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EU・英通商交渉を控えたリスク回避で景気循環系商品売られる
  • MRA商品市場レポート

2020年12月14日 第1871号 商品市況概況

◆昨日の商品市場(全体)の総括


「EU・英通商交渉を控えたリスク回避で景気循環系商品売られる」

【昨日の市場動向総括】

昨日の商品市場は、その他農産品や穀物その他農産品、需給バランスがタイトな鉄鉱石価格が上昇したが、その他の非鉄やエネルギーは水準を切り下げた。

英国とEUの通商交渉を週末に控え、「決裂するのでは」との見方が急速に高まっていることから、リスク回避のユーロ安・ドル高が進行したことが価格を下押しした。

足下の相場は、金融緩和と財政出動、ワクチン開発進捗、中国の経済活動が元に戻っていること、などを材料に強気相場になっていた。逆に言うとあまり売り材料が出てこず、目立った調整が起きていない、という状態である。

その中で、欧州と英国の交渉決裂は久しぶりに市場に「景気にとってネガティブ」な材料を提供することになるため、年末の流動性が低下する中で調整圧力となる可能性が高いと考えている。

この中で特に下落しそうなのが、中国をテーマにして物色されてきた非鉄金属や穀物類と見ている。

※レポートのお申込みはこちらから
https://marketrisk.jp/news-contents/news/3592.html

【本日の見通し】

週明け月曜日は、この週末に開催される英・EUの離脱関連協議の結果を受けた為替動向に左右される可能性が高い。本レポート作成時点では新しいニュースは入ってきていないが、これまでの報道だと決裂する可能性がでてきた。

決裂した場合、ユーロ安・ドル高が進行し広くドル建て資産価格が売られる展開になろう。逆に何かしらの妥結があった場合、ユーロ高・ドル安となりリスク選好が強まって、価格を押し上げると考える。

それ以外ではOPEC月報と中国の新築住宅価格指数に注目している。

OPEC月報はあれだけ混乱を極めたOPECプラス会合の後、どのような需要見通しを前提としているかに注目が集まる。サウジアラビアは自国の前提予算が80ドル程度であるため、価格下落には敏感だが、その他の主要国は現在でも採算が確保できるところも多く、この強気相場ではスタンスが当然異なる。

その前提となる需要見通しには注目したい。

中国の新築住宅価格は、やや過熱感のある中国の鉱物資源需要動向を占う上での参考になる。ただし、景気先行指数や製造業PMIのサブインデックスを見るにまだ中国の景況感は悪くないため、価格にはプラスに作用するだろう。

後は国内の先行きを占う上で重要な日銀短観も発表される。

市場予想は大企業製造業の業況判断DIが▲16(前回調査▲27)と改善見通しであり、先行きも▲10とマイナスながらも改善傾向を持続する見通し。非製造業も概ね同じだ。

ただし、中小企業の回復感は緩慢(製造業で▲35、先行き予測が▲33)であり、やはり日本の回復は外需頼みのところもあるため、景況感の回復ペースは全体として緩慢なものにならざるを得なさそうだ。

【セクター別動向と見通し】

◆エネルギー

原油価格は下落した。米追加経済対策協議の行き詰まりや、ニューヨーク市が再び店内飲食を禁止したことなどで需要減少観測が強まったため。

しかし、それ以上にEUの通商交渉が決裂する可能性が高まり、ユーロ安・ドル高となった影響が大きかった。

石炭価格は上昇。中国の国内景況感改善と冬場の気温低下に伴う電力向け需要増加、対豪制裁による輸入低下で国内の在庫が減少し、在庫積み増しの動きが継続している。

週明け月曜日は本日のEUと英国の通商交渉が、これまでの報道だと決裂する可能性が出てきたため、ユーロ安・ドル高が進行して下落すると予想。

OPEC月報は混迷を極めたOPECプラス会合を経て、先行きの需要見通しをどのようにOPECが判断しているかに注目している。

また、11月のOPECの生産動向次第では売り材料となるが、Bloombergの調査ではリビアの増産で前月比+53万バレル程度増加しているとみられ、売り材料となるのではないか。

石炭に関しては投機的な売買余地があまりないため、足下の需給ファンダメンタルズのタイトさを背景に堅調な推移を予想。

◆非鉄金属

LME非鉄金属は下落した。この数週間の価格上昇が顕著だったが、欧州情勢不安を背景にユーロ安・ドル高が進行したため、週末のEUと英国の通商交渉期限を控えた利益確定の動きが強まったためと考えられる。

週明け月曜日は本日期限となる英国とEUの通商交渉の内容次第のところはあるが、ここまでの報道を見るとリスク回避の動きが強まり、期末ということもあって軟調な推移になると予想する。

ただし、中国の需要は堅調でありLME指定倉庫在庫の減少傾向継続を受けて、下値余地も限定されると考える。

◆鉄鋼・鉄鋼原料

中国向け海上輸送鉄鉱石スワップは大幅に上昇、大連先物も大幅に上昇、豪州原料炭スワップ先物は小幅に下落、大連原料炭先物は小幅に下洛、鉄鋼製品先物価は直近限月が横ばい、中心限月は上昇した。

唐山市の環境規制の影響はあったものの、足下の鉄鋼製品・鉄鉱石需給がタイトな状態が続き、価格は上昇した。

中国の鉄鋼製品在庫の減少ペースは例年を下回っており、過去5年レンジを上回っていた鉄鋼製品在庫水準は徐々に例年水準まで低下していく可能性が高まっている。

引き続き中国の鉄鋼製品需給、高水準な粗鋼生産を受けた鉄鉱石在庫日数の低さから、高値圏での推移を予想。

◆貴金属

金価格はもみ合った結果、前日比小幅なプラスで引けた。米国の追加経済対策を巡る協議が難航していることや、英国とEUの通商交渉が不調であることなどから、小幅にリスク・プレミアムが上昇したため。銀は小幅安。

PGMはドル高進行と、週末のEUと英国の通商交渉期限を控えて利益確定の売りに押された形。

週末の英国とEUの通商交渉を受けて、報道ベースでは決裂する可能性が高く、ドル高が進行するためリスク・プレミアムを引き下げる形で軟調推移を予想。

◆穀物

シカゴ穀物市場は上昇した。中国向けの輸出が旺盛であることや、南米の生産見通し下方修正などが材料視されている。

CFTCの統計ではこの季節としては記録的な水準に積み上がっている買いポジションの解消圧力が強まるとみているが、12月8日付の統計ではトウモロコシのネット・ロングが増加、大豆が減少、小麦も減少している。

2020年12月3日時点の米国の主要穀物輸出成約高は以下の通り。トウモロコシ 1,362.20千トン(前週比▲9.2千トン)大豆 737.00千トン(+330.1千トン)小麦 616.50千トン(+170.1千トン)

週明け月曜日も、中国向けの需要が旺盛であることが価格を支えるものの、今の状態だと英国とEUの交渉が決裂する可能性が高く、ユーロ安・ドル高進行で投機の手仕舞い売り圧力が強まり、軟調な推移を予想。

※中長期見通しは個別セクターのコラムをご参照ください。

市場データ・グラフ類の添付ファイルのサンプルはこちら。

【昨日のトピックス】

昨日、トランプ大統領はモロッコとイスラエルの国交樹立を発表した、これでUAE、バーレーン、コンゴに続き、4ヵ国目である。いずれもパレスチナと地理的に近くない、地政学的な影響の低い国々が対象となっている。

トランプ大統領は就任式の宣誓に、旧約聖書の一文を使っている。具体的には以下の部分だ。

「都に上る歌。ダビデの詩」見よ、兄弟が共に座っている。なんという恵み、なんという喜び。かぐわしい油が頭に注がれ、ひげに滴り衣の襟に垂れるアロンのひげに滴りヘルモンにおく露のようにシオンの山々に滴り落ちる。シオンで、主は布告された祝福と、とこしえの命を。

これは、ヤハウェの教えに基づく支配はシオン(イスラエル)から始められる、という意味であり、トランプ政権はイスラエルと共に中東の地図を塗り替える意図を明確に持っていた。恐らくクシュナー氏の進言もあっただろう。

しかし、トランプ大統領がやる気になったから中東和平が進んだ、というよりもイスラエルの外交努力が実を結んだと考えるのが妥当だろう。

まず、地域で最大の軍事力を有していたエジプトと国交を樹立、次いでヨルダンとも樹立し、パレスチナの領有権を主張している国の中で主要な2国がパレスチナ問題から撤退。これにより、イスラエルはパレスチナ問題を地域的な問題にすることに成功する。

次いでクウェート侵攻を契機にイラクの勢力がそぎ落とされ、軍事的な脅威をさらに低下させることに成功する。(※東京大学教授 池内恵「イスラエルの中東地域・国際政治への影響の高まり」などを参考にした)

仮に今回、1.イランの軍事的な脅威を警戒しているという安全保障的な理由、2.脱炭素が進む中で新しい産業技術をイスラエルから取得したいという経済的理由、3.経済的に困窮しており、米国の庇護を受けたい、という国々がイスラエルと国交を樹立することになれば、結果的にイラン包囲網が完成し、さらには地域で対立するトルコもけん制することが可能になる。

場合によると、トランプ大統領が聖書を引用してコメントした用に、中東地域はイスラエルを中心とした新しい勢力が誕生するかもしれない。

しかし、パレスチナ人を巡る問題に引き続きサウジアラビアは慎重であり、すんなりイスラエルと国交を樹立するかは分からない。また、感情的にもパレスチナ問題は今後も残る可能性があるため、上記のシナリオはまだリスクシナリオの位置づけだろう。

トランプ大統領であろうが、バイデン大統領であろうがイスラエルの中東戦略は変わらずに継続する見込みであるが、バイデン大統領がイランに対する制裁を緩和したときに何らかの力学変化が再び起きる可能性はある。

いくつかのシナリオが考えられるが、サウジを中心としたスンニ派諸国のイランに対する反発が強まり軍事的な衝突が発生する、現在イスラエルが行っている対イラン政策で反米・反イスラエル機運が高まり、イラン主導で軍事的な衝突が発生する、イラン核合意に米国が復帰しイランと米国の距離が近づいた結果、イランとイスラエル、サウジアラビアなどの和平が進捗するといったものが考えられる。

【マクロ見通しのリスクシナリオ】

・米大統領選挙前後の国内融和にバイデン次期大統領が失敗する場合。

・欧州の政治混乱(トルコと欧州の関係悪化、ハードブレグジットなど)によるリスク回避の動きの強まり。

・コロナウイルスの感染再拡大(または新たなウイルスの発生)によるロックダウンが景気循環系商品の需要を減じる場合。逆に想定以上にワクチン・治療薬の開発が速やかに行われた場合は需要の増加要因に。

・環境重視型社会への急激な転換による、経済活動の鈍化リスク。成長ドライバーの1つとして期待される、中東・北アフリカ産油国が人口ボーナス期を活かせない(逆に鉱物産出国は高成長となる可能性も)。

・米中対立激化による、新冷戦構造が発現しブロック経済圏が発生して貿易活動が鈍化する場合(場合によると武力衝突も)。

「能動的に」軍事を行う方針に舵を切った中国習近平政権が、台湾統一を目指して侵略する可能性は低くなくなった。

・次の最大の成長ドライバーとして期待される、インド経済が期待通りの成長をできない場合(人種差別問題による国民の離反、市場開放・規制改革の遅れ、中国との対立など)。

2018年にすでに人口ボーナス期入りしているため、鉱物・エネルギーをはじめとする景気循環系商品需要の増加は2023~2024年頃。

・中国地方政府・中堅中小企業の財政状況悪化に伴う景気減速。

・米国の財政状況悪化、緩和規模拡大によるドル水準の低下リスク(ドル減価により、名目ドル建て資産価格の上昇要因に)。

◆昨日の商品市場(個別)の総括


---≪エネルギー≫---

【原油価格見通し】

原油価格は短期的には調整圧力が強まる展開を予想する。ファイザーのワクチン報道とOPECプラスの減産期間延長報道を受けて水準を切り上げてきたが、実際に需給環境が変わっている訳ではなく、期待先行の部分は否めないため年末年始を控えた利益確定の圧力が強まると予想されることから。

また、今回のOPEC・OPECプラス会合の段階的減産解除でももめたように、価格下落・価格上昇ともに生産国の抜け駆け増産を助長するため、そのことも価格を下押しすると予想する。

結局、OPEC諸国の足並みが混乱なく揃うのは、景気が回復して需要が順調な時のみ、といえる。結局辞任は見送ったが、サウジアラビアは一時、OPECプラスの議長ポストを辞任する意向を示しており、今後もOPECプラスの結束を維持することがいかに困難であるかをうかがわせる。

価格が上昇するには需給ファンダメンタルズの変化が必要で、ロックダウンが加速しやすく、ワクチン接種もまだ本格化していないことから価格上昇が肯定されるのは、恐らく3~4月以降になるのではないか。

中長期的には、報道通りのペースでワクチンが普及し、深刻な副作用が確認されなければ経済活動の回復とともに原油価格がわかりやすく上昇を始めるのは2021年後半になってから、と考えられる。

しかし、足下の市場は極端の景気先行きを楽観しており、株価対比で割安な原油を物色する流れが続いているため、ファンダメンタルズ以上に原油価格が上昇していることもまた事実であり、四半期末や年度末、期初、といったわかりやすい節目以外は、価格が高値で推移しやすい地合にあることは注意が必要か。

【見通しの固有リスク】

・米国経済が正常化する中でドル高が進行し、投機的な売り圧力が高まる場合。

・OPECプラスの減産と、非OPECプラス諸国の自主減産継続で需給がタイト化する場合(価格上昇要因)。逆に価格低迷で歳入確保の増産が加速する場合、またはOPECプラスのプログラムの対象となっていない中東諸国の増産(価格下落要因)。

景気回復時の増産タイミングの見誤りによる、供給不足(価格上昇要因)。

・脱炭素の進捗、生活様式の変化による構造的な需要減少が加速した場合、

1.中東産油国の財政悪化によって情勢不安が顕在化、供給途絶リスクが高まる2.中東以外の産油国の生産者の破綻3.上流投資部門投資が減速し、インドなどの新興国需要顕在化時に供給が間に合わない場合4.価格面、数量面で予算を確保できない産油国が、OSPを大幅に引き上げる場合(第3次オイルショック)

などが価格上昇要因に。

・バイデン政権誕生で、シェールオイルのフラッキングが制限/禁止される場合、供給減少で価格上昇要因に(今のところ生産量の1割程度となる、国有地でのフラッキング禁止にトーンダウンしている)。

また、イランに対する制裁が緩和される場合、原油価格の下落要因に。ただし、米国内の反イラン感情の高まりで、直ちに制裁が緩和される可能性は低い。

・イランの反米感情が高まり、中東の不安定さが増す場合(価格上昇要因)。

今回、イランの核科学者であるファクリザデ氏が(恐らく)イスラエルによって殺害されたが、これによりイラン国内でイスラエルの背後にあると解釈されやすい米国に対する反米気運が高まっている。

これはイラン国内での反米感情を高め、米国を核協議に復帰させないための策略と考えられる。

・ワクチン・治療薬が想定以上に早く準備でき、移動制限が急速に解除される場合(価格上昇要因)。

【石炭価格見通し】

石炭価格は堅調な推移になると考える。中国政府は国内炭の供給能力増強にシフトしているが、冬場で炭鉱が稼働し難いこと、港湾在庫の水準の低さに反映されるように、供給が十分ではないことが材料。

ただし、豪州との対立や、環境規制強化のの中で石炭需要は減速するとみられること、非常に矛盾するが国内生産を増加させていることから徐々に海上輸送炭価格の上値は重くなると予想される。

なお、気温低下の影響で主要3国(豪州・インドネシア・ロシア)の輸出は、過去5年平均を回復している。

11月の中国の石炭輸入は前月から大幅に減少。前年水準を▲43.8%下回る1,167万1,000トン(前月▲46.6%の1,372万6,000トン)と減速傾向を持続した。

中国は国内の石炭産業の強化と政治的に対立する豪州からの輸入制限で、国内生産を増加させる方向性に舵を切っており、それが影響しているとみられる。

バルチック海運指数も過去5年平均程度で低迷しており、輸入の動きは鈍化。しかし一方で中国の港湾在庫は減少しているため、ピークシーズンということもあって堅調な推移となろう。

【見通しの固有リスク】

・世界的な環境重視型世界へのシフトを受けた、石炭上流部門への投資規制強化による、供給減速懸念。短期的には価格の上昇要因。

・中国と豪州の対立、中国国内の生産能力増強に伴う、海上輸送炭需要の減少。

・北半球の夏場の猛暑(/冷夏)・冬場の厳冬(暖冬)。

【投機筋のポジション動向】

・WTIはロング・ショートとも減少しているが、Brentはロングが増加、ショートが減少している。欧州の感染者数がピークアウトしている可能性があることやOPEC増産幅が小幅に収まったことが材料となった可能性が高い。

・直近の投機筋のポジションは以下の通り。

WTIはロングが671,096枚(前週比 ▲6,251枚)ショートが156,467枚(▲3,715枚)ネットロングは514,629枚(▲2,536枚)

Brentはロングが335,130枚(前週比+24,839枚)ショートが62,267枚(▲2,160枚)ネットロングは272,863枚(+26,999枚)

---≪LME非鉄金属≫---

【非鉄金属価格見通し】

非鉄金属価格は中国の景気先行指数を見るに数ヵ月は強含みやすいとみているが、さすがに投機の期末を控えた売り圧力の強まりで調整すると考える。

現在の価格上昇は実際に中国の需要の増加による需給タイト化によるものであり、環境規制強化が牽引する価格上昇ではない。

例えば、中国の超高圧送電線網整備額は当初予定比+61%の1,811億人民元とする方針が今年の4月に示されており、電線向けの需要が銅、並びにアルミの需要を押し上げている。アルミは配電には利用されないが、超高圧電線には使用される。

このほか、バイデン政権の政策推進による環境重視の姿勢の強まりが、いわゆる「バイデン・トレード(化石燃料売り・省エネ金属買い、ただし金属生産の際には二酸化炭素が出ることは変わらない)」を加速させ、投機的な買い圧力を強めている。

バイデン・トレードは短期的には顕在化する需要ではないが、省エネ金属の需要増加は「今後10年・20年の大きなテーマ」となる可能性があるため、足下は期待選好で、総じて中長期的には物色されやすい地合が続くとみる。

具体例を挙げると、軽量化目的のアルミ、EV向けのニッケル・銅(通常25キロ/台の銅が使われるが、EVは80キロ/台)、蓄電池としての鉛、コバルト、リチウムなどが挙げられる。

中国が豪州の銅鉱石輸入を禁止する方針を打ち出したことで、精錬銅の需要が増加し、ベンチマークの銅価格が堅調に推移していることも地合を強くしよう。

しかし、中国の最大貿易相手経済圏である欧州でロックダウンの動きが再び見られること、季節的に南半球の供給が再開される可能性が高いこと、11月・12月のファンド決算を意識した売り圧力の強まりが価格を押し下げるため上値も重いと考える。

【見通しの固有リスク】

・米国経済が正常化する中でドル高が進行し、投機買いが膨らんでいる非鉄金属市場で投機の手仕舞い売り圧力が高まる場合。

・高水準の投機筋買い越しポジションが急速に解消されたときの下落リスク。

・主に銅山を中心とする労使交渉長期化による供給減少が、2021年も継続する場合(コロナの影響もあって、2020年の鉱山生産は全体で184万1,000トン、コロナの影響で115万1,000トン減少する見込み)。

・ニューカレドニアのGoroプロジェクトはAntfagasutaが買収相手として急浮上しており、過剰な供給不足への懸念が後退していることは価格の下落要因に。ただし楽観はできず。

なお、同プロジェクトのニッケル生産は6万トン/年(シェア2.4%)。

・中国の環境規制強化やコロナの影響再発に伴うスクラップの調達難による、新塊需要の増加。

・上流部門投資不足並びに鉱石の品位低下による、鉱山供給の制限。

・環境問題や人権問題(コンフリクト・メタルの問題)を背景とする鉱山供給の減少。

また、環境に配慮したメタル使用の義務化などが欧州で進む場合などのコストアップ(グリーン・メタルの義務化によるコスト増加)。

・資源ナショナリズムの高まり。インドネシアのニッケル未処理鉱石禁輸措置再開(銅とボーキサイトは2022年から実施の予定)。

・1月の米上院決定投票で民主党が過半数を確保し、「トリプルブルーリスク」が顕在化、脱炭素の動きが加速していわゆる省エネ金属の需要が増加する場合。

【投機筋のポジション動向】

・LME投機筋買い越し金額 前週比+6.5%の295億ドル(前週 277億ドル)・LME投機筋買い越し数量 前週比+2.6%の6,699.6千トン(前週 6,532.9千トン)

---≪鉄鋼原料≫---

【鉄鋼原料価格見通し】

鉄鉱石価格は、中国の景気先行指標をみるに堅調な推移を続けると考える。貿易統計で確認できるように鉄鋼製品輸入が増加し、輸出が減少。中国の顕在需要が増加していることを示唆している。鉄鉱石在庫は積み上がっているが日数ベースでは在庫水準は低く、需給はタイトとみられるため。

11月の中国の鉄鋼業PMIを見ると、閾値の50は下回っているものの、新規受注の改善(44.9→47.2)、輸出向け新規受注の悪化(52.0→45.9)を考えると、明らかに「国内向けの新規受注」が増加していることを示唆する内容。

今後も中国政府のインフラ投資を柱とする経済対策が、来年7月の中国共産党結党100周年記念まで続くと予想されること、中国国内の鉄鋼原料在庫水準が低いことから(鉄鋼製品在庫の水準は増加)在庫積み増し需要も継続する可能性が高く、基本は底堅い推移となる。

ただし価格上昇が需要の減少を引き起こすレーショニングが意識されるほか、南米生産者の増産見通しを考えると上値も重いと考える。

中国の鉄鋼製品の輸入は通常、平均で110万トン程度なのだが、11月は185万トン(前月193万トン)と減少傾向を持続した。10月の国内生産も9,220万トン(前月9,256万トン)と過去最高水準を記録した8月からは減速している。

その一方、鉄鋼製品輸出440万トン(前月404万トン)と増加している。このことは中国の鉄鋼製品の国内需要が減速し、顕在需要が減少を始めている可能性があることを示唆するものだ。

弊社はこの鉄鋼製品の輸出入動向に注目しているが、このまま輸入の減少・輸出の増加が続くようであれば、国内の景況感が悪化している可能性があるため要注意である。

なお、中国の鉄鋼製品需要は旺盛とみられるが在庫水準は前週比▲69万5,000トンの914万5,000万トン(過去5年平均 811万8,000トン)と、例年よりも在庫水準は高い。

しかし、国内の鉄鋼製品在庫の減少ペースは例年を上回っており、鉄鋼製品輸出も減少、輸入が増加している状況で、中国の鉄鋼製品需給はまだタイトな状態といえる。しばらくは鉄鋼製品の需要が鉄鉱石需要を牽引する状態が続くと見られる。

原料である鉄鉱石の11月の輸入は前年比+8.3%の9,815万トンと高い水準を維持している。しかし10月の前年比+14.9%の1億674万トン、9月の+9.2%の1億855万トンからは減速傾向となっており、中国の国内需要が減速している可能性を示唆する内容。それでも、前年比大幅なプラスであり、中国の国内需要の絶対水準は高い。

鉄鉱石港湾在庫は前週比▲285万トンの1億2,580万トン(過去5年平均1億2,199万4,000トン)、在庫日数は▲0.6日の25.2日(過去5年平均 31.6日)と例年と比較して在庫日数の水準は低く、輸入需要は持続するものと思料。

原料炭は中国の生産活動回復が継続していること、国内の鉄鋼需要が公共投資で底堅いことから、同様に底堅い推移になると考える。しかし、中国政府は原料炭を含む石炭の国内生産を増加させる方針であることから、海上輸送原料炭価格の上値も重い。

一方、中国の港湾在庫の水準は鉄鋼の最大生産省である河北省の主要港である、京唐港の港湾在庫は急速に増加しているが、依然として過去5年の最低水準であることから価格の下支え要因となる。

【見通しの固有リスク】

・鉄鉱石価格の上昇がレーショニング(価格上昇による需要減少)を引き起こす場合。

・世界的に広がる環境規制強化の流れで、鉄鉱石や原料炭などの生産に一定の影響が起きる場合。

・コロナウイルスの感染拡大長期化による、鉱山生産の減少リスク。

・カシミール地方を巡る中国との領有権争いが激化した場合、インドが中国に対して鉄鉱石輸出を制限する可能性(中国のFOBインデックスは上昇、その他の地域の鉄鉱石価格は低下)。

【投機筋のポジション動向】

---≪貴金属≫---

【貴金属価格見通し】

<<金>>

金は高値を維持すると考える。金融緩和の継続と、株価の上昇に伴う長期金利上昇圧力がせめぎ合う形で実質金利を現状水準に維持すると考えられることから。

なお、リスクオンはドル安で価格上昇、リスクオフで価格下落となる(詳しくは2020年10月12日付のMRA's Eyeをご参照ください)。

現在の金の実質金利で説明可能な価格(金基準価格)は長期金利の上昇で1,650ドルと、長期金利の低下による実質金利の低下が水準を押し上げている。そこからの乖離(リスク・プレミアム)は187ドルと前日比▲5ドル下洛した。

なお、金価格を実質金利要因と為替要因に分類した場合、為替要因はリスク・プレミアムのところに内包されると整理している(為替は名目金利の影響も受けるので、純粋に為替の要因のみ切り出すのが困難であることから)。

※毎日回帰分析をアップデートし、リスク・プレミアム自体の水準を見直しているため、前日比の整合性が取れていない場合があります。

<<銀>>

銀価格は金価格との比較感で売買されるが、金銀レシオは現在、76.5倍。過去1年を基準にすると95倍程度、5年では80倍、2000年以降では65倍程度が妥当だが、足元、80倍程度で落ち着いている。

金は高値を維持する見通しだがバイデン大統領誕生見通しであり、太陽光発電向けに用いられる「バイデン銘柄」であることもあって、需要構造の変化が価格を下支え(金銀レシオは低下)するものと予想。

なお、銀価格=金価格÷金銀レシオ であり、金銀レシオが低下することで金価格が変動した時の弾性値が上昇(ボラティリティは上昇し、足元金の2倍に上昇)する点は留意。

(例)金が2,000ドル、銀が20ドルのとき 金銀レシオが100倍→金価格±1ドルの変化で銀価格は±1セント変化 金の変化率は±0.05%、銀は±0.05%

 金銀レシオが1倍→金価格±1ドルの変化で銀価格は±1ドル変化 金の上昇率は±0.05%、銀は±5%

<<PGM>>

プラチナ価格は銀価格との連動性が高い。これは供給過剰で投機的な取引の影響が強まっていることによる。足下は、各国の自動車セクターの回復期待が強まっており、工業需要回復期待が価格を押し上げている状況。

仮に脱炭素が進んで水素が用いられ、燃料電池が進むのであればプラチナの構造的な需要が増加するシナリオは、需要・価格面でのポジティブリスクシナリオ。投機の比率が高い商品であるため、こうした観測記事だけでも材料に価格が反応しやすい。

パラジウムは価格は景気の先行き楽観が強まっているが、足下のコロナの感染拡大がこれを相殺するため、現状水準でのもみ合いを予想。

ETF残高とパラジウム価格の連動性が高まっており(管理在庫増加→価格上昇)、一時の、ETF管理在庫減少→価格上昇、のメカニズムから変化してきている。

在庫取り崩し→価格上昇は実際に需給がタイトで、現物確保のためにETFを取り崩さなければならなかったからだが、現在はこれと逆のことが発生している訳で、足元、パラジウムの需給は緩和していると見られる。今後はETFの動向に注目。

11月の米自動車販売は年率1,555万台(市場予想 1,610万台、前月 1,621万台)と減速した。長期金利の上昇が影響したと見られる。

中国の10月の自動車販売は中国自動車工業協会の速報で前年比+12.6%の257万3,000台(前月+13.0%の256万5,201台)。

自動車販売は回復しているが、不要不急の消費であるため中国を除いては本格的な回復にはまだ時間がかかる見込み。

【見通しの固有リスク】

・世界的な成長力の低下に伴い、各国の財政状況が悪化、地政学的リスクが顕在化する場合(中東・北アフリカのリスク顕在化の可能性は低くない)。リスク・プレミアム上昇を通じて貴金属価格の上昇要因に。

・米中の対立激化。米国は今回のウイルス問題で、中国の医療面、人工知能を含むIT面に脅威を感じた可能性は高く、対立が激化する場合(安全資産価格の上昇要因)。

・英国のブレグジットは、FTA合意なき離脱となるリスクが残存しており、その場合のインパクトは無秩序離脱と同レベルになると考えられ、金価格の上昇要因に。

・中国地方政府・中堅中小企業の財政状況悪化に伴う景気減速による安全資産需要の増加。

・世界的な自動車販売の減速(米欧中)による、自動車向け排ガス触媒需要の減少(PGM)。

環境重視型社会へのシフトはパラジウム需要を増加させるが、さらに加速して「水素社会」まで到達すると、燃料電池車需要が増加して構造的にプラチナ価格の上昇要因となる可能性。

・コロナウイルスの感染拡大による、最大生産国の1つである南アフリカの鉱山稼働が不安定であることによる供給懸念。

【投機筋のポジション動向】

・直近の投機筋のポジションは、金はロングが338,271枚(前週比 +13,927枚)、ショートが69,051枚(+5,021枚)、ネットロングは269,220枚(+8,906枚)、銀が79,310枚(+2,287枚)、ショートが30,934枚(+1,803枚)、ネットロングは48,376枚(+484枚)

・直近の投機筋のポジションは以下の通り。

プラチナはロングが36,299枚(前週比 +3,246枚)ショートが11,797枚(+770枚)、ネットロングは24,502枚(+2,476枚)

パラジウムが5,474枚(▲140枚)、ショートが2,863枚(+273枚)ネットロングは2,611枚(▲413枚)

---≪農産品≫---

【穀物価格見通し】

穀物価格はトウモロコシ・大豆は期末を控えた売りでいったん調整すると考える。

しかし、中国の大豆在庫水準の低さと大豆油価格の上昇を受けた大豆輸入需要は旺盛であり、当面、需要面が価格を支えると考える。

なお、中国の豚肉価格は下落する一方、豚肉の輸入量も減少している。このことは中国の畜豚数の増加(大豆ミール需要の増加)=大豆需要の増加、を示唆している。当面、中国向けの輸出が中国側の事情で増加すると見られることが価格を下支えすると予想。

小麦はさほど投機の買いポジションが積み上がっている訳ではないが、各地で生産見通しが引き上げられており、やや軟調に推移。

バッタ被害はLocust Watchでは、エチオピア、イエメン、ケニア、サウジアラビアの一部で深刻な状態が続いている。

西部に広がっていたバッタの固体(群棲相を形成していない)はチャドとモーリタニアで拡大しており、影響拡大への懸念がやや強まっている。
http://www.fao.org/ag/locusts/common/ecg/75/en/201101forecast.jpg

やや懸念されるのが、サイクロン「Geti」がソマリアを通過すること。これにより水分が土壌に供給され、植物も生長することから越冬するバッタが増加するとみられる。来年のリスクは小さくなくなっている。
http://www.fao.org/ag/locusts/common/ecg/75/en/20112306gati.jpg

【見通しの固有リスク】

・ラニーニャ現象の発生による穀物供給減少リスクの顕在化。害虫の発生、生産地の土壌破壊など(すでに一部顕在化)。

・環境重視型社会へのシフトにより、燃料向け穀物需要が増加する場合(価格の上昇要因)。現在はそれほどの数量でもない、バイオディーゼル向けの大豆需要増加など。

・新型コロナウイルスの影響拡大による、輸出活動の停滞(シカゴ定期を含む生産地価格の下落要因)。

【米農務省需給報告データ】

・米穀物作付け意向面積トウモロコシ 9,699万エーカー(市場予想 9,412万エーカー)大豆 8,351万エーカー(8,502万エーカー)小麦 4,466万エーカー(4,495万エーカー)

・米穀物最終作付け面積トウモロコシ 9,201万エーカー(市場予想 9,514万エーカー)大豆 8,383万エーカー(8,483万エーカー)小麦 4,425万エーカー(4,472万エーカー)

・12月米需給報告単収見通し(実績/市場予想/前月)トウモロコシ 175.8Bu/エーカー(NA、175.8)大豆 50.7Bu/エーカー(NA、50.7)小麦 49.7Bu/エーカー(NA、49.7)

・12月米需給報告生産見通し(実績/市場予想/前月)トウモロコシ 145億700万Bu(NA、145億700万Bu)大豆 41億7,000万Bu(NA、41億7,000万Bu)小麦 18億2,600万Bu(NA、18億2,600万Bu)

・12月米需給報告輸出見通し(実績/前月)トウモロコシ 26億5,000万Bu(26億5,0500万Bu)大豆 22億Bu(22億Bu)小麦 9億8,500万Bu(9億7,500万Bu)

・12月米需給報告在庫見通し(実績/市場予想/前月)トウモロコシ 17億200万Bu(16億9,100万Bu、171億200万Bu)大豆 1億7,500万Bu(1億6,912万Bu、1億9,000万Bu)小麦 8億6,200万Bu(8億7,652万Bu、8億7,700万Bu)

・9月末四半期在庫(実績/市場予想/前月)トウモロコシ 19億億9,500万Bu(22億6,554万Bu、52億2,400万Bu)大豆 5億2,300万Bu(5億7,838万Bu、13億8,600万Bu)小麦 21億5,900万Bu(22億4,035万Bu、10億4,400万Bu)

・12月CONABブラジル作付け面積(実績/市場予想/前月)トウモロコシ 1,844万ha(1,943万ha、1,844万ha)大豆 3,818万ha(3,845万ha、3,825万ha)

・12月CONABブラジル生産量(実績/市場予想/前月)トウモロコシ 1億259万トン(1億938万トン、1億489万トン) 単収 5,564Kg/ha(5,630kg/ha、5,688kg/ha)大豆 1億3,445万トン(1億3,325万トン、1億3,495万トン) 単収 3,522Kg/ha(3,468kg/ha、3,528kg/ha)

【投機筋のポジション動向】

・直近の投機筋のポジションは以下の通り。

トウモロコシはロングが565,166枚(前週比 +3,923枚)、ショートが130,401枚(+4,110枚)ネットロングは434,765枚(▲187枚)

大豆はロングが310,089枚(▲6,464枚)、ショートが41,121枚(▲3,103枚)ネットロングは268,968枚(▲3,361枚)

小麦はロングが119,536枚(+3,093枚)、ショートが105,770枚(+1,258枚)ネットロングは13,766枚(+1,835枚)

◆本日のMRA's Eye


「プラチナの期待先行買いは息切れか」

プラチナ価格は金価格とペアで議論されることが多い。かつては金よりも高い値段で取引されていたプラチナだがすっかり金価格よりも安くなってしまった。

両者の価格乖離は一般に、2015年に発生したフォルクスワーゲンの排ガス規制偽装問題を受けてディーゼル車の需要が減少、ディーゼル車の排ガス触媒に用いるプラチナの需要が減少し、構造的な供給過剰が拡大したことがきっかけとされる。

しかし、World Platinum Investment Council のデータを元に主要用途の需要の増減を2015年と2020年で比較してみると、自動車触媒向けの需要の減少が▲80万9,000オンスであるのに対し、宝飾品の需要は▲101万4,000オンスの減少と、宝飾品向けの需要減少の影響の方が大きい。

宝飾品需要の減少は最大需要国である中国のプラチナ需要が、金との競合や個人の経済状況の悪化が影響しているとみられる。金の宝飾品向けの需要もコロナの影響による外出機会やドレス・アップ需要の低下から同様に減少しているが、そもそも宝飾品としては金の方がプラチナよりも認知されているため、落ち込み幅はプラチナほどではない。

中国の宝飾品向けの需要は景気やコロナの影響、趣味嗜好の変化に左右されるためなんともいえないが、急に増加するとも考え難いため恐らく現状の水準がしばらく続くと考えるのが妥当だ。

一方、排ガス規制強化は政策的なものであるため恐らく今後も自動車触媒向けの需要が大きく変化することはないだろう。供給側も需要の減少や価格の低迷を背景に減産を行ってきたが、この結果プラチナの需給バランスは2015年頃から徐々に構造的な供給過剰の状態になっていった。

ここで2015年頃からのプラチナの需給バランスと価格の推移を振り返ってみると、興味深いことが分かる。

グラフはプラチナの鉱山生産とリサイクル品からの回収による供給から、

1.投機需要を除いた需要2.投機需要を含んだ総需要

を差し引いて求めた需給バランスである。緑色の棒グラフが投機取引を含まない、いわゆる実需のみの需給バランスであり、オレンジ色の棒グラフが投機取引を含んだ需給バランスを表す。棒グラフがプラスの場合供給過剰を、マイナスの場合供給不足を表す。

プラチナの需給バランスは、2016年に鉱山閉鎖の影響などで供給不足となる局面はあったが、それ以降は総じて供給過剰の状態が続いた。

特に投機を除く需給バランスは供給過剰幅を拡大しているのが分かる。上述の中国の宝飾品需要の減少と、環境規制強化に伴うディーゼル車からガソリン車へのシフトによる自動車触媒向け需要の減少が影響しているためだ。

このことは、現在のプラチナ市場の需給バランスが投機目的の現物需要がどれだけ入るか?に依拠するようになっていることを意味する(もちろん、中国の景気が米中対立を乗り越えて回復し、宝飾品需要が急増すれば話は別だが)。

プラチナの需給バランスは当面、投機資金の動向が左右することになると予想される。

投機資金が「現物市場に流入したとき」には現物を実際に買いに行くため、価格は上昇する(先物市場と現物市場の違いについては今後、このコラムで解説の予定)。

では投機資金がどのようなタイミングでプラチナなどの商品を買うか?といえば端的に価格が上がる可能性があると判断したとき、ということになる。

この1年を振り返ると、プラチナ価格が大きく変化するイベントでその影響が大きかったのは、「バイデン候補環境政策発表」と「ファイザーのワクチン開発進捗報道」だろう。

これらを材料に、自動車向けや宝飾品向けの需要が直ちに増加することは考え難いが、実際にプラチナ価格は反応している。

グラフは6月以降のプラチナ価格と金価格の推移と、イベント発生時であるが、明らかにこの2つのイベントの後に価格が大きく変化していることが分かる。

前者は環境重視型政策が米国で推進されれば、プラチナを大量に必要とする燃料電池車が普及するのではないか、との「連想」が働いたためと考えられる。

なお金価格も上昇しているが、これはむしろ7月21日に米政府がヒューストンの中国領事館閉鎖を命令し、安全資産需要が高まった影響が大きい。

直近のプラチナ価格の上昇は、ファイザー社のコロナワクチン開発成功報道がきっかけで、2020年11月9日以降上昇が顕著になっていることが分かる。そして同時に金価格は水準を切り下げている。

恐らくワクチンの接種が進み、欧米でのロックダウンが解除され人の移動が再開されるなかで自動車向けの需要が回復する、という「連想」が働いた。原油価格も同時に上昇しており、恐らく市場はその理解だったと考えられる。

しかしこのことは逆に、「連想」や「期待」が価格を押し上げているに過ぎないことを意味しており、特に現物を必要としない投機目的の市場参加者はいずれかのタイミングでこれを手仕舞う(買いポジションの構築なら売り、売りポジションの構築なら買い、となるが今回のケースでは買いポジションが形成されている)ことになる。

そのきっかけとなるのは上記と逆のことが起きること、すなわち燃料電池車が普及するシナリオが描けない、想定外にワクチンが有効ではなかったといったことが考えられる。

短期的には年初来のパフォーマンス(上昇率)が、同じ貴金属セクターの金銀パラジウムと比較すると低いこと、投機的な取引が価格を左右しやすい状況にあること、からまだ高値をトライする可能性はあるが、下落リスクを意識しながらの上昇になる可能性が高いと考える。期待先行の買いはそろそろ息切れする、と見た方が良いかもしれない。

◆主要ニュース


・11月独消費者物価指数 前月比▲1.0%(前月±0.0%)、前年比▲0.7%(▲0.5%)

・11月米生産者物価指数 前月比+0.1%(前月+0.3%)、前年比+0.8%(+0.5%)
 除く食品エネルギー 前月比+0.1%(+0.1%)、前年比+1.4%(+1.1%)
 除く食品エネルギー・貿易 前月比+0.1%(+0.2%)、前年比+0.9%(+0.8%)

・12月米ミシガン大学消費者マインド指数速報 81.4(前月76.9)
 現況指数 87.0(+1.2、85.9)
 先行指数 91.8(87.0)
 1年期待インフレ率 2.3%(2.8%)
 5年期待インフレ率 2.5%(2.5%)

・米バイデン次期大統領、「中国の不公正な貿易慣行の見なおしを優先事項に位置づける。」

・EUフォンデアライエンEU委員長、「英国との通商交渉は合意なしで終わる可能性が高い。」

・EU、トルコの東地中海の資源開発を巡り、加盟国のギリシャやキプロスとの対立が続くトルコに追加制裁を科すことで合意。

・米上院、期間1週間の暫定予算案を承認。トランプ大統領は法案に署名する見通しで、政府機関の閉鎖は回避されることに。

◆エネルギー・メタル関連ニュース


【エネルギー】
・ベイカー・ヒューズ週間米国石油リグ稼働数258(前週比+12)
 ガスリグ 79(前週比+4)。

【メタル】
・Vale、Q121の高炉(Blast furnace)鉄鉱石ペレット、直接還元
(Direct-Reduced)鉄鉱石ペレットのプレミアムを2倍に。

◆主要商品騰落率


【上昇率上位5商品】

商品名(カテゴリー)/前日比上昇率/年初来上昇率
1.SHFニッケル ( ベースメタル )/ +4.75%/ +15.42%
2.ICEガスオイル ( エネルギー )/ +3.45%/ ▲32.86%
3.CBT小麦 ( 穀物 )/ +3.05%/ +8.86%
4.ICE欧州天然ガス ( エネルギー )/ +2.66%/ +49.18%
5.LIFFEココア ( その他農産品 )/ +2.52%/ ▲8.14%

【下落率上位5商品】

商品名(カテゴリー)/前日比上昇率/年初来上昇率
66.CBTオレンジジュース ( その他農産品 )/ ▲4.01%/ +19.39%
65.LME亜鉛 3M ( ベースメタル )/ ▲2.76%/ +22.40%
64.プラチナ ( 貴金属 )/ ▲1.81%/ +4.74%
63.ICE粗糖 ( その他農産品 )/ ▲1.57%/ +7.53%
62.LME銅 3M ( ベースメタル )/ ▲1.33%/ +25.93%

※弊社が重要と考える主要商品の前日比騰落率上位・下位5品目です。
※限月交代に伴う価格の不連続性は考慮されていません。予めご容赦ください。

◆主要指標


【為替・株・金利・ビットコイン】
NY ダウ :30,046.37(+47.11)
S&P500 :3,663.46(▲4.64)
日経平均株価 :26,652.52(▲103.72)
ドル円 :104.02(▲0.22)
ユーロ円 :126.00(▲0.53)
米10年債 :0.89(▲0.01)
中国10年債利回り :3.30(+0.03)
日本10年債利回り :0.01(▲0.00)
独10年債利回り :▲0.64(▲0.03)
ビットコイン :18,110.96(▲238.77)

【MRAコモディティ恐怖指数】
総合 :30.31(+0)
エネルギー :35.81(▲0.4)
ベースメタル :18.43(+0.47)
貴金属 :25.83(+0.12)
穀物 :17.79(▲0.24)
その他農畜産品 :39.29(+0.07)

【主要商品ボラティリティ】
WTI :26.21(▲0.22)
Brent :23.26(▲1.24)
米天然ガス :63.87(+2.92)
米ガソリン :30.15(▲0.7)
ICEガスオイル :25.82(▲3.48)
LME銅 :18.52(▲0.01)
LMEアルミニウム :14.69(+0.17)
金 :14.09(▲0.01)
プラチナ :32.47(+1.23)
トウモロコシ :15.80(▲1.81)
大豆 :14.09(▲0.01)

【エネルギー】
WTI :46.60(▲0.18)
Brent :49.99(▲0.26)
Oman :50.09(▲0.29)
米ガソリン :130.68(▲0.98)
米灯油 :143.66(+0.09)
ICEガスオイル :412.25(+13.75)
米天然ガス :2.60(+0.04)
英天然ガス :46.35(+1.20)

【貴金属】
金 :1839.76(+3.19)
銀 :23.95(▲0.05)
プラチナ :1012.41(▲18.71)
パラジウム :2321.75(▲19.46)
※ニューヨーククローズ。

【LME非鉄金属】
(3ヵ月公式セトル)
銅 :7,760(+31:19C)
亜鉛 :2,838(▲2:32.5C)
鉛 :2,060(▲29:1.5C)
アルミニウム :2,035(▲8:12.5C)
ニッケル :17,254(+363:62C)
錫 :19,505(▲171:45B)
コバルト :31,700(+114)

(3ヵ月ロンドンクローズ)
銅 :7768.50(▲104.50)
亜鉛 :2784.50(▲79.00)
鉛 :2057.00(▲24.00)
アルミニウム :2032.00(▲15.00)
ニッケル :17335.00(▲65.00)
錫 :19530.00(+75.00)
バルチック海運指数 :1,161.00(+39.00)
※C=Cash-3M コンタンゴ、B=Cash-3M バック

【鉄鋼原料】
62%鉄鉱石スポット(CFR中国、1営業日前) :157.36(+7.28)
SGX鉄鉱石 :155.18(+1.91)
NYMEX鉄鉱石 :152.02(+1.32)
NYMEX豪州原料炭スワップ先物 :101.21(▲0.08)
大連原料炭先物 :232.96(▲0.08)
上海鉄筋直近限月 :4,400(±0.0)
上海鉄筋中心限月 :4,108(+67)
米鉄スクラップ :451(+66.00)

【農産物】
大豆 :1161.50(+8.75)
シカゴ大豆ミール :384.10(+3.10)
シカゴ大豆油 :39.58(+0.62)
マレーシア パーム油 :3709.00(+20.00)
シカゴ とうもろこし :424.50(+4.25)
シカゴ小麦 :608.25(+18.00)
シンガポールゴム :232.00(+0.40)
上海ゴム :14200.00(+260.00)
砂糖 :14.43(▲0.23)
アラビカ :119.10(+0.55)
ロブスタ :1335.00(+9.00)
綿花 :74.08(▲0.18)

【畜産物】
シカゴ豚赤身肉 :64.65(▲0.15)
シカゴ生牛 :108.73(+0.80)
シカゴ飼育牛 :139.48(+1.88)

※全ての価格は注記が無い限り、取引所で取引される通貨建。
※限月交代に伴う価格の不連続性は考慮されていません。予めご容赦ください。