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ドル高進行も景気循環系商品価格は堅調
  • MRA商品市場レポート

2021年6月14日 第1974号 商品市況概況

◆昨日の商品市場(全体)の総括


「ドル高進行も景気循環系商品価格は堅調」

【昨日の市場動向総括】

昨日の商品市場は米長期金利上昇を受けたドル高進行を波形に、その他農産品や貴金属など、景気非循環系商品の下落が目立ち、その他の景気循環系商品が物色される流れとなった。

各国とも景気刺激のためのインフラ投資は継続し、コロナのワクチン接種は進む見込みで経済活動の正常化進捗が期待される一方、テーパリングは予定通り行われるものの、「アクセルを緩める措置」であるため、商品を初めとするリスク資産価格の下押し要因にはなるが、景気が急速に悪化する、ということを市場は前提としていない、とみられる。

G7が開催されているが、基本的に景気刺激のための財政出動を支持する流れであり期待需給はタイトな状態が続きそうだ。

【本日の見通し】

週明け月曜日は目立った手がかり材料に乏しいが、米国の景気回復観測を背景とするドル高進行が、商品価格を総じて下押しすると考える。

しかし、同時に景気の回復を前提とする米長期金利上昇・ドル高進行であるため、ファンダメンタルズ面では景気循環系商品(特に米国が最大消費国である原油)の価格にはプラスに作用すると予想されるため、結局の所もみ合いとなるのではないか。

【セクター別動向と見通し】

◆エネルギー

原油価格は高値圏で推移してもみ合った結果、前日比プラスで引けた。前営業日は米CPIの上昇を受けても長期金利が低下して原油価格が上昇したが、昨日は金利上昇でドル高となっても原油価格が上昇しており、需要の回復期待を材料とした買いが入ったと考えられる。

ただ、1日で需給環境が変化して景気を楽観して買いが入るほど、昨日発表された特に米国の統計は良い内容だったとは言えず、週末を控えたポジション調整的な取引が主体だったと整理する方が妥当なのではないか。

石炭価格(豪州炭)は上昇して130ドルを目指す展開。中国の経済活動の回復や脱炭素に伴う石炭供給減少による需給タイト感が継続している。

中国の6大電力会社の石炭在庫水準は同じ時期の過去5年の最低水準を維持しており、港湾在庫の水準よりも6大電力会社の保有在庫の水準の方がケタが違うため、当面は電力会社の石炭調達需要を背景に、海上輸送石炭市場の需給がタイトな状態は続き、石炭価格は高値で推移しよう。

中国の石炭輸入動向の指標の1つであるバルチック海運指数は、これまで低下していたが昨日は急騰した。鉄鉱石や石炭を主に運ぶ、ケープサイズの運賃が前日比+15.5%の27,752ドル/日と上昇したことによる。

必ずしも中国向けとは言えないが、再び石炭や鉄鉱石の調達圧力が強まっている可能性は排除出来ない。

JKM先物市場は小幅に下落したが11ドルを上値に高値を維持。石炭価格の上昇やバルチック海運指数の上昇を見るに、再び夏場向けの調達圧力が強まっている可能性はある。

欧州天然ガスはノルウェーからの供給が再開したこともあって金曜日は下落した。米天然ガスは大幅に上昇。前日の在庫統計での在庫増加が市場予想ほどではなかったこと、西部の水力発電の源泉であるフーバーダムの水位が干ばつの影響で1937年以来の低水準にあることが材料視された。

5月31日~6月6日の世界のLNG取引640万トンのうち、30%がスポットで取引され、先週の36%から低下した。中国の輸入が前週比▲19%の減少(主に豪州・マレーシアから)となったが、長契分の調達は堅調だった。

総じて貿易は減少傾向にあるが、LNGタンカーレートがスエズ以西で再び上昇しており(スエズ以東は横ばい)、今後、夏場に向けて再び調達が増加する可能性は有り得る。

週明け月曜日は手がかり材料に乏しく、高値圏でのもみ合いに本日は米国のイラン制裁解除期待を受けた需給緩和観測で軟調推移を予想。ただし、昨日の米CPIを受けてもテクニカルな要因で米長期金利が低下しており、足下まだドル安圧力が強まっているため底堅いと見る。

石炭価格は中国の購入意欲が引き続き旺盛で高値圏維持、天然ガスは欧州の天然ガス調達圧力が再び高まっていることから上昇余地を試す展開を予想。

◆非鉄金属

LME非鉄金属価格は高安まちまち。朝方発表さえた中国のマネー関連統計が、中国政府がまだ景気にブレーキを踏んでいないことを確認する内容だったことから上昇、その後、米長期金利が上昇してドル高が進行したため、上げ幅を削る展開となった。

週明け月曜日は固有の手がかり材料に乏しく、主要プレイヤーである中国勢が休日で不在のため、米長期金利の上昇バイアスの強まりを背景に軟調な推移になると予想する。

また、LME指定倉庫在庫指定倉庫在庫では増加している金属も目立ち始めており、中国の現物プレミアムやTCが上昇を始めている金属も見られるため、野放図な右肩上がりの上昇にはなり難くなっている点は指摘したい。

◆鉄鋼・鉄鋼原料

中国向け海上輸送鉄鉱石スワップは上昇、大連先物は上昇、豪州原料炭スワップ先物は上昇、大連原料炭先物は下落、上海鉄鋼製品先物は上昇した。

朝方発表された中国のマネー関連統計が中国政府による景気過熱沈静化がまだ本格的に起きていないことを確認する内容だったため、鉄鋼製品先物価格は上昇した。

週明け月曜日も需要見通しへの楽観から高値を維持すると考える。ただし週次の鉄鋼製品港湾在庫では、2019年以来となるこのタイミングでの在庫増加が確認されており、中国政府の景気過熱抑制策の影響が出ている可能性がある点は注意したい。

◆貴金属

週末の貴金属セクターは下落。米長期金利上昇とドル高の進行で、基準金利・リスク・プレミアム共に低下する形で大幅な下落となった。

週明け月曜日は週末の下げが大きかったことからまず買い戻しが入ると考えるが、米長期金利の上昇圧力とドル高地合を受けて軟調推移を予想。

◆穀物

穀物価格は大幅に下落した。ラニーニャ現象の収束に伴う生産見通しの改善や、ドル高進行が価格を下押しした。

また、週次の輸出統計で輸出に減速がみられたことも売り材料に。

2021年6月3日時点の米主要穀物成約高は以下の通りトウモロコシ 216.00千トン(前週比▲754.6千トン)大豆 120.70千トン(▲77.4千トン)小麦 325.90千トン(▲39.2千トン)

週明け月曜日は週末の下げ幅が大きかったことからまず買い戻しが入ると考えるが、米長期金利上昇によるドル高進行の可能性が高まっていることから上昇余地は限定され、結局水準を切り下げる展開に。

※中長期見通しは個別セクターのコラムをご参照ください。

市場データ・グラフ類の添付ファイルのサンプルはこちら。

【昨日のトピックス】

昨日開幕したG7首脳会議では各国の継続的な財政出動による景気刺激について、基本的に合意する形となった。

米国はそもそも老朽化しているインフラを一新する必要があり、既に2022年度予算を6兆ドルという戦後最大の規模に設定する方針だ。また、欧州についても欧州復興基金を通じた環境・IT分野への投資を加速させる計画であり、こちらもインフラ投資が加速することになるだろう。

インフラ投資は基本的には物理的な設備構築を指すことが多く、この政策が実行される中では商品価格には上昇圧力が掛りやすくなる。また、必要不可欠な分野での連携は今後も続くが、中国からの調達を他の国に移す動きも活発化することが予想され、設備投資コストがコストプッシュ型の物価上昇をもたらす可能性も出てくる。

また、中国が「安価な労働力に支えられた製造拠点」から徐々に「コストの高い製造拠点」となる可能性は排除出来ないが、恐らく同時に周辺諸国への製造拠点シフトが起きているとみられ、世界的なインフレ上昇圧力は緩和されると予想される。

【マクロ見通しのリスクシナリオ】・来年の中間選挙を控えて、バイデン大統領が国内の支持を得られない場合。恐らく選挙を考えると今年の夏までが勝負。

財政面や企業負担増の理由から造反が発生し、議会を通過しない場合は景気のリスクに(景気減速要因)。

・米財政出動が加速、景気回復期待を受けた価格上昇が顕著となる場合。

この場合、長期金利上昇でドル高が進行しやすく価格の下落を意識しなければならない。

これまでの雇用関連統計の改善を考えると、夏のジャクソンホールのシンポジウムでのテーパリング開始宣言が妥当だが、コロナの変異株の拡大の影響や雇用のミスマッチの影響で雇用環境の改善が頭打ちとなる可能性はあり、テーパリング開始が後ろ倒し(景気回復の遅れ・金融緩和継続で商品価格は上昇)となるケースも想定される。

・コロナウイルスの感染再拡大(変異種に対してワクチンの効果が期待ほどではなかった場合など)によるロックダウンが景気循環系商品の需要を減じる場合(価格下落要因)。これは既に欧州、インド、日本などで顕在化。

逆に想定以上にワクチン・治療薬の開発が速やかに行われた場合は需要の増加要因に。

・環境重視型社会への急激な転換による、経済活動の鈍化リスク。成長ドライバーの1つとして期待される、中東・北アフリカ産油国が人口ボーナス期を活かせない(逆に鉱物産出国は高成長となる可能性も)。

・米中対立激化による、新冷戦構造が発現しブロック経済圏が発生して貿易活動が鈍化する場合(場合によると武力衝突も)。

「能動的に」軍事を行う方針に舵を切った中国習近平政権が、台湾統一を目指して侵略する可能性は高くなった。

・次の成長ドライバーとして期待されるインド経済が、期待通りの成長をできない場合(人種差別問題による国民の離反、市場開放・規制改革の遅れ、中国との対立など)。

2018年にすでに人口ボーナス期入りしているため、鉱物・エネルギーをはじめとする景気循環系商品需要の増加は2023~2024年頃。

・中国地方政府・中堅中小企業の財政状況悪化に伴う景気減速(これは人口動態を考えると、現実のリスクとなるのは2030年以降か)。

◆昨日の商品市場(個別)の総括


---≪LME非鉄金属≫---

【非鉄金属価格見通し】

非鉄金属価格は一旦調整する可能性が高まっていると考える。米国のテーパリングは物価水準似かかわらず恐らく実施される見込みであることから、ファイナンシャルな理由で利益確定の動きが強まる可能性があるため。

これまで、投機的な買いが「需給バランス」「脱炭素」をテーマに価格上昇を助長していたことも事実であるが、ドル高・金利高の流れが意識されれば現物を必要としない投機の手仕舞い圧力が強まることになる。

ただし、各国の財政出動並びに金融緩和スタンスは継続される見込みであり、7月の共産党100周年記念までは少なくとも景気刺激を続けるとみられる中国のみならず、米国も対中戦略の観点からインフラ投資を積極的に推進する見込みであることも価格を下支えするため、下落余地も限定されると考える。

米民主党政権は1.9兆ドルの経済対策に加え、2兆ドル(インフラ投資は0.6兆ドル程度)の追加対策を実施の計画であり、さらには2022年度予算も戦後最大となる歳出を6兆ドルと、以上と戦後最大の水準とする方針を示した。

インフラや社会プログラム向けに今後10年で4兆5,000億ドルを拠出、道路や橋梁の修復に170億ドル、水道管の工事に45億ドル、ブロードバンド通信網敷設に130億ドルを充当する見込みで、工業金属需要の増加に繋がる。

これらの需要は景気に関係なく発生する需要であるため、需要の見通しは底堅く、価格の調整があっても下値余地は限定される可能性が高い。

その後、再び需要の回復期待で上昇するだろうが、早ければ年末~年始に開始されるとみられるテーパリングの影響で価格は再び調整しよう。その後、価格が上昇するか否かは、1.インドなどの構造的な需要増加が見込める国の需要増加が本当にあるか、2.脱炭素が本当に進捗して金属セクターの物色が続くか、に依拠するためまだなんとも言えない。

米国・中国・インドがどのような動きをするかに環境政策は左右されるが、ここまでの各国の動きを見ていると当面は環境向けに使用される金属の需要増加は「今後10年・20年の大きなテーマ」となる可能性が高いと言える。

具体例を挙げると、軽量化目的のアルミ、EV向けのニッケル、銅(通常25キロ/台の銅が使われるが、EVは80キロ/台)、蓄電池としての鉛、コバルト、リチウムなどが挙げられる。

2020年の中国の新エネルギー車の販売は前年比+7.5%の137万台(前年124万台)となった。全体の自動車販売が2,523万台なのでシェアは5.4%(4.9%)と上昇している。それでも電気自動車が非鉄金属市場の重要なテーマになるには、あと数年は要するだろう。

5月の中国製造業PMIは51.0(前月51.1)と市場予想の51.1と前月を小幅に下回った。ただし閾値の50は上回っており中国の製造業活動は拡大過程にあることには変わりはない。

内訳を見ると生産が安定(52.2→52.7)する一方で、新規受注(52.0→51.3)、輸出新規受注(50.4→48.3)、受注残(46.4→45.9)と需要面に減速が見られている。

恐らく、原材料価格の高騰や中国政府の過剰投資抑制方針が徐々にボディブローのように効いていると考えられる。人民元高進行も輸出に重石と考えられる。

工業金属価格に対する説明力が高い新規受注在庫レシオは、完成品が1.10(前月1.11)、原材料が1.08(1.08)と両指数ともほぼ横ばい。

これまで非鉄金属価格の上昇を牽引しているのは中国の住宅セクターであるが、5月の中国の建設業PMIは60.1(57.4)と再び回復。悪天候の影響などで減速していた前月から急速に回復した。

住宅セクター向けの一連の建材需要は旺盛であるが、中国政府は住宅セクターの加熱を警戒していること、素材価格の上昇が活動を減速させる可能性があるため、やはり先行きの国内向けの需要はそれほど大きく回復はしないだろう。

その中で輸出向けの需要が欧米との対立と人民元高の中でどれだけ回復出来るかが、次の焦点となる。

5月の中国の貿易統計を見ると、ベンチマークである精錬銅の輸入は前年比+2.3%の44万6,000トン(前月+5.1%の48万4,890トン)とやや伸びが鈍化し、過去5年レンジの上限を下回っている。

一方、5月の銅精鉱の輸入は+15.1%の194万5,000トン(▲5.4%の192万トン)と高い水準を維持、銅スクラップの輸入も+103.1%の16万7,767トン(+90.6%の17万1,996万トン)と堅調であり、まだ中国の銅需要は堅調とみられる。

【見通しの固有リスク/個別金属の特殊要因】

・期待されていた米国のインフラ投資規模が、議会の反対で減額ないしは延期される場合(下落リスク)。

・米国経済が正常化する中でドル高が進行し、投機買いが膨らんでいる非鉄金属市場で投機の手仕舞い売り圧力が高まる場合(下落リスク)。

・米中間選挙に向けて、米民主党が追加でインフラ投資(2兆ドルのクリーンインフラ投資など)を議会の採決を得て実行に移す場合(上昇リスク)。

・主に銅山を中心とする労使交渉長期化による供給減少が、2021年も継続する場合(上昇リスク)。

・中国の環境規制強化に伴う供給の減少。エネルギー排出量の多い新疆ウイグル自治区でのアルミ生産は減産の影響は既に材料視されている(供給減少でアルミ価格の上昇要因に)。

・上流部門投資不足並びに鉱石の品位低下による、鉱山供給の制限。

・チリやペルーで広がる左派勢力伸長に伴う大衆迎合的な政策が可決し、鉱山生産に過剰なロイヤルティが適用される場合(供給減少ないしは生産コスト上昇で価格の上昇要因)。

・環境問題や人権問題(コンフリクト・メタルの問題)を背景とする鉱山供給の減少。

また、環境に配慮したメタル使用の義務化などが欧州で進む場合などのコストアップ(グリーン・メタルの義務化によるコスト増加)。

【投機筋のポジション動向】・LMEのファンド筋のポジションは、銅、亜鉛、アルミ、錫でロングの解消が進んだが、同時に銅、亜鉛、アルミはショートも減少したため、全体の動きはまちまちだった。

高値圏にあることは事実で解消売り圧力が強まっていたが、調整も大きかったためショートの解消圧力も強まったと見られる。

結局、市場参加者は高値を維持すると見ている可能性が高く、しばらくはレンジワークが続くと予想される。

・LME投機筋買い越し金額 前週比▲3.8%の256億ドル(前週 266億ドル)・LME投機筋買い越し数量 前週比▲0.7%の5,812.6千トン(前週 5,855.9千トン)

---≪鉄鋼原料≫---

【鉄鋼原料価格見通し】

鉄鉱石価格は、米中のインフラ投資による建材向け需要増加観測を背景に、高値を維持すると予想する。

またこれまでの経済対策の影響で、中国国内の鉄鋼原料在庫日数の水準が低いことから(鉄鋼製品在庫の水準は増加)在庫積み増し需要も継続する可能性が高い。

ただし、中国政府は景気刺激と同時に住宅セクターのバブルを懸念し始めており、住宅取得規制の動きも見せていること、先物取引市場での監視強化(証拠金引き上げや値幅制限、投機取引の監視など)から、徐々に水準を切り下げる展開を予想。

また、中国共産党は2021年から始まる新しい5ヵ年計画で鉄鋼生産量の削減の必要性を表明している。温室効果ガスの排出削減を目的として、業界として二酸化炭素の輩出の多い鉄鋼業(とアルミ生産業)の生産量を前年比でマイナスとする方針であり、鉄鋼製品向けの需要が減少することから、年後半に掛けては価格は下落すると予想する。

最大生産都市である唐山市は、2021年20日~12月31日まで、大気汚染基準に違反し、データを改ざんした4社は3月20日~6月末まで▲50%、7月~12月末まで▲30%減産、その他の16社は12月末まで▲30%の減産を新たに実施することを義務づけられた。

直近の唐山市の高炉稼働率は過去5年レンジを下回る7割程度の推移となっており、鉄鋼製品生産は抑制された状態になっている。

また、Q221には邯鄲市も生産管理措置を導入する見通しであり、鉄鋼製品供給は制限される可能性が高い。

これにより、唐山市の粗鋼生産は前年比▲2,223万トンの1億2,177万トン、鉄鉱石需要は▲3,500万トン減少するとみられている。ただし今のところ鉄鋼製品価格は高値圏を維持しており、鉄鉱石価格も高止まりしている。

5月の中国鉄鋼業PMIを見ると、総合指数は46.1(前月45.4)と改善。生産が回復(47.0→51.4)した影響が大きい。しかし、新規受注(44.4→39.4)、輸出向け新規受注(51.7→43.9)と軒並み需要面が減速している。

国内の新規受注の減速は資源価格の上昇と国内バブル抑制方針に中国政府が舵を切っていること、輸出向けの減速は5月1日から鋼材輸出の増値税還付が撤廃されたことが影響したとみられる。

需要の減少で目安となる新規受注・在庫レシオは、新規受注完成品レシオが0.91(前月1.29)と低下、新規受注原材料レシオは0.99(1.25)と大幅に低下しており、原材料・鉄鋼製品とも価格の下押し圧力が強まる展開が予想される。

しかし、鉄鋼原料価格の上昇を牽引してきた住宅セクターに関しては、5月の中国の建設業PMIは60.1(57.4)と、悪天候の影響などで減速していた前月から急速に回復。短期的には鉄鋼需要が底堅く推移する可能性が高いことを示唆している。

とはいえ、住宅セクター向けの一連の建材需要は旺盛であるが、中国政府は住宅セクターの加熱を警戒していること、素材価格の上昇が活動を減速させる可能性があるため、やはり先行きの国内向けの需要はそれほど大きく回復はしないだろう。

5月の中国の鉄鋼製品の輸入は前年比▲5.8%の120万6,000トン(前月+16.2%の117万4,000トン)と伸びが減速したが、過去5年レンジの上限で推移している。

4月の中国粗鋼生産は9,785万トン(前月9,402万トン、2月8,305万トン、1月 9,024万トン、12月9,125万トン、11月 8,766万トン)と同じ時期の過去5年最高水準を大きく上回っている。

その一方、5月の鉄鋼製品の輸出は前年比+19.8%の527万1,000トン(前月+26.2%の797万3,000トン)と伸びが減速した。これは輸出リベートの撤廃による4月の鉄鋼製品輸出駆け込み需要が剥落したことによるものと見られる。

なお、中国の鉄鋼製品需要は旺盛とみられるが、在庫水準は前週比+7万4,000トンの1,477万7,000トン(過去5年平均 1,098万8,000トン)と、例年、在庫減少が続く時期だが在庫は前週比で増加に転じている。

中国当局の景気過熱沈静化の動きの影響が顕在化しつつあると言える。

原料である鉄鉱石の5月の輸入は前年比+3.2%の8,980万トン(前月+3.0%の9,857万トン)と伸びは横ばい。しかし、輸入量の水準は過去5年平均程度まで急速に減速しており、中国の鉄鉱石需要は鈍化している可能性が出てきた。

鉄鉱石港湾在庫は前週比▲140万トンの1億2,625万トン(過去5年平均1億2,480万6,000トン)、在庫日数は23.0日(過去5年平均 27.6日)と例年と比較して在庫日数の水準は低く、在庫の積み増しは継続する見込み。

原料炭は中国の生産活動回復が継続していること、国内の鉄鋼需要が公共投資で底堅いことから、同様に底堅い推移になると考える。

しかし、中国政府は原料炭を含む石炭の国内生産を増加させる方針であることから、海上輸送原料炭価格の上値も重い。

4月の中国の原料炭輸入は前年比▲44.6%の348万トン(前月▲13.0%の491万トン)と減少している。

中国の港湾在庫の水準は鉄鋼の最大生産省である河北省の主要港である、京唐港の港湾在庫は前週比▲19万トンの140万トンと過去5年平均の176万8,000トンを上回っている。

在庫日数は前週比▲0.7日の4.9日と、過去5年の平均である7.4日を下回っており、需要を考慮すると原料炭需給はまだタイトな状態にあると言える。

【見通しの固有リスク】

・鉄鉱石価格の上昇がレーショニング(価格上昇による需要減少)を引き起こす場合。

・世界的に広がる環境規制強化の流れで、鉄鉱石や原料炭などの生産に一定の影響が起きる場合。

・コロナウイルスの感染拡大長期化による、鉱山生産の減少リスク。

・中国とインドの国境紛争の激化で、インドが中国に対して鉄鉱石輸出を制限する可能性(中国のFOBインデックスは上昇、その他の地域の鉄鉱石価格は低下)。

---≪貴金属≫---

【貴金属価格見通し】

<<金>>

金は高値圏での推移を継続すると考える。長期金利の上昇圧力がやや緩和していること、市場での期待インフレ率の高まりで実質金利に低下圧力が掛っていることが材料。また、「金の競合となると(勝手に)期待された仮想通貨が下落」していることで、改めて安全資産としての金需要が戻っていることも高値圏を維持する要因となっている。

とは言え、米景気の相対的な回復期待の強さからドル高・長期期金利(緩やかに)上昇圧力が強まると予想され、中期的な見通しは弱気。

現在の金の実質金利で説明可能な価格(金基準価格)は1,621ドルと▲12ドル低下。そこからの乖離(リスク・プレミアム)は257ドルと前日から▲9ドル低下。

リスク・プレミアムは、過去3ヵ月平均で215ドル、6ヵ月で215ドル、1年で230ドル、5年で170ドルとなっている。

なお、金価格を実質金利要因と為替要因に分類した場合、為替要因はリスク・プレミアムのところに内包されると整理している(為替は名目金利の影響も受けるので、純粋に為替の要因のみ切り出すのが困難であることから)。

※毎日回帰分析をアップデートし、リスク・プレミアム自体の水準を見直しているため、前日比の整合性が取れていない場合があります。

<<銀>>

銀価格は金価格との比較感で売買されるが、金銀レシオは現在、67.3倍。過去1年を基準にすると75倍、5年では80倍、2000年以降では65倍程度が妥当。

今後、さらに金銀レシオが低下するには、実際に太陽光パネルの設置が米国で進捗するなどの新規材料が必要になるのではないか。

なお、銀価格=金価格÷金銀レシオ であり、金銀レシオが低下することで金価格が変動した時の弾性値が上昇(ボラティリティは上昇し、足元金の2倍に上昇)する点は留意。

(例)金が2,000ドル、銀が20ドルのとき 金銀レシオが100倍→金価格±1ドルの変化で銀価格は±1セント変化 金の変化率は±0.05%、銀は±0.05%

 金銀レシオが1倍→金価格±1ドルの変化で銀価格は±1ドル変化 金の上昇率は±0.05%、銀は±5%

<<PGM>>

プラチナ価格は銀価格との連動性が高い。これは供給過剰で投機的な取引の影響が強まっていることによる。プラチナの需給バランスはWPICデータを元にすると今年も除く投機で供給過剰であり、投機動向が価格を左右しやすい。

金価格が米長期金利の低下で再び高値で推移していることから、投機的な観点でプラチナにも上昇圧力が掛りやすい地合い。

仮に脱炭素が進んで水素が用いられ、燃料電池が進むのであればプラチナの構造的な需要が増加するシナリオは、需要・価格面でのポジティブリスクシナリオ。投機の比率が高い商品であるため、こうした観測記事だけでも材料に価格が反応しやすい。

パラジウムは景気正常化期待による金価格調整→経済正常化による需要増加、ロシア生産者からの供給減少観測を受けて高値を維持すると考える。

自動車生産が回復すれば再びパラジウム供給不足が発生し、ETFの残高減少と価格上昇が同時に発生する可能性が高いとみている。

5月の米自動車販売は年率1,699万台(前月1,851万台、市場予想1,725万台)と減速。目先は価格の下落要因となりやすい。

中国の4月の自動車販売は中国自動車工業協会の集計で前年比+8.8%の225万台(前月+76.5%の252万5,000台、2月+371%の146万台、1月+30%の250万台、12月+6.4%の283万台、11月+12.7%の276万9,666台、10月+12.6%の257万3,000台、9月+13.0%の256万5,201台)と伸びが減速を始めている。

【見通しの固有リスク】

・個人投資家のETFを通じた買いが、経済合理性を無視した水準まで貴金属価格を押し上げるリスク。

・主要生産国の南アフリカの電力供給不安や、コロナウイルスの影響拡大で供給が滞る場合(PGMの価格上昇要因)。

・コロナからの回復は各国まだらであり、先行する米国が金融正常化に動いた場合、新興国から資金が流出して信用リスクが高まる場合(安全資産価格の上昇要因)。

・米中の対立激化。バイデン政権は対中強硬姿勢を明確にしており、対立がさらに激化する場合(安全資産価格の上昇要因)。

・中国地方政府・中堅中小企業の財政状況悪化に伴う景気減速による安全資産需要の増加(実際に破綻が意識されるのは2030年以降か)。

・世界的な自動車販売の減速(米欧中)による、自動車向け排ガス触媒需要の減少(PGM)。

環境重視型社会へのシフトはパラジウム需要を増加させるが、さらに加速して「水素社会」まで到達すると、燃料電池車需要が増加して構造的にプラチナ価格の上昇要因となる可能性。

・コロナウイルスの感染拡大による、最大生産国の1つである南アフリカの鉱山稼働が電力供給問題もあって不安定であることによる供給懸念。

【投機筋のポジション動向】

・直近の投機筋のポジションは、金はロングが288,781枚(前週比 ▲45枚)、ショートが79,394枚(+4,269枚)、ネットロングは209,387枚(▲4,314枚)、銀が83,378枚(▲1,022枚)、ショートが33,572枚(▲3,311枚)、ネットロングは49,806枚(+2,289枚)

・直近の投機筋のポジションは以下の通り。

プラチナはロングが37,717枚(前週比 ▲1,346枚)ショートが17,553枚(+2,535枚)、ネットロングは20,164枚(▲3,881枚)

パラジウムが6,127枚(+219枚)、ショートが3,652枚(+106枚)ネットロングは2,475枚(+113枚)

---≪農産品≫---

【穀物価格見通し】

トウモロコシ・大豆は上昇余地を探る展開になると予想する。ラニーニャ収束を手掛かりに投機の手仕舞い売りが価格を押し下げていたが、チャート上のテクニカルなサポートラインまで売り込まれたこと、中国の輸入需要が旺盛であることに変わりがないことから、再び買戻しが入ると予想されるため。

5月の中国の大豆輸入は前年比+2.5%の961万トン(+11.0%の前月745万トン)と季節性に沿って増加しているが、過去5年レンジの上限で推移しており、輸入需要は旺盛。

但し、これまでの20年を振り返るとラニーニャが発生していない時期~エルニーニョの時期にかけては価格が弱含みやすいのでそこまで強気ではない。

更に価格が上昇するとすれば、2000年代にトウモロコシのエタノール需要増加を期待して価格が上昇したことと同じことが、大豆や大豆油に対して起きる場合だろう。

但しこの時も「食品を投機の対象にすること」「燃料に使うこと」への批判が高まり、特に投機に規制がはいることで下落に転じたため「構造的な需要増加要因として織り込まれた後」は下落に転じると考える。

Locust WatchではFAOの予想通り、降雨がなかったため群生相の発生は極めて抑制されている。Locust Watchでも今のところ差し迫った危機の発生リスクは指摘されていない。http://www.fao.org/ag/locusts/common/ecg/75/en/210527DLupdate.jpg

【見通しの固有リスク】

・エルニーニョ現象発生による生産条件改善を受けた増産観測(価格の下落要因)。

・環境重視型社会へのシフトにより、燃料向け穀物需要が増加する場合(価格の上昇要因)。現在はそれほどの数量でもない、バイオディーゼル向けの大豆需要増加など。

・新型コロナウイルスの影響拡大による、輸出活動の停滞(シカゴ定期を含む生産地価格の下落要因)。

【米農務省需給報告データ】

・米作付け意向面積トウモロコシ 9,114万エーカー(市場予想9,313万エーカー、前年9,699万エーカー)大豆 8,760万エーカー(9,010万エーカー、8,351万エーカー)小麦 4,636万エーカー(4,495万エーカー、4,466万エーカー)綿花 1,204万エーカー(1,215万エーカー、1,370万エーカー)

・米穀物最終作付け面積トウモロコシ 9,201万エーカー(市場予想 9,514万エーカー)大豆 8,383万エーカー(8,483万エーカー)小麦 4,425万エーカー(4,472万エーカー)

・6月米需給報告単収見通し(実績/市場予想/前月)トウモロコシ 179.5Bu/エーカー(179.39、179.5)大豆 50.8Bu/エーカー(50.8、50.8)小麦 50.7Bu/エーカー(NA、50.0)

・6月米需給報告生産見通し(実績/市場予想/前月)トウモロコシ 149億9,000万Bu(150億861万Bu、149億9,000万Bu)大豆 44億500万Bu(44億1,096万Bu、44億500万Bu)小麦 18億9,800万Bu(18億8,990万Bu、18億7,200万Bu)

・6月米需給報告輸出見通し(実績/前月)トウモロコシ 24億5,000万Bu(24億5,000万Bu)大豆 20億7,500万Bu(20億7,500万Bu)小麦 9億Bu(9億Bu)

・6月米需給報告在庫見通し(実績/市場予想/前月)トウモロコシ 13億5,700万Bu(14億1,672万Bu、15億700万Bu)大豆 1億5,500万Bu(1億4,256万Bu、1億4,000万Bu)小麦 7億7,000万Bu(7億8,056万Bu、7億7,400万Bu)

・3月末四半期在庫(実績/市場予想/前月)トウモロコシ 77億100万Bu(77億7,024万Bu、112億9,400万Bu)大豆 15億6,400万Bu(15億2,829万Bu、29億4,700万Bu)小麦 13億1,400万Bu(12億7,116万Bu、17億300万Bu)

・6月CONABブラジル作付け面積(市場予想/前月)トウモロコシ 1,984万ha(1,975万ha、1,987万ha)大豆 3,815万ha(3,871万ha、3,850万ha)

・6月CONABブラジル生産量(市場予想/前月)トウモロコシ 9,639万トン(9,398万トン、1億641万トン) 単収 4,858kg/ha(4,762Kg/ha、5,355kg/ha)大豆 1億3,586万トン(1億3,682万トン、1億3,541万トン) 単収 3,528kg/ha(3,538Kg/ha、3,517kg/ha)

【投機筋のポジション動向】

・直近の投機筋のポジションは以下の通り。

トウモロコシはロングが519,602枚(前週比 ▲11,736枚)、ショートが91,174枚(+12,212枚)ネットロングは428,428枚(▲23,948枚)

大豆はロングが281,347枚(+5,090枚)、ショートが54,659枚(+2,478枚)ネットロングは226,688枚(+2,612枚)

小麦はロングが109,402枚(▲3,928枚)、ショートが90,785枚(▲3,750枚)ネットロングは18,617枚(▲178枚)

◆本日のMRA's Eye


「グリーン化のアルミニウム価格への影響」

資源価格の上昇が市場のメインテーマになりつつあり、世界景気(というよりは中国の景気か)の判断材料となる銅価格は史上最高値を更新、その他の金属価格にも上昇圧力が掛っている。

価格上昇の背景はコロナウイルスの感染拡大による景気減速を回避するために世界的に行われている経済対策の効果による需要増加、密な環境で生産される鉱山からの供給減少、主要諸国の金融緩和によってテーマ性のある鉱物資源が物色される流れとなっているためだ。

コロナ禍下でも目立った供給途絶が発生していなかったアルミニウム価格にも影響が及び、ここに来て急上昇している。価格上昇の背景は銅の要素に加えて、環境規制強化が影響しているとみられる。

アルミニウムの製造工程を考えると、今後、どこの国でアルミニウムが生産されるかはコスト、すなわち電気料金が左右する。

以前は米国が最大の精錬アルミニウム生産国だったが1996年に送電線への第三者のアクセス開放が義務づけられ、1997年にロードアイランド州が部分的な小売自由化を実施してから自由化の動きが広がったが、2000年のカリフォルニア州の電力危機以降、米国の電力市場自由化は進んでいない。

しかし自由化が起きている州では発電コストの価格転嫁が容易となり、2000年以降に原油価格の水準が大きく切り上がってから電力価格は高止まりした状態が続き、より電気料金が安く消費地に近い中国に生産がシフトすることとなった。

IAIのデータでは2019年の世界の精錬アルミニウム生産は6,370万トンで中国の生産量が3,580万トン、使用電力は484,342ギガワット時だったが生産に必要な電力の88.1%を石炭火力から得ている。

しかし中国は温室効果ガスの排出量が大きなアルミニウム、鉄鋼産業の脱炭素を進め、基準に達していない工場の稼働を許可しない方針を示しており、内モンゴル自治区のアルミニウム生産が制限されるとの噂が流れている(公式には減産指示は出ていない)。

内モンゴル自治区で減産があったとしても中国全体の供給に深刻な影響を及ぼす規模ではないのだが、中国政府がアルミニウム生産のグリーン化を進める可能性があることに市場は大きく反応していると見られる。

ただ、中国の温室効果ガス削減計画は欧州が主導している世界的な温暖化防止に沿うものというよりは、中国国内の環境汚染で生活環境が悪化していることに不満を覚える中国人民向けの政策と考えるのが適当だろう。

中国は過去の歴史を振り返ると、外敵によって政権が崩壊するよりも国民の不満が高まって政権が崩壊することが圧倒的に多く、何よりも内政を重視しがちである。

これと世界的な環境規制強化の流れが相まって現在の供給懸念の強まりに繋がっている訳だ。市場の反応を見ると2018年にロシアのルサルが生産するアルミニウムが米国の制裁で供給懸念が醸成された時と同じであるが、このときは制裁が解除されたために影響が緩和したが、今後、中国の供給の伸びは鈍化していくと考えるのが妥当である。

では、いきなり温室効果ガスの排出が少ない再生可能エネルギーや原子力に移るかと言えば、前者は発電効率や燃料確保の問題から、後者は環境面やテロや武力衝突などのリスクの問題から、そう思った通りに生産能力を増やすことが難しい。

となると、より現実的な解を求めると天然ガスから作られた電力を用いる、あるいは化石燃料を用いて生産したアルミニウムに関しては炭素税が賦課される、ないしは温室効果ガスの排出枠を購入するといった選択をせざるを得なくなる。

天然ガスを用いてアルミニウム生産を行う場合、かつて米国から中国に主要生産地が移ったように、今度は中国から中東にシフトすると予想される。このことはただでさえ民族や宗教的な対立が激しい地域が主要生産地になることを意味し、供給が不安定化するリスクが高まることになる。

後者については国によって炭素税導入の方針は異なり、導入さえたとしても国によって税率は異なるはずであるため、確定的なことは言いにくい。

そのため直近の欧州の排出枠取引を用いて生産のグリーン化を行うとすると、現時点で炭素排出枠1トンあたり70ドル程度で取引されているため、アルミニウムの二酸化炭素排出原単位がアルミニウム新地金(新塊)1トンあたり9.24トンであることから、これを全てアルミニウム生産者が排出枠のコストを負担した場合、価格ベースでは1トンあたり650ドル近いコストアップとなる。

恐らく、新塊よりも二酸化炭素の排出量の少ない再生地金(スクラップ。1トンあたり0.309トン)の使用が増えるだろうが、それで全てを賄うことは不可能だ。

もちろん、より効率が良く温室効果ガスの排出を抑制する発電設備が拡充される可能性もある。実際、ノルスクハイドロのREDUXA4.0は、アルミニウム1トンの生産につき二酸化炭素の排出を4トンまで減らすことに成功、将来的には2トンを目指す計画で、ロシアの生産大手ルサルも2025年末まで95%を水力発電などの再生可能エネルギーに置き換えるという。

しかし、それが計画通りに進む保証はなく設備投資負担も重い。仮に目標が達成出来たとしてもそれが達成されるまでの移行過程では、脱炭素と環境規制強化が供給不安と価格上昇に繋がる可能性があるということである。

ではアルミニウム価格が上昇すると何が起きるか。アルミニウム価格が上昇しても、ガソリンなどと比べれば我々の生活に直接影響がでてくるシーンは限られる。

アルミニウムの場合、アルミニウム缶の価格が上昇して飲料や缶詰の価格が値上がりする、スーパーで購入するアルミホイルの価格が上昇する、家を建てたりリフォームしたりするときのアルミサッシやドアなどの価格が上昇する、といった場合にアルミニウム価格の上昇を意識することになる。

しかし、アルミニウムは購入している家電製品や自動車の「内部」に用いられているため、その価格上昇の影響を意識し難く、より直接的に影響を受けるのは個人ではなく企業になるだろう。

もちろん、価格転嫁が出来れば価格上昇に伴う業績悪化リスクは低下することになるが、最終消費がそれほど強くない中ではそう簡単に価格転嫁ができる訳ではない。

最終的に価格転嫁をするにしても、その移行過程では企業側の負担が増加する可能性が高い。ではどのような産業への影響が大きいか。

日本のアルミニウムの主要用途を見てみると、国内消費の4割を完成車メーカーや自動車部品製造業などの輸送用機械器具製造業が占めている。次いで建設、金属製品製造、食品(パッケージ)、電気機械器具、という順になっている。

そして、電力価格の上昇で日本は国内でアルミニウムを生産していないことから海外市況の影響を強く受ける。

法人企業統計を元に輸送機械器具製造業のアルミニウムを含む全ての仕入高と円建てアルミニウム価格を比較すると両者の間には高い相関が見られる(因みに銅で同じ分析を行っても似たような結果となる)。

つまり、アルミニウムを始めとする非鉄金属の価格変化が企業の仕入に影響をしており、そしてその価格上昇が顕著な場合は最終消費者への転嫁が容易ではない。しかしそのまま価格転嫁が行われれば付加価値が高い商品ではない場合、需要の減少に繋がりやすい。

脱炭素の流れが本当に継続するのであれば、これまで見てきたようにアルミニウムの価格は構造的に上昇する可能性が高まることになる。

その中で企業がアルミニウムを初めとする資源価格の変動リスクをいかに制御していくかは、今後の企業動向を占う上で重要な要素の1つとなるだろう。

(参考文献)
一般財団法人日本エネルギー経済研究所 牧田淳「米国の電気事業を取り巻く環境変化と事業者の対応」
一般社団法人日本アルミニウム協会「アルミニウムVISION2050」

◆主要ニュース


・日本企業景況判断BSI Q221/Q321/Q421
 大企業製造業 ▲1.4/9.9/10.7
 大企業非製造業 ▲6.2/6.7/7.3
 中堅企業全産業 ▲9.0/7.0/12.7
 中小企業全産業 ▲25.5/▲9.6/▲2.3

・5月独卸売物価指数 前月比+1.7%(前月+1.1%)前年比+9.7%(+7.2%)

・4月インド鉱工業生産 前年比+134.4%(前月+24.1%)

・6月米ミシガン大学消費者マインド指数速報
 86.4(前月 82.9)
 現況指数 90.6(89.4)
 先行指数 83.8(78.8)
 1年期待インフレ率 4.0%(4.6%)
 5年期待インフレ率 2.8%(3.0%)

◆エネルギー・メタル関連ニュース


【エネルギー】

・ベイカー・ヒューズ週間米国石油リグ稼働数365(前週比+6)
 ガスリグ 96(前週比▲1)。

・IEA月報
 世界石油需要 Q121:93.3、Q221:94.9、Q321:98.0、Q421:99.3、2021:96.4
 非OPEC供給(含むNGLs) Q121:62.0、Q221:63.7、Q321:65.0、Q421:65.0、2021:63.9
 Call on OPEC Q121:31.3、Q221:31.2、Q321:33.0、Q421:34.3、2021:32.5

※2022年下期に日量1億バレルの需要を回復。コロナの影響による社会変化の
影響で原油需要がピークを過ぎたとの観測には根拠がないことを示した。

【メタル】

・特になし。

◆主要商品騰落率


【上昇率上位5商品】

商品名(カテゴリー)/前日比上昇率/年初来上昇率
1.NYM米天然ガス ( エネルギー )/ +4.67%/ +29.81%
2.SHFアルミ ( ベースメタル )/ +2.14%/ +20.47%
3.SHF 銀 ( 貴金属 )/ +2.04%/ +2.33%
4.SHFニッケル ( ベースメタル )/ +1.99%/ +8.67%
5.CME肥育牛 ( 畜産品 )/ +1.87%/ +8.80%

【下落率上位5商品】

商品名(カテゴリー)/前日比上昇率/年初来上昇率
66.CME木材 ( その他農産品 )/ ▲5.61%/ +21.31%
65.CBTオレンジジュース ( その他農産品 )/ ▲5.17%/ ▲1.83%
64.CBT大豆油 ( 穀物 )/ ▲4.94%/ +54.58%
63.MDEパーム油 ( その他農産品 )/ ▲4.72%/ ▲0.82%
62.ICE欧州天然ガス ( エネルギー )/ ▲3.81%/ +19.86%

※弊社が重要と考える主要商品の前日比騰落率上位・下位5品目です。
※限月交代に伴う価格の不連続性は考慮されていません。予めご容赦ください。

◆主要指標


【為替・株・金利・ビットコイン】
NY ダウ :34,479.60(+13.36)
S&P500 :4,247.44(+8.26)
日経平均株価 :28,948.73(▲9.83)
ドル円 :109.66(+0.33)
ユーロ円 :132.79(▲0.27)
米10年債 :1.45(+0.02)
中国10年債利回り :3.15(+0.02)
日本10年債利回り :0.04(▲0.02)
独10年債利回り :▲0.27(▲0.02)
ビットコイン :37,152.15(+657.59)

【MRAコモディティ恐怖指数】
総合 :26.32(▲1.33)
エネルギー :27.72(▲1.39)
ベースメタル :26.62(▲2.89)
貴金属 :16.44(▲0.36)
穀物 :27.65(▲2.14)
その他農畜産品 :27.76(▲0.56)

【主要商品ボラティリティ】
WTI :26.24(▲3.55)
Brent :21.89(▲1.31)
米天然ガス :30.33(▲0.08)
米ガソリン :21.57(▲2.54)
ICEガスオイル :18.08(▲0.46)
LME銅 :20.40(▲0.06)
LMEアルミニウム :24.60(▲1.09)
金 :20.29(▲0.91)
プラチナ :18.88(▲1.04)
トウモロコシ :47.59(▲2.81)
大豆 :20.29(▲0.91)

【エネルギー】
WTI :70.91(+0.62)
Brent :72.69(+0.17)
Oman :71.48(+0.20)
米ガソリン :218.61(▲2.61)
米灯油 :212.07(▲2.27)
ICEガスオイル :589.50(+4.75)
米天然ガス :3.30(+0.15)
英天然ガス :67.60(▲2.68)

【貴金属】
金 :1877.53(▲20.98)
銀 :27.92(▲0.07)
プラチナ :1150.92(▲4.55)
パラジウム :2777.09(▲2.05)
※ニューヨーククローズ。

【LME非鉄金属】
(3ヵ月公式セトル)
銅 :10,060(+225:30.5C)
亜鉛 :3,028(+41:16.5C)
鉛 :2,206(+26:8C)
アルミニウム :2,478(+30:12.5B)
ニッケル :18,322(+504:19C)
錫 :31,501(+351:1559B)
コバルト :42,500(±0.0)

(3ヵ月ロンドンクローズ)
銅 :9995.00(+101.00)
亜鉛 :3051.00(+50.00)
鉛 :2206.00(+21.00)
アルミニウム :2462.00(▲16.00)
ニッケル :18345.00(+145.00)
錫 :31625.00(+325.00)
バルチック海運指数 :2,669.00(+188.00)
※C=Cash-3M コンタンゴ、B=Cash-3M バック

【鉄鋼原料】
62%鉄鉱石スポット(CFR中国、1営業日前) :210.21(+1.34)
SGX鉄鉱石 :214.37(+1.56)
NYMEX鉄鉱石 :213.13(+1.22)
NYMEX豪州原料炭スワップ先物 :168.67(+1.67)
大連原料炭先物 :278.26(▲3.92)
上海鉄筋直近限月 :4,900(+2)
上海鉄筋中心限月 :5,245(+115)
米鉄スクラップ :675(+45.00)

【農産物】
大豆 :1508.50(▲35.50)
シカゴ大豆ミール :383.30(+1.70)
シカゴ大豆油 :66.98(▲3.48)
マレーシア パーム油 :3859.00(▲191.00)
シカゴ とうもろこし :684.50(▲14.50)
シカゴ小麦 :680.75(▲3.00)
シンガポールゴム :220.00(+0.80)
上海ゴム :12300.00(▲400.00)
砂糖 :17.54(▲0.12)
アラビカ :157.45(▲1.25)
ロブスタ :1592.00(+7.00)
綿花 :87.00(▲0.36)

【畜産物】
シカゴ豚赤身肉 :122.68(+0.23)
シカゴ生牛 :118.70(+1.13)
シカゴ飼育牛 :151.18(+2.78)

※全ての価格は注記が無い限り、取引所で取引される通貨建。
※限月交代に伴う価格の不連続性は考慮されていません。予めご容赦ください。