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デジタル人民元と日本企業への影響
  • MRA外国為替レポート

2021年2月22日号

◆先週の市場総括


先週は週初から日経平均が大幅高。米国の経済対策早期成立期待、ワクチン接種の開始、内外における感染者減少で、経済活動正常化・景気回復・企業業績回復期待が高まった。

決算発表が一巡し予想よりも良好な決算が多かったことも株価を支えた。日経平均は30,000円の大台に乗せ、NYダウも連休明けに史上最高値を更新した。

為替市場ではリスク選好が強まるなか円が軟調。ドルはリスク選好・株高で押される場面もあったが、米長期金利がさらに上昇、高止まりしたことで週前半は堅調。その後は上昇一服となった。

ドル円相場は105円ちょうど近辺で始まり106円台に上昇したが、週末にかけて105円台前半に軟化した。週末引けは105円40銭台。

ユーロ円相場は127円台前半から週央には128円台半ばへ上昇した後127円台後半に押し戻された。ユーロドル相場は1.21台半ばから1.20台前半に下落し、週末にかけては下げ止まり1.21近辺で引け。

株価は週末にかけて高値警戒感のなか米長期金利の上昇を嫌気し利益確定売り先行で調整色を強めた。

日経平均は3日続落で引値では30,000円の大台を辛うじて維持。米国株は景気敏感株が堅調も長期金利の一段高が嫌気されハイテク株は軟調。週末にかけて上値重く、NYダウは前週末とほぼ同水準の31,494ドル。ナスダックは13,874ドルで前週末より▲200ドル安で引けた。

月曜日の東京市場では日経平均がバブル後に初めて3万円の大台を回復した。日経平均は29,700円近辺で寄付き、早々に上昇して大台の30,000円に乗せた。

引き続き米国の経済対策早期成立期待、国内のワクチン接種開始、感染者減少、から経済活動正常化期待、景気・企業業績回復期待が強気を支えた。

午前中には29,800円台に押したが、午後はじり高となり引けにかけて一段高の高値引け。前週末比+564円の大幅高で、30,084円で引けた。

為替市場では株高・リスク選好のなか円が全面安、ユーロ円相場の上昇が際立った。

ユーロ円相場は127円20銭で始まると一貫して上昇し夕方から欧州市場にかけて127円90銭台に上昇。ドル円相場は105円ちょうど近辺で始まり底固く、夕刻には105円20銭に小幅高。欧州市場に入って105円40銭に上昇した。

ユーロドル相場は1.2120で始まり1.2130~40で推移。欧州時間には1.2120に押し戻された。

欧州株も堅調。DAX指数は高値を更新。米国市場は休場。為替市場も動意薄となりドル円相場は105円30銭~40銭で小動きもみ合い。ユーロドル相場は1.2130近辺でもみ合い。ユーロ円相場は127円80銭中心に上下して引けた。

火曜日の東京市場では日経平均が大幅高続伸。30,200円近辺で高寄りした後、後場にかけて一貫して上昇した。

前日の米国市場は休場だったが、米国の経済対策への期待、国内ではワクチン接種開始、国内企業業績の改善などが材料。

ユニクロとソフトバンクが大幅高で日経平均を押し上げた。後場には30,700円に上昇したが引け間際に利食いに押され上げ幅を縮小し前日比+383円高の30,467円で引けた。

為替市場では円がクロス円相場・ユーロ円相場を中心に円が全面安。ユーロ円相場は127円80銭で始まり午後早々には128円30銭に上昇。その後夕刻から欧州市場にかけては反落して127円90銭~128円20銭で上下した。

ドル円相場は105円30銭近辺から60銭に上昇。その後、欧州市場にかけては反落し軟調となった。

ユーロドル相場は1.2130で始まり1.2150に上昇したが、夕刻にかけて1.2130に反落した。米国市場にかけてはドルが軟調、ユーロが反発。

発表されたドイツZEW景況感指数(2月)は期待指数が前月61.8から事前の61.0への悪化予想に反して71.2へ大きく改善。ユーロ圏景況感指数も58.3から69.6に大幅改善した。

ドル円相場は105円20銭に下落。ユーロドル相場は1.2160に上昇。ユーロ円相場は128円30銭に反発した。

米国株はまちまち。セントルイス連銀総裁が景気に強気の見方を述べた。

また発表されたNY連銀製造業景気指数(2月)が前月3.5から小幅改善予想 5.0に対して12.1と大幅な改善を示した。米10年債利回りは1.304%に上昇。

景気敏感株が堅調となる一方、金利上昇に押されてハイテク株は軟調。全体的にはやや上値が重かった。NYダウは祝日前の前週末比+64ドル高と2営業日続伸して31,522ドルで引け、史上最高値を更新した。ナスダックは同▲48ドル安の14,047ドル。VIX指数は1.49ポイント上昇して21.46。

原油価格WTIは生産地テキサスが寒波に襲われ生産停止となったことで供給懸念から上昇。60ドル近辺で引け。

ビットコインは先日のテスラ社が購入を表明したのに続いて米金融大手が投資対象とするとの報道に5万ドルの大台に急騰した。

ドルは米長期金利上昇を受けて堅調。ドル円相場は105円90銭に急騰しもみ合い106円ちょうど近辺で引け、ユーロドル相場は1.21ちょうど近辺まで急落してもみ合い。

ユーロ円相場は128円ちょうどに下落した後、株高・リスク選好のなかドル高円安が進んだことで堅調となり128円40銭で引けた。

水曜日の東京市場では日経平均が反落。高値警戒感が漂うなか、米長期金利上昇への懸念、短期筋の利益確定売りが優勢となった。30,300円台で寄付いた後は30,200近辺に下落。ただ割安株の一角には買いも入り下げ止まり30,300円中心に上下。前日比▲175円安の30,292円で引けた。

為替市場では米長期金利上昇を支えにドルが底固く、一方でユーロは下落基調。

ドル円相場は106円ちょうど近辺で始まり106円20銭に上昇。その後105円80銭台に押され、夕刻まで105円90銭~106円ちょうどのレンジを中心に上下した。

ユーロドル相場は1.21ちょうど近辺から下落して1.2090近辺でもみ合い、夕刻には一段安となり1.2070~80で上下した。

ユーロ円相場は128円30銭~40銭で始まりじり安、欧州市場にかけて下げ足を速め127円80銭に下落した。

欧州市場では長期金利上昇懸念で株価は下落。米国市場でも強い物価指標、経済指標を受けて、株式市場ではむしろ金利上昇への警戒感が強まった。

発表された米国の生産者物価指数(1月)は前月比+1.3%(前月+0.3%)、前年同月比+1.7%(同+0.8%)と上昇が大幅に加速。

小売売上高(1月)は前月比+5.3%、前年同月比+7.4%と大幅な伸び。鉱工業生産(1月)は前月比+0.9%と予想+0.5%を上回り、いずれも想定外の強さだった。

米10年債利回りは1.29%近辺で高止まり。NYダウは前日比+90ドル高の31,613ドル。朝方下落したが持ち直し。ナスダックは同▲82ドル安の13,965ドル。史上最高値圏で利益確定売りが出やすいなか金利上昇が重石となった。

WTIは大幅続伸して61.14ドル。主要製造拠点であるテキサス州の悪天候で操業停止・生産大幅減となったことが引き続き押し上げた。天然ガス生産が停止し電力供給にも支障が生じて計画停電が実施され製造業に影響が出ている。

金価格は米長期金利上昇を受けて下落基調が続き1,772ドル。

ドル円相場は105円90銭~106円10銭で上下した後、105円80銭~90銭。ユーロドル相場は下落が続き1.2030割れ。その後は持ち直して1.2040で引け。ただユーロ安ドル高が鮮明。

ユーロ円相場は127円90銭近辺でのもみ合いから127円40銭割れに大きく下落して引けは127円50銭。

公表されたFOMC議事録(1月会合分)では、米国経済・雇用情勢は目標から程遠く、現状の金融緩和継続姿勢が確認された。内容は想定通りで市場へのインパクトはなかった。

木曜日の東京市場では日経平均は小幅下落。寄付き直後に一時20,500円を付けたがすぐに反落して後場にかけては上下動しながら軟調。週初の大幅上昇の後で利益確定売りが先行し2日続落。前日比▲56円安の30,236円で引けた。

ドル円相場は105円90銭で始まり午前中10時の仲値決定直前に70銭に下落。その後は反発・じり高となり夕刻には105円90銭を回復した。ユーロ円相場は127円40銭~50銭でのもみ合いから50銭~60銭へやや底固い値動き。

ユーロドル相場は1.2040~50でもみ合い、夕刻には50台へやや上昇した。欧州市場から米国市場にかけてユーロは堅調、ドルが軟調。ユーロ円相場はじり高、ドル円相場は上値の重い展開となった。

ユーロドル相場は1.2070近辺でのもみ合いの後に1.2090へ上昇。その後やや押されたが引けにかけじり高となり1.2090台。ユーロ円相場は終始じり高となり127円80銭で引け。

ドル円相場は105円60銭に下落。その後80銭台に反発したもののじり安となり、引けは105円70銭近辺。

発表された週次の失業保険新規申請件数は861千件と前週848千件から765千件への減少予想に反して増加。継続受給者数は4,558千件から4,494千件に減少したものの小幅にとどまった。

住宅着工件数(1月)は季節調整済み年率換算で1,580千戸と前月1,669千戸から大きく減少。木材価格の上昇が重石。輸入物価(1月)は前月比+1.4%と前月+0.9%から上昇率が加速した。

フィラデルフィア連銀製造業景気指数(2月)は23.1と前月26.5から小幅悪化した。

米長期金利上昇は一服したものの、10年債利回りは一時1.3%台に乗せるなど高止まりで1.297%。コモディティ価格全般が上昇しインフレ懸念が強まっている。

米国株は長期金利上昇への警戒感から高PER銘柄、ハイテク株中心に軟調。ナスダックは前日比▲100ドル安の13,865ドル。NYダウは同120ドル安の31,493ドル。VIX指数は0.99ポイント上昇して22.49。原油価格WTIはやや下落して60.52ドル。

金曜日の東京市場では日経平均が3日続落。30,000円近辺で安寄りした後、続落して一時29,800円を割り込んだ。米長期金利の上昇への警戒感、米国株の軟調、決算出尽くしで利益確定売りが優勢となった。

一方、下値で拾う動きもあり後場はじり高となり下げ幅を縮め、辛うじて大台を維持して前日比▲218円安の30,018円で引けた。

ドル円相場は105円70銭近辺でもみ合い。夕刻から欧州市場にかけてユーロ高ドル安が進んで、ドル円相場も105円30銭台に下落した。

ユーロドル相場は1.2090中心に上下した後、夕刻にかけて1.2140へ上昇した。ユーロ円相場は127円70銭~80銭で上下し夕刻は90銭近辺に上昇した。

発表された欧州のPMI景況感指数(2月)が、サービス業は予想通り悪化したものの悪化幅がやや少なく、製造業は予想以上に改善したことが好感された。

ドイツの製造業PMIは前月57.1から60.6に改善、サービス業は46.7から45.9に悪化。ユーロ圏は製造業が54.8から57.7に改善、サービス業が45.4から44.7に悪化にとどまった。

米国のPMI景況感指数は予想を上回った。製造業は58.5と前月59.2から悪化したものの予想56.5より良好。サービス業は58.9と前月58.3から改善し53.6への悪化予想を大きく上回った。感染者の減少やワクチン接種の開始が寄与したとみられる。

NY連銀総裁は財政支援やワクチン接種ペースの加速で景気下方リスクが低下、これによる長期金利上昇は懸念せず、と述べた。ただ景気回復には時間を要するとの認識も示した。

イエレン財務長官は、1.9兆ドルの大規模経済対策の必要性をあらためて強調した。米10年債利回りは1.35%に上昇。1年ぶりの高水準。米国株は景気敏感株に買いが入ったものの、長期金利上昇が上値を抑制。高PERのハイテク株の一角が売られた。

ドルは米長期金利の上昇に支えられて底固く推移。ユーロドル相場は1.2120~40を上下して1.2110~20に下落して引け。ドル円相場は105円30銭割れから60銭台に上昇。ただその後は反落して105円40銭台で引け。ユーロ円相場は128円10銭~20銭に上昇したが、127円80銭近辺に反落して引けた。

◆今週の3つの注目ポイント


1.米国の経済指標

このところ経済指標には想定外に強い数字もみられる。そうしたなか市場ではにわかにインフレ懸念が強まっている。米長期金利をさらに押し上げ、あるいは株価を圧迫するか。

月曜日 景気先行指数(1月、前月比、予想+0.3%、前月+0.3%)

火曜日 住宅価格指数(12月)、リッチモンド連銀製造業指数(2月、前月14)、消費者信頼感指数(2月、予想90.0、前月89.3)

水曜日 新築住宅販売(1月、季節調整済み年率換算、予想865千戸、前月842千戸)

木曜日 週次新規失業保険申請件数、耐久財受注(1月、前月比、予想+0.2%、前月+1.4%)、10-12月期GDP確報

金曜日 個人所得・消費支出(1月、前月比、予想+9.4%・+0.5%、前月+0.6%・▲0.2%、コアデフレーター、前月比、予想+0.1%、前月+0.3%)、シカゴ購買部協会景気指数(2月、予想61.0、前月63.8)

2.米欧金融当局者発言

FRBパウエル議長は慎重な姿勢を崩していないが、他のFRB当局者からは景気に楽観的な見方や長期金利上昇を容認する発言もみられた。米長期金利や株価、ドル相場に影響を与えるコメントがみられるか。

今週はパウエル議長が半年に1度の議会証言を行う。火曜日に上院、水曜日に下院。また木曜日にはNY連銀総裁、アトランタ連銀総裁も講演。景況感や長期金利上昇に対するスタンスが示されるか。

また欧州では月曜日にラガルドECB総裁が発言する。欧米間の景況格差を際立たせるコメントがみられるか。

3.長期金利動向、株価動向

今週は米国の長期金利動向にさらに注目が集まりそうだ。米10年債利回りは先週末に1.35%と1年ぶりの高水準に上昇した。ここまでの長期金利上昇は、仮に上昇を予想していた場合でも年初の想定を大きく上回っているはずだ。

長期金利低迷、実質長期金利低下との見方が大勢だった。さらに上昇すれば想定外で様々な市場に影響を与えるとみられる。

株価とくにPERの高いハイテク株の動向には要注意だ。米長期金利上昇・株安はもう一段のドル高をもたらす可能性がある。

米国景気が他国に優位性を示し想定外の回復、米長期金利上昇、となれば、ドル高円安傾向とみるのが自然だ。

一方でインフレや双子の赤字を囃してなおもドル安見通しを維持する見方もあり、その議論の動向には留意。ドル円相場は株価が大きく調整した場合にドル高のなかでも一時的にドル安円高に振れる可能性も。

ただ投機ポジションは円売りに傾いていないために大幅な円高とはなりにくいだろう。

◆今週のMRA's Eye


デジタル人民元と日本企業への影響

中国人民銀行、中国政府は、昨年からデジタル人民元導入に向けて動きを加速させている。昨年4月には一般市民に少額のデジタル人民元を配布して利用してもらうなどの実証実験を開始。来年2022年2月の北京冬季五輪には実用化を目指すという。

「デジタル化」と「人民元の国際化」は異なる話ではあるが、デジタル化を通じて国内のみならず国際決済における人民元建て取引の増加を図る意図もあろう。

国際金融決済システムにおける基軸通貨・ドルの立ち位置の切り崩しを図り、少なくとも人民元をユーロと並ぶ位置づけまで持ち上げる、あるいはドル決済システムを通じた資金管理から逃れたいという願望があることは想像に難くない。

こうした動きに対して欧米および日本では警戒感が高まり、これまでやや消極的ともみえた研究・実用化に向けた動きがここにきて活発化している。

中央銀行デジタル通貨(CBDC)はいくつかの国ですでに実用化されている。国内の金融機関網・支店網・ATM網が十分でない国、広大な国土や低い人口密度、都市間の距離、交通手段にも支障が生じやすい新興国においては、CBDC導入のインセンティブは十分にある。

こうした地域では携帯電話や通信網の整備の方が進んでいることがCBDCの普及を支える。近年の通信・IT・暗号化技術の高度化もある。中国においては、利用者である国民サイドのニーズは強い。

すでにアリババグループがアリペイを、テンセントグループがウィーチャットペイをそれぞれスタート。両システムを通じれば商取引の安全性が確保されることと相まって利用が急拡大。利用実績が個人の信用格付けと結びつくことなどもあり、銀聯カードとともにキャッシュレス化が急速に進展している。

そうしたなかでのデジタル人民元実用化はむしろ後手を踏んでいるともいえるほど。既存の金融システムの外で広がるキャッシュレス化のリスクに対して、とりあえず中国政府はアリペイやウィーチャットペイのシステムに利用者が預入した資金を、中央銀行に再預入させシステムの信用度・健全性を高め、また金融システム不安の発生防止を図っている。

デジタル人民元は、「第3のデジタル通貨」として普及しやすい素地があるが、すでに普及し信用度も確保されているキャッシュレスシステムに割って入れるか、利用者側にどれほどのメリットがあり普及していくか、みていく必要がある。

ただ中国政府および金融当局には共産党による一党独裁政府特有の「強制措置」「強硬策」をとりうる強味がある。

今後は4大銀行をからめて、様々な手段で普及を実現すると考えたほうが良いだろう。

CBDCによって、資金の動きのみならず取引内容も把握できることが、とくにマネーフローを掌握、管理、ときに抑止したい中国政府にとって大きな魅力だ。国家権力・当局によるプライバシー侵害とのバランスが問われるが、こと中国の場合にはそうした議論がないことも推進・拡大が他の先進国に比べて優位な点だ。

国内資金決済においてはシャドー・バンキングなど金融政策の埒外で行われるファイナンスの実態把握・管理を強化するニーズに資する可能性がある。マネーローンダリングの防止にもひと役買うことも期待される。

一方、対外決済においては、資金の国際間移動を把握・管理できれば現状の資本取引規制を実質的に強化できる可能性がある。

また管理可能性が高まれば、むしろ資本移動規制を緩和しやすくなる。かねてから貿易取引に化体した資本逃避が問題となっていたが、決済と取引データの紐付けによって抑制効果も得られよう。

中国政府・金融当局は、為替規制・資本規制と人民元の国際化という、相容れない手段と目的をかかえている。

やや荒っぽいやり方をとれば、デジタル人民元はそれをつなぐ役割も果たせそうだ。

可能性として、中国との貿易決済におけるデジタル人民元の強制、はありえる。あるいは、当局が外国企業に対し直接規制しないまでも、中国企業ないし個人に対して対外決済を人民元とするよう義務付け、実質的に対外取引全般を規制・デジタル人民元導入を促すことは可能だろう。

世界貿易のなかで、すでに中国企業は輸出入両サイドで大きな比重を占めている。その購買力や原材料・製品販売力で、貿易相手国企業は中国企業に配慮せざるを得ず、結果としてデジタル人民元の使用に対応せざるを得なくなるシナリオは非現実的とはいえない。そうなった場合には企業の為替リスク管理にも影響が生じよう。

一般に、貿易取引をマクロでみれば為替リスクは一方向、たとえば日本の輸出なら円高圧力が、輸入なら円買い圧力が生じる。

これをミクロでみれば、輸出企業・輸入企業、いずれが為替リスクを引き受けるかということになる。そこでは企業間の契約交渉、力関係が反映される。たとえば、グローバルに唯一無二の製品を生産し世界シェアを独占している日本企業は、力関係から円建てで輸出が可能であり、為替リスクから逃れられる。

一方、当該製品を輸入する海外企業は支払いのため円を調達、円買いを行わなければならず、円と自国通貨の為替リスクを負わざるを得ない。

日本からの輸出取引がドル建てなら日本企業によるドル売り円買いが生じる。海外の輸入企業は受け取ったドルをそのままとするか、他の通貨に転ずる必要があるか。それによって為替リスクの有無が生じる。

日本企業が中国企業から輸入するケースでは、円建てなら中国企業が円買いをする必要があり人民元と円との為替リスクを負い、人民元建てなら日本企業が支払いのため人民元を買う必要があり、為替リスクを負う。

従来はドル建ての輸入が多く、中国企業がドル受取り、日本企業がドル支払い、それぞれが自国通貨とドルとの為替リスクを分かち合うかたちも多かったように見受けられる。

その背景には中国企業が人民元を嫌いドルで保有することを好んだこともあろう。あるいは海外投資その他でドルのファイナンスが必要となり、ドルで受けていたこともあろう。

現状では、中国経済の成長・拡大を背景に、中国企業・国民の人民元に対する信認は向上しており、デジタル人民元による実質的な国際決済の「強要」が中国企業に受け入れられやすい素地がある。

短期的にはドル安・人民元高基調が続いており、ドル保有に比べた人民元保有の相対的な安心感が増していることも後押しとなる。

中国企業との貿易取引における決済通貨の変化、ドル決済、円決済、から、(デジタル)人民元決済の増加・シフトは、現実度合いを高めている。

一部の貿易領域では、力関係から中国企業サイドの事情を汲み、日本企業は条件に応じざるをえなくなるだろう。為替リスク管理がドルから人民元へ転ずる可能性がある。

為替リスク管理・リスクの低減には、第1に当該通貨の動向・リスクを把握し為替相場変動に備えること、第2に輸出入のマリー(相殺)によって為替リスクエクスポージャーを極力減少すること、が必要だ。

第2の点については、完全に中国本土で完結する事業構造とする必要があるが、それは困難だろう。

第1の点については、今後は人民元相場動向を今まで以上に意識し、監視し、リスクヘッジする必要が生じる。決済後に直ちに為替を売買するとしても輸出入契約・売買成約から資金決済までのタイムラグによる為替リスクから逃れられない。

輸出企業の場合、受領した人民元をただちに売却できるとしても取引採算上のリスクが残る。タイムラグによる短期的な為替リスクから逃れるためには為替先物予約が自由にできる必要がある。さらにはオプション取引もできるようになるか。

では人民元の動向はどうか。他の先進国通貨と異なり、現状でもなお管理フロート制のもとでコントロールされている。2005年までは対ドルで固定相場。その後は金融政策の一部として預金準備率と連動するように、引き締め時には人民元高へ、緩和時には横ばいないし人民元安へコントロールされていた。

しかし2017年以降は人民元の対ドル相場とユーロドル相場は概ねパラレルに変動している。対ドルではなく、様々な通貨を加重平均したバスケット通貨に対する管理により、対ドル相場は変動、ドルインデックスにおける比重の大きいユーロドル相場との連動制を高めているとみられる。

結果として、人民元の対円相場はドル安円高傾向のなかでも人民元高円安で推移してきた。一方、細かくみればユーロ高の一服でも人民元高傾向にさほど陰りがみえない。米中貿易摩擦の継続で中国が人民元安政策に向かうとの見方もある。

しかし、中国経済がひと足先にコロナ禍から堅調さを取り戻し、長期的に人民元の国際化を目指すとすれば、意図的に人民元安にコントロールするリスクは小さいのではないか。

米国と経済覇権を争う中国としては、国内経済の状況が許す限り、ドルよりも価値のある通貨として、その存在を示すことを重視するとみられる。

当面はユーロドル相場の動向、ユーロ円相場の動向を参考にしつつ、中国当局のスタンス、国内経済やインフレ、金融政策の動向に留意して、人民元の対円相場リスクの方向感を見極めていくのが良いだろう。

ペーパー毛沢東からデジタル習近平へ。国内のキャッシュレス化進展ですでに人民元紙幣に印刷された毛沢東の顔を見る機会は少なくなった。

それに代わって、顔の見えない、しかし、力を増しかつ強力に管理された、そしてデジタル人民元(デジタル習近平)が、国際金融市場で勢力を増し、日本企業も当然、そのリスクコントロールを一段と要求されることとなりそうだ。

◆主要指標


【対円レート】
ドル :105.45(▲0.24)
ユーロ :127.79(▲0.02)
英ポンド :147.754(+0.06)
豪ドル :82.98(+0.88)
カナダドル :83.589(+0.22)
スイスフラン :117.632(▲0.33)
ブラジルレアル :19.5872(+0.12)
中国人民元 :16.358(+0.05)
韓国ウォン(日本円=100) :9.594(▲0.02)

【対ドルレート】
ユーロ :1.2119(+0.003)
英ポンド :1.4016(+0.004)
豪ドル :0.7869(+0.010)
カナダドル :1.2615(▲0.006)
スイスフラン :0.8963(+0.000)
ブラジルレアル :5.3872(▲0.045)
中国人民元 :6.4577(▲0.030)
韓国ウォン :1105.82(▲1.75)

【主要国政策金利】
米国 :0.25
ユーロ :0.00
日本 :0.00

【主要国長期金利】
米10年債 :1.34(+0.04)
米2年債 :0.10(▲0.00)
日本10年債利回り :0.11(+0.01)
日本2年債利回り :0.11(+0.01)
独10年債利回り :▲0.31(+0.04)
独2年債利回り :▲0.68(+0.01)

【主要株価指数・ビットコイン】
NY ダウ :31,494.32(+0.98)
NASDAQ :13,874.46(+9.10)
S&P500 :3,906.71(▲7.26)
日経平均株価 :30,017.92(▲218.17)
ドイツ DAX :13,993.23(+106.30)
インド センセックス :50,889.76(▲434.93)
中国上海総合 :3,696.17(+20.81)
ブラジル ボベスパ :118,430.50(▲768.50)
英国FT250 :21,035.96(+102.09)
ビットコイン :55628.98(+3591.46)

【主要商品価格】
WTI :59.24(▲1.28)
Brent :62.91(▲1.02)
米ガソリン :180.69(+1.26)
米灯油 :182.29(▲1.35)

金 :1784.25(+8.58)
銀 :27.29(+0.26)
プラチナ :1276.22(+0.40)
パラジウム :2385.32(+26.57)
銅 :8763.00(+132:43.5B)
アルミニウム :2150.50(▲11:15.5C)
※貴金属はニューヨーククローズ。ベースメタルは3ヵ月公式セトル価格。
※C=Cash-3M コンタンゴ、B=Cash-3M バック

シカゴ大豆 :1377.25(+2.25)
シカゴ とうもろこし :542.75(▲7.50)
シカゴ小麦 :650.75(▲11.75)

※全ての価格は注記が無い限り、取引所で取引される通貨建。
※限月交代に伴う価格の不連続性は考慮されていません。予めご容赦ください。
※ 「休場」となっているものは、取引所が休場ないしはデータ更新時点で最新データを取得できなかった場合を指します。