CONTENTSコンテンツ

経済活動への楽観続く~米中対立は懸念
  • MRA商品市場レポート

2020年5月27日 第1753号 商品市況概況

◆昨日の商品市場(全体)の総括


「経済活動への楽観続く~米中対立は懸念」

【昨日と本日の各セクターショートコメント】

◆エネルギー:原油価格は上昇。欧米のロックダウン解除や減産を受けて、ロシアが6月に需給がバランスするとの自信を示したことが価格を押し上げた。

ロックダウン解除の経済活動再開による需給改善期待が価格を押し上げているが、テクニカルに100日移動平均線が意識されており(WTI)、本日は調整売りで下落か。

◆非鉄金属:上昇。欧米ロックダウン解除や、最大消費国である中国の需給タイト化、経済対策観測で。

経済活動の段階的な再開で上昇も、正常化する中で米中の対立激化が浮き彫りとなっており、上昇余地は限定されると予想。

◆鉄鋼原料:鉄鉱石は小幅上昇、原料炭先物は上昇、鉄鋼製品は下落した。中国鉄鋼生産者の増産が影響した。

鉄鋼原料材料の中国による在庫積み増しと、鉄鋼メーカーの増産で上昇も、米国の中国に対する制裁強化方針を受けてレンジワーク継続。

◆貴金属:貴金属セクターは下落。株価が上昇していることで景気に対する楽観が台頭、名目金利の上昇を受けて。

株に楽観の買いが入る中で金銀プラチナは調整売りに押される展開、パラジウムは金の下落と株価上昇でもみ合いか。

◆穀物:シカゴ市場はまちまち。原油高や中国向けの輸出増加などが材料となった。小麦は作柄の悪化や作付けの遅れはあったものの小幅な下落。

米中対立や作付け・作柄の低下などの強弱材料が混在する中で方向感に欠ける展開続く。

※より詳細な説明は以下をご参照ください。

市場データ・グラフ類の添付ファイルのサンプルはこちら。

【昨日の市場動向総括】

昨日の商品市場は債券や貴金属、その他農畜産品といったディフェンシブ銘柄(景気減速の影響を受けにくい銘柄)が総じて軟調になり、その他の商品が景気循環系商品を中心に物色される流れとなった。

ロックダウン解除の動きや、今後の経済活動を占ううえでの景況感指数などの改善が、市場参加者のリスクテイク意欲を復活させているようだ。

しかし、今回の経済活動再開も、欧米の感染者数が劇的に減少して封じ込めが成功しているトいうことに伴うものではなく、流行の端境期でたまたま感染者の増加が減っていること、これ以上のロックダウン継続は状態的に資金不足である欧米の企業セクターの倒産の増加、ひいては高失業率の常態化をもたらすため、ギリギリの選択だったともいえる(詳しくは昨日のトピックスをご参照ください)。

今回の回復が持続可能なものになる、と言い切ることは現時点では難しい。

※レポートのお申込みはこちらから
https://marketrisk.jp/news-contents/news/3592.html

※商品市場分析入門のお求めはこちらから
https://www.amazon.co.jp/dp/447810445X/

【本日の見通し総括】

本日は景気への楽観が強まっているため、リスク資産に買戻しの動きが強まる流れは継続すると考えている。

しかし、混乱が若干落ち着けば、再び混乱前の問題が蒸し返される(米中対立や、英国のEU離脱など)ことは確実であり、冬場のロックダウン再開の可能性も十分あり得ることから、上昇余地が限定されるとのスタンスは維持。

予定されている材料としては、引け後になるが米地区連銀経済報告。経済統計に時間差がありなかなかうまく活用できない中、定量的ではなく定性的な判断が加わる同レポートは、米国の現状を判断する上での重要な手掛かりになると考える。

なお、先ほど発表された中国工業利益は前年比▲4.3%(前月▲34.9%)と急速に回復、中国企業活動の回復が確認された形。しかし、コロナの期間をエラー値として除外して考えると、中国製造業の活動の減速傾向は持続していると考えるべきで、弱いながらも回復感が確認されるのは夏以降になるのではないか。

欧米主要市場がオープンとなるが、昨日オープンしていた欧州市場や南米の株式市場はロックダウン解除の動きを材料に上昇しており、景気への楽観が広がっていることから、広くリスク資産が物色される流れになると予想される。

しかしながら、平常状態に戻れば各国の「問題追及」の動きが強まる。すなわち、コロナ問題に対する国内の対応や、海外に対する対応が改めて行われるということだ。

その意味では、米政権が中国に対する制裁や攻撃を強めることは必至であり、すでに人権問題を理由に制裁が強化されている。このことは両国の経済活動の回復を阻害し、景気循環銘柄価格を下押ししよう。結果、レンジワークになると予想される。

本日予定されている統計としては、米消費者信頼感指数に注目している。4月の同指標は86.9(3月118.8)と大幅に減速したが、これがどこまで戻るかに注目。今のところ市場は87.0と極めて小幅な回復を予想している。

もう1つ注目しているのが、ダラス連銀製造業活動指数。ダラス連銀はメキシコ湾岸地区も所管しており、エネルギー企業が基盤を有する。同指数の動向は、米国のエネルギーセクター動向を占ううえでの手掛かりとなる。

同指数は4月に▲73.7と前月の▲70.7からさらに悪化した。原油価格の下落で米生産者の減産が続き、厳しい状況にあることは事実であり、この数値がどこまで改善(ないしは悪化)することが今後の米国の生産動向を占ううえでの手掛かりに。市場予想は▲62.0。

【昨日のトピックス】

昨日発表された米消費者信頼感指数は、総合指数が86.6(市場予想87.0、前月85.7)と市場予想は下回ったものの前月から改善した。

現況指数が71.1(前月73.0)と悪化したことが、期待紙数の改善(94.3→96.9)を相殺した形。ここから言えることは、市場参加者や企業、個人が期待しているよりも現実は厳しく、現況指数が下方修正されていることであろう。

ビジネス環境に関しては、6ヵ月後の改善期待は43.3(前月39.8)と改善している。これは昨年後半の同指数の平均が18ポイント台であることを考えると、米経済活動の改善に自信を持たせるものである。

しかし、個人消費に関しては、6ヵ月以内自動車購入が11.2(8.1)と改善しているが、コロナショック以前の水準よりは低い。また住宅に関しては5.0(5.3)と前月から悪化している。

まとめれば、年末に向けて事業環境や個人消費が回復する見込みではあるものの、さほど強い回復にはならないとみている人が大半、ということである。

もう1つ注目していたダラス連銀製造業活動指数のテキサス製造業活動報告。同指数は▲49.2(前月▲74.0)と回復している。特に生産が▲28.0(▲55.6)と新規受注が▲30.6(▲68.7)、出荷が▲25.7(▲56.8)と大幅に改善している点は注目だ。

欧米は新規感染者数がコントロール可能な水準まで低下したわけではないが、ロックダウン解除を決めた。これは相対的に非民間金融法人企業が、欧米は資金不足であるのに対し、日本は大幅な資金余剰となっているため、ロックダウン継続による売上減に耐えられる企業が日本やアジア諸国に比して多くなく、結果的にコロナを封じ込めることを諦めた、ともいえる。

貯蓄率の低さは設備投資やM&Aなどの成長投資に向けられているため、日本のような状況は危機時にしか評価され難いということはあるかもしれない。

しかし、欧米が完全封じ込めを諦めた段階で、今は経済活動が回復しているものの、仮初の回復となってしまう可能性が高いということである。

【景気循環銘柄共通の価格変動要因整理】

<<マクロ要因>>

・各国のPMI・ISMなどのマインド系指標の改善。

ロックダウン解除の動きが世界的に拡大しており、最悪水準まで低下したPMI・ISM指数には改善圧力が掛かり、景気循環銘柄価格の上昇要因に。ただし、本格解除には至らず、改善余地も限定される公算。

・世界景気の減速観測。IMFは2020年の経済見通しを大幅に引き下げ(+3.3%→▲3.0%)ている。ただし2021年には+5.8%への急回復を見込んでいる。

ただこの通りになるためには、コロナウイルス感染拡大終息が必要条件であり、第二次感染拡大となり得る冬場までの終息がなければ、それは難しかろう。

・FRBは合計で▲150bpの緊急利下げと、ドル需要ひっ迫の状況を緩和するための無制限の量的緩和も実施、債券買い入れもジャンク債も対象とするなど、打てる手は出し惜しみなく出しているため、徐々に不安は解消しよう。

ただし、持てる金融政策のカードをほとんど切ってしまったため、今後、不測の事態が発生した場合のリスクは小さくない。

・景気減速を受けた、各国政府・中銀の財政政策・金融緩和は価格の上昇要因(Q319の中国GDPは前年比+6.2%、前期+6.3%と1992年の統計発表以来の低水準となり、減速懸念が再び意識されている)。

※一方、鉱工業生産や固定資産投資などは政府の対策の影響が徐々に顕在化している形。

・2018年からインドが人口ボーナス期入りしており、構造的な需要の増加が見込めることは中長期的な価格の上昇要因。

<<特殊要因>>

・中国の新型コロナウイルスの世界的な感染拡大を受けた、世界的な経済活動の鈍化長期化。

感染拡大ペース鈍化を受けて経済活動を再開させる動きが強まっているが、このウイルスは未知の部分が多く、再度感染拡大→経済活動自粛、という流れになるリスクも無視できず。

・米中の対立激化。米国は今回のウイルス問題で、中国の医療面、人工知能を含むIT面に脅威を感じた可能性は高く、サプライチェーンの在り方も見直される可能性があり、「ポスト・コロナ」後の商流を大きく変質させる可能性も(景気循環系商品価格の下落要因)。

・生産拠点を自国に回帰させる動きや、リモートの定着による成長鈍化が、新興国の財政状況を悪化させ、自国を含む域内景気への悪影響を及ぼす懸念(価格の乱高下要因)。

・欧州の政治混乱(伊仏の対立、ポピュリズムの台頭、トルコと欧州の関係悪化、トルコの景気減速など)によるリスク回避の動きの強まり(下落要因)。

・英国のEU離脱が無秩序なものになるリスク。コロナウイルスの影響もあって、EUと英国が離脱を巡って建設的な議論はほとんどできていない状況で、移行期間中の条件合意が困難となっている。

今後は2020年12月末の移行期間までに条件で折り合えず、延期するのか、ハードブレグジットになるかが材料視されることになろう(下落要因)。

・中国地方政府・中堅中小企業の財政状況悪化に伴う景気減速(下落要因)。

<<投機・投資要因>>

・ロックダウンの動きを受けた株高による、リスク資産の再物色の流れ。

コロナウイルス対策のために大量に投入された資金が、コロナウイルス終息後にリスク資産買いに走り、暴騰するリスク。

・年後半に再度ロックダウンが始まり、投機の買いで上昇したリスク資産価格(特に株)が下落するリスク。

◆昨日の商品市場(個別)の総括


---≪エネルギー≫---

【原油市場動向総括】

原油価格は上昇した。ロシアが6月に原油需給がバランスし、予定通り減産幅を削減するとの見通しを示したことで、需給バランス改善(過剰な供給過剰の緩和)観測が強まったことが背景。

ただし、米中の対立もあって需要見通しへの過剰な期待がないことも事実であり、テクニカルに100日移動平均線を上値に頭重い推移となった

【原油価格見通し】

原油価格は生産調整の進捗で下値を切り上げてきたが、中国の景気回復やロックダウン解除に伴う経済効果を過剰に先取してきた部分も否めず、米中対立が激化する可能性が高いことが経済的に両国に不利益をもたらすことが意識されているため、徐々に頭重い推移になると考える。

価格下落に伴う生産調整が進捗していること、コロナの影響緩和で経済活動が再開する方向にあることから、下値水準は切り上がっていると考えられるため、下落余地も限定されるだろう。

6月9日・10日開催のOPEC・OPEC+会合に注目しているが、予定通りの減産が行われるかどうか。今のところ減産を解除したい意向が各国とも強いことに間違いはなく恐らく増産されるとみるが、各国が約束を守り予定通りの減産幅削減にとどまるかが焦点である(どの国も歳入を増やすために多少でも増産したい)。

一時、マイナス価格でやり取りされたWTIであるが、当局の投機取引に対する規制強化やクッシング在庫の減少もあり、再びマイナスとなる可能性は低下した。

しかし、今回のマイナス価格は米国の原油先物の受け渡しポイントが内陸のクッシングにあることが影響しており、今回のような事態発生を回避するには輸出が容易な湾岸地区(例えばヒューストンなど)に受け渡しポイントを移すべきである。

欧州や中東は自国消費があまりなく、輸出を前提としてインフラが整備されているためこのようないことが起きにくい。

なお、原油価格が低水準で推移した場合、米シェールオイルの生産者のコストは平均で45ドル近辺(30ドル~55ドル程度)、カナダのオイルサンドからの生産者のコストも40ドル程度であることから、時間経過とともに減産が進捗すると予想される。

場合によると経営破綻、という形で減産が進む可能性もあるが、価格下落リスクヘッジをしている生産者もファイナンスが困難になっているため、資金繰りが意識される3、6、9、12月末あたりではないだろうか。

特に6月は主要シェール企業の債務償還が多いため、6月危機のリスクはまだ過ぎ去っていない。

生産調整の議論の次に考えるべきは、「コロナ終息後の供給」である。今のところ夏頃から経済活動が再開されるとみられるが、この時の減産規模縮小のタイミングを誤ると、価格が大きく上昇するリスクが出てくる。

すでに全ての産油国が追加減産を余儀なくされる見込みであるが、実際に減産を行うと稼働再開には時間が掛るため、供給が間に合わない可能性がある。中東の産油国でも1ヵ月程度、米シェール企業の場合は増産を決断してから実施されるまで、6~7ヵ月はかかる。

さらに価格低迷が産油国の体制を揺るがすため、供給が途絶して急騰、というリスクもあり得る。特に中東北アフリカ諸国ではコロナウイルスの感染が拡大した場合、治安の不安定化で政権の維持が困難になり、供給自体に支障をきたす可能性もある。

足元の価格上昇を受けてOPEC諸国が増産に転じれば、逆にその体制崩壊のリスク→価格上昇のリスクを高めることになる。

逆に、コロナウイルスの感染拡大防止に失敗し、「今年の冬に第二ラウンドに突入」となると需要の回復は難しく、かつ、信用リスクにも波及し企業倒産がべースの需要を減じることから、現在の世界各地の減産では不十分となる可能性も充分にあり得る。

さらに影響がよく分からないのが、各国政府・中央銀行が財政・金融政策の大盤振る舞いをしている点。これによって株が急騰する可能性はあり、その場合エネルギーセクターにもリバランスの買いが入るため、投機的な観点から価格を押し上げる。現在、これが顕在化しつつある状況。

株価の急騰は再び実態経済と、株価の顕著な乖離をもたらすため、その後のリスク資産価格を乱高下させる要因となるため要注意だ。

逆に、先進国中央銀行は持てる政策をすべて使ってしまったため、さらなる事態の悪化があった場合、打てる手段はほとんどないことはリスクといえる。

原油価格の変動性は今後、需要が低迷するにも関わらず、さらに高まると考えておくべきだろう。

【石炭市場動向総括】

石炭先物市場は小幅に上昇した。ほぼ季節性通り、過去5年の最低水準でじりじりと水準を切り上げる展開となっている。

貿易統計では中国の輸入増加が確認されているが、中国の豪州に対する圧力強化で豪州炭価格には下押し圧力が掛かりやすい環境になることが予想される。

【石炭価格見通し】

石炭価格は需給バランスの緩和観測で軟調な推移になると考える。ただし過去5年レンジの最低水準まで価格が下落しており、その観点での割安感からの買いが入り、下落余地は限定されると考える。水準は低いが、小じっかり、ということだ。

4月の中国石炭輸入は3,095万トン(前月2,783万トン)と過去5年の同じ時期の最高水準を大きく上回っている。経済活動の再開と、季節的な在庫の積み増しの動きによるものと考えられるが、欧米の経済活動の回復の遅れや、中国国内の回復も順調とは言えないことから、早晩減速すると見る。

また、コロナ問題を受けて対中国批判を強める豪州に対し、牛肉や鉄鉱石、石炭輸入を削減ないしは停止すると中国政府が表明しており、実際にその通りとなれば豪州炭価格を押し上げよう(他国産石炭は上昇)。

【価格変動要因の整理】

<<マクロ要因>>

・OPECプラスの減産と、非OPECプラス諸国の自主減産で需給がタイト化する場合(価格上昇要因)。

・産油国の財政悪化による上流投資部門投資の減速は、インドなどの新興国需要顕在化時の価格上昇要因。

・最大消費国である米国の石油製品出荷は前年比▲3割の大幅減少の状態であり、短期的な需要の方向性はマイナス(原油価格の下落要因)。

世界2位の消費国である中国の需要の指標である工業生産は市場予想を上回るマイナス幅の縮小となったが、小売売上高は前月から改善

・1-4月期中国工業生産は前年比▲4.9%(1-3月期▲8.4%)とマイナス幅が縮小、月次ベースでは+3.9%(前月▲1.1%)と前年比プラスにまで回復(フロー需要の回復=価格の上昇要因)。

・EV普及による需要の伸び鈍化を、軽量化目的の樹脂向け需要増加が相殺(世界の需要が減少を始めるのは2050年頃からか)。

・世界的な石炭上流部門への投資規制強化による、供給減速懸念。価格上昇要因(石炭)。

・競合燃料である天然ガス・LNG価格が供給過剰で低迷、石炭価格の下落要因。

<<特殊要因>>

・原油価格下落とコロナウイルス感染拡大による治安悪化、コロナ問題を背景に米・欧軍が中東から撤退、それを受けたISの伸長が域内情勢を不安定化させ、原油生産・供給に悪影響を与える場合(価格の上昇要因)。

また、域内で武力衝突が発生し、難民が欧州に流入した場合欧州域内の政情が混乱するため景気を下押しし、原油価格の下落要因に。

<<投機・投資要因>>・WTI・Brentともショートの減少が顕著。生産調整の進捗がより材料として意識されている。

・直近の投機筋のポジションは以下の通り。

WTIはロングが692,017枚(前週比 ▲17,540枚)ショートが148,414枚(▲20,124枚)ネットロングは543,603枚(+2,584枚)

Brentはロングが226,290枚(前週比+576枚)ショートが67,851枚(▲1,787枚)ネットロングは158,439枚(+2,363枚)

---≪LME非鉄金属≫---

【非鉄金属市場動向総括】

LME市場は欧米ロックダウン解除への期待と、中国の経済対策期待で上昇した。しかし米中の対立が激化するのはほぼ確実であり、今後の中国への制裁強化観測が上値を重くした形。

【非鉄金属価格見通し】

非鉄金属価格は各国音経済活動再開の動き、供給減少に伴い最大消費国である中国の需給バランスがタイト化していることによる(現物プレミアムも上昇)輸入需要の増加が価格を押し上げると考える。

一方、米中の対立が激化していることや、南米生産者も生産を再開することが上値を抑えると考えられ、結局はレンジワークだろう。

米中が通商面で昨年・一昨年に行われたような「大規模な制裁」を実施することは両国にとってデメリットが大きいため行われない、と考えるのが常識的な見方だ。

しかし、中国政府による香港・台湾・ウイグル自治区問題の支配は露骨に進んでおり、コロナ問題での不満もあり、欧米諸国がこれを看過するとは考え難い。すでに米国は制裁強化を決定している。

また、コロナウイルス問題も習近平国家主席のメンツ維持のため、情報隠ぺい工作に走ったことも事実であり、情報開示の遅れが死者の増加につながった、との見方をする欧米諸国は少なくなく、親中国だったドイツも対中政策を変更した可能性は高い。

今後、世界的に中国とのビジネスが停滞する可能性は高まり、世界の工場のポジションにまだある中国の鉱物資源需要を減じることになるだろう。

影響がなんとも言えないのが、各国政府・中央銀行が財政・金融政策の大盤振る舞いをしている点。これは景気が回復すれば先々の価格上昇リスクを強めることになる。

逆に、先進国中央銀行は持てる政策をすべて使ってしまったため、さらなる事態の悪化があった場合、打てる手段はほとんどないことは下落リスクと考えるべきだろう。コロナウイルスの影響が長期化する可能性は徐々に高まっている。

長期的には環境面に配慮した「省エネ金属」需要が高まることから非鉄金属価格は上昇すると予想される。

具体例を挙げると、社会インフラとしてのバッテリー向け、電気自動車に使用される金属が対象となる(銅、アルミ、ニッケル、リチウム、コバルトなど)。

再び非鉄金属が持続的な上昇に転じるのは、インドの構造的な需要が顕在化するタイミングになるだろうが、中国が1994年に人口ボーナス期入りし、非鉄金属価格が上昇を始めたのが2000年頃からであることを考えると、2023~2024年頃になるのではないか。

【価格変動要因の整理】

<<マクロ要因>>

・4月中国製造業PMIは50.8(前月52.0)と減速した。新規受注は国内を中心に回復しているとみられるが、欧米のロックダウンの影響で輸出需要が低迷(輸出新規受注46.4→33.5と急減速)した。

新規受注在庫レシオは前月急回復したが、今月は低下。やはり3月の同指数はエラー値だったとして処理するのが適切だろう。

・金属にもよるが、主要生産者がコロナウイルスの影響による生産調整が徐々に解除に向かう見通しであり、価格の下落要因に(影響を受けてきた主要鉱山は以下の通り)

(アルミ)Norsk Hydro Husnesアルミプラントの増産をQ320まで先送りアルゼンチン Aluar Puetro Madrynでの生産能力の▲50%を停止

(銅)南米の鉱山生産者(供給の約2割)は需要減と感染拡大防止のため、稼働率の引き下げを余儀なくされている状況Cerro Verde、Los Bronces、Constancia、Las Bambas、Collahuasi、Antaminaなど

(錫)PT Timah、需要の減少で当面錫生産を▲20%~▲30%減らす計画

(亜鉛)NewmontのPenasquito、Pan American SilverのLa Colorada、Grupo MexicoのBuenavistaとSan Martinなどが減産を決定

・5月中国銅製品生産者稼働状況

 銅線生産者 103.1%(前月100.4%、過去4年平均 89.8%) 銅棒生産者 80.3%(83.3%、78.9%) 銅板生産者 64.8%(68.3%、72.2%) 銅管生産者 82.7%(84.4%、75.4%)

・3月中国銅精錬業者稼働状況 大規模事業者 87.2%(78.3%、90.3%) 中規模事業者 73.2%(72.1%) 小規模事業者 73.1%(42.9%)

・1-4月期中国工業生産は前年比▲4.9%(1-3月期▲8.4%)とマイナス幅が縮小、月次ベースでは+3.9%(前月▲1.1%)と前年比プラスにまで回復(フロー需要の回復=価格の上昇要因)。

・1-4月期中国固定資産投資は前年比▲10.3%の13兆6,824億元(1-3月期▲16.1%の8兆4,145億元)とマイナス幅が縮小。

 公的部門は▲6.9%(▲12.8%)、民間部門とも▲13.3%(▲18.8%)マイナス幅を縮小。ただし前年比マイナスの状態は変わらず(ストック需要はマイナス=価格の下落要因)。

・1-4月期中国不動産開発投資は前年比▲3.3%の3兆3,103億元(1-3月期▲7.7%の2兆1,963億元)とマイナス幅を縮小。

ただし前年比マイナスの状態は変わらず(ストック需要の減少=価格の下落要因)。

・3月の中国の銅輸入は前年比+13.3%の44万トン(1-2月期85万トン)、銅鉱石・精鉱輸入は前年比+0.5%の178万トン(377万トン)となった。

銅地金の輸入は過去5年平均程度であるが、米中通商戦争が激化を始めた昨年に比べると高い水準。銅鉱石の輸入は、過去5年の最高水準だった昨年の水準を上回った。

いずれも中国の工業活動が平常状態に戻りつつあることを確認する内容であり、価格の上昇要因。

・環境規制の強化で特殊需要が増加する(軽量化目的のアルミ、EV向けのニッケル・銅(通常25キロ/台の銅が使われるが、EVは80キロ/台)、蓄電池としての鉛、コバルト、リチウムなど)

・中国の環境規制強化に伴うスクラップの調達難による、新塊需要の増加。

・上流部門投資不足並びに鉱石の品位低下による、鉱山供給の制限。

・亜鉛の精錬キャパシティ不足に伴う需給のタイト化。ただしTCが低下を始めており、徐々に需給は緩和方向へ。

・環境規制強化・米制裁の影響による石炭価格上昇が、中国の非鉄金属製造コストを高止まりさせる場合。

・インドをはじめとする新興国の構造的な需要増加(中長期的な要因)。

<<特殊要因>>

・環境問題や人権問題(コンフリクト・メタルの問題)を背景とする鉱山供給の減少。

・資源ナショナリズムの高まり。インドネシアのニッケル未処理鉱石禁輸措置再開(銅とボーキサイトは2022年から実施の予定)。

・インドとパキスタンの対立が武力衝突に発展、インドの人種差別問題が反政府行動に繋がり、インドが人口ボーナス期の成長メリットを生かせない場合(下落要因)

<<投機・投資要因>>

・5月15日付のLMEロング・ショートポジションは、商品ごとに動きがまちまちとなった。

銅・ニッケルはロングが減少、ショートが増加、米中対立への懸念や南米生産者の稼働再開報道が材料となった模様。

亜鉛はロング・ショートとも減少しているが、ショートの減少が顕著。TCの低下にみられるように鉱石供給が低迷しており、製錬品供給への懸念が強まっているとみられる。

鉛はロングが増加、ショートが減少。中国工場稼働再開と、スクラップ供給懸念が材料。アルミは減産が進んでいないことからショートの積み上がりが大きい。錫のポジションは小動き。

投機筋のLME+CME銅ネット買い越し金額は▲39.2億ドル(前週▲36.6億ドル)と売り越し幅を小幅に拡大。売り越し額の増加率は+7.2%。

買い越し枚数はトン数換算ベースで▲1,538千トン(前週▲1,459千トン)と売り越し数量を拡大。ネット売り越しの増加率は+5.4%。

---≪鉄鋼原料≫---

【鉄鋼原料市場動向総括】

中国向け海上輸送鉄鉱石スワップは小幅に上昇、原料炭スワップ先物は小幅に上昇、中国鉄鋼製品先物価格は下落した。

中国の港湾在庫減少を受けて鉄鉱石は在庫積み圧力が強い。鉄鋼製品は中国鉄鋼メーカーの増産による需給緩和観測が価格を下押しした。

中国鉄鋼協会によれば、5月11日~20日の主要鉄鋼企業の鉄鋼製品生産は5月上旬比+1.4%、前年比+1.9%の2,108万トンとなった。

【鉄鋼原料価格見通し】

鉄鉱石価格は堅調な推移になると考える。中国の鉄鉱石在庫が減少していること、鉄鋼生産者に増産バイアスがかかっていることが価格を押し上げるため。

ただし、在庫の水準は記録的に高く、ここで鉄鋼製品の増産があれば需給が緩和して鉄鋼製品価格が下落するため早晩鉄鉱石需要は減速すると予想されるため、上昇余地も限定されるだろう。

また、現在は「夏場のコロナウイルス流行の間」であり、現在の鎮静化は一時的なものとなる可能性が高く、ワクチンの開発が終了するまでは「ロックダウン解除→ロックダウン→ロックダウン解除...」といった状態が続くと予想され、基本はレンジワークである。

しかし、ここにきて米国が中国に対して制裁を強化する方針を示したことで(コロナ問題、香港人権問題、新疆ウイグル自治区人権問題、台湾問題、など)、同国の景況回復に遅れが出ることは必須であり、鉄鋼製品・鉄鉱石価格の下押し要因になると考える。

なお、すでに米国は中国に対する制裁を強化しており、人権問題をめぐり、欧州諸国(除くイタリア)が追随するかが注目だ。

その一方、コロナ問題に対する中国の対応に対して豪政府が不満を表明したことで、中国政府がこれに反発、豪州産の鉄鉱石を購入しない可能性を示唆した。中国全体の需要が減少するわけではなく、ブラジルやインドの鉱石需要が増加するだろうが、豪州産の鉱石価格には下押し圧力が掛かることになるだろう(反対にブラジル鉱石価格は上昇)。

政策要因に振らされる形で、先々の鉄鉱石価格は乱高下しやすい。

中国河北省の高炉稼働率は5月22日時点で78.8%(前週78.6%)と小幅に上昇した。需要の回復が緩慢な中で、恐らく稼働率は当面、この水準程度で推移することになるだろう。

中国の鉄鋼製品は例年通り季節的な在庫の取り崩しが継続しているが、例年よりも在庫の減少ペースが速い。生産者の供給が十分ではない中、最終需要者の稼働が回復している可能性があることを示唆している。

原料炭は中国の生産活動再開の影響もあり、過去5年の最高水準での推移を続けると考える。

中国の港湾在庫の水準は鉄鋼の最大生産省である河北省の主要港である、京唐港の港湾在庫は過去5年レンジを上抜けしていたが、ここにきて急速に取り崩しが進んでおり、現在は過去5年平均を下回った。需給環境は徐々にタイト化していると考えられる。

先行指標であるバルチック海運指数は、4月以降低迷していたが、直近は持ち直しの動きを見せており、今後、輸入が増加して海上輸送市場の需給をタイト化させ、価格が上昇する可能性が高まっている。

【価格変動要因の整理】

<<マクロ要因>>

・4月の中国鉄鋼業PMIは45.9(前月42.2)と回復した。主に生産の回復(39.3→53.4)によるところが大きい。

しかし、需要はほとんどが国内向けとみられ(新規受注 38.5→39.9)、輸出向け新規受注は27.8(27.3)と低迷が続いている、

海外のロックダウンが続く中で、国内主導の回復にならざるを得ないが、中国政府も財政的に厳しい部分があり需要が加速するという展開は考え難い。

・1-4月期中国工業生産は前年比▲4.9%(1-3月期▲8.4%)とマイナス幅が縮小、月次ベースでは+3.9%(前月▲1.1%)と前年比プラスにまで回復(フロー需要の回復=価格の上昇要因)。

・1-4月期中国固定資産投資は前年比▲10.3%の13兆6,824億元(1-3月期▲16.1%の8兆4,145億元)とマイナス幅が縮小。

 公的部門は▲6.9%(▲12.8%)、民間部門とも▲13.3%(▲18.8%)マイナス幅を縮小。ただし前年比マイナスの状態は変わらず(ストック需要はマイナス=価格の下落要因)。

・1-4月期中国不動産開発投資は前年比▲3.3%の3兆3,103億元(1-3月期▲7.7%の2兆1,963億元)とマイナス幅を縮小。

ただし前年比マイナスの状態は変わらず(ストック需要の減少=価格の下落要因)。

・4月の中国の貿易統計では、鉄鋼製品の輸出は前年比▲0.2%の631万9,000トンと前年比マイナスとなり、季節性に反して前月から減少した。

欧米各国がロックダウンしている影響によるものと考えられ、今後ロックダウンが徐々に解除される中で、緩やかに回復すると期待されるが実際にそうなるかどうかは不透明。

中国の鉄鋼製品在庫水準は前週比▲124.2万トンの1,795.8万トン(過去5年平均 1,137.2万トン)と、工場の再稼働で例年通り在庫の取り崩しが続いている。

ただし、例年よりも取り崩しのペースは早く、鉄鋼生産者の稼働が最終需要家の回復よりも遅れている可能性があることを示唆している。

・4月の中国の鉄鉱石の輸入量は前年比+18.5%の9,571万トンとなり、過去5年レンジを大幅に上抜けした。鉄鋼製品在庫の取り崩しが進んでいること、鉄鉱石の港湾在庫の水準の低さもあって、鉄鉱石輸入の動きが活性化した様子。

鉄鉱石の港湾在庫水準は、絶対水準ベース、在庫日数ベースとも過去5年平均を下回っており一定の在庫積み増し需要があると考えられる。

中国の鉄鉱石港湾在庫は前週比▲100万トンの1億1,195万トン(過去5年平均1億2,285万トン)、在庫日数は▲0.2日の26.2日(過去5年平均 30.3日)と例年と比較して在庫水準が低い状態は続いている。

鉄鉱石の需給ファンダメンタルズはタイト化しているため、一定の鉄鉱石の輸入需要が価格を高止まりさせると考える。

・4月の石炭輸入(燃料炭・原料炭の合算)は前年比+22.3%の3,095万トンと増加し、過去5年レンジを超えた。中国の経済活動の再開を反映したもの。

原料炭の輸入は1-2月に前年比+47.5%の1,516万トンとなったが、3月は前年比▲8.1%の564万トンに落ち込んでいる。

中国の原料炭輸入の主要港である京唐港の石炭港湾在庫は過去5年レンジを上抜け増加していたが、急速に減少している。しかし依然として過去5年レンジを上回る水準を維持しており、輸入需要はさほど旺盛ではないとみられる。

石炭輸入動きを占う上で参考になるバルチック海運指数も再び急減速しており、過去5年レンジをした抜けした。中国の石炭調達意欲がさほど旺盛ではない可能性が高い。

・長期的には人口ボーナス期入りしているインドが、インフラ整備のための投資を拡大する方針(5年で約160兆円)であり、鉄鋼製品・鉄鉱石価格を押し上げ。

<<特殊要因>>

・世界的に広がる環境規制強化の流れで、鉄鉱石や原料炭などの生産に一定の影響が起きる場合。

・米国が中国に対する人権問題(香港・新疆ウイグル自治区問題)や、コロナウイルスへの対策に対する中国への不満が高まった場合、再び通商問題が議題に上がる場合(価格の下落要因)。

・コロナウイルスの感染拡大長期化による経済成長の鈍化。

<<投機・投資要因>>

・特になし。

---≪貴金属≫---

【貴金属市場動向総括】

金価格は下落した。株価上昇を受けて金利が上昇、実質金利の上昇が価格を下押しした。銀・プラチナ価格も金価格に連れ安となった。

パラジウムは株価の上昇はあったが、貴金属セクターのベンチマークである金価格の下落の影響をより強く受けた。

【貴金属価格見通し】

金銀は高値圏でのもみあいになると考える。ロックダウン解除が各国で続く見通しであることが株式市場での楽観を生んでいることが価格を下押しする一方、原油価格が上昇していることによる実質金利低下圧力、中国が香港支配を露骨に強めていることやコロナ問題をめぐり、米国との対立が激化するとみられることが安全資産需要を高めるため。

米中対立は激化が不可避の様相だが、両国の対立は世界各地での「親中・反中」の踏み絵を要求し、結果的に地政学的なリスクを高めること、コロナウイルス対策で各国とも財政支出を拡大しており、アルゼンチンで発生したようなデフォルト発生が意識されることが安全資産需要を高めることも、価格を押し上げると考える。

現在の金の実質金利で説明可能な価格からの乖離(リスクプレミアム)は243ドル(前日比▲1ドル)。なお、現在の実質金利で説明可能な価格水準は1,450~1,480ドル程度。

※毎日回帰分析をアップデートし、リスクプレミアム自体の水準を見直しているため、前日比の整合性が取れていない点はご注意ください。

銀価格は金価格との比較感で売買されるが、金銀在庫レシオを元にした分析では120倍程度が妥当、となっているが実際は100倍程度となっている。

なお、金銀在庫レシオ(銀在庫÷金在庫)はCOMEX金在庫の急増によって低下、金銀レシオに下押し圧力をかけており、徐々に銀価格は対金で水準を切り上げる展開になると予想される。

また、金価格の上昇余地がそろそろ限界では、との見方が強まっていることから割安な大体安全資産として銀が物色される可能性は高い。

プラチナ価格は銀価格との連動性が高まっている。これは供給過剰で投機的な色彩が強まっているが、各国の準備金や市場取引の担保価値が認められている金のような安全資産としては認知されていないことによる。

しかし、値動きとしては銀価格と連動しやすく、銀価格が割安感から物色されやすい地合いとなっているため、プラチナ価格にも上昇圧力が掛かることになろう。

パラジウムは価格は景気の先行きが明確に悪いこと、少なくともQ220は景況感の低迷が続く見込みであることから、工業向け需要低迷がから実需面は価格を下押ししやすい。

その一方で、貴金属のベンチマークである金価格は堅調な推移が予想されるため、結果、パラジウムは神経質にレンジワークでの推移になると考える。

Norilsk Nickelは2020年のパラジウムの需給見通しを▲20万オンスの供給不足から、+10万オンスの供給過剰に下方修正しており、上限は切り下がったと考えられる。

4月の米自動車販売は年率858万台(市場予想 700万台、前月 1,137万台)と、大幅な悪化となり、例年の半分程度まで落ち込んだ。ただし、市場予想は上回っており市場ほど悲観的な状況ではないようだ。

中国の4月の自動車販売は前年比+4.4%の207万台(前月▲43.3%の143万台)と急回復した。しかし、販売の多くが商用車であり、中国政府による景気テコ入れの成果だったともいえる。

今後、中国の販売は欧米に先行して回復すると見るが、完全に経済活動が元に戻っている訳ではないので、回復ペースは緩慢なものに留まるだろう。

そして、コロナウイルスの影響が拡大する中で、日米欧も自動車販売が減速する可能性は高く、PGM価格の下押し要因になると予想される。

【価格変動要因の整理】

<<マクロ要因>>

・FRBは▲1.5%の緊急利下げ、無制限の量的緩和を決定、その他の中央銀行もこれに追随しており貴金属価格の上昇要因に。

ただしこれで追加の緩和手段はほぼなくなった状態であり、金価格の上昇余地は限定される。

・世界的な自動車販売の減速(米欧中)による、自動車向け排ガス触媒需要の減少(PGM)。

・コロナウイルスの感染拡大による、最大生産国の1つである南アフリカの鉱山稼働全面停止による供給懸念。

・排ガス規制強化に伴うパラジウムへのシフト観測(プラチナがパラジウムを代替するには数年単位で時間を要する)。

・パラジウム需要増加に伴うPGMの増産により、結果的にプラチナが供給過剰となり価格の下落要因に(プラチナ)。

パラジウムはロシアでは銅・ニッケルの、南アフリカ・米国ではプラチナの副産物として生産されるため(副産物としての供給が8割)、急な増産が困難であり供給面の制限が価格を下支えする状況に変わりはない。

<<特殊要因>>

・コロナ対策で過剰な財政出動が行われており、終息後に各国の財政・信用不安が意識される場合(価格の上昇要因)。

・米中の対立激化。米国は今回のウイルス問題で、中国の医療面、人工知能を含むIT面に脅威を感じた可能性は高く、対立が激化する場合(安全資産価格の上昇要因)。

・生産拠点を自国に回帰させる動きやリモートの定着による成長鈍化が、新興国の財政状況を悪化させる場合(価格の上昇要因)。

・原油価格低迷による財政状況の悪化、コロナウイルスの影響拡大に伴う国民の不満爆発、サバクトビバッタの大量発生による食糧危機などで、中東・北アフリカ有事が発生、それに伴う安全資産需要の高まり(上昇要因)。

・トルコとシリアのイドリブ県を巡る対立はロシアとトルコが停戦で合意したものの、再び衝突する可能性は排除できない。この場合、安全資産需要を高め、価格の上昇要因に。

・英国のブレグジットは、移行期間中の合意は容易ではなく、無秩序離脱の可能性はまだなくなっていない。

・中国地方政府・中堅中小企業の財政状況悪化に伴う景気減速による安全資産需要の増加。

<<投機・投資要因>>

・直近の投機筋のポジションは、金はロングが295,394枚(前週比 +17,623枚)、ショートが43,606枚(+8,663枚)、ネットロングは251,788枚(+8,960枚)、銀が54,391枚(+9,634枚)、ショートが23,463枚(+4,479枚)、ネットロングは30,928枚(+5,155枚)

・直近の投機筋のポジションは以下の通り。

プラチナはロングが30,671枚(前週比 +2,418枚)ショートが8,658枚(▲1,440枚)、ネットロングは22,013枚(+3,858枚)

パラジウムが2,461枚(+305枚)、ショートが1,816枚(+50枚)ネットロングは645枚(+255枚)

---≪農産品≫---

【穀物市場動向総括】

シカゴ穀物市場はまちまちとなった。トウモロコシは原油価格の上昇が材料。大豆は中国向けの輸出が増加したとの報道が材料となった。小麦はもみ合い。

2020年5月21日時点の米穀物出検証高は以下の通り先週から減少しており、価格面では下押し要因。ただし、中国向けの大豆輸出は26万4,000トンと報じられている(2019-2020年渡しが6万6,000トン、2020-2021年渡しが19万8,000トン)。

トウモロコシ 1,091.97千トン(▲90.50千トン)大豆 333.13千トン(▲22.95千トン)小麦 457.78千トン(▲34.00千トン)

米国のトウモロコシの作付けは例年をやや上回る88%(前週80%)。大豆は過去5年の最高水準だったが、急速に例年程度まで減速している。作付けの進捗は65%(53%)。

春小麦の作付けは非常に遅れており、過去5年の最低水準を下回る81%(60%)、冬小麦の作柄も54%(52%)と急速に悪化している。

【穀物価格見通し】

トウモロコシ価格は米国のロックダウン解除の動きが進む見通しであり、ガソリン向け需要の段階的な回復が期待されること、採算が悪化したエタノールの生産調整も進むとみられることから、徐々に水準を切り上げると考える。

ロックダウン解除に伴う精肉工場の再稼働期待から、飼料向け需要も回復するとみられることも価格を押し上げるとみる。

ただし、ロックダウンが解除されても直ちに元の状態に戻るとは考えにくく、エタノール向け需要はやはり限定されることから上昇余地も限定される見込み。

大豆は国内の飼料向け需要の増加が予想されるが、米中対立の再燃による米国産大豆の中国向けの輸出減速が予想されることから、上昇余地は限定されると考える。

小麦は北米の冬小麦の作柄が悪化していること、トウモロコシに連れ高を見込むが、やはり例年通り最終的には供給は帳尻が合うと予想されるため上昇余地も限定。

懸念すべきは東アフリカ・中東地域でサバクトビバッタが激増、東南アジアでもトウモロコシやイネの大害虫であるツマジロクサヨトウが繁殖し、深刻な食糧危機をもたらしている

また、コロナウイルスの影響で播種に必要な人員を確保できない農家が増えており、この作付けの遅れも価格を押し上げるだろう。年後半にかけて、穀物価格の見通しは強気だ。

【価格変動要因の整理】

<<マクロ要因>>

・トウモロ作付け意向面積トウモロコシ 9,699万エーカー(市場予想 9,412万エーカー)大豆 8,351万エーカー(8,502万エーカー)小麦 4,466万エーカー(4,495万エーカー)

・5月の米需給報告の生産見通し(今月/市場予想/前月)トウモロコシ 159億9,500万Bu(157億4,860万Bu、136億9,200万Bu)大豆 41億2,500万Bu(41億3,992万Bu、35億5,800万Bu)小麦 18億6,600万Bu(18億4,765万Bu、19億2,000万Bu)

・5月の米需給報告の在庫見通し(今月/市場予想/前月)トウモロコシ 20億9,800万Bu(22億7,792万Bu、24億4,500万Bu)大豆 40億5,000万Bu(43億2,240万Bu、48億万Bu)小麦 9億900万Bu(8億2,408万Bu、9億7,000万Bu)

・3月末四半期在庫(実績/市場予想/前月)トウモロコシ 79億5,300万Bu(81億8,354万Bu、114億200万Bu)大豆 22億5,300万Bu(22億2,830万Bu、32億5,800万Bu)小麦 14億1,200万Bu(14億2,979万Bu、18億4,100万Bu)

<<特殊要因>>

・新型肺炎の影響拡大による、輸出活動の停滞(シカゴ定期を含む生産地価格の下落要因)。

・米・イランの対立激化により、穀物輸送に影響が出る場合(下落要因)。ただし非景気循環銘柄需要が高まり最終的には上昇要因に。

・夏場以降、北米の穀物生産に影響を与えるラニーニャ現象の発生の可能性があり、価格の上昇リスク要因に。

・中国の豚コレラ被害の拡大により、飼料需要が減少した場合は価格の下落要因(逆に終息すれば上昇要因)。

<<投機・投資要因>>

・直近の投機筋のポジションは以下の通り。

トウモロコシはロングが218,328枚(前週比 +7,495枚)、ショートが417,374枚(+28,970枚)ネットロングは▲199,046枚(▲21,475枚)

大豆はロングが186,743枚(▲1,519枚)、ショートが99,142枚(+14,107枚)ネットロングは87,601枚(▲15,626枚)

小麦はロングが104,238枚(+2,314枚)、ショートが114,160枚(+17,022枚)ネットロングは▲9,922枚(▲14,708枚)

◆主要ニュース


・4月日本企業向けサービス価格指数 前年比+1.0%(前月+1.6%)

・3月日本全産業活動指数 前月比▲3.8%(前月▲0.7%)

・4月日本工作機械受注速報 前年比▲48.3%の561億4,300万円(前月▲40.7%の774億4,700万円)
 外需▲46.3%の349億9,400万円(▲43.7%の432億100万円)

・4月シカゴ連銀製造業活動 ▲16.74(前月 ▲4.97)

・Q120米住宅価格指数 前期比+1.7%(前期改定+1.4%)

・3月米S&Pコアロジック住宅価格指数 前月比+0.47%(前月+0.52%)、前年比+3.92%(+3.52%)

・4月米新築住宅販売件数 前月比+0.6%の62.3万戸(前月改定▲13.7%の61.9万戸)

・5月米コンファレンスボード消費者信頼感指数 86.6(前月改定 85.7)
 現況指数 71.1(73.0)、期待指数 96.9(94.3)
 6ヵ月以内自動車購入 11.2(8.1)、住宅 5.0(5.3)

・5月ダラス連銀製造業活動 ▲49.2(前月▲74.0)
 生産 ▲28.0(▲55.6)
 新規受注 ▲30.6(▲68.7)
 受注残 ▲17.4(▲26.5)
 完成品在庫 ▲8.9(▲8.8)
 雇用 ▲11.5(▲22.0)

・中国外務省趙立堅報道官、「(米国の人権に対する対中制裁に対し)米国に対して誤りを是正し、関連する決定を撤回し、中国への内政干渉をやめるよう促す。中国は国家主権と安全、開発の権利を守るためあらゆる措置を講じる。」

・中国、デジタル人民元を2022年北京五輪までに発行か(日経新聞)

◆エネルギー・メタル関連ニュース


【エネルギー】
・ロシアはOPEC+の計画に沿って、7月から削減を緩和したい意向。

・イラン ザンギャネ石油相、「原油価格の予想は困難。需要は不透明。」

・リビア、トルコが支援する暫定政府が、ハフタル将軍率いる反政府軍事組織「リビア国民軍」を撃退、軍事的な勝利を収める。

・イスラエル ネタニヤフ首相、ヨルダン川西岸の一部併合へ決意を改めて表明。

【メタル】
・4月KGHM銅生産 前年比▲3.6%の56,500トン

・ICSG、1-2月鉱山キャパシティ 4,027千トン(前年4,009千トン)、鉱山生産3,248千トン(3,187千トン)、鉱山稼働率 80.7%(79.5%)、プライマリ精錬銅生産 3,213千トン(3,151千トン)、セカンダリ精錬銅生産 635千トン(675千トン)、精錬所キャパシティ 3,848千トン(3,827千トン)、精錬所稼働率 81.1%(83.1%)、供給合計 3,848千トン(3,827千トン)、需要 3,720千トン(3,798千トン)、+129千トンの供給過剰(+29千トンの供給過剰)。

・鉱山生産は+2%、精鉱生産は+1%(チリ、インドネシアの生産が昨年比で回復したことが、ペルーの減産、コンゴ、コロナの影響を受けた中国の生産減少を相殺した)、SX-EWは+5.8%

・精錬銅生産は+0.6%。プライマリ生産は+2%、スクラップは▲6%。チリの生産は前年比+30%の増加を、中国の生産がコロナの影響で減少したことが総裁。アフリカではコンゴの生産が増加したことをザンビアの減産が相殺。日本は前年のメンテナンスからの回復で大幅増産。

・精錬銅需要は▲2.0%の減少。コロナウイルスの影響で中国の需要が大幅に減少したため。

◆主要商品騰落率


【上昇率上位5商品】

商品名(カテゴリー)/前日比上昇率/年初来上昇率
1.CBTエタノール ( エネルギー )/ +5.43%/ ▲15.27%
2.TCMガソリン ( エネルギー )/ +4.55%/ ▲42.96%
3.TCM灯油 ( エネルギー )/ +4.13%/ ▲47.19%
4.ICE欧州天然ガス ( エネルギー )/ +3.81%/ ▲68.39%
5.CME肥育牛 ( 畜産品 )/ +3.49%/ ▲8.27%

【下落率上位5商品】

商品名(カテゴリー)/前日比上昇率/年初来上昇率
70.CME木材 ( その他農産品 )/ ▲2.91%/ ▲11.97%
69.LIFFEココア ( その他農産品 )/ ▲2.02%/ +6.82%
68.パラジウム ( 貴金属 )/ ▲1.99%/ +0.53%
67.プラチナ ( 貴金属 )/ ▲1.89%/ ▲13.78%
66.金 ( 貴金属 )/ ▲1.23%/ +12.74%

※弊社が重要と考える主要商品の前日比騰落率上位・下位5品目です。
※限月交代に伴う価格の不連続性は考慮されていません。予めご容赦ください。

◆主要指標


【為替・株・金利・ビットコイン】
NY ダウ :24,995.11(+529.95)
S&P500 :2,991.77(+36.32)
日経平均株価 :21,271.17(+529.52)
ドル円 :107.54(▲0.17)
ユーロ円 :118.10(+0.72)
米10年債 :0.70(+0.04)
中国10年債利回り :2.70(+0.05)
日本10年債利回り :0.01(+0.01)
独10年債利回り :▲0.43(+0.07)
ビットコイン :8,859.07(▲55.31)

【MRAコモディティ恐怖指数】
総合 :36.10(▲4.47)
エネルギー :66.73(▲22.5)
ベースメタル :21.96(+0.63)
貴金属 :28.22(▲0.31)
穀物 :22.81(▲0.66)
その他農畜産品 :34.78(▲0.46)

【主要商品ボラティリティ】
WTI :120.50(▲47.96)
Brent :78.03(▲7.34)
米天然ガス :65.36(▲4.12)
米ガソリン :76.31(▲1.45)
ICEガスオイル :95.93(▲4.94)
LME銅 :21.13(+0.92)
LMEアルミニウム :13.42(+0.37)
金 :16.27(+0.96)
プラチナ :29.11(+1.4)
トウモロコシ :13.51(▲4.87)
大豆 :16.27(+0.96)

【エネルギー】
WTI :34.17(+0.92)
Brent :36.10(+0.57)
Oman :37.75(+0.86)
米ガソリン :104.85(+1.03)
米灯油 :98.95(+0.75)
ICEガスオイル :297.00(▲2.75)
米天然ガス :1.78(+0.04)
英天然ガス :9.82(+0.36)

【貴金属】
金 :1710.58(▲21.37)
銀 :17.13(▲0.15)
プラチナ :833.41(▲16.04)
パラジウム :1955.90(▲39.75)
※ニューヨーククローズ。

【LME非鉄金属】
(3ヵ月公式セトル)
銅 :5,375(+103:33.5C)
亜鉛 :1,976(+19:1C)
鉛 :1,676(+56:15.5C)
アルミニウム :1,513(+15:27C)
ニッケル :12,348(+149:88C)
錫 :15,375(+115:215B)
コバルト :29,663(▲27)

(3ヵ月ロンドンクローズ)
銅 :5369.00(+64.00)
亜鉛 :1983.00(▲2.00)
鉛 :1674.00(+26.50)
アルミニウム :1521.50(+18.00)
ニッケル :12350.00(+70.00)
錫 :15375.00(▲5.00)
バルチック海運指数 :498.00(+4.00)
※C=Cash-3M コンタンゴ、B=Cash-3M バック

【鉄鋼原料】
62%鉄鉱石スポット(CFR中国、1営業日前) :95.99(▲0.45)
SGX鉄鉱石 :92.17(▲0.49)
NYMEX鉄鉱石 :91.64(+0.22)
NYMEX原料炭スワップ先物 :113.4(+0.61)
上海鉄筋直近限月 :3,568(▲31)
上海鉄筋中心限月 :3,502(▲8)
米鉄スクラップ :331(+1.00)

【農産物】
大豆 :847.00(+13.75)
シカゴ大豆ミール :283.90(▲0.20)
シカゴ大豆油 :27.27(+0.63)
マレーシア パーム油 :休場( - )
シカゴ とうもろこし :319.00(+1.00)
シカゴ小麦 :506.75(▲2.00)
シンガポールゴム :135.00(+0.50)
上海ゴム :9995.00(+30.00)
砂糖 :11.05(+0.12)
アラビカ :105.10(+1.50)
ロブスタ :1219.00(+12.00)
綿花 :58.23(+0.62)

【畜産物】
シカゴ豚赤身肉 :60.50(+1.73)
シカゴ生牛 :99.40(+1.70)
シカゴ飼育牛 :133.30(+4.50)

※全ての価格は注記が無い限り、取引所で取引される通貨建。
※限月交代に伴う価格の不連続性は考慮されていません。予めご容赦ください。