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バイデン政権の政策スタンスと為替相場
  • MRA外国為替レポート

2020年12月7日号

◆先週の市場総括


先週は感染拡大の勢いが止まらないなか景気回復鈍化が弱い経済指標として顕在化。しかしそのなかでも、バイデン新政権の経済閣僚候補の発表、ワクチン開発の進展・接種の早期開始、経済対策の早期合意期待、などから米国株は堅調。市場全体のリスク選好が維持された。

バイデン政権が公共投資拡大・労働市場の立て直しに注力する姿勢を示したこと、経済対策の早期・部分合意への期待から米長期金利は上昇。リスク選好が強まるなかドルと円双方が弱い従来の相関関係による値動きが強まった。

ユーロドル相場は1.2台に乗せ年初来高値を更新し一段と堅調。週末はユーロ円相場は126円台へ大きく上昇した。ドル円相場はドル安の勢いが勝り104円を割ったが、米長期金利上昇が下支えとなり下落は限定的だった。

日経平均は週初から利益確定売りに押されて伸び悩み。その後米国株堅調につれて底固い値動きとなったが上値追いの新たな材料を欠き、週末は雇用統計発表を控えて動意薄に。週を通じて概ね26,500円~27,000円のレンジで上下動となった。

月曜日の東京市場の日経平均は前週末に米国株が堅調だったことを受けて26,850円近辺で大幅高寄り。しかし直後に下落し終日軟調。4営業日連騰したことの反動で利益確定売りに押され、前週末比▲211円安の26,433円で引けた。

中国で発表された11月の製造業PMIは52.1と前月51.4から改善して予想51.5より強め。非製造業PMIは56.4と前月56.2から小幅改善。中国経済が順調に回復していることを示した。

ドル円相場は104円ちょうどで始まり小幅下落して103円90銭近辺でもみ合い。ユーロ円相場は124円40銭で始まり同様に124円30銭近辺でもみ合い。

ユーロドル相場は1.1970近辺でもみ合い。その後夕刻から欧州時間にかけてユーロ高・円安が進んだ。ユーロ円相場は124円90銭に、ドル円相場は104円30銭に上昇。その後は米国市場にかけてリスク選好・回避でユーロドルが上下した。

リスク選好が続くなかユーロドル相場は1.200ちょうどに上昇、ユーロ円相場は125円ちょうどに。ドル安の勢いが勝りドル円相場は104円割れに下落。

その後、週明けの米国市場では株価が反落。NYダウは一時前週末比▲440ドル安。感染拡大が続き景気不透明感が高まるなか、発表されたシカゴ購買部協会景気指数(11月)が58.2と前月61.1から悪化して予想を下回った。

バイデン政権の経済閣僚が発表されたことが支えとなったがNYダウは▲271ドル安の29,638ドル。ナスダックはほぼ変わらず▲7ドル安の12,198ドル。

株安に連れて為替市場では手仕舞いのドル買い戻しが強まった。ユーロドル相場は1.1930に下落、ユーロ円相場は124円40銭に反落。ドル円相場は104円30銭台に持ち直してもみ合い引けた。

火曜日の東京市場ではなおもリスク選好が継続。日経平均は26,650円近辺で大幅高寄りしたあと一段高。26,800円中心に上下して、前日比+354円高の26,787円で引けた。

米金融緩和期待、ワクチン開発の進展による景気回復期待、に加え、中国の経済指標がしっかりだったことが支えとなった。

発表された中国の財新製造業PMI(11月)は54.9と前月53.6から改善し10年ぶりの高水準。中国株は大幅に上昇した。

ドル円相場は104円30銭~40銭でもみ合い小動き。リスク選好が強まるなかユーロは堅調。ユーロドル相場は1.1930から上昇し1.1960近辺でもみ合い。ユーロ円相場は124円40銭から上昇して124円80銭~90銭でもみ合いとなった。

欧米市場にかけてはさらにリスク選好が強まりユーロが一段高、ドルと円がともに軟調となった。

ワクチン接種が年内早々に開始されることへの期待感、また民主党・共和党の超党派議員が経済対策案を提示したことで合意期待が高まった。バイデン次期大統領候補は、早期に大型公共投資を実施するなど財政出動が必要、と述べた。

NYダウは前日比+185ドル高の29,823ドル、ナスダックは同+156ドル高の12,355ドル。

米10年債利回りは一時0.93%をつけるなど大きく上昇し0.924%。ユーロドル相場は1.2070に上昇。ユーロ円相場も125円90銭に上昇。

ドル円相場は米債利回り上昇に支えられ一時104円50銭に上昇したが上値重く、方向感なく104円30銭~40銭でもみ合い引けた。

発表されたISM製造業景気指数(11月)は57.5と前月59.3から悪化して予想57.8を下回った。雇用指数は48.4と前月53.2から大きく悪化して50割れ。パウエルFRB議長は、経済活動と雇用の改善ペースは鈍化しており不確実性が残る、と述べた。

水曜日の東京市場では日経平均が26,880円近辺で高寄りしたものの26,700円近辺に反落。その後持ち直しに転じたが引けは前日とほぼ変わらずの26,800円近辺。

為替市場は動意薄。ドル円相場は104円40銭近辺でもみ合い。ユーロ円相場は125円90銭~126円10銭で上下。ユーロドル相場は1.2070~80で推移した。

欧州市場にかけてはドルが持ち直し反発。ユーロドル相場は1.2040へユーロ安ドル高。ドル円相場は一時104円75銭に上昇した。

ただその後はユーロが反発。ドルは反落。ユーロドル相場は1.2110~20で引け。ドル円相場は104円50銭~60銭でもみ合い、さらに下落して104円40銭。ユーロ円相場は一貫して上昇基調となり126円50銭で引けた。

米国株はまちまち。NYダウは弱い経済指標を受けて前日比▲200ドル安で始まるも持ち直し。

民主党・上院院内総務が、週末までに経済対策成立を目指す、としたことが好感された。NYダウは+60ドル高の29,883ドル。ナスダックは▲5ドル安の12,349ドル。米10年債利回りはさらに上昇し0.95%。

発表されたADP雇用報告(11月)では、雇用者数前月比が+307千人と前月+404千人から鈍化し予想を下回る弱い数字。

パウエル議長は下院公聴会で、向こう数か月間危機が深まる、失業者・中小企業・州自治体への支援・景気対策を議会は急ぐべき、と述べた。公表されたベージュブック(地区連銀経済報告)では、経済活動は鈍化しはじめている、学校・工場封鎖で雇用が悪化している、と記された。

木曜日の東京市場は為替、株ともに方向感なく小動き。日経平均は前日引値近辺で始まり26,800円中心に概ね26,750円~850円で上下動。引けは前日とほぼ変わらぬ26,809円。

発表された中国の財新・サービス業PMI(11月)は57.8と前月56.8から改善し予想を上回った。ドル円相場は104円40銭~50銭でもみ合い、その後夕方から欧州市場にかけてはやや下落して104円30銭近辺でもみ合い。

ユーロ円相場は126円50銭で始まり60銭近辺でもみ合い、ユーロドル相場は1.2110で始まり1.2120近辺でもみ合った。

欧州株はまちまち。米国株は堅調。経済対策が合意に近づいたとの見方が支えとなった。

この日、民主党ペロシ下院議長、共和党マコネル院内総務が協議を再開した。ただ米国の1日の感染者死者数が過去最多、一部州で行動規制強化などマイナス材料も。そうしたなかファイザー社が年内のワクチン供給規模が半減するとのネガティブな報道で上げ幅を縮めた。

NYダウは前日比+85ドル高の29,969ドル。ナスダックは+27ドル高の12,377ドル。米10年債利回りは0.91%に低下した。

欧米市場の為替市場ではユーロ高ドル安が進んだ。ユーロドル相場は1.2100近辺から1.2170へ上昇。ユーロ円相場は126円20銭から50銭へ。

一方、ドル円相場はドル安の勢いが勝り103円70銭に下落した。その後はリスク選好の一服でドル安にも歯止め。ドル円相場は103円80銭~90銭。ユーロドル相場は1.2140~50。ユーロ円相場は126円10銭~30銭。

発表された週次の失業保険新規申請件数は712千件と前週778千件から減少。継続受給者数も前週の6,071千件から5,520千件に減少。ただ感染拡大による手続きの遅延も影響した模様。ISM非製造業景気指数(11月)は55.9と前月56.6から悪化して予想56.0を下回った。

金曜日の東京市場では日経平均が26,700円近辺で前日引けから100円安ほどで安寄り。その後は700円割れに下落したが後場は持ち直し、じり高。前日比▲58円安の26,751円。ファイザー社のワクチン供給半減との報道がマイナス。

一方、米国の追加経済対策与野党協議の進展期待は支え。ただ米雇用統計発表を控え様子見。利益確定売りに軟調となった。

ドル円相場は103円80銭~90銭で上下し夕刻から欧州市場にかけては104円ちょうど近辺でもみ合い。

ユーロドル相場は1.2140~50でもみ合いの後、1.2170~80に上昇。ユーロ円相場は126円20銭で始まり夕刻にかけて126円60銭に上昇した。

米国市場では株価が堅調。NYダウは4日連騰となり引けは前日比+248ドル高の30,218ドルと3万ドルの大台で引けた。ナスダックは+87ドル高の12,464ドル。

注目の雇用統計(11月)は弱い数字だった。非農業部門雇用者数・前月比は+245千人と前月+610千人から失速し予想+500千人を大きく下回った。

失業率は前月の6.9%から6.7%に低下したが、労働参加率が61.7%から61.5%に低下したことの影響。感染拡大の悪影響が顕在化した。

しかし弱い数字により追加経済対策の必要性が増した、との見方から経済対策法案の早期成立期待が高まり株価にはプラスとなった。

民主党ペロシ下院議長は合意への機運が高まっていると発言。バイデン次期大統領候補も、米景気は失速しつつあり議会は救済策で即座に行動が必要、と述べた。

米10年債利回りは0.97%に上昇。ドルは買い戻しにより上昇。次週のECBでの追加緩和予想もあり利益確定のユーロ売りも強まった。ユーロドル相場は1.2110~20に下落。ドル円相場は104円10銭~20銭に上昇。ユーロ円相場は126円30銭~50銭で上下して引けは126円20銭。

◆今週の3つの注目ポイント


1.ECB理事会、ラガルド総裁会見

前回10月29日の理事会で政策を据え置きとしたが、声明で景気回復の勢いが想定以上に失われているとして次回12月の会合で金融緩和を強化することを明確に示唆した。ラガルド総裁もその趣旨の発言を繰り返している。

今週木曜日の理事会では、現状実施しているいくつかの緩和策を強化する組み合わせとなるとみられる。

・パンデミック緊急購入プログラム(PEPP)の拡大・期間延長(現状1兆3,500億ユーロ、少なくとも21年6月末まで)を

・資産購入プログラム(APP)(毎月200億ユーロ、一時的購入枠1,200億ユーロを20年末まで継続)

・長期資金供給オペ(TLTRO)の第三弾の設定

などが想定される。どれほどのインパクトのある政策を打ち出すか。それによってユーロ相場への影響、上昇してきたユーロは軟調となるか。

2.欧州の経済指標

ECBが追加緩和を実施する前提となっている欧州経済の回復失速は様々な指標に表面化しつつある。

月曜日 ドイツの鉱工業生産(10月)

火曜日 ドイツZEW景況感指数(12月、予想41.7、前月39.0)、ユーロ圏(前月32.8)

さらに弱い数字となるか。これらがユーロに対する利益確定売りを促し、反面でドルを支えるか。あるいはECBの追加緩和とともに織り込み済みとして、リスク選好が続くなかもう一段のユーロ高となるか。

3.米大統領選挙・選挙人確定期限

米国の大統領選挙はバイデン氏が各州の選挙人多数を押さえて勝利をほぼ確実にしたが、なお選挙人投票という最後のプロセスが残っている。

選挙人投票は12月14日に実施され正式に大統領が確定する。その1週間前である今週8日火曜日に、選挙人が確定する必要がある。

すでにバイデン氏は過半数を超える選挙人の確定を得ているが、なお未確定の州もある。14日の選挙人投票で造反が生じないかも含めて、最後の山場となり、政権移行が順調に進むかどうか、念のために留意は必要だ。

◆今週のMRA's Eye


バイデン政権の政策スタンスと為替相場

バイデン次期大統領候補は新政権の始動に向けて本格的に動き始めた。併せて経済政策のテーマも明確となってきた。

バイデン氏は公共投資の拡大と労働市場の立て直しを主要政策・課題として挙げている。バイデン政権の経済閣僚候補が明確になったが、そこにも雇用重視の姿勢がうかがえる。

財務長官にはジャネット・イエレン元FRB議長が就任する予定だが、同氏は労働経済学が専門で、在任中はハト派とした鳴らし、いわゆる「高圧経済論」を支持しているとされる。

高圧経済論では、景気回復につれて雇用が改善しても、社会の隅々にまで恩恵が行き渡るまで、インフレ圧力がよほど強まる恐れがないかぎり、金融引き締めはできるだけ待つべき、という考え方。

意図的な「ビハインド・ザ・カーブ」、遅れて実施する金融引き締め、となる。

また大統領経済諮問委員会(CEA)委員長にはセシリア・ラウズ氏が就任予定だが、同氏もプリンストン大学で労働経済学を専攻するエコノミストで、研究の中心は教育と格差解消に関する経済学という。

こうした政権のスタンスからみると、財政は拡大方向にあるのは明確だ。

しかしFRBが金融緩和をさらに強力に進め追加緩和に踏み切る可能性はむしろ小さいのではないか。政権が労働市場の立て直し、格差縮小、に取り組むとすれば、マクロよりもミクロにスポットを当てた政策になるだろう。

金融緩和はマクロ的に広く効果をもたらす。ただ過度な金融緩和は資産価格上昇、株高や不動産価格の急騰を招き、富裕層はさらにメリットを享受し格差はさらに拡大。不動産価格の上昇は持たざる者の居住環境の悪化につながる恐れがある。

FRBの政策は、ミクロ重視の、中小企業に対する金融支援や自治体のファイナンス支援につながるような政策となるのではないか。

そうした視点から、長期金利の上昇をけん制・抑制するべく、債券購入の拡大に踏み切るかどうか。

よりミクロの視点となれば、中小企業向け貸し出し資産の購入、社債購入となる可能性もある。

パウエル議長は先週の下院公聴会で、議会に対して失業者・中小企業・州自治体への支援・景気対策強化を求めている。

政権の政策ミックスが、財政拡大・公共投資拡大、金融緩和は現状維持ながらもミクロのファイナンス支援に傾斜、となると、イールドカーブは立つことになる。

これは米金融機関の収益にとってプラスとなり、リスクテイク余力の拡大、貸出スタンスの緩和につながる。

株式市場にとっては金融緩和のマクロ的な追い風は期待できないことになるが、ミクロ政策で経済の基盤が強化されればプラスとなる。

感染鎮静化、ワクチン接種の本格化などがセットとなれば、セクターローテーション、ハイテク株から景気敏感株へ、という流れが一段と明確になりそうだ。

もっともすでに株価が業績改善を相当程度織り込んでいるなかでは、ここから上昇するとしても極めて緩やかなペースとなり、また一時的な調整もありそうだ。

為替市場ではドルが堅調さを取り戻す可能性がある。米10年債利回りは1%に近づいているが、今後も緩やかながら上昇基調を続けそうだ。イールドカーブは立ち、景気回復を織り込んだかたちとなる。

欧州でECBが資産購入をマクロ的に拡大しようとしていること、欧州長期金利が超低金利で推移しそうなことと対照的だ。

こうした状況でユーロ高ドル安がさらに進むのは難しそうだ。

中長期的な緩やかなドル高、ドル安からの反転、がメインシナリオとなろう。リスクシナリオは米経済の失速、FRBによるマクロ的な金融緩和の強化だが、バイデン新政権がそれを許すとは考えにくい。

◆主要指標


【対円レート】
ドル :104.17(+0.33)
ユーロ :126.32(+0.22)
英ポンド :139.992(+0.33)
豪ドル :77.369(+0.10)
カナダドル :81.476(+0.75)
スイスフラン :116.728(+0.18)
ブラジルレアル :20.2147(+0.07)
中国人民元 :15.941(+0.09)
韓国ウォン(日本円=100) :9.612(+0.11)

【対ドルレート】
ユーロ :1.2121(▲0.002)
英ポンド :1.3441(▲0.001)
豪ドル :0.7425(▲0.001)
カナダドル :1.2784(▲0.008)
スイスフラン :0.8922(+0.001)
ブラジルレアル :5.1298(▲0.029)
中国人民元 :6.5315(▲0.011)
韓国ウォン :1081.81(▲14.71)

【主要国政策金利】
米国 :0.25
ユーロ :0.00
日本 :0.00

【主要国長期金利】
米10年債 :0.97(+0.06)
米2年債 :0.15(+0.00)
日本10年債利回り :0.02(▲0.00)
日本2年債利回り :0.02(+0.01)
独10年債利回り :▲0.55(+0.01)
独2年債利回り :▲0.75(▲0.01)

【主要株価指数・ビットコイン】
NY ダウ :30,218.26(+248.74)
NASDAQ :12,464.23(+87.05)
S&P500 :3,699.12(+32.40)
日経平均株価 :26,751.24(▲58.13)
ドイツ DAX :13,298.96(+46.10)
インド センセックス :45,079.55(+446.90)
中国上海総合 :3,444.58(+2.45)
ブラジル ボベスパ :113,750.20(+1,458.60)
英国FT250 :20,182.69(+50.25)
ビットコイン :18825.45(▲636.69)

【主要商品価格】
WTI :46.26(+0.62)
Brent :49.25(+0.54)
米ガソリン :126.85(+0.68)
米灯油 :140.30(+0.97)

金 :1838.86(▲2.22)
銀 :24.19(+0.12)
プラチナ :1060.62(+27.52)
パラジウム :2352.44(+32.97)
銅 :7748.50(+67:7C)
アルミニウム :2040.00(+1:12.5C)
※貴金属はニューヨーククローズ。ベースメタルは3ヵ月公式セトル価格。
※C=Cash-3M コンタンゴ、B=Cash-3M バック

シカゴ大豆 :1163.00(▲5.25)
シカゴ とうもろこし :417.00(▲5.50)
シカゴ小麦 :566.50(▲5.25)

※全ての価格は注記が無い限り、取引所で取引される通貨建。
※限月交代に伴う価格の不連続性は考慮されていません。予めご容赦ください。
※ 「休場」となっているものは、取引所が休場ないしはデータ更新時点で最新データを取得できなかった場合を指します。