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長期金利低下・ドル安進行で買い戻し
  • MRA商品市場レポート

2021年3月23日 第1928号 商品市況概況

◆昨日の商品市場(全体)の総括


「長期金利低下・ドル安進行で買い戻し」

【昨日の市場動向総括】

昨日の商品市場は貴金属やその他農産品が下落、ビットコインも大幅に下落したが、その他の商品は買い戻しが優勢となり水準を切り上げた。

昨日はどちらかと言うと今週控える米国債の入札や、夜間のFOMCメンバーの講演を控えて買い戻しが優勢となり、テクニカルに買い戻しが入った、と考えるのが妥当だろう。

価格上昇上位で固有の材料があったのは天然ガや石炭。豪州の洪水の影響で石炭供給への懸念が生じたことで、競合燃料のLNGや天然ガス価格が上昇した。排出権も上昇している。

3月末のファンドの四半期決算を意識して、ドル確保の動きが強まり、利益確定の動きも強まることから総じて下押し圧力が掛りやすい地合にあるが、それ以上に長期金利・為替動向が価格に与えている影響が大きいようだ。

【本日の見通し】

週明け月曜日はFRBパウエル議長とイエレン財務長官が下院で証言する見込みであり、改めて現在の金融環境、政治見通しについて何らかのコメントがあるか否かに注目が集まる。

また、このほか、米連銀メンバーが多数講演予定であり、今後の金融政策動向を占う上で重要な手がかりとなる発言があると考えられ、長期金利やドル指数は乱高下すると予想される。結果、多くの商品は方向性が出難く、もみ合うと予想される。

しかし、基本的には3月末のファンド四半期決算を睨んだ手仕舞い売り圧力が強まると考えられるため、方向としては下向き、と見ているが政策動向次第なのでなんとも言えず。

予定されている統計としては、米新築住宅販売に注目している。市場予想は前月比▲5.7%の87万戸(前月+4.3%の92.3万戸)と減速見込みであり、工業用鉱物資源価格の下押し要因となる見込み。

【セクター別動向と見通し】

◆エネルギー

原油価格は上昇した。50日移動平均線のサポートラインを維持したほか、昨日は米国債の入札を控えて買い戻しが入って長期金利が低下、ドル安が進行したことが材料になった。

石炭価格(豪州炭)は上昇。中国製造業の活動再開と、豪州東部の洪水が深刻でニューキャッスル港からの出荷に影響が及ぶ、と見られていることが価格を押し上げている。

極東のスポット天然ガス価格の指標であるJKMは上昇、石炭価格の上昇に連れる形となった。欧米天然ガスも極東価格の上昇に連れ高。

米天然ガスも海外価格の上昇を受けた、輸出需要の増加観測で大幅に上昇した。

本日は米連銀の主要メンバー+イエレン財務長官の公聴会が控えており、政策的な思惑が相場を動かそう。総じてもみ合うものと考える。

石炭価格は豪州の記録的な洪水の影響で上昇、天然ガスも結果的に石炭価格に連れる形で上昇に転じると考える。

◆非鉄金属

LME非鉄金属は買い戻しで続伸した。米長期金利が低下したことでドル安が進行したこと、LME指定倉庫在庫が銅以外が減少となったことが価格を押し上げた。

ただ、ベンチマークである銅のLME指定倉庫在庫は増加しており、価格下落リスクを高めている点には注意しておく必要がある。

本日は固有の手がかり材料に乏しいが、米FOMCメンバーが多数、講演を予定しており、FRB議長・米財務長官も公聴会に出席するため、アジア時間は方向感が出難く、米国時間も発言次第であるため方向感が出難く、もみ合うと考える。

◆鉄鋼・鉄鋼原料

中国向け海上輸送鉄鉱石スワップは下落、大連先物は上昇、豪州原料炭スワップ先物は小幅上昇、大連原料炭先物は下落、上海鉄鋼製品先物価は上昇した。

唐山市の大気汚染規制の影響で生産が低水準で推移するとみられたことが鉄鋼原料需要の減速観測を意識させ、鉄鋼製品需給をタイト化させた。

本日も大気汚染規制などで鉄鋼原料需要の低迷が続くとみられ、鉄鋼原料価格は小幅な下落を予想。

◆貴金属

金価格はもみ合った結果下落、銀も金価格の下落はあったがテクニカルに100日移動平均線のサポートを試す動きとなった。プラチナ・パラジウムも金銀価格の下落で水準を切り下げたが、株の上昇もあって影響はやや限定された。

本日はFOMCメンバーの講演を多数控える中、方向性が出難く、もみ合うと考える。

しかし、ここまでの上昇は投機が主導している可能性が高く、移動平均線や一目均衡表の雲を下抜けている(ないしは抜けそうな)商品も多く、これらのサポートラインを維持できなかった時の下落には警戒したい。

◆穀物

シカゴ穀物市場はトウモロコシは週間輸出統計の減速を受けて下落、大豆も同様だったが減少規模が限定されたため、ドル安の影響を相殺仕切れず。

小麦はグレートプレーンズの降雨予報で軟調だったが、100日移動平均線のサポートラインを巡る攻防となり、この水準では買い戻され、前日比小幅プラスで引けた。

本日も為替動向に左右される展開が予想されるが、いずれの穀物もテクニカルなサポートラインを巡る攻防となっており、大幅な下落リスクがある点には警戒が必要か。

※中長期見通しは個別セクターのコラムをご参照ください。

市場データ・グラフ類の添付ファイルのサンプルはこちら。

【昨日のトピックス】

昨日はEUと米国が中国に対して制裁を科すことを決定した。対象はウイグル人の人権問題であり、どちらかと言えば差別主義的な前政権の時には成立しなかった「共闘」であり、中国はやや厳しい状況に置かれたと言える。

習近平はサプライチェーンを通じて他国に影響を及ぼすことを厭わない可能性が高く、恐らく本当にデカップリングの道を歩むことになるだろう。

やや以外、というか相当な米国の決意を感じたのが米韓の2+2。通常は、中国と米国の板挟みに遭っている韓国の立場を慮って、「どちらとも取れる」要求をし、かつ、韓国が韓国に取って都合の用意ように、会談の内容を婉曲的に伝えることも容認してきた。

しかし、今回の対談ではメディアが入っているところで、「民主主義同盟に戻るように」主張している。

恐らく、これまでの行動を見ていると北朝鮮との融和を目指し、日本よりは中国に追従したい文在寅大統領は意に介さないと思われるが、今回の米国側のメッセージは、2022年の韓国選挙で、民主主義陣営に戻りたいと考えている人物を、次の大統領選挙で選ぶよう、韓国国民に訴えかけたと考えるのが適切かもしれない。

こうなると、中国も米国から半導体などの必須部材の調達を米国から行うのは難しい。高い確率で日本がレアアースの禁輸措置を受けた時と同じような対応を、中国は行うと考えられる。

実際、貿易統計を見ると中国向けの日本からの半導体製造装置の輸出は昨年の夏頃から非常に顕著になっている。国産を目指しているのだろう。

今回、ルネサスエレクトロニクスの火事の影響で、自動車生産にも影響がでることが懸念されている。このように、今後の世界は再び半導体を握るものが勝つ世界になる可能性がある。

米中の戦いは、始まったばかりに見えるが、中国は既に具体的な行動に出ており今後、米欧がどれだけ巻き返しを図るかに注目が集まる。

【マクロ見通しのリスクシナリオ】

・米大統領選挙前後の国内融和にバイデン次期大統領が失敗する場合(今のところ成功している模様)。

・米財政出動が加速、景気回復期待を受けた価格上昇が顕著となる場合。

この場合、長期金利上昇でドル高が進行しやすく価格の下落を意識しなければならないが、足下、どの中央銀行・政府も景気過熱は意識しているものの沈静化させるタイミングと判断していないため、しばらくは顕著な価格上昇リスクとなる見込み。

常識的に考えると今年の年末頃からテーパリング開始の見通しとなるが、来年の米中間選挙を控えて米政権がテーパリング実施にクギを刺す可能性がある。この場合、2022年にかけて、さらにリスク資産価格が上昇する可能性も。

・コロナウイルスの感染再拡大(または新たなウイルスの発生)によるロックダウンが景気循環系商品の需要を減じる場合。逆に想定以上にワクチン・治療薬の開発が速やかに行われた場合は需要の増加要因に。

・環境重視型社会への急激な転換による、経済活動の鈍化リスク。成長ドライバーの1つとして期待される、中東・北アフリカ産油国が人口ボーナス期を活かせない(逆に鉱物産出国は高成長となる可能性も)。

・米中対立激化による、新冷戦構造が発現しブロック経済圏が発生して貿易活動が鈍化する場合(場合によると武力衝突も)。

「能動的に」軍事を行う方針に舵を切った中国習近平政権が、台湾統一を目指して侵略する可能性は高くなった。

・次の成長ドライバーとして期待されるインド経済が、期待通りの成長をできない場合(人種差別問題による国民の離反、市場開放・規制改革の遅れ、中国との対立など)。

2018年にすでに人口ボーナス期入りしているため、鉱物・エネルギーをはじめとする景気循環系商品需要の増加は2023~2024年頃。

・中国地方政府・中堅中小企業の財政状況悪化に伴う景気減速(これは人口動態を考えると、現実のリスクとなるのは2030年以降か)。

◆昨日の商品市場(個別)の総括


---≪エネルギー≫---

【原油価格見通し】

原油価格は四半期末とドル高進行を意識した手仕舞い売りが顕在化しているが、高値圏を維持すると予想する。

経済活動は緩やかながら回復している中、OPECプラスによる減産解除が行われるとみられたがこれが先送りされた上、1月にサプライズをもたらしたサウジアラビアの自主減産(▲100万バレル)も継続される方針が示されたこと、米雇用統計の改善による、最大消費国の需要回復観測によって、需給逼迫観測が強まるため。

また、ワクチン接種が進みヒトの移動制限が早期に解除された場合、供給が間に合わずに価格が急騰するリスクは無視できなくなってきた。

ただし、同時にインフレ期待も高まっていることや、それに伴う長期金利上昇、株安がドル高を誘発する可能性があること、融緩和は継続するものの、「強いドルを望む」発言が米高官から出始めていることから、ドル高進行がファイナンシャルな面で価格を下押しするため、上値も重いと考える。

原油価格の上昇要因となっていた米シェールオイルの生産減少が回復する見通しであることや、OPECプラスの減産解除観測も、上昇余地を制限しよう。

その意味で、今月末・4月1日に開催予定のJMMCとOPECプラス会合は最注目であるが、現在の下落基調が続くようであれば減産が維持される可能性は高い。

なお、常識的に考えれば経済活動の再開で2022年頃からテーパリングが始まり、過去の例を考えると長期金利の上昇などを通じてリスク資産価格には一時的に調整圧力が強まる可能性は高い。そのため、2022年には一旦調整局面があり、その後、持続可能な上昇になると予想する。

【見通しの固有リスク】

・ワクチン接種の進捗が想定よりも早まり、人の移動制限が解除され需要増加に供給が間に合わず、価格が急騰するリスク(供給の時間差リスク)。

・米国経済が正常化する中で急速なドル高が進行し、投機的な売り圧力が高まる場合。

・OPECプラスの減産と、非OPECプラス諸国の自主減産継続で需給がタイト化する場合(価格上昇要因)。

逆に価格低迷で歳入確保の増産が加速する場合、またはOPECプラスのプログラムの対象となっていない中東諸国の増産(価格下落要因)。

景気回復時の増産タイミングの見誤りによる、供給不足(価格上昇要因)。

・脱炭素の進捗、生活様式の変化による構造的な需要減少が加速した場合

1.中東産油国の財政悪化によって情勢不安が顕在化、供給途絶リスクが高まる

2.中東以外の産油国の生産者の破綻

3.上流投資部門投資が減速し、インドなどの新興国需要顕在化時に供給が間に合わない場合

4.価格面、数量面で予算を確保できない産油国が、OSPを大幅に引き上げる場合(第3次オイルショック)

などが価格上昇要因に。

・バイデン政権がシェールオイルのフラッキングやパイプライン敷設を制限/禁止する場合、供給減少で価格上昇要因に。

また、イランに対する制裁が緩和される場合、原油価格の下落要因に。ただし、米国内の反イラン感情の高まりで、直ちに制裁が緩和される可能性は低い。

・イランの反米感情が高まり、中東の不安定さが増す場合(価格上昇要因)。

イランでは6月に大統領選挙が予定されており、国内保守派に配慮してロウハニ大統領はタカ派的な発言をする可能性があるが、制裁解除に向けた融和的なコメントも欧米向けに発信せざるを得ず、ロウハニ大統領の発言で価格は左右される見込み。

・米国の橋渡しでイランとサウジを初めとするスンニ派諸国が和解し、巨大なイスラム教圏が誕生した場合(地域安定で原油生産増加、短期的には価格の下落要因に。ただし相当発生の可能性が低いリスクシナリオ)。

【石炭価格見通し】

海上輸送石炭価格は高値を維持すると考える。バルチック海運指数の上昇を見るに値動きは旺盛で、かつ、豪州で発生した洪水の影響でニューキャッスル炭の積み出しに遅れが出ていることから。

中国政府は国内炭の供給能力増強にシフトしているが、経済活動の回復に供給が十分ではない。

ただし、豪州との対立や、環境規制強化の中で石炭需要は減速するとみられること、非常に矛盾するが国内生産を増加させていること、春先に掛けては季節的に需要が減少することから海上輸送炭価格の上値は重くなると予想される。

2月の中国の石炭輸入は気温低下の影響で前月から大幅に増加。前年水準の14倍、前月から3倍強となる3,907万5,000トン(前月1,176万トン)と顕著に増加した。

1-2月の累計では前年比▲46.0%の2,423万9,951トンと大幅に減少している。国内生産の水準が出ていないが、国内供給が増えたか、需要が減少したか、あるいはその両方かだろう。

燃料炭の港湾在庫の水準を見るに、需要減速・国内生産が同時に起きていると予想される。よって、石炭価格にも徐々に下押し圧力が掛りやすくなることが予想される。

【見通しの固有リスク】

・世界的な環境重視型世界へのシフトを受けた、石炭上流部門への投資規制強化による、供給減速懸念。短期的には価格の上昇要因。

・中国と豪州の対立、中国国内の生産能力増強に伴う、海上輸送炭需要の減少。

・北半球の夏場の猛暑(/冷夏)・冬場の厳冬(暖冬)。

・エルニーニョ現象発生が予想される夏場にかけて、北半球が猛暑となるリスク(気象庁の分析では冷夏になりやすい。日本は西日本が猛暑になる可能性)

【天然ガス・LNG】

天然ガス価格は冬場の終了が近づいていることから下落すると予想する。しかし、在庫が十分ではないため底堅い推移になる見込み。

長期契約のLNGに関しては、原油リンクとなるため上昇見通しだが、価格反映までに3ヵ月程度の時間差があるため(消費者への影響はさらに3ヵ月後)、現時点ではまだ上昇していないと考えられる。次の懸念は夏のピーク時の電力・ガス価格への影響だろう。

【見通しの固有リスク】

・最大供給国であるロシアの増産。

・産油国の減産継続による随伴ガス供給の減少懸念。

・北半球の夏場の猛暑(/冷夏)・冬場の厳冬(暖冬)。

・エルニーニョ現象発生が予想される夏場にかけて、北半球が猛暑となるリスク(気象庁の分析では冷夏になりやすい。日本は西日本が猛暑になる可能性)

【投機筋のポジション動向】・WTIは投機の買いが増加、ショートも増加したがネット買越し幅は拡大。Brentは高値圏にあることからショートが増加し、ネット買越し幅は縮小している。

・直近の投機筋のポジションは以下の通り。

WTIはロングが680,508枚(前週比 ▲12,000枚)ショートが155,066枚(▲4枚)ネットロングは525,442枚(▲11,996枚)

Brentはロングが412,478枚(前週比+5,306枚)ショートが78,075枚(+11,062枚)ネットロングは334,403枚(▲5,756枚)

---≪LME非鉄金属≫---

【非鉄金属価格見通し】

非鉄金属価格は短期的には調整圧力が強まる展開になると予想する。かねてから指摘してきた景気の正常化に伴う長期金利の上昇が顕在化しており、それに伴うドル高進行が、ファイナンシャルな要因で上げが加速してきた非鉄金属セクターの下押し要因となるため。

ただし、各国の財政出動並びに金融緩和スタンスは継続される見込みであり、中国のみならず、米民主党政権は1.9兆ドルの経済対策に加え、4年で2兆ドル規模の経済対策(クリーン・インフラ投資)を検討、中国も7月の共産党結党100周年記念までは少なくとも景気刺激を続けると見られる。

これらの需要は景気に関係なく発生する需要であるため、需要の見通しは底堅く、価格の調整があっても下値余地は限定される可能性が高い。

また、中期的には調整圧力が強まる展開になるとの予想は、現時点では変更する必要はないと考えている。中国政府が国内バブルを警戒する姿勢を強めていること、米経済統計回復に伴うドル高進行、早ければ2021年末頃から始まる可能性がある、米テーパリング開始の可能性、生産国の生産が回復する可能性が高いことが材料。

なお、現在の価格上昇は実際に中国の需要の増加による需給タイト化によるものであり、環境規制強化が牽引する価格上昇ではない。しかし、一時の過熱感はややトーンダウンしている。

2月の中国製造業PMIは50.6(前月51.3)と小幅に減速。生産や輸出向けの受注が減速(50.2→48.8)、新規受注も全体で51.5(52.3)と減速している。恐らく国内向けの新規受注も小幅に減速したとみられる。鉄鋼業PMIは輸出向けの受注が回復したが、工業製品全体ではやや足踏みしているようだ。

ただ、非鉄金属価格に対する説明力が高い新規受注在庫レシオは、完成品が1.063→1.073、原材料が1.067→1.080といずれも小幅に上昇しており、先月までの需給緩和圧力が弱まった、と言えるだろう。

しかし、同レシオと比較した場合の非鉄金属価格の上昇幅は顕著であり、やや上げすぎの感は否めない。

このほか、環境重視型社会への急速なシフト観測も、投機買いを加速させている感は否めない。

米国・中国・インドがどのような動きをするかに環境政策は左右されるが、ここまでの各国の動きを見ていると当面は環境向けに使用される金属の需要増加は「今後10年・20年の大きなテーマ」となる可能性が高いと言える。

足下は期待選好で、総じて中長期的には物色されやすい地合が続くとみる。

具体例を挙げると、軽量化目的のアルミ、EV向けのニッケル、銅(通常25キロ/台の銅が使われるが、EVは80キロ/台)、蓄電池としての鉛、コバルト、リチウムなどが挙げられる。

2020年の中国の新エネルギー車の販売は前年比+7.5%の137万台(前年124万台)となった。全体の自動車販売が2,523万台なのでシェアは5.4%(4.9%)と上昇している。それでも電気自動車が非鉄金属市場の重要なテーマになるには、あと数年は要するだろう。

【見通しの固有リスク/個別金属の特殊要因】

・米国経済が正常化する中でドル高が進行し、投機買いが膨らんでいる非鉄金属市場で投機の手仕舞い売り圧力が高まる場合(下落リスク)。

・米中間選挙に向けて、米民主党が追加でインフラ投資(2兆ドルのクリーンインフラ投資など)を行う場合(上昇リスク)。

・主に銅山を中心とする労使交渉長期化による供給減少が、2021年も継続する場合(上昇リスク)。

コロナの影響もあって、2020年12月1日時点の鉱山生産への影響は全体で184万1,000トン、コロナの影響によるものは112万3,000トン。

精錬品生産で影響を受ける規模が、全体で141万6,000トン、コロナによるものが62万8,000トン。

・中国の環境規制強化やコロナの影響再発に伴うスクラップの調達難による、新塊需要の増加。

・上流部門投資不足並びに鉱石の品位低下による、鉱山供給の制限。

・環境問題や人権問題(コンフリクト・メタルの問題)を背景とする鉱山供給の減少。

また、環境に配慮したメタル使用の義務化などが欧州で進む場合などのコストアップ(グリーン・メタルの義務化によるコスト増加)。

【投機筋のポジション動向】・先週、投機筋はロングが増えている金属が目立ち始めたが、同時にショートが増加しており、そろそろ相場が天井に来ていると判断している市場参加者が多いことを示唆している。

・LME投機筋買い越し金額 前週比▲7.8%の267億ドル(前週 289億ドル)・LME投機筋買い越し数量 前週比▲4.6%の5,874.3千トン(前週 6,160.0千トン)

---≪鉄鋼原料≫---

【鉄鋼原料価格見通し】

鉄鉱石価格は、中国の景気先行指標をみるに堅調な推移を続けると考える。中国の顕在需要が増加していることが背景。

今後も、中国政府のインフラ投資を柱とする経済対策が今年7月の中国共産党結党100周年記念まで続くと予想されること、全人代では財政赤字幅を市場予想よりも拡大する見通しが示され、さらなる景気刺激が見込まれること、これに加えて米国も、バイデン大統領の公約である4年2兆ドルのクリーン・インフラ投資を行う見通しであること、中国国内の鉄鋼原料在庫日数の水準が低いことから(鉄鋼製品在庫の水準は増加)在庫積み増し需要も継続する可能性が高く、基本は底堅い推移となる。

ただし、中国政府は景気刺激と同時に住宅セクターのバブルを懸念し始めており、住宅取得規制の動きも見せている。しかし、同時に自動車取得を促す政策も発表(ナンバープレート取得条件緩和、新エネルギー車購入に補助金、自動車ローンの頭金引き下げ)しており、やや一貫性に欠ける。バブルは警戒しているが、直ちに規制を強めることはなさそうだ。

ただし、中国共産党は2021年から始まる新しい5ヵ年計画で鉄鋼生産量の削減の必要性を表明している。目先の景気刺激が終了し、景気の巡航速度への回復が確認されるタイミングで景気刺激と鉄鋼増産は回避される可能性が高く、年後半に掛けては価格は下落すると予想する。

2月の中国鉄鋼業PMIを見ると、総合指数は48.6(前月44.3)と大幅に回復した。生産指数が54.7(48.7)と改善したこと、輸出向け新規受注が61.4(55.2)と回復した影響が大きかった。なお、新規受注は全体では43.3(35.0)と50を下回っているため、国内向けの需要が減速している可能性が高いことを示唆している。

中国は国内の過剰な経済対策を鈍化させ、輸出主導の回復に徐々にシフトしていくと考えられる。在庫水準は原材料の水準が上昇しているが、完成品在庫の減少が確認されている。新規受注在庫レシオは完成品が大幅に上昇(0.72→1.14)、原材料も上昇(0.83→0.93)。

しばらくは海外向けの需要回復とそれに伴う在庫積み増しで、鉄鋼製品の在庫積み増し需要に牽引される形で鉄鋼セクターの動きは底堅く推移しよう。

ただし、規模的に国内需要よりも小さい外需の取り込みであるため、回復ペースは鈍化すると予想され、原料調達圧力も弱まることから価格の上昇ペースも鈍化することになると予想される。

中国の鉄鋼製品の輸入は通常、平均で110万トン程度なのだが、2月は前年比+6.9%の108万トン(前月131万トン)と減少傾向を持続し、過去5年レンジの上限まで減速した。

12月の国内生産は季節性もあるが9,125万トン(前月8,766万トン、10月 9,220万トン、9月 9,256万トン)と回復した。

その一方、2月の鉄鋼製品輸出は490万トン(前月524万トン)と低迷、過去5年レンジの下限(780万トン)を下回った。このことは海外市場の回復が低迷していることを示唆する一方、国内需要はそれなりに堅調であることをうかがわせる。

弊社はこの鉄鋼製品の輸出入動向に注目しているが、輸出/輸入とも過去5年レンジに復帰しており、徐々に過剰な国内依存(政策依存)の需要環境から、輸出に牽引される形での鉄鋼業の操業状態(通常状態)に戻っていると考えている。

なお、中国の鉄鋼製品需要は旺盛とみられるが在庫水準は前週比▲86万2,000トンの2,157万8,000トン(過去5年平均 1,745万2,000トン)と、例年よりも在庫水準は高い。

これまで需給はタイト化しているとみられたが、中国政府が過度な住宅セクーの過熱を警戒しているせいか、やや緩和方向にシフトしている可能性がある。

実際、2月の中国の建設業PMIが閾値の50は上回っているものの、前月の60.0から54.7とコロナ禍で減速した昨年2月以来の低水準に減速している。

原料である鉄鉱石の2月の輸入は前年比+3.8%の9,050万トン(前月▲4.5%の9,675万トン(前月+1.7%の9,100万トン)。昨年と春節の自慰が異なるため一概に比較はできないが、1-2月で合計すると前年比+2.7%の1億8,151万トンと、過去5年の最高水準である1億8,461万トンには及ばないが、過去5年平均である1億7,338万トンは大きく上回っている。中国の鉄鋼セクターの活動は旺盛、と言えるだろう。

9,815万トン)と高い水準を維持しているが減速、過去5年レンジに復帰した。このことは中国の国内需要が減速している可能性を示唆している。前年水準を下回ったことで、中国の国内需要は減速傾向にあると判断される。

鉄鉱石港湾在庫は前週比+295万トンの1億3,385万トン(過去5年平均1億3,209万6,000トン)、在庫日数は27.4日(過去5年平均 36.9日)と例年と比較して在庫日数の水準は低く、輸入需要は持続するものと思料。

原料炭は中国の生産活動回復が継続していること、国内の鉄鋼需要が公共投資で底堅いことから、同様に底堅い推移になると考える。しかし、中国政府は原料炭を含む石炭の国内生産を増加させる方針であることから、海上輸送原料炭価格の上値も重い。

中国の港湾在庫の水準は鉄鋼の最大生産省である河北省の主要港である、京唐港の港湾在庫は前週比▲27万トンの211万トンと過去5年の最高水準である193万トンを上回っている。

在庫日数は前週比▲1.0日の8.1日と、過去5年の最高水準である10.2日を下回った。再び原料炭需給はタイト化の方向にある。

【見通しの固有リスク】

・鉄鉱石価格の上昇がレーショニング(価格上昇による需要減少)を引き起こす場合。

・世界的に広がる環境規制強化の流れで、鉄鉱石や原料炭などの生産に一定の影響が起きる場合。

・コロナウイルスの感染拡大長期化による、鉱山生産の減少リスク。

・中国とインドの国境紛争の激化で、インドが中国に対して鉄鉱石輸出を制限する可能性(中国のFOBインデックスは上昇、その他の地域の鉄鉱石価格は低下)。

---≪貴金属≫---

【貴金属価格見通し】

<<金>>

金は軟調な推移になると考える。長期金利上昇、景気回復期待でのドル高進行が米雇用統計を受けて加速していることから。

現在の金の実質金利で説明可能な価格(金基準価格)は1,535ドル。そこからの乖離(リスク・プレミアム)は205ドルと昨日から▲19ドル下落。

なお、金価格を実質金利要因と為替要因に分類した場合、為替要因はリスク・プレミアムのところに内包されると整理している(為替は名目金利の影響も受けるので、純粋に為替の要因のみ切り出すのが困難であることから)。

※毎日回帰分析をアップデートし、リスク・プレミアム自体の水準を見直しているため、前日比の整合性が取れていない場合があります。

<<銀>>

銀価格は金価格との比較感で売買されるが、金銀レシオは現在、67.5倍。過去1年を基準にすると85倍、5年では80倍、2000年以降では65倍程度が妥当。

金は高値を維持する見通しだがバイデン大統領誕生により、太陽光発電向けに用いられる「バイデン銘柄」であることもあって、需要構造の変化が価格を下支え(金銀レシオは低下)するものと予想。

なお、銀価格=金価格÷金銀レシオ であり、金銀レシオが低下することで金価格が変動した時の弾性値が上昇(ボラティリティは上昇し、足元金の2倍に上昇)する点は留意。

(例)金が2,000ドル、銀が20ドルのとき 金銀レシオが100倍→金価格±1ドルの変化で銀価格は±1セント変化 金の変化率は±0.05%、銀は±0.05%

 金銀レシオが1倍→金価格±1ドルの変化で銀価格は±1ドル変化 金の上昇率は±0.05%、銀は±5%

<<PGM>>

プラチナ価格は銀価格との連動性が高い。これは供給過剰で投機的な取引の影響が強まっていることによる。これまで、各国の自動車セクターの回復期待と、主要生産国である南アフリカの供給不安が価格を押し上げている。

ただし米長期金利上昇に伴う、ベンチマークの金価格の調整は下押し圧力を強めることになるだろう。

仮に脱炭素が進んで水素が用いられ、燃料電池が進むのであればプラチナの構造的な需要が増加するシナリオは、需要・価格面でのポジティブリスクシナリオ。投機の比率が高い商品であるため、こうした観測記事だけでも材料に価格が反応しやすい。

パラジウムは景気正常化期待による金価格調整→経済正常化による需要増加、ロシア生産者からの供給減少観測を受けて高値を維持すると考える。

コロナショック後、パラジウム価格は基本的にETF価格との連動性が高まった(自動車向けの需要減少で余剰が発生したため)が、足下、ETFの残高の変動以上に価格が上昇している状況。

自動車生産が回復すれば再びパラジウム供給不足が発生し、ETFの残高減少と価格上昇が同時に発生する可能性が高いとみている。

2月の米自動車販売は年率1,567万台(前月1,606万台、市場予想1,663万台)と減速した。

中国の1月の自動車販売は中国自動車工業協会の集計で前年比+371%の146万台(前月+30%の250万台、12月+6.4%の283万台、11月+12.7%の276万9,666台、10月+12.6%の257万3,000台、9月+13.0%の256万5,201台)と前年比の伸びが加速している。

ただし今月の加速は昨年のコロナからの反動で、2019前年比では▲1.8%とまだ回復していない。

【見通しの固有リスク】

・個人投資家のETFを通じた買いが、経済合理性を無視した水準まで貴金属価格を押し上げるリスク。

・主要生産国の南アフリカの電力供給不安や、コロナウイルスの影響拡大で供給が滞る場合(PGMの価格上昇要因)。

・世界的な成長力の低下に伴い、各国の財政状況が悪化、地政学的リスクが顕在化する場合(中東・北アフリカのリスク顕在化の可能性は低くない)。リスク・プレミアム上昇を通じて貴金属価格の上昇要因に。

・米中の対立激化。米国は今回のウイルス問題で、中国の医療面、人工知能を含むIT面に脅威を感じた可能性は高く、対立が激化する場合(安全資産価格の上昇要因)。

・中国地方政府・中堅中小企業の財政状況悪化に伴う景気減速による安全資産需要の増加(実際に破綻が意識されるのは2030年以降か)。

・世界的な自動車販売の減速(米欧中)による、自動車向け排ガス触媒需要の減少(PGM)。

環境重視型社会へのシフトはパラジウム需要を増加させるが、さらに加速して「水素社会」まで到達すると、燃料電池車需要が増加して構造的にプラチナ価格の上昇要因となる可能性。

・コロナウイルスの感染拡大による、最大生産国の1つである南アフリカの鉱山稼働が電力供給問題もあって不安定であることによる供給懸念。

【投機筋のポジション動向】

・直近の投機筋のポジションは、金はロングが256,237枚(前週比 +1,398枚)、ショートが76,041枚(▲3,635枚)、ネットロングは180,196枚(+5,033枚)、銀が70,658枚(▲787枚)、ショートが37,049枚(+1,753枚)、ネットロングは33,609枚(▲2,540枚)

・直近の投機筋のポジションは以下の通り。

プラチナはロングが42,685枚(前週比 +1,889枚)ショートが11,242枚(▲1,517枚)、ネットロングは31,443枚(+3,406枚)

パラジウムが5,029枚(+622枚)、ショートが3,467枚(▲115枚)ネットロングは1,562枚(+737枚)

---≪農産品≫---

【穀物価格見通し】

穀物価格はトウモロコシ・大豆は中国の需要が想像以上に堅調であること、南米の洪水や北米の気象状況の悪化による供給懸念から、しばらく高値圏で推移すると考える。

しかし、米長期金利上昇によるドル高を受けて、投機的な視点で利益確定による売り圧力が強まると予想されるため、徐々に水準を切り下げる動きになると考える。

足下の価格上昇を受けて作付け面積の拡大が全ての穀物で見込まれており、価格の下押し要因となる。作付け意向面積は3月末に発表予定であり、予定されている材料としては目先、最も重要なものになるだろう。

しかし、寒波と降雪の影響で作付けに影響が出る可能性がある。冬場の降雪量が多かった場合、通常であれば春の土壌水分改善で播種が進み豊作に繋がると判断されるのだが、想定以上の雪解け水が発生した場合には逆に耕作が不可能になるため、価格の上昇リスクとなり得る。

Locust Watchではエチオピア、ケニアで群生相が発生していたが、アラビア半島でも群生相を形成しつつ、北上している。

昨年末も大型のサイクロンがアラビア半島~北アフリカを通過、豪雨が観測されており、バッタの成育に良好な環境が提供されている可能性があり、このままだと今年も蝗害が起きる可能性は否定できない。
http://www.fao.org/ag/locusts/common/ecg/75/en/DL509map_pg1.jpg

【見通しの固有リスク】

・ラニーニャ現象の発生による穀物供給減少リスクの顕在化。害虫の発生、生産地の土壌破壊など(すでに一部顕在化)。

春から夏にかけて発生する可能性が高まっているエルニーニョ現象の影響による不作。

・環境重視型社会へのシフトにより、燃料向け穀物需要が増加する場合(価格の上昇要因)。現在はそれほどの数量でもない、バイオディーゼル向けの大豆需要増加など。

・新型コロナウイルスの影響拡大による、輸出活動の停滞(シカゴ定期を含む生産地価格の下落要因)。

【米農務省需給報告データ】

・米穀物作付け意向面積トウモロコシ 9,699万エーカー(市場予想 9,412万エーカー)大豆 8,351万エーカー(8,502万エーカー)小麦 4,466万エーカー(4,495万エーカー)

・米穀物最終作付け面積トウモロコシ 9,201万エーカー(市場予想 9,514万エーカー)大豆 8,383万エーカー(8,483万エーカー)小麦 4,425万エーカー(4,472万エーカー)

・3月米需給報告単収見通し(実績/市場予想/前月)トウモロコシ 172.0Bu/エーカー(NA、172.0)大豆 50.2Bu/エーカー(NA、50.2)小麦 49.7Bu/エーカー(NA、49.7)

・3月米需給報告生産見通し(実績/市場予想/前月)トウモロコシ 141億8,200万Bu(NA、141億8,200万Bu)大豆 41億3,500万Bu(NA、41億3,500万Bu)小麦 18億2,600万Bu(NA、18億2,600万Bu)

・3月米需給報告輸出見通し(実績/前月)トウモロコシ 26億Bu(25億5,000万Bu)大豆 22億5,000万Bu(22億3,000万Bu)小麦 9億8,500万Bu(9億8,500万Bu)

・3月米需給報告在庫見通し(実績/市場予想/前月)トウモロコシ 15億200万Bu(14億6,035万Bu、15億5,200万Bu)大豆 1億2,000万Bu(1億1,673万Bu、1億4,000万Bu)小麦 8億3,600万Bu(8億3,838万Bu、8億3,600万Bu)

・12月末四半期在庫(実績/市場予想/前月)トウモロコシ 113億2,200万Bu(117億4,670万Bu、19億5,000万Bu)大豆 29億3,300万Bu(29億2,900万Bu、5億2,500万Bu)小麦 16億7,400万Bu(16億9,555万Bu、21億5,800万Bu)

・2月CONABブラジル作付け面積(実績/市場予想/前月)トウモロコシ 1,909万ha(1,946万ha、1,846万ha)大豆 3,827万ha(3,845万ha、3,819万ha)

・2月CONABブラジル生産量(実績/市場予想/前月)トウモロコシ 1億548万トン(1億853万トン、1億231万トン) 単収 5,525Kg/ha(5,576kg/ha、5,541kg/ha)大豆 1億3,382万トン(1億3,327万トン、1億3,369万トン) 単収 3,497Kg/ha(3,469kg/ha、3,500kg/ha)

【投機筋のポジション動向】

・直近の投機筋のポジションは以下の通り。

トウモロコシはロングが583,279枚(前週比 +830枚)、ショートが74,195枚(▲4,856枚)ネットロングは509,084枚(+5,686枚)

大豆はロングが265,531枚(▲343枚)、ショートが44,000枚(+2,871枚)ネットロングは221,531枚(▲3,214枚)

小麦はロングが118,153枚(▲3,721枚)、ショートが101,097枚(+5,309枚)ネットロングは17,056枚(▲9,030枚)

◆本日のMRA's Eye


「アラブの春再び?」

コロナウイルスの感染拡大が、ワクチン開発・接種の進捗によって収束するとの期待が強まってきた。しかし、依然として国家間の人の移動は制限され、完全に解除されて「プレ・コロナ」の状況に戻るにはまだまだ時間がかかりそうだ。

そのため、景気刺激のために各国政府は金融・財政のアクセルを踏んで景気を積極的に下支えしている。ところが、コロナの影響によって労働力やロジスティクスが十分に担保できない状態にあり、幅広く商品の供給に影響がでており、価格の上昇圧力が強まっている。

供給側の制限と、官製需要に牽引される形の価格上昇といえるが、常識的に考えて景気が正常化すればこの過剰な経済政策や金融政策は正常化の方向に向かうはずであり、メインシナリオは2022年頃からテーパリングが始まり、顕著に上昇していた多くの商品が調整、その後、本格的な経済活動の正常化と、インドの人口ボーナス期入りと相まって緩やかな上昇基調に転じる展開を想定している。

しかし、本当にそうなるのだろうか。場合によると多くの資産価格が下落をせず、さらに上昇する可能性も十分に有り得る。というのも2022年は早くも米国は中間選挙の年であり、景気刺激をそう簡単に止めるわけにはいかないかもしれないからだ。

この場合、過去に見られたような「金融相場」の様相を呈し、いろいろな価格が上昇する可能性がある。さらに懸念すべきは食品価格が上昇するリスクがあることだ。この場合、新興国のみならず中東産・北アフリカの産油国への影響は小さく無いと考えている。

理由は、コロナの影響で経済活動に対して強制的にブレーキが掛けられており、化石燃料の需要が低迷していること、サウジアラビアに主導されて継続しているイエメンでの戦争などの影響で財政状況が悪化しているうえ、世界的な流れとなっている脱炭素の動きで中東産原油の需要が減少し、さらに財政状況が悪化する可能性があるためである。

恐らく米国で移動制限が部分的に解除されるのが今年の夏休み頃であり、その他の地域はそれに追随する形となるため、恐らく制限が残りながらも人の移動が比較的自由にできるようになるのは今年の秋から来年にかけてになると予想される。

イエメンでのイランとの代理戦争は、米バイデン政権が誕生してから強い牽制球が投げられており、サウジアラビア(のムハンマド皇太子)は米国の意向を無視できなくなっている。そのため、状況は改善すると見られるがまだ先行きは不透明である。

斯様な環境下、原油価格の低迷が重なり主要産油国の財政状況は悪化してきた。各国のGDPに占める財政収支の状況は、「アラブの春」が発生した2010年から顕著に悪化しており、若年層の失業率も水準が上昇している国が多い。

アラブの春は食品価格の高騰が貧困層を直撃したことが原因と考えられるが、産油国の財政状況は実は現在ほど悪くなかった。

なお、2010年から始まった「アラブの春」は「中東の民主化の動き」と紹介されることが多いが、実際は穀物・食品価格の高騰や多数の失業者がいることから、現政権への不満が爆発したものと整理するのが妥当だろう。

このときは、米国でガソリンの添加剤として用いられてきたMTBE(メチルターシャリーブチルエーテル)が環境汚染物質として使用が禁止され、トウモロコシ由来のエタノールへのシフトが起き、「再生可能エネルギー」の使用が増加した時である。

では今年はどうか。2020年~2021年にかけてラニーニャ現象が発生、中国の穀物輸入量増加(豚コレラの収束に伴う飼料需要の回復)によって穀物価格が既に上昇を始めている。さらに脱炭素が進む中でバイオ燃料などへの需要が高まれば、再び穀物価格が上昇することもあり得る。

これに加えて、今年はエルニーニョ現象の発生も見込まれており、穀物生産に悪影響となる可能性も否定できない。また、昨年から懸念していたように、北アフリカでは早くもサバクトビバッタが大量発生している。

食品価格の上昇は、生活に直結するところであるため国民は不満を持ちやすい。その場合、そういった危機に対応する能力、非常に端的に言えば資金力があるかどうか、あるいは暴動が発生した時に、物理的な原動力となりやすい若年層がどれだけ生活に満足しているか、これも端的に言えば仕事があるかどうかがポイントになる。

1人当たりGDPが低く、かつ、若年層の失業率が高い国は、1.国としての財政的な対応能力が低下し、2.最も行動を起こしやすい若年層の不満が鬱積している可能性が高い。

現在の産油国の状況は、1.2.共に悪化している国が多い。以上を勘案すると今年は中東で暴動が起きる可能性は排除できないだろう。さらに、イランの大統領選も控えており、米国も中東諸国に対するスタンスをオバマ政権時代の状態に戻そうとしている。これに伴うパワーバランスの変化も暴動発生の引き金となり得る。

ただし、現在の食品や生活必需品の価格はアラブの春が発生した頃の水準にはまだ至っていないため、直ちに各国で暴動が起きるとは思わない。また、世界の穀物在庫の水準も実はそれほど低いわけではない。

また、現在世界的な動きとなっている脱炭素についてもしばらくは、脱炭素に至るまでのLNG需要の増加や、水素向けの原料需要が見込まれるため直ちに石油離れが起きて暴動が拡大する可能性は低下している。そのため上記のシナリオはもっともらしく説明しているが、まだ、「リスクシナリオ」の位置づけであることは強調しておきたい。

◆主要ニュース


・2月日本コンビニエンスストア売上高 前年比▲5.3%(前月▲4.9%)

・1月日本景気動向指数改定 先行指数 98.5(速報比▲0.6、前月改定 97.7)、景気一致指数 90.3(▲1.4、88.2)

・1月ユーロ圏経常収支季節調整済 305億ユーロの黒字(前月367億ユーロの黒字)

・2月シカゴ連銀製造業活動 ▲1.09(前月0.75)

・2月米中古住宅販売 前月比▲6.6%の622万戸(前月+0.2%の666万戸)

・中国1年短期貸出プライムレート 3.85%(変更前 3.85%)、5年長期貸出プライムレート 4.65%(4.65%)

・日銀、ETFを501億円を購入。政策点検前と同じ。

・ルネサスエレクトロニクスの火災、1ヵ月で修復と報じられるが、当面自動車向けの半導体供給には支障が出る可能性。

・豪州東部で記録的な洪水。

・リッチモンド連銀バーキン総裁(投票権あり・タカ派)、「経済成長の加速が好ましくないインフレ加速に繋がったり、金融政策の調整の必要性をもたらしたりする兆候は見られない。」

・中国に対し、米国とEUが制裁。ウイグル人問題で。中国も即時に報復し、EUの個人10人と4団体に制裁を科すことを明らかに。

◆エネルギー・メタル関連ニュース


【エネルギー】
・サウジアラビア、ファイサル外相、イエメンのフーシ派に対して停戦を呼びかける。

・南豪州政府、ロッテルダム港と水素を輸出する可能性を研究するための覚え書きに署名。

・豪州東部で記録的な洪水。ニューサウスウェールズからニューキャッスル港への石炭輸送鉄道が停止、石炭供給に支障。

【メタル】
・ILZSG 1月世界亜鉛生産 1,190千トン(前年1,160千トン)
 需要 1,178千トン(1,094千トン)、
 需給バランス +12千トンの供給過剰(+66千トンの供給過剰)

・ILZSG 1月世界鉛生産 999千トン(前年 933千トン)
 需要 1,021千トン(933千トン)
 需給バランス ▲22千トンの供給不足(±0.0)

・Nornickel、モンチェゴルスクの冶金工場を閉鎖。二酸化硫黄の主要な排出源だったが、環境規に合わせたもの。今後は銅精錬設備を建設の予定で、精錬銅生産量は従来の2倍となる15万トン/年に。

・東京製鐵 鋼材価格値上げ。圧延コイル 前月比+6%の8万4,000円/トン、溶融亜鉛めっきコイル +5%の10万8,000円、圧延鋼板 +4%の8万8,000円

・米テスラ、トラフィグラとニューカレドニア自治体の合弁会社、プロニー・リソーシズやヴァーレからバッテリーに必要な精錬ニッケルを購入する権益を取得へ(日経新聞)。

・ルノー、ヴェオリア、ソルベイの2社とバッテリーに必要なレアメタルのリサイクルに向けて提携を決定。

・2月中国精錬ニッケル生産 前年比+1,832千トンの9,313千トン(前月 10,407千トン)

・2月中国精錬錫生産 前年比▲81トンの459トン(前月 1,528トン)

・2月 中国送電網向け投資 前年比 +89億元の227億元(前月 757億元)

・2月 中国ステンレス鋼生産 前年比 +608千トンの2,551千トン(前月 2,735千トン)

・2月中国原料炭輸入 前年比▲2,117千トンの3,227千トン(前月 3,122千トン)

◆主要商品騰落率


【上昇率上位5商品】

商品名(カテゴリー)/前日比上昇率/年初来上昇率
1.ICE欧州天然ガス ( エネルギー )/ +6.10%/ ▲18.92%
2.CBT大豆油 ( 穀物 )/ +4.64%/ +30.09%
3.CME木材 ( その他農産品 )/ +4.47%/ +6.08%
4.ICEアラビカ ( その他農産品 )/ +3.71%/ +1.44%
5.MDEパーム油 ( その他農産品 )/ +3.11%/ +6.35%

【下落率上位5商品】

商品名(カテゴリー)/前日比上昇率/年初来上昇率
66.ビットコイン ( その他 )/ ▲6.60%/ +88.15%
65.CBT大豆ミール ( 穀物 )/ ▲2.77%/ ▲8.70%
64.日経平均 ( 株式 )/ ▲2.07%/ +6.30%
63.銀 ( 貴金属 )/ ▲1.89%/ ▲2.47%
62.CBTトウモロコシ ( 穀物 )/ ▲1.57%/ +13.43%

※弊社が重要と考える主要商品の前日比騰落率上位・下位5品目です。
※限月交代に伴う価格の不連続性は考慮されていません。予めご容赦ください。

◆主要指標


【為替・株・金利・ビットコイン】
NY ダウ :32,731.20(+103.23)
S&P500 :3,940.59(+27.49)
日経平均株価 :29,174.15(▲617.90)
ドル円 :108.85(▲0.03)
ユーロ円 :129.89(+0.28)
米10年債 :1.69(▲0.03)
中国10年債利回り :3.23(▲0.01)
日本10年債利回り :0.08(▲0.03)
独10年債利回り :▲0.31(▲0.02)
ビットコイン :54,555.49(▲3854.51)

【MRAコモディティ恐怖指数】
総合 :30.24(▲0.37)
エネルギー :27.85(▲0.55)
ベースメタル :40.43(+0.64)
貴金属 :26.47(▲0.74)
穀物 :21.93(+0.73)
その他農畜産品 :31.72(▲1.09)

【主要商品ボラティリティ】
WTI :41.40(▲2.06)
Brent :41.18(▲2.03)
米天然ガス :28.05(+0.5)
米ガソリン :32.94(▲0.44)
ICEガスオイル :29.14(+0)
LME銅 :33.20(▲1.51)
LMEアルミニウム :23.79(+2.15)
金 :16.92(▲0.04)
プラチナ :31.39(+0.05)
トウモロコシ :24.17(+0.16)
大豆 :16.92(▲0.04)

【エネルギー】
WTI :61.55(+0.13)
Brent :64.62(+0.09)
Oman :63.85(+0.10)
米ガソリン :195.98(+1.67)
米灯油 :182.93(+0.70)
ICEガスオイル :513.50(+3.00)
米天然ガス :2.58(+0.05)
英天然ガス :45.73(+2.63)

【貴金属】
金 :1739.03(▲6.20)
銀 :25.75(▲0.50)
プラチナ :1186.85(▲11.01)
パラジウム :2622.67(▲17.64)
※ニューヨーククローズ。

【LME非鉄金属】
(3ヵ月公式セトル)
銅 :9,086(+69:11.5B)
亜鉛 :2,873(+75:12.5C)
鉛 :1,977(+36:25.5C)
アルミニウム :2,283(+60:28.5C)
ニッケル :16,473(+302:48C)
錫 :25,540(+190:1710B)
コバルト :52,679(±0.0)

(3ヵ月ロンドンクローズ)
銅 :9130.00(+64.00)
亜鉛 :2879.00(+31.00)
鉛 :1977.50(▲0.50)
アルミニウム :2274.00(▲3.50)
ニッケル :16455.00(+205.00)
錫 :25870.00(+500.00)
バルチック海運指数 :2,319.00(+38.00)
※C=Cash-3M コンタンゴ、B=Cash-3M バック

【鉄鋼原料】
62%鉄鉱石スポット(CFR中国、1営業日前) :165.46(▲1.04)
SGX鉄鉱石 :164.63(▲0.95)
NYMEX鉄鉱石 :167.37(▲0.63)
NYMEX豪州原料炭スワップ先物 :116(+0.30)
大連原料炭先物 :246.78(▲2.33)
上海鉄筋直近限月 :4,737(+35)
上海鉄筋中心限月 :4,800(+31)
米鉄スクラップ :597(+7.00)

【農産物】
大豆 :1417.50(+1.25)
シカゴ大豆ミール :396.60(▲11.30)
シカゴ大豆油 :56.37(+2.50)
マレーシア パーム油 :4138.00(+125.00)
シカゴ とうもろこし :549.00(▲8.75)
シカゴ小麦 :627.25(+0.25)
シンガポールゴム :237.00(+1.00)
上海ゴム :14405.00(▲145.00)
砂糖 :15.53(▲0.23)
アラビカ :130.10(+4.65)
ロブスタ :1383.00(+18.00)
綿花 :84.62(▲0.06)

【畜産物】
シカゴ豚赤身肉 :95.05(+0.80)
シカゴ生牛 :118.78(+0.38)
シカゴ飼育牛 :135.08(+0.40)

※全ての価格は注記が無い限り、取引所で取引される通貨建。
※限月交代に伴う価格の不連続性は考慮されていません。予めご容赦ください。