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景気循環銘柄物色続くも香港を巡る米中対立が重石
  • MRA商品市場レポート

2020年5月29日 第1755号 商品市況概況

◆昨日の商品市場(全体)の総括


「景気循環銘柄物色続くも香港を巡る米中対立が重石」

【昨日と本日の各セクターショートコメント】

◆エネルギー:原油価格は上昇後下落した。景気への楽観を受けて上昇したが、米石油統計での原油在庫増加や、米国の対中制裁強化観測が重石に。

香港国家安全法制定方針を受けた米中対立で、本日は調整売りに押される展開を予想。

◆非鉄金属:上昇。香港国家安全法制定を受けた米中対立激化懸念が価格を下押ししたが、米統計が然程悪くなかったことから米国時間に水準を切り上げた。

LME取引終了後のトランプ大統領の中国関連発言報道が織り込めていないため、本日は下落からスタートの見込み。

◆鉄鋼原料:鉄鉱石は小幅上昇、原料炭先物は下落、鉄鋼製品も下落した。鉄鉱石はブラジルの供給懸念が、鉄鋼製品は香港国家安全法制定方針を受けた米中対立懸念が材料。

鉄鉱石・原料炭は在庫水準が低下していることから在庫積み圧力で上昇、鉄鋼製品は米中立懸念で軟調。

◆貴金属:金銀は上昇。米統計がやや強めであったことから実質金利が低下したため。PGMは金銀の上昇はあったが株安に押されて前日比小幅マイナスで引ける。

米中対立株に楽観の買いが入る中で金銀プラチナは調整売りに押される展開、パラジウムは金の下落と株価上昇でもみ合いか。

◆穀物:シカゴ市場はまちまち。トウモロコシは原油高で上昇、大豆は米中対立で軟調、小麦は作柄の悪化とドル安によるショート買戻しで上昇。

トウモロコシ・大豆は米中対立懸念で軟調、小麦は作付けの遅れ・作柄の悪化で基本堅調。

※より詳細な説明は以下をご参照ください。

市場データ・グラフ類の添付ファイルのサンプルはこちら。

【昨日の市場動向総括】

昨日の商品市場は景気循環系商品価格が上昇したが、景気非連動のその他農産品などが売られた。また、人民元安に伴う資金流出回避のため、中国当局が人民元高方向にレートを設定したことで、元建て商品価格が下落した。

ロックダウン解除の動きが徐々に経済統計にも反映され始めており、市場予想ほど統計が悪化しなくなっている。特に米国経済はとりあえず底入れしたように見える。ただし、最悪期を脱したというだけであり、前年比で景気が良くなったかといえばそうではなく、元の景気減速局面の軌道に戻っただけとも言える。

昨日市場で材料となったのは、中国の全人代が閉幕し、香港国家安全法制定方針が決定されたこと。これに伴い米国は中国に対する制裁を強める可能性があり、トランプ大統領はすでに29日、中国に関して記者会見を開くと発言している(詳しくは昨日のトピックスを参照ください)。

また、国内では安倍首相が空前絶後と表現した大規模な補正予算が発表された。事業規模は117兆円。しかし真水の中の効果がある部分は事業規模対比でさほど大きいわけではない(こちらも詳しくは、昨日のトピックスをご参照ください)。

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【本日の見通し総括】

本日は、昨日の全人代を受けた米中対立懸念の強まりを背景に、週末ということもあってこれまで上昇してきた景気循環系商品価格が下落、その他のいわゆるディフェンシブ銘柄が上昇する展開を予想する。

手掛かり材料は29日に予定されている、トランプ大統領の中国に対する記者会見。これまでの流れだと香港問題に関してコメントし、制裁に関しても言及する可能性がある。

このほかの予定されている材料としては、FRBパウエル議長のバーチャル討論会での発言。YCCなどがFOMCメンバーで議論され始めており、今後の対策の方向を占う上での判断材料となる。特にトランプ大統領が対中制裁を強める中では株価下押しされるため、緩和圧力が強まるのは必至の状況。

【昨日のトピックス】

昨日、ややひっそりと全人代が終了した。今回は経済成長目標も設定しなかった。どの企業や国も新型コロナの影響を読み切れないため、目標を設定していないのが普通であり、中国が見通しを発表しなかったことはやむを得ないだろう。

ただ、具体的な成長目標は示さなかったものの、李克強首相は「雇用や国民生活など、政府が設定した重要課題を達成することができれば、2020年にプラス成長が可能だ」としている。

しかし、今回の全人代でより注目されていたのは、香港支配を強めるか否かであったが、共産党政権は香港行政を介さずに反政府行動を抑制できる、「香港国家安全法」を成立させる方針を確認した。全人代で確認したということは、確実に実施されるということである。

そもそも国家安全法は、香港基本法23条で香港の方制度の下で「国家への反逆、分裂、反乱の先導、中央政府の転覆、国家機密の不正な取得、外国組織の香港での政治活動、香港の政治団体が外国の政治団体と関係を持つこと」を禁じる法案である。

同じ法案は2009年に、同じ行政区であるマカオで可決されている。同様のステップを踏んで香港でも同法案を可決しようとしていた訳だが、デモが頻発していることで強硬手段に出た、ということだ。

中国政府は一国二制度を維持するためにこの法案を通す、としているが、実際は一国二制度は完全に形骸化された。厳しい言論統制や、反体制運動を行っているものの不当な拘束などは当たり前のように行われるだろう。

恐らくこれを受けて米国が制裁を課すことは必至であり、欧州もこれに同調すると思われる。今回の決断が新東西経済圏の誕生のきっかけになるのではないかとの懸念がくすぶる。

今のアジア周辺国の外交を見るに、日米台と中韓朝が対立する構図の誕生は、その可能性が高くなったといえる。

日本は事業規模117兆円の経済対策を決定した。このうち、GDPの押し上げに直接寄与すると考えられる真水部分は32兆円。しかしこのうち20兆円程度が資金繰り対策12兆円とコロナ対策費用10兆円であり、効果がありそうな真水部分は10兆円程度とみられる。

結局、景気浮揚に直接寄与しそうなのは持続化給付金1.9兆円、企業・個人の家賃支援2兆円、雇用助成金0.5兆円4.4兆円であるが、これが全額消費に回るわけではない。多くても3割、1.3兆円程度とみられる。

用途が限られるという意味では建設国債が9.3兆円、これらは建設関連に充てられるが、何割かが土地取得費に充てられるため、実際は6~7割程度、5.6兆円~6.5兆円程度ではないか。

結果、合計で6.9兆~7.8兆円の景気浮揚効果があるとみられる。GDP比でいえば1.2%~1.4%程度の景気浮揚効果があると考えられる。

事業規模は117兆円と大きいものの、結局財政投融資や民間セクターの融資動向に依拠するため、金融緩和局面でも然程貸し出しが伸びなかったことを考えると、効果は数字ほど大きくないと考えられる。

【景気循環銘柄共通の価格変動要因整理】

<<マクロ要因>>

・各国のPMI・ISMなどのマインド系指標の改善。

ロックダウン解除の動きが世界的に拡大しており、最悪水準まで低下したPMI・ISM指数には改善圧力が掛かり、景気循環銘柄価格の上昇要因に。ただし、本格解除には至らず、改善余地も限定される公算。

・世界景気の減速観測。IMFは2020年の経済見通しを大幅に引き下げ(+3.3%→▲3.0%)ている。ただし2021年には+5.8%への急回復を見込んでいる。

ただこの通りになるためには、コロナウイルス感染拡大終息が必要条件であり、第二次感染拡大となり得る冬場までの終息がなければ、それは難しかろう。

・FRBは合計で▲150bpの緊急利下げと、ドル需要ひっ迫の状況を緩和するための無制限の量的緩和も実施、債券買い入れもジャンク債も対象とするなど、打てる手は出し惜しみなく出しているため、徐々に不安は解消しよう。

ただし、持てる金融政策のカードをほとんど切ってしまったため、今後、不測の事態が発生した場合のリスクは小さくない。

・景気減速を受けた、各国政府・中銀の財政政策・金融緩和は価格の上昇要因(Q319の中国GDPは前年比+6.2%、前期+6.3%と1992年の統計発表以来の低水準となり、減速懸念が再び意識されている)。

※一方、鉱工業生産や固定資産投資などは政府の対策の影響が徐々に顕在化している形。

・2018年からインドが人口ボーナス期入りしており、構造的な需要の増加が見込めることは中長期的な価格の上昇要因。

<<特殊要因>>

・中国の新型コロナウイルスの世界的な感染拡大を受けた、世界的な経済活動の鈍化長期化。

感染拡大ペース鈍化を受けて経済活動を再開させる動きが強まっているが、このウイルスは未知の部分が多く、再度感染拡大→経済活動自粛、という流れになるリスクも無視できず。

・米中の対立激化。米国は今回のウイルス問題で、中国の医療面、人工知能を含むIT面に脅威を感じた可能性は高く、サプライチェーンの在り方も見直される可能性があり、「ポスト・コロナ」後の商流を大きく変質させる可能性も(景気循環系商品価格の下落要因)。

・生産拠点を自国に回帰させる動きや、リモートの定着による成長鈍化が、新興国の財政状況を悪化させ、自国を含む域内景気への悪影響を及ぼす懸念(価格の乱高下要因)。

・欧州の政治混乱(伊仏の対立、ポピュリズムの台頭、トルコと欧州の関係悪化、トルコの景気減速など)によるリスク回避の動きの強まり(下落要因)。

・英国のEU離脱が無秩序なものになるリスク。コロナウイルスの影響もあって、EUと英国が離脱を巡って建設的な議論はほとんどできていない状況で、移行期間中の条件合意が困難となっている。

今後は2020年12月末の移行期間までに条件で折り合えず、延期するのか、ハードブレグジットになるかが材料視されることになろう(下落要因)。

・中国地方政府・中堅中小企業の財政状況悪化に伴う景気減速(下落要因)。

<<投機・投資要因>>

・ロックダウンの動きを受けた株高による、リスク資産の再物色の流れ。

コロナウイルス対策のために大量に投入された資金が、コロナウイルス終息後にリスク資産買いに走り、暴騰するリスク。

・年後半に再度ロックダウンが始まり、投機の買いで上昇したリスク資産価格(特に株)が下落するリスク。

◆昨日の商品市場(個別)の総括


---≪エネルギー≫---

【原油市場動向総括】

原油価格は下落後上昇、引けにかけて上げ幅を削った。米失業保険申請件数がコロナ後初めて前週比で低い水準となったことが材料となったが、米石油統計で原油在庫が予想外の増加となったことや、トランプ大統領が中国に関して記者会見すると発言したことで、引けにかけて上げ幅を削る展開となった

昨日発表の米石油統計は原油が市場予想比弱気、ガソリンが強気、ディスティレートが弱気な内容だった。

原油は減産が継続(前週比▲0.1MBD)、稼働率も71.3%(+1.9%)と回復した。価格に影響を与えやすいクッシング在庫は▲3.4MB(前週▲5.6MB)と減少が継続、タンクがあふれる懸念は後退している。

注目の製品出荷は、ガソリンが前年比▲25.7%(▲29.1%)、ディスティレートが▲13.6%(▲13.8%)と回復、全製品出荷は▲20.1%(▲19.0%)と減速、重油やプロパンガスなどの出荷が減少したことが影響したようだ。

ただし、主要な製品出荷の回復は米経済活動の回復を期待させるものだったといえる。

【原油価格見通し】

原油価格は生産調整の進捗で下値を切り上げてきたが、中国の景気回復やロックダウン解除に伴う経済効果を過剰に先取してきた部分も否めず、米中対立が激化する可能性が高いことが経済的に両国に不利益をもたらすことが意識されているため、徐々に頭重い推移になると考える。

価格下落に伴う生産調整が進捗していること、コロナの影響緩和で経済活動が再開する方向にあることから、下値水準は切り上がっていると考えられるため、下落余地も限定されるだろう。

6月9日・10日開催のOPEC・OPEC+会合に注目しているが、予定通りの減産が行われるかどうか。今のところロシアが減産幅の削減(増産)を示唆しているが、サウジアラビアはしばらく現在の減産を続けたい意向であり、どのような決着になるかはまだ何とも言えない状況。

一時、マイナス価格でやり取りされたWTIであるが、当局の投機取引に対する規制強化やクッシング在庫の減少もあり、再びマイナスとなる可能性は低下した。

しかし、今回のマイナス価格は米国の原油先物の受け渡しポイントが内陸のクッシングにあることが影響しており、今回のような事態発生を回避するには輸出が容易な湾岸地区(例えばヒューストンなど)に受け渡しポイントを移すべきである。

欧州や中東は自国消費があまりなく、輸出を前提としてインフラが整備されているためこのようないことが起きにくい。

なお、原油価格が低水準で推移した場合、米シェールオイルの生産者のコストは平均で45ドル近辺(30ドル~55ドル程度)、カナダのオイルサンドからの生産者のコストも40ドル程度であることから、時間経過とともに減産が進捗すると予想される。

場合によると経営破綻、という形で減産が進む可能性もあるが、価格下落リスクヘッジをしている生産者もファイナンスが困難になっているため、資金繰りが意識される3、6、9、12月末あたりではないだろうか。

特に6月は主要シェール企業の債務償還が多いため、6月危機のリスクはまだ過ぎ去っていない。

生産調整の議論の次に考えるべきは、「コロナ終息後の供給」である。今のところ夏頃から経済活動が再開されるとみられるが、この時の減産規模縮小のタイミングを誤ると、価格が大きく上昇するリスクが出てくる。

すでに全ての産油国が追加減産を余儀なくされる見込みであるが、実際に減産を行うと稼働再開には時間が掛るため、供給が間に合わない可能性がある。中東の産油国でも1ヵ月程度、米シェール企業の場合は増産を決断してから実施されるまで、6~7ヵ月はかかる。

さらに価格低迷が産油国の体制を揺るがすため、供給が途絶して急騰、というリスクもあり得る。特に中東北アフリカ諸国ではコロナウイルスの感染が拡大した場合、治安の不安定化で政権の維持が困難になり、供給自体に支障をきたす可能性もある。

足元の価格上昇を受けてOPEC諸国が増産に転じれば、逆にその体制崩壊のリスク→価格上昇のリスクを高めることになる。

逆に、コロナウイルスの感染拡大防止に失敗し、「今年の冬に第二ラウンドに突入」となると需要の回復は難しく、かつ、信用リスクにも波及し企業倒産がべースの需要を減じることから、現在の世界各地の減産では不十分となる可能性も充分にあり得る。

さらに影響がよく分からないのが、各国政府・中央銀行が財政・金融政策の大盤振る舞いをしている点。これによって株が急騰する可能性はあり、その場合エネルギーセクターにもリバランスの買いが入るため、投機的な観点から価格を押し上げる。現在、これが顕在化しつつある状況。

株価の急騰は再び実態経済と、株価の顕著な乖離をもたらすため、その後のリスク資産価格を乱高下させる要因となるため要注意だ。

逆に、先進国中央銀行は持てる政策をすべて使ってしまったため、さらなる事態の悪化があった場合、打てる手段はほとんどないことはリスクといえる。

原油価格の変動性は今後、需要が低迷するにも関わらず、さらに高まると考えておくべきだろう。

【石炭市場動向総括】

石炭先物市場は小幅に上昇した。ほぼ季節性通り、過去5年の最低水準でじりじりと水準を切り上げる展開となっている。

貿易統計では中国の輸入増加が確認されているが、中国の豪州に対する圧力強化で豪州炭価格には下押し圧力が掛かりやすい環境になることが予想される。

【石炭価格見通し】

石炭価格は需給バランスの緩和観測で軟調な推移になると考える。ただし過去5年レンジの最低水準まで価格が下落しており、その観点での割安感からの買いが入り、下落余地は限定されると考える。水準は低いが、小じっかり、ということだ。

4月の中国石炭輸入は3,095万トン(前月2,783万トン)と過去5年の同じ時期の最高水準を大きく上回っている。経済活動の再開と、季節的な在庫の積み増しの動きによるものと考えられるが、欧米の経済活動の回復の遅れや、中国国内の回復も順調とは言えないことから、早晩減速すると見る。

また、コロナ問題を受けて対中国批判を強める豪州に対し、牛肉や鉄鉱石、石炭輸入を削減ないしは停止すると中国政府が表明しており、実際にその通りとなれば豪州炭価格を押し上げよう(他国産石炭は上昇)。

【価格変動要因の整理】

<<マクロ要因>>

・OPECプラスの減産と、非OPECプラス諸国の自主減産で需給がタイト化する場合(価格上昇要因)。

・産油国の財政悪化による上流投資部門投資の減速は、インドなどの新興国需要顕在化時の価格上昇要因。

・最大消費国である米国の石油製品出荷は前年比▲3割の大幅減少の状態であり、短期的な需要の方向性はマイナス(原油価格の下落要因)。

世界2位の消費国である中国の需要の指標である工業生産は市場予想を上回るマイナス幅の縮小となったが、小売売上高は前月から改善

・1-4月期中国工業生産は前年比▲4.9%(1-3月期▲8.4%)とマイナス幅が縮小、月次ベースでは+3.9%(前月▲1.1%)と前年比プラスにまで回復(フロー需要の回復=価格の上昇要因)。

・EV普及による需要の伸び鈍化を、軽量化目的の樹脂向け需要増加が相殺(世界の需要が減少を始めるのは2050年頃からか)。

・世界的な石炭上流部門への投資規制強化による、供給減速懸念。価格上昇要因(石炭)。

・競合燃料である天然ガス・LNG価格が供給過剰で低迷、石炭価格の下落要因。

<<特殊要因>>

・原油価格下落とコロナウイルス感染拡大による治安悪化、コロナ問題を背景に米・欧軍が中東から撤退、それを受けたISの伸長が域内情勢を不安定化させ、原油生産・供給に悪影響を与える場合(価格の上昇要因)。

また、域内で武力衝突が発生し、難民が欧州に流入した場合欧州域内の政情が混乱するため景気を下押しし、原油価格の下落要因に。

<<投機・投資要因>>・WTI・Brentともショートの減少が顕著。生産調整の進捗がより材料として意識されている。

・直近の投機筋のポジションは以下の通り。

WTIはロングが692,017枚(前週比 ▲17,540枚)ショートが148,414枚(▲20,124枚)ネットロングは543,603枚(+2,584枚)

Brentはロングが226,290枚(前週比+576枚)ショートが67,851枚(▲1,787枚)ネットロングは158,439枚(+2,363枚)

---≪LME非鉄金属≫---

【非鉄金属市場動向総括】

LME市場は上昇した。中国の全人代で香港国家安全法が制定される方針が確認されたことが米中対立を懸念させたものの、米失業保険申請件数の水準が先週から低下したことで景気への楽観が広がったことが価格を押し上げた。

なお、昨日のトランプ大統領の中国関連発言をうけたリスク資産下落は、時間的に織り込めていないが、CME銅は下落している。

【非鉄金属価格見通し】

非鉄金属価格は、香港国家安全法制定方針を受けて米国が中国に対する制裁を強める可能性は高く、通商戦争再燃への懸念が強まるため、目先は下落すると考える。また、南米生産者も生産を再開することも価格を下押ししよう。

ただし、最大消費国である中国の国内需給がタイト化していること、米国の経済活動回復への期待が強まっていることが価格を下支えするため、結局レンジワークである。

日々、景気回復への期待と制裁再開・生産再開が交互に材料となっているが、下値が切りあがっているという印象である。

米中が通商面で昨年・一昨年に行われたような「大規模な制裁」を実施することは両国にとってデメリットが大きいため、行われないと考えるのが常識的な見方だ。

しかし、中国政府による香港・台湾・ウイグル自治区問題の支配は露骨に進んでおり、コロナ問題での不満もあり、欧米諸国がこれを看過するとは考え難く、すでに米国は制裁強化を決定している。

また、コロナウイルス問題も習近平国家主席のメンツ維持のため、情報隠ぺい工作に走ったことも事実であり、情報開示の遅れが死者の増加につながった、との見方をする欧米諸国は少なくなく、親中国だったドイツも対中政策を変更した可能性は高い。

今後、世界的に中国とのビジネスが停滞する可能性は高まり、世界の工場のポジションにまだある中国の鉱物資源需要を減じることになるだろう。

影響がなんとも言えないのが、各国政府・中央銀行が財政・金融政策の大盤振る舞いをしている点。これは景気が回復すれば先々の価格上昇リスクを強めることになる。

逆に、先進国中央銀行は持てる政策をすべて使ってしまったため、さらなる事態の悪化があった場合、打てる手段はほとんどないことは下落リスクと考えるべきだろう。コロナウイルスの影響が長期化する可能性は徐々に高まっている。

長期的には環境面に配慮した「省エネ金属」需要が高まることから非鉄金属価格は上昇すると予想される。

具体例を挙げると、社会インフラとしてのバッテリー向け、電気自動車に使用される金属が対象となる(銅、アルミ、ニッケル、リチウム、コバルトなど)。

再び非鉄金属が持続的な上昇に転じるのは、インドの構造的な需要が顕在化するタイミングになるだろうが、中国が1994年に人口ボーナス期入りし、非鉄金属価格が上昇を始めたのが2000年頃からであることを考えると、2023~2024年頃になるのではないか。

【価格変動要因の整理】

<<マクロ要因>>

・4月中国製造業PMIは50.8(前月52.0)と減速した。新規受注は国内を中心に回復しているとみられるが、欧米のロックダウンの影響で輸出需要が低迷(輸出新規受注46.4→33.5と急減速)した。

新規受注在庫レシオは前月急回復したが、今月は低下。やはり3月の同指数はエラー値だったとして処理するのが適切だろう。

・金属にもよるが、主要生産者がコロナウイルスの影響による生産調整が徐々に解除に向かう見通しであり、価格の下落要因に(影響を受けてきた主要鉱山は以下の通り)

(アルミ)Norsk Hydro Husnesアルミプラントの増産をQ320まで先送りアルゼンチン Aluar Puetro Madrynでの生産能力の▲50%を停止

(銅)南米の鉱山生産者(供給の約2割)は需要減と感染拡大防止のため、稼働率の引き下げを余儀なくされている状況Cerro Verde、Los Bronces、Constancia、Las Bambas、Collahuasi、Antaminaなど

(錫)PT Timah、需要の減少で当面錫生産を▲20%~▲30%減らす計画

(亜鉛)NewmontのPenasquito、Pan American SilverのLa Colorada、Grupo MexicoのBuenavistaとSan Martinなどが減産を決定

・5月中国銅製品生産者稼働状況

 銅線生産者 103.1%(前月100.4%、過去4年平均 89.8%) 銅棒生産者 80.3%(83.3%、78.9%) 銅板生産者 64.8%(68.3%、72.2%) 銅管生産者 82.7%(84.4%、75.4%)

・3月中国銅精錬業者稼働状況 大規模事業者 87.2%(78.3%、90.3%) 中規模事業者 73.2%(72.1%) 小規模事業者 73.1%(42.9%)

・1-4月期中国工業生産は前年比▲4.9%(1-3月期▲8.4%)とマイナス幅が縮小、月次ベースでは+3.9%(前月▲1.1%)と前年比プラスにまで回復(フロー需要の回復=価格の上昇要因)。

・1-4月期中国固定資産投資は前年比▲10.3%の13兆6,824億元(1-3月期▲16.1%の8兆4,145億元)とマイナス幅が縮小。

 公的部門は▲6.9%(▲12.8%)、民間部門とも▲13.3%(▲18.8%)マイナス幅を縮小。ただし前年比マイナスの状態は変わらず(ストック需要はマイナス=価格の下落要因)。

・1-4月期中国不動産開発投資は前年比▲3.3%の3兆3,103億元(1-3月期▲7.7%の2兆1,963億元)とマイナス幅を縮小。

ただし前年比マイナスの状態は変わらず(ストック需要の減少=価格の下落要因)。

・3月の中国の銅輸入は前年比+13.3%の44万トン(1-2月期85万トン)、銅鉱石・精鉱輸入は前年比+0.5%の178万トン(377万トン)となった。

銅地金の輸入は過去5年平均程度であるが、米中通商戦争が激化を始めた昨年に比べると高い水準。銅鉱石の輸入は、過去5年の最高水準だった昨年の水準を上回った。

いずれも中国の工業活動が平常状態に戻りつつあることを確認する内容であり、価格の上昇要因。

・環境規制の強化で特殊需要が増加する(軽量化目的のアルミ、EV向けのニッケル・銅(通常25キロ/台の銅が使われるが、EVは80キロ/台)、蓄電池としての鉛、コバルト、リチウムなど)

・中国の環境規制強化に伴うスクラップの調達難による、新塊需要の増加。

・上流部門投資不足並びに鉱石の品位低下による、鉱山供給の制限。

・亜鉛の精錬キャパシティ不足に伴う需給のタイト化。ただしTCが低下を始めており、徐々に需給は緩和方向へ。

・環境規制強化・米制裁の影響による石炭価格上昇が、中国の非鉄金属製造コストを高止まりさせる場合。

・インドをはじめとする新興国の構造的な需要増加(中長期的な要因)。

<<特殊要因>>

・環境問題や人権問題(コンフリクト・メタルの問題)を背景とする鉱山供給の減少。

・資源ナショナリズムの高まり。インドネシアのニッケル未処理鉱石禁輸措置再開(銅とボーキサイトは2022年から実施の予定)。

・インドとパキスタンの対立が武力衝突に発展、インドの人種差別問題が反政府行動に繋がり、インドが人口ボーナス期の成長メリットを生かせない場合(下落要因)

<<投機・投資要因>>

・5月22日付のLMEロング・ショートポジションは、商品ごとに動きがまちまちとなった。

銅はロングが減少、ショートも減少した。ショートの減少幅が大きく、積み上がったポジション解消の動きとみられる。

亜鉛、鉛、アルミ、ニッケルはロングが増加、ショートが増加しており、明らかに強気のポジションに。

錫はロング・ショートとも増加したがネットロング増加となった。

投機筋のLME+CME銅ネット買い越し金額は▲31.4億ドル(前週▲39.2億ドル)と売り越し幅を縮小。売り越し額の減少率は▲19.8%。

買い越し枚数はトン数換算ベースで▲1,221千トン(前週▲1,538千トン)と売り越し数量を縮小。ネット売り越しの減少率は▲20.6%。

---≪鉄鋼原料≫---

【鉄鋼原料市場動向総括】

中国向け海上輸送鉄鉱石スワップは小幅に上昇、原料炭スワップ先物は小幅に下落、中国鉄鋼製品先物価格は直近限月が下落、中心限月は小幅に上昇した。

鉄鉱石は中国の在庫水準の低さを背景とした在庫積み増しの動きやブラジルの供給懸念が材料、鉄鋼製品は中国の香港国家安全法制定方針を受けた、米中対立懸念が売り材料となった。

【鉄鋼原料価格見通し】

鉄鉱石価格は堅調な推移になると考える。中国の鉄鉱石在庫が減少していること、ブラジルの供給不安、鉄鋼生産者に増産バイアスがかかっていることが価格を押し上げるため。

ただし、鉄鋼製品在庫の水準は記録的に高く、ここで鉄鋼製品の増産があれば需給が緩和して鉄鋼製品価格が下落するため早晩鉄鉱石需要は減速すると予想され、上昇余地も限定されるだろう。

また、中国の香港国家安全法制定方針を受けた、米国の中国に対する制裁強化観測も、鉄鋼製品価格を押し下げるため、転じて鉄鉱石価格を押し下げることになるとみる。

なお、すでに米国は中国に対する制裁を強化しており、人権問題をめぐり、欧州諸国(除くイタリア)が追随するかが注目だ。

なお、現在は「夏場のコロナウイルス流行の間」であり、現在の鎮静化は一時的なものとなる可能性が高く、ワクチンの開発が終了するまでは「ロックダウン解除→ロックダウン→ロックダウン解除...」といった状態が続くと予想され、基本はレンジワークである。

その一方、コロナ問題に対する中国の対応に対して豪政府が不満を表明したことで、中国政府がこれに反発、豪州産の鉄鉱石を購入しない可能性を示唆した。中国全体の需要が減少するわけではなく、ブラジルやインドの鉱石需要が増加するだろうが、豪州産の鉱石価格には下押し圧力が掛かることになるだろう(反対にブラジル鉱石価格は上昇)。

政策要因に振らされる形で、先々の鉄鉱石価格は乱高下しやすい。

中国河北省の高炉稼働率は5月22日時点で78.8%(前週78.6%)と小幅に上昇した。需要の回復が緩慢な中で、恐らく稼働率は当面、この水準程度で推移することになるだろう。

中国の鉄鋼製品は例年通り季節的な在庫の取り崩しが継続しているが、例年よりも在庫の減少ペースが速い。生産者の供給が十分ではない中、最終需要者の稼働が回復している可能性があることを示唆している。

原料炭は中国の生産活動再開の影響もあり、過去5年の最高水準での推移を続けると考える。

中国の港湾在庫の水準は鉄鋼の最大生産省である河北省の主要港である、京唐港の港湾在庫は過去5年レンジを上抜けしていたが、ここにきて急速に取り崩しが進んでおり、現在は過去5年平均を下回った。需給環境は徐々にタイト化していると考えられる。

先行指標であるバルチック海運指数は、底入れ感が出てきたが、再び軟調になっており、中国の輸入活動の回復が鈍化している可能性が出てきた。

【価格変動要因の整理】

<<マクロ要因>>

・4月の中国鉄鋼業PMIは45.9(前月42.2)と回復した。主に生産の回復(39.3→53.4)によるところが大きい。

しかし、需要はほとんどが国内向けとみられ(新規受注 38.5→39.9)、輸出向け新規受注は27.8(27.3)と低迷が続いている、

海外のロックダウンが続く中で、国内主導の回復にならざるを得ないが、中国政府も財政的に厳しい部分があり需要が加速するという展開は考え難い。

・1-4月期中国工業生産は前年比▲4.9%(1-3月期▲8.4%)とマイナス幅が縮小、月次ベースでは+3.9%(前月▲1.1%)と前年比プラスにまで回復(フロー需要の回復=価格の上昇要因)。

・1-4月期中国固定資産投資は前年比▲10.3%の13兆6,824億元(1-3月期▲16.1%の8兆4,145億元)とマイナス幅が縮小。

 公的部門は▲6.9%(▲12.8%)、民間部門とも▲13.3%(▲18.8%)マイナス幅を縮小。ただし前年比マイナスの状態は変わらず(ストック需要はマイナス=価格の下落要因)。

・1-4月期中国不動産開発投資は前年比▲3.3%の3兆3,103億元(1-3月期▲7.7%の2兆1,963億元)とマイナス幅を縮小。

ただし前年比マイナスの状態は変わらず(ストック需要の減少=価格の下落要因)。

・4月の中国の貿易統計では、鉄鋼製品の輸出は前年比▲0.2%の631万9,000トンと前年比マイナスとなり、季節性に反して前月から減少した。

欧米各国がロックダウンしている影響によるものと考えられ、今後ロックダウンが徐々に解除される中で、緩やかに回復すると期待されるが実際にそうなるかどうかは不透明。

中国の鉄鋼製品在庫水準は前週比▲124.2万トンの1,795.8万トン(過去5年平均 1,137.2万トン)と、工場の再稼働で例年通り在庫の取り崩しが続いている。

ただし、例年よりも取り崩しのペースは早く、鉄鋼生産者の稼働が最終需要家の回復よりも遅れている可能性があることを示唆している。

・4月の中国の鉄鉱石の輸入量は前年比+18.5%の9,571万トンとなり、過去5年レンジを大幅に上抜けした。鉄鋼製品在庫の取り崩しが進んでいること、鉄鉱石の港湾在庫の水準の低さもあって、鉄鉱石輸入の動きが活性化した様子。

鉄鉱石の港湾在庫水準は、絶対水準ベース、在庫日数ベースとも過去5年平均を下回っており一定の在庫積み増し需要があると考えられる。

中国の鉄鉱石港湾在庫は前週比▲100万トンの1億1,195万トン(過去5年平均1億2,285万トン)、在庫日数は▲0.2日の26.2日(過去5年平均 30.3日)と例年と比較して在庫水準が低い状態は続いている。

鉄鉱石の需給ファンダメンタルズはタイト化しているため、一定の鉄鉱石の輸入需要が価格を高止まりさせると考える。

・4月の石炭輸入(燃料炭・原料炭の合算)は前年比+22.3%の3,095万トンと増加し、過去5年レンジを超えた。中国の経済活動の再開を反映したもの。

原料炭の輸入は1-2月に前年比+47.5%の1,516万トンとなったが、3月は前年比▲8.1%の564万トンに落ち込んでいる。

・長期的には人口ボーナス期入りしているインドが、インフラ整備のための投資を拡大する方針(5年で約160兆円)であり、鉄鋼製品・鉄鉱石価格を押し上げ。

<<特殊要因>>

・世界的に広がる環境規制強化の流れで、鉄鉱石や原料炭などの生産に一定の影響が起きる場合。

・米国が中国に対する人権問題(香港・新疆ウイグル自治区問題)や、コロナウイルスへの対策に対する中国への不満が高まった場合、再び通商問題が議題に上がる場合(価格の下落要因)。

・コロナウイルスの感染拡大長期化による経済成長の鈍化。

<<投機・投資要因>>

・特になし。

---≪貴金属≫---

【貴金属市場動向総括】

金価格は上昇した。米国時間に発表された米週間新規失業保険申請件数の水準が先週よりも低かったことで景気への楽観が広がり、期待インフレ率が上昇する中で実質金利が低下したことが材料となった。

銀は金価格の上昇を受けて上昇。ただ、金銀在庫レシオの低下を受けた、金銀レシオの低下圧力の強まりから金よりもやや上昇率が高かった。

PGM価格はプラチナが小幅下落、パラジウムが下落。プラチナは銀価格の上昇と株価の調整の綱引きとなった。パラジウムは株安を受けて水準切り下げ。

【貴金属価格見通し】

金銀は高値圏でのもみあいになると考える。ロックダウン解除が各国で続くことが株式市場での楽観を生んでいることが価格を下押しする一方、原油価格が上昇していることによる実質金利低下圧力、中国の香港国家安全法制定方針を受けた米中の対立激化懸念が、安全資産需要を高めるため。

米中対立は激化が不可避の様相だが、両国の対立は世界各地での「親中・反中」の踏み絵を突き付け、結果的に地政学的なリスクを高めること、コロナウイルス対策で各国とも財政支出を拡大しており、アルゼンチンで発生したようなデフォルト発生が意識されることが安全資産需要を高めることも、価格を押し上げると考える。

現在の金の実質金利で説明可能な価格からの乖離(リスクプレミアム)は229ドル(前日比変わらず)。なお、現在の実質金利で説明可能な価格水準は1,450~1,480ドル程度。

※毎日回帰分析をアップデートし、リスクプレミアム自体の水準を見直しているため、前日比の整合性が取れていない点はご注意ください。

銀価格は金価格との比較感で売買されるが、金銀在庫レシオを元にした分析では115倍程度が妥当、となっているが実際は100倍程度となっている。

過去1年平均を基準にすると95倍程度が妥当であり、この水準への回帰の動きがみられていることから、銀の金に対しての上げ余地はあるとみられる。

なお、金銀在庫レシオ(銀在庫÷金在庫)はCOMEX金在庫の急増によって低下、金銀レシオに下押し圧力をかけており、徐々に銀価格は対金で水準を切り上げる展開になると予想される。

金価格の上昇余地がそろそろ限界では、との見方が強まっていることも、割安な大体安全資産として銀が物色される可能性は高い。

プラチナ価格は銀価格との連動性が高まっている。これは供給過剰で投機的な色彩が強まっているが、各国の準備金や市場取引の担保価値が認められている金のような安全資産としては認知されていないことによる。

しかし、値動きとしては銀価格と連動しやすく、銀価格が割安感から物色されやすい地合いとなっているため、プラチナ価格にも上昇圧力が掛かることになろう。

パラジウムは価格は景気の先行きが明確に悪いこと、少なくともQ220は景況感の低迷が続く見込みであることから、工業向け需要低迷がから実需面は価格を下押ししやすい。

その一方で、貴金属のベンチマークである金価格は堅調な推移が予想されるため、結果、パラジウムは神経質にレンジワークでの推移になると考える。

Norilsk Nickelは2020年のパラジウムの需給見通しを▲20万オンスの供給不足から、+10万オンスの供給過剰に下方修正しており、上限は切り下がったと考えられる。

4月の米自動車販売は年率858万台(市場予想 700万台、前月 1,137万台)と、大幅な悪化となり、例年の半分程度まで落ち込んだ。ただし、市場予想は上回っており市場ほど悲観的な状況ではないようだ。

中国の4月の自動車販売は前年比+4.4%の207万台(前月▲43.3%の143万台)と急回復した。しかし、販売の多くが商用車であり、中国政府による景気テコ入れの成果だったともいえる。

今後、中国の販売は欧米に先行して回復すると見るが、完全に経済活動が元に戻っている訳ではないので、回復ペースは緩慢なものに留まるだろう。

そして、コロナウイルスの影響が拡大する中で、日米欧も自動車販売が減速する可能性は高く、PGM価格の下押し要因になると予想される。

【価格変動要因の整理】

<<マクロ要因>>

・FRBは▲1.5%の緊急利下げ、無制限の量的緩和を決定、その他の中央銀行もこれに追随しており貴金属価格の上昇要因に。

ただしこれで追加の緩和手段はほぼなくなった状態であり、金価格の上昇余地は限定される。

・世界的な自動車販売の減速(米欧中)による、自動車向け排ガス触媒需要の減少(PGM)。

・コロナウイルスの感染拡大による、最大生産国の1つである南アフリカの鉱山稼働全面停止による供給懸念。

・排ガス規制強化に伴うパラジウムへのシフト観測(プラチナがパラジウムを代替するには数年単位で時間を要する)。

・パラジウム需要増加に伴うPGMの増産により、結果的にプラチナが供給過剰となり価格の下落要因に(プラチナ)。

パラジウムはロシアでは銅・ニッケルの、南アフリカ・米国ではプラチナの副産物として生産されるため(副産物としての供給が8割)、急な増産が困難であり供給面の制限が価格を下支えする状況に変わりはない。

<<特殊要因>>

・コロナ対策で過剰な財政出動が行われており、終息後に各国の財政・信用不安が意識される場合(価格の上昇要因)。

・米中の対立激化。米国は今回のウイルス問題で、中国の医療面、人工知能を含むIT面に脅威を感じた可能性は高く、対立が激化する場合(安全資産価格の上昇要因)。

・生産拠点を自国に回帰させる動きやリモートの定着による成長鈍化が、新興国の財政状況を悪化させる場合(価格の上昇要因)。

・原油価格低迷による財政状況の悪化、コロナウイルスの影響拡大に伴う国民の不満爆発、サバクトビバッタの大量発生による食糧危機などで、中東・北アフリカ有事が発生、それに伴う安全資産需要の高まり(上昇要因)。

・トルコとシリアのイドリブ県を巡る対立はロシアとトルコが停戦で合意したものの、再び衝突する可能性は排除できない。この場合、安全資産需要を高め、価格の上昇要因に。

・英国のブレグジットは、移行期間中の合意は容易ではなく、無秩序離脱の可能性はまだなくなっていない。

・中国地方政府・中堅中小企業の財政状況悪化に伴う景気減速による安全資産需要の増加。

<<投機・投資要因>>

・直近の投機筋のポジションは、金はロングが295,394枚(前週比 +17,623枚)、ショートが43,606枚(+8,663枚)、ネットロングは251,788枚(+8,960枚)、銀が54,391枚(+9,634枚)、ショートが23,463枚(+4,479枚)、ネットロングは30,928枚(+5,155枚)

・直近の投機筋のポジションは以下の通り。

プラチナはロングが30,671枚(前週比 +2,418枚)ショートが8,658枚(▲1,440枚)、ネットロングは22,013枚(+3,858枚)

パラジウムが2,461枚(+305枚)、ショートが1,816枚(+50枚)ネットロングは645枚(+255枚)

---≪農産品≫---

【穀物市場動向総括】

シカゴ穀物市場はまちまちとなった。

トウモロコシは原油価格の上昇や経済活動再開を受け、3月以降積み上がっていたショートの買戻しが入ったことが背景。

大豆は米中対立激化懸念で下落、小麦価格は上昇。そもそも小麦は作付け・作柄がよろしくなく、昨日はドル安がきっかけとなったようだ。

【穀物価格見通し】

トウモロコシ価格は米国のロックダウン解除の動きが進む見通しであり、ガソリン向け需要の段階的な回復が期待されること、採算が悪化したエタノールの生産調整も進むとみられることから、ショートの買戻しが進み、徐々に水準を切り上げると考える。

ただしロングの水準は記録的に低く、新規の需要増加要因が明確にならない限り、大幅な上昇にはならないだろう。

大豆は国内の飼料向け需要の増加が予想されるが、米中対立の再燃による米国産大豆の中国向けの輸出減速が予想されることから、上昇余地は限定されると考える。

小麦は北米の冬小麦の作柄が悪化していること、トウモロコシに連れ高を見込む。ショートの水準が非常に低いため、むしろ今後は買戻しが入りやすい。

だが例年通り最終的には供給は帳尻が合うと予想されるため上昇余地も限定。

懸念すべきは東アフリカ・中東地域でサバクトビバッタが激増、東南アジアでもトウモロコシやイネの大害虫であるツマジロクサヨトウが繁殖し、深刻な食糧危機をもたらしている

また、コロナウイルスの影響で播種に必要な人員を確保できない農家が増えており、この作付けの遅れも価格を押し上げるだろう。年後半にかけて、穀物価格の見通しは強気だ。

【価格変動要因の整理】

<<マクロ要因>>

・トウモロ作付け意向面積トウモロコシ 9,699万エーカー(市場予想 9,412万エーカー)大豆 8,351万エーカー(8,502万エーカー)小麦 4,466万エーカー(4,495万エーカー)

・5月の米需給報告の生産見通し(今月/市場予想/前月)トウモロコシ 159億9,500万Bu(157億4,860万Bu、136億9,200万Bu)大豆 41億2,500万Bu(41億3,992万Bu、35億5,800万Bu)小麦 18億6,600万Bu(18億4,765万Bu、19億2,000万Bu)

・5月の米需給報告の在庫見通し(今月/市場予想/前月)トウモロコシ 20億9,800万Bu(22億7,792万Bu、24億4,500万Bu)大豆 40億5,000万Bu(43億2,240万Bu、48億万Bu)小麦 9億900万Bu(8億2,408万Bu、9億7,000万Bu)

・3月末四半期在庫(実績/市場予想/前月)トウモロコシ 79億5,300万Bu(81億8,354万Bu、114億200万Bu)大豆 22億5,300万Bu(22億2,830万Bu、32億5,800万Bu)小麦 14億1,200万Bu(14億2,979万Bu、18億4,100万Bu)

<<特殊要因>>

・新型肺炎の影響拡大による、輸出活動の停滞(シカゴ定期を含む生産地価格の下落要因)。

・米・イランの対立激化により、穀物輸送に影響が出る場合(下落要因)。ただし非景気循環銘柄需要が高まり最終的には上昇要因に。

・夏場以降、北米の穀物生産に影響を与えるラニーニャ現象の発生の可能性があり、価格の上昇リスク要因に。

・中国の豚コレラ被害の拡大により、飼料需要が減少した場合は価格の下落要因(逆に終息すれば上昇要因)。

<<投機・投資要因>>

・直近の投機筋のポジションは以下の通り。

トウモロコシはロングが218,328枚(前週比 +7,495枚)、ショートが417,374枚(+28,970枚)ネットロングは▲199,046枚(▲21,475枚)

大豆はロングが186,743枚(▲1,519枚)、ショートが99,142枚(+14,107枚)ネットロングは87,601枚(▲15,626枚)

小麦はロングが104,238枚(+2,314枚)、ショートが114,160枚(+17,022枚)ネットロングは▲9,922枚(▲14,708枚)

◆主要ニュース


・5月ユーロ圏景況感指数 67.5(64.9)
 鉱工業景況感 ▲27.5(▲32.5)
 サービス景況感 ▲43.6(▲38.6)
 消費者信頼感 ▲18.8(▲18.8)

・米週間新規失業保険申請件数 2,123千件(前週 2,446千件)
 失業保険継続受給者数 21,052千人(24,912千人)

・Q120米GDP改定 前期比年率 ▲5.0%(速報比▲0.2%、前期確定+2.1%)
 個人消費▲6.8%(+0.8%、+1.8%)
 総民間国内投資▲10.5%(▲4.9%、▲6.0%)
 設備投資▲7.9%(+0.7%、▲2.4%)
 輸出▲8.7%(±0.0%、+2.1%)
 輸入▲15.5%(▲0.2%、▲8.4%)
 政府支出+0.8%(+0.1%、+2.5%)
 GDPデフレータ+1.4%(+0.1%、+1.3%)、コアPCE +1.6%(▲0.2%、+1.3%)

・4月米中古住宅販売仮契約 前月比▲21.8%(前月▲20.8%)、前年比▲34.6%(▲14.5%)

・4月カンザスシティ連銀製造業活動 ▲19(前月 ▲30)

・4月米製造業耐久財受注速報
 前月比▲17.2%(前月改定▲1.7%)
 除く輸送機器▲7.4%(▲1.7%)
 製造業新規受注資本財非国防除く航空▲5.8%(▲1.1%)

・ダラス連銀カプラン総裁(投票権あり・中間派)、「米景気は底入れした。」

・中国政府、香港国家安全法を制定する方向を確認。

・米国家経済会議クドロー委員長、中国が国家安全法制定を決定したことに関し、「極めて大きな過ちであり、米国はこの責任を中国に問うことになる。必要であれば今後は香港に対して中国と同じ扱いをする必要が出てくる。」

・英ホーガン委員、「英国はEUとの通商合意を諦めている可能性がある。」

◆エネルギー・メタル関連ニュース


【エネルギー】
・DOE米石油統計 原油+7.9MB(クッシング▲3.4MB)
 ガソリン▲0.7MB
 ディスティレート+5.5MB
 稼働率+1.9

 原油・石油製品輸出 7,444KBD(前週比▲288KBD)
 原油輸出 3,372KBD(▲31KBD)
 ガソリン輸出 290KBD(▲174KBD)
 ディスティレート輸出 873KBD(▲110KBD)
 レジデュアル輸出 111KBD(▲34KBD)
 プロパン・プロピレン輸出 949KBD(+57KBD)
 その他石油製品輸出 1,749KBD(+14KBD)

・DOE天然ガス稼働在庫 2,611BCF(前週比+108BCF)
 東部 504BCF(+35BCF)
 中西部 606BCF(+30BCF)
 山間部 132BCF(+8BCF)
 太平洋地区264BCF(+11BCF)
 南中央 1,105BCF(+24BCF)

【メタル】
・Teck、Antamina鉱山の銅・亜鉛生産を再開。80%の稼働率。

◆主要商品騰落率


【上昇率上位5商品】

商品名(カテゴリー)/前日比上昇率/年初来上昇率
1.NYM米天然ガス ( エネルギー )/ +5.87%/ ▲16.72%
2.CBTもみ米 ( 穀物 )/ +3.21%/ +28.55%
3.ビットコイン ( その他 )/ +3.09%/ +31.97%
4.ICEココア ( その他農産品 )/ +2.79%/ ▲4.37%
5.NYM WTI ( エネルギー )/ +2.53%/ ▲44.91%

【下落率上位5商品】

商品名(カテゴリー)/前日比上昇率/年初来上昇率
70.ICE欧州天然ガス ( エネルギー )/ ▲6.08%/ ▲73.16%
69.CME豚赤身肉 ( 畜産品 )/ ▲5.40%/ ▲20.30%
68.NYM灯油 ( エネルギー )/ ▲4.57%/ ▲54.26%
67.ICEアラビカ ( その他農産品 )/ ▲3.32%/ ▲23.59%
66.CBTエタノール ( エネルギー )/ ▲2.87%/ ▲18.76%

※弊社が重要と考える主要商品の前日比騰落率上位・下位5品目です。
※限月交代に伴う価格の不連続性は考慮されていません。予めご容赦ください。

◆主要指標


【為替・株・金利・ビットコイン】
NY ダウ :25,400.64(▲147.63)
S&P500 :3,029.73(▲6.40)
日経平均株価 :21,916.31(+497.08)
ドル円 :107.65(▲0.07)
ユーロ円 :119.24(+0.69)
米10年債 :0.69(+0.01)
中国10年債利回り :2.69(▲0.02)
日本10年債利回り :0.00(▲0.00)
独10年債利回り :▲0.42(▲0.01)
ビットコイン :9,446.84(+283.42)

【MRAコモディティ恐怖指数】
総合 :34.01(▲1.82)
エネルギー :60.76(▲5.66)
ベースメタル :22.11(+0.14)
貴金属 :27.21(▲0.88)
穀物 :22.09(▲0.44)
その他農畜産品 :32.79(▲1.6)

【主要商品ボラティリティ】
WTI :107.92(▲13.64)
Brent :69.09(▲8.19)
米天然ガス :59.11(▲0.75)
米ガソリン :77.43(▲3.76)
ICEガスオイル :86.04(▲8.89)
LME銅 :21.29(+0.15)
LMEアルミニウム :13.91(▲0.13)
金 :16.07(▲0.1)
プラチナ :28.91(▲0.12)
トウモロコシ :14.47(+1.6)
大豆 :16.07(▲0.1)

【エネルギー】
WTI :33.64(+0.83)
Brent :35.41(+0.67)
Oman :36.50(+0.36)
米ガソリン :100.11(+0.78)
米灯油 :92.77(▲4.44)
ICEガスオイル :285.00(▲1.75)
米天然ガス :1.82(+0.10)
英天然ガス :8.34(▲0.54)

【貴金属】
金 :1718.33(+8.86)
銀 :17.37(+0.11)
プラチナ :838.92(▲1.21)
パラジウム :1936.72(▲7.36)
※ニューヨーククローズ。

【LME非鉄金属】
(3ヵ月公式セトル)
銅 :5,307(▲36:28C)
亜鉛 :1,916(▲22:2.5B)
鉛 :1,629(▲30:19.5C)
アルミニウム :1,524(▲4:23.5C)
ニッケル :12,200(▲10:67C)
錫 :15,405(▲5:185B)
コバルト :29,652(▲5)

(3ヵ月ロンドンクローズ)
銅 :5372.00(+76.50)
亜鉛 :1940.00(+4.50)
鉛 :1637.00(▲5.00)
アルミニウム :1538.00(+8.50)
ニッケル :12240.00(+100.00)
錫 :15535.00(+210.00)
バルチック海運指数 :502.00(▲4.00)
※C=Cash-3M コンタンゴ、B=Cash-3M バック

【鉄鋼原料】
62%鉄鉱石スポット(CFR中国、1営業日前) :95.09(▲0.23)
SGX鉄鉱石 :92.24(+0.11)
NYMEX鉄鉱石 :92.05(+0.24)
NYMEX原料炭スワップ先物 :113.24(▲0.03)
上海鉄筋直近限月 :3,428(▲76)
上海鉄筋中心限月 :3,492(+7)
米鉄スクラップ :330(▲2.00)

【農産物】
大豆 :847.00(▲1.50)
シカゴ大豆ミール :284.30(+2.30)
シカゴ大豆油 :27.39(▲0.21)
マレーシア パーム油 :2334.00(▲11.00)
シカゴ とうもろこし :327.50(+7.00)
シカゴ小麦 :514.50(+10.00)
シンガポールゴム :131.30(▲2.20)
上海ゴム :10010.00(▲25.00)
砂糖 :10.80(±0.0)
アラビカ :99.10(▲3.40)
ロブスタ :1177.00(▲33.00)
綿花 :57.57(▲0.77)

【畜産物】
シカゴ豚赤身肉 :56.93(▲3.25)
シカゴ生牛 :101.48(+0.68)
シカゴ飼育牛 :135.50(+1.48)

※全ての価格は注記が無い限り、取引所で取引される通貨建。
※限月交代に伴う価格の不連続性は考慮されていません。予めご容赦ください。