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弱めの米統計とFOMCを受け高安まちまち
  • MRA商品市場レポート

2020年12月17日 第1873号-2 商品市況概況

◆昨日の商品市場(全体)の総括


「弱めの米統計とFOMCを受け高安まちまち」

【昨日の市場動向総括】

昨日の商品市場は貴金属やその他農産品、ビットコインなど非景気循環系の商品が物色される流れとなった。

米経済統計の減速やFOMCでの緩和継続スタンスの確認、といった強弱材料が混在する中、ファンダメンタルズ面では景気循環系商品に売り圧力が掛かり、ファイナンシャル面では広く買い圧力が強まったため。結果、非景気循環系商品が上昇した、ということだろう。

ここに来て市場は、脱炭素をテーマにした買いはやや食傷気味になっているといえる。というのもまだ具体的に動きが出ている訳ではないためだ。

そのため、「ひょっとしたら決済通貨として認知度が高まるかもしれない」と考えられ始めている、ビットコインを初めとする仮想通貨が物色されているようだ(テーマがある、ということ)。

しかし、著名投資家、といわれる人々が「ビットコインを購入した」ことを報道でコメントしている段階で、上げ相場は逆に終盤にさしかかっているとの見方もできる。流動性の低い商品市場では、よく類似のことが発生していた(そうした発言の後、相場急落)。

ここで重要なのは、著名投資家と言われる人が、未来永劫これらの商品を保有し続ける、といっている訳ではない点である。もちろん、決済通貨となり市場の構造が変化すれば仮想通貨が高値で推移することもあり得るが、急騰している商品は、常に下落リスクが伴う点は忘れてはならない。

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【本日の見通し】

本日も、12月末を控えて引き続き調整圧力が強まる展開を予想してはいるものの、FOMCの長期緩和継続方針を受けてリスクテイク意欲がファイナンシャルな面で回復していることも事実であり、結局は高値圏で推移する商品が多いと考えられる。まだ、市場は金融相場を脱していない。

本日発表の経済統計で注目しているのは、米フィラデルフィア連銀製造業指数と、米住宅着工・許可件数。市場予想は以下の通り、減速が見込まれている。

12月フィラデルフィア連銀製造業指数 市場予想 20.0(前月26.3)11月米住宅着工件数 前月比+0.3%の153.5万戸(+4.9%の153万戸)11月米住宅着工許可件数 前月比+1.0%の156万戸(▲0.1%の154.4万戸)

【セクター別動向と見通し】

◆エネルギー

原油価格は上昇した。昨日の米石油統計で原油在庫が減少したことが材料となった。乱高下した結果、前日比プラスで引けた。米国株が買収関連報道を受けて上昇する中ドル安が進行したこと、サウジアラビアのジッダ港でタンカーが攻撃を受けて爆発したとの報道を受けて水準を切り上げたが、ニューヨーク市が完全なロックダウンの可能性を示唆したことでドル高が進行、OPEC月報での需給見通し下方修正により水準を切り下げた。

昨日発表の米石油統計は原油・ディスティレートブル、ガソリンベアな内容だった。原油は生産が減少(▲0.1MBD)、輸入が減少(▲1.1MBD)、稼働率は低下(▲0.8%、在庫は▲3.1MBの大幅な減少となった。

原油価格に影響が大きいクッシング在庫は+198KB(▲1,364KB)と増加、在庫スペースの稼働率も先週の73.8%から74.0%に小幅に上昇しているが、極端な価格下落リスクは後退している。

石油製品は主に在庫水準よりも出荷動向に注目している。ガソリン出荷は過去5年の最低水準を下回っており、ディスティレートの出荷も過去5年平均を下回っている。

なお、米国の灯油の最大消費地区であるPADD1の灯油在庫の水準は3.0MBと、同じ時期の過去最低水準である4.2MBを下回っており、冬場に灯油需要が牽引する形で特にBrentが上昇する可能性はある。ただ現状、米国の気温は例年よりも高い。

製品全体の出荷は前年比▲8.4%の18.9MBD(前週▲7.5%の18.9MBD)と前年比で再び減速した。輸出を含めた出荷も▲8.1%の23.8MBD(▲7.7%の23.8MBD)と減速している。ワクチン報道があるものの、欧米のロックダウン拡大で需給は緩和した状態が続いている。

現在の原油価格上昇はやはり期待先行の感は否めない。

石炭価格は小幅に下落も高値維持。中国の国内景況感改善と冬場の気温低下に伴う電力向け需要増加、対豪制裁による輸入低下で国内の在庫が減少し、在庫積み増しの動きが継続している。

本日も市場参加者の楽観が続くため高値維持と見ているが、昨日の米PMIの減速に見られるようにやや過剰な景況感の楽観が修正されると見られる。本日発表予定のフィラデルフィア連銀製造業指数も減速が予想されるため、調整圧力が強まる展開か。

石炭に関しては投機的な売買余地があまりないため、足下の需給ファンダメンタルズのタイトさを背景に堅調な推移を予想。

◆非鉄金属

LME非鉄金属はLME指定倉庫在庫の減少と米追加対策の合意期待を受けて上昇していたが、ドル高の進行で水準を切り下げた。しかし、需給ファンダメンタルズがタイトな状態が続いているため高値を維持している。

本日も中国の経済活動が活発であること、LME指定倉庫在庫の減少継続を受けて高値維持だが、米経済統計、特にソフト系の指標に悪化の兆しが見られており、12月末を目前に控えているため引き続き調整売り圧力が強まる展開を予想する。

◆鉄鋼・鉄鋼原料

中国向け海上輸送鉄鉱石スワップは上昇、大連先物は上昇、豪州原料炭スワップ先物は横ばい、大連原料炭先物は上昇、鉄鋼製品先物価は直近限月が下落、中心限月は上昇した。

中国関連の統計は強いものが多く、中国の豪州に対する制裁の影響もあって中国が輸入する海上輸送鉱石の需給がタイト化している可能性は高い。

本日も中国の鉄鋼製品需給、高水準な粗鋼生産を受けた鉄鉱石在庫日数の低さから、高値圏での推移を予想。

◆貴金属

金価格はFOMCとその後のパウエルFRB議長の発言を受けて乱高下し、結局前日比プラス。FOMCは債券買取額の増額などが市場で期待されていたため、据え置き報道を受けて実質金利が上昇し、金価格を押し下げたが、その後のパウエル議長が会見で長期にわたる金融緩和継続を強調したため、実質金利が低下し、金価格を押し上げた。

銀もほぼ同様の展開だったが取引時間中、総じて水準を切り上げ続けた。PGMもほぼ同じ相場展開だったが、プラチナは前日比小幅マイナス、パラジウムは小幅高。

本日はFRBの緩和姿勢継続に伴うリスクテイクの緩やかな回復(というよりは、米統計減速を受けた金融相場によるドル安か)により、高値圏を維持すると予想。

◆穀物

シカゴ穀物市場はまちまち。トウモロコシ直近限月は高値圏を維持。基本的にはドル指数動向に連れる形となったが、南米の作柄が懸念されている。

大豆は下落。これまで投機が買い上がってきたのは事実であり、年度末を控えた利益確定の動きが強まったためとみられる。小麦はもみ合った結果前日比小幅安。

本日はFOMCと米統計の減速を受けてドル安が進行するとみられ、価格を下支えするが年度末を控えた投機の利益確定の動きで軟調な推移を予想。

※中長期見通しは個別セクターのコラムをご参照ください。

市場データ・グラフ類の添付ファイルのサンプルはこちら。

【昨日のトピックス】

一昨日発表された中国の工業関連統計は、非常に強い内容となり、中国経済が製造業を中心に回復を継続していることを確認する内容となった。

エネルギーや工業金属のフロー需要の指標である工業生産は、年初来累計の伸びが加速(+1.8%→+2.3%)した。単月の伸びが+7.0%(前月+6.9%)と高水準を維持したことによる。

ストック需要の指標である固定資産投資も、年初来累計で前年比+2.6%の49兆9,560億元(1-10月期+1.8%の48兆3,292億元)となり、投資意欲が回復していることを確認する内容となった。しかし、公的需要の伸びが+5.6%(+4.9%)であるのに対して、ボリュームの大きい民間セクターの回復は+0.2%(▲0.7%)に止まっており、まだ政府の政策主導での回復が継続しているといえる。

もう1つのストック需要の指標である不動産開発投資は、年初来で+6.8%の12兆9,492億元(1-10月期+6.3%の11兆6,556億元)とやはり伸びが加速している。鉄鋼製品やアルミニウム、銅などの需要は当面堅調に推移しそうだ。

これに対して小売売上高は回復基調を強めているものの、年初来の累計ではまだマイナスであり、最終需要はまだ弱い状態が続いている。

昨日発表された日本の貿易統計は、輸出が前年比▲4.2%(市場予想+0.4%、前月▲0.2%)と市場予想を下回り、輸入も▲11.1%(▲9.5%、▲13.3%)とやはり市場予想を下回った。

季節調整前の輸出数量

【マクロ見通しのリスクシナリオ】

・米大統領選挙前後の国内融和にバイデン次期大統領が失敗する場合。

・欧州の政治混乱(トルコと欧州の関係悪化、ハードブレグジットなど)によるリスク回避の動きの強まり。

・コロナウイルスの感染再拡大(または新たなウイルスの発生)によるロックダウンが景気循環系商品の需要を減じる場合。逆に想定以上にワクチン・治療薬の開発が速やかに行われた場合は需要の増加要因に。

・環境重視型社会への急激な転換による、経済活動の鈍化リスク。成長ドライバーの1つとして期待される、中東・北アフリカ産油国が人口ボーナス期を活かせない(逆に鉱物産出国は高成長となる可能性も)。

・米中対立激化による、新冷戦構造が発現しブロック経済圏が発生して貿易活動が鈍化する場合(場合によると武力衝突も)。

「能動的に」軍事を行う方針に舵を切った中国習近平政権が、台湾統一を目指して侵略する可能性は低くなくなった。

・次の最大の成長ドライバーとして期待される、インド経済が期待通りの成長をできない場合(人種差別問題による国民の離反、市場開放・規制改革の遅れ、中国との対立など)。

2018年にすでに人口ボーナス期入りしているため、鉱物・エネルギーをはじめとする景気循環系商品需要の増加は2023~2024年頃。

・中国地方政府・中堅中小企業の財政状況悪化に伴う景気減速。

・米国の財政状況悪化、緩和規模拡大によるドル水準の低下リスク(ドル減価により、名目ドル建て資産価格の上昇要因に)。

【マクロ見通しのリスクシナリオ】

・米大統領選挙前後の国内融和にバイデン次期大統領が失敗する場合。

・欧州の政治混乱(トルコと欧州の関係悪化、ハードブレグジットなど)によるリスク回避の動きの強まり。

・コロナウイルスの感染再拡大(または新たなウイルスの発生)によるロックダウンが景気循環系商品の需要を減じる場合。逆に想定以上にワクチン・治療薬の開発が速やかに行われた場合は需要の増加要因に。

・環境重視型社会への急激な転換による、経済活動の鈍化リスク。成長ドライバーの1つとして期待される、中東・北アフリカ産油国が人口ボーナス期を活かせない(逆に鉱物産出国は高成長となる可能性も)。

・米中対立激化による、新冷戦構造が発現しブロック経済圏が発生して貿易活動が鈍化する場合(場合によると武力衝突も)。

「能動的に」軍事を行う方針に舵を切った中国習近平政権が、台湾統一を目指して侵略する可能性は低くなくなった。

・次の最大の成長ドライバーとして期待される、インド経済が期待通りの成長をできない場合(人種差別問題による国民の離反、市場開放・規制改革の遅れ、中国との対立など)。

2018年にすでに人口ボーナス期入りしているため、鉱物・エネルギーをはじめとする景気循環系商品需要の増加は2023~2024年頃。

・中国地方政府・中堅中小企業の財政状況悪化に伴う景気減速。

・米国の財政状況悪化、緩和規模拡大によるドル水準の低下リスク(ドル減価により、名目ドル建て資産価格の上昇要因に)。

◆昨日の商品市場(個別)の総括


---≪エネルギー≫---

【原油価格見通し】

原油価格は短期的には調整圧力が強まる展開を予想する。ファイザーのワクチン報道とOPECプラスの減産期間延長報道を受けて水準を切り上げてきたが、実際に需給環境が変わっている訳ではなく、期待先行の部分は否めないため年末年始を控えた利益確定の圧力が強まると予想されることから。

また、今回のOPEC・OPECプラス会合の段階的減産解除でももめたように、価格下落・価格上昇ともに生産国の抜け駆け増産を助長するため、そのことも価格を下押しすると予想する。

結局、OPEC諸国の足並みが混乱なく揃うのは、景気が回復して需要が順調な時のみ、といえる。結局辞任は見送ったが、サウジアラビアは一時、OPECプラスの議長ポストを辞任する意向を示しており、今後もOPECプラスの結束を維持することがいかに困難であるかをうかがわせる。

価格が上昇するには需給ファンダメンタルズの変化が必要で、ロックダウンが加速しやすく、ワクチン接種もまだ本格化していないことから価格上昇が肯定されるのは、恐らく3~4月以降になるのではないか。

中長期的には、報道通りのペースでワクチンが普及し、深刻な副作用が確認されなければ経済活動の回復とともに原油価格がわかりやすく上昇を始めるのは2021年後半になってから、と考えられる。

しかし、足下の市場は極端の景気先行きを楽観しており、株価対比で割安な原油を物色する流れが続いているため、ファンダメンタルズ以上に原油価格が上昇していることもまた事実であり、四半期末や年度末、期初、といったわかりやすい節目以外は、価格が高値で推移しやすい地合にあることは注意が必要か。

【見通しの固有リスク】

・米国経済が正常化する中でドル高が進行し、投機的な売り圧力が高まる場合。

・OPECプラスの減産と、非OPECプラス諸国の自主減産継続で需給がタイト化する場合(価格上昇要因)。逆に価格低迷で歳入確保の増産が加速する場合、またはOPECプラスのプログラムの対象となっていない中東諸国の増産(価格下落要因)。

景気回復時の増産タイミングの見誤りによる、供給不足(価格上昇要因)。

・脱炭素の進捗、生活様式の変化による構造的な需要減少が加速した場合、

1.中東産油国の財政悪化によって情勢不安が顕在化、供給途絶リスクが高まる2.中東以外の産油国の生産者の破綻3.上流投資部門投資が減速し、インドなどの新興国需要顕在化時に供給が間に合わない場合4.価格面、数量面で予算を確保できない産油国が、OSPを大幅に引き上げる場合(第3次オイルショック)

などが価格上昇要因に。

・バイデン政権誕生で、シェールオイルのフラッキングが制限/禁止される場合、供給減少で価格上昇要因に(今のところ生産量の1割程度となる、国有地でのフラッキング禁止にトーンダウンしている)。

また、イランに対する制裁が緩和される場合、原油価格の下落要因に。ただし、米国内の反イラン感情の高まりで、直ちに制裁が緩和される可能性は低い。

・イランの反米感情が高まり、中東の不安定さが増す場合(価格上昇要因)。

今回、イランの核科学者であるファクリザデ氏が(恐らく)イスラエルによって殺害されたが、これによりイラン国内でイスラエルの背後にあると解釈されやすい米国に対する反米気運が高まっている。

これはイラン国内での反米感情を高め、米国を核協議に復帰させないための策略と考えられる。

・ワクチン・治療薬が想定以上に早く準備でき、移動制限が急速に解除される場合(価格上昇要因)。

【石炭価格見通し】

石炭価格は堅調な推移になると考える。中国政府は国内炭の供給能力増強にシフトしているが、冬場で炭鉱が稼働し難いこと、港湾在庫の水準の低さに反映されるように、供給が十分ではないことが材料。

ただし、豪州との対立や、環境規制強化のの中で石炭需要は減速するとみられること、非常に矛盾するが国内生産を増加させていることから徐々に海上輸送炭価格の上値は重くなると予想される。

なお、気温低下の影響で主要3国(豪州・インドネシア・ロシア)の輸出は、過去5年平均を回復している。

11月の中国の石炭輸入は前月から大幅に減少。前年水準を▲43.8%下回る1,167万1,000トン(前月▲46.6%の1,372万6,000トン)と減速傾向を持続した。

中国は国内の石炭産業の強化と政治的に対立する豪州からの輸入制限で、国内生産を増加させる方向性に舵を切っており、それが影響しているとみられる。

バルチック海運指数も過去5年平均程度で低迷しており、輸入の動きは鈍化。しかし一方で中国の港湾在庫は減少しているため、ピークシーズンということもあって堅調な推移となろう。

【見通しの固有リスク】

・世界的な環境重視型世界へのシフトを受けた、石炭上流部門への投資規制強化による、供給減速懸念。短期的には価格の上昇要因。

・中国と豪州の対立、中国国内の生産能力増強に伴う、海上輸送炭需要の減少。

・北半球の夏場の猛暑(/冷夏)・冬場の厳冬(暖冬)。

【投機筋のポジション動向】

・WTIはロング・ショートとも減少しているが、Brentはロングが増加、ショートが減少している。欧州の感染者数がピークアウトしている可能性があることやOPEC増産幅が小幅に収まったことが材料となった可能性が高い。

・直近の投機筋のポジションは以下の通り。

WTIはロングが671,096枚(前週比 ▲6,251枚)ショートが156,467枚(▲3,715枚)ネットロングは514,629枚(▲2,536枚)

Brentはロングが335,130枚(前週比+24,839枚)ショートが62,267枚(▲2,160枚)ネットロングは272,863枚(+26,999枚)

---≪LME非鉄金属≫---

【非鉄金属価格見通し】

非鉄金属価格は中国の景気先行指数を見るに数ヵ月は強含みやすいとみているが、さすがに投機の期末を控えた売り圧力の強まりで調整すると考える。

現在の価格上昇は実際に中国の需要の増加による需給タイト化によるものであり、環境規制強化が牽引する価格上昇ではない。

例えば、中国の超高圧送電線網整備額は当初予定比+61%の1,811億人民元とする方針が今年の4月に示されており、電線向けの需要が銅、並びにアルミの需要を押し上げている。アルミは配電には利用されないが、超高圧電線には使用される。

このほか、バイデン政権の政策推進による環境重視の姿勢の強まりが、いわゆる「バイデン・トレード(化石燃料売り・省エネ金属買い、ただし金属生産の際には二酸化炭素が出ることは変わらない)」を加速させ、投機的な買い圧力を強めている。

バイデン・トレードは短期的には顕在化する需要ではないが、省エネ金属の需要増加は「今後10年・20年の大きなテーマ」となる可能性があるため、足下は期待選好で、総じて中長期的には物色されやすい地合が続くとみる。

具体例を挙げると、軽量化目的のアルミ、EV向けのニッケル・銅(通常25キロ/台の銅が使われるが、EVは80キロ/台)、蓄電池としての鉛、コバルト、リチウムなどが挙げられる。

中国が豪州の銅鉱石輸入を禁止する方針を打ち出したことで、精錬銅の需要が増加し、ベンチマークの銅価格が堅調に推移していることも地合を強くしよう。

しかし、中国の最大貿易相手経済圏である欧州でロックダウンの動きが再び見られること、季節的に南半球の供給が再開される可能性が高いこと、12月のファンド決算を意識した売り圧力の強まりが価格を押し下げるため上値も重いと考える。

【見通しの固有リスク】

・米国経済が正常化する中でドル高が進行し、投機買いが膨らんでいる非鉄金属市場で投機の手仕舞い売り圧力が高まる場合。

・高水準の投機筋買い越しポジションが急速に解消されたときの下落リスク。

・主に銅山を中心とする労使交渉長期化による供給減少が、2021年も継続する場合(コロナの影響もあって、2020年の鉱山生産は全体で184万1,000トン、コロナの影響で115万1,000トン減少する見込み)。

・ニューカレドニアのGoroプロジェクトはAntfagasutaが買収相手として急浮上しており、過剰な供給不足への懸念が後退していることは価格の下落要因に。ただし楽観はできず。

なお、同プロジェクトのニッケル生産は6万トン/年(シェア2.4%)。

・中国の環境規制強化やコロナの影響再発に伴うスクラップの調達難による、新塊需要の増加。

・上流部門投資不足並びに鉱石の品位低下による、鉱山供給の制限。

・環境問題や人権問題(コンフリクト・メタルの問題)を背景とする鉱山供給の減少。

また、環境に配慮したメタル使用の義務化などが欧州で進む場合などのコストアップ(グリーン・メタルの義務化によるコスト増加)。

・資源ナショナリズムの高まり。インドネシアのニッケル未処理鉱石禁輸措置再開(銅とボーキサイトは2022年から実施の予定)。

・1月の米上院決定投票で民主党が過半数を確保し、「トリプルブルーリスク」が顕在化、脱炭素の動きが加速していわゆる省エネ金属の需要が増加する場合。

【投機筋のポジション動向】

・LME投機筋買い越し金額 前週比+3.2%の304億ドル(前週 295億ドル)・LME投機筋買い越し数量 前週比+1.1%の6,772.4千トン(前週 6,699.6千トン)

---≪鉄鋼原料≫---

【鉄鋼原料価格見通し】

鉄鉱石価格は、中国の景気先行指標をみるに堅調な推移を続けると考える。貿易統計で確認できるように鉄鋼製品輸入が増加し、輸出が減少。中国の顕在需要が増加していることを示唆している。鉄鉱石在庫は積み上がっているが日数ベースでは在庫水準は低く、需給はタイトとみられるため。

11月の中国の鉄鋼業PMIを見ると、閾値の50は下回っているものの、新規受注の改善(44.9→47.2)、輸出向け新規受注の悪化(52.0→45.9)を考えると、明らかに「国内向けの新規受注」が増加していることを示唆する内容。

今後も中国政府のインフラ投資を柱とする経済対策が、来年7月の中国共産党結党100周年記念まで続くと予想されること、中国国内の鉄鋼原料在庫水準が低いことから(鉄鋼製品在庫の水準は増加)在庫積み増し需要も継続する可能性が高く、基本は底堅い推移となる。

ただし価格上昇が需要の減少を引き起こすレーショニングが意識されるほか、南米生産者の増産見通しを考えると上値も重いと考える。

中国の鉄鋼製品の輸入は通常、平均で110万トン程度なのだが、11月は185万トン(前月193万トン)と減少傾向を持続した。11月の国内生産は季節性もあるが8,766万トン(10月 9,220万トン、9月 9,256万トン)と過去最高水準を記録した8月からは減速している。それでも水準は過去5年レンジを遙かに上回り、高い。

その一方、11月の鉄鋼製品輸出440万トン(前月404万トン)と増加している。このことは中国の鉄鋼製品の国内需要が減速し、顕在需要が減少を始めている可能性があることを示唆するものだ。

弊社はこの鉄鋼製品の輸出入動向に注目しているが、このまま輸入の減少・輸出の増加が続くようであれば、国内の景況感が悪化している可能性があるため要注意である。

なお、中国の鉄鋼製品需要は旺盛とみられるが在庫水準は前週比▲69万5,000トンの914万5,000万トン(過去5年平均 811万8,000トン)と、例年よりも在庫水準は高い。

しかし、国内の鉄鋼製品在庫の減少ペースは例年を上回っており、鉄鋼製品輸出も減少、輸入が増加している状況で、中国の鉄鋼製品需給はまだタイトな状態といえる。しばらくは鉄鋼製品の需要が鉄鉱石需要を牽引する状態が続くと見られる。

原料である鉄鉱石の11月の輸入は前年比+8.3%の9,815万トンと高い水準を維持している。しかし10月の前年比+14.9%の1億674万トン、9月の+9.2%の1億855万トンからは減速傾向となっており、中国の国内需要が減速している可能性を示唆する内容。それでも、前年比大幅なプラスであり、中国の国内需要の絶対水準は高い。

鉄鉱石港湾在庫は前週比▲285万トンの1億2,580万トン(過去5年平均1億2,199万4,000トン)、在庫日数は▲0.6日の25.2日(過去5年平均 31.6日)と例年と比較して在庫日数の水準は低く、輸入需要は持続するものと思料。

原料炭は中国の生産活動回復が継続していること、国内の鉄鋼需要が公共投資で底堅いことから、同様に底堅い推移になると考える。しかし、中国政府は原料炭を含む石炭の国内生産を増加させる方針であることから、海上輸送原料炭価格の上値も重い。

一方、中国の港湾在庫の水準は鉄鋼の最大生産省である河北省の主要港である、京唐港の港湾在庫は急速に増加しているが、依然として過去5年の最低水準であることから価格の下支え要因となる。

【見通しの固有リスク】

・鉄鉱石価格の上昇がレーショニング(価格上昇による需要減少)を引き起こす場合。

・世界的に広がる環境規制強化の流れで、鉄鉱石や原料炭などの生産に一定の影響が起きる場合。

・コロナウイルスの感染拡大長期化による、鉱山生産の減少リスク。

・カシミール地方を巡る中国との領有権争いが激化した場合、インドが中国に対して鉄鉱石輸出を制限する可能性(中国のFOBインデックスは上昇、その他の地域の鉄鉱石価格は低下)。

【投機筋のポジション動向】

---≪貴金属≫---

【貴金属価格見通し】

<<金>>

金は高値を維持すると考える。金融緩和の継続と、株価の上昇に伴う長期金利上昇圧力がせめぎ合う形で実質金利を現状水準に維持すると考えられることから。

なお、リスクオンはドル安で価格上昇、リスクオフで価格下落となる(詳しくは2020年10月12日付のMRA's Eyeをご参照ください)。

現在の金の実質金利で説明可能な価格(金基準価格)は長期金利の上昇で1,650ドルと、長期金利の低下による実質金利の低下が水準を押し上げている。そこからの乖離(リスク・プレミアム)は204ドルと前日比+30ドル上昇した。

なお、金価格を実質金利要因と為替要因に分類した場合、為替要因はリスク・プレミアムのところに内包されると整理している(為替は名目金利の影響も受けるので、純粋に為替の要因のみ切り出すのが困難であることから)。

※毎日回帰分析をアップデートし、リスク・プレミアム自体の水準を見直しているため、前日比の整合性が取れていない場合があります。

<<銀>>

銀価格は金価格との比較感で売買されるが、金銀レシオは現在、73.6倍。過去1年を基準にすると95倍程度、5年では80倍、2000年以降では65倍程度が妥当だが、足元、75倍程度で落ち着いている。

金は高値を維持する見通しだがバイデン大統領誕生見通しであり、太陽光発電向けに用いられる「バイデン銘柄」であることもあって、需要構造の変化が価格を下支え(金銀レシオは低下)するものと予想。

なお、銀価格=金価格÷金銀レシオ であり、金銀レシオが低下することで金価格が変動した時の弾性値が上昇(ボラティリティは上昇し、足元金の2倍に上昇)する点は留意。

(例)金が2,000ドル、銀が20ドルのとき 金銀レシオが100倍→金価格±1ドルの変化で銀価格は±1セント変化 金の変化率は±0.05%、銀は±0.05%

 金銀レシオが1倍→金価格±1ドルの変化で銀価格は±1ドル変化 金の上昇率は±0.05%、銀は±5%

<<PGM>>

プラチナ価格は銀価格との連動性が高い。これは供給過剰で投機的な取引の影響が強まっていることによる。足下は、各国の自動車セクターの回復期待が強まっており、工業需要回復期待が価格を押し上げている状況。

仮に脱炭素が進んで水素が用いられ、燃料電池が進むのであればプラチナの構造的な需要が増加するシナリオは、需要・価格面でのポジティブリスクシナリオ。投機の比率が高い商品であるため、こうした観測記事だけでも材料に価格が反応しやすい。

パラジウムは価格は景気の先行き楽観が強まっているが、足下のコロナの感染拡大がこれを相殺するため、現状水準でのもみ合いを予想。

ETF残高とパラジウム価格の連動性が高まっており(管理在庫増加→価格上昇)、一時の、ETF管理在庫減少→価格上昇、のメカニズムから変化してきている。

在庫取り崩し→価格上昇は実際に需給がタイトで、現物確保のためにETFを取り崩さなければならなかったからだが、現在はこれと逆のことが発生している訳で、足元、パラジウムの需給は緩和していると見られる。今後はETFの動向に注目。

11月の米自動車販売は年率1,555万台(市場予想 1,610万台、前月 1,621万台)と減速した。長期金利の上昇が影響したと見られる。

中国の10月の自動車販売は中国自動車工業協会の速報で前年比+12.6%の257万3,000台(前月+13.0%の256万5,201台)。

自動車販売は回復しているが、不要不急の消費であるため中国を除いては本格的な回復にはまだ時間がかかる見込み。

【見通しの固有リスク】

・世界的な成長力の低下に伴い、各国の財政状況が悪化、地政学的リスクが顕在化する場合(中東・北アフリカのリスク顕在化の可能性は低くない)。リスク・プレミアム上昇を通じて貴金属価格の上昇要因に。

・米中の対立激化。米国は今回のウイルス問題で、中国の医療面、人工知能を含むIT面に脅威を感じた可能性は高く、対立が激化する場合(安全資産価格の上昇要因)。

・英国のブレグジットは、FTA合意なき離脱となるリスクが残存しており、その場合のインパクトは無秩序離脱と同レベルになると考えられ、金価格の上昇要因に。

・中国地方政府・中堅中小企業の財政状況悪化に伴う景気減速による安全資産需要の増加。

・世界的な自動車販売の減速(米欧中)による、自動車向け排ガス触媒需要の減少(PGM)。

環境重視型社会へのシフトはパラジウム需要を増加させるが、さらに加速して「水素社会」まで到達すると、燃料電池車需要が増加して構造的にプラチナ価格の上昇要因となる可能性。

・コロナウイルスの感染拡大による、最大生産国の1つである南アフリカの鉱山稼働が不安定であることによる供給懸念。

【投機筋のポジション動向】

・直近の投機筋のポジションは、金はロングが338,271枚(前週比 +13,927枚)、ショートが69,051枚(+5,021枚)、ネットロングは269,220枚(+8,906枚)、銀が79,310枚(+2,287枚)、ショートが30,934枚(+1,803枚)、ネットロングは48,376枚(+484枚)

・直近の投機筋のポジションは以下の通り。

プラチナはロングが36,299枚(前週比 +3,246枚)ショートが11,797枚(+770枚)、ネットロングは24,502枚(+2,476枚)

パラジウムが5,474枚(▲140枚)、ショートが2,863枚(+273枚)ネットロングは2,611枚(▲413枚)

---≪農産品≫---

【穀物価格見通し】

穀物価格はトウモロコシ・大豆は期末を控えた売りでいったん調整すると考える。

しかし、中国の大豆在庫水準の低さと大豆油価格の上昇を受けた大豆輸入需要は旺盛であり、当面、需要面が価格を支えると考える。

なお、中国の豚肉価格は下落する一方、豚肉の輸入量も減少している。このことは中国の畜豚数の増加(大豆ミール需要の増加)=大豆需要の増加、を示唆している。当面、中国向けの輸出が中国側の事情で増加すると見られることが価格を下支えすると予想。

小麦はさほど投機の買いポジションが積み上がっている訳ではないが、各地で生産見通しが引き上げられており、やや軟調に推移。

バッタ被害はLocust Watchでは、エチオピア、イエメン、ケニア、サウジアラビアの一部で深刻な状態が続いている。

西部に広がっていたバッタの固体(群棲相を形成していない)はチャドとモーリタニアで拡大しており、影響拡大への懸念がやや強まっている。

http://www.fao.org/ag/locusts/common/ecg/75/en/201101forecast.jpg

やや懸念されるのが、サイクロン「Geti」がソマリアを通過すること。これにより水分が土壌に供給され、植物も生長することから越冬するバッタが増加するとみられる。来年のリスクは小さくなくなっている。

http://www.fao.org/ag/locusts/common/ecg/75/en/20112306gati.jpg

【見通しの固有リスク】

・ラニーニャ現象の発生による穀物供給減少リスクの顕在化。害虫の発生、生産地の土壌破壊など(すでに一部顕在化)。

・環境重視型社会へのシフトにより、燃料向け穀物需要が増加する場合(価格の上昇要因)。現在はそれほどの数量でもない、バイオディーゼル向けの大豆需要増加など。

・新型コロナウイルスの影響拡大による、輸出活動の停滞(シカゴ定期を含む生産地価格の下落要因)。

【米農務省需給報告データ】

・米穀物作付け意向面積トウモロコシ 9,699万エーカー(市場予想 9,412万エーカー)大豆 8,351万エーカー(8,502万エーカー)小麦 4,466万エーカー(4,495万エーカー)

・米穀物最終作付け面積トウモロコシ 9,201万エーカー(市場予想 9,514万エーカー)大豆 8,383万エーカー(8,483万エーカー)小麦 4,425万エーカー(4,472万エーカー)

・12月米需給報告単収見通し(実績/市場予想/前月)トウモロコシ 175.8Bu/エーカー(NA、175.8)大豆 50.7Bu/エーカー(NA、50.7)小麦 49.7Bu/エーカー(NA、49.7)

・12月米需給報告生産見通し(実績/市場予想/前月)トウモロコシ 145億700万Bu(NA、145億700万Bu)大豆 41億7,000万Bu(NA、41億7,000万Bu)小麦 18億2,600万Bu(NA、18億2,600万Bu)

・12月米需給報告輸出見通し(実績/前月)トウモロコシ 26億5,000万Bu(26億5,0500万Bu)大豆 22億Bu(22億Bu)小麦 9億8,500万Bu(9億7,500万Bu)

・12月米需給報告在庫見通し(実績/市場予想/前月)トウモロコシ 17億200万Bu(16億9,100万Bu、171億200万Bu)大豆 1億7,500万Bu(1億6,912万Bu、1億9,000万Bu)小麦 8億6,200万Bu(8億7,652万Bu、8億7,700万Bu)

・9月末四半期在庫(実績/市場予想/前月)トウモロコシ 19億億9,500万Bu(22億6,554万Bu、52億2,400万Bu)大豆 5億2,300万Bu(5億7,838万Bu、13億8,600万Bu)小麦 21億5,900万Bu(22億4,035万Bu、10億4,400万Bu)

・12月CONABブラジル作付け面積(実績/市場予想/前月)トウモロコシ 1,844万ha(1,943万ha、1,844万ha)大豆 3,818万ha(3,845万ha、3,825万ha)

・12月CONABブラジル生産量(実績/市場予想/前月)トウモロコシ 1億259万トン(1億938万トン、1億489万トン) 単収 5,564Kg/ha(5,630kg/ha、5,688kg/ha)大豆 1億3,445万トン(1億3,325万トン、1億3,495万トン) 単収 3,522Kg/ha(3,468kg/ha、3,528kg/ha)

【投機筋のポジション動向】

・直近の投機筋のポジションは以下の通り。

トウモロコシはロングが565,166枚(前週比 +3,923枚)、ショートが130,401枚(+4,110枚)ネットロングは434,765枚(▲187枚)

大豆はロングが310,089枚(▲6,464枚)、ショートが41,121枚(▲3,103枚)ネットロングは268,968枚(▲3,361枚)

小麦はロングが119,536枚(+3,093枚)、ショートが105,770枚(+1,258枚)ネットロングは13,766枚(+1,835枚)

◆本日のMRA's Eye


「金価格は高値維持も下押し圧力~銀はバイデン・トレードで神経質な推移」

金価格は実質金利(米10年物価連動債)との相関性が高く、実質金利は米10年国債利回りと10年期待インフレ率、ひいては原油価格動向に左右される。金は用途的に工業用金属として使い切ってしまうものではなく、準備金として、あるいは延べ棒の形にして価値保存目的に用いられる比率が高い。

宝飾品として用いられる場合でも、リサイクルされて利用されるためやはりどちらかと言えば投資商品としての色彩が強い。結果、金の固有要因である生産コストや工業需要家の目標価格などを基準に価格が決まることがあまりなく、物価連動債などのその他の市場動向に価格が左右されやすい。

もちろん、その普遍的な価値が共有されていることから、不測の事態が発生しそうな局面でリスク・プレミアムを上昇させつつ、価格が上昇することはこれまでここのコラムで確認してきた通りである。

2021年の金価格動向を占う上で最も重要なのが、新型コロナウイルスのワクチン開発と接種が進捗した結果、経済活動がどの程度戻るのか、それに伴ってどれだけ米国の長期金利がどの程度上昇するのかといった「金融相場から業績相場」に株式市場がいつのタイミングで転じるかだろう。

今のところ米国のワクチン接種は医療関係者と高齢者を中心に進む計画で、来年の5月には生活が正常化するとみられている。そして市場はワクチンの接種が進み、冬場が終了するQ121の企業決算を確認しながら業績相場への移行を判断すると予想される。

結果、4月頃から米国の長期金利には上昇圧力が掛る展開になると予想される。この際、長期金利がどこまで上昇するか?がポイントになってくるが、恐らくFRBが長期金利の急速な上昇は抑制すると考えられるため、緩やかなペースでの上昇に止まり年後半に1.2%程度に上昇すると予想される。

金価格の米10年債利回りに対する感応度(米10年債利回りの±1bpの変化に対する、金価格の変化)を直近1年のデータで見てみると、金利±1bpに対して±2.5ドル程度だ。

現在の長期金利が0.9%程度であるので、1.2%であれば30bpの上昇、金価格に換算すると75ドル程度の下落余地があることになる。

この場合、低下するのはリスク・プレミアムを除いた「金の基準価格」であるため、原稿執筆時点の金価格が1,855ドル、基準価格が1,660ドルであることから基準価格が1,585ドル(1,660ドル-75ドル)まで低下することになる。

直近1年のリスク・プレミアムの平均は240ドルであるため、2021年の金価格は1,825ドルが基準となる。現在の水準からはやや低下するが、高値を維持する可能性が高い。恐らくFRBは金融政策を当面変更しないと考えられるため、この水準は妥当と考えられる。

しかし、こうならない可能性も十分にあり得る。仮に想定以上に景気が過熱し、長期金利が1.5%程度まで上昇するシナリオ、現在、原油の価格で説明可能な水準から乖離して30bpほど高い水準の期待インフレ率が調整するシナリオも想定される。

また、景気が想定ほど回復せず、実質金利に大きな変化が見られずに先行き不安からリスク・プレミアムのみ過去1年平均水準に戻る、というシナリオもあり得る。

一番目のケースではさらに75ドルの価格下落要因、二番目のケースは感応度分析を行うと期待インフレ率1bpの下落で金価格は2ドル下落するため、60ドルの下落要因となる。

長期金利の上昇と期待インフレ率の低下が同時に起きれば、金基準価格は上記の1,585ドルから135ドル低下し1,450ドルとなる。リスク・プレミアムを過去1年の平均とすれば金価格の下限は1,690ドルということになる。

三番目のケースは現在の水準から実質金利が変わらない前提であるため金基準価格は1,660ドル、リスク・プレミアムが過去1年平均を回復するので1,900ドルが基準となる。

リスクシナリオも考慮すると、来年の金価格は1,690ドル~1,900ドルが「コアレンジ」と言うことになるだろう。後はこれにどの程度のリスク・プレミアムを考慮するかだが、仮にリスク・プレミアムがなくなれば、金価格は基準価格まで下落するリスクがある。

銀価格はバイデン・トレード期待で上昇しているが、やはり金価格が発射台となる。今のところ太陽光パネルの設置がバイデン次期大統領の宣言しているようなペースで進捗するかどうかはまだ不透明である。

ただこの数週間の値動きを見ていると太陽光パネル向けの需要増加はある程度織り込まれてはいるが、過去の水準と比較して金銀レシオは恐らく70~75倍程度。現在の銀価格が、環境重視型社会への移行を強く織り込んでいる水準であることは否定できないが、仮にこの状況が続くとすれば、銀価格のコアレンジは22.5ドル~27.1ドルと予想される。

金・銀ともやや軟調ではあるが高値圏での推移が続くことになりそうだ。

◆主要ニュース


・11月日本貿易収支季節調整前 3,668億円の黒字(前月8,717億円の黒字)
 輸出 前年比▲4.2%の6兆1,136億円(▲0.2%の6兆5,658億円)
 輸入 ▲11.1%の5兆7,469億円(▲13.3%の5兆6,941億円)

 米国向け
  輸出 ▲2.5%の1兆1,813億円(+2.5%の1兆2,994億円)
  輸入 ▲13.9%の5,931億円(▲15.6%の6,009億円)

 欧州向け
  輸出 ▲2.6%の5,610億円(▲2.6%の5,992億円)
  輸入 ▲17.3%の6,299億円(▲11.4%の6,390億円)

 アジア向け
  輸出 ▲4.3%の3兆4,454億円(+4.4%の3兆6,916億円)
  輸入 +0.5%の3兆1,377億円(▲6.9%の3兆153億円)

 中国向け
  輸出 +3.8%の1兆3,595億円(+10.2%の1兆4,577億円)
  輸入 +6.7%の1兆6,843億円(▲3.6%の1兆5,357億円)

・12月日本製造業PMI速報 49.7(前月改定 49.0)サービス業 47.2(47.8)、コンポジット 48.0(48.1)

・1-11月期中国工業生産 前年比+2.3%(1-10月期+1.8%)、10月+7.0%(前月+6.9%)

・1-11月期中国固定資産投資 前年比+2.6%の49兆9,560億元(1-10月期+1.8%の48兆3,292億元)
 公的+5.6%(+4.9%)、民間+0.2%(▲0.7%)

・1-11月期中国小売売上高 前年比▲4.8%の35兆1,415億元(1-10月期▲5.9%の31兆1,901億元)
 11月+5.0%の3兆9,514億元(前月+4.3%の3兆8,576億元)

・1-11月期中国海外直接投資 +6.3%の8,994億元(1-10月期+6.4%の8,007億元)
 前年比+5.5%の987億元(前月+18.3%の819億元)

・11月中国調査失業率 5.2%(前月5.3%)

・1-11月期中国不動産開発投資 前年比+6.8%の12兆9,492億元(1-10月期+6.3%の11兆6,556億元)

・11月インド貿易収支 ▲98億7,000万ドルの赤字(前月▲87億1,300万ドルの赤字)
 輸出 前年比 ▲8.7%(▲5.1%)
 輸入 ▲13.3%(▲11.5%)

・12月ユーロ圏製造業PMI速報 55.5(前月改定 53.8)サービス業 57.3(41.7)、コンポジット 49.8(45.3)

・12月独製造業PMI速報 58.6(前月改定 57.8)サービス業 47.7(46.0)、コンポジット 52.5(51.7)

・10月ユーロ圏貿易収支(季節調整済) 259億ユーロの黒字(前月 237億ユーロの黒字)
 調整前 300億ユーロの黒字(248億ユーロの黒字)

・10月ユーロ圏建設業生産高 前月比+0.5%(前月改定▲2.7%)、前年比▲1.4%(▲2.3%)

・11月米輸出物価指数 前月比+0.6%(+0.2%)、前年比▲1.1%(▲1.6%)
 輸入物価指数 +0.1%(▲0.1%)、▲1.1%(▲1.6%)
 除原油 前月比±0.0%(▲0.1%)

・12月ニューヨーク連銀製造業景況感指数 4.9 (前月6.3)
 新規受注 3.4(3.7)
 受注残 ▲3.6(▲11.9)
 在庫水準 ▲4.3(▲8.6)
 雇用者数 14.2(9.4)
 6ヵ月先景況指数 36.3(33.9)

・11月米鉱工業生産 前月比+0.4%(前月+1.1%)
 設備稼働率 73.3%(73.0%)
 製造業生産 +0.8%(+1.1%)

・11月米小売売上高 前月比▲1.1%(前月▲0.1%)
 除く自動車▲0.9%(▲0.1%)
 除く自動車ガソリン▲0.8%(▲0.1%)
 除く自動車・建材▲0.5%(▲0.1%)

・12月米製造業PMI速報 56.5(前月改定 56.7)、サービス業 55.3(58.4)、コンポジット 55.7(58.6)

・12月米NAHB住宅市場指数 86(前月 90)

・FOMC、FFレートの誘導目標を、0.00%~0.25%で据え置き。超過準備預金金利への付利も0.1%で据え置き。

・FOMC声明、「目標へ著しい進展があるまで債券購入を継続。縮小するならば事前に余裕を持って警告する。FOMCは一度の物価上昇に反応することはしない。」

・FOMC経済予測、2020年(前回予想)/2021年/2022年/2023年/長期

 実質GDP予測中央値
 ▲2.5-▲2.2%(▲4.0-▲3.0%)/3.7-5.0%(3.6-4.7%)/3.0-3.5%(2.5-3.3%)/2.2-2.7%(2.4-3.0%)/1.7-2.0%(1.7-2.0%)

 失業率中央値
 6.7-6.8%(7.0-8.0%)/4.7-5.4%(5.0-6.2%)/3.8-4.6%(4.0-5.0%)/3.5-4.3%(3.5-4.4%)/3.9-4.3%(3.9-4.3%)

 PCE価格指数
 1.2-1.2%(1.1-1.3%)/1.7-1.9%(1.6-1.9%)/1.8-2.0%(1.7-1.9%)/1.9-2.1%(1.9-2.0%)/2.0%(2.0%)

 PCEコア指数
 1.4%(1.3-1.5%)/1.7-1.8%(1.6-1.8%)/1.8-2.0%(1.7-1.9%)/1.9-2.1%(1.9-2.0%)

 政策金利予想中央値
 0.125%(0.125%)/0.125%(0.125%)/0.125%(0.125%)/0.125%/2.5%(2.5%)

・米国、スイスとベトナムを為替操作国に認定。中国は監視対象国で維持。日本・韓国・独・イタリア・シンガポール・マレーシアも監視対象国。

◆エネルギー・メタル関連ニュース


【エネルギー】
・IEA月報
 世界石油需要 Q121:94.7、Q221:95.4、Q321:98.8、Q421:99.2、2021:96.9
 非OPEC供給(含むNGLs) Q121:62.8、Q221:63.6、Q321:63.9、Q421:63.9、2021:63.5
 Call on OPEC Q121:31.9、Q221:31.8、Q321:34.9、Q421:35.3、2021:33.4

※需要見通しを下方修正、生産見通しを上方修正。Call on OPECは減少。

・DOE米石油統計 原油▲3.1MB(クッシング+0.2MB)
 ガソリン+1.0MB
 ディスティレート+0.2MB
 稼働率▲0.8

 原油・石油製品輸出 7,565KBD(前週比▲63KBD)
 原油輸出 2,687KBD(▲30KBD)
 ガソリン輸出 785KBD(+24KBD)
 ディスティレート輸出 915KBD(▲2KBD)
 レジデュアル輸出 111KBD(▲20KBD)
 プロパン・プロピレン輸出 1,387KBD(+33KBD)
 その他石油製品輸出 1,595KBD(▲63KBD)

・サウジアラビア財務省、「新型コロナウイルス感染拡大の影響により、今後の原油相場を予測することが一段と困難になっている。相場変動が国内経済にとって大きな課題。」

【メタル】
・Antofagasta、Centinea銅山(2,019年生産量27万6,000トン)、労使交渉が合意しスト回避。

・中国バーチュー・ドラゴン・ニッケル・インダストリー(VDNI)がインドネシアの東南スラウェシ州コナウェ県で運営しているニッケル製錬所で、大規模な労働者の抗議活動発生。

◆主要商品騰落率


【上昇率上位5商品】

商品名(カテゴリー)/前日比上昇率/年初来上昇率
1.ビットコイン ( その他 )/ +9.17%/ +196.25%
2.銀 ( 貴金属 )/ +3.40%/ +41.87%
3.SHF 銀 ( 貴金属 )/ +3.33%/ +17.98%
4.CBTオレンジジュース ( その他農産品 )/ +2.66%/ +20.94%
5.NYM RBOB ( エネルギー )/ +2.09%/ ▲20.22%

【下落率上位5商品】

商品名(カテゴリー)/前日比上昇率/年初来上昇率
66.ICEココア ( その他農産品 )/ ▲5.55%/ ▲0.91%
65.ICE欧州天然ガス ( エネルギー )/ ▲4.72%/ +51.95%
64.MDEパーム油 ( その他農産品 )/ ▲4.01%/ +18.05%
63.CME木材 ( その他農産品 )/ ▲1.74%/ +100.25%
62.LMEニッケル 3M ( ベースメタル )/ ▲1.59%/ +23.58%

※弊社が重要と考える主要商品の前日比騰落率上位・下位5品目です。
※限月交代に伴う価格の不連続性は考慮されていません。予めご容赦ください。

◆主要指標


【為替・株・金利・ビットコイン】
NY ダウ :30,154.54(▲44.77)
S&P500 :3,701.17(+6.55)
日経平均株価 :26,757.40(+69.56)
ドル円 :103.47(▲0.20)
ユーロ円 :126.23(+0.26)
米10年債 :0.92(+0.01)
中国10年債利回り :3.29(+0.00)
日本10年債利回り :0.01(+0.01)
独10年債利回り :▲0.57(+0.04)
ビットコイン :21,206.15(+1781.91)

【MRAコモディティ恐怖指数】
総合 :28.82(▲0.04)
エネルギー :33.94(▲0.7)
ベースメタル :17.59(▲0.18)
貴金属 :26.77(+0.51)
穀物 :18.49(▲0.18)
その他農畜産品 :36.07(+0.26)

【主要商品ボラティリティ】
WTI :22.22(▲0.05)
Brent :22.13(▲0.11)
米天然ガス :60.19(▲4.54)
米ガソリン :27.40(+0.33)
ICEガスオイル :24.62(▲0.9)
LME銅 :16.26(+0.07)
LMEアルミニウム :14.40(▲1.05)
金 :13.66(▲0.79)
プラチナ :31.41(▲0.09)
トウモロコシ :16.17(▲0.2)
大豆 :13.66(▲0.79)

【エネルギー】
WTI :47.88(+0.26)
Brent :51.10(+0.34)
Oman :51.38(+0.43)
米ガソリン :135.45(+2.77)
米灯油 :147.75(+1.31)
ICEガスオイル :423.00(+3.25)
米天然ガス :2.68(▲0.00)
英天然ガス :47.21(▲2.34)

【貴金属】
金 :1864.80(+11.16)
銀 :25.33(+0.83)
プラチナ :1037.20(▲3.55)
パラジウム :2334.05(+13.42)
※ニューヨーククローズ。

【LME非鉄金属】
(3ヵ月公式セトル)
銅 :7,848(+72:24.5C)
亜鉛 :2,849(±0.0:30.5C)
鉛 :2,050(+10:12.5B)
アルミニウム :2,046(+8:16.5C)
ニッケル :17,429(▲256:74C)
錫 :19,782(+167:35B)
コバルト :31,853(+3)

(3ヵ月ロンドンクローズ)
銅 :7814.00(+7.00)
亜鉛 :2817.00(▲7.50)
鉛 :2042.00(▲13.00)
アルミニウム :2026.50(▲1.00)
ニッケル :17375.00(▲280.00)
錫 :19925.00(+280.00)
バルチック海運指数 :1,273.00(+38.00)
※C=Cash-3M コンタンゴ、B=Cash-3M バック

【鉄鋼原料】
62%鉄鉱石スポット(CFR中国、1営業日前) :157.37(▲0.04)
SGX鉄鉱石 :152.89(+0.55)
NYMEX鉄鉱石 :150.75(+0.44)
NYMEX豪州原料炭スワップ先物 :101.21(±0.0)
大連原料炭先物 :233.28(+1.08)
上海鉄筋直近限月 :4,200(▲200)
上海鉄筋中心限月 :4,104(+84)
米鉄スクラップ :460(+9.00)

【農産物】
大豆 :1182.00(▲2.25)
シカゴ大豆ミール :393.40(+5.20)
シカゴ大豆油 :39.02(▲0.17)
マレーシア パーム油 :3590.00(▲150.00)
シカゴ とうもろこし :426.75(+2.00)
シカゴ小麦 :598.00(▲1.75)
シンガポールゴム :235.50(▲1.40)
上海ゴム :14130.00(▲215.00)
砂糖 :14.49(+0.28)
アラビカ :125.05(+1.95)
ロブスタ :1354.00(+6.00)
綿花 :75.65(+0.06)

【畜産物】
シカゴ豚赤身肉 :66.00(▲0.45)
シカゴ生牛 :108.78(+0.18)
シカゴ飼育牛 :140.83(+0.73)

※全ての価格は注記が無い限り、取引所で取引される通貨建。
※限月交代に伴う価格の不連続性は考慮されていません。予めご容赦ください。