欧州問題進捗期待を受けたユーロ高・ドル安で堅調
- MRA商品市場レポート
2020年10月15日 第1838号 商品市況概況
◆昨日の商品市場(全体)の総括
「欧州問題進捗期待を受けたユーロ高・ドル安で堅調」
【昨日と本日の各セクターショートコメント】
◆エネルギー:上昇。価格への影響が大きくなっているドル指数が、欧州問題の進捗期待を受けたユーロ高・ドル安で軟調に推移したため。
本日は米石油統計に注目。朝方発表のAPI統計では原油在庫・製品在庫の減少が確認されており、強気の内容となる見込み。
また、本日予定されているOPECプラス共同技術委員会(JTC)に注目だが、サウジ・ロシアとも減産継続方針が示される見通しであり、短期的に原油価格にはプラスに。
◆非鉄金属:上昇。英国とEUの協議継続報道を受けたユーロ高・ドル安が価格を押し上げた。
引き続き政治的な動きと為替動向に左右される形となるが、中国の需要堅調が強く意識されているため、高値圏でのもみ合い継続か。
◆鉄鋼・鉄鋼原料:下落。港湾在庫の絶対水準の切り上がりと、鉄鉱石価格の高さからいわゆるレーショニングが発生しており、軟調。
在庫の積み上がりが意識されており、本日も軟調推移を予想。
◆貴金属:上昇。欧州と英国の交渉継続報道を受けたユーロ高・ドル安が材料。
足元、説明力が上昇している為替動向に左右される展開継続。米追加経済対策期待後退(ドル高)と英交渉継続(ドル安)が材料となり、もみ合い予想。
◆穀物:ドル安進行で堅調。
各穀物とも輸出需要が堅調であり、ドル安も手伝って堅調な推移を予想。
※より詳細な説明は以下をご参照ください。
【昨日の市場動向総括】
昨日の商品市場はドル安の進行を受けてほとんどの商品が上昇、逆に自国通貨建ての商品は自国通貨高を受けて軟調な推移となった。
昨日は10月15日は英ジョンソン首相が一方的に決定したEUとの交渉期限としていたが、関係者のコメントで、ジョンソン首相が何と言っても交渉は継続すると報じられたことでユーロに買戻しが入り、ドルが下落したことが広くドル建て資産価格の上昇要因となった。
足元の価格決定要因は明らかにドル指数同行であり、ドル指数についても名目金利差がない中、政治的な要因によるリスクオン・リスクオフに振らされる展開となっている。
しかし、価格の絶対水準を決めるのは需給ファンダメンタルズであり、鉱物資源価格やエネルギー価格の絶対水準は経済環境を反映して適切とみられる(ただし鉱物資源価格の水準は弊社が想定していた以上に高い)。
なお、昨日、深センで習近平国家主席が演説を行い、中国本土・香港・マカオを融合する「ビッグベイエリア構想」を披露したが、今後もこの地域の支配は強まるものと思われ、その延長線上に台湾を一方的に視野に入れていると考えられる。
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【本日の見通し総括】
本日も政治要因を受けて神経質な推移になると考えている。欧州と英国の交渉継続はドル安を通じてドル建て資産価格の上昇要因、米国の追加経済対策の実施見送り(大統領選までは妥結は無理との見方)はドル高を通じて資産価格の下落要因となるため、もみ合うものと予想される。
なお、昨日は手掛かり材料にならなかったが、中国習近平国家主席の演説は中長期的に中国が沿岸部の周縁地域の支配を強める方針を再確認したものであり、東アジア地域の軍事衝突の可能性は排除するべきではない。
習近平国家主席が「核心的利益は手放さない」と発言してしまったおかげで、周辺諸国との紛争は今後も絶えないと予想される。
というのも、核心的利益とは領土であり、それを「どうするか?」を考える、すなわちどこ地区を諦め、どこの地区を自国とするかを交渉で決めるのが「外交」である。
しかし、「中国の核心的利益は手放さない」といった趣旨の発言を中国高官は繰り返している。これは言葉を変えると「領土に関しては交渉しない」ということを意味しており、交渉をしないというならば、領土を守るためには軍事衝突以外の選択肢しかなくなることになる。
そこまで考えての習近平国家主席の発言であるかどうかはわからないが、核心的利益に関する発言は不用意だったのではないか。このように考えると、やはり2021年に向けての武力衝突のリスクは小さくないだろう。
【昨日のトピックス】
来年以降、株価がどうなるのか?といったことが議論されている。弊社は株価動向分析の専門ではないが、株式市場は投機動向を占う上で重要な指標であるため重視している。
ところが好調を続け、やや割高と思われる米国の株式市場であるがいわゆるハイテク企業のトップであるGAFAMを除くと、実はそれほどバブル、というわけではない。
グラフは、「GAFAM」「ハイテク銘柄」「S&P500除くハイテク銘柄」「ドル建て日経平均」「ドル建て東証マザーズ指数」の5種類のパフォーマンスであるが、ITセクターのパフォーマンスが、従来型企業の比率が高いS&P500除くハイテク銘柄、日経平均のパフォーマンスを大きく上回っている。
しかし、その中でも圧倒的にGAFAMのパフォーマンスが高い。
このことは
1.ハイテク関連株が市場をけん引しており、その他のいわゆる伝統的な業界には投資されていない
2.日本はハイテク分野が遅れており、今回の菅政権のIT戦略が加速すれば、日経平均はさらに上昇する可能性がある(縦割り行政がビジネス拡大の重石に)-IT関連企業が多いとされるマザーズの時価総額は3.8兆円程度、日経平均対象銘柄の時価総額は362兆円と規模が圧倒的に異なる
3.GAFAMの株価が米民主党が推進しようとしている大企業の解体が進んだ場合、急落してS&P500、ひいてはその他の株式市場にも影響が出る
4.仮に現状が維持された場合、循環的な景気回復が起きれば、S&P500除くITセクターの株価が堅調に推移し、その他のリスク資産市場価格の上昇要因となる
といった可能性を示唆している。実は世界経済の回復はまだらであり、新しい産業への投資を市場参加者は期待している、ということだろう。
【景気循環銘柄共通の価格変動要因整理】
<<マクロ要因>>
・各国のPMI・ISMなどのマインド系指標は回復基調にあるものの、米中以外はまだ低迷した状態。
製造業・サービス業とも経済活動が回復しているが、コロナ以降の生活様式の変化でロックダウン解除や政策を織り込んだ回復はそろそろ限界。今後、感染ピークになる可能性がある冬場に向けて一時的に調整する可能性。
・世界景気の減速観測。IMFは2020年の経済見通し引き上げ(▲4.9→▲4.4%)、2021年に関しては+5.4%→+5.2%と下方修正した。
2020年の引き上げは北半球の夏場の立直りが予想を上回ったこと、2021年の引き下げは2020年の発射台が上がったことが背景。
しかし、コロナウイルスの影響は長期化すると予想されており、今後の世界経済の成長ペースが3.5%に戻るには予想以上に時間がかかる公算。
・各国中央銀行、特に先進国の中央銀行はコロナ対策で政策金利をほぼゼロ近傍まで引き下げており量的緩和規模も拡大、これ以上打てる手がなくなった状態。
今後は、財政出動を促す形になるが、意思決定の速度は中国>米国>日本>欧州であり、欧州・日本は減速感が強まる可能性。また、財政拡大が世界に広がれば体力のない新興国でデフォルトが発生する可能性も。
・2018年からインドが人口ボーナス期入りしており、構造的な需要の増加が見込めることは中長期的な価格の上昇要因。
<<特殊要因>>
・コロナウイルスが冬場に再拡大し、北半球の冬場に再度感染拡大→経済活動自粛、という流れになるリスク。
同時にワクチン開発が進捗して経済活動の回復が加速することも、景気循環系商品にとってはアップサイドのリスクに。
・米中の対立激化による新冷戦構造の発現(最早顕在化しておりメインシナリオではあるが)。
米国が中国と共生体制になっていのは経済的なメリットがあったからだが、リーマンショック、コロナショックを通じて中国よりもデメリットが大きい(人民元安誘導など)ことがわかったため、米国が中国からのデカップリングを進める可能性は高い(むしろもうメインシナリオと考えるべきか)。
・米大統領選挙を巡る混乱。
反中に転じたバイデン氏が今のところ有利に選挙戦を進めているとみられるが、バイデン勝利の場合、より他国と連携して中国包囲網を強めるとみられるため、貿易量の減少を通じて景気循環系商品価格の下落要因に。
また、バイデン勝利の場合増税への懸念が強まるため株価にはマイナスと判断されており、この場合、株下落に伴う逆資産効果で商品価格の下押し要因となる可能性。
・生産拠点を自国に回帰させる動きや、リモートの定着による成長鈍化が、新興国(資源国の多くも新興国)の財政状況を悪化させ、自国を含む域内景気への悪影響を及ぼす懸念(価格の乱高下要因)。
・欧州の政治混乱(トルコと欧州の関係悪化、ハードブレグジットなど)によるリスク回避の動きの強まり(下落要因)。
・中国地方政府・中堅中小企業の財政状況悪化に伴う景気減速(下落要因)。
<<投機・投資要因>>
・年末から来年の冬場にかけて再度ロックダウンが始まり、投機の買いで上昇したリスク資産価格(特に株)が下落するリスク。
・コロナウイルスのワクチンが年内に開発完了、欧米が集団免疫を獲得しコロナ禍が想定よりも早く収束した場合(多くの景気循環銘柄価格の上昇要因に)。
◆昨日の商品市場(個別)の総括
---≪エネルギー≫---
【原油市場動向総括】
原油価格は上昇した。需給関連で目新しい材料が出てこない中、為替動向が価格を左右しやすいが、英国とEUの交渉継続報道を受けてポンド・ユーロが対ドルで上昇、ドル安となったことが材料。
また、IEAが在庫調整が進捗している、との見通しを示したことも若干の価格上昇支援材料となった。
取引後半はムニューシン財務長官が大統領選前の追加対策決定・実施は困難との見方を示したことでドル高が進行し、上げ幅を削った。
しかしこの上昇でレジスタンスラインだった50日移動平均線をBrent・WTIとも上回っており、テクニカルな要因が価格動向を左右しやすいため、短期的な上昇の可能性が出てきた。
【原油価格見通し】
原油価格はもみ合うものと考える。米国の追加経済対策を巡る不透明感を受けた需要への懸念、OPECの定期的な増産見送りの可能性が高いこと、といった強弱材料がせめぎあうため。
しばらくは、チャートを用いたテクニカルな取引が価格動向を左右すると考えられるが、Brent・WTIとも50日移動平均線のレジスタンスラインを上抜けしたため、テクニカルに上値を試しやすい地合いにある。
目先のテーマは大統領選挙の先行きがトランプ大統領のコロナ感染の影響で、で不透明になってきたこと、英国ブレグジットを巡る混乱などの政治要因だが、これらはどのように転ぶかわからないため、明らかになるまでは基本的には「リスクオフ」の材料とされやすい。
やや懸念すべきは、需要減速、価格下落局面でよく見られることであるが、OPECの抜け駆けが続き、結束が揺らぐリスクである。この場合、原油価格は大きく下落することになる。今月15日と29日に予定されているOPECプラスには注目したい。
米中対立やそれに伴う経済活動への悪影響、実は世界のコロナ感染者数の増加ペースが加速していることを考えると、このタイミングでコロナ以前の水準に経済活動が戻るとは考え難く、上昇リスクよりは、価格急落への備え(場合によってはプットオプションの活用など)を検討すべきだろう。
なお、DOEは2019年の水準に需要が回復するのは2022年頃になると予想している。
原油価格が低水準で推移した場合、米シェールオイルの生産者のコストは平均で40ドル近辺(32ドル~60ドル程度)、カナダのオイルサンドからの生産者のコストも40ドル程度であることから、時間経過とともに減産が進捗すると予想される。
場合によると経営破綻、という形で減産が進む可能性もあるが、価格下落リスクヘッジをしている生産者もファイナンスが困難になっているため、資金繰りが意識される3、6、9、12月末のリスクは高まるだろう。
生産調整の議論の次に考えるべきは、「コロナ終息後(ワクチン・治療薬の開発完了後)の供給」である。今のところ夏頃から経済活動が再開されるとみられるが、この時の減産規模縮小のタイミングを誤ると、価格が大きく上昇するリスクが出てくる。
現在すべての産油国が追加減産を実施しているが、減産後の稼働再開には時間が掛るため、供給が間に合わない可能性がある。中東の産油国でも1ヵ月程度、米シェール企業の場合は増産を決断してから実施されるまで、6~7ヵ月はかかる。
さらに価格低迷が産油国の体制を揺るがすため、供給が途絶して急騰、というリスクもあり得る。特に中東北アフリカ諸国ではコロナウイルスの感染が拡大した場合、治安の不安定化で政権の維持が困難になり、供給自体に支障をきたす可能性もある。
足元の価格上昇を受けてOPEC諸国が増産に転じれば、逆にその体制崩壊のリスク→価格上昇のリスクを高めることになる。
主要な石油消費国となった中国の9月の原油輸入は前年比+17.6%の4,848万トン(前月+12.6%の4,748万トン)と大幅な増加が続いている。中国は基本的に価格に敏く、安いと考えると輸入を増やして在庫を積み上げる。恐らく戦略備蓄に回されていると考えられるが詳細は不明。
天然ガス輸入も+5.5%の866万トン(+12.2%の936万トン)と高水準を維持している。国内経済活動の回復はあるが、やはり石炭からガスへのシフトが起きているものと考えられる。
【石炭市場動向総括】
石炭先物市場は上昇した。冬場のピークシーズンに向けての買いが入ったためとみられる。
【石炭価格見通し】
石炭価格は再び低水準での推移になると考える。中国の石炭在庫の水準は高くないものの、コロナや華為技術問題で対立する豪州からの輸入を手控える可能性があること、天然ガスへのシフト、この数年定番となった冬場の石炭輸入の減少の流れを受けて。
しかしそうはいっても冬場のピークシーズン需要は増加するため、底堅い推移になると予想する。
9月の中国の石炭輸入は前月から減少。前年水準を▲38.3%下回る1,867万6,000トン(前月▲37.3%の2,066万トン)と過去5年平均水準も下回った。
中国は国内の石炭産業の強化を目的に国内生産を増加させる方向性に舵を切っているが、国内の需給はタイトと見られ、国内炭と海外炭の値動きには乖離が見られている。
実際、中国向けの大手輸出国であるインドネシアと豪州の輸出は減少しており、バルチック海運指数も低下している。この傾向は今後も続きそうだ。
なお、中国の港湾在庫は再び減少しており、足元、過去5年平均を下回っている。国内の需給はタイト化しているとみられる。
低い水準で安定していた石炭のボラティリティは40%を上回っている。VaRの概念では、現在の価格を60ドル程度とすれば、7割の確率で1年後の価格が±24ドル変動する状態であり、価格の変動リスクは増している。
【価格変動要因の整理】
<<マクロ要因>>
・OPECプラスの減産と、非OPECプラス諸国の自主減産継続で需給がタイト化する場合(価格上昇要因)。
・産油国の財政悪化による上流投資部門投資の減速は、インドなどの新興国需要顕在化時の価格上昇要因。
・最大消費国である米国の石油製品出荷は前年比▲15%程度の大幅減少の状態であり、短期的な需要の方向性はマイナス(原油価格の下落要因)。
世界2位の消費国である中国の需要の指標である工業生産は市場予想を上回るマイナス幅の縮小となったが、小売売上高は前月から改善
・1-8月の中国工業生産は前年比+0.4%(1-7月期▲0.4%)、月次ベースでは前年比+5.6%(前月+4.8%)と回復が加速した(フロー需要の回復=価格の上昇要因)。
回復ペースは市場予想を上回っており、企業活動が加速していることをうかがわせる内容。
・1-8月の中国小売売上高は前年比▲8.6%の23兆8,029億元(1-7月期▲9.9%の20兆4,459億元)、月次ベースでは前年比+0.5%の3兆3,571億元(前月▲1.1%の3兆2,203億元)とプラスに転じた。
中国の個人消費が回復基調にあるのは事実だが、まだ年初来の累計はマイナスであり、欧州で再度ロックダウンの懸念が強まっているため輸出需要が減速する可能性があることは価格の下落要因となる可能性(フロー需要の回復鈍化=価格の上昇を抑制)
・EV普及による需要の伸び鈍化を、軽量化目的の樹脂向け需要増加が相殺(世界の需要が減少を始めるのは2050年頃からか)。
・世界的な石炭上流部門への投資規制強化による、供給減速懸念。価格上昇要因(石炭)。
・競合燃料である天然ガス・LNG価格が供給過剰で低迷、石炭価格の下落要因。
<<特殊要因>>
・UAEとイスラエルが国交正常化に向けて舵を切り、バーレーンもこれに続いた。中東の力学に変化が起きる可能性がある。
今後、オマーンやサウジアラビアなどがこれに追随するかどうかはまた不透明であり、メディアが取り上げる「イラン包囲網」が広がる可能性は高いとは言えない。
しかし、この動きが加速すれば、同地域での親イラン国との対立を強める可能性。地政学的な不安定さは、巡り巡って供給懸念を引き起こし、価格の押し上げ要因に。
・原油価格下落とコロナウイルス感染拡大による治安悪化、コロナ問題を背景に米・欧軍が中東から撤退、それを受けたISの伸長が域内情勢を不安定化させ、原油生産・供給に悪影響を与える場合(価格の上昇要因)。
また、域内で武力衝突が発生し、難民が欧州に流入した場合欧州域内の政情が混乱するため景気を下押しし、原油価格の下落要因に。
・原油価格下落を受けてOPECプラスの結束が揺らぐ場合。抜け駆け増産の加速で大幅な下落となるリスクも。
<<投機・投資要因>>・WTIは先週から転じてロングが増加、ショートが減少した。経済対策期待で強気のポジション取りに。
一方、Brentはロングが減少、ショートが増加。コロナウイルスの感染再拡大に伴う景気への懸念に加え、OPECプラスの増産観測(減産未遵守)が意識されたと考えられる。
・直近の投機筋のポジションは以下の通り。
WTIはロングが657,787枚(前週比 +9,165枚)ショートが186,251枚(▲460枚)ネットロングは471,536枚(+9,625枚)
Brentはロングが216,334枚(前週比▲8,061枚)ショートが133,757枚(+6,584枚)ネットロングは82,577枚(▲14,645枚)
---≪LME非鉄金属≫---
【非鉄金属市場動向総括】
LME非鉄金属は上昇した。ベンチマークである銅のLME指定倉庫在庫が増加したものの、英国とEUの協議継続報道を受けたポンド・ユーロ高・ドル安の進行で。足元、その他のドル建て資産と同様、為替の説明力が高くなっている。
【非鉄金属価格見通し】
非鉄金属価格はもみ合うものと考える。中国の貿易統計で中国のインフラ投資向けの需要が旺盛であると判断されたことが価格を押し上げるものの、米欧の政治的な不安定さや、米国でのワクチン承認の遅れなどのリスク要因が上値を抑えるため。
また、このような局面だと積み上がっている投機の買いポジションには利益確定の売りが発生しやすい。
Q420は政治的なイベント(並びにリスク)が多く、リスク回避姿勢も根強いこと、南半球も夏場に入って鉱山生産の回復が期待されることから、価格のリスクは下向きとみている。
北半球の夏場の大規模ロックダウンは回避され、中国の公的需要に支えられた需要増加(今回の公共投資は5G分野やEVステーション設置などを予算を確保して行うため、規模はさておき「堅い」需要)が価格を支えるとしてきたが、すでに北半球は秋であり、南半球はコロナの影響が緩和すると期待される春だ。
なお、中国南部での大規模洪水は気象庁の異常気象モニターなどでは再び南部で多雨が観測されている。https://www.data.jma.go.jp/gmd/cpd/monitor/weekly/
現地のニュースを確認するとまだ洪水は続いている、とされておりなんとも言えない。洪水は中国の建設活動の停滞を通じて需要を下押しするが、洪水終息後は復興需要が見込めるため、価格の上昇要因になると整理できる。
なお、米中対立は選挙結果によらず、悪化すると予想される。トランプ大統領は米中デカップリングを公言してはばからず、野党民主党も手段の違いはあれどベクトルは同じだ。米中デカップリングは政権が変わろうとも、メインシナリオと考えるべきである。
長期的には環境面に配慮した「省エネ金属」需要が高まることから非鉄金属価格は上昇すると予想される。
具体例を挙げると、社会インフラとしてのバッテリー向け、電気自動車に使用される金属が対象となる(銅、アルミ、ニッケル、リチウム、コバルトなど)。
再び非鉄金属が持続的な上昇に転じるのは、インドの構造的な需要が顕在化するタイミングになるだろうが、中国が1994年に人口ボーナス期入りし、非鉄金属価格が上昇を始めたのが2000年頃からであることを考えると、2023~2024年頃になるのではないか。
【価格変動要因の整理】
<<マクロ要因>>
・9月の中国製造業PMIは51.5(前月51.0)と改善した。生産が回復し、新規受注も国内外ともに回復(新規受注 52.0→52.8、輸出新規受注 49.1→50.8)し、製造業を巡る環境が改善していることを伺わせる内容だった。
また、景況感を規模別に見てみても、悪化が続いていた中小企業の景況感が50を回復しており、想定以上に中国の製造業の状況は改善しているようだ。
ただし、完成品・原材料とも在庫が増加しており、新規受注/在庫レシオは低下しており中国国内の工業品需給は緩和し始めている可能性が高い。
・9月中国銅線生産者 98.7%(前月97.0%、過去4年平均 89.2%) 銅棒生産者 71.6%(72.7%、76.8%) 銅板生産者 69.4%(69.3%、72.5%) 銅管生産者 75.6%(77.9%、75.6%)
・8月中国銅精錬業者稼働状況 大規模事業者 90.9%(前月85.8%、過去5年平均 91.4%) 中規模事業者 85.2%(72.9%、74.8%) 小規模事業者 75.7%(72.0%、56.4%)
・1-8月の中国工業生産は前年比+0.4%(1-7月期▲0.4%)、月次ベースでは前年比+5.6%(前月+4.8%)と回復が加速した(フロー需要の回復=価格の上昇要因)。
回復ペースは市場予想を上回っており、企業活動が加速していることをうかがわせる内容。
・1-8月の中国固定資産投資には、年初来で前年比▲0.3%の37兆8,834億元(1-7月期▲1.6%の32兆9,214億元)と前年比プラスまでもう少しのところまできた。
すそ野の広い不動産開発も前年比+4.6%の8兆8,454億元(1-7月期+3.4%の7兆5,325億元)と回復基調が加速している(ストック需要の回復=価格の上昇要因)。
やや懸念すべきは、公的セクターの伸びが+3.2%(+3.8%)と伸びが減速、民間部門は回復しているが依然として▲2.8%(▲5.7%)と前年比マイナスである点。中国の需要の回復が公的需要にけん引されたものであることはほぼ間違いがないため、これまでの回復ペースにやや陰りが出た可能性がある。
・9月の中国の銅地金輸入は前年比+62.3%の72万2,450トン、(前月+65.5%の66万8,486トン)、銅鉱石・精鉱輸入は前年比+35.2%の213万8,000トン(前月▲12.6%の158万7,000トン)と、地金・鉱石ともに輸入が大幅な増加となった。
しばらく停滞していたが、中国は年後半に電線向け投資が増加することもあり輸入が加速したと見られる。
銅精鉱のTCは10月13日段階で51.5ドルと2014年以降の最低水準になっており、鉱石市場の需給はタイト化した状態が続いているが、需要自体が旺盛であり鉱石輸入が再開したものと考えられる。
・環境規制の強化で特殊需要が増加する(軽量化目的のアルミ、EV向けのニッケル・銅(通常25キロ/台の銅が使われるが、EVは80キロ/台)、蓄電池としての鉛、コバルト、リチウムなど)
・中国の環境規制強化に伴うスクラップの調達難による、新塊需要の増加。
・上流部門投資不足並びに鉱石の品位低下による、鉱山供給の制限。
・インドをはじめとする新興国の構造的な需要増加(中長期的な要因)。
<<特殊要因>>
・中国の大規模洪水の影響で中国の建設活動が大幅に停滞し、需要が減速する場合(価格下落要因)。しかし洪水終息後は復興需要が見込めるため、価格の上昇要因に。
・環境問題や人権問題(コンフリクト・メタルの問題)を背景とする鉱山供給の減少。
・資源ナショナリズムの高まり。インドネシアのニッケル未処理鉱石禁輸措置再開(銅とボーキサイトは2022年から実施の予定)。
・インドとパキスタンの対立が武力衝突に発展、インドの人種差別問題が反政府行動に繋がり、インドが人口ボーナス期の成長メリットを生かせない場合(下落要因)
<<投機・投資要因>>
・10月2日付のLME投機筋ポジションはまちまちだった。ベンチマークである銅はロング・ショートともに減少。ポジションクローズの動きが強まった。錫も同様。亜鉛もポジションクローズの動きが強まったが、ショートのクロージング圧力の方が強い。
逆にアルミとニッケルはロング・ショートとも増加しているが、ロングの積み幅の方が大きかった。いずれも期末期初を意識したポジション調整主体の取引だったと考えられる。
投機筋のLME+CME銅ネット買い越し金額は140.8億ドル(前週153.6億ドル)と、買い越し幅を縮小した。買い越し幅の縮小幅は▲8.3%。
買い越し枚数はトン数換算ベースで3,437千トン(3,520千トン)と買い越し幅を縮小した。買い越し枚数の縮小率は▲2.3%。
---≪鉄鋼原料≫---
【鉄鋼原料市場動向総括】
中国向は海上輸送鉄鉱石スワップは下落、原料炭スワップ先物は下落、鉄鋼製品先物価格はまちまち。
港湾在庫の絶対水準が増加していること(在庫日数は引き続き低い)、鉄鋼業PMIの減速、価格上昇による、いわゆるレーショニングの発生が価格を下押ししている。
【鉄鋼原料価格見通し】
鉄鉱石価格は高値圏で推移しつつも、水準を切り下げる展開を予想する。
中国の鉄鉱石在庫水準(在庫日数ベース)は低く、貿易統計を見ても輸入需要は旺盛で港湾在庫が積み上がっており、かつ、南米の生産回復期待も根強いこと、直近の鉄鋼業PMIを見るに鉄鋼業セクターの国内の状況はその他の統計の改善ほど良い訳ではないことが背景。
一方で、中国政府のインフラ投資が今後も継続する見込みであり、中国国内の鉄鋼原料在庫水準が低いことから在庫積み増し需要もあり、下落余地は限定されると考える。
中国南部の増水は継続しているようで、鉄鋼製品需要を減じること(終息後は復興需要で価格上昇要因となるが)、急上昇していたバルチック海運指数は減速しており、鉄鉱石の調達が減速する可能性を示唆している。ブラジルは鉱山生産を再開の見通しであるため、中国の需要面の影響による可能性がある。
原料炭は中国の生産活動回復が継続していること、国内の鉄鋼需要が公共投資で底堅いことから、同様に底堅い推移になると考える。但し、中国政府は原料炭を含む石炭の国内生産を増加させる方針であることから上値も重い。
実際、中国政府は政治的な対立もあって豪州炭の輸入を停止するとの報道もあり、今後、海上輸送原料炭価格には下押し圧力が掛かりやすくなってきた。
原料炭の先物期間構造も期近が再びコンタンゴとなっており、需給は緩和し始めている。
中国の港湾在庫の水準は鉄鋼の最大生産省である河北省の主要港である、京唐港の港湾在庫は急速に減少しており、過去5年の最低水準で推移している。
【価格変動要因の整理】
<<マクロ要因>>
・9月の中国鉄鋼業PMIは43.9と前月の47.0から大幅に減速した。ピークシーズンの終了や、原材料価格の高騰がレーショニングを引き起こしたようだ。
しかし、降雨の悪影響が薄らぎ、自動車販売や不動産投資も好調であり、中国政府の公共投資需要などへの期待も強く見通しは強気の企業が多いようだ。
しかし冬場の暖房期に入ると発電向け需要が増加するため環境面から鉄鋼製品の増産には下押し圧力が掛かりやすく、新規受注在庫レシオも低下しており、鉄鋼製品・鉄鋼原料需給は緩和していることから鉄鉱石価格も下押しされよう。
・中国河北省の高炉稼働率は10月9日時点で77.0%(前週77.0%、過去5年平均83.0%)と横ばい。しかし、過去5年平均を下回った状態が続き、高炉の稼働率はやや低水準で安定している。
・1-8月の中国工業生産は前年比+0.4%(1-7月期▲0.4%)、月次ベースでは前年比+5.6%(前月+4.8%)と回復が加速した(フロー需要の回復=価格の上昇要因)。
回復ペースは市場予想を上回っており、企業活動が加速していることをうかがわせる内容。
・1-8月の中国固定資産投資には、年初来で前年比▲0.3%の37兆8,834億元(1-7月期▲1.6%の32兆9,214億元)と前年比プラスまでもう少しのところまできた。
すそ野の広い不動産開発も前年比+4.6%の8兆8,454億元(1-7月期+3.4%の7兆5,325億元)と回復基調が加速している(ストック需要の回復=価格の上昇要因)。
やや懸念すべきは、公的セクターの伸びが+3.2%(+3.8%)と伸びが減速、民間部門は回復しているが依然として▲2.8%(▲5.7%)と前年比マイナスである点。中国の需要の回復が公的需要にけん引されたものであることはほぼ間違いがないため、これまでの回復ペースにやや陰りが出た可能性がある。
・中国の鉄鋼製品の輸入は通常、平均で110万トン程度なのだが、9月は288万5,000トン(前月224万トン)と記録的な水準をに加速した。国内生産も8月時点で9,485万トン(前月9,336万トン)と過去最高水準に達した。
このことは、中国の国内需要が引き続き、旺盛であることを示唆している。
中国の鉄鋼製品在庫水準は前週比▲38.6万トンの1,500.3万トン(過去5年平均1,042.5万トン)となった。例年よりも在庫水準は高い。
・9月の中国の鉄鉱石・精鉱輸入量は、1億855万トン(前月1億36万トン)と加速。バルチック海運指数の上昇と平仄を取る形で増加している。中国の国内鉄鉱石在庫の水準が低いことから、引き続き輸入需要は旺盛と見られる。
中国の鉄鉱石港湾在庫は前週比+235万トンの1億2,265万トン(過去5年平均1億1,841万トン)、在庫日数は+1.2日の23.9日(過去5年平均 28.1日)と例年と比較して在庫水準が低く、需給ファンダメンタルズはタイトな状態が継続している。
9月の中国の石炭輸入は前月から減少。前年水準を▲38.3%下回る1,867万6,000トン(前月▲37.3%の2,066万トン)と過去5年平均水準も下回った。
中国は国内の石炭産業の強化を目的に国内生産を増加させる方向性に舵を切っているが、国内の需給はタイトと見られ、国内炭と海外炭の値動きには乖離が見られている。
実際、中国向けの大手輸出国であるインドネシアと豪州の輸出は減少しておりこの傾向は今後も続きそうだ。
中国の主要な原料炭の輸入港である京唐の港湾在庫の水準は大幅に低下し、過去5年平均を下回っている。そのため輸入が回復したと考えられるが、国内生産の増加もあって前年比ではマイナスとなっているようだ。
・長期的には人口ボーナス期入りしているインドが、インフラ整備のための投資を拡大する方針(5年で約160兆円)であり、鉄鋼製品・鉄鉱石価格を押し上げ。
<<特殊要因>>
・世界的に広がる環境規制強化の流れで、鉄鉱石や原料炭などの生産に一定の影響が起きる場合。
・米国が中国に対する人権問題(香港・新疆ウイグル自治区問題)や、コロナウイルスへの対策に対する中国への不満が高まった場合、再び通商問題が議題に上がる場合(価格の下落要因)。
・コロナウイルスの感染拡大長期化による経済成長の鈍化。
<<投機・投資要因>>
・特になし。
---≪貴金属≫---
【貴金属市場動向総括】
金価格は上昇。足元最も説明力が高い為替が、英国のEU離脱協議の継続報道を受けてユーロ高・ドル安となったことが材料となった。
しかし、ムニューシン財務長官がが追加経済対策の実施は大統領選前には難しいとの発言を受けてドル高となったことが、上げ幅を削った。
銀・プラチナも同様の展開だが、プラチナは前日比マイナスで引け、200日移動平均線のサポートラインを割り込んで引けた。パラジウムは上昇。
【貴金属価格見通し】
金銀はもみ合うものと考える。足元、実質金利動向ではなく、欧州の政局、米国の大統領選挙を睨んだ政治要因を受けた為替動向に貴金属価格左右されているが、その政治の方向性が不透明であるため。
足元、実質金利よりも為替の説明力が高まっているため、欧州情勢や米国の大統領選挙、米中対立といった政策要因の変化が貴金属価格を左右すると考えられる(リスクオンによるドル安で価格上昇、リスクオフで価格下落。詳しくは2020年10月12日付のMRA's Eyeをご参照ください)。
現在の金の実質金利で説明可能な価格からの乖離(リスク・プレミアム)は254ドルと前日から+11ドル上昇している。
なお、金価格を実質金利要因と為替要因に分類した場合、為替要因はリスク・プレミアムのところに内包されると整理している(為替自体は名目金利の影響を受けるので、為替の要因のみ切り出すのが困難であることから)。
※毎日回帰分析をアップデートし、リスク・プレミアム自体の水準を見直しているため、前日比の整合性が取れていない場合があります。
ただ、米国の金融緩和が継続することは間違いがなく、名目金利が低い水準に抑制されることから金の「基準価格」は1,650ドル程度で推移し、金価格の発射台となる基準価格は切り上がっている。
FRBの政策が奏功すれば期待インフレ率の上昇が名目金利の上昇を上回ることになるため、実質金利低下を促し金価格にはプラスとなる。但しそれはまだ先になると考えられる。
金価格の実質金利に対する感応度は1bpあたり3.5ドル程度だったが、現在は6.5ドルに上昇している。名目金利に対する感応度は9.5ドルまで上昇していたが現在は2.3ドルと低下している。このことは、「期待インフレ率」の価格への影響が増していることを示唆している。
銀価格は金価格との比較感で売買されるが、金銀レシオは現在、78.4倍。過去1年を基準にすると95倍程度、5年では80倍、2000年以降では65倍程度が妥当だが、足元、80倍で落ち着いている。
金が高値を維持する可能性が高いため、再びバブル的に銀が物色される可能性は否定できない。しかしその場合でも、常に急落リスクは意識せざるを得ないだろう。
欧州危機・米国債格下げ危機があった2010年~2011年、銀価格は供給過剰にもかかわらずバブル状態となり、ハント兄弟事件以来の50ドルに迫った後、急速に価格を切り下げたときと程度は違うが展開が類似しているためである。
なお、銀価格=金価格÷金銀レシオ であり、金銀レシオが低下することで金価格が変動した時の弾性値が上昇(ボラティリティは上昇し、足元金の2倍に上昇)している点は留意。
(例)金が2,000ドル、銀が20ドルのとき 金銀レシオが100倍→金価格±1ドルの変化で銀価格は±1セント変化 金の変化率は±0.05%、銀は±0.05%
金銀レシオが1倍→金価格±1ドルの変化で銀価格は±1ドル変化 金の上昇率は±0.05%、銀は±5%
プラチナ価格は銀価格との連動性が高い。これは供給過剰で投機的な取引の影響が強まっていることによるが、各国の準備金や市場取引の担保価値が認められている金のほどの安全資産としては認知されていないため、金価格に主導されつつも、準通貨の位置付けではない銀と性質が似ていることも無視できない要素の1つである。
パラジウムは価格は景気の先行きが明確に悪いこと、自動車セクターの回復は緩やかなものにとどまる見通しであることから実需面は価格を下押ししやすい。
しかし、ETF残高とパラジウム価格の連動性が高まっており(管理在庫増加→価格上昇)、一時の、ETF管理在庫減少→価格上昇、のメカニズムから変化してきている。
在庫取り崩し→価格上昇は実際に需給がタイトで、現物確保のためにETFを取り崩さなければならなかったからだが、現在はこれと逆のことが発生している訳で、足元、パラジウムの需給は緩和していると見られる。今後はETFの動向に注目する必要があろう。
9月の米自動車販売は年率1,634万台(市場予想 1,570万台、前月 1,519万台)と、市場予想を上回る回復となった。ただし、コロナ以前の水準に自動車販売が戻るには相当の時間がかかる見込みであり、PGM価格の押し上げ効果は限定的なものとなろう。
中国の9月の自動車販売は中国自動車工業協会の速報で前年比+13.0%の256万6,000台(前月+11.7%の218万5,812台)。中国の自動車販売は着実に回復している。
自動車販売が政策のサポートもあって回復トレンドにあることは事実であり、PGM価格の上昇要因になると考える。
【価格変動要因の整理】
<<マクロ要因>>
・各国とも政策金利をゼロ近傍に下げており、量的緩和規模も拡大。あとは更に規模を拡大するか、量的緩和時の投資対象を拡大するぐらいしかなくなってきた。
これで追加の緩和手段はほぼなくなった状態であり、金価格の上昇余地は限定される。
・世界的な自動車販売の減速(米欧中)による、自動車向け排ガス触媒需要の減少(PGM)。
・コロナウイルスの感染拡大による、最大生産国の1つである南アフリカの鉱山稼働が不安定であることによる供給懸念。
・排ガス規制強化に伴うパラジウムへのシフト観測(プラチナがパラジウムを代替するには数年単位で時間を要する)。
・パラジウム需要増加に伴うPGMの増産により、結果的にプラチナが供給過剰となり価格の下落要因に(プラチナ)。
パラジウムはロシアでは銅・ニッケルの、南アフリカ・米国ではプラチナの副産物として生産されるため(副産物としての供給が8割)、急な増産が困難であり供給面の制限が価格を下支えする状況に変わりはない。
<<特殊要因>>
・コロナ対策で過剰な財政出動が行われており、終息後に各国の財政・信用不安が意識される場合(価格の上昇要因)。
・米中の対立激化。米国は今回のウイルス問題で、中国の医療面、人工知能を含むIT面に脅威を感じた可能性は高く、対立が激化する場合(安全資産価格の上昇要因)。
・生産拠点を自国に回帰させる動きやリモートの定着による成長鈍化が、新興国の財政状況を悪化させる場合(価格の上昇要因)。
・原油価格低迷による財政状況の悪化、コロナウイルスの影響拡大に伴う国民の不満爆発、サバクトビバッタの大量発生による食糧危機などで、中東・北アフリカ有事が発生、それに伴う安全資産需要の高まり(上昇要因)。
・英国のブレグジットは、FTA合意なき離脱となるリスクが残存しており、その場合のインパクトは無秩序離脱と同レベルになると考えられ、金価格の上昇要因に。
・中国地方政府・中堅中小企業の財政状況悪化に伴う景気減速による安全資産需要の増加。
<<投機・投資要因>>
・直近の投機筋のポジションは、金はロングが320,922枚(前週比 +4,816枚)、ショートが72,335枚(▲112枚)、ネットロングは248,587枚(+4,928枚)、銀が75,358枚(+727枚)、ショートが34,101枚(+200枚)、ネットロングは41,257枚(+527枚)
・直近の投機筋のポジションは以下の通り。
プラチナはロングが27,125枚(前週比 +71枚)ショートが18,530枚(+1,300枚)、ネットロングは8,595枚(▲1,229枚)
パラジウムが5,486枚(+582枚)、ショートが2,292枚(+26枚)ネットロングは3,194枚(+556枚)
---≪農産品≫---
【穀物市場動向総括】
シカゴ穀物市場は上昇。欧州と英国の交渉継続報道を受けたドル安進行が総じて価格を押し上げた。
固有の材料としては米国産のトウモロコシ・大豆の米国向け輸出が堅調であること、ブラジルの局地的な降雨による大豆の作付けへの懸念が材料となった。
小麦はフランスの輸出増加見通しなど、輸出需要の増加観測が価格を押し上げて居る。
【穀物価格見通し】
トウモロコシ価格は2020-2021年の在庫見通しが当初よりも低いことや、ドル安基調の回復で上昇余地を試す展開になると考える。ただし輸送燃料需要の回復は遅れており、エタノール向け需要の先行きは不透明であり、上値も重い。
大豆は米需給報告で米大豆在庫の減少見通しが示されたことや、中国が米国からの輸入を増加させる方針を継続していること、ドル安基調が価格を押し上げると予想。
小麦も在庫の水準低下、ドル安、旺盛な輸出需要を背景に上昇余地を探る動きに。
バッタ被害はLocust Watchでは、エチオピア、イエメン、ケニア、サウジアラビアの一部でで深刻な状態が続いているが影響は低下している。
西部に広がっていたバッタの固体(群棲相を形成していない)はチャド程度で留まっており、今のところは被害が拡大する懸念は低下している。
コロナウイルスの影響で播種に必要な人員を確保できない農家があったが、今度は収穫期にコロナウイルスの影響で人員が確保できず、収穫に影響が出る可能性がある。
近年、食品価格に対して影響が大きいラニーニャ現象が発生していることもあり、年末~年明けにかけての穀物価格の見通しは強気。
【価格変動要因の整理】
<<マクロ要因>>
・米穀物作付け意向面積トウモロコシ 9,699万エーカー(市場予想 9,412万エーカー)大豆 8,351万エーカー(8,502万エーカー)小麦 4,466万エーカー(4,495万エーカー)
・米穀物最終作付け面積トウモロコシ 9,201万エーカー(市場予想 9,514万エーカー)大豆 8,383万エーカー(8,483万エーカー)小麦 4,425万エーカー(4,472万エーカー)
・10月米需給報告生産見通し(実績/市場予想/前月)トウモロコシ 147億2,200万Bu(148億2,261万Bu、149億Bu)大豆 42億6,800万Bu(42億8,789万Bu、43億1,300万Bu)小麦 18億2,600万Bu(前月18億3,800万Bu)
・10月米需給報告在庫見通し(実績/市場予想/前月)トウモロコシ 21億6,700万Bu(21億2,004万Bu、25億300万Bu)大豆 2億9,000万Bu(3億6,293万Bu、4億6,000万Bu)小麦 8億8,300万Bu(8億9,041万Bu、9億2,500万Bu)
・10月米需給報告単収見通し(実績/市場予想/前月)トウモロコシ 178.4Bu/エーカー177.86Bu/エーカー、178.5Bu/エーカー)大豆 51.9Bu/エーカー(51.7Bu/エーカー、51.9Bu/エーカー)小麦 49.7Bu/エーカー(前月50.1Bu/エーカー)
・9月末四半期在庫(実績/市場予想/前月)トウモロコシ 19億億9,500万Bu(22億6,554万Bu、52億2,400万Bu)大豆 5億2,300万Bu(5億7,838万Bu、13億8,600万Bu)小麦 21億5,900万Bu(22億4,035万Bu、10億4,400万Bu)
<<特殊要因>>
・新型肺炎の影響拡大による、輸出活動の停滞(シカゴ定期を含む生産地価格の下落要因)。
・米・イランの対立激化により、穀物輸送に影響が出る場合(下落要因)。ただし非景気循環銘柄需要が高まり最終的には上昇要因に。
・夏場以降、北米の穀物生産に影響を与えるラニーニャ現象の発生の可能性があり、価格の上昇リスク要因に。
・中国の豚コレラ被害の拡大により、飼料需要が減少した場合は価格の下落要因(逆に終息すれば上昇要因)。
<<投機・投資要因>>
・直近の投機筋のポジションは以下の通り。
トウモロコシはロングが394,070枚(前週比 +27,171枚)、ショートが168,396枚(▲16,611枚)ネットロングは225,674枚(+43,782枚)
大豆はロングが310,432枚(+11,984枚)、ショートが53,149枚(▲5,427枚)ネットロングは257,283枚(+17,411枚)
小麦はロングが132,563枚(+10,424枚)、ショートが95,292枚(▲489枚)ネットロングは37,271枚(+10,913枚)
◆本日のMRA's Eye
「原油需要のカギ握るジェット燃料需要動向」
回復を続けてきた原油価格だが、ブレント、WTIとも9月末にかけて40ドルを割り込んだ。
価格低迷が続く中でOPECプラスの協調減産の足並みがそろっておらず、各国の原油在庫調整が終了していないことといった供給面に加え、欧州で新型コロナウイルスの感染が再拡大していることや、春先以降積極的に行ってきた経済対策や金融緩和の効果が一巡したことが影響した。この中でも特に価格への影響が大きいのが需要面であり、持続的な価格上昇となるためには需要の回復が必須といえる。
最大のエネルギー消費国である米国の需要動向を石油製品出荷ベースで見てみると、全石油製品の出荷は本稿執筆時点で▲14.4%の日量1,790万バレルと、ロックダウンがあった春先に▲28.0%の1,453万バレルに減少したときからは回復しているが、依然、大幅な前年比マイナスの状態だ。
製品輸出も▲7.1%の469万バレルと低迷している。やはり新型コロナウイルスの影響で景気自体が悪化していることはもちろんのこと、生活様式に大きな変化が起きていることが需要回復の足かせとなっているようだ。
製品ごとに見てみると、米国石油製品の主要用途であるガソリン出荷は、前年比▲8.9%の848万バレルまで回復している。
ガソリン出荷はロックダウン決定後に▲43.7%の533万バレルまで減少していた。トラックや商用車向けのディーゼルは▲8.9%の353万バレルまで回復(最低水準は前年比▲20.2%の305万バレル)した。
ディーゼルに関してはコロナの巣ごもり需要の増加で宅配などのデリバリービジネス向けの需要が堅調だった結果、ガソリンほどの減少にならなかったようだ。
しかし、大幅に減少し、現在も需要が低迷しているのが航空燃料であるケロシンの出荷だ。直近では前年比▲46.1%の90万バレルと低迷が顕著である。
新型コロナウイルスの感染拡大防止のために各国とも入国制限を実施、旅客需要が減少する中で減便を余儀なくされたためと考えられ、今後の先行きも不透明である。
航空機向け燃料需要が回復するには、各国で新型コロナウイルスのワクチン開発や自宅でも治療が可能となるような治療薬の開発が必要条件といえ、治療薬の開発報道を見るに、恐らく航空機向け燃料需要の低迷は少なくとも来年一杯は回復するのは難しそうだ。
世界的に見ても、航空機向け燃料需要は総需要の1割弱を占めており、その約4割が失われている状況。生産規模でいえばイラク一国の生産量に該当する需要が喪失していることになる。このような構造的な需要減少は今後も続くと予想され、原油価格は低迷する可能性が高い。
これは同時に産油国での混乱が発生するリスクを高めるものである。程度にもよるが、中東でイベントリスクが顕在化すれば原油価格は上昇することになるだろう。
しかし、今のところ世界の供給能力と在庫水準の高さを勘案すれば価格急騰シナリオは描き難い。そのため、原油市場というよりは、中東情勢不安が新興国不安に連鎖的に拡大し、エマージング市場の混乱が信用市場全体に及ぶリスクの方が大きいのではないか。
通常であれば原油価格上昇リスクとなる中東情勢不安は、そのタイミングにもよるのだが、現時点では結果的に需要の減少を通じて逆に、原油価格の下落要因となると見ている。
◆主要ニュース
・8月日本鉱工業生産確報 前月比+1.0%(速報比▲0.7%、前月改定+8.7%)、前年比▲13.8%(▲0.5%。▲15.5%)
出荷+1.5%(▲0.6%、+6.6%)、▲14.2%(▲0.4%、▲16.6%)
在庫▲1.3%(+0.1%、▲1.5%)、▲5.9%(+0.1%、▲4.8%)
・8月日本設備稼働率 前月比+2.9%(前月+9.6%)
・9月中国人民元建て新規融資
前年比+12.4%の19,000億元(前月+5.7%の12,775億元)
・9月中国マネーサプライ M2 前年比+10.9%の216兆4,100億元(前月+10.4%の213兆6,800億元)
M1 +8.1%の60兆2,300億元(+8.0%の60兆1,300億元)
ファイナンス規模 3兆4,800億元(3兆5,823億元)
国内企業全体の総財務残高 280兆1,000億元(276兆7,000億元)
・8月ユーロ鉱工業生産 前月比 +0.7%(前月+5.0%)
前年比▲7.2%(▲7.1%)
・米MBA住宅ローン申請指数 前週比 ▲0.7%(前週+4.6%)
購入指数▲1.6%(▲1.5%)
借換指数▲0.3%(+8.2%)
固定金利30年 3.00%(3.01%)、15年 2.59%(2.59%)
・9月米生産者物価指数 前月比+0.4%(前月+0.3%)、前年比+0.4%(▲0.2%)
除く食品エネルギー 前月比+0.4%(+0.3%)、前年比+1.2%(+0.6%)
除く食品エネルギー・貿易 前月比+0.4%(+0.3%)、前年比+0.7%(+0.3%)
・英政府、EU首脳が通商合意成立に向け最後の努力をする用意があると示唆する限り、ジョンソン首相が設定した10月15日を過ぎても交渉をする見通し。
・米ムニューシン財務長官、「数ヵ月にわたる追加経済対策の協議は、政治のために前に進めなくなっている。現時点で選挙前に何かを成し遂げ、実行することは難しい。」
◆エネルギー・メタル関連ニュース
【エネルギー】
・DOE米在庫統計市場予想 原油▲1,375KB(前週▲1,435KB)
ガソリン▲1,375KB(▲1,435KB)
ディスティレート▲1,697KB(▲962KB)
稼働率▲0.68%(+1.30%)
・API石油統計 原油在庫▲5.42MB、クッシング+2.2MB
ガソリン▲1.51MB、ディスティレート▲3.93MB
・IEA月報
世界石油需要 Q121:95.6、Q221:96.1、Q321:98.2、Q421:98.8、2021:97.2
非OPEC供給(含むNGLs) Q121:63.1、Q221:63.5、Q321:63.8、Q421:63.7、2021:63.5
Call on OPEC Q121:32.5、Q221:32.6、Q321:34.4、Q421:35.1、2021:33.7
※需要見通しを下方修正、2021年のCall on OPECは減少。ただ、在庫の調整は順調に進捗しているとの見通し。
・サウジアラビアとロシア、協調減産を継続する可能性について電話協議。
・イスラエルとレバノン海上協会画定の協議入り。
・米国、サウジアラビアにイスラエルとの国交正常化を要請。
【メタル】
・特になし。
◆主要商品騰落率
【上昇率上位5商品】
商品名(カテゴリー)/前日比上昇率/年初来上昇率
1.LMEニッケル 3M ( ベースメタル )/ +3.19%/ +10.38%
2.ICE欧州天然ガス ( エネルギー )/ +2.67%/ +25.01%
3.CME木材 ( その他農産品 )/ +2.56%/ +35.48%
4.ICEガスオイル ( エネルギー )/ +2.21%/ ▲43.53%
5.LIFFEロブスタ ( その他農産品 )/ +2.21%/ ▲7.68%
【下落率上位5商品】
商品名(カテゴリー)/前日比上昇率/年初来上昇率
66.NYM米天然ガス ( エネルギー )/ ▲6.90%/ +21.43%
65.SHF 銀 ( 貴金属 )/ ▲3.50%/ +16.93%
64.原料炭スポット ( 鉄鋼原料 )/ ▲2.67%/ ▲4.38%
63.CBTオレンジジュース ( その他農産品 )/ ▲1.70%/ +19.14%
62.SHF 金 ( 貴金属 )/ ▲1.53%/ +15.53%
※弊社が重要と考える主要商品の前日比騰落率上位・下位5品目です。
※限月交代に伴う価格の不連続性は考慮されていません。予めご容赦ください。
◆主要指標
【為替・株・金利・ビットコイン】
NY ダウ :28,514.00(▲165.81)
S&P500 :3,488.67(▲23.26)
日経平均株価 :23,626.73(+24.95)
ドル円 :105.15(▲0.33)
ユーロ円 :123.50(▲0.40)
米10年債 :0.73(±0.0)
中国10年債利回り :3.22(+0.03)
日本10年債利回り :0.03(+0.00)
独10年債利回り :▲0.58(▲0.03)
ビットコイン :11,382.73(▲52.15)
【MRAコモディティ恐怖指数】
総合 :31.90(▲3.32)
エネルギー :56.19(▲0.92)
ベースメタル :20.20(+0.36)
貴金属 :35.62(+0.15)
穀物 :25.53(▲0.3)
その他農畜産品 :26.45(▲8.37)
【主要商品ボラティリティ】
WTI :45.15(▲2.54)
Brent :39.35(▲1.95)
米天然ガス :142.87(+0.5)
米ガソリン :46.10(▲2.37)
ICEガスオイル :42.35(▲0.18)
LME銅 :20.37(▲0.07)
LMEアルミニウム :17.73(▲0.08)
金 :22.80(▲0.62)
プラチナ :38.08(▲0.06)
トウモロコシ :21.78(▲0.15)
大豆 :22.80(▲0.62)
【エネルギー】
WTI :41.04(+0.84)
Brent :43.31(+0.86)
Oman :42.57(+0.69)
米ガソリン :119.70(+1.43)
米灯油 :119.24(+2.34)
ICEガスオイル :346.75(+7.50)
米天然ガス :2.66(▲0.20)
英天然ガス :38.84(+1.01)
【貴金属】
金 :1900.61(+9.25)
銀 :24.25(+0.11)
プラチナ :861.15(▲7.61)
パラジウム :2352.97(+30.63)
※ニューヨーククローズ。
【LME非鉄金属】
(3ヵ月公式セトル)
銅 :6,716(+10:13.5C)
亜鉛 :2,417(▲30:18.5C)
鉛 :1,790(▲48:18C)
アルミニウム :1,854(▲1:17.5C)
ニッケル :15,152(▲47:47C)
錫 :18,285(▲30:60C)
コバルト :33,007(▲480)
(3ヵ月ロンドンクローズ)
銅 :6714.50(+28.50)
亜鉛 :2421.00(+12.00)
鉛 :1787.50(▲15.50)
アルミニウム :1845.00(▲8.00)
ニッケル :15520.00(+480.00)
錫 :18280.00(+35.00)
バルチック海運指数 :1,732.00(▲75.00)
※C=Cash-3M コンタンゴ、B=Cash-3M バック
【鉄鋼原料】
62%鉄鉱石スポット(CFR中国、1営業日前) :120.7(▲2.91)
SGX鉄鉱石 :120.23(▲0.99)
NYMEX鉄鉱石 :121.48(▲0.95)
NYMEX原料炭スワップ先物 :130(▲3.57)
上海鉄筋直近限月 :3,621(+2)
上海鉄筋中心限月 :3,622(▲6)
米鉄スクラップ :296(▲6.00)
【農産物】
大豆 :1057.00(+13.00)
シカゴ大豆ミール :358.40(▲0.10)
シカゴ大豆油 :33.72(±0.0)
マレーシア パーム油 :3049.00(▲18.00)
シカゴ とうもろこし :396.50(+5.25)
シカゴ小麦 :597.00(+3.00)
シンガポールゴム :213.90(+3.10)
上海ゴム :12300.00(±0.0)
砂糖 :14.20(+0.19)
アラビカ :109.60(▲0.50)
ロブスタ :1250.00(+27.00)
綿花 :68.93(+0.10)
【畜産物】
シカゴ豚赤身肉 :78.43(+0.63)
シカゴ生牛 :108.50(▲0.33)
シカゴ飼育牛 :138.40(+0.28)
※全ての価格は注記が無い限り、取引所で取引される通貨建。
※限月交代に伴う価格の不連続性は考慮されていません。予めご容赦ください。