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景気循環銘柄物色続く
  • MRA商品市場レポート

2021年7月26日 第1999号 商品市況概況

◆昨日の商品市場(全体)の総括


「景気循環銘柄物色続く」

【昨日の市場動向総括】

昨日の商品市場は穀物、貴金属などの非景気循環系商品が売られたが、その他の景気循環系商品は広く物色される形となった。企業決算が良好で株価が上昇、それを受けたリスクテイク再開が価格を押し上げているという印象は否めない。

商品市場は明らかに株価下落を契機に水準を切下げていたため、これまでの上昇は投機の買い戻しによるものと考えるのが妥当だろう。

しかし、非鉄金属に関しては、主要生産国でコロナ変異種が拡大していること、豪雨・渇水が生産や輸送に悪影響を及ぼしていることが価格を押し上げている。これは鉄鋼原料も同じである。

エネルギーは上昇しているが買い戻しの影響が大きい。やや気になるのが最大消費国である米国の石油製品出荷が減速していることである(詳しくは昨日のトピックスをご参照ください)。

【本日の見通し】

週明け月曜日はこの1週間の上昇が顕著だったため、週後半のFOMCを控えて一旦調整売りに押されると考えるが、基本的にはリスクオンの再開もあって商品価格は高い水準を維持するものと考える。

リスクオンオフの指標の1つである「金のリスク・プレミアム」が大幅に低下しており、市場参加者のリスクテイク意欲が旺盛であると考えられる。

ただ、企業決算が一巡すればファイナンシャルな面で追加的に買い上がる状況にもないと考えられるため、徐々に金融政策の変更に焦点が当たり上値は重くなるだろう。

【セクター別動向と見通し】

◆エネルギー

原油価格は堅調な推移となった。株価の急落を切っ掛けとする投機的な価格下落が一巡し、買い戻しが優勢になったためとみられる。

7月20日時点のWTIの投機筋のポジションはロングが▲43,272枚の大幅減少、ショートが+7,084枚の増加。Brentが▲58,374枚のロング減少、▲7,588枚のショート減少だった。

豪州石炭スワップ先物価格は横這いで150ドル水準を維持。猛暑や渇水の影響で夏場に向けた調達圧力は続いているとみられる。バルチック海運指数は上昇している。

JKM先物市場は小幅に下落したが14ドル台を維持。欧州ではロシアの欧州向け供給が再開されるとの見方から、LNG市場の需給が緩和するとの期待が強まった。

スポットLNGタンカーレートはスエズ以東がやや上昇、以西は横這い。欧州はNord Streamのメンテナンス終了やロシアのウクライナ経由輸出増加観測が、カード需要を低下させているとみられる。

欧州天然ガスは下落。ロシアからウクライナ経由のパイプラインの予約、NordStreamのメンテナンス終了で域内需給が緩和するとの期待が強まったことが売り材料に。米国天然ガスは気温上昇が続いていることから高値圏を維持している。

週明け月曜日は目立った手がかり材料に乏しい中、引き続き企業決算を睨んで神経質な推移になるだろう。ただ足下、好決算が多く、市場参加者のリスクテイク意欲が回復しているため、高値を維持すると考える。

ただし同時に、週末のFOMCを控えて上値も重いのではないか。

石炭・LNGは原油に比べて投機の影響を受け難く、需給ファンダメンタルズが重用になるが、引き続きタイト(北半球の気温上昇や、鍵となる地域の渇水などの影響で発電燃料需要が旺盛)な状態が続いており、高値を維持。

ただし、欧州のガス需給がロシアからの供給再開で緩和する可能性があり、やや上値は重くなろう。

◆非鉄金属

LME非鉄金属価格は鉛が下落したが、その他の商品は総じて堅調な推移となった。株価の戻りを受けたリスクテイクの再開と、中国南部の記録的な洪水の影響で、非鉄金属供給に影響が出るのではとの見方(報道では非鉄金属の精錬所には大きな影響がでていない模様)が、価格を需要以上に押し上げているとみられる。

錫はそもそも供給懸念が強いものの、この中国南部の供給懸念やコロナの変異種が主要生産国であるインドネシアやマレーシア、ミャンマーで拡大していることが材料となっている。

ニッケル価格の上昇も、コロナの変異種拡大が確認されている国の供給シェアが5割と高いことが同様に供給懸念を強めている。

週明け月曜日も主要生産地域の供給問題と企業決算を受けた株価動向を背景に堅調な推移になると考える。ただ、週末のFOMCを控えて調整圧力も強まると予想され、上値も重かろう。

◆鉄鋼・鉄鋼原料

中国向け海上輸送鉄鉱石スワップは下落、大連先物は上昇、豪州原料炭スワップ先物は上昇、大連原料炭先物は上昇、上海鉄鋼製品先物は上昇した。

大型台風の襲来見通しを受けた供給懸念が鉄鋼製品価格を押し上げたが、鉄鉱石に関してはミルの稼働停止観測を背景にやや水準を切下げた。

台風や洪水の影響が需要を混乱させているが、足下は台風の影響で鉄鋼製品需要が一時的に鈍化すると見られており、鉄鉱石価格を押し下げへ。

◆貴金属

昨日の貴金属セクターは下落した。実質金利の低下で基準価格は上昇したものの、ドル高進行を背景とするリスク・プレミアムの低下が金価格を押し下げ、新疆ウイグル自治区問題を背景に銀需要増加への期待が後退する中、金銀レシオを切り上げながら銀価格は下落した。

PGMは銀価格の説明力が高いプラチナが大幅に水準を切下げ、パラジウムも連れ安となった。いずれもコロナ以降、実需で上昇してきたわけではなく期待先行だった部分は否めず、5月のテーパリング観測が強まってから水準を切下げる動きが続いている。

ただし、リスク・プレミアムの低下が顕著であり、仮に過去5年平均程度まで水準が戻るなら、あと50ドル程度の上昇余地があることになる。

週明けも株価動向を睨んだリスク・プレミアムの動きに左右されるが、実質金利が安定しており高値維持の公算。ただし、基本的には週後半のFOMCを睨んで方向感が出難くく、レンジワークを予想。

◆穀物

シカゴ穀物市場は下落した。ドルがジリ高となっていることや、降雨、高温だった気温が低下する見通しであることが材料となった。ただ、ラニーニャ現象終了以降、大きく水準を切下げたが、200日移動平均線のサポートラインを意識しつつ、レンジワークという印象である。

気象条件が不安定で、穀物の作柄は総じて良くない状態であり価格の押し上げ要因となるが、それ以上にエルニーニョ現象終了やドル高が材料視されており、頭は重い展開が続く公算。

※中長期見通しは個別セクターのコラムをご参照ください。

市場データ・グラフ類の添付ファイルのサンプルはこちら。

【昨日のトピックス】

昨日発表された欧米のPMIは製造業の回復ペースの鈍化が見られる一方で、サービス業に回復感が出る形となった。

ユーロ圏製造業PMIは62.6(市場予想62.5、前月改定 63.4)とやや鈍化、サービス業は60.4(59.3、58.3)と回復。ドイツは製造業が65.6(64.1、65.1)、サービス業が62.2(59.5、57.5)と、いずれもサービス業の回復感が強い。

通常、金融政策や財政政策などの対策効果は製造業に顕著に現れ、その後サービス業に波及する形となる。欧州はコロナへの対応が米国よりも遅れたため回復が米国に劣後したが、これを取り戻す形となっているようだ。

しかし、回復で先行していた米国の先行きはやや微妙な状態。製造業が63.1(62.0、62.1)、サービス業が59.8(64.5、64.6)といずれも高い水準を維持しているものの、サービス業が市場予想を下回っている。

実際、週間新規失業保険申請件数も419千件(前週368千件)と増加に転じるなどやや先行きが不安になる材料もある。また、リアルタイムの米経済活動の指標の1つである石油製品出荷も2週連続で減速している。

この状況を米FRBがどのように判断するか。月末に予定されているFOMCには注目であるが、今のところパウエル議長は5月のタカ派的なスタンスからややハト派にシフトしており、7月の段階で結論を出す可能性はやや後退したとみている。

恐らく、8月のジャクソンホール経済シンポジウムでテーパリングのスケジュールを示すことになるのではないか。

【マクロ見通しのリスクシナリオ】

・来年の中間選挙を控えて、バイデン大統領が国内の支持を得られない場合。財政面や企業負担増の理由から造反が発生し、議会を通過しない場合は景気のリスクに(景気減速要因)。

・米財政出動が加速、景気回復期待を受けた価格上昇が顕著となる場合。

この場合、長期金利上昇でドル高が進行しやすく価格の下落を意識しなければならない。

夏のジャクソンホールのシンポジウムでのテーパリング開始宣言が妥当だが、6月のFOMCでFRBはタカ派に転じた可能性が高く、場合によると7月FOMCで宣言される可能性も否定出来ず。

・コロナウイルスの感染再拡大(変異種に対してワクチンの効果が期待ほどではなかった場合など。既に中国製のワクチンは新興国で接種されているが、殆ど効果が出ていない)によるロックダウンが景気循環系商品の需要を減じる場合(価格下落要因)。これは既に欧州、インド、東南アジア、日本などで顕在化。

逆に想定以上にワクチン・治療薬の開発が速やかに行われた場合は需要の増加要因に。

・環境重視型社会への急激な転換による、経済活動の鈍化リスク。成長ドライバーの1つとして期待される、中東・北アフリカ産油国が人口ボーナス期を活かせない(逆に鉱物産出国は高成長となる可能性も)。

逆に脱炭素に向けたインフラ投資の加速で資源価格が急上昇、金融緩和マネーが大量に市場に滞留する中でハイパーインフレとなるリスク。

・米中対立激化による、新冷戦構造が発現しブロック経済圏が発生して貿易活動が鈍化する場合(場合によると武力衝突も)。

「能動的に」軍事を行う方針に舵を切った中国習近平政権が、台湾統一を目指して侵略する可能性は高くなった。

・次の成長ドライバーとして期待されるインド経済が、期待通りの成長をできない場合(人種差別問題による国民の離反、市場開放・規制改革の遅れ、中国との対立など)。

2018年にすでに人口ボーナス期入りしているため、鉱物・エネルギーをはじめとする景気循環系商品需要の増加は2023~2024年頃。

・中国地方政府・中堅中小企業の財政状況悪化に伴う景気減速(これは人口動態を考えると、現実のリスクとなるのは2030年以降か)。

◆昨日の商品市場(個別)の総括


---≪エネルギー≫---

【原油価格見通し】

原油価格は経済活動再開に伴う需要回復で基本的には需要面が価格を押し上げやすいが、OPECプラスが増産で合意する可能性が高まっていること、コロナの変異種の感染拡大を受けた株式市場でのリスクオフ、米テーパリングの可能性が高いこと、から下値余地を探る動きになると考える。

ジャクソンホールシンポジウムあたりからの下落を想定していたが、想定以上のペースでコロなの変異株の感染拡大が起きており、調整が1ヵ月ほど早まった。下値の目処は従来通りBrentは60ドル台半ば、WTIは60ドル台前半が目処。

イスラエルで連立政権が誕生したが、ネタニヤフ前首相よりもタカ派と言われるベネット党首が輪番制で2年間首相を務める。イランで保守強硬派の大統領が誕生したことで対立がさらに深まり、武力衝突に発展する可能性もゼロではなくなった。

米テーパリングの進捗観測は価格の下押し要因となる。過去のケースでもテーパリング開始宣言からファイナンシャルな面で売り圧力が強まり、原油価格も下落した。今のところ2023年に2回の利上げが見込まれ、場合によると2022年にも利上げの可能性がある。

また、正常化が前提であるものの、ここに来てコロナの変異株の感染が拡大、ワクチン接種が世界で最も進んでいるイスラエルでもワクチンの有効性が低下していることは、需要の下押し要因に。

【見通しの固有リスク】

・ワクチン接種の進捗が想定よりも早まり、人の移動制限が解除され需要増加に供給が間に合わず、価格が急騰するリスク(価格の上昇要因)。

同時に変異株が猛威を振るい、ワクチンが効かない場合(需要減少で下落リスク)。

・米国経済が正常化する中でテーパリングなどの金融緩和解除が加速、急速なドル高を通じて投機的な売り圧力が高まる場合(価格の下落要因)。

・OPECプラスの増産タイミングの見誤りによる、供給不足。またはイランを巡り武力衝突や制裁解除が遅れた場合(価格上昇要因)。

価格が上昇する中でOPEC諸国の減産維持統制が効かなくなり、増産競争に舵が切られる場合(下落要因)。

米国の橋渡しでイランとサウジを初めとするスンニ派諸国が和解、中東の緊張が緩和するシナリオも排除せず(下落要因)。

・脱炭素の進捗、生活様式の変化による構造的な需要減少が加速した場合

1.中東産油国の財政悪化によって情勢不安が顕在化、供給途絶リスクが高まる場合

2.中東以外の産油国の生産者の破綻

3.上流投資部門投資が減速し、インドなどの新興国需要顕在化時に供給が間に合わない場合

4.価格面、数量面で予算を確保できない産油国が、OSPを大幅に引き上げる場合(第3次オイルショック)

などが価格上昇要因に。

・脱炭素の過剰な進捗による供給懸念(価格上昇要因)。

かなり過剰なペースで脱炭素が進められており、裁判所を使ってまでシェルに脱炭素推進を促し、ヘッジファンドが株主としてエクソンに対して脱炭素を促し、自身のポートフォリオの価値を上げる目的で取締役を送り込むといったことも常態化しはじめており、「比較的タイムリーな増産」が可能だった米国の生産が増えない可能性は極めて高い。

この場合、「脱炭素移行期間には十分な燃料供給が出来ないリスク」が高まり、来年以降の価格上昇局面で原油価格が100ドルを超えるリスク(ただしまだリスクシナリオの位置づけ)。

なお、脱炭素が完了しても100%原油が不要になることはなく、OPECの価格支配力が増すため、この場合でも価格は上昇へ。

【石炭価格見通し】

海上輸送石炭価格は高値圏を維持すると予想される。最大消費国である中国の電力需要が拡大していること、北半球の気温上昇、渇水による水力発電能力の低下で火力発電向けの燃料需要が増加、価格の上昇トレンドが継続していること、昨年からの猛暑・厳冬で在庫水準が低いためスポット調達圧力が強い状態が続くと考えられるため。

また、欧州排出枠価格が供給減少により2021年の需給がタイトとみられることもファイナンシャルな面で価格を押し上げると考える。

なお、FRBがタカ派に転じたことがリスク資産価格の下押し要因となっているが、脱炭素の流れの中ではファンドですら石炭を投資対象とし難く、その影響は限定と考える。

中国政府は国内炭の供給能力増強にシフトしているが、経済活動の回復に供給が十分ではない。夏場の調達に目処が立てば調整すると見られるが、足下、中国の6大電力会社の石炭在庫水準は過去5年レンジの最低水準と低く、高値圏維持を予想。

ただし、3月の豪雨の影響で供給が減少していた豪州の輸出増加や、環境規制強化の中で石炭需要は減速するとみられること、脱炭素の流れと逆行するが中国政府は海外との対立によって石炭調達に支障が出ることを回避するため、国内生産を増加させていることから海上輸送炭価格の上値は重くなると予想される。

6月の石炭輸入は前年比+12.3%の2,839万2,000トン(前月▲4.6%の2,104万トン)と回復した。猛暑・渇水による発電燃料としての石炭需要増加と、中国の経済活動回復に伴う電力需要の増加が続いているためと考えられる。

中国6大電力会社の石炭在庫の水準は低く、まだ、季節的な石炭輸入需要の増加は続くと考える。石炭価格の下落は夏場の在庫調達が一巡する必要があるため、7月頃までは高止まりする可能性が高い。

【見通しの固有リスク】

・世界的な環境重視型世界へのシフトを受けた、石炭上流部門への投資規制強化による、供給減速懸念。短期的には価格の上昇要因。

・中国と豪州の対立、中国国内の生産能力増強に伴う、海上輸送炭需要の減少。

・北半球の夏場の猛暑(/冷夏)・冬場の厳冬(暖冬)。

・エルニーニョ現象発生が予想される夏場にかけて、北半球が猛暑となるリスク(気象庁の分析では冷夏になりやすい。日本は西日本が猛暑になる可能性)

【天然ガス・LNG】

天然ガス価格は中国の経済活動が活発である一方、猛暑や水不足による水力発電からの電力供給低下で、火力発電向けの燃料需要が旺盛なこと、同時に海上輸送石炭価格も高い水準で推移していること、欧州のメンテナンスやロシアからの供給減少で欧州の域内需給がタイト化していること、などを背景にスポット玉の調達圧力が強まることから、高値を維持する見込み。

なお、FRBがタカ派に転じ、リスク資産価格に下押し圧力がかかりやすい地合となっているが、LNG市場はまだ投機の物色対象となっていないことから影響は限定されると見ている。

5月の中国のLNG輸入は前年比+34.4%の703万トン(前月+32.0%の673万トン)と過去5年レンジを大きく上回り、構造的な需要増加が続いている。

なお、6月の天然ガス輸入は前年比+26.2%の1,021万トン(前月+31.6%の1,032万トン)と減少し、過去5年レンジの最高水準程度まで水準を切下げたが、構造的な需要の増加が変化した、というような内容ではなかった。

長期契約のLNGに関しては、原油リンクとなるため上昇見通しだが、価格反映までに3ヵ月程度の時間差があるため(消費者への影響はさらに3ヵ月後)、現時点ではまだ上昇していないと考えられる。次の懸念は夏のピーク時の電力・ガス価格への影響だろう。

【見通しの固有リスク】

・米国がノルドストリーム2の建設を容認した場合、欧州ガス需給の緩和(ロシア増産で下落要因)。

・ウクライナやベラルーシといったロシアと欧州の緩衝帯との政治的な軋轢によって、結果的にロシア産ガスの供給がロシア側の都合でコントロールされた場合(実際にロシアが行動を起こした場合、多くのケースで価格の上昇要因)。

・産油国の減産継続による随伴ガス供給の減少懸念。

・北半球の夏場の猛暑(/冷夏)・冬場の厳冬(暖冬)。

・エルニーニョ現象発生が予想される夏場にかけて、北半球が猛暑となるリスク(気象庁の分析では冷夏になりやすい。日本は西日本が猛暑になる可能性)

【投機筋のポジション動向】

・直近の投機筋のポジションは以下の通り。

WTIはロングが593,046枚(前週比 ▲43,272枚)ショートが144,306枚(+7,084枚)ネットロングは448,740枚(▲50,356枚)

Brentはロングが357,036枚(前週比▲58,374枚)ショートが95,195枚(▲7,588枚)ネットロングは261,841枚(▲50,786枚)

---≪LME非鉄金属≫---

【非鉄金属価格見通し】

非鉄金属価格は短期的には株価の戻りや、コロナの影響、悪天候による供給障害が価格を押し上げるため上値を試す展開が予想される。

しかし、最大消費国である中国の需要の伸びがやや鈍化しているとみられること、中国の国家備蓄放出や、コロナのデルタ株の感染拡大によるリスク回避の動き、米テーパリングの実施観測が強く、ドル高バイアスが今後強まると予想されるため、中期的には軟調な推移になると考える。

なお、中国人民バブル発生を警戒していた中国が景気減速や企業のデフォルト回避目的で再び金融緩和(預金準備率の引き下げ)に舵を切ったこと、来年以降は欧米でのインフラ投資の増加が見込まれることから、下落後、再び上昇余地を試す動きになるとみる。

6月の中国製造業PMIは50.9(前月51.0)と市場予想の51.0と前月を小幅に下回った。ただし閾値の50は上回っており中国の製造業活動は拡大過程を維持していると考えられる。

内訳を見ると生産が鈍化(52.7→51.9)する一方で、新規受注(51.3→51.3)、輸出新規受注(48.3→48.1)、受注残(45.9→46.6)と輸出向け受注が減少する一方で新規受注は同じ水準を維持しているため、まだ中国国内の需要は減速を始めていないことが伺われる。

輸出向け新規受注の減少は人民元高が影響しているとみられるが、国内に関しては中国政府が投資抑制に舵を切っているため、徐々にこの政策の影響がでてくると考えられる。

工業金属価格に対する説明力が高い新規受注在庫レシオは、完成品が1.09(前月1.10)、原材料が1.07(1.08)と両指数とも小幅に低下している。

これまで非鉄金属価格の上昇を牽引してきたのは中国の住宅セクターであるが、5月の中国の建設業PMIは60.1(60.1)と高い水準ではあるが前月から横這いであり、鉄鋼製品価格の上昇や中国政府による住宅バブル抑制方針が影響し始めているとみられる。

ただし統計の水準は高く、短期的には中国の住宅セクターは堅調であり、短期的には建材向け需要は堅調に推移するだろう。

その中で輸出向けの需要が欧米との対立と人民元高の中でどれだけ回復出来るかが、次の焦点となる。

6月の中国の貿易統計を見ると、ベンチマークである精錬銅の輸入は前年比▲34.7%の42万8,000トン(前月+2.3%の44万6,000トン)と過去5年平均を下回り、減速感が鮮明となっている。

6月の銅精鉱の輸入は+5.1%の167万1,000トン(前月+15.1%の194万5,000トン)と高い水準を維持してはいるが、急速に絶対水準を引き下げている。中国政府によるバブル抑制方針を背景に輸入が減少しているとみられるが、足下、企業支援目的の預金準備率の引き下げが実施されており、再び住宅セクターの回復で輸入は増加するのではないだろうか。

5月の銅スクラップの輸入は+103.1%の16万7,767トン(+90.6%の17万1,996万トン)。

中期的には米国や欧州の財政出動、脱炭素の動きを受けた動向に左右されることになる。

米バイデン政権は上院の超党派で、8年間で1兆2,000億ドルのインフラ投資計画で合意した、と発表した。今回の合意では、道路・橋梁・主要プロジェクトに1,090億ドル、電力インフラに730億ドル、旅客・貨物鉄道に660億ドル、ブロードバンド・インターネットサービスに650億ドル、公共交通機関に490億ドル、空港に250億ドルを投じる。

さらには2022年度予算も戦後最大となる歳出を6兆ドルと、以上と戦後最大の水準とする方針。

これらの需要は景気に関係なく発生する需要であるため、需要の見通しは底堅く、価格の調整があっても下値余地は限定される可能性が高い。

これまで中国が鉱物セクターの需要動向に関して主役であり、今後も非鉄金属価格の動向は中国動向が左右するが、「新規の需要」については欧米動向が重要になる可能性は意識しておきたいところ。

この場合、米国の景気回復=ドル高・金属価格上昇、という構図も考えられる。

こうした政策期待や、インドなどの新興諸国の需要増加を受けた構造的な需要増加を受けて、中・長期的に価格は下支えされ、堅調な推移になると考える。

米国・中国・インドがどのような動きをするかに環境政策は左右されるが、ここまでの各国の動きを見ていると当面は環境向けに使用される金属の需要増加は「今後10年・20年の大きなテーマ」となる可能性が高いと言える。

具体例を挙げると、軽量化目的のアルミ、EV向けのニッケル、銅(通常25キロ/台の銅が使われるが、EVは80キロ/台)、蓄電池としての鉛、コバルト、リチウムなどが挙げられる。

2020年の中国の新エネルギー車の販売は前年比+7.5%の137万台(前年124万台)となった。全体の自動車販売が2,523万台なのでシェアは5.4%(4.9%)と上昇している。それでも電気自動車が非鉄金属市場の重要なテーマになるには、あと数年は要するだろう。

【見通しの固有リスク/個別金属の特殊要因】

・猛暑や渇水による燃料価格上昇で、1.電力供給不足による稼働停止・供給減少、2.発燃料価格の上昇を通じて生産コストが上昇する、場合(価格上昇リスク)。

・米国経済が正常化する中でドル高が進行し、投機買いが膨らんでいる非鉄金属市場で投機の手仕舞い売り圧力が高まる場合(下落リスク)。

・米中間選挙に向けて、米民主党が追加でインフラ投資(2兆ドルのクリーンインフラ投資など)を議会の採決を得て実行に移す場合(上昇リスク)。

・主に銅山を中心とする労使交渉長期化による供給減少が、2021年も継続する場合(上昇リスク)。

・中国の環境規制強化に伴う供給の減少。エネルギー排出量の多い新疆ウイグル自治区でのアルミ生産は減産の影響は既に材料視されている(供給減少でアルミ価格の上昇要因に)。

・上流部門投資不足並びに鉱石の品位低下による、鉱山供給の制限。

・チリやペルーで広がる左派勢力伸長に伴う大衆迎合的な政策が可決し、鉱山生産に過剰なロイヤルティが適用される場合(供給減少ないしは生産コスト上昇で価格の上昇要因)。

チリで議論されている銅のロイヤルティ増税案の詳細は以下の通り。

年内実施予定の選挙結果では課税強化で生産コスト上昇、または減産となる可能性も。

3%の新ロイヤルティに加え、銅価格に連動して税額が賦課される仕組み。

2ドル~2.5ドル/ポンド(4,406~5,508ドル/トン):15%2.5ドル~3(5,508~6,609):35%3ドル~3.5(6,609~7,711):50%3.5ドル~4(7,710~8,813):60%4ドル~4.5(8,813~9,914):70%

年間販売量が5万トン未満の小規模生産者は品位95%の粗銅の場合▲5%の軽減税率、アノードの場合(99.4~99.6%)が適用される。

2023年までは現行の営業利益率によって5~14%の鉱業ロイヤルティが適用されるが、2024年以降は新税制を適用。

・環境問題や人権問題(コンフリクト・メタルの問題)を背景とする鉱山供給の減少。

また、環境に配慮したメタル使用の義務化などが欧州で進む場合などのコストアップ(グリーン・メタルの義務化によるコスト増加)。

【投機筋のポジション動向】

・LME投機筋買い越し金額 前週比+1.1%の264億ドル(前週 261億ドル)・LME投機筋買い越し数量 前週比▲0.3%の5,873.4千トン(前週 5,893.2千トン)

---≪鉄鋼原料≫---

【鉄鋼原料価格見通し】

鉄鉱石価格は、米欧中のインフラ投資による建材向け需要増加観測を背景に、高値を維持すると予想する。

これまでの経済対策の影響で、中国国内の鉄鋼原料在庫日数の水準が低いことから(鉄鋼製品在庫の水準は増加)在庫積み増し需要も継続する可能性が高い。

また、資源価格の上昇を受けた国内インフレ回避の目的でロシアが8月1日から鉄鋼製品の輸出に関税を課す方針を示しており、このことも需給をタイト化させて価格を押し上げよう。

中国政府は住宅バブルを警戒しているものの、企業のデフォルト発生を回避するため預金準備率の引き下げを決定しており、住宅セクター減速のタイミングが先送りされる可能性が出てきたことも価格を高値に維持すると見る。

しかし、預金準備率の引き下げは国内の企業の資金繰りが厳しくなっていることを支援するためのものであり、「状況が悪いから行われている緩和」ともいえること、住宅バブルを放置する選択肢はないと考えられることから、住宅セクターの成長ペースが巡航速度に移行し、価格を下押しするとの見通しは変更の必要がないと考える。

また、中国共産党は2021年から始まった新しい5ヵ年計画で鉄鋼生産量の削減の必要性を表明している。

最大生産都市である唐山市は、2021年20日~12月31日まで、大気汚染基準に違反し、データを改ざんした4社は3月20日~6月末まで▲50%、7月~12月末まで▲30%減産、その他の16社は12月末まで▲30%の減産を新たに実施することを義務づけられた。

これにより、唐山市の粗鋼生産は前年比▲2,223万トンの1億2,177万トン、鉄鉱石需要は▲3,500万トン減少するとみられている。

粗鋼生産が減少すれば、鉄鉱石の在庫水準の指標である在庫日数も、分母が小さくなるため上昇が予想され、鉄鉱石価格の下落要因となる。これは原料炭も同様。

6月の中国鉄鋼業PMIを見ると、総合指数は45.1(前月46.1)と悪化した。生産指数が低下(51.4→50.7)したが、それ以上に新規受注(39.4→34.8)、輸出向け新規受注(43.9→42.3)と低下した影響が大きかった。

景気過熱を沈静化する方針を中国政府も明確にしており、鉄鋼生産に関しては環境規制強化の流れ(というよりは中国の国民の住環境改善要請に応えたものと考える方が適切)を受けたものであり、新規受注の減速は政策的な支援の減少や輸出に関しては5月1日から鉄鋼製品の増値税還付が撤廃されたことが影響していると考えられる。

需要の減少で目安となる新規受注・在庫レシオは、新規受注完成品レシオが0.74(前月0.91)と低下、新規受注原材料レシオは0.93(0.995)と低下基調を維持しており、原材料・鉄鋼製品とも価格の下押し圧力が強まる展開が予想される。

鉄鋼原料価格の上昇を牽引してきた住宅セクターに関しては、6月の中国の建設業PMIは60.1(60.1)と高い水準ではあるが前月から横這いであり、鉄鋼製品価格の上昇や、中国政府による住宅バブル抑制方針が影響し始めているとみられる。

ただし統計の水準は高く、短期的には中国の住宅セクターは堅調であり、短期的には鉄鋼製品並びに鉄鋼原料価格を高止まらせると考える。

6月の中国の鉄鋼製品の輸入は前年比▲33.4%の125万2,000トン(前月▲5.8%の120万6,000トン)と減速し、過去5年平均程度まで水準を切下げた。国内の鉄鋼製品需給緩和を目的とした輸出リベートの撤廃で国内需給が以前よりも緩和しているためとみられる。

6月の中国粗鋼生産は前年比+2.5%の9,388万トン(前月+7.8%の9,945万トン)と前年比での伸びが鈍化。生産調整の影響がでている。しかし、過去5年レンジは上回っており生産水準は高い。

一方、6月の鉄鋼製品の輸出は前年比+74.5%の645万8,000トン(前月+19.8%の527万1,000トン)と大幅に回復している。しかし過去5年平均を回復するには至っていない。やはり輸出リベートの撤廃の影響が残存しているためと考えられる。

なお、中国の鉄鋼製品需要は旺盛とみられるが、在庫水準は前週比▲13万8,000トンの1,600万9,000トン(過去5年平均 1,104万2,000トン)と、例年と異なり、再び減少に転じている。生産調整の影響が顕在化した可能性がある。

原料である鉄鉱石の6月の輸入は前年比▲12.1%の8,942万トン(前月+3.2%の8,980万トン)と減速した。中国政府の鉄鋼ミル稼働制限の動きが輸入を鈍化させたとみられる。また中国の鉄鉱石需要は鈍化している可能性が出てきた。

なお、中国の最大の輸入相手である豪州では鉱山の人繰りが付かず生産が停滞しているとの指摘もあるが、直近5月の輸出統計では明確な減速は確認されていない。

鉄鉱石港湾在庫は前週比+50万トンの1億2,950万トン(過去5年平均1億2,715万6,000トン)、在庫日数は25.5日(過去5年平均 29.4日)と例年と比較して在庫日数の水準は低い。

ただし在庫日数の低さは粗鋼生産の水準の高さに依拠するため、中国政府が住宅セクターの沈静化をどの程度本気で進めるかに左右されることになる。

原料炭は中国の生産活動回復が継続していること、国内の鉄鋼需要が公共投資で底堅いことから、同様に底堅い推移になると考える。

しかし、中国政府は原料炭を含む石炭の国内生産を増加させる方針であることから、海上輸送原料炭価格の上値も重い。

6月の中国の原料炭輸入は前年比▲33.9%の413万4,210トン(前月▲28.7%の341万1,925トン)と減少幅を拡大している。例年よりも輸入の水準は低い。

中国の港湾在庫の水準は鉄鋼の最大生産省である河北省の主要港である、京唐港の港湾在庫は前週比▲16万トンの152万トンと過去5年平均の146万8,000万トンを上回っている。

在庫日数は5.6日(▲0.6日)と、過去5年の平均である6.2日と再びタイト化した。

【見通しの固有リスク】

・鉄鉱石価格の上昇がレーショニング(価格上昇による需要減少)を引き起こす場合。

・世界的に広がる環境規制強化の流れで、鉄鉱石や原料炭などの生産に一定の影響が起きる場合。

・コロナウイルスの感染拡大長期化による、鉱山生産の減少リスク。

・中国とインドの国境紛争の激化で、インドが中国に対して鉄鉱石輸出を制限する可能性(中国のFOBインデックスは上昇、その他の地域の鉄鉱石価格は低下)。

---≪貴金属≫---

【貴金属価格見通し】

<<金>>

金は高値圏での推移を継続すると考える。FRBがテーパリングを開始する可能性は高いものの、市場が懸念していたペースにはならないとの見方が長期金利を押し下げており(欧州債の利回りが低く、相対的に割安な米国債が物色されている流れも否定できず)、実質金利低下が価格を下支えするため。

とは言え、米景気の相対的な回復期待の強さからドル高・長期期金利(緩やかに)上昇圧力が強まる展開は続くとみられるため、中期的な見通しは弱気。

現在の金の実質金利で説明可能な価格(金基準価格)は1,679ドルと前日から+15ドル上昇、そこからの乖離(リスク・プレミアム)は123ドルと昨日から▲20ドル低下した。

リスク・プレミアムは、過去3ヵ月平均で215ドル、6ヵ月で200ドル、1年で225ドル、5年で170ドルとなっている。

なお、金価格を実質金利要因と為替要因に分類した場合、為替要因はリスク・プレミアムのところに内包されると整理している(為替は名目金利の影響も受けるので、純粋に為替の要因のみ切り出すのが困難であることから)。

※毎日回帰分析をアップデートし、リスク・プレミアム自体の水準を見直しているため、前日比の整合性が取れていない場合があります。

<<銀>>

銀価格は金価格との比較感で売買されるが、金銀レシオは現在、71.6倍。過去1年を基準にすると72倍、5年では80倍、2000年以降では65倍程度が妥当。

今後、さらに金銀レシオが低下するには、実際に太陽光パネルの設置が米国で進捗するなどの新規材料が必要になると見られるが、米政府は新疆ウイグル自治区問題を背景に輸入を制限する見通しであり一筋縄では行かないと考える。

なお、銀価格=金価格÷金銀レシオ であり、金銀レシオが低下することで金価格が変動した時の弾性値が上昇(ボラティリティは上昇し、足元金の2倍に上昇)する点は留意。

(例)金が2,000ドル、銀が20ドルのとき 金銀レシオが100倍→金価格±1ドルの変化で銀価格は±1セント変化 金の変化率は±0.05%、銀は±0.05%

 金銀レシオが1倍→金価格±1ドルの変化で銀価格は±1ドル変化 金の上昇率は±0.05%、銀は±5%

<<PGM>>

プラチナ価格は銀価格との連動性が高い。これは供給過剰で投機的な取引の影響が強まっていることによる。プラチナの需給バランスはWPICデータを元にすると今年も除く投機で供給過剰であり、投機動向が価格を左右しやすい。

金価格が米長期金利の低下で再び高値で推移していることから、投機的な観点でプラチナにも上昇圧力が掛りやすい地合い。

仮に脱炭素が進んで水素が用いられ、燃料電池が進むのであればプラチナの構造的な需要が増加するシナリオは、需要・価格面でのポジティブリスクシナリオ。投機の比率が高い商品であるため、こうした観測記事だけでも材料に価格が反応しやすい。

パラジウムは経済活動正常化期待による金価格調整→経済正常化による需要増加を受けて高値を維持すると考える。

自動車生産が回復すれば再びパラジウム供給不足が発生し、ETFの残高減少と価格上昇が同時に発生する可能性が高いとみている。

5月の米自動車販売は年率1,536万台(前月1,699万台、市場予想1,650万台)と減速。目先は価格の下落要因となりやすい。

中国の5月の自動車販売は中国自動車工業協会の集計で前年比▲3.0%の212万7,000台(前月+8.8%の225万台、3月+76.5%の252万5,000台、2月+371%の146万台、1月+30%の250万台、12月+6.4%の283万台、11月+12.7%の276万9,666台、10月+12.6%の257万3,000台、9月+13.0%の256万5,201台)と前年比マイナスに転じた。

半導体不足が自動車生産に影響を及ぼしているとみられる。

【見通しの固有リスク】

・個人投資家のETFを通じた買いが、経済合理性を無視した水準まで貴金属価格を押し上げるリスク。

・主要生産国の南アフリカの電力供給不安や、コロナウイルスの影響拡大で供給が滞る場合(PGMの価格上昇要因)。

・コロナからの回復は各国まだらであり、先行する米国が金融正常化に動いた場合、新興国から資金が流出して信用リスクが高まる場合(安全資産価格の上昇要因)。

・米中の対立激化。バイデン政権は対中強硬姿勢を明確にしており、対立がさらに激化する場合(安全資産価格の上昇要因)。

・中国地方政府・中堅中小企業の財政状況悪化に伴う景気減速による安全資産需要の増加(実際に破綻が意識されるのは2030年以降か)。

・世界的な自動車販売の減速(米欧中)による、自動車向け排ガス触媒需要の減少(PGM)。

環境重視型社会へのシフトはパラジウム需要を増加させるが、さらに加速して「水素社会」まで到達すると、燃料電池車需要が増加して構造的にプラチナ価格の上昇要因となる可能性。

・コロナウイルスの感染拡大による、最大生産国の1つである南アフリカの鉱山稼働が電力供給問題もあって不安定であることによる供給懸念。

【投機筋のポジション動向】

・直近の投機筋のポジションは、金はロングが277,312枚(前週比 +1,769枚)、ショートが81,340枚(▲3,367枚)、ネットロングは195,972枚(+5,136枚)、銀が70,286枚(▲3,961枚)、ショートが32,811枚(+2,253枚)、ネットロングは37,475枚(▲6,214枚)

・直近の投機筋のポジションは以下の通り。

プラチナはロングが28,529枚(前週比 ▲465枚)ショートが16,416枚(+2,783枚)、ネットロングは12,113枚(▲3,248枚)

パラジウムが4,988枚(▲681枚)、ショートが3,705枚(+417枚)ネットロングは1,283枚(▲1,098枚)

---≪農産品≫---

【穀物価格見通し】

シカゴ穀物価格は高値圏で推移すると考える。既にラニーニャ現象の終了を織り込んでトウモロコシ・大豆の水準は大きく低下しているが、200日移動平均線でサポートされており、北米の気象状況の悪化が供給懸念を強めるため。

春小麦は乾燥気候の影響もあって作柄が悪く、特に投機の買い材料となっている。

6月の中国の大豆輸入は前年比▲3.9%の1,072万2,000トン(前月+2.5%の961万トン)と前年からは低下したが、過去5年の最高水準での推移。猛暑の影響もあり油脂向けの需要や、豚向けの飼料需要は旺盛と見られる。

Locust WatchではFAOの予想通り、降雨がなかったため群生相の発生は極めて抑制されている。Locust Watchでも今のところ差し迫った危機の発生リスクは指摘されていない。
http://www.fao.org/ag/locusts/common/ecg/75/en/210722timeline.jpg

【見通しの固有リスク】

・エルニーニョ現象発生による生産条件改善を受けた増産観測(価格の下落要因)。

・環境重視型社会へのシフトにより、燃料向け穀物需要が増加する場合(価格の上昇要因)。現在はそれほどの数量でもない、バイオディーゼル向けの大豆需要増加など。

・新型コロナウイルスの影響拡大による、輸出活動の停滞(シカゴ定期を含む生産地価格の下落要因)。

【米農務省需給報告データ】

・米作付け意向面積トウモロコシ 9,114万エーカー(市場予想9,313万エーカー、前年9,699万エーカー)大豆 8,760万エーカー(9,010万エーカー、8,351万エーカー)小麦 4,636万エーカー(4,495万エーカー、4,466万エーカー)綿花 1,204万エーカー(1,215万エーカー、1,370万エーカー)

・米穀物最終作付け面積 実績(前年)トウモロコシ 9,269万エーカー(9,082万エーカー)大豆 8,756万エーカー(8,383万エーカー)小麦 4,674万エーカー(4,425万エーカー)

・7月米需給報告単収見通し(実績/市場予想/前月)トウモロコシ 179.5Bu/エーカー(178.74、179.5)大豆 50.8Bu/エーカー(50.64、50.8)小麦 45.8Bu/エーカー(NA、50.7)

・7月米需給報告生産見通し(実績/市場予想/前月)トウモロコシ 151億6,500万Bu(151億748万Bu、149億9,000万Bu)大豆 44億500万Bu(43億9,211万Bu、44億500万Bu)小麦 17億4,600万Bu(18億4,343万Bu、18億9,800万Bu)

・7月米需給報告輸出見通し(実績/前月)トウモロコシ 25億Bu(24億5,000万Bu)大豆 20億7,500万Bu(20億7,500万Bu)小麦 8億7,500Bu(9億Bu)

・7月米需給報告在庫見通し(実績/市場予想/前月)トウモロコシ 14億3,200万Bu(13億6,114万Bu、13億5,700万Bu)大豆 1億5,500万Bu(1億4,675万Bu、1億5,500万Bu)小麦 6億6,500万Bu(7億2,356万Bu、7億7,000万Bu)

・6月末四半期在庫 実績(前期末)トウモロコシ 41億1,200万Bu(77億1004万Bu)大豆 7億6,700万Bu(15億6,400万Bu)小麦 8億4,400万Bu(13億1,400万Bu)

・6月CONABブラジル作付け面積(市場予想/前月)トウモロコシ 1,984万ha(1,975万ha、1,987万ha)大豆 3,815万ha(3,871万ha、3,850万ha)

・6月CONABブラジル生産量(市場予想/前月)トウモロコシ 9,639万トン(9,398万トン、1億641万トン) 単収 4,858kg/ha(4,762Kg/ha、5,355kg/ha)大豆 1億3,586万トン(1億3,682万トン、1億3,541万トン) 単収 3,528kg/ha(3,538Kg/ha、3,517kg/ha)

【投機筋のポジション動向】

・直近の投機筋のポジションは以下の通り。

トウモロコシはロングが410,004枚(前週比 +2,487枚)、ショートが98,475枚(+3,937枚)ネットロングは311,529枚(▲1,450枚)

大豆はロングが199,323枚(+5,017枚)、ショートが61,644枚(▲2,022枚)ネットロングは137,679枚(+7,039枚)

小麦はロングが109,319枚(+2,486枚)、ショートが82,550枚(▲15,163枚)ネットロングは26,769枚(+17,649枚)

◆本日のMRA's Eye


「発電燃料価格の上昇続く~意識すべき時間差のリスク」

原油価格は急落、足下価格は落ち着きを取り戻しているが、UAEとOPECプラスが増産で合意し、8月から増産が始まる見通しであること、コロナのデルタ株が世界的に拡大し再び移動制限が強まるのではとの見方が強まっていること、それでも米国でテーパリングが実施される可能性が高いこと、といった背景から、原油価格は多少の山谷はありながらも、年末にかけては一旦調整する展開が予想される。

それでもBrentで65ドル、WTIで62~63ドル程度が下値の目処になるのではないか。

しかしこの中で、発電に使われる石炭や天然ガス・LNGの価格は上昇している。これは、昨年の夏の猛暑、今年の冬の厳冬、さらに今年の夏が猛暑になりそうであること、さらには異常気象の影響で米国や中国では渇水となっている地域も多く、水力発電による発電量の減少を補う為に火力発電が用いられていることが背景にある。

また、石炭などは「脱炭素」の流れで欧州を中心に石炭鉱山での生産が制限されているため供給ソースが少なく、このような需要増加局面では価格が上昇しやすくなる。

後は、脱炭素の流れで排出権価格が上昇し「石炭+排出権」という買い方をしたり、排出権市場に投機資金が流入している側面も否めない。

日本は天然ガスをLNGの形で輸入しているが、産油国から長期契約で原油価格リンクで購入している物と、足りないから今、市場から追加で調達するスポット調達の2種類があるが、足下、急騰しているのはスポットのLNG価格(JKM価格)。

LNGはカタールが最大の輸出国だが、その余剰カーゴが中東から欧州に行くのか、アジアに行くのかここでの取り合いが発生する。

これは欧州も昨年夏からの猛暑、コロナの後のフランスの原発稼働率の低下による天然ガス需要の増加、厳冬で在庫水準が低く、LNG調達圧力が強まっているため、価格が上昇しているのだ。

また原油の増産が脱炭素の流れで思うように増えず、原油生産に伴って生産される随伴ガス生産にも影響がでていることが反映されている。また、欧州の供給制限はロシアがウクライナ問題を巡り、政治的に欧州に圧力を掛けていることも無視できない。

今後もし、欧州が主張するように「ガスも化石燃料なので生産しない」と言うことになれば、天然ガス価格はさらに上昇することになるだろう。

基本的に派夏場が終れば下落に転じることになるだろうし、OPEC増産やコロナの影響で原油価格が下落すれば、原油価格ベースで価格が決まる天然ガスやLNGの価格も下落が予想されるため、やはり価格は落着く(低下する)とみるのが妥当である。

しかし、今年の冬は再びラニーニャ現象の発生を予想する気象予報士もおり、仮に夏場が懸念通り猛暑となり、その後そのまま厳冬に突入するならば、価格は高いままとなる。仮に電力価格がJEPX価格ベースで値付けされていれば、価格が急騰することもあるだろう。

大手電力・ガス会社の提示するベースで電力・ガスを調達している場合、こうした石炭・LNGの価格の上昇は半年後の電気代・ガス代に影響を及ぼす。すなわち、現在の価格上昇は今年の冬に、冬場の価格上昇はその次の夏に影響してくることになる。

企業業績への影響が時間差をもって顕在化する、ということは念頭に置いておきたいところだ。

◆主要ニュース


・6月日本全国消費者物価指数 前年比+0.2%(▲0.1%)
 除く生鮮+0.2%(+0.1%)
 除く生鮮エネルギー▲0.2%(▲0.2%)

・6月日本貿易収支季節調整前 3,832億円の黒字(前月▲1,894億円の赤字)
 輸出 前年比+48.6%の7兆2,208億円(+49.6%の6兆2,613億円)
 輸入 +32.7%の6兆8,376億円(+27.9%の6兆4,484億円)

 米国向け
  輸出 +85.5%の1兆3,442億円(+87.9%の1兆1,046億円)
  輸入 +27.3%の7,664億円(+28.8%の7,438億円)

 欧州向け
  輸出 +51.1%の6,536億円(+69.6%の6,170億円)
  輸入 +29.2%の7,912億円(+39.4%の8,052億円)

 アジア向け
  輸出 +37.1%の4兆1,373億円(+32.5%の3兆6,371億円)
  輸入 +22.1%の3兆3,089億円(+13.2%の3兆1,067億円)

 中国向け
  輸出 +27.7%の1兆3,926億円(+23.6%の1兆3,926億円)
  輸入 +17.6%の1兆6,356億円(+4.8%の1兆5,848億円)

・6月日本全国スーパー売上高 前年比+1.7%の1兆1,095億円(前月+2.9%の1兆1,201億円)

・6月日本工作機械受注改定  前年比+96.6%の1,320億8,100万円(前月+141.9%の1,239億3,600万円)
 外需+99.5%の874億2,500万円(+174.5%の907億1,300万円)

・6月独生産者物価指数 前月比+1.3%(前月+1.5%)
 前年比+8.5%(+7.2%)

・5月ユーロ圏経常収支季節調整済 117億ユーロの黒字(前月221億ユーロの黒字)

・7月ユーロ圏消費者信頼感 ▲4.4(前月改定 ▲3.3)

・7月ユーロ圏製造業PMI速報 62.6(前月改定 63.4)
 サービス業 60.4(58.3)
 コンポジット 60.6(59.5)

・7月独製造業PMI速報 65.6(前月改定 65.1)
 サービス業 62.2(57.5)
 コンポジット 62.5(60.1)

・6月米住宅着工件数 前月比+6.3%の164.3万戸(前月+2.1%の154.6万戸)

・6月米住宅建設許可件数 前月比▲5.1%の159.8万戸(前月▲2.9%の168.3万戸)

・米MBA住宅ローン
 申請指数 前週比 ▲4.0%(前週+16.0%)
 購入指数 ▲6.4%(+8.3%)
 借換指数 ▲2.8%(+20.4%)
 固定金利30年 3.11%(3.09%)
 15年 2.46%(2.48%)

・米週間新規失業保険申請件数 419千件(前週368千件)
 失業保険継続受給者数 3,236千人(3,265千人)

・6月米中古住宅販売 前月比+1.4%の586万戸(前月▲1.2%の578万戸)

・7月カンザスシティ連銀製造業活動 30(前月 27)

・7月米製造業PMI速報 63.1(前月改定 62.1)
 サービス業 59.8(64.6)
 コンポジット 59.7(63.7)

◆エネルギー・メタル関連ニュース


【エネルギー】

・DOE米石油統計 原油+2.1MB(クッシング▲1.3MB)
 ガソリン▲0.1MB
 ディスティレート▲1.3MB
 稼働率▲0.4

 原油・石油製品輸出 8,536KBD(前週比▲287KBD)
 原油輸出 3,208KBD(▲297KBD)
 ガソリン輸出 727KBD(▲7KBD)
 ディスティレート輸出 1,207KBD(+17KBD)
 レジデュアル輸出 144KBD(▲18KBD)
 プロパン・プロピレン輸出 1,152KBD(+1KBD)
 その他石油製品輸出 2,013KBD(+30KBD)

・DOE天然ガス稼働在庫 2,677BCF(前週比+47BCF)
 東部 562BCF(+19BCF)
 中西部 683BCF(+21BCF)
 山間部 183BCF(+3BCF)
 太平洋地区247BCF(▲3BCF)
 南中央 1,002BCF(+7BCF)

・ベイカー・ヒューズ週間米国石油リグ稼働数387(前週比+7)
 ガスリグ 104(前週比±0)。
・米中国のイラン産原油輸入の取り締まりを検討。

・Nord Streamのメンテナンス終了で欧州向けガス供給再開。

【メタル】

・錫が史上最高値を更新。

・中国河南省の洪水の影響でアルミナ供給に影響。ただし、鉛、亜鉛、銅、ニッケルの生産にはほとんど影響がでていない模様。

◆主要商品騰落率


【上昇率上位5商品】

商品名(カテゴリー)/前日比上昇率/年初来上昇率
1.LMEニッケル 3M ( ベースメタル )/ +3.18%/ +17.50%
2.ICE粗糖 ( その他農産品 )/ +3.12%/ +17.30%
3.SHF錫 ( ベースメタル )/ +2.90%/ +54.41%
4.MDEパーム油 ( その他農産品 )/ +2.48%/ +16.73%
5.SHFニッケル ( ベースメタル )/ +2.30%/ +14.32%

【下落率上位5商品】

商品名(カテゴリー)/前日比上昇率/年初来上昇率
66.CBTトウモロコシ ( 穀物 )/ ▲3.06%/ +13.07%
65.プラチナ ( 貴金属 )/ ▲2.98%/ ▲0.80%
64.CBT大豆ミール ( 穀物 )/ ▲2.64%/ ▲18.60%
63.ICEアラビカ ( その他農産品 )/ ▲2.40%/ +47.37%
62.CME木材 ( その他農産品 )/ ▲2.01%/ ▲27.39%

※弊社が重要と考える主要商品の前日比騰落率上位・下位5品目です。
※限月交代に伴う価格の不連続性は考慮されていません。予めご容赦ください。

◆主要指標


【為替・株・金利・ビットコイン】
NY ダウ :35,061.55(+238.20)
S&P500 :4,411.79(+44.31)
日経平均株価 :休場( - )
ドル円 :110.55(+0.41)
ユーロ円 :130.13(+0.48)
米10年債 :1.28(▲0.00)
中国10年債利回り :2.91(▲0.02)
日本10年債利回り :0.02(±0.0)
独10年債利回り :▲0.42(+0.01)
ビットコイン :32,500.7(+252.95)

【MRAコモディティ恐怖指数】
総合 :30.66(▲0.09)
エネルギー :32.56(+0.03)
ベースメタル :19.68(▲0.11)
貴金属 :20.82(+0.62)
穀物 :44.60(+0.04)
その他農畜産品 :31.25(▲0.39)

【主要商品ボラティリティ】
WTI :40.65(▲0.01)
Brent :37.90(▲0.1)
米天然ガス :31.02(+0.03)
米ガソリン :36.86(+0.04)
ICEガスオイル :33.79(+0.21)
LME銅 :17.48(+0.04)
LMEアルミニウム :22.65(▲0.51)
金 :39.35(+0.03)
プラチナ :26.91(+1.65)
トウモロコシ :83.57(+0.35)
大豆 :39.35(+0.03)

【エネルギー】
WTI :72.07(+0.16)
Brent :74.10(+0.31)
Oman :73.35(+0.40)
米ガソリン :229.13(+1.81)
米灯油 :213.39(+0.13)
ICEガスオイル :599.00(+6.50)
米天然ガス :4.06(+0.06)
英天然ガス :88.44(▲1.24)

【貴金属】
金 :1802.15(▲4.77)
銀 :25.18(▲0.25)
プラチナ :1063.54(▲32.68)
パラジウム :2676.62(▲46.69)
※ニューヨーククローズ。

【LME非鉄金属】
(3ヵ月公式セトル)
銅 :9,462(+53:28C)
亜鉛 :2,961(+21:17C)
鉛 :2,376(+9:40B)
アルミニウム :2,504(+42:12C)
ニッケル :19,266(+399:1B)
錫 :34,177(+613:924B)
コバルト :52,463(±0.0)

(3ヵ月ロンドンクローズ)
銅 :9624.00(+164.50)
亜鉛 :2978.50(+42.50)
鉛 :2372.50(▲14.00)
アルミニウム :2508.50(+43.00)
ニッケル :19470.00(+600.00)
錫 :34350.00(+325.00)
バルチック海運指数 :3,199.00(+96.00)
※C=Cash-3M コンタンゴ、B=Cash-3M バック

【鉄鋼原料】
62%鉄鉱石スポット(CFR中国、1営業日前) :201.81(▲7.90)
SGX鉄鉱石 :212.96(▲0.95)
NYMEX鉄鉱石 :216.03(+2.22)
NYMEX豪州原料炭スワップ先物 :209.37(+0.87)
大連原料炭先物 :311.74(+2.81)
上海鉄筋直近限月 :5,597(+76)
上海鉄筋中心限月 :5,662(+113)
米鉄スクラップ :655(±0.0)

【農産物】
大豆 :1401.00(▲15.25)
シカゴ大豆ミール :353.60(▲9.60)
シカゴ大豆油 :65.66(+0.66)
マレーシア パーム油 :4542.00(+110.00)
シカゴ とうもろこし :547.25(▲17.25)
シカゴ小麦 :684.00(▲8.25)
シンガポールゴム :182.30(+0.30)
上海ゴム :13005.00(+15.00)
砂糖 :18.17(+0.55)
アラビカ :189.00(▲4.65)
ロブスタ :1918.00(+10.00)
綿花 :90.32(+0.05)

【畜産物】
シカゴ豚赤身肉 :107.35(+0.70)
シカゴ生牛 :121.50(+0.70)
シカゴ飼育牛 :160.08(+1.88)

※全ての価格は注記が無い限り、取引所で取引される通貨建。
※限月交代に伴う価格の不連続性は考慮されていません。予めご容赦ください。