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景気への楽観で上昇~非好況敏感銘柄は下落
  • MRA商品市場レポート

2021年6月2日 第1966号 商品市況概況

◆昨日の商品市場(全体)の総括


「景気への楽観で上昇~非好況敏感銘柄は下落」

【昨日の市場動向総括】

昨日の商品市場は貴金属やその他農産品などの好況に連動し難いリスク資産が下落したが、その他の資産価格は上昇した。

足元、世界的な景気の回復と、それに伴う米国のテーパリングの開始の綱引きが市場で起きているが、バイデン政権の6兆ドル予算などのバズーカが途切れることなく打たれ続けているため、「景気回復・リスク資産高>テーパリング・リスク資産安」の構図となっている模様。

今のところこの流れに水を差す流れにはなっておらず、実際にテーパリングが宣言される、ないしは商品価格上昇の主因の1つである「コロナの影響によるロジスティクスの問題解消」が起きなければ、しばらく商品価格は高止まりする可能性が出てきた。

特に「脱炭素」をテーマにする資源物色の流れは続くことになるだろう(本日のMRA's Eyeではそのリスクについて指摘しています)。

ただ、Q321の前半がそのピークであり、8月末のジャクソンホールのシンポジウム以降は調整圧力が強まる展開が予想される。

【本日の見通し】

本日は目立った手掛かり材料に乏しいが、FOMCメンバーの講演や発言が予定されているため、米国のテーパリングの可能性を探る動きになると予想され、ドル高が多くの商品価格を押し下げると考える。

しかし同時に米国の景気が良好であることも間違いがなく、下落したとしても特に景気循環系商品価格の下値は堅いと考える。

予定されている材料としては上記のFOMCメンバーの講演のほか、日本時間の明朝3時に発表が予定されている米ベージュブック。各地区連銀が米経済の現状をどのように把握しているかに注目が集まる。

この結果と週末の雇用統計を受けて、テーパリングの議論が徐々に熱を帯びることになると予想される。

【セクター別動向と見通し】

◆エネルギー

原油価格は上昇。OPECプラスは事前の予想通り増産は継続するものの追加増産を見送ったことで上昇、しかし米ISM製造業指数の改善でドル高が進行したこと、Brentで71ドルを上回っていたこともあり引けにかけては水準を切り下げた。

石炭価格(豪州炭)は上昇して120ドルを上回った。中国の経済活動の回復や脱炭素に伴う石炭供給減少による需給タイト感が継続しており、価格は高値を維持している。

中国の石炭輸入動向の指標の1つであるバルチック海運指数は、昨日も下落しており、こちらは中国の調達に目処が立ちつつある可能性を示唆している。

しかし、中国の6大電力会社の石炭在庫水準は同じ時期の過去5年の最低水準。港湾在庫の水準よりも6大電力会社の保有在庫の水準の方がケタが違うため、当面は電力会社の石炭調達需要が価格を高値に維持させそうだ。

JKM先物市場は上昇、欧州天然ガスは排出権価格の上昇を受けて上昇、米天然ガスは東部の気温上昇見通しが価格を押し上げた。

ただしLNGタンカーレートは東西共に既に低下を始めているため、通常ピークとなる7~8月より早いタイミングで下落に転じるとみている。

5月17日~23日の世界のLNG取引750万トンのうち233万トンがスポットで取引された。先週から▲30万トン減少。国別では、日本、韓国、中国、台湾(雨不足で火力燃料が必要なものと思料)の調達が増加した。米国・豪州のカーゴは日本向けと見られ、中国・台湾向けではなかったようだ。

本日はOPECプラスで増産が見送られたことや米統計の改善を受けた需要期待で高値維持を予想。但しドル高が進行しやすい地合いでもあり上値も限定。取引鋼板になるが米ベージュブックの米景気への判断には注目(恐らく悪くなく、ドル高要因に)。

石炭・LNGは夏に向けた在庫積み増しの動きがアジア・欧州で継続していること、欧州のガス市場需給タイト化観測で、高値圏を維持する見込み。

◆非鉄金属

LME非鉄金属価格は上昇後下落した。前日休場期間中に上海で価格が上昇したこと、LME指定倉庫在庫減少継続を受けて水準を切り上げたが、米統計を受けたドル高進行が重石となった。

個別材料としてはカナダSudbury鉱山での労使交渉が決裂、ニッケル供給に懸念が生じている。但しストライキ系の問題はいつか解消するため恒久的な供給の現象にはならず、最終的には売り材料となる。

本日は固有の手掛かり材料に乏しいが、米FOMCメンバーの講演が多数予定されており、テーパリングの議論が意識されドル高バイアスが掛かると予想され、本日は軟調推移を予想。なお、ベージュブックは時間的にLME非鉄金属は織り込めない(明日の材料に)。

◆鉄鋼・鉄鋼原料

中国向け海上輸送鉄鉱石スワップは下落、大連先物は上昇、豪州原料炭スワップ先物は上昇、大連原料炭先物は下落、上海鉄鋼製品先物は下落した。

中国の主要生産地である唐山市の製鉄所の排出削減量を▲30%~▲50%から、▲20%~▲30%に引き下げるとの報道を受けて製品価格が下落したことが、鉄鋼原料価格も押し下げた。

鉄鋼製品価格動向が鉄鋼原料価格を左右しているが、中国の鉄鋼製品供給減少観測が後退したことから、本日の鉄鋼原料先物価格は軟調な推移を予想。

◆貴金属

昨日の金銀価格は小幅に下落、原油上昇による期待インフレ率の上昇が実質金利を押し下げて価格を押し上げたが、300ドルを超えて上昇していたリスク・プレミアムが割高であり、利益確定の動きが強まったため。ある意味買われすぎからの調整、ともいえる。

プラチナ・パラジウムは上昇。米ISM製造業指数が改善したタイミングで上昇しており、安全資産としての貴金属セクター物色の流れ、というよりも工業金属としての需要(自動車やガラスなど)増加観測が価格を押し上げた。

本日は米景気回復を受けてドル高基調となる可能性が高いため、金銀価格は下落、PGMは上昇すると予想する。

但し、ベージュブックで米景気の回復が確認された場合、テーパリング開始が強く意識されるためその場合は米国時間の後場にかけて水準を切り下げると予想。

◆穀物

穀物価格は大幅に上昇。ラニーニャ現象終了に伴う投機筋の利益確定の動きが、50日・100日移動平均線まで下落したところで一巡、作柄悪化などを急に材料とした買戻しが優勢となったため。

昨日の上昇が総じて大きかったことから、本日は手仕舞い売りで再び下落を予想。

しかし、テクニカルなサポートラインを割り込まなかったこと、依然、資源高が市場今後は「バイオ燃料向け需要」という文脈で物色される可能性が高いことから底堅い推移に。

※中長期見通しは個別セクターのコラムをご参照ください。

市場データ・グラフ類の添付ファイルのサンプルはこちら。

【昨日のトピックス】

昨日発表された米製造業ISM指数は61.2と市場予想の61.0(前月60.7)を上回る好調な内容で、米経済が製造業を中心に回復していることを確認する内容だった。

内訳をみると新規受注は67.0(前月64.3)、受注残も70.6(68.2)と需要は旺盛。米国のワクチン接種進捗による経済活動正常化と、バイデン政権が積極的に行っている経済対策の効果が顕在化しているものと考えられる。

しかしその一方で生産は58.5(62.5)と減速した。これは入荷遅延指数が78.8(75.0)と1972年のオイルショック時と同じ水準まで上昇しており、引き続きロジスティクスに問題が生じていることが浮き彫りとなっている。

また、雇用のマッチングができていないのか雇用指数は50.9(55.1)と悪化、生産も58.5(62.5)と減速している。結果、在庫は50.8(46.5)と上昇し、顧客在庫は28.0(28.4)と低下している。

引き続き米経済は回復しているものの、「緊急事態の状況」が継続しており、物流や生産に障害が生じている状態に変わりがないことを示唆する内容で、資源をはじめとする商品価格はまだしばらく高止まりしそうなことを示唆する内容だったといえる。

【マクロ見通しのリスクシナリオ】

・来年の中間選挙を控えて、バイデン大統領が国内の支持を得られない場合。恐らく選挙を考えると今年の夏までが勝負。

財政面や企業負担増の理由から造反が発生し、議会を通過しない場合は景気のリスクに(景気減速要因)。

・米財政出動が加速、景気回復期待を受けた価格上昇が顕著となる場合。

この場合、長期金利上昇でドル高が進行しやすく価格の下落を意識しなければならないが、足下、どの中央銀行・政府も景気過熱は意識しているものの沈静化させるタイミングと判断していないため、しばらくは顕著な価格上昇リスクとなる見込み。

常識的に考えると今年の年末頃からテーパリング開始の見通しとなるが、来年の米中間選挙を控えて米政権がテーパリング実施にクギを刺す可能性がある。この場合、2022年にかけて、さらにリスク資産価格が上昇する可能性も。

・コロナウイルスの感染再拡大(変異種に対してワクチンの効果が期待ほどではなかった場合など)によるロックダウンが景気循環系商品の需要を減じる場合(価格下落要因)。これは既に欧州、インド、日本などで顕在化。

逆に想定以上にワクチン・治療薬の開発が速やかに行われた場合は需要の増加要因に。

・環境重視型社会への急激な転換による、経済活動の鈍化リスク。成長ドライバーの1つとして期待される、中東・北アフリカ産油国が人口ボーナス期を活かせない(逆に鉱物産出国は高成長となる可能性も)。

・米中対立激化による、新冷戦構造が発現しブロック経済圏が発生して貿易活動が鈍化する場合(場合によると武力衝突も)。

「能動的に」軍事を行う方針に舵を切った中国習近平政権が、台湾統一を目指して侵略する可能性は高くなった。

・次の成長ドライバーとして期待されるインド経済が、期待通りの成長をできない場合(人種差別問題による国民の離反、市場開放・規制改革の遅れ、中国との対立など)。

2018年にすでに人口ボーナス期入りしているため、鉱物・エネルギーをはじめとする景気循環系商品需要の増加は2023~2024年頃。

・中国地方政府・中堅中小企業の財政状況悪化に伴う景気減速(これは人口動態を考えると、現実のリスクとなるのは2030年以降か)。

◆昨日の商品市場(個別)の総括


---≪エネルギー≫---

【原油価格見通し】

原油価格は軟調ながらも、高値でもみ合うものと考える。最大消費国である米国の経済統計は良好なものが多いこと、DOEやOPECなどの見通しは需給ファンダメンタルズがさらにタイト化する見通しであることが背景。

しかし、OPECの増産バイアスは強まり、米国のイランに対する制裁が解除される可能性が高まっていること、コロナの変異種拡大の影響が続くインドや欧州の回復にはまだ時間がかかること、米景気の回復期待で米長期金利上昇・ドル高圧力がかかるシナリオは依然、メインシナリオであり調整圧力が上昇圧力を上回る可能性は低くない。

なお、米国のイラン核合意復帰に向けた動きが進んでおり、サウジアラビアも米国の軍事的な支援を得られなくなったことでイランとの距離を縮める動きを見せていることから、当面、原油価格には下押し圧力になると見られる。

しかし、イランで対米強硬派が次の大統領となる可能性が高く、これまでの融和ムードが「ご破算」になるシナリオも無視できず。

金融面に関しては、常識的に考えれば経済活動の再開で2022年頃(早ければ今年の年末)から米国でテーパリングが始まり、過去の例を考えると長期金利の上昇などを通じてリスク資産価格には一時的に調整圧力が強まる可能性は高い。そのため、2022年には一旦調整局面があり、その後、持続可能な上昇になると予想する。

【見通しの固有リスク】

・ワクチン接種の進捗が想定よりも早まり、人の移動制限が解除され需要増加に供給が間に合わず、価格が急騰するリスク(供給の時間差リスク。これは既に顕在化しているかもしれない)。

同時に変異株が猛威を振るい、ワクチンが効かない場合(需要減少で下落リスク)。

・米国経済が正常化する中で急速なドル高が進行し、投機的な売り圧力が高まる場合。

・OPECプラスの増産タイミングの見誤りによる、供給不足(価格上昇要因。これは既に顕在化しているかもしれない)。

・脱炭素の進捗、生活様式の変化による構造的な需要減少が加速した場合

1.中東産油国の財政悪化によって情勢不安が顕在化、供給途絶リスクが高まる

2.中東以外の産油国の生産者の破綻

3.上流投資部門投資が減速し、インドなどの新興国需要顕在化時に供給が間に合わない場合

4.価格面、数量面で予算を確保できない産油国が、OSPを大幅に引き上げる場合(第3次オイルショック)

などが価格上昇要因に。

・バイデン政権がシェールオイルのフラッキングやパイプライン敷設を制限/禁止する場合、供給減少で価格上昇要因に。

・米国の橋渡しでイランとサウジを初めとするスンニ派諸国の和解による中東の緊張緩和(下落要因)。

ただし、イランで強硬派が次の大統領となる可能性が高まっており、再び緊張感が高まる可能性も否定できず(上昇要因)。

【石炭価格見通し】

海上輸送石炭価格は高値圏を維持すると予想される。欧州排出枠価格が供給減少により2021年の需給がタイトとみられること、中国の製造業活動の回復とそれを受けた電力向け需要が堅調と見られることが背景。

中国政府は国内炭の供給能力増強にシフトしているが、経済活動の回復に供給が十分ではない。夏場の調達に目処が立てば調整すると見られるが、足下、中国の6大電力会社の石炭在庫水準は低く、高値圏維持を予想。

ただし、豪州との対立や、環境規制強化の中で石炭需要は減速するとみられること、非常に矛盾するが国内生産を増加させていることから海上輸送炭価格の上値は重くなると予想される。

4月の石炭輸入は前年比▲29.8%の2,173万トン(前月▲1.8%の2,733万トン)と減少に転じた。中国国内の電力需要が回復していることで輸入が増加していたが、調達に目処が立った可能性がある。

ただ、中国の石炭輸入需要の指標であるバルチック海運指数が高い水準を維持していることを考慮すると、まだ輸入は高水準で推移する可能性が高いと考える。今のところ中国6大電力会社の在庫水準も低い。

石炭価格の下落は夏場の在庫調達が一巡する必要があるため、7月頃までは高止まりする可能性がたかまっている。

【見通しの固有リスク】

・世界的な環境重視型世界へのシフトを受けた、石炭上流部門への投資規制強化による、供給減速懸念。短期的には価格の上昇要因。

・中国と豪州の対立、中国国内の生産能力増強に伴う、海上輸送炭需要の減少。

・北半球の夏場の猛暑(/冷夏)・冬場の厳冬(暖冬)。

・エルニーニョ現象発生が予想される夏場にかけて、北半球が猛暑となるリスク(気象庁の分析では冷夏になりやすい。日本は西日本が猛暑になる可能性)

【天然ガス・LNG】

天然ガス価格は中国の経済活動が活発であり、電力向け需要増加が見込まれること、海上輸送石炭価格の高止まり、ロシアが6月のウクライナ経由・欧州向けのガス供給枠を増枠しなかったことで域内需給がタイト化し、価格を高値に維持する見込み。

4月の中国のLNG輸入は前年比+32.0%の673万トン(前月+34.6%の564万トン)と構造的な増加が続いている。徐々に中国も石炭からガスへのシフトが起きていると見られ、電力需要の増加を背景に輸入を拡大していることが窺える。

長期契約のLNGに関しては、原油リンクとなるため上昇見通しだが、価格反映までに3ヵ月程度の時間差があるため(消費者への影響はさらに3ヵ月後)、現時点ではまだ上昇していないと考えられる。次の懸念は夏のピーク時の電力・ガス価格への影響だろう。

【見通しの固有リスク】

・米国がノルドストリーム2の建設を容認した場合、欧州ガス需給の緩和(ロシア増産で下落要因)

・産油国の減産継続による随伴ガス供給の減少懸念。

・北半球の夏場の猛暑(/冷夏)・冬場の厳冬(暖冬)。

・エルニーニョ現象発生が予想される夏場にかけて、北半球が猛暑となるリスク(気象庁の分析では冷夏になりやすい。日本は西日本が猛暑になる可能性)

【投機筋のポジション動向】

・直近の投機筋のポジションは以下の通り。

WTIはロングが625,568枚(前週比 +13,038枚)ショートが150,078枚(+13,495枚)ネットロングは475,490枚(▲457枚)

Brentはロングが362,727枚(前週比▲18,462枚)ショートが104,275枚(+9,086枚)ネットロングは258,452枚(▲27,548枚)

---≪LME非鉄金属≫---

【非鉄金属価格見通し】

非鉄金属価格は一旦調整圧力が強まるものの、高値圏を維持すると予想する。

各国の財政出動並びに金融緩和スタンスは継続される見込みであり、7月の共産党100周年記念までは少なくとも景気刺激を続けるとみられる中国のみならず、米国も対中戦略の観点からインフラ投資を積極的に推進する見込みであるため。

米民主党政権は1.9兆ドルの経済対策に加え、2兆ドル(インフラ投資は0.6兆ドル程度)の追加対策を実施の計画であり、さらには2022年度予算も戦後最大となる歳出を6兆ドルと、以上と戦後最大の水準とする方針を示した。

インフラや社会プログラム向けに今後10年で4兆5,000億ドルを拠出、道路や橋梁の修復に170億ドル、水道管の工事に45億ドル、ブロードバンド通信網敷設に130億ドルを充当する見込みで、工業金属需要の増加に繋がる。

これらの需要は景気に関係なく発生する需要であるため、需要の見通しは底堅く、価格の調整があっても下値余地は限定される可能性が高い。

また、投機的な買いは続いており、投資銀行を中心に「脱炭素」をテーマに市場参加者に非鉄金属に投資を促す動きが強まっていることから、投機的な動きが当面高値に押し上げることになるだろう(逆にドル高進行、株安の局面では大きな下落圧力となる)。

弊社はベンチマークである銅の価格が、指定倉庫在庫の水準から判断するに1,000ドル程度高いと見ていたが、「テーマ性(今は市場では「脱炭素銘柄」とされている)があること」から、水準感は9,000ドル~11,000ドルに切り上がっていると判断せざるを得ない。

しかし、それでも中期的には調整圧力が強まる展開になるとの予想は、現時点では変更する必要はないと考えている。中国政府が国内バブルを警戒する姿勢を強めていること、米経済統計回復に伴うドル高進行、早ければ2021年末頃から始まる可能性がある、米テーパリング開始の可能性、生産国の生産が回復する可能性が高いことが材料。

米国・中国・インドがどのような動きをするかに環境政策は左右されるが、ここまでの各国の動きを見ていると当面は環境向けに使用される金属の需要増加は「今後10年・20年の大きなテーマ」となる可能性が高いと言える。

具体例を挙げると、軽量化目的のアルミ、EV向けのニッケル、銅(通常25キロ/台の銅が使われるが、EVは80キロ/台)、蓄電池としての鉛、コバルト、リチウムなどが挙げられる。

2020年の中国の新エネルギー車の販売は前年比+7.5%の137万台(前年124万台)となった。全体の自動車販売が2,523万台なのでシェアは5.4%(4.9%)と上昇している。それでも電気自動車が非鉄金属市場の重要なテーマになるには、あと数年は要するだろう。

5月の中国製造業PMIは51.0(前月51.1)と市場予想の51.1と前月を小幅に下回った。ただし閾値の50は上回っており中国の製造業活動は拡大過程にあることには変わりはない。

内訳を見ると生産が安定(52.2→52.7)する一方で、新規受注(52.0→51.3)、輸出新規受注(50.4→48.3)、受注残(46.4→45.9)と需要面に減速が見られている。

恐らく、原材料価格の高騰や中国政府の過剰投資抑制方針が徐々にボディブローのように効いていると考えられる。人民元高進行も輸出に重石と考えられる。

工業金属価格に対する説明力が高い新規受注在庫レシオは、完成品が1.10(前月1.11)、原材料が1.08(1.08)と両指数ともほぼ横ばい。

これまで非鉄金属価格の上昇を牽引しているのは中国の住宅セクターであるが、5月の中国の建設業PMIは60.1(57.4)と再び回復。悪天候の影響などで減速していた前月から急速に回復した。

住宅セクター向けの一連の建材需要は旺盛であるが、中国政府は住宅セクターの加熱を警戒していること、素材価格の上昇が活動を減速させる可能性があるため、やはり先行きの国内向けの需要はそれほど大きく回復はしないだろう。

その中で輸出向けの需要が欧米との対立と人民元高の中でどれだけ回復出来るかが、次の焦点となる。

【見通しの固有リスク/個別金属の特殊要因】

・期待されていた米国のインフラ投資規模が、議会の反対で減額ないしは延期される場合(下落リスク)。

・米国経済が正常化する中でドル高が進行し、投機買いが膨らんでいる非鉄金属市場で投機の手仕舞い売り圧力が高まる場合(下落リスク)。

・米中間選挙に向けて、米民主党が追加でインフラ投資(2兆ドルのクリーンインフラ投資など)を議会の採決を得て実行に移す場合(上昇リスク)。

・主に銅山を中心とする労使交渉長期化による供給減少が、2021年も継続する場合(上昇リスク)。

・中国の環境規制強化に伴う供給の減少。エネルギー排出量の多い新疆ウイグル自治区でのアルミ生産は減産の影響は既に材料視されている(供給減少でアルミ価格の上昇要因に)。

・上流部門投資不足並びに鉱石の品位低下による、鉱山供給の制限。

・チリやペルーで広がる左派勢力伸長に伴う大衆迎合的な政策が可決し、鉱山生産に過剰なロイヤルティが適用される場合(供給減少ないしは生産コスト上昇で価格の上昇要因)。

・環境問題や人権問題(コンフリクト・メタルの問題)を背景とする鉱山供給の減少。

また、環境に配慮したメタル使用の義務化などが欧州で進む場合などのコストアップ(グリーン・メタルの義務化によるコスト増加)。

【投機筋のポジション動向】・LMEのファンド筋のポジションは、鉛以外の商品のロングが減少、総じてネットロングが減少した。中国政府の価格上昇抑制策の実施やドル高や株安を契機とする利益確定の動きが強まったためと見られる。

・LME投機筋買い越し金額 前週比▲8.3%の282億ドル(前週 308億ドル)・LME投機筋買い越し数量 前週比▲5.9%の6,033.0千トン(前週 6,410.3千トン)

---≪鉄鋼原料≫---

【鉄鋼原料価格見通し】

鉄鉱石価格は、米中のインフラ投資による建材向け需要増加観測を背景に、高値を維持すると予想する。

またこれまでの経済対策の影響で、中国国内の鉄鋼原料在庫日数の水準が低いことから(鉄鋼製品在庫の水準は増加)在庫積み増し需要も継続する可能性が高い。

ただし、中国政府は景気刺激と同時に住宅セクターのバブルを懸念し始めており、住宅取得規制の動きも見せていること、先物取引市場での監視強化(証拠金引き上げや値幅制限、投機取引の監視など)から、徐々に水準を切り下げる展開を予想。

また、中国共産党は2021年から始まる新しい5ヵ年計画で鉄鋼生産量の削減の必要性を表明している。温室効果ガスの排出削減を目的として、業界として二酸化炭素の輩出の多い鉄鋼業(とアルミ生産業)の生産量を前年比でマイナスとする方針であり、鉄鋼製品向けの需要が減少することから、年後半に掛けては価格は下落すると予想する。

最大生産都市である唐山市は、2021年20日~12月31日まで、大気汚染基準に違反し、データを改ざんした4社は3月20日~6月末まで▲50%、7月~12月末まで▲30%減産、その他の16社は12月末まで▲30%の減産を新たに実施することを義務づけられた。

また、Q221には邯鄲市も生産管理措置を導入する見通しであり、鉄鋼製品供給は制限される可能性が高い。

これにより、唐山市の粗鋼生産は前年比▲2,223万トンの1億2,177万トン、鉄鉱石需要は▲3,500万トン減少するとみられている。ただし今のところ鉄鋼製品価格は高値圏を維持しており、鉄鉱石価格も高止まりしている。

5月の中国鉄鋼業PMIを見ると、総合指数は46.1(前月45.4)と改善。生産が回復(47.0→51.4)した影響が大きい。しかし、新規受注(44.4→39.4)、輸出向け新規受注(51.7→43.9)と軒並み需要面が減速している。

国内の新規受注の減速は資源価格の上昇と国内バブル抑制方針に中国政府が舵を切っていること、輸出向けの減速は5月1日から鋼材輸出の増値税還付が撤廃されたことが影響したとみられる。

需要の減少で目安となる新規受注・在庫レシオは、新規受注完成品レシオが0.91(前月1.29)と低下、新規受注原材料レシオは0.99(1.25)と大幅に低下しており、原材料・鉄鋼製品とも価格の下押し圧力が強まる展開が予想される。

しかし、鉄鋼原料価格の上昇を牽引してきた住宅セクターに関しては、5月の中国の建設業PMIは60.1(57.4)と、悪天候の影響などで減速していた前月から急速に回復。短期的には鉄鋼需要が底堅く推移する可能性が高いことを示唆している。

とはいえ、住宅セクター向けの一連の建材需要は旺盛であるが、中国政府は住宅セクターの加熱を警戒していること、素材価格の上昇が活動を減速させる可能性があるため、やはり先行きの国内向けの需要はそれほど大きく回復はしないだろう。

4月の中国の鉄鋼製品の輸入は前年比+16.2%の117万4,000トン(前月+15.8%の132万トン)と伸びが増加、過去5年レンジの上限で推移している。

3月の中国粗鋼生産は9,785万トン(前月9,402万トン、2月8,305万トン、1月 9,024万トン、12月9,125万トン、11月 8,766万トン)と同じ時期の過去5年最高水準を大きく上回っている。

その一方、4月の鉄鋼製品の輸出は前年比+26.2%の797万3,000トン(前月+16.4%の754万トン)と加速し、過去5年平均を維持。国内需要の減速と、海外情勢の回復による輸出需要の増加の両面の影響だろう。

なお、中国の鉄鋼製品需要は旺盛とみられるが、在庫水準は前週比▲33万4,000トンの1,481万トン(過去5年平均 1,145万7,000トン)と、例年の在庫取り崩しペースを下回っている。中国当局の景気過熱沈静化の動きの影響が顕在化しつつあると言える。

原料である鉄鉱石の4月の輸入は前年比+3.0%の9,857万トン(前月+18.9%の1億211万トン)と鈍化した。しかしそれでもこの時期の輸入量としては過去5年のレンジを大きく上回っている。引き続き鉄鉱石需要は旺盛と見られる。

鉄鉱石港湾在庫は前週比+15万トンの1億2,850万トン(過去5年平均1億2,671万6,000トン)、在庫日数は24.2日(過去5年平均 29.0日)と例年と比較して在庫日数の水準は低い。

原料炭は中国の生産活動回復が継続していること、国内の鉄鋼需要が公共投資で底堅いことから、同様に底堅い推移になると考える。

しかし、中国政府は原料炭を含む石炭の国内生産を増加させる方針であることから、海上輸送原料炭価格の上値も重い。

3月の中国の原料炭輸入は前年比▲13.0%の491万トン(前月▲39.6%の323万トン)と減少している。

中国の港湾在庫の水準は鉄鋼の最大生産省である河北省の主要港である、京唐港の港湾在庫は前週比+5万トンの174万トンと過去5年平均の162万2,000トンを上回っている。

在庫日数は前週比+0.2日の6.1日と、過去5年の平均である7.0日を下回っており、需要を考慮すると原料炭需給はまだタイトな状態にあると言える。

【見通しの固有リスク】

・鉄鉱石価格の上昇がレーショニング(価格上昇による需要減少)を引き起こす場合。

・世界的に広がる環境規制強化の流れで、鉄鉱石や原料炭などの生産に一定の影響が起きる場合。

・コロナウイルスの感染拡大長期化による、鉱山生産の減少リスク。

・中国とインドの国境紛争の激化で、インドが中国に対して鉄鉱石輸出を制限する可能性(中国のFOBインデックスは上昇、その他の地域の鉄鉱石価格は低下)。

---≪貴金属≫---

【貴金属価格見通し】

<<金>>

金は高値圏での推移を継続すると考える。長期金利の上昇圧力がやや緩和していること、市場での期待インフレ率の高まりで実質金利に低下圧力が掛っていることが材料。また、「金の競合となると(勝手に)期待された仮想通貨が下落」していることで、改めて安全資産としての金需要が戻っていることも高値圏を維持する要因となっている。

とは言え、米景気の相対的な回復期待の強さからドル高・長期期金利(緩やかに)上昇圧力が強まると予想され、中期的な見通しは弱気。

現在の金の実質金利で説明可能な価格(金基準価格)は1,613ドル。そこからの乖離(リスク・プレミアム)は287ドルと昨日から▲16ドル下落。

リスク・プレミアムは、過去3ヵ月平均で200ドル、6ヵ月で214ドル、1年で230ドル、5年で165ドルとなっている。

なお、金価格を実質金利要因と為替要因に分類した場合、為替要因はリスク・プレミアムのところに内包されると整理している(為替は名目金利の影響も受けるので、純粋に為替の要因のみ切り出すのが困難であることから)。

※毎日回帰分析をアップデートし、リスク・プレミアム自体の水準を見直しているため、前日比の整合性が取れていない場合があります。

<<銀>>

銀価格は金価格との比較感で売買されるが、金銀レシオは現在、68.0倍。過去1年を基準にすると75倍、5年では80倍、2000年以降では65倍程度が妥当。

今後、さらに金銀レシオが低下するには、実際に太陽光パネルの設置が米国で進捗するなどの新規材料が必要になるのではないか。

なお、銀価格=金価格÷金銀レシオ であり、金銀レシオが低下することで金価格が変動した時の弾性値が上昇(ボラティリティは上昇し、足元金の2倍に上昇)する点は留意。

(例)金が2,000ドル、銀が20ドルのとき 金銀レシオが100倍→金価格±1ドルの変化で銀価格は±1セント変化 金の変化率は±0.05%、銀は±0.05%

 金銀レシオが1倍→金価格±1ドルの変化で銀価格は±1ドル変化 金の上昇率は±0.05%、銀は±5%

<<PGM>>

プラチナ価格は銀価格との連動性が高い。これは供給過剰で投機的な取引の影響が強まっていることによる。プラチナの需給バランスはWPICデータを元にすると今年も除く投機で供給過剰であり、投機動向が価格を左右しやすい。

金価格が米長期金利の低下で再び高値で推移していることから、投機的な観点でプラチナにも上昇圧力が掛りやすい地合い。

仮に脱炭素が進んで水素が用いられ、燃料電池が進むのであればプラチナの構造的な需要が増加するシナリオは、需要・価格面でのポジティブリスクシナリオ。投機の比率が高い商品であるため、こうした観測記事だけでも材料に価格が反応しやすい。

パラジウムは景気正常化期待による金価格調整→経済正常化による需要増加、ロシア生産者からの供給減少観測を受けて高値を維持すると考える。

自動車生産が回復すれば再びパラジウム供給不足が発生し、ETFの残高減少と価格上昇が同時に発生する可能性が高いとみている。

4月の米自動車販売は年率1,851万台(前月1,775万台、市場予想1,764万台)と回復継続。

中国の4月の自動車販売は中国自動車工業協会の集計で前年比+8.8%の225万台(前月+76.5%の252万5,000台、2月+371%の146万台、1月+30%の250万台、12月+6.4%の283万台、11月+12.7%の276万9,666台、10月+12.6%の257万3,000台、9月+13.0%の256万5,201台)と伸びが減速を始めている。

【見通しの固有リスク】

・個人投資家のETFを通じた買いが、経済合理性を無視した水準まで貴金属価格を押し上げるリスク。

・主要生産国の南アフリカの電力供給不安や、コロナウイルスの影響拡大で供給が滞る場合(PGMの価格上昇要因)。

・コロナからの回復は各国まだらであり、先行する米国が金融正常化に動いた場合、新興国から資金が流出して信用リスクが高まる場合(安全資産価格の上昇要因)。

・米中の対立激化。バイデン政権は対中強硬姿勢を明確にしており、対立がさらに激化する場合(安全資産価格の上昇要因)。

・中国地方政府・中堅中小企業の財政状況悪化に伴う景気減速による安全資産需要の増加(実際に破綻が意識されるのは2030年以降か)。

・世界的な自動車販売の減速(米欧中)による、自動車向け排ガス触媒需要の減少(PGM)。

環境重視型社会へのシフトはパラジウム需要を増加させるが、さらに加速して「水素社会」まで到達すると、燃料電池車需要が増加して構造的にプラチナ価格の上昇要因となる可能性。

・コロナウイルスの感染拡大による、最大生産国の1つである南アフリカの鉱山稼働が電力供給問題もあって不安定であることによる供給懸念。

【投機筋のポジション動向】

・直近の投機筋のポジションは、金はロングが288,266枚(前週比 ▲2,001枚)、ショートが73,624枚(▲17,754枚)、ネットロングは214,642枚(+15,753枚)、銀が86,013枚(▲627枚)、ショートが35,531枚(▲128枚)、ネットロングは50,482枚(▲499枚)

・直近の投機筋のポジションは以下の通り。

プラチナはロングが38,188枚(前週比 ▲686枚)ショートが15,201枚(+2,141枚)、ネットロングは22,987枚(▲2,827枚)

パラジウムが5,508枚(▲612枚)、ショートが3,615枚(+32枚)ネットロングは1,893枚(▲644枚)

---≪農産品≫---

【穀物価格見通し】

トウモロコシ・大豆は上昇余地を探る展開になると予想する。ラニーニャ収束を手掛かりに投機の手仕舞い売りが価格を押し下げていたが、チャート上のテクニカルなサポートラインまで売り込まれたこと、中国の輸入需要が旺盛であることに変わりがないことから、再び買戻しが入ると予想されるため。

但し、これまでの20年を振り返るとラニーニャが発生していない時期~エルニーニョの時期にかけては価格が弱含みやすいのでそこまで強気ではない。

更に価格が上昇するとすれば、2000年代にトウモロコシのエタノール需要増加を期待して価格が上昇したことと同じことが、大豆や大豆油に対して起きる場合だろう。

但しこの時も「食品を投機の対象にすること」「燃料に使うこと」への批判が高まり、特に投機に規制がはいることで下落に転じたため「構造的な需要増加要因として織り込まれた後」は下落に転じると考える。

Locust WatchではFAOの予想通り、降雨がなかったため群生相の発生は極めて抑制されている。Locust Watchでも今のところ差し迫った危機の発生リスクは指摘されていない。
http://www.fao.org/ag/locusts/common/ecg/75/en/210527DLupdate.jpg

【見通しの固有リスク】

・エルニーニョ現象発生による生産条件改善を受けた増産観測(価格の下落要因)。

・環境重視型社会へのシフトにより、燃料向け穀物需要が増加する場合(価格の上昇要因)。現在はそれほどの数量でもない、バイオディーゼル向けの大豆需要増加など。

・新型コロナウイルスの影響拡大による、輸出活動の停滞(シカゴ定期を含む生産地価格の下落要因)。

【米農務省需給報告データ】

・米作付け意向面積トウモロコシ 9,114万エーカー(市場予想9,313万エーカー、前年9,699万エーカー)大豆 8,760万エーカー(9,010万エーカー、8,351万エーカー)小麦 4,636万エーカー(4,495万エーカー、4,466万エーカー)綿花 1,204万エーカー(1,215万エーカー、1,370万エーカー)

・米穀物最終作付け面積トウモロコシ 9,201万エーカー(市場予想 9,514万エーカー)大豆 8,383万エーカー(8,483万エーカー)小麦 4,425万エーカー(4,472万エーカー)

・5月米需給報告単収見通し(実績/市場予想/前月)トウモロコシ 179.5Bu/エーカー(179.5、172.0)大豆 50.8Bu/エーカー(50.9、50.2)小麦 50.0Bu/エーカー(NA、49.7)

・5月米需給報告生産見通し(実績/市場予想/前月)トウモロコシ 149億9,000万Bu(150億2,931万Bu、141億8,200万Bu)大豆 44億500万Bu(44億3,105万Bu、41億3,500万Bu)小麦 18億7,200万Bu(18億7,715万Bu、18億2,600万Bu)

・5月米需給報告輸出見通し(実績/前月)トウモロコシ 24億5,000万Bu(NA、26億7,500万Bu)大豆 20億7,500万Bu(NA、22億8,000万Bu)小麦 9億Bu(NA、9億6,500万Bu)

・5月米需給報告在庫見通し(実績/市場予想/前月)トウモロコシ 15億700万Bu(13億2,715万Bu、13億5,200万Bu)大豆 1億4,000万Bu(1億3,319万Bu、1億2,000万Bu)小麦 7億7,400万Bu(7億5,132万Bu、8億5,200万Bu)

・3月末四半期在庫(実績/市場予想/前月)トウモロコシ 77億100万Bu(77億7,024万Bu、112億9,400万Bu)大豆 15億6,400万Bu(15億2,829万Bu、29億4,700万Bu)小麦 13億1,400万Bu(12億7,116万Bu、17億300万Bu)

・5月CONABブラジル作付け面積(市場予想/前月)トウモロコシ 1,987万ha(1,971万ha、1,972万ha)大豆 3,850万ha(3,864万ha、3,847万ha)

・5月CONABブラジル生産量(市場予想/前月)トウモロコシ 1億642万トン(1億112万トン、1億897万トン) 単収 5,355kg/ha(5,132Kg/ha、5,526kg/ha)大豆 1億3,541万トン(1億3,614万トン、1億3,554万トン) 単収 3,517kg/ha(3,526Kg/ha、3,523kg/ha)

【投機筋のポジション動向】

・直近の投機筋のポジションは以下の通り。

トウモロコシはロングが518,145枚(前週比 ▲25,917枚)、ショートが89,719枚(+5,135枚)ネットロングは428,426枚(▲31,052枚)

大豆はロングが275,409枚(▲9,323枚)、ショートが54,354枚(▲2,037枚)ネットロングは221,055枚(▲7,286枚)

小麦はロングが117,162枚(▲11,792枚)、ショートが98,751枚(▲4,455枚)ネットロングは18,411枚(▲7,337枚)

◆本日のMRA's Eye


「今、あえて考える脱炭素のリスク」

足元、世界中「脱炭素」の動きを強めており、トレンドとなっている。日本でもついこの前まで熱効率の高い石炭火力を推進していたはずだったが、これも御破算となった。

市場では企業や、それに対して投資を促す証券会社も含めて脱炭素が大きなテーマになっている。脱炭素、というと我々の生活に直接関係ないことのような感じがするが、別の言葉を使えば「世界的な熱源交換」と同義である。そして熱源の交換には大きなコストがかかる。

我が国では東日本大震災以降、原発を実質的に使わずLNGや石炭などの化石燃料に移行して安定的な電力供給が可能になるまで10年を要し、更に消費者である我々は「再生可能エネルギー促進賦課金」という形で再生可能エネルギーのコストを継続的に負担している。

経済産業省の試算では2021年度の賦課金は総額で3兆円程度が見込まれている。ここだけ読むと「そうですか」という話であるが、消費税導入や引き上げ時には与党が野党に敗北するなどの政権交代も起きていることを忘れてはならない。

ちなみに消費税を1%引き上げると税収は3兆円弱増えるとされる。つまり再生可能エネルギー賦課金は消費税1%引き上げと同じ経済的なインパクトをもたらすものなのだ。

これと同じことが世界規模で起きているわけだが、日本の例を見てもわかるようにそう簡単に熱源を交換することはできない。熱源の調達ルートの確保、その安定性の維持、価格の安定性、電力の品質維持、需要構造は一朝一夕で変換できるものではないからだ。

本論から少し横道にされるが、「価格の安定性」に関しては先物市場で取引が可能な商品でない限り、自主的にコントロールすることは不可能で、特殊な企業のみが提供可能な熱源を利用した場合、価格高騰時にはほとんど打ち手がないことは主張しておきたい。

また、次世代のエネルギーとして期待される水素も、「固定価格」でやり取りされるとは考え難く、当面はナフサなどの石油資源価格リンクで販売される可能性が高いと考えている。

話を戻そう。

現在、石炭価格が急上昇して100ドルを超えている。これは環境に悪いとして欧州が石炭鉱山の開発に対する保険の付与、それに対する銀行による融資を制限、一方で需要構造には大きな変化がなく、冬場の厳冬による在庫減少、夏場の猛暑に備えた在庫積み増しの動きが、特に中国で強まっていることによる。

ここからも、脱炭素を進めて熱源を交換するのは簡単ではないということが伺われる。脱炭素推進派からすれば「このように熱源交換には時間がかかるので、今から取り組まなければならない」という主張になるのだろう。

それはそうだとしても、自然体以上に化石燃料の消費を減らそうとした場合、その間に化石燃料価格は大きく上昇するリスクが高まることになる。

中東の産油国は基本的には原油が国家の屋台骨であり、この使用量を減らせという話になれば歳入確保の観点から、価格を引き上げる可能性は低くないと考える。第三次オイルショックの可能性もあるだろう。

脱炭素の動きが逆に化石燃料価格を押し上げ、電力のみならず、化学セクターなどにも影響が及ぶことになる。プラスチックばかりが化学製品ではない。

また、脱炭素を進めるためにほかの資源を求める動きが強まり、化石燃料以外の価格が上昇することになる。このテーマに乗って既に鉱物資源の価格が上昇しているし、投機と言われている人の資金も鉱物資源市場で買いを入れている。

そして恐らく、次は食品価格がバイオ燃料向けの需要で増加することになると予想される。

この流れは10年前に弊社が予想していた流れではあるのだが、もうすこしタイミングは遅く、緩やかなペースになると想定していた。

脱炭素だ、いやそうではない、という意見は、最早イデオロギーの世界に近いためこのコラムではどちらが正しい、正しくないを議論するつもりはない。

しかし、現在の政策が世界的に推し進められる中では、メリットを得るセクターとデメリットを被るセクターの両者が発生することは高い確率で間違いがなく、その負担は当面の間(場合によると恒常的に)消費者の負担になると予想される。

そして、日本での原発から化石燃料へのシフトの過程を参考にすると、この動きは少なくとも10年程度は続くと予想される。この構造的な資源価格上昇のリスクに、今のところこの流れに水を差す動きはみられない。

どうしても「脱炭素は他人事」と思ってしまうが、最終消費者のレベルでも脱炭素によるコスト負担が要求される時代は目前に迫っていると考えるべきであり、それに対する備えも必要になるだろう。

更に付言すれば、「商品価格動向と我が社は関係ない」と思われていた業種も、商品価格変動リスクを意識せざるを得ないと考える。例えば電力を大量に消費するデータセンターなどがその良い例だ。

今のところ、脱炭素の流れに水を差す流れにはなっていないが、結局のところこの移行期間、並びにそれ以降、資源価格が高騰した場合、消費者がそのコストアップを容認できるのか?といったことが議論されることになるだろう。

持続可能な社会達成ための対策が、持続可能でなくなるリスクはゼロではない。

◆主要ニュース


・Q121日本法人企業統計 設備投資 前年比▲7.8%(前期▲4.8%)
 除くソフトウェア ▲9.9%(▲6.1%)
 売上高 ▲3.0%(▲4.5%)
 企業収益 +26.0%(▲0.7%)

・5月日本製造業PMI改定 53.0(速報比+0.5,前月改定 53.6)

・5月日本国内自動車販売 前年比+30.9%(前月+22.2%)

・5月日経韓国製造業PMI 53.7(前月54.6)

・5月インド製造業PMI 50.8(前月 55.5)

・5月独製造業PMI改定 64.4(速報比+0.4、前月改定 66.2)

・5月ユーロ圏製造業PMI改定 63.1(速報比+0.3、前月改定 62.9)

・4月ユーロ圏失業率 8.0%(前月 8.1%)

・5月ユーロ圏消費者物価指数 前月比+0.3%(前月+0.6%)前年比+2.0%(+1.6%)、コア指数 +0.9%(+0.7%)

・5月独失業者数 前月比+▲15.0千人(前月+8.0千人)
 失業保険申請率 6.0%(6.0%)

・5月米製造業PMI改定 62.1(速報比+0.6、前月改定 60.5)

・4月米建設支出 前月比 +0.2%(前月改定+1.0%)

・5月ダラス連銀製造業活動 34.9(前月37.3)
 生産 15.7(34.0)
 新規受注 20.8(38.5)
 受注残 19.8(23.1)
 入荷遅延 30.1(24.0)
 完成品在庫 0.0(▲5.7)
 雇用者数 22.7(31.3)

・5月米ISM製造業景況指数 61.2(前月60.7)
 仕入価格 88.0(89.6)、生産 58.5(62.5)
 新規受注 67.0(64.3)、受注残 70.6(68.2)
 入荷遅延 78.8(75.0)、在庫 50.8(46.5)
 顧客在庫 28.0(28.4)、雇用 50.9(55.1)
 輸出 55.4(54.9)、輸入 54.0(52.2)

・北朝鮮、第一書記ポスト新設。

・食肉世界最大手のブラジルJBSに対してサイバー攻撃。米政府はロシアの犯罪組織の可能性を指摘。

・ロシア ラブロフ外相、ジュネーブで6月16日に行われる米ロ首脳会議に関し、「幻想を抱いていない。大きな進展は期待していない。」

◆エネルギー・メタル関連ニュース


【エネルギー】

・OPECプラス7月まで段階的に生産量を段階的に増産することを再確認(追加増産は行わず)。

・IEA、石油需要は1年以内にコロナ前の水準を回復する可能性。

・バイデン政権、アラスカ北東部に位置する北極圏国理宇野生生物保護区での石油鉱区のリースを一時停止。

【メタル】

・Vale、カナダ Sudbury鉱山のオペレーションをストライキの影響で停止。労使交渉が不調で。

・Q321の日本アルミ現物プレミアム、一部の買い手は前期比+25%の185ドルで合意。

◆主要商品騰落率


【上昇率上位5商品】

商品名(カテゴリー)/前日比上昇率/年初来上昇率
1.原料炭スポット ( 鉄鋼原料 )/ +28.89%/ +58.78%
2.ICE欧州天然ガス ( エネルギー )/ +5.09%/ +13.07%
3.CBTトウモロコシ ( 穀物 )/ +4.87%/ +42.30%
4.CBTエタノール ( エネルギー )/ +4.64%/ +73.06%
5.CBT小麦 ( 穀物 )/ +4.52%/ +8.27%

【下落率上位5商品】

商品名(カテゴリー)/前日比上昇率/年初来上昇率
66.CME木材 ( その他農産品 )/ ▲3.21%/ +45.17%
65.CME生牛 ( 畜産品 )/ ▲2.01%/ +0.53%
64.SGX天然ゴム ( その他農産品 )/ ▲1.96%/ +0.94%
63.CME肥育牛 ( 畜産品 )/ ▲1.45%/ +7.34%
62.SHF錫 ( ベースメタル )/ ▲1.44%/ +36.76%

※弊社が重要と考える主要商品の前日比騰落率上位・下位5品目です。
※限月交代に伴う価格の不連続性は考慮されていません。予めご容赦ください。

◆主要指標


【為替・株・金利・ビットコイン】
NY ダウ :34,575.31(+45.86)
S&P500 :4,202.04(▲2.07)
日経平均株価 :28,814.34(▲45.74)
ドル円 :109.48(▲0.10)
ユーロ円 :133.71(▲0.28)
米10年債 :1.61(+0.01)
中国10年債利回り :3.08(+0.01)
日本10年債利回り :0.08(▲0.00)
独10年債利回り :▲0.18(+0.01)
ビットコイン :36,322.99(▲367.90)

【MRAコモディティ恐怖指数】
総合 :29.32(+0.63)
エネルギー :29.40(+3.32)
ベースメタル :31.29(+0.33)
貴金属 :17.57(▲1.83)
穀物 :31.58(+1.45)
その他農畜産品 :30.83(▲0.23)

【主要商品ボラティリティ】
WTI :30.24(+0.45)
Brent :26.52(▲0.39)
米天然ガス :30.39(+0.97)
米ガソリン :25.59(▲0.08)
ICEガスオイル :20.56(▲1.02)
LME銅 :27.03(▲0.02)
LMEアルミニウム :27.85(+1.28)
金 :20.30(+0.4)
プラチナ :20.09(▲1.87)
トウモロコシ :50.49(+3.65)
大豆 :20.30(+0.4)

【エネルギー】
WTI :67.72(+1.40)
Brent :70.63(+1.31)
Oman :68.93(+1.73)
米ガソリン :217.04(+3.02)
米灯油 :207.15(+2.70)
ICEガスオイル :573.50(+6.25)
米天然ガス :3.10(+0.12)
英天然ガス :63.77(+3.09)

【貴金属】
金 :1900.44(▲6.43)
銀 :27.89(▲0.13)
プラチナ :1195.91(+5.77)
パラジウム :2864.21(+32.71)
※ニューヨーククローズ。

【LME非鉄金属】
(3ヵ月公式セトル)
銅 :10,227(+56:14C)
亜鉛 :3,061(+7:17.5C)
鉛 :2,183(▲20:3.5C)
アルミニウム :2,485(+51:23.5C)
ニッケル :18,187(+344:40C)
錫 :30,766(+17:2600B)
コバルト :43,615(±0.0)

(3ヵ月ロンドンクローズ)
銅 :10239.00(▲35.50)
亜鉛 :3064.50(▲9.00)
鉛 :2208.50(+8.50)
アルミニウム :2482.00(▲24.00)
ニッケル :18095.00(▲100.00)
錫 :30790.00(▲200.00)
バルチック海運指数 :2,568.00(▲28.00)
※C=Cash-3M コンタンゴ、B=Cash-3M バック

【鉄鋼原料】
62%鉄鉱石スポット(CFR中国、1営業日前) :198.38(+2.99)
SGX鉄鉱石 :204.74(▲0.95)
NYMEX鉄鉱石 :204.9(▲0.83)
NYMEX豪州原料炭スワップ先物 :161(+36.09)
大連原料炭先物 :241.96(▲11.02)
上海鉄筋直近限月 :4,795(▲47)
上海鉄筋中心限月 :4,977(▲53)
米鉄スクラップ :621(▲1.00)

【農産物】
大豆 :1548.50(+18.00)
シカゴ大豆ミール :398.70(+3.20)
シカゴ大豆油 :67.39(+1.60)
マレーシア パーム油 :4018.00(▲6.00)
シカゴ とうもろこし :688.75(+32.00)
シカゴ小麦 :693.50(+30.00)
シンガポールゴム :224.50(▲4.50)
上海ゴム :13115.00(▲110.00)
砂糖 :17.69(+0.33)
アラビカ :161.05(▲1.30)
ロブスタ :1591.00(+8.00)
綿花 :84.25(+2.13)

【畜産物】
シカゴ豚赤身肉 :118.63(+1.38)
シカゴ生牛 :113.55(▲2.33)
シカゴ飼育牛 :149.15(▲2.20)

※全ての価格は注記が無い限り、取引所で取引される通貨建。
※限月交代に伴う価格の不連続性は考慮されていません。予めご容赦ください。