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年内の株高・リスク選好は息切れか
  • MRA外国為替レポート

2020年12月14日号

◆先週の市場総括


先週は米国の経済対策合意期待・失望で市場心理が上下。そうしたなかワクチン接種がスタートしたことは明るい材料と受け止められた。

ただ足元の感染拡大は止まらず。あらたな行動規制が強化され、また経済指標にも雇用悪化が示された。米国株は底固さを維持しつつも利益確定売りが優勢で上値重く、NYダウは一時30,000ドルの大台を割れ。ナスダックも同様。いずれも引けは前週末比小幅安となった。

日経平均はワクチン接種の開始を好感するなどで週央には26,800円台をつけた。しかしこちらも利益確定売りが嵩み26,652円で引け。

ドル円相場は104円台前半を中心に小動き。一時104円を割るなどして週末は104円ちょうど。

ユーロはECB理事会での追加緩和が織り込まれるなか上値が重く上昇一服。ユーロドル相場は1.21台中心の値動きで引けは1.2110と前週末とほぼ同水準。ユーロ円相場も126円台中心の値動きで、同様に前週末とほぼ同じ126円ちょうど近辺で引けた。

月曜日の東京市場では日経平均が下落。このところの上昇から高値警戒感は強まっており、利益確定売りが先行した。前週末比▲203円安の26,547円で引け。

ドル円相場は104円10銭で始まり104円割ったがその水準では底固く、欧州市場にかけては一時104円30銭に上昇した。ユーロ円相場は126円10銭で始まり40銭に上昇したが、その後夕方にかけてはじり安となり126円ちょうどに押し戻された。

ユーロドル相場も同様に1.1220で始まり30台に上昇したが夕刻は1.2080に下落した。主としてユーロとドルの強弱で小幅に上下。

発表された中国の貿易統計(11月)は、輸出が前年同月比+21.1%と大幅に伸びた一方、輸入が同+4.5%と伸び悩み、結果貿易収支が754億ドルの大幅な黒字となった。輸入の伸び悩みは国内需要の弱さを反映しているとの見方も生じた。

米国株はまちまち。追加経済対策協議が難航、進展なく、また香港をめぐり全人代常務委員に制裁を加えるなど米中関係悪化も懸念材料に。

感染拡大は止まらずカリフォルニア州では多数の自治体が在宅命令を出した。

景気敏感株を中心に利益確定が広がり下落。NYダウは前週末比▲149ドル安の30,070ドル。ナスダックはやや上昇して同+55ドル高の12,520ドル。対策遅延で米10年債利回りは0.934%へ小幅低下した。

為替市場ではユーロが反発。ユーロドル相場は1.2160、ユーロ円相場は126円40銭へ。ただその後は反落して引けは1.2110、126円ちょうど。ドル円相場は104円中心に小動きもみ合いとなった。

火曜日の東京市場では日経平均が小幅安。前日比▲80円安の26,467円。引き続き利益確定売りが優勢。ドル円相場は104円ちょうど~10銭で小動き、もみ合い。ユーロ円相場は126円ちょうど~10銭。

ユーロドル相場は1.2110~20でいずれも動意薄。欧州市場にかけてユーロは一時やや下落しユーロドル相場は1.2100、ユーロ円相場は125円90銭をつけたがその後は持ち直し。欧米市場では1.2100~10、126円10銭~20銭で推移した。

ユーロは木曜日のECB理事会を前に上値が重かった。ドル円相場も104円10銭~20銭で小動きもみ合い。

米国株はしっかり。ムニューシン財務長官とマコネル上院院内総務が経済対策を検討と伝えられ合意前進期待が高まった。またイギリスがワクチン接種を開始。米国でもFDAが緊急使用を許可するとの見方が強まった。

ただ株価上昇は限定的。NYダウは前日比+104ドル高の30,173ドル。ナスダックは+63ドル高の12,583ドル。米10年債利回りはやや低下して0.92%。

水曜日の東京市場のドル円相場は104円10銭~20銭でもみ合い小動き。一方ユーロが堅調。ユーロドル相場は1.2110から1.2140へ上昇、ユーロ円相場も126円10銭から50銭へ上昇した。

日経平均は大幅高。26,500円近辺寄付きから急騰し26,700円台へ。さらにじり高となり引けは前日比+350円高の26,818円。29年8か月ぶりの高値。

ワクチン接種開始を好感。機械受注の伸びが予想を上回ったことも好材料。自動車関連が好調で起業活動が回復しはじめたと材料視された。

機械受注(10月)は前月比+17.1%と前月▲4.4%から伸びが大幅なプラスに転じた。

欧米市場ではユーロが軟調。株価下落によるリスク回避、ECBを前に、終盤にドル買い戻し・ユーロ売りが嵩んだ。ユーロドル相場は1.2060~70へ、ユーロ円相場は125円80銭へ、やや大きな下げとなった。

ドル円相場は一時104円40銭に上昇するなど堅調だったが引けは104円20銭。共和党が経済対策に関し2つの妥協案を提示するも民主党は却下。合意が遠のき年内決着は難しいとの見方が広がった。

寄付きに上昇していた株価は下げに転じ、ハイテク株の下げが目立った。NYダウは前日比▲103ドル安の30,070ドル、ナスダックは▲245ドル安の12,338ドル。

木曜日の東京市場では日経平均が26,700円割れで寄付いたがその後は小じっかり。下げ幅を縮めて前日比▲62円安の26,756円で引けた。朝方から利益確定売りが優勢となり、ハイテク関連など過熱感のある銘柄を中心に下落。一方、ソフトバンクの上昇が指数を下支えした。ECBの追加緩和期待も下支え要因。

ドル円相場は104円20銭で始まり堅調、夕刻から欧州市場にかけては104円50銭を中心に上下。ユーロ円相場は125円80銭で恥ありこちらもしっかり。夕刻は126円30銭近辺で推移した。

ユーロドル相場は1.2070で始まり、その後小幅上昇して1.2090中心にもみ合い。

米国株はまちまち。米国では1日の感染死者数が初めて3,000人を超えた。医療体制の逼迫が伝えられ、景気下押しリスクが意識された。

追加経済対策与野党協議が難航していることで景気敏感株中心に売り優勢。また雇用情勢の悪化も嫌気された。一方ハイテク株はしっかり。

NYダウは続落し前日比▲70ドル安の29,999ドル、ナスダックは反発して+67ドル高の12,405ドル。米10年債利回りは前日の0.95%から0.905%へ低下した。

ECBでは追加緩和が決定され概ね市場の予想通り。PEPP(パンデミック緊急購入プログラム)を1.35兆ユーロから1.85兆ユーロへ5,000億ユーロ増額。期限を21年6月末から22年3月末まで延長した。

またTLTRO(条件付き長期資金供給オペ)を22年6月まで1年延長し、銀行の資金繰り不安の緩和を図った。

決定を受けてユーロ高ドル安。米長期金利の低下も後押し。ユーロドル相場は1.2080から1.2150へ、ユーロ円相場は126円30銭から70銭へ上昇。

ドル円相場は軟調に転じて104円20銭台。終盤はユーロ高も一服し、引けは1.2140、126円50銭。

発表された米国の週次の新規失業保険申請件数は853千件と前週716千件から増加して2か月半ぶりの高水準。継続受給者数も5,527千件から5,757千件に増加した。

なおラガルドECB総裁は会見で、感染拡大による景気悪化を懸念、23年末までインフレ目標を下回る見込みとなってきたこと、およびユーロ高を注視すると述べた。

金曜日の東京市場では日中はややドル安。ドル円相場は104円20銭で始まり早々に下落して104円ちょうど近辺でもみ合い。ユーロドル相場は1.2140で始まり1.2150~60でもみ合いとなった。

ユーロ円相場は126円50銭~60銭でもみ合いの後一時30銭に押したが反発。

日経平均は下落。前日の米国市場で株価が軟調。雇用情勢が悪化、追加経済対策協議が難航するなか、警戒感から利益確定売りが根強く、前日比▲103円安の26,652円で週末の取引を終えた。

欧州市場に入るとユーロが下落。フランス中銀総裁が、ユーロ相場動向を警戒している、と発言。ユーロドル相場は1.2120~30でもみ合いの後、もう一段下げて1.2110近辺でもみ合い引け。

ユーロ円相場は126円ちょうどに下落し、さらに125円80銭へ。引けにかけてはやや持ち直して126円ちょうど近辺。ドル円相場は104円10銭~20銭で上下していたが103円80銭台に下落。その後は反発して104円ちょうど近辺で週末の取引を終えた。

米国株はFDAによるワクチン緊急使用許可の見通しが楽観材料となったが、足元では感染拡大・死者急増が嫌気され上値を抑制した。

NYダウは前日比+47ドル高の30,046ドル、ナスダックは▲28ドル安の12,378ドル。米10年債利回りはほぼ横ばいながら、対策合意遅延でやや低下して0.896%。ドルの重石となった。

◆今週の3つの注目ポイント


1.FOMC(連邦公開市場委員会)

今週、火曜日・水曜日の2日間、FOMCが開催される。結果は日本時間木曜日未明4:00に公表。同4:30からパウエル議長が会見を行う。

今回の会合では追加緩和は期待されていないが、何らかの議論がなされ示唆があるか。

足元で経済対策合意が遅延し、感染拡大により雇用情勢が悪化するなど、景気下押しリスクが強まっているが、ECBに追随して何らかの追加緩和を行うかたちになるか。あるいは、政府対策待ちで様子見スタンスを示すか。欧米間の金融政策格差が意識される内容となるか。

2.欧米の経済指標

ワクチン接種開始との前向きなニュースはあるが、足元では欧米での感染拡大はなお止まらず。経済指標がさらなる景気悪化を示すか。ドイツは感染悪化、フランスは拡大に歯止めで変化が生じるか。また米欧景況格差が意識されるか。

月曜日 ユーロ圏鉱工業生産(10月、前月比、予想+1.9%、前月▲0.4%)

火曜日 米NY連銀製造業景気指数(12月、予想6.9、前月6.3) 鉱工業生産(11月、前月比、予想+0.3%、前月+1.1%) 設備稼働率(同、予想73.0%、前月72.8%)

水曜日 ユーロ圏PMI景況感指数(12月、製造業、予想53.0、前月53.8、サービス業、予想41.8、前月41.7) 米国PMI景況感指数(同、製造業、予想56.0、前月56.7、サービス業、予想 55.8、前月 58.3) 米小売売上高(11月、前月比、除く自動車、予想+0.1%、前月+0.2%)

木曜日 週間新規失業保険申請件数、住宅着工(11月)フィラデルフィア連銀製造業景気指数(12月、予想18.8、前月26.3)

金曜日 ドイツIFO景況感指数(12月、予想90.0、前月90.7)

3.中国の経済指標

グローバル市場のリスク選好を支えているのは中国経済の回復が概ね順調なことも要因。引き続きしっかりした足取りが示されるか。景気回復に変調はみられないか。

火曜日 11月の主要経済指標、小売売上高(前年同月比、予想+5.0%、前月+4.3%) 鉱工業生産(同、予想+7.0%、前月+6.9%) 固定資産投資(同、予想+2.6%、前月+1.8%) 失業率(予想5.2%、前月5.3%)

このほか、日本では月曜日に日銀短観(12月)が発表される。大企業~中小企業、製造業・非製造業、いずれも前回9月調査から業況判断の改善が予想されている。

◆今週のMRA's Eye


年内の株高・リスク選好は息切れか

先週はイギリスでワクチン接種が開始され、米国でもFDAが接種早期開始に前向きな判断を示した。これらは明るいニュースではあるが、市場の反応は鈍かった。

足元でなお感染拡大が止まらず、米国では死者数が増加し、雇用情勢が悪化している、などの現実の前に期待感が霞んだか。あるいはすでにワクチン開発の進展は接種開始まで織り込まれており、市場では新たな材料とならなかったか。

ワクチン接種の開始は足元の状況悪化を改善するものではない。いずれにしても様々な材料に対して株価が上昇しなかったことは、市場心理ないし懐具合を示している。

日米の株価動向をみても、この間の最高値を更新してきたところで、利益確定売りが先行し株価の上値が重くなった状況がみてとれる。

好材料には反応しにくく、海外における年度末である年末を前に、またクリスマス休暇を前に、利益確定やポジション手仕舞いが先行することは自然。株高一服とともに為替市場ではユーロ高ドル安も一服しつつある。

ここからポジティブな材料で年末にかけて株価が一段高、リスク選好が吹き上がる可能性はあるか。

景気回復・業績相場を促す材料としては米国の追加対策を巡る与野党協議の合意、金融相場をさらに推し進める材料としてはFOMCでの追加緩和決定などが候補だ。

しかし、これらの材料が年末株高を促す可能性は小さいとみられる。

経済対策はすでに議論されており、こちらも合意すれば安心材料に違いないが、織り込み済みだ。決裂して全く実施されないという事態は想定されていない。

タイミングあるいは規模・内容について、市場の想定・期待を上回るものになるかどうかという程度。対策の効果がより重要だが、それは来年に入ってからとなる。

足元の雇用悪化・景気悪化に歯止めをかけられるか、歯止めがかかったことが明らかになるまでには時間がかかる。期待感だけでは株価上昇を維持できそうにない。材料としては「古い」「賞味期限切れ」となりつつある。

景気回復・業績改善を材料として株高が進むとすれば、少なくとも来年に入り12月期企業決算発表をみてからということになるのではないか。

もうひとつFOMCでの追加緩和だが、こちらの期待は空振りに終わる可能性がありそうだ。足元の感染拡大・雇用情勢悪化・景気回復の鈍化に対して、金融緩和・量的緩和の拡大などで対応するのは整合的ではない。

こうした状況には議会・政府が迅速に対応すべきであり、パウエル議長も再三指摘している。

苦境が続く中小企業に対して融資などがスムーズに実施される手助けという観点での緩和策はあるだろう。ただそれは業績押し上げ効果につながるものではなく、マクロ的な金融緩和で金融相場を促すような材料ではない。

サプライズがあるとすれば、単純な国債買い入れ増額などバランスシート拡大策を強化する場合。ただその可能性は小さいのではないか。

経済対策合意があっても織り込み済み、FOMCでの追加緩和の可能性が低く、年内に株高が失速するリスクは高いようにみえる。

景気動向に変化はなく、行き過ぎた株高が修正されるだけであれば、為替市場において「リスク回避」の円高が進む可能性は小さい。また株価の調整・下落とリスク回避を同一に扱うのもミスリードだろう。

現状、欧米の景気は感染拡大でやや悪化の兆しがみえるが、経済・金融市場が苦境・混乱に陥っているわけではない。ファンダメンタルズに大きなリスクがあるのではなく、単に株価・リスク資産価格の調整・下落に直面するポジションリスクだ。

その損失リスク回避のために必要なのはリスク資産の売却・リスクポジションの手仕舞いであり円買いではない。

円を買うことは、日本人以外においては、あらたにリスクを積み上げることになる。

シカゴ通貨先物の円ポジションは買い越しが続いており、常に小幅ながらも円売戻しが生じる可能性を孕んでいる。一方、ドルはなお大きく売り越し。潜在的なドル買い戻し圧力がある。

また投機ポジションではなくリアルマネーの動きとして、グローバルな現金通貨であるドルキャッシュの需要が旺盛となることは自然だ。

ドル円相場はなおも上値が重いが、FOMC後から年末にかけてドルが堅調になる可能性はありそうだ。仮に105円を回復するようなら、春先からのドル安円高トレンドを上抜ける、ドル高円安方向に抜けることとなるため、ドル高円安方向への動きがやや早まる可能性もある。

◆主要指標


【対円レート】
ドル :104.04(▲0.20)
ユーロ :126.04(▲0.50)
英ポンド :137.574(▲1.01)
豪ドル :78.397(▲0.15)
カナダドル :81.555(▲0.28)
スイスフラン :116.895(▲0.75)
ブラジルレアル :20.5377(▲0.20)
中国人民元 :15.864(▲0.08)
韓国ウォン(日本円=100) :9.526(▲0.06)

【対ドルレート】
ユーロ :1.2112(▲0.003)
英ポンド :1.3224(▲0.007)
豪ドル :0.7533(▲0.000)
カナダドル :1.2769(+0.003)
スイスフラン :0.8902(+0.004)
ブラジルレアル :5.061(+0.042)
中国人民元 :6.5463(+0.002)
韓国ウォン :1089.87(+2.46)

【主要国政策金利】
米国 :0.25
ユーロ :0.00
日本 :0.00

【主要国長期金利】
米10年債 :0.89(▲0.01)
米2年債 :0.12(▲0.02)
日本10年債利回り :0.01(▲0.00)
日本2年債利回り :0.01(+0.00)
独10年債利回り :▲0.64(▲0.03)
独2年債利回り :▲0.78(▲0.02)

【主要株価指数・ビットコイン】
NY ダウ :30,046.37(+47.11)
NASDAQ :12,377.87(▲27.94)
S&P500 :3,663.46(▲4.64)
日経平均株価 :26,652.52(▲103.72)
ドイツ DAX :13,114.30(▲181.43)
インド センセックス :46,099.01(+139.13)
中国上海総合 :3,347.19(▲26.09)
ブラジル ボベスパ :115,128.00(▲0.60)
英国FT250 :19,622.15(▲133.95)
ビットコイン :18110.96(▲238.77)

【主要商品価格】
WTI :46.60(▲0.18)
Brent :49.99(▲0.26)
米ガソリン :130.68(▲0.98)
米灯油 :143.66(+0.09)

金 :1839.76(+3.19)
銀 :23.95(▲0.05)
プラチナ :1012.41(▲18.71)
パラジウム :2321.75(▲19.46)
銅 :7760.00(+31:19C)
アルミニウム :2034.50(▲8:12.5C)
※貴金属はニューヨーククローズ。ベースメタルは3ヵ月公式セトル価格。
※C=Cash-3M コンタンゴ、B=Cash-3M バック

シカゴ大豆 :1161.50(+8.75)
シカゴ とうもろこし :424.50(+4.25)
シカゴ小麦 :608.25(+18.00)

※全ての価格は注記が無い限り、取引所で取引される通貨建。
※限月交代に伴う価格の不連続性は考慮されていません。予めご容赦ください。
※ 「休場」となっているものは、取引所が休場ないしはデータ更新時点で最新データを取得できなかった場合を指します。