7月の中国の建設業PMIは57.5(60.1)と高い水準ではあるが前月から減速しており、鉄鋼製品価格の上昇や中国政府による住宅バブル抑制方針が影響しているとみられる。

6月の中国の貿易統計を見ると、ベンチマークである精錬銅の輸入は前年比▲34.7%の42万8,000トン(前月+2.3%の44万6,000トン)と過去5年平均を下回り、減速感が鮮明となっている。

6月の銅精鉱の輸入は+5.1%の167万1,000トン(前月+15.1%の194万5,000トン)と高い水準を維持してはいるが、急速に絶対水準を引き下げている。中国政府によるバブル抑制方針を背景に輸入が減少しているとみられるが、足下、企業支援目的の預金準備率の引き下げが実施されており、再び住宅セクターの回復で輸入は増加するのではないだろうか。

6月の銅スクラップの輸入は+118.8%の15万448トン(前月+103.1%の16万7,767トン)。

中期的には米国や欧州の財政出動、脱炭素の動きを受けた動向に左右されることになる。

米バイデン政権は上院の超党派で、8年間で1兆2,000億ドルのインフラ投資計画で合意した、と発表した。今回の合意では、道路・橋梁・主要プロジェクトに1,090億ドル、電力インフラに730億ドル、旅客・貨物鉄道に660億ドル、ブロードバンド・インターネットサービスに650億ドル、公共交通機関に490億ドル、空港に250億ドルを投じる。

さらには2022年度予算も戦後最大となる歳出を6兆ドルと、以上と戦後最大の水準とする方針。

これらの需要は景気に関係なく発生する需要であるため、需要の見通しは底堅く、価格の調整があっても下値余地は限定される可能性が高い。

これまで中国が鉱物セクターの需要動向に関して主役であり、今後も非鉄金属価格の動向は中国動向が左右するが、「新規の需要」については欧米動向が重要になる可能性は意識しておきたいところ。

この場合、米国の景気回復=ドル高・金属価格上昇、という構図も考えられる。

こうした政策期待や、インドなどの新興諸国の需要増加を受けた構造的な需要増加を受けて、中・長期的に価格は下支えされ、堅調な推移になると考える。

米国・中国・インドがどのような動きをするかに環境政策は左右されるが、ここまでの各国の動きを見ていると当面は環境向けに使用される金属の需要増加は「今後10年・20年の大きなテーマ」となる可能性が高いと言える。

具体例を挙げると、軽量化目的のアルミ、EV向けのニッケル、銅(通常25キロ/台の銅が使われるが、EVは80キロ/台)、蓄電池としての鉛、コバルト、リチウムなどが挙げられる。

2020年の中国の新エネルギー車の販売は前年比+7.5%の137万台(前年124万台)となった。全体の自動車販売が2,523万台なのでシェアは5.4%(4.9%)と上昇している。それでも電気自動車が非鉄金属市場の重要なテーマになるには、あと数年は要するだろう。

【見通しの固有リスク/個別金属の特殊要因】

・猛暑や渇水による燃料価格上昇で、1.電力供給不足による稼働停止・供給減少、2.発燃料価格の上昇を通じて生産コストが上昇する、場合(価格上昇リスク)。

・米国経済が正常化する中でドル高が進行し、投機買いが膨らんでいる非鉄金属市場で投機の手仕舞い売り圧力が高まる場合(下落リスク)。

・米中間選挙に向けて、米民主党が追加でインフラ投資(2兆ドルのクリーンインフラ投資など)を議会の採決を得て実行に移す場合(上昇リスク)。

・主に銅山を中心とする労使交渉長期化による供給減少が、2021年も継続する場合(上昇リスク)。

・中国の環境規制強化に伴う供給の減少。エネルギー排出量の多い新疆ウイグル自治区でのアルミ生産は減産の影響は既に材料視されている(供給減少でアルミ価格の上昇要因に)。

・上流部門投資不足並びに鉱石の品位低下による、鉱山供給の制限。

・チリやペルーで広がる左派勢力伸長に伴う大衆迎合的な政策が可決し、鉱山生産に過剰なロイヤルティが適用される場合(供給減少ないしは生産コスト上昇で価格の上昇要因)。

チリで議論されている銅のロイヤルティ増税案の詳細は以下の通り。

年内実施予定の選挙結果では課税強化で生産コスト上昇、または減産となる可能性も。

3%の新ロイヤルティに加え、銅価格に連動して税額が賦課される仕組み。

2ドル~2.5ドル/ポンド(4,406~5,508ドル/トン):15%2.5ドル~3(5,508~6,609):35%3ドル~3.5(6,609~7,711):50%3.5ドル~4(7,710~8,813):60%4ドル~4.5(8,813~9,914):70%

年間販売量が5万トン未満の小規模生産者は品位95%の粗銅の場合▲5%の軽減税率、アノードの場合(99.4~99.6%)が適用される。

2023年までは現行の営業利益率によって5~14%の鉱業ロイヤルティが適用されるが、2024年以降は新税制を適用。

・環境問題や人権問題(コンフリクト・メタルの問題)を背景とする鉱山供給の減少。

また、環境に配慮したメタル使用の義務化などが欧州で進む場合などのコストアップ(グリーン・メタルの義務化によるコスト増加)。

【投機筋のポジション動向】

・LME投機筋買い越し金額 前週比+11.7%の306億ドル(前週 274億ドル)・LME投機筋買い越し数量 前週比+5.5%の6,273.5千トン(前週 5,945.0千トン)

---≪鉄鋼原料≫---

【鉄鋼原料価格見通し】

鉄鉱石価格は中国政府の温室効果ガス排出量削減目的の鉄鋼製品生産減少を受けて、鉄鋼向け需要が減少することから軟調な推移になると考える。ただし、同時に中国政府は金融緩和を行っていること、米欧中のインフラ投資による建材向け需要増加観測を背景に下落したとしても下値余地は限定される都考える。

これまで鉄鋼原料価格を牽引してきた中国の経済活動がやや鈍化を始めており、徐々に水準を切下げる展開が予想される。

中国共産党は2021年から始まった新しい5ヵ年計画で鉄鋼生産量の削減の必要性を表明している。今のところ昨年の生産量を超えないようにする、というのが中国政府の目標。

最大生産都市である唐山市は、2021年20日~12月31日まで、大気汚染基準に違反し、データを改ざんした4社は3月20日~6月末まで▲50%、7月~12月末まで▲30%減産、その他の16社は12月末まで▲30%の減産を新たに実施することを義務づけられた。

これにより、唐山市の粗鋼生産は前年比▲2,223万トンの1億2,177万トン、鉄鉱石需要は▲3,500万トン減少するとみられている。

粗鋼生産が減少すれば、鉄鉱石の在庫水準の指標である在庫日数も、分母が小さくなるため上昇が予想され、鉄鉱石価格の下落要因となる。これは原料炭も同様。

7月の中国鉄鋼業PMIを見ると、総合指数は43.1(前月45.1)と悪化した。生産指数が低下(50.7→43.1)したが、新規受注が国内向けがやや回復(34.8→36.8)したが、輸出向け新規受注(42.3→30.8)は大幅に悪化した。

中国の国内需給がタイトであることから、リベート撤廃などによる輸出抑制、鉄鋼原料輸入励行(関税引き下げ)、温室効果ガス排出削減の観点からの生産抑制など、非常にまだらな内容であるが、総じて鉄鋼セクターの景況感が悪化していることを確認するもの。

需要は不需要期、悪天候の影響で低迷しているが、粗鋼生産減少(意図的・不慮の両要因)が鉄鋼製品需給をタイト化させている。

需要の減少で目安となる新規受注・在庫レシオは、新規受注完成品レシオが1.16(前月0.74)と大幅に上昇、新規受注原材料レシオも1.03(0.93)と上昇しており、統計数値は低いが中国の鉄鋼製品需給バランスがタイトな状況が続いていることを示唆している。

鉄鋼原料価格の上昇を牽引してきた住宅セクターに関しては、7月の中国の建設業PMIは57.5(60.1)と高い水準ではあるが前月から減速しており、鉄鋼製品価格の上昇や中国政府による住宅バブル抑制方針が影響しているとみられる。

結果、鉄鋼製品需給がまだタイトな状態が続くことが鉄鋼原料価格を高止まりさせるが、全体の方向性は弱地合であり徐々に水準を切下げると考えるのが妥当だろう。

6月の中国の鉄鋼製品の輸入は前年比▲33.4%の125万2,000トン(前月▲5.8%の120万6,000トン)と減速し、過去5年平均程度まで水準を切下げた。国内の鉄鋼製品需給緩和を目的とした輸出リベートの撤廃で国内需給が以前よりも緩和しているためとみられる。

6月の中国粗鋼生産は前年比+2.5%の9,388万トン(前月+7.8%の9,945万トン)と前年比での伸びが鈍化。生産調整の影響がでている。しかし、過去5年レンジは上回っており生産水準は高い。

一方、6月の鉄鋼製品の輸出は前年比+74.5%の645万8,000トン(前月+19.8%の527万1,000トン)と大幅に回復している。しかし過去5年平均を回復するには至っていない。やはり輸出リベートの撤廃の影響が残存しているためと考えられる。

なお、中国の鉄鋼製品需要は旺盛とみられるが、在庫水準は前週比▲5万5,000トンの1,595万4,000トン(過去5年平均 1,116万1,000トン)と、例年と異なり減少している。生産調整の影響が顕在化した可能性がある。

原料である鉄鉱石の6月の輸入は前年比▲12.1%の8,942万トン(前月+3.2%の8,980万トン)と減速した。中国政府の鉄鋼ミル稼働制限の動きが輸入を鈍化させたとみられる。また中国の鉄鉱石需要は鈍化している可能性が出てきた。

なお、中国の最大の輸入相手である豪州では鉱山の人繰りが付かず生産が停滞しているとの指摘もあるが、直近5月の輸出統計では明確な減速は確認されていない。

鉄鉱石港湾在庫は前週比▲125万トンの1億2,825万トン(過去5年平均1億2,757万6,000トン)、在庫日数は25.2日(過去5年平均 29.3日)と例年と比較して在庫日数の水準は低い。

ただし在庫日数の低さは粗鋼生産の水準の高さに依拠するため、中国政府が住宅セクターの沈静化をどの程度本気で進めるかに左右されることになる。

原料炭は中国の生産活動回復が継続していること、国内の鉄鋼需要が公共投資で底堅いことから、同様に底堅い推移になると考える。

しかし、中国政府は原料炭を含む石炭の国内生産を増加させる方針であることから、海上輸送原料炭価格の上値も重い。

6月の中国の原料炭輸入は前年比▲33.9%の413万4,210トン(前月▲28.7%の341万1,925トン)と減少幅を拡大している。例年よりも輸入の水準は低い。

中国の港湾在庫の水準は鉄鋼の最大生産省である河北省の主要港である、京唐港の港湾在庫は前週比▲16万トンの152万トンと過去5年平均の146万8,000万トンを上回っている。

在庫日数は4.6日(▲0.7日)と、過去5年の平均である6.3日を大きく下回り再びタイト化している。

【見通しの固有リスク】

・鉄鉱石価格の上昇がレーショニング(価格上昇による需要減少)を引き起こす場合(価格下落要因)。

・世界的に広がる環境規制強化の流れで、鉄鉱石や原料炭などの生産に一定の影響が起きる場合(価格上昇要因)。

・コロナウイルスの感染拡大長期化による、鉱山生産の減少リスク(価格上昇要因)。

・中国とインドの国境紛争の激化で、インドが中国に対して鉄鉱石輸出を制限する可能性(中国のFOBインデックスは上昇、その他の地域の鉄鉱石価格は低下)。

---≪貴金属≫---

【貴金属価格見通し】

<<金>>

金は高値圏での推移を継続すると考える。FRBがテーパリングを開始する可能性は高いものの、市場が懸念していたペースにはならないとの見方が長期金利を押し下げており(欧州債の利回りが低く、相対的に割安な米国債が物色されている流れも否定できず)、実質金利低下が価格を下支えするため。

とは言え、米景気の相対的な回復期待の強さからドル高・長期期金利(緩やかに)上昇圧力が強まる展開は続くとみられるため、中期的な見通しは弱気。

現在の金の実質金利で説明可能な価格(金基準価格)は1,711ドルと前日から▲11ドル低下、そこからの乖離(リスク・プレミアム)は101ドルと昨日から+12ドル上昇した。

リスク・プレミアムは、過去3ヵ月平均で195ドル、6ヵ月で190ドル、1年で210ドル、5年で170ドルとなっている(数字は10ドル未満を四捨六入)。

なお、金価格を実質金利要因と為替要因に分類した場合、為替要因はリスク・プレミアムのところに内包されると整理している(為替は名目金利の影響も受けるので、純粋に為替の要因のみ切り出すのが困難であることから)。

※毎日回帰分析をアップデートし、リスク・プレミアム自体の水準を見直しているため、前日比の整合性が取れていない場合があります。

<<銀>>

銀価格は金価格との比較感で売買されるが、金銀レシオは現在、71.4倍。過去1年を基準にすると72倍、5年では80倍、2000年以降では65倍程度が妥当。

今後、さらに金銀レシオが低下するには、実際に太陽光パネルの設置が米国で進捗するなどの新規材料が必要になると見られるが、米政府は新疆ウイグル自治区問題を背景に輸入を制限する見通しであり一筋縄では行かないと考える。

なお、銀価格=金価格÷金銀レシオ であり、金銀レシオが低下することで金価格が変動した時の弾性値が上昇(ボラティリティは上昇し、足元金の2倍に上昇)する点は留意。

(例)金が2,000ドル、銀が20ドルのとき 金銀レシオが100倍→金価格±1ドルの変化で銀価格は±1セント変化 金の変化率は±0.05%、銀は±0.05%

 金銀レシオが1倍→金価格±1ドルの変化で銀価格は±1ドル変化 金の上昇率は±0.05%、銀は±5%

<<PGM>>

プラチナ価格は銀価格との連動性が高い。これは供給過剰で投機的な取引の影響が強まっていることによる。プラチナの需給バランスはWPICデータを元にすると今年も除く投機で供給過剰であり、投機動向が価格を左右しやすい。

パラジウムは経済活動正常化期待による金価格調整→経済正常化による需要増加を受けて高値を維持すると考える。

7月の米自動車販売は年率1,475万台(市場予想1,510万台、前月1,536万台)と減速。目先は価格の下落要因となりやすい。

中国の6月の自動車販売は中国自動車工業協会の集計で前年比▲12.4%の201万5,309台(前月▲3.0%の212万7,000台、4月+8.8%の225万台、3月+76.5%の252万5,000台、2月+371%の146万台、1月+30%の250万台、12月+6.4%の283万台、11月+12.7%の276万9,666台、10月+12.6%の257万3,000台、9月+13.0%の256万5,201台)と前年比マイナス幅を拡大しており、明らかに販売に減速が見られる。

半導体不足が自動車生産に影響を及ぼしているとみられる。調査会社のオートフォーキャスト・ソリューションズによれば半導体不足による供給減少の累積は7月16日時点で167万8,000台となっており、2019年1-7月期の966万9,484台から▲17.4%減少している。

この回復がある、ないしは供給側の混乱(南アフリカ)による生産減少がなければ、PGM価格は低水準で推移しよう。

【見通しの固有リスク】

・個人投資家のETFを通じた買いが、経済合理性を無視した水準まで貴金属価格を押し上げるリスク。

・主要生産国の南アフリカの電力供給不安や、コロナウイルスの影響拡大で供給が滞る場合(PGMの価格上昇要因)。

・コロナからの回復は各国まだらであり、先行する米国が金融正常化に動いた場合、新興国から資金が流出して信用リスクが高まる場合(安全資産価格の上昇要因)。

・米中の対立激化。バイデン政権は対中強硬姿勢を明確にしており、対立がさらに激化する場合(安全資産価格の上昇要因)。

・中国地方政府・中堅中小企業の財政状況悪化に伴う景気減速による安全資産需要の増加(実際に破綻が意識されるのは2030年以降か)。

・世界的な自動車販売の減速(米欧中)による、自動車向け排ガス触媒需要の減少(PGM)。

環境重視型社会へのシフトはパラジウム需要を増加させるが、さらに加速して「水素社会」まで到達すると、燃料電池車需要が増加して構造的にプラチナ価格の上昇要因となる可能性。

・コロナウイルスの感染拡大による、最大生産国の1つである南アフリカの鉱山稼働が電力供給問題もあって不安定であることによる供給懸念。

【投機筋のポジション動向】

・直近の投機筋のポジションは、金はロングが273,688枚(前週比 ▲3,624枚)、ショートが74,300枚(▲7,040枚)、ネットロングは199,388枚(+3,416枚)、銀が66,733枚(▲3,553枚)、ショートが35,516枚(+2,705枚)、ネットロングは31,217枚(▲6,258枚)

・直近の投機筋のポジションは以下の通り。

プラチナはロングが30,519枚(前週比 +1,990枚)ショートが18,724枚(+2,308枚)、ネットロングは11,795枚(▲318枚)

パラジウムが4,919枚(▲69枚)、ショートが3,744枚(+39枚)ネットロングは1,175枚(▲108枚)

---≪農産品≫---

【穀物価格見通し】

シカゴ穀物価格は現在の水準でもみ合うものと考える。既にラニーニャ現象の終了を織り込んでトウモロコシ・大豆の水準は大きく低下しているが、200日移動平均線でサポートされており、北米の気象状況の悪化が供給懸念を強めるため。

春小麦は乾燥気候の影響もあって作柄が悪く、ロシアの生産見通しも下方修正されていることからさらに上昇余地を探る展開に。

ただし小麦の場合、毎年のことであるが最終的には供給のつじつまが合うことが多いため、年後半に掛けては下落に転じることになろう。

6月の中国の大豆輸入は前年比▲3.9%の1,072万2,000トン(前月+2.5%の961万トン)と前年からは低下したが、過去5年の最高水準での推移。猛暑の影響もあり油脂向けの需要や、豚向けの飼料需要は旺盛と見られる。

Locust WatchではFAOの予想通り、降雨がなかったため群生相の発生は極めて抑制されている。Locust Watchでも今のところ差し迫った危機の発生リスクは指摘されていない。
http://www.fao.org/ag/locusts/common/ecg/75/en/210729DLupdate.jpg

【見通しの固有リスク】

・エルニーニョ現象発生による生産条件改善を受けた増産観測(価格の下落要因)。

・環境重視型社会へのシフトにより、燃料向け穀物需要が増加する場合(価格の上昇要因)。現在はそれほどの数量でもない、バイオディーゼル向けの大豆需要増加など。

・新型コロナウイルスの影響拡大による、輸出活動の停滞(シカゴ定期を含む生産地価格の下落要因)。

【米農務省需給報告データ】

・米作付け意向面積トウモロコシ 9,114万エーカー(市場予想9,313万エーカー、前年9,699万エーカー)大豆 8,760万エーカー(9,010万エーカー、8,351万エーカー)小麦 4,636万エーカー(4,495万エーカー、4,466万エーカー)綿花 1,204万エーカー(1,215万エーカー、1,370万エーカー)

・米穀物最終作付け面積 実績(前年)トウモロコシ 9,269万エーカー(9,082万エーカー)大豆 8,756万エーカー(8,383万エーカー)小麦 4,674万エーカー(4,425万エーカー)

・7月米需給報告単収見通し(実績/市場予想/前月)トウモロコシ 179.5Bu/エーカー(178.74、179.5)大豆 50.8Bu/エーカー(50.64、50.8)小麦 45.8Bu/エーカー(NA、50.7)

・7月米需給報告生産見通し(実績/市場予想/前月)トウモロコシ 151億6,500万Bu(151億748万Bu、149億9,000万Bu)大豆 44億500万Bu(43億9,211万Bu、44億500万Bu)小麦 17億4,600万Bu(18億4,343万Bu、18億9,800万Bu)

・7月米需給報告輸出見通し(実績/前月)トウモロコシ 25億Bu(24億5,000万Bu)大豆 20億7,500万Bu(20億7,500万Bu)小麦 8億7,500Bu(9億Bu)

・7月米需給報告在庫見通し(実績/市場予想/前月)トウモロコシ 14億3,200万Bu(13億6,114万Bu、13億5,700万Bu)大豆 1億5,500万Bu(1億4,675万Bu、1億5,500万Bu)小麦 6億6,500万Bu(7億2,356万Bu、7億7,000万Bu)

・6月末四半期在庫 実績(前期末)トウモロコシ 41億1,200万Bu(77億1004万Bu)大豆 7億6,700万Bu(15億6,400万Bu)小麦 8億4,400万Bu(13億1,400万Bu)

・6月CONABブラジル作付け面積(市場予想/前月)トウモロコシ 1,984万ha(1,975万ha、1,987万ha)大豆 3,815万ha(3,871万ha、3,850万ha)

・6月CONABブラジル生産量(市場予想/前月)トウモロコシ 9,639万トン(9,398万トン、1億641万トン) 単収 4,858kg/ha(4,762Kg/ha、5,355kg/ha)大豆 1億3,586万トン(1億3,682万トン、1億3,541万トン) 単収 3,528kg/ha(3,538Kg/ha、3,517kg/ha)

【投機筋のポジション動向】

・直近の投機筋のポジションは以下の通り。

トウモロコシはロングが393,463枚(前週比 ▲16,541枚)、ショートが86,786枚(▲11,689枚)ネットロングは306,677枚(▲4,852枚)

大豆はロングが188,545枚(▲10,778枚)、ショートが62,884枚(+1,240枚)ネットロングは125,661枚(▲12,018枚)

小麦はロングが106,358枚(▲2,961枚)、ショートが76,170枚(▲6,380枚)ネットロングは30,188枚(+3,419枚)

◆本日のMRA's Eye


「非鉄金属価格は下落も年後半上昇へ」

7月に発表された中国製造業PMIは50.4(前月50.9)と市場予想の50.8、前月ともに下回った。まだ閾値の50は上回っているが中国の経済活動の過剰な回復は沈静化の方向に向かっていると考えられる。

内訳を見ると生産が鈍化(51.9→51.0)、新規受注(51.5→50.9)、輸出新規受注(48.1→47.7)、受注残(46.6→46.1)と需要が全て鈍化。その一方でまだ在庫水準は低いが、完成品在庫は46.7→47.6と増加に転じている。

工業金属価格に対する説明力が高い新規受注在庫レシオは、完成品が1.069(前月1.093)、原材料が1.067(1.073)と両指数とも小幅に低下しており国内の需給が緩和していることをうかがわせる。

しかし中国の非鉄金属需給を個別に切り出すと動きがまちまちとなっている。上海在庫は合計で増加しているが、LMEインデックスの上昇と平仄が取れていない。

しかし、鉛を除いた在庫水準は2019年1月比で減少しており、足下の需給環境は総じてまだタイトな状態にあると考えられる。

一方、現物プレミアムに目を転じると非鉄金属の指標である銅のプレミアムは低下、需給バランスが緩和している可能性を示唆しているが、その他の金属は軒並み水準を切り上げている。

これらを考えると、1.猛暑による電力不足、それに伴う供給制限、2.石炭価格の高騰に伴う生産コストの上昇、3.コロナの影響による供給制限(東南アジアの影響が深刻)、といった固有の事象に起因するものと。

季節要因は時間経過と共に気温が低下し、需給バランスが緩和する方向に作用すると見込まれるが、コロナの影響による供給制限は解消が不透明。

新規受注・在庫レシオの動向を見るに中国の「ベースとなる需給」は緩和しているはずだが、下落余地は限定され先行きは欧米の経済対策(インフラ投資)期待で上昇する可能性が高いと考える。

このような状況を受けて投機筋の動きにはやや変化が見られている。LMEのCOTレポートを元にすると、非鉄金属のネット買越し金額は7月26日時点で275億ドルと先週の264億ドルから増加している。

しかし、今年2月19日のピークである336億ドルからは大きく水準を切下げている。

価格動向の影響が買越し額には影響するため枚数ベースで比較するとロットあたりの数量を調整後の買越し枚数(トン数)は5,971千トンとなっており、先週の5,873枚からは増加しているが、やはり今年の2月19日が買越し幅が6,840千トンとピークであり、ここからは水準を切下げている。

これまで非鉄金属価格上昇にベットしてきた投機筋であるが、1.米テーパリングの可能性、2.中国政府のバブル抑制方針、3.株式市場の過剰な楽観後退、といったことが材料になっていると見られる。

しかし上述の通り、恐らく来年からは欧米のインフラ投資が予想されること、コロナの影響による鉱産国からの供給減少が材料となるため、やはり年後半からは再び上昇するとの見方を変更する必要はないとみている。

◆主要ニュース


・7月日本サービス業PMI改定 47.4(速報比+1.0、46.4)コンポジット 48.8(+1.1、48.9)

・7月中国財新サービス業PMI 54.9(前月50.3)コンポジット 53.1(50.6)

・7月インドサービス業PMI 45.4(前月41.2)コンポジット 49.2(43.1)

・7月ユーロ圏製サービス業PMI改定 59.8(速報比▲0.6、58.3)コンポジット 60.2(▲0.2、59.5)

・7月独サービス業PMI改定 61.8(速報比▲0.4、57.5)コンポジット 62.4(▲0.1、60.1)

・6月ユーロ圏小売売上高 前月比+1.5%(前月+4.1%)前年比+5.0%(+8.6%)

・7月米ADP雇用統計 前月比+330千人(前月改定+680千人)

・7月米サービス業PMI改定 59.9(速報比+0.1、64.6)コンポジット 59.9(+0.2、63.7)

・米MBA住宅ローン
 申請指数 前週比 ▲1.7%(前週+7.0%)
 購入指数 ▲1.7%(▲1.5%)
 借換指数 ▲1.7%(+11.2%)
 固定金利30年 2.97%(3.01%)
 15年 2.33%(2.36%)

・クラリダFRB副議長(投票権あり・中間派)、「米経済が当局の予想取り回復した場合、当局は債券購入のテーパリングについて年内に発表し、2023年には利上げを開始するだろう。新型コロナのデルタ株は景気に下方向のリスク。」

・米イエレン財務長官、「インフレは今年年末までにFRBの責務と整合へ。」

◆エネルギー・メタル関連ニュース


【エネルギー】

・DOE米石油統計 原油+3.6MB(クッシング▲0.5MB)
 ガソリン▲5.3MB
 ディスティレート+0.8MB
 稼働率+0.2

 原油・石油製品輸出 8,270KBD(前週比▲124KBD)
 原油輸出 2,720KBD(▲181KBD)
 ガソリン輸出 739KBD(▲56KBD)
 ディスティレート輸出 1,222KBD(+69KBD)
 レジデュアル輸出 127KBD(▲13KBD)
 プロパン・プロピレン輸出 1,255KBD(+23KBD)
 その他石油製品輸出 2,109KBD(+22KBD)

【メタル】

・Vale カナダSudbury鉱山の労働者交渉委員会、満場一致で提案に合意。労働者の投票を経てストライキが終了する可能性。

・欧米のアルミプレミアムは史上最高水準に上昇、一方アジアは低迷。

・中国南山?業、シンガポールのUnited New Material Technologyと合弁で年間10万トンのアルミリサイクル会社を設立の計画。

◆主要商品騰落率


【上昇率上位5商品】

商品名(カテゴリー)/前日比上昇率/年初来上昇率
1.ビットコイン ( その他 )/ +4.42%/ +37.10%
2.NYM米天然ガス ( エネルギー )/ +3.25%/ +63.77%
3.MDEパーム油 ( その他農産品 )/ +3.14%/ +18.99%
4.CBTオレンジジュース ( その他農産品 )/ +2.78%/ +7.87%
5.欧州排出権 ( その他 )/ +2.35%/ +70.02%

【下落率上位5商品】

商品名(カテゴリー)/前日比上昇率/年初来上昇率
66.CME木材 ( その他農産品 )/ ▲6.92%/ ▲35.35%
65.NYM WTI ( エネルギー )/ ▲3.42%/ +40.46%
64.DME Oman ( エネルギー )/ ▲2.88%/ +35.62%
63.ICE Brent ( エネルギー )/ ▲2.87%/ +35.77%
62.ICEガスオイル ( エネルギー )/ ▲2.79%/ +36.72%

※弊社が重要と考える主要商品の前日比騰落率上位・下位5品目です。
※限月交代に伴う価格の不連続性は考慮されていません。予めご容赦ください。

◆主要指標


【為替・株・金利・ビットコイン】
NY ダウ :34,792.67(▲323.73)
S&P500 :4,402.66(▲20.49)
日経平均株価 :27,584.08(▲57.75)
ドル円 :109.48(+0.44)
ユーロ円 :129.59(+0.23)
米10年債 :1.18(+0.01)
中国10年債利回り :2.82(▲0.00)
日本10年債利回り :0.01(▲0.01)
独10年債利回り :▲0.50(▲0.02)
ビットコイン :39,754.38(+1681.43)

【MRAコモディティ恐怖指数】
総合 :28.66(+0.15)
エネルギー :31.39(+0.41)
ベースメタル :17.73(▲0.08)
貴金属 :20.14(▲0.09)
穀物 :32.91(+0.12)
その他農畜産品 :32.58(+0.2)

【主要商品ボラティリティ】
WTI :42.50(+1.36)
Brent :39.95(+0.97)
米天然ガス :33.12(+0.7)
米ガソリン :36.95(▲0.03)
ICEガスオイル :33.99(+0.57)
LME銅 :16.96(+0.02)
LMEアルミニウム :22.69(▲0.03)
金 :19.25(▲0.66)
プラチナ :27.39(+1.02)
トウモロコシ :75.53(▲0.01)
大豆 :19.25(▲0.66)

【エネルギー】
WTI :68.15(▲2.41)
Brent :70.33(▲2.08)
Oman :69.25(▲2.05)
米ガソリン :225.00(▲2.08)
米灯油 :207.41(▲5.23)
ICEガスオイル :575.25(▲16.50)
米天然ガス :4.16(+0.13)
英天然ガス :106.92(+2.33)

【貴金属】
金 :1811.74(+1.30)
銀 :25.38(▲0.14)
プラチナ :1027.68(▲23.84)
パラジウム :2651.94(+1.21)
※ニューヨーククローズ。

【LME非鉄金属】
(3ヵ月公式セトル)
銅 :9,528(▲81:24.5C)
亜鉛 :2,983(+6:8C)
鉛 :2,391(▲5:78B)
アルミニウム :2,581(▲19:5C)
ニッケル :19,456(+145:8C)
錫 :34,678(▲20:1797B)
コバルト :52,394(▲5)

(3ヵ月ロンドンクローズ)
銅 :9466.00(▲94.00)
亜鉛 :2962.00(▲15.00)
鉛 :2371.00(▲22.00)
アルミニウム :2562.50(▲26.00)
ニッケル :19260.00(▲145.00)
錫 :34660.00(▲40.00)
バルチック海運指数 :3,281.00(▲1.00)
※C=Cash-3M コンタンゴ、B=Cash-3M バック

【鉄鋼原料】
62%鉄鉱石スポット(CFR中国、1営業日前) :186.1(▲0.08)
SGX鉄鉱石 :182.31(▲0.16)
NYMEX鉄鉱石 :182.51(+1.50)
NYMEX豪州原料炭スワップ先物 :213.58(+0.95)
大連原料炭先物 :317.03(+1.51)
上海鉄筋直近限月 :5,431(+40)
上海鉄筋中心限月 :5,359(+36)
米鉄スクラップ :646(±0.0)

【農産物】
大豆 :1403.50(+11.25)
シカゴ大豆ミール :353.10(+5.30)
シカゴ大豆油 :62.77(▲0.50)
マレーシア パーム油 :4630.00(+141.00)
シカゴ とうもろこし :545.75(▲4.75)
シカゴ小麦 :717.25(▲7.25)
シンガポールゴム :188.90(+1.30)
上海ゴム :13280.00(▲15.00)
砂糖 :17.93(▲0.05)
アラビカ :175.65(+0.80)
ロブスタ :1770.00(▲2.00)
綿花 :90.72(+0.42)

【畜産物】
シカゴ豚赤身肉 :109.48(+0.40)
シカゴ生牛 :124.05(+0.80)
シカゴ飼育牛 :159.20(+0.30)

※全ての価格は注記が無い限り、取引所で取引される通貨建。
※限月交代に伴う価格の不連続性は考慮されていません。予めご容赦ください。