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リスク回避一巡で買い戻し総じて堅調~猛暑・渇水リスクを警戒
  • MRA商品市場レポート

2021年7月12日 第1992号 商品市況概況

◆昨日の商品市場(全体)の総括


「リスク回避一巡で買い戻し総じて堅調~猛暑・渇水リスクを警戒」

【昨日の市場動向総括】

昨日の商品市場は景気循環系商品に広く買い戻しが入り、農産品セクターの一角と、中国政府による生産抑制を材料に鉄鋼原料価格が下落した。

これまでリスクオフで売られてきたが、明確な理由は分らないが、過剰に景気の先行きを楽観しすぎた動きの巻き戻しのさらに巻き戻しが起きたことで、水準を切り上げる流れとなった。

昨日最も上昇したのが欧州天然ガス、ついで排出権。欧州の猛暑やロシアからの供給減少が強く意識されたためと考えられる。

猛暑のみならず、降雨量の減少で米国ではフーバーダムの水量が減り、水力発電に影響がでており、中国南部も渇水で同様の状況。結果、代替発電としては火力発電が用いられることになるため、LNGや石炭、ディーゼルオイルの需要が増えることになる。

今年は「異常気象への対応」が非常に重要なテーマになりそうだ。

【本日の見通し】

週明け月曜日は市場参加者のリスクテイクの再開でこれまで売られてきた商品が広く買い戻される流れになると考える。その意味では前期末比(6月末比)で水準が低下した商品が対象となりやすい。

セクターでは農産品セクター(穀物セクタ-)の下落が顕著だが、これはラニーニャ現象収束にともなう売りということもあってそこまで積極的に買い戻されないと考える。

月曜日の注目指標は改めて「米国の金融政策の判断材料」となる米消費者物価指数に注目している。

消費者物価指数 前月比+0.5%(前月+0.6%)、前年比+4.9%(+5.0%)除くエネルギー・食品 前月比+0.4%(+0.7%)、前年比+4.0%(+3.8%)

【セクター別動向と見通し】

◆エネルギー

原油価格は上昇した。米長期金利が上昇、株も上昇する中でリスク資産が物色される流れが回復、OPECプラスの先行き不透明感が根強い中で買い戻しが優勢となった。

豪州石炭スワップ先物価格は上昇し、140ドル台を維持。高値が警戒されていること、投機的な取引が入りこみ難い市場ではあるものの、株価大幅調整によるリスクオフの影響を受けたと見られ、その買い戻しが続いているとみられる需給ファンダメンタルズに大きな変化はないため。

JKM先物市場は小幅に上昇して13ドルを回復。石炭価格の上昇や、欧州天然ガス価格の急騰の影響を受けた。LNGのタンカーレートはスエズ以西が軟調。ターミナルのメンテナンスなどで調達需要が一時的に低下しているためとみられる。以東は横這いだった。

欧州天然ガスは上昇。Nord Streamのメンテナンスによる稼働停止や気温上昇、排出権価格の上昇が価格を大きく押し上げている。原油価格の上昇で原油ベースの天然ガス価格が上昇したことも手がかり材料に。

米天然ガスは高値を維持。気温上昇による需要増加と、水力発電量の低下が火力需要を押し上げた。

6月28日~7月4日の世界のLNG取引は700万トンと先週から+30万トン増加した。そのうち31%(前週26%)がスポットで取引された。

輸入の増加は韓国が長期契約分での購入を増加させたこと、日本・台湾がスポット調達を増加させたことが影響したようだ。

スポットLNGタンカーレートはスエズ東西ともやや軟化の兆し。目先の調達に目処が立った可能性がある。

週明け月曜日の原油価格はリスクテイクの回復で投機の買い戻しが見込まれるため、OPECプラスに特段の進展がなければ高値を維持すると考える。

石炭・LNGは原油に比べて投機の影響を受け難いが、需給ファンダメンタルズがタイト(ロシアの供給減少やメンテナンスによる生産減少、米国や中国南部の渇水による水力発電能力の低下)であり、原油価格も上昇が予想される中、同様に水準を切り上げると予想。

◆非鉄金属

LME非鉄金属価格は上昇した。株価の下落を背景に投機筋の利益確定の動きが強まっていたが、中国政府が預金準備率の引き下げを決定し金融面での中国企業の経済活動支援が、需要を下支えするとみられたことが背景。

また、リスク回避の株安・ドル高が一巡して反転したことも買い戻しを誘った。

週明け月曜日は目立った手がかり材料に乏しく、リスクテイクの再開で投機の買い戻しが予想されるため上昇余地を探る展開に。

◆鉄鋼・鉄鋼原料

中国向け海上輸送鉄鉱石スワップは下落、大連先物は小幅上昇、豪州原料炭スワップ先物は下落、大連原料炭先物は上昇、上海鉄鋼製品先物は下落した。

唐山市の生産調整が始まったことなどを材料に鉄鉱石需要が減少するとの見方が強まったことが背景。粗鋼生産の減少は在庫日数の増加を通じて鉄鋼原料価格の下落要因となる。

週明け月曜日は鉄鋼市場の需給が「やや」緩和していることを受けて水準を切下げる展開を予想。ただし豪州の鉄鉱石鉱山が人手不足で稼働率が低下している、中国政府が預金準備率を引き下げた、という報道もあり先物ベースでの価格下落はまだ限定されると予想。

◆貴金属

昨日の貴金属セクターは総じて堅調な推移となった。長期金利が上昇し、「これまでの過剰な景気への期待からの反動で低下していた期待インフレ率」が再び上昇に転じたため、実質金利が低下した。

それ以上に、ドル安進行によるリスク・プレミアムの上昇の影響が大きかった。銀・PGMは金の買い戻しと株価の戻りで上昇している。

週明け月曜日もリスクテイクの回復を受けて貴金属セクターは堅調な推移が予想される。ただし、経済活動や金融政策の正常化が進む中ではやはり長期金利上昇・実質金利上昇が起きるため、上値も重いと考える。

◆穀物

シカゴ穀物市場は高安まちまち。トウモロコシは生産地の降雨、小麦は収穫の進捗を材料として売りが入ったが、大豆はドル安進行やテクニカルな買い戻しで上昇した。

週明け月曜日の穀物価格は、米農務省の需給報告を控えてトウモロコシ・小麦が売られすぎ感が強いために買い戻し、大豆には戻り売り圧力が強まる展開が予想される。

12日の米国時間に発表される米農務省需給報告の予想は以下の通り。

・7月米需給報告単収見通し(市場予想/前月)トウモロコシ 178.74Bu/エーカー(179.5Bu/エーカー)大豆 50.64Bu/エーカー(50.8Bu/エーカー)

・7月米需給報告生産見通し(市場予想/前月)トウモロコシ 151748万Bu(149億9,000万Bu)大豆 43億9,211万Bu(44億500万Bu)小麦 18億4,343万Bu(18億9,800万Bu)

・7月米需給報告在庫見通し(市場予想/前月)トウモロコシ 13億6,114万Bu(13億5,700万Bu)大豆 1億4,675万Bu(1億5,500万Bu)小麦 7億2,356万Bu(7億7,000万Bu)

※中長期見通しは個別セクターのコラムをご参照ください。

市場データ・グラフ類の添付ファイルのサンプルはこちら。

【昨日のトピックス】

昨日発表された中国の消費者物価指数は前年比+1.1%(市場予想+1.2%、前月+1.3%)と伸びが減速した。それに対して生産者物価指数は減速したとはいえ、+8.8%(+8.8%、+9.0%)とこちらも伸びが減速している。

このことは、ロジスティクスの問題や投機的な買い、需要の増加などの複合要因で企業の調達コストの上昇は続いているものの、その価格上昇分を消費者に十分転嫁出来ていない状況にあることを示唆している。

しかし、ロジスティクスの改善などを受けて年後半に掛けては生産者物価指数の伸びは落ち着きを取り戻し企業業績は安定すると期待される。これを支援する形で預金準備率の▲0.5%の引き下げを決定した。企業倒産が相次いでいることを受けての資金調達支援の一環とみられる。

同時に発表された中国の人民銀建て新規融資や資金調達総額は増加している。しかしマネーサプライの伸びは+5.5%と鈍化しており企業の置かれた状況はまちまちだ。ただし預金準備率の引き下げによってマネーサプライが再び前年比で増加する可能性はあり、中国の経済活動は年後半にかけてそれほど減速しない可能性が出てきた。

【マクロ見通しのリスクシナリオ】

・来年の中間選挙を控えて、バイデン大統領が国内の支持を得られない場合。財政面や企業負担増の理由から造反が発生し、議会を通過しない場合は景気のリスクに(景気減速要因)。

・米財政出動が加速、景気回復期待を受けた価格上昇が顕著となる場合。

この場合、長期金利上昇でドル高が進行しやすく価格の下落を意識しなければならない。

夏のジャクソンホールのシンポジウムでのテーパリング開始宣言が妥当だが、6月のFOMCでFRBはタカ派に転じた可能性が高く、場合によると7月FOMCで宣言される可能性も否定出来ず。

・コロナウイルスの感染再拡大(変異種に対してワクチンの効果が期待ほどではなかった場合など)によるロックダウンが景気循環系商品の需要を減じる場合(価格下落要因)。これは既に欧州、インド、日本などで顕在化。

逆に想定以上にワクチン・治療薬の開発が速やかに行われた場合は需要の増加要因に。

・環境重視型社会への急激な転換による、経済活動の鈍化リスク。成長ドライバーの1つとして期待される、中東・北アフリカ産油国が人口ボーナス期を活かせない(逆に鉱物産出国は高成長となる可能性も)。

逆に脱炭素に向けたインフラ投資の加速で資源価格が急上昇、金融緩和マネーが大量に市場に滞留する中でハイパーインフレとなるリスク。

・米中対立激化による、新冷戦構造が発現しブロック経済圏が発生して貿易活動が鈍化する場合(場合によると武力衝突も)。

「能動的に」軍事を行う方針に舵を切った中国習近平政権が、台湾統一を目指して侵略する可能性は高くなった。

・次の成長ドライバーとして期待されるインド経済が、期待通りの成長をできない場合(人種差別問題による国民の離反、市場開放・規制改革の遅れ、中国との対立など)。

2018年にすでに人口ボーナス期入りしているため、鉱物・エネルギーをはじめとする景気循環系商品需要の増加は2023~2024年頃。

・中国地方政府・中堅中小企業の財政状況悪化に伴う景気減速(これは人口動態を考えると、現実のリスクとなるのは2030年以降か)。

◆昨日の商品市場(個別)の総括


---≪エネルギー≫---

【原油価格見通し】

原油価格は需要回復と、OPECプラス会合が決裂したこと、イラン問題、環境保護派のパワーゲームの影響で供給側の見通しが不安定であることから価格は高値を維持すると考える。

基本的には、コロナのワクチン接種進捗により人や物の移動が増加する見通しであり、需要面は価格にプラス。この状況での供給懸念は顕著な価格の上昇要因となる。需要がない中での減産は(規模にもよるが)あくまで下支え効果しか持たない。

7月のOPECプラスは交渉決裂となったが、8月の会合までに想定されるシナリオは以下の通り。

1.サウジアラビア・ロシアの調整で妥結する(予定通り増産実施で価格下落)2.決裂したまま(価格は現在の水準を維持。増産ができないため中期的には需要回復継続で価格上昇要因に)3.増産を認めるがサウジアラビアがUAEの増産分を自主減産で吸収(1.と同じ水準に)4.UAEが増産を開始し、その他の国もそれに追随して減産が維持出来ない(大幅な下落要因)

また、イスラエルで連立政権が誕生したが、ネタニヤフ前首相よりもタカ派と言われるベネット党首が輪番制で2年間首相を務める。イランで保守強硬派の大統領が誕生したことで対立がさらに深まり、武力衝突に発展する可能性もゼロではなくなった。

米テーパリングの進捗観測は価格の下押し要因となる。過去のケースでもテーパリング開始宣言からファイナンシャルな面で売り圧力が強まり、原油価格も下落した。今のところ2023年に2回の利上げが見込まれ、場合によると2022年にも利上げの可能性がある。

また、正常化が前提であるものの、ここに来てコロナの変異株の感染が拡大、ワクチン接種が世界で最も進んでいるイスラエルでもワクチンの有効性が低下していることは、需要の下押し要因に。

【見通しの固有リスク】

・ワクチン接種の進捗が想定よりも早まり、人の移動制限が解除され需要増加に供給が間に合わず、価格が急騰するリスク(価格の上昇要因)。

同時に変異株が猛威を振るい、ワクチンが効かない場合(需要減少で下落リスク)。

・米国経済が正常化する中でテーパリングなどの金融緩和解除が加速、急速なドル高を通じて投機的な売り圧力が高まる場合(価格の下落要因)。

・OPECプラスの増産タイミングの見誤りによる、供給不足。またはイランを巡り武力衝突や制裁解除が遅れた場合(価格上昇要因)。

価格が上昇する中でOPEC諸国の減産維持統制が効かなくなり、増産競争に舵が切られる場合(下落要因)。

米国の橋渡しでイランとサウジを初めとするスンニ派諸国が和解、中東の緊張が緩和するシナリオも排除せず(下落要因)。

・脱炭素の進捗、生活様式の変化による構造的な需要減少が加速した場合

1.中東産油国の財政悪化によって情勢不安が顕在化、供給途絶リスクが高まる場合

2.中東以外の産油国の生産者の破綻

3.上流投資部門投資が減速し、インドなどの新興国需要顕在化時に供給が間に合わない場合

4.価格面、数量面で予算を確保できない産油国が、OSPを大幅に引き上げる場合(第3次オイルショック)

などが価格上昇要因に。

・脱炭素の過剰な進捗による供給懸念(価格上昇要因)。

かなり過剰なペースで脱炭素が進められており、裁判所を使ってまでシェルに脱炭素推進を促し、ヘッジファンドが株主としてエクソンに対して脱炭素を促し、自身のポートフォリオの価値を上げる目的で取締役を送り込むといったことも常態化しはじめており、「比較的タイムリーな増産」が可能だった米国の生産が増えない可能性は極めて高い。

この場合、「脱炭素移行期間には十分な燃料供給が出来ないリスク」が高まり、来年以降の価格上昇局面で原油価格が100ドルを超えるリスク(ただしまだリスクシナリオの位置づけ)。

なお、脱炭素が完了しても100%原油が不要になることはなく、OPECの価格支配力が増すため、この場合でも価格は上昇へ。

【石炭価格見通し】

海上輸送石炭価格は高値圏を維持すると予想される。最大消費国である中国の電力需要が拡大していること、北半球の気温上昇、渇水による水力発電能力の低下で火力発電向けの燃料需要が増加、価格の上昇トレンドが継続していること、昨年からの猛暑・厳冬で在庫水準が低いためスポット調達圧力が強い状態が続くと考えられるため。

また、欧州排出枠価格が供給減少により2021年の需給がタイトとみられることもファイナンシャルな面で価格を押し上げると考える。

なお、FRBがタカ派に転じたことがリスク資産価格の下押し要因となっているが、脱炭素の流れの中ではファンドですら石炭を投資対象とし難く、その影響は限定と考える。

中国政府は国内炭の供給能力増強にシフトしているが、経済活動の回復に供給が十分ではない。夏場の調達に目処が立てば調整すると見られるが、足下、中国の6大電力会社の石炭在庫水準は過去5年レンジの最低水準と低く、高値圏維持を予想。

ただし、3月の豪雨の影響で供給が減少していた豪州の輸出増加や、環境規制強化の中で石炭需要は減速するとみられること、脱炭素の流れと逆行するが中国政府は海外との対立によって石炭調達に支障が出ることを回避するため、国内生産を増加させていることから海上輸送炭価格の上値は重くなると予想される。

5月の石炭輸入は前年比▲4.6%の2,104万トン(前月▲29.8%の2,173万トン)と減少傾向が続いた。中国の需要増加に伴う電力需要回復で進んでいた石炭輸入だが、バルチック海運指数の減速も始まっており、そろそろ目処が立ちつつあると見られる。

しかし、中国6大電力会社の石炭在庫の水準は低く、まだ、季節的な石炭輸入需要の増加は続くと考える。石炭価格の下落は夏場の在庫調達が一巡する必要があるため、7月頃までは高止まりする可能性が高い。

【見通しの固有リスク】

・世界的な環境重視型世界へのシフトを受けた、石炭上流部門への投資規制強化による、供給減速懸念。短期的には価格の上昇要因。

・中国と豪州の対立、中国国内の生産能力増強に伴う、海上輸送炭需要の減少。

・北半球の夏場の猛暑(/冷夏)・冬場の厳冬(暖冬)。

・エルニーニョ現象発生が予想される夏場にかけて、北半球が猛暑となるリスク(気象庁の分析では冷夏になりやすい。日本は西日本が猛暑になる可能性)

【天然ガス・LNG】

天然ガス価格は中国の経済活動が活発である一方、猛暑や水不足による水力発電からの電力供給低下で、火力発電向けの燃料需要が旺盛なこと、同時に海上輸送石炭価格も高い水準で推移していること、欧州のメンテナンスやロシアからの供給減少で欧州の域内需給がタイト化していること、などを背景にスポット玉の調達圧力が強まることから、高値を維持する見込み。

なお、FRBがタカ派に転じ、リスク資産価格に下押し圧力がかかりやすい地合となっているが、LNG市場はまだ投機の物色対象となっていないことから影響は限定されると見ている。

5月の中国のLNG輸入は前年比+34.4%の703万トン(前月+32.0%の673万トン)と過去5年レンジを大きく上回り、構造的な需要増加が続いている。

なお、5月の天然ガス輸入は前年比+31.6%の1,032万トン(前月31.5%の1,015万トン)と構造的な増加が続いている。中国も明確に石炭からガスへのシフトを進めていると見られ、電力需要の増加を背景に輸入を拡大していることが窺える。

長期契約のLNGに関しては、原油リンクとなるため上昇見通しだが、価格反映までに3ヵ月程度の時間差があるため(消費者への影響はさらに3ヵ月後)、現時点ではまだ上昇していないと考えられる。次の懸念は夏のピーク時の電力・ガス価格への影響だろう。

【見通しの固有リスク】

・米国がノルドストリーム2の建設を容認した場合、欧州ガス需給の緩和(ロシア増産で下落要因)。

・ウクライナやベラルーシといったロシアと欧州の緩衝帯との政治的な軋轢によって、結果的にロシア産ガスの供給がロシア側の都合でコントロールされた場合(実際にロシアが行動を起こした場合、多くのケースで価格の上昇要因)。

・産油国の減産継続による随伴ガス供給の減少懸念。

・北半球の夏場の猛暑(/冷夏)・冬場の厳冬(暖冬)。

・エルニーニョ現象発生が予想される夏場にかけて、北半球が猛暑となるリスク(気象庁の分析では冷夏になりやすい。日本は西日本が猛暑になる可能性)

【投機筋のポジション動向】

・直近の投機筋のポジションは以下の通り。

WTIはロングが640,068枚(前週比 ▲24,799枚)ショートが142,717枚(+340枚)ネットロングは497,351枚(▲25,139枚)

Brentはロングが414,262枚(前週比▲5,220枚)ショートが110,657枚(▲424枚)ネットロングは303,605枚(▲4,796枚)

---≪LME非鉄金属≫---

【非鉄金属価格見通し】

非鉄金属価格はバブル発生を警戒していた中国が、再び金融緩和(預金準備率の引き下げ)を決定したことで、中国からの需要が増加する可能性があること、コロナの新型種の感染が、主に中国のワクチンを接種した鉱産国で広がっており、供給への懸念が意識されることから高値を維持する公算。

また、米国のみならず欧州でもインフラ投資が行われる見通しであることも価格を押し上げよう。

ただし、これまで投機筋が「需給バランス」「脱炭素」をテーマに価格を押し上げてきたことも事実であり、米国のテーパリング開始をテーマにドル高・金利高の流れが進行し、現物を必要としない投機の手仕舞い圧力が強まることが予想されるため上値も重く、年後半にはむしろ一旦調整して水準を切下げると考える。

また、中国は国家備蓄放出(銅が総量で50万トンとされる)が見込まれているが、もしこの水準だと2021年の銅需給バランス、弊社は▲86万トン程度の供給不足と見積もっているが、これが▲36万トンに縮小されることになり、下期にかけての下落要因に。

しかし、この在庫放出も「放出が終ってしまえば影響はなくなる」訳であり影響は一時的と考える。

6月の中国製造業PMIは50.9(前月51.0)と市場予想の51.0と前月を小幅に下回った。ただし閾値の50は上回っており中国の製造業活動は拡大過程を維持していると考えられる。

内訳を見ると生産が鈍化(52.7→51.9)する一方で、新規受注(51.3→51.3)、輸出新規受注(48.3→48.1)、受注残(45.9→46.6)と輸出向け受注が減少する一方で新規受注は同じ水準を維持しているため、まだ中国国内の需要は減速を始めていないことが伺われる。

輸出向け新規受注の減少は人民元高が影響しているとみられるが、国内に関しては中国政府が投資抑制に舵を切っているため、徐々にこの政策の影響がでてくると考えられる。

工業金属価格に対する説明力が高い新規受注在庫レシオは、完成品が1.09(前月1.10)、原材料が1.07(1.08)と両指数とも小幅に低下している。

これまで非鉄金属価格の上昇を牽引してきたのは中国の住宅セクターであるが、5月の中国の建設業PMIは60.1(60.1)と高い水準ではあるが前月から横這いであり、鉄鋼製品価格の上昇や中国政府による住宅バブル抑制方針が影響し始めているとみられる。

ただし統計の水準は高く、短期的には中国の住宅セクターは堅調であり、短期的には建材向け需要は堅調に推移するだろう。

その中で輸出向けの需要が欧米との対立と人民元高の中でどれだけ回復出来るかが、次の焦点となる。

5月の中国の貿易統計を見ると、ベンチマークである精錬銅の輸入は前年比+2.3%の44万6,000トン(前月+5.1%の48万4,890トン)とやや伸びが鈍化し、過去5年レンジの上限を下回っている。

一方、5月の銅精鉱の輸入は+15.1%の194万5,000トン(▲5.4%の192万トン)と高い水準を維持、銅スクラップの輸入も+103.1%の16万7,767トン(+90.6%の17万1,996万トン)と堅調であり、まだ中国の銅需要は堅調とみられる。

中期的には米国や欧州の財政出動、脱炭素の動きを受けた動向に左右されることになる。

米バイデン政権は上院の超党派で、8年間で1兆2,000億ドルのインフラ投資計画で合意した、と発表した。今回の合意では、道路・橋梁・主要プロジェクトに1,090億ドル、電力インフラに730億ドル、旅客・貨物鉄道に660億ドル、ブロードバンド・インターネットサービスに650億ドル、公共交通機関に490億ドル、空港に250億ドルを投じる。

さらには2022年度予算も戦後最大となる歳出を6兆ドルと、以上と戦後最大の水準とする方針。

これらの需要は景気に関係なく発生する需要であるため、需要の見通しは底堅く、価格の調整があっても下値余地は限定される可能性が高い。

これまで中国が鉱物セクターの需要動向に関して主役であり、今後も非鉄金属価格の動向は中国動向が左右するが、「新規の需要」については欧米動向が重要になる可能性は意識しておきたいところ。

この場合、米国の景気回復=ドル高・金属価格上昇、という構図も考えられる。

こうした政策期待や、インドなどの新興諸国の需要増加を受けた構造的な需要増加を受けて、中・長期的に価格は下支えされ、堅調な推移になると考える。

米国・中国・インドがどのような動きをするかに環境政策は左右されるが、ここまでの各国の動きを見ていると当面は環境向けに使用される金属の需要増加は「今後10年・20年の大きなテーマ」となる可能性が高いと言える。

具体例を挙げると、軽量化目的のアルミ、EV向けのニッケル、銅(通常25キロ/台の銅が使われるが、EVは80キロ/台)、蓄電池としての鉛、コバルト、リチウムなどが挙げられる。

2020年の中国の新エネルギー車の販売は前年比+7.5%の137万台(前年124万台)となった。全体の自動車販売が2,523万台なのでシェアは5.4%(4.9%)と上昇している。それでも電気自動車が非鉄金属市場の重要なテーマになるには、あと数年は要するだろう。

【見通しの固有リスク/個別金属の特殊要因】

・猛暑や渇水による燃料価格上昇で、1.電力供給不足による稼働停止・供給減少、2.発燃料価格の上昇を通じて生産コストが上昇する、場合(価格上昇リスク)。

・米国経済が正常化する中でドル高が進行し、投機買いが膨らんでいる非鉄金属市場で投機の手仕舞い売り圧力が高まる場合(下落リスク)。

・米中間選挙に向けて、米民主党が追加でインフラ投資(2兆ドルのクリーンインフラ投資など)を議会の採決を得て実行に移す場合(上昇リスク)。

・主に銅山を中心とする労使交渉長期化による供給減少が、2021年も継続する場合(上昇リスク)。

・中国の環境規制強化に伴う供給の減少。エネルギー排出量の多い新疆ウイグル自治区でのアルミ生産は減産の影響は既に材料視されている(供給減少でアルミ価格の上昇要因に)。

・上流部門投資不足並びに鉱石の品位低下による、鉱山供給の制限。

・チリやペルーで広がる左派勢力伸長に伴う大衆迎合的な政策が可決し、鉱山生産に過剰なロイヤルティが適用される場合(供給減少ないしは生産コスト上昇で価格の上昇要因)。

チリで議論されている銅のロイヤルティ増税案の詳細は以下の通り。

年内実施予定の選挙結果では課税強化で生産コスト上昇、または減産となる可能性も。

3%の新ロイヤルティに加え、銅価格に連動して税額が賦課される仕組み。

2ドル~2.5ドル/ポンド(4,406~5,508ドル/トン):15%2.5ドル~3(5,508~6,609):35%3ドル~3.5(6,609~7,711):50%3.5ドル~4(7,710~8,813):60%4ドル~4.5(8,813~9,914):70%

年間販売量が5万トン未満の小規模生産者は品位95%の粗銅の場合▲5%の軽減税率、アノードの場合(99.4~99.6%)が適用される。

2023年までは現行の営業利益率によって5~14%の鉱業ロイヤルティが適用されるが、2024年以降は新税制を適用。

・環境問題や人権問題(コンフリクト・メタルの問題)を背景とする鉱山供給の減少。

また、環境に配慮したメタル使用の義務化などが欧州で進む場合などのコストアップ(グリーン・メタルの義務化によるコスト増加)。

【投機筋のポジション動向】

・LME投機筋買い越し金額 前週比+4.3%の257億ドル(前週 246億ドル)・LME投機筋買い越し数量 前週比+3.5%の5,954.2千トン(前週 5,751.0千トン)

---≪鉄鋼原料≫---

【鉄鋼原料価格見通し】

鉄鉱石価格は、米欧中のインフラ投資による建材向け需要増加観測を背景に、高値を維持すると予想する。

これまでの経済対策の影響で、中国国内の鉄鋼原料在庫日数の水準が低いことから(鉄鋼製品在庫の水準は増加)在庫積み増し需要も継続する可能性が高い。

また、資源価格の上昇を受けた国内インフレ回避の目的でロシアが8月1日から鉄鋼製品の輸出に関税を課す方針を示しており、このことも需給をタイト化させて価格を押し上げよう。

中国政府は住宅バブルを警戒しているものの、預金準備率の引き下げを決定しており住宅セクター減速のタイミングが先送りされる可能性が出てきたことも価格を高値に維持すると見る。

しかし、住宅バブルを放置する選択肢はないと考えられ、早晩、住宅セクターの成長ペースが巡航速度に移行し、価格を下押しすると考える。

また、中国共産党は2021年から始まった新しい5ヵ年計画で鉄鋼生産量の削減の必要性を表明している。温室効果ガスの排出削減を目的として、業界として二酸化炭素の輩出の多い鉄鋼業(とアルミ生産業)の生産量を前年比でマイナスとする方針である。

最大生産都市である唐山市は、2021年20日~12月31日まで、大気汚染基準に違反し、データを改ざんした4社は3月20日~6月末まで▲50%、7月~12月末まで▲30%減産、その他の16社は12月末まで▲30%の減産を新たに実施することを義務づけられた。

直近の唐山市の高炉稼働率は過去5年レンジを下回る7割程度の推移となっており、鉄鋼製品生産は抑制された状態になっている。

また、Q221には邯鄲市も生産管理措置を導入する見通しであり、鉄鋼製品供給は制限される可能性が高い。

これにより、唐山市の粗鋼生産は前年比▲2,223万トンの1億2,177万トン、鉄鉱石需要は▲3,500万トン減少するとみられている。

粗鋼生産が減少すれば、鉄鉱石の在庫水準の指標である在庫日数も、分母が小さくなるため上昇が予想され、鉄鉱石価格の下落要因となる。これは原料炭も同様。

6月の中国鉄鋼業PMIを見ると、総合指数は45.1(前月46.1)と悪化した。生産指数が低下(51.4→50.7)したが、それ以上に新規受注(39.4→34.8)、輸出向け新規受注(43.9→42.3)と低下した影響が大きかった。

景気過熱を沈静化する方針を中国政府も明確にしており、鉄鋼生産に関しては環境規制強化の流れ(というよりは中国の国民の住環境改善要請に応えたものと考える方が適切)を受けたものであり、新規受注の減速は政策的な支援の減少や輸出に関しては5月1日から鉄鋼製品の増値税還付が撤廃されたことが影響していると考えられる。

需要の減少で目安となる新規受注・在庫レシオは、新規受注完成品レシオが0.74(前月0.91)と低下、新規受注原材料レシオは0.93(0.995)と低下基調を維持しており、原材料・鉄鋼製品とも価格の下押し圧力が強まる展開が予想される。

鉄鋼原料価格の上昇を牽引してきた住宅セクターに関しては、6月の中国の建設業PMIは60.1(60.1)と高い水準ではあるが前月から横這いであり、鉄鋼製品価格の上昇や、中国政府による住宅バブル抑制方針が影響し始めているとみられる。

ただし統計の水準は高く、短期的には中国の住宅セクターは堅調であり、短期的には鉄鋼製品並びに鉄鋼原料価格を高止まらせると考える。

5月の中国の鉄鋼製品の輸入は前年比▲5.8%の120万6,000トン(前月+16.2%の117万4,000トン)と伸びが減速したが、過去5年レンジの上限で推移している。

5月の中国粗鋼生産は前年比+7.8%の9,945万トン(前月+15.1%の9,785万トン)と前年比での伸びが鈍化したが、過去5年レンジは大きく上回っている。

その一方、5月の鉄鋼製品の輸出は前年比+19.8%の527万1,000トン(前月+26.2%の797万3,000トン)と伸びが減速した。これは輸出リベートの撤廃による4月の鉄鋼製品輸出駆け込み需要が剥落したことによるものと見られる。

なお、中国の鉄鋼製品需要は旺盛とみられるが、在庫水準は前週比+23万4,000トンの1,603万4,000トン(過去5年平均 1,083万6,000トン)と、例年、在庫減少が続く時期だが在庫は前週比で増加が顕著になっている。

唐山市などの生産減少を見込み、駆け込み増産があったためと見られるが、生産抑制が始まってからも中国の鉄鋼製品在庫は例年を上回るペースで増加している。

原料である鉄鉱石の5月の輸入は前年比+3.2%の8,980万トン(前月+3.0%の9,857万トン)と伸びは横ばい。しかし、輸入量の水準は過去5年平均程度まで急速に減速しており、中国の鉄鉱石需要は鈍化している可能性が出てきた。

鉄鉱石港湾在庫は前週比+285万トンの1億2,730万トン(過去5年平均1億2,515万6,000トン)、在庫日数は23.6日(過去5年平均 29.0日)と例年と比較して在庫日数の水準は低い。

ただし在庫日数の低さは粗鋼生産の水準の高さに依拠するため、中国政府が住宅セクターの沈静化をどの程度本気で進めるかに左右されることになる。

原料炭は中国の生産活動回復が継続していること、国内の鉄鋼需要が公共投資で底堅いことから、同様に底堅い推移になると考える。

しかし、中国政府は原料炭を含む石炭の国内生産を増加させる方針であることから、海上輸送原料炭価格の上値も重い。

5月の中国の原料炭輸入は前年比▲28.7%の341万1,925トン(前月▲44.6%の348万3,128トン)と減少幅を縮小している。

中国の港湾在庫の水準は鉄鋼の最大生産省である河北省の主要港である、京唐港の港湾在庫は前週比+6万トンの184万4,000トンと過去5年平均の149万トンを上回った。

在庫日数は前週比+0.2日の6.4日と、過去5年の平均である6.3日を上回っており、需要を考慮しても原料炭需給は緩和方向にあると言える。

【見通しの固有リスク】

・鉄鉱石価格の上昇がレーショニング(価格上昇による需要減少)を引き起こす場合。

・世界的に広がる環境規制強化の流れで、鉄鉱石や原料炭などの生産に一定の影響が起きる場合。

・コロナウイルスの感染拡大長期化による、鉱山生産の減少リスク。

・中国とインドの国境紛争の激化で、インドが中国に対して鉄鉱石輸出を制限する可能性(中国のFOBインデックスは上昇、その他の地域の鉄鉱石価格は低下)。

---≪貴金属≫---

【貴金属価格見通し】

<<金>>

金は高値圏での推移を継続すると考える。新型コロナウイルスの新型種の感染拡大で「市場が想定していたペースでのテーパリングは難しいのではないか」との見方が広がり、米長期金利が低下、同時にドル高が進行していることが背景。

とは言え、米景気の相対的な回復期待の強さからドル高・長期期金利(緩やかに)上昇圧力が強まる展開は続くとみられるため、中期的な見通しは弱気。

現在の金の実質金利で説明可能な価格(金基準価格)は1,636ドルと昨日から▲2ドル低下、そこからの乖離(リスク・プレミアム)は173ドルと昨日から+13ドル上昇。

リスク・プレミアムは、過去3ヵ月平均で220ドル、6ヵ月で210ドル、1年で230ドル、5年で170ドルとなっている。

なお、金価格を実質金利要因と為替要因に分類した場合、為替要因はリスク・プレミアムのところに内包されると整理している(為替は名目金利の影響も受けるので、純粋に為替の要因のみ切り出すのが困難であることから)。

※毎日回帰分析をアップデートし、リスク・プレミアム自体の水準を見直しているため、前日比の整合性が取れていない場合があります。

<<銀>>

銀価格は金価格との比較感で売買されるが、金銀レシオは現在、69.3倍。過去1年を基準にすると73倍、5年では80倍、2000年以降では65倍程度が妥当。

今後、さらに金銀レシオが低下するには、実際に太陽光パネルの設置が米国で進捗するなどの新規材料が必要になると見られるが、米政府は新疆ウイグル自治区問題を背景に輸入を制限する見通しであり一筋縄では行かないと考える。

なお、銀価格=金価格÷金銀レシオ であり、金銀レシオが低下することで金価格が変動した時の弾性値が上昇(ボラティリティは上昇し、足元金の2倍に上昇)する点は留意。

(例)金が2,000ドル、銀が20ドルのとき 金銀レシオが100倍→金価格±1ドルの変化で銀価格は±1セント変化 金の変化率は±0.05%、銀は±0.05%

 金銀レシオが1倍→金価格±1ドルの変化で銀価格は±1ドル変化 金の上昇率は±0.05%、銀は±5%

<<PGM>>

プラチナ価格は銀価格との連動性が高い。これは供給過剰で投機的な取引の影響が強まっていることによる。プラチナの需給バランスはWPICデータを元にすると今年も除く投機で供給過剰であり、投機動向が価格を左右しやすい。

金価格が米長期金利の低下で再び高値で推移していることから、投機的な観点でプラチナにも上昇圧力が掛りやすい地合い。

仮に脱炭素が進んで水素が用いられ、燃料電池が進むのであればプラチナの構造的な需要が増加するシナリオは、需要・価格面でのポジティブリスクシナリオ。投機の比率が高い商品であるため、こうした観測記事だけでも材料に価格が反応しやすい。

パラジウムは経済活動正常化期待による金価格調整→経済正常化による需要増加を受けて高値を維持すると考える。

自動車生産が回復すれば再びパラジウム供給不足が発生し、ETFの残高減少と価格上昇が同時に発生する可能性が高いとみている。

5月の米自動車販売は年率1,536万台(前月1,699万台、市場予想1,650万台)と減速。目先は価格の下落要因となりやすい。

中国の5月の自動車販売は中国自動車工業協会の集計で前年比▲3.0%の212万7,000台(前月+8.8%の225万台、3月+76.5%の252万5,000台、2月+371%の146万台、1月+30%の250万台、12月+6.4%の283万台、11月+12.7%の276万9,666台、10月+12.6%の257万3,000台、9月+13.0%の256万5,201台)と前年比マイナスに転じた。

半導体不足が自動車生産に影響を及ぼしているとみられる。

【見通しの固有リスク】

・個人投資家のETFを通じた買いが、経済合理性を無視した水準まで貴金属価格を押し上げるリスク。

・主要生産国の南アフリカの電力供給不安や、コロナウイルスの影響拡大で供給が滞る場合(PGMの価格上昇要因)。

・コロナからの回復は各国まだらであり、先行する米国が金融正常化に動いた場合、新興国から資金が流出して信用リスクが高まる場合(安全資産価格の上昇要因)。

・米中の対立激化。バイデン政権は対中強硬姿勢を明確にしており、対立がさらに激化する場合(安全資産価格の上昇要因)。

・中国地方政府・中堅中小企業の財政状況悪化に伴う景気減速による安全資産需要の増加(実際に破綻が意識されるのは2030年以降か)。

・世界的な自動車販売の減速(米欧中)による、自動車向け排ガス触媒需要の減少(PGM)。

環境重視型社会へのシフトはパラジウム需要を増加させるが、さらに加速して「水素社会」まで到達すると、燃料電池車需要が増加して構造的にプラチナ価格の上昇要因となる可能性。

・コロナウイルスの感染拡大による、最大生産国の1つである南アフリカの鉱山稼働が電力供給問題もあって不安定であることによる供給懸念。

【投機筋のポジション動向】

・直近の投機筋のポジションは、金はロングが270,545枚(前週比 +16,339枚)、ショートが87,724枚(▲4,256枚)、ネットロングは182,821枚(+20,595枚)、銀が76,790枚(+4,935枚)、ショートが32,302枚(+1,924枚)、ネットロングは44,488枚(+3,011枚)

・直近の投機筋のポジションは以下の通り。

プラチナはロングが28,390枚(前週比 ▲1,751枚)ショートが14,814枚(▲583枚)、ネットロングは13,576枚(▲1,168枚)

パラジウムが5,334枚(+860枚)、ショートが3,031枚(▲35枚)ネットロングは2,303枚(+895枚)

---≪農産品≫---

【穀物価格見通し】

シカゴ穀物価格は高値圏で推移すると考える。増加が見込まれていた米国の作付面積は市場予想を下回ったこと、今年の夏場のエルニーニョ現象は、記録的な猛暑をもたらして穀物生産に悪影響となる可能性があること、この状態でも中国の調達意欲は旺盛であることが背景。

ラニーニャ収束で売りに回っていた投機筋の買い戻しも、テクニカルに価格を押し上げると考える。

5月の中国の大豆輸入は前年比+2.5%の961万トン(+11.0%の前月745万トン)と季節性に沿って増加しているが、過去5年レンジの上限で推移しており、輸入需要は旺盛。

Locust WatchではFAOの予想通り、降雨がなかったため群生相の発生は極めて抑制されている。Locust Watchでも今のところ差し迫った危機の発生リスクは指摘されていない。
http://www.fao.org/ag/locusts/common/ecg/75/en/210708update.jpg

【見通しの固有リスク】

・エルニーニョ現象発生による生産条件改善を受けた増産観測(価格の下落要因)。

・環境重視型社会へのシフトにより、燃料向け穀物需要が増加する場合(価格の上昇要因)。現在はそれほどの数量でもない、バイオディーゼル向けの大豆需要増加など。

・新型コロナウイルスの影響拡大による、輸出活動の停滞(シカゴ定期を含む生産地価格の下落要因)。

【米農務省需給報告データ】

・米作付け意向面積トウモロコシ 9,114万エーカー(市場予想9,313万エーカー、前年9,699万エーカー)大豆 8,760万エーカー(9,010万エーカー、8,351万エーカー)小麦 4,636万エーカー(4,495万エーカー、4,466万エーカー)綿花 1,204万エーカー(1,215万エーカー、1,370万エーカー)

・米穀物最終作付け面積 実績(前年)トウモロコシ 9,269万エーカー(9,082万エーカー)大豆 8,756万エーカー(8,383万エーカー)小麦 4,674万エーカー(4,425万エーカー)

・6月米需給報告単収見通し(実績/市場予想/前月)トウモロコシ 179.5Bu/エーカー(179.39、179.5)大豆 50.8Bu/エーカー(50.8、50.8)小麦 50.7Bu/エーカー(NA、50.0)

・6月米需給報告生産見通し(実績/市場予想/前月)トウモロコシ 149億9,000万Bu(150億861万Bu、149億9,000万Bu)大豆 44億500万Bu(44億1,096万Bu、44億500万Bu)小麦 18億9,800万Bu(18億8,990万Bu、18億7,200万Bu)

・6月米需給報告輸出見通し(実績/前月)トウモロコシ 24億5,000万Bu(24億5,000万Bu)大豆 20億7,500万Bu(20億7,500万Bu)小麦 9億Bu(9億Bu)

・6月米需給報告在庫見通し(実績/市場予想/前月)トウモロコシ 13億5,700万Bu(14億1,672万Bu、15億700万Bu)大豆 1億5,500万Bu(1億4,256万Bu、1億4,000万Bu)小麦 7億7,000万Bu(7億8,056万Bu、7億7,400万Bu)

・6月末四半期在庫 実績(前期末)トウモロコシ 41億1,200万Bu(77億1004万Bu)大豆 7億6,700万Bu(15億6,400万Bu)小麦 8億4,400万Bu(13億1,400万Bu)

・6月CONABブラジル作付け面積(市場予想/前月)トウモロコシ 1,984万ha(1,975万ha、1,987万ha)大豆 3,815万ha(3,871万ha、3,850万ha)

・6月CONABブラジル生産量(市場予想/前月)トウモロコシ 9,639万トン(9,398万トン、1億641万トン) 単収 4,858kg/ha(4,762Kg/ha、5,355kg/ha)大豆 1億3,586万トン(1億3,682万トン、1億3,541万トン) 単収 3,528kg/ha(3,538Kg/ha、3,517kg/ha)

【投機筋のポジション動向】

・直近の投機筋のポジションは以下の通り。

トウモロコシはロングが432,234枚(前週比 ▲3,820枚)、ショートが105,420枚(+22,333枚)ネットロングは326,814枚(▲26,153枚)

大豆はロングが202,163枚(+12,019枚)、ショートが62,899枚(+6,766枚)ネットロングは139,264枚(+5,253枚)

小麦はロングが104,413枚(▲2,933枚)、ショートが87,816枚(+6,916枚)ネットロングは16,597枚(▲9,849枚)

◆本日のMRA's Eye


「温室効果ガス実質排出ゼロへの道~数字から分る困難な道のり」

国際エネルギー機関(IEA)は欧州発で世界中が標榜している「2050年に実質温暖化ガス排出ゼロ」を達成するために、「具体的にどの程度のアクションが必要か」を推定した。

そもそもIEAは消費国側の組織であるため通常、「OPECを初めとする産油国に対して原油増産を促す」機関なのだが、今回のレポートではその立場から一旦離れ、本当に各国首脳が発言している政策が可能かを検証している。

IEAレポート前提では、2030年の世界のGDPは1.4倍になり、エネルギー使用量は▲7%減少、エネルギー効率はこの20年の3倍に当たる毎年4%の改善、排出量削減のみならず二酸化炭素回収技術(CCUS)やバッテリー開発の進捗など、あらゆる技術的な障害・遅滞がなく、さらに、新たな油田・ガス田の開発を行わないと仮定している。

その結果、2050年に脱炭素を完了するには、

1.年間1,020ギガワットを超える新規の太陽光+風力発電設備の建設を継続する必要があり2.そのための予算として年間5兆ドル(2020年の名目GDP比で0.5%相当、GDPを+0.4%押し上げコロナ対策の世界総額が13兆ドル程度)の投資が必要である

との結果になった。

このように考えると、かなり達成困難な目標であり、達成するためには本当に社会インフラを変化させる必要があるがその間に貧困国・富裕国、有資源国・資源未保有国の経済格差が拡大する可能性は高く、富の再配分が発生することも考えられる。

脱炭素は熱源交換を世界中で行い、それに必要な設備投資を行うという社会インフラの再構築であるため設備投資のための資源需要は増加することが想定され、仮にこのような社会になった場合、財政負担の増加、脱炭素のための資源確保の動きが強まることになり、ハイパーインフレのリスクが高まることになろう。

以前、米国がテーパリングを実施して新興国のインフレ懸念が高まった時があるが、そのときは中南米と東欧・北アフリカのインフレ率が上昇しており、インフレのリスクはある意味想定内ではあるが新興国の方が高い。

この場合、リーマンショック発生時に先進国においてはシステミックリスクの発生リスクを回避するよう安全網が敷かれたが、これから経済規模が拡大する新興諸国がシステミックリスクに対応出来るかどうかは不透明だ。

話を戻そう。

電力セクターで脱炭素の「コア熱源」となるのが太陽光と風力発電である。ただし、年間1,020GWの「新規」の電力キャパシティを確保する必要がある。これは太陽光発電に関しては、現時点で世界最大規模の太陽光発電が毎日、世界のどこかで建設される必要がある、と指摘している。

現在手元の資料で分る範囲では、世界最大規模のギガソーラーで1.2GW程度のようだ。現在、インドやUAEで2ギガ~8ギガの太陽光発電プラントの建設が計画されているようだが、仮に2ギガの太陽光発電所を作るとしても、2日に3つ作る必要が出てくる。

インドで計画されている8ギガの太陽光発電設備は、投資規模が60億ドル(6,600億円)。仮にこれと同じ規模の設備を1,020GW分作るとなると、毎年125基必要となり、費用は7,500億ドル/年(82.5兆円/年)の負担となる。世界のGDP比で1%弱に相当する。

別の例を挙げると、世界最大の発電能力を誇る日本の柏崎刈羽原発はその発電能力が8.2GW、つまり「毎年」柏崎刈羽原発と同じ規模の原発を125基作り続けなければならない計算となる。

柏崎市のHPを見ると、柏崎刈羽原発1号機~7号機までの建設工事費は、2兆5,710億円であり、年間320兆円近い建設コストがかかることになる。

コスト面や、ききてきな事故が発生した時の影響では太陽光発電の方が有利であるが、太陽光は一日中発電できる訳ではなく、かつ、地面を覆う形で設置されるため、環境に完全に優しいとは言えない。

いずれを選択したとしても相当規模の大きな投資を毎年する必要が出てくる。そしてこの金額は「全て他の資源」を購入するために用いられるのだ。そのためこの流れが継続した場合、広く資源価格が上昇するリスクが高いと考えられる。

なお、上記の政策が推し進められた場合でも原油の需要はなくならず、OPECシェアは2050年時点で現在の37%から52%に上昇する見込みだ。これは原油は水素の原料やCCUSなどの活用、化学製品向けの需要が継続して見込まれるためそれでも消費量はゼロにはならないことによる。

つまり、脱炭素でその他の資源価格が上昇すると同時に、原油に関してはOPEC諸国の価格支配力が逆に増すことになるため、価格がコントロールしやすく上昇圧力が掛るということである。

なお、これらの目標を達成するためには、同時に電気自動車の普及や性能の良いバッテリーの開発、二酸化炭素吸収保管システム(CCUS)も脱炭素の必須技術の1つであり、これらの技術的革新と普及が脱炭素達成の必要条件となっている。

こうした困難を乗り越えて本当に脱炭素が進むのか。今のところ財政的な補助や課税でこれらの政策が進められることになるが、財政負担は特に低所得者層への「受け」が悪いため、早晩、問題視されることになるだろう。

新しい熱源確保のための鉱石需要増加による鉱山開発の進捗で環境破壊が進む可能性も無視できない。

ひょっとすると、「世界的に金融引き締めを行って、40%近く経済活動を低下させた状態を常に継続する」ことの方が有効な温暖化対策かもしれない。しかし成長しない計画を立てることにメイクセンスする為政者も少ないと考えられるため、早晩、この脱炭素ブームの揺り戻しがある、と考えるのが妥当だ。そのとき、インフレを抑制するための金融引き締めや、半ばバブル的に上昇していると想像される資源価格の急落リスクに備える必要がある。

◆主要ニュース


・6月日本マネーストックM2 前年比+5.9%(前月+7.9%)M3 前年比+5.2%(+6.8%)

・6月中国消費者物価指数 前年比+1.1%(前月+1.3%)
 生産者物価指数 +8.8%(+9.0%)

・6月中国人民元建て新規融資
 前年比+17.1%の21,200億元(前月+1.2%の15,000億元)

・5月中国マネーサプライ M2 前年比+8.6%の231兆7,800億元(前月+8.3%の227兆5,500億元)
 M1 +5.5%の63兆7,500億元(+6.1%の61兆6,800億元)
 ファイナンス規模 3兆6,700億元(1兆9,205億元)
 国内企業全体の総財務残高 301兆6,000億元(298兆元)

・バイデン政権、新疆ウイグル自治区の人権侵害問題を巡り、中国企業14社を含む34団体を経済ブラックリストに追加。

・中国人民銀行15日から預金準備率を12%(これまで12.5%)に引き下げ。

◆エネルギー・メタル関連ニュース


【エネルギー】

・ベイカー・ヒューズ週間米国石油リグ稼働数378(前週比+2)
 ガスリグ 101(前週比+2)。

・8月サウジアラムコ調整金 アラビアンライト 2.70ドル(前月比+0.8ドル)、ミディアム 2.15ドル(+0.8ドル)、ヘビー 1.20ドル(+0.8ドル)

・イスラエル ベネット首相、ヨルダンの首都アンマンを秘密裏に訪れアブドラ国王と会談。パレスチナ関係で両国関係が悪化していたが、新政権発足で修復を進める意向。

【メタル】

・特になし。

◆主要商品騰落率


【上昇率上位5商品】

商品名(カテゴリー)/前日比上昇率/年初来上昇率
1.ICE欧州天然ガス ( エネルギー )/ +9.58%/ +59.61%
2.欧州排出権 ( その他 )/ +3.65%/ +66.31%
3.ICEガスオイル ( エネルギー )/ +2.79%/ +44.68%
4.MDEパーム油 ( その他農産品 )/ +2.55%/ +3.32%
5.NYB綿花 ( その他農産品 )/ +2.46%/ +12.63%

【下落率上位5商品】

商品名(カテゴリー)/前日比上昇率/年初来上昇率
66.CBT大豆油 ( 穀物 )/ ▲2.86%/ +44.03%
65.CME木材 ( その他農産品 )/ ▲2.16%/ ▲19.54%
64.CME牛乳 ( 畜産品 )/ ▲1.40%/ +6.65%
63.CBTトウモロコシ ( 穀物 )/ ▲1.29%/ +30.11%
62.ICE粗糖 ( その他農産品 )/ ▲0.97%/ +11.56%

※弊社が重要と考える主要商品の前日比騰落率上位・下位5品目です。
※限月交代に伴う価格の不連続性は考慮されていません。予めご容赦ください。

◆主要指標


【為替・株・金利・ビットコイン】
NY ダウ :34,870.16(+448.23)
S&P500 :4,369.55(+48.73)
日経平均株価 :27,940.42(▲177.61)
ドル円 :110.14(+0.42)
ユーロ円 :130.80(+0.84)
米10年債 :1.36(+0.07)
中国10年債利回り :2.99(+0.01)
日本10年債利回り :0.03(+0.01)
独10年債利回り :▲0.29(+0.01)
ビットコイン :33,522.57(+706.84)

【MRAコモディティ恐怖指数】
総合 :28.52(+0.35)
エネルギー :24.68(+0.84)
ベースメタル :22.88(+0.19)
貴金属 :28.52(+0.42)
穀物 :44.70(+0.05)
その他農畜産品 :25.92(+0.28)

【主要商品ボラティリティ】
WTI :22.28(+1.14)
Brent :21.81(+0.96)
米天然ガス :34.65(+0.95)
米ガソリン :23.06(+0.61)
ICEガスオイル :22.64(+2.34)
LME銅 :24.32(▲0.47)
LMEアルミニウム :23.13(+0.42)
金 :52.60(+0.23)
プラチナ :29.82(+1.57)
トウモロコシ :49.60(▲0.27)
大豆 :52.60(+0.23)

【エネルギー】
WTI :74.56(+1.62)
Brent :75.58(+1.46)
Oman :73.97(+1.50)
米ガソリン :229.20(+3.68)
米灯油 :215.52(+3.48)
ICEガスオイル :608.75(+16.50)
米天然ガス :3.67(▲0.01)
英天然ガス :90.02(+7.87)

【貴金属】
金 :1808.32(+5.49)
銀 :26.10(+0.17)
プラチナ :1104.67(+25.70)
パラジウム :2812.18(+5.39)
※ニューヨーククローズ。

【LME非鉄金属】
(3ヵ月公式セトル)
銅 :9,476(+178:38C)
亜鉛 :2,973(+46:18C)
鉛 :2,330(+51:12.5B)
アルミニウム :2,489(+39:18.5C)
ニッケル :18,684(+494:11C)
錫 :31,850(+220:1226B)
コバルト :50,471(±0.0)

(3ヵ月ロンドンクローズ)
銅 :9493.00(+165.00)
亜鉛 :2978.00(+38.00)
鉛 :2329.00(+31.00)
アルミニウム :2494.00(+43.50)
ニッケル :18755.00(+375.00)
錫 :31750.00(+25.00)
バルチック海運指数 :3,281.00(+40.00)
※C=Cash-3M コンタンゴ、B=Cash-3M バック

【鉄鋼原料】
62%鉄鉱石スポット(CFR中国、1営業日前) :211.08(▲5.92)
SGX鉄鉱石 :214.08(▲1.31)
NYMEX鉄鉱石 :215.78(▲0.54)
NYMEX豪州原料炭スワップ先物 :204(▲0.50)
大連原料炭先物 :334.77(+22.01)
上海鉄筋直近限月 :4,899(▲51)
上海鉄筋中心限月 :5,356(▲54)
米鉄スクラップ :660(±0.0)

【農産物】
大豆 :1404.00(+13.75)
シカゴ大豆ミール :352.50(▲2.80)
シカゴ大豆油 :62.41(▲1.84)
マレーシア パーム油 :4020.00(+100.00)
シカゴ とうもろこし :629.75(▲8.25)
シカゴ小麦 :608.50(▲3.75)
シンガポールゴム :186.10(±0.0)
上海ゴム :13145.00(+105.00)
砂糖 :17.28(▲0.17)
アラビカ :151.30(▲0.75)
ロブスタ :1727.00(▲2.00)
綿花 :87.99(+2.11)

【畜産物】
シカゴ豚赤身肉 :111.00(+0.90)
シカゴ生牛 :119.23(▲0.05)
シカゴ飼育牛 :159.18(+1.85)

※全ての価格は注記が無い限り、取引所で取引される通貨建。
※限月交代に伴う価格の不連続性は考慮されていません。予めご容赦ください。