経済指標の実数値・景況感格差、米中格差
- MRA外国為替レポート
2020年5月18日号
◆先週の市場総括
先週は週初こそ感染拡大のピークアウト・経済活動の再開への期待でリスク選好が強まったなかで始まったが週央にかけて期待感がやや後退した。
米国で専門家が時期尚早な経済活動再開に警戒感を示したことや、韓国や中国など一部で感染再拡大がみられたこともネガティブな材料。
感染拡大を巡り米中の対立が強まっており、貿易問題に波及するのではないかとの懸念が生じたこともマイナス材料。
米国の経済指標は小売売上高や鉱工業生産など実数値は引き続き悪い数字が続いたものの想定の範囲内。また一部の景況感指数には改善の兆しもみられた。中国の小売・生産は持ち直し基調にあり、市場心理には一定の支えとなった。
米国株は週初から軟調となったが週末には持ち直し。日経平均は週初に20,500円をつけたが反落して20,000円の大台割れ。週末にはかろうじて大台を維持した。
為替市場では週初にやや円安に振れたものの続かず。ドル円相場は106円60銭近辺で始まり早々に107円80銭に上昇。しかしその後は反落して107円台前半中心に推移。107円を割る場面もあったが底固く推移した。
ユーロ円相場は115円40銭から116円後半に上昇。しかしその後は上値重く116円中心に上下動。ユーロドル相場は1.08台中心に上下した。
月曜日の東京市場は前週末に米国株が大幅高となったことを受けてリスク選好が強まったなかで始まった。
日経平均は20,300円近辺で高寄りし20,500円に上昇。その後は20,400円~500円で上下した。引けは20,400円近辺。
ドル円相場は106円60銭で始まり早々に107円に上昇。一時107円割れに押し戻されたが夕刻にかけて107円20銭に上昇した。ユーロ円相場も115円40銭で始まり116円ちょうどに上昇。その後も底固く夕刻には116円20銭近辺で推移した。
ユーロドル相場は1.083で始まり1.085近辺でもみ合い。夕刻は反落して欧米市場にかけて1.082近辺で小動きもみ合い。
欧米市場に入っても円は軟調。ドル円相場はジリ高となり107円70銭台に上昇。引けは107円60銭台。ユーロ円相場も上昇して116円40銭~50銭でもみ合いとなった。
米国株はまちまち。中国や韓国で感染者が再び増加し感染第2派への懸念が生じた。一方で経済活動再開への期待が下支え。ナスダック指数は好調で終日上昇し6日営業日続伸。一方NYダウは3日ぶり反落。
ムニューシン財務長官は、失業率は夏にかけて改善していくだろう、ただしその前にさらに悪化する見込み、と述べた。
火曜日の東京市場のドル円相場は107円台半ばで小動き、上下動。ただ夕刻から欧米市場にかけてはドルが軟調となるなかジリ安となった。
ユーロ円相場は116円40銭で始まった後116円ちょうど近辺でもみ合い。欧米市場にかけては116円30銭中心にもみ合い。日経平均は前日引値近辺で寄付き20,300円~400円で小動きもみ合い、引けは20,370円近辺。
活動再開期待も感染鎮静に目立った動きなく、米中摩擦懸念が心理的な重石となり、頭打ち、上昇一服、様子見となった。
米国株は下落、3指数はそろってまとまった下げ。米国アレルギー感染症研究所のファウチ所長が議会証言で早期の経済活動再開に警告。経済活動再開より感染再拡大への懸念が勝り引け際にかけ株価を押し下げた。
NYダウは前日比▲457ドルの下落となり23,765ドル。ナスダックは▲190ドル下落し9,002ドルとかろうじて9,000ドルの大台を保った。前日に27.57に低下していたVIX指数は33ポイントに上昇。
トランプ大統領が政府職員の年金運用から中国株を除外すると述べたことも嫌気。
為替市場ではドルが軟調。ドル円相場は107円10銭~20銭。ユーロドル相場は1.082から1.088へユーロ高ドル安。引けは1.085。ユーロ円相場はユーロ高の流れで116円80銭に上昇したが反落して116円20銭で引けた。
水曜日の東京市場では為替相場は小動き。ドル円相場は107円20銭近辺、ユーロドル相場は1.085、ユーロ円相場は116円30銭近辺で、それぞれもみ合い、横ばい推移。
日経平均は米国株の大幅下落を受けて20,000円~20,100円で大幅安寄り。ただその後はじり高となり20,300円近辺に持ち直し高値引け。経済活動再開検討と感染再拡大、期待と懸念が交錯した。
欧米市場に入ると株価は再び軟調。欧州株は大幅安。米国株も安寄りの後続落となった。
FRBパウエル議長が、景気回復が勢いづくまで時間がかかる、時間がかかれba企業破綻や雇用悪化につながりかねない、と慎重な見通しを示したことから寄付き早々に下落。経済活動再開への懸念や米中対立も重石。
NYダウは前日比▲500ドルを超える下げ。米10年債利回りはやや低下して0.65%。
ドルは軟調となったがその後は持ち直し。ユーロは下落。ドル円相場は106円80銭割れから107円ちょうどを回復した。ユーロドル相場は1.084から1.088~1.089へユーロ高ドル安となったが1.081台へ急反落。ユーロ円相場も116円20銭~30銭でのもみ合いから115円70銭~80銭へ下落した。
ユーロ圏鉱工業生産(3月)は前月比▲11.3%と統計開始以来最大のマイナスとなった。
木曜日の東京市場でも株価は軟調。パウエル議長の発言や米国株安、米中対立が嫌気されて日経平均は20,100円近辺で安寄り。中国がコロナ感染を巡る提訴に関し米国の個人や団体に対する報復を検討と報じられた。
アジア株が軟調となり日経平均は後場に一段安。前日比▲350円の19,900円近辺で安値引け。中国や韓国での感染再拡大リスクも意識された。
ドル円相場は107円ちょうど近辺で始まり小幅下落して106円80銭~90銭でもみ合い。ユーロ円相場は115円80銭から軟調となり115円40銭~50銭へ下落。全体的にやや円高となった。
米国株は大幅安スタート。週次の新規失業保険申請件数は2,981千人と前週から減少したがなお高水準。継続受給者数は22,833千人と微増で予想よりは悪化せず。
米国株はその後一貫して上昇し前日比プラスで高値引け。NYダウは377ドル高の23,625ドル。
ドル円相場は株高に連れて堅調。107円30銭近辺に上昇して引け。ユーロ円相場も115円90銭に上昇。ユーロドル相場は1.08中心に上下した。
トランプ大統領は共和党系のFOXテレビで、中国は感染拡大を止めなかった、今は習近平と会いたくない、中国との関係断絶も、と強硬な発言を繰り返した。
金曜日の東京市場のドル円相場は107円20銭台で始まり40銭に上昇。ただその後は107円ちょうどに向けてじり安。ユーロ円相場も115円90銭で始まり上値重くもみ合い。ユーロドル相場は1.080~1.082近辺で小動きとなった。
日経平均は20,180円近辺で高寄りも19,800円台へ下落。後場に持ち直してかろうじて20,000円の大台を回復して引けた。
中国で発表された4月の重要指標は、小売売上高が前年同月比▲7.5%と前月の▲15.8%からはマイナス幅が縮小。鉱工業生産は同+3.9%と前月の▲1.1%からプラスに転じた。IT関連や医療品関連が好調とみられる。
欧米市場では米国株が小幅続伸。NYダウは前日比+60ドルの23,685ドルで週末の取引を終えた。ナスダックは9,014ドル。VIX指数は前日比低下したが31.89と30台に乗せたまま越週となった。
米10年債利回りは株価の底固さにつれ小幅上昇して0.64%。原油価格WTIは3週連続の上昇で引けた。
米国の小売売上高(4月)は前月比▲16.4%、鉱工業生産は▲11.2%、製造業生産は▲13.7%、設備稼働率は64.9%(前月72.7%)といずれも大きく悪化。マイナス幅は前月から広がった。
一方、NY連銀製造業景気指数(5月)は▲48.5と前月78.2から悪化幅は縮小し予想▲65.0ほど悪くない数字。ミシガン大学消費者信頼感指数(5月)も73.7と前月71.8から改善し、68.5への悪化予想に反する結果だった。
ドル円相場は106円90銭から持ち直し107円30銭に上昇してもみ合い。ただ引けにかけては反落して107円ちょうど~10銭で引け。ユーロ円相場は115円50銭から116円10銭に上昇し、引けは115円80銭。ユーロドル相場は1.084へ上昇した後反落して引けは1.082近辺。
◆今週の3つの注目ポイント
1.米国の経済指標、FOMC議事録、パウエル発言
今週も実数値、景況感双方の指標が発表となるが、悪い数字も予想の範囲内か、また景況感は最悪期を脱したか、市場心理へプラスとなるかが注目点。
火曜日 住宅着工件数(4月、季節調整済み年率換算、予想950千戸、前月1,216千戸)
水曜日(日本時間木曜日未明3:00)FOMC議事録※FRBパウエル議長の発言機会も多く、引き続き慎重な発言が市場の期待感を削ぐかたちとなるか。
木曜日 フィラデルフィア連銀製造業景気指数(5月、予想▲41.0、前月▲56.6) 5月PMI景況感指数 製造業、予想38.0、前月36.1 サービス業、予想31.0、前月26.7
景気先行指数(4月、前月比、予想▲5.6%、前月▲6.7%) 中古住宅販売(4月、季節調整済み年率換算、予想430万戸、前月527万戸)
2.欧州の経済指標
欧州でも経済活動再開への期待から景況感改善がみられるか、あるいはなお悪化したままか
火曜日 ZEW景気指数(5月、ドイツ、期待指数、予想30.0、前月28.2) ユーロ圏消費者信頼感指数(5月、予想▲23.4、前月▲22.7)
金曜日 5月PMI景況感指数 ユーロ圏、製造業、予想38.0、前月33.4 サービス業、予想24.5、前月12.0
ドイツ、製造業、予想39.0、前月34.5 サービス業、予想26.0、前月16.2
ECB理事会議事要旨が公表される。
3.日本の経済指標、貿易収支
月曜日にGDP(1-3月期)が発表となる。予想は前期比▲1.1%(10-12月期は▲1.8%)、年率換算▲4.5%(同▲7.1%)。
もっとも4-6月期は20%を超えるマイナスとなるとの予想で今回の数字に対する反応は軽微か。
水曜日に機械受注(3月)が発表となり前年同月比▲8.9%の予想。4月以降のさらなる悪化がどの程度か。
そして木曜日に日本の貿易収支(4月)が発表される。予想は▲5,600億円の赤字。足元で日本の対外収支にどのような影響が生じているか、足の速い指標でもありいつも以上に注目される可能性がある。マイナス幅が大きければ円にネガティブな影響も。
なお中国では、22日金曜日に、延期されていた全人代が開幕する。感染拡大、経済動向、経済政策、目標などについていかなる議論がされるか。
◆今週のMRA's Eye
経済指標の実数値・景況感格差、米中格差
市場では期待感から株価が底固い値動きを続けているが、一方で感染再拡大への懸念、専門家による尚早な経済活動再開への懸念などが水を差し上値を抑制。また米中対立、とくにトランプ大統領の対中強硬姿勢が不安感を高めている。
当面は、大幅なリスク選好回復は望めず、市場も様子見姿勢を強めそうだ。一段高となるのか、再び調整することとなるのか、予断は許せない。
米国の実数値、小売売上高、鉱工業生産、雇用、住宅、などは4月の数字の段階では悪化の途上にある。失業保険申請件数は増加幅が減少しているものの、なお増加していることには変わりない。足元5月もなお悪化が続いていると想定される。
経済活動が徐々に再開されようとしているが、それが経済指標にプラスとなるのは6月ないし7月となり、そうした経済指標が発表となるのは7月以降となる。
一方、そうした実数値の指標悪化に対して景況感指数は速くも最悪期を脱しつつあるようだ。
先週末のNY連銀製造業景気指数(5月)はマイナス幅が前月から縮小。ミシガン大学消費者信頼感指数(5月)も同様に持ち直した。実数値に比べて「足が速い」こと、景況感であり政策動向や期待感を反映しやすいためとみられる。
景気の先行指標として、市場の期待感の拠り所となり、リスク選好回復を下支えする可能性はある。ただ足元の局面では通常と異なり、実数値の回復とはギャップが生じることには留意が必要だろう。
景況感は方向感を示すに過ぎないため、足元が極端に悪ければ今後を展望した数字は改善する。しかし実数値における改善幅や絶対水準はさほど良くならない可能性がある。
極端なケースでは、こうした景況感指数がV字回復を示したとしても、実数値の回復はU字や極めて緩慢な回復であるL字にとどまる可能性もあるだろう。
当面はそうしたギャップ、格差に市場が振らされる、あるいは、リスク選好回復が足踏みを余儀なくされる時間帯となるのではないか。
もうひとつ、経済指標の格差は2大大国、米国と中国の格差だ。
中国ではすでに感染がピークアウトし経済活動が再開していることから、景況感のみならず実数値でも改善がみられる。鉱工業生産が前年同月比プラスとなったことは、ITや医療品の特需があったとしても、前向きな数字ととらえられる。
小売売上は4月の段階ではなお前年比マイナスだが、5月に入って「リベンジ消費」なる言葉も聞こえる。
いわゆる、ペントアップ・ディマンド、積み残しされてきた需要が顕在化するなら、前年同月比でプラスに転じる場面もあるだろう。
このまま感染再拡大が抑制され、一段と経済活動が平常化すればグローバルに改善基調が他国に先行する流れが続きそうだ。
ただ中国経済も国内のみではもたず、海外経済の回復がなければ継続的な回復は見込みにくい。中国経済とても米国経済の回復頼みであることは否めないだろう。
こうした米中の景況感改善、実数値の改善と悪化ペースの鈍化は心強いものの、米中のタイムラグやギャップは、米中対立の深刻化という別の懸念を引き起こしている。
トランプ大統領は秋の大統領選挙が近づくにつれて経済活動再開・景気回復に軸足を移しつつある。しかし実際の景気動向はなお悪化しており、7-9月期に雇用が改善に向かうかという見込み。次第に焦燥感を募らせているようにみえる。
国内では時期尚早な活動再開に警告を発する専門家に苛立ちをみせている。そして感染拡大のピークアウトや経済活動再開で先行する中国に対してはなおさら腹立たしさを感じるのは無理もない。
米国内の状況改善が緩慢なままであれば、対中強硬姿勢を一段と強める可能性がある。中国が大きく改善し、米国も改善の兆しがみえれば、それ自体は市場にとってプラス。
しかしそのペースにギャップ、格差があることが対立を深め、市場心理にマイナスとなり、株価やリスク選好の重石となり続ける可能性がある。
さらに感染再拡大や米企業の破綻や信用市場の悪化が加われば、米中対立の強化に加えて事態を悪化させる可能性がある。
U字の底が長引くか、緩慢なL字の底ばいが続くか。景気動向がU字だとしても、株価の動向、リスク選好・回避の動きがW字となりかねない。
日本の景気動向、景気回復基調は、中国、さらには米国に遅行するとみられ、円高が大きく進む可能性は小さいとみられる。
シカゴ通貨先物の投機ポジションも3万枚弱の円買い越しとなったまま大きな変化はみられない。手仕舞いは円売戻しであり、短期的に円高が進むリスクは小さいとみられる。
米国株が概ね底固めの値動きを続けるなか、リスク選好が警戒的に維持され、一方で米中対立が不安材料となる状態が継続するのがメインシナリオ。
ドル円相場は上下双方のリスクがやや小さくなり均衡しつつ107円台中心に推移しそうだ。
◆主要指標
【対円レート】
ドル :107.06(▲0.19)
ユーロ :116.02(+0.14)
英ポンド :129.548(▲1.61)
豪ドル :68.665(▲0.64)
カナダドル :75.872(▲0.46)
スイスフラン :110.209(▲0.00)
ブラジルレアル :18.2843(▲0.16)
中国人民元 :15.113(+0.02)
韓国ウォン(日本円=100) :8.687(▲0.05)
【対ドルレート】
ユーロ :1.082(+0.002)
英ポンド :1.2116(▲0.011)
豪ドル :0.6413(▲0.005)
カナダドル :1.4109(+0.006)
スイスフラン :0.9715(▲0.002)
ブラジルレアル :5.8552(+0.041)
中国人民元 :7.1019(+0.006)
韓国ウォン :1231.04(+3.08)
【主要国政策金利】
米国 :0.25
ユーロ :0.00
日本 :0.00
【主要国長期金利】
米10年債 :0.64(+0.02)
米2年債 :0.15(▲0.00)
日本10年債利回り :0.00(+0.00)
日本2年債利回り :0.00(+0.00)
独10年債利回り :▲0.53(+0.01)
独2年債利回り :▲0.73(+0.01)
【主要株価指数・ビットコイン】
NY ダウ :23,685.42(+60.08)
NASDAQ :9,014.56(+70.84)
S&P500 :2,863.70(+11.20)
日経平均株価 :20,037.47(+122.69)
ドイツ DAX :10,465.17(+128.15)
インド センセックス :31,097.73(▲25.16)
中国上海総合 :2,868.46(▲1.88)
ブラジル ボベスパ :77,556.60(▲1,454.20)
英国FT250 :15,660.77(+256.18)
ビットコイン :9241.91(▲413.85)
【主要商品価格】
WTI :29.43(+1.87)
Brent :32.50(+1.37)
米ガソリン :97.02(+5.57)
米灯油 :92.04(+2.56)
金 :1743.67(+13.37)
銀 :16.61(+0.74)
プラチナ :789.47(+17.14)
パラジウム :1881.85(+37.94)
銅 :5194.50(+8:29.5C)
アルミニウム :1467.00(▲2:34.5C)
※貴金属はニューヨーククローズ。ベースメタルは3ヵ月公式セトル価格。
※C=Cash-3M コンタンゴ、B=Cash-3M バック
シカゴ大豆 :838.50(+3.25)
シカゴ とうもろこし :319.25(▲1.00)
シカゴ小麦 :500.25(▲10.25)
※全ての価格は注記が無い限り、取引所で取引される通貨建。
※限月交代に伴う価格の不連続性は考慮されていません。予めご容赦ください。
※ 「休場」となっているものは、取引所が休場ないしはデータ更新時点で最新データを取得できなかった場合を指します。