CONTENTSコンテンツ

リスクオフで総じて軟調
  • MRA商品市場レポート

2020年6月12日 第1765号 商品市況概況

◆昨日の商品市場(全体)の総括


「リスクオフで総じて軟調」

【昨日と本日の各セクターショートコメント】

◆エネルギー:下落。世界的な感染拡大が改めて意識されたことや、FOMCを終えて目先の材料が一巡したとの見方から。

目先の買い材料が一巡したこと、週末を控えた動きで軟調な推移に。ただしファイナンシャルな面で価格は下支えされる見込み。

◆非鉄金属:下落。FOMCを受けた材料一巡で株が急落し、「株高を背景とした非鉄金属の循環物色の流れ」が逆転したことで、四半期末・週末を意識した売り圧力が強まったため。

目先の買い材料が一巡したこと、株に下落圧力が掛かっていることから週末を控えて本日も軟調な推移に。ただし需給はまだタイトであり、下値余地も限定。

◆鉄鋼原料:株安を受けて先物はやや軟調も、週末の在庫統計を控えて様子見気分強く小動き。

株安の流れを受けて軟調も、需給ファンダメンタルズはタイトであるため下げ余地も限定。

◆貴金属:下落。株が材料出尽くしで大幅に売り込まれる中でドル高が進行したことや、利益確定の動きが強まったことから。上昇。FOMCで政策金利が2022年まで維持されるとの見通しが示されたことで、長期金利・実質金利が低下したことが背景。

緩和政策持続方針による長期金利低下で上昇。パラジウムは下落。

◆穀物:米需給報告を受けてトウモロコシと大豆は上昇、小麦は前月見通しから在庫増加で下落。

再ロックダウンに伴うエタノール向け需要の減少懸念が再び意識されているため、総じて軟調か。

※より詳細な説明は以下をご参照ください。

市場データ・グラフ類の添付ファイルのサンプルはこちら。

【昨日の市場動向総括】

昨日の商品市場はその他農産品や畜産品が上昇したが、景気循環系商品や貴金属に至るまで、インフレ系の商品がすべて売られる流れとなった。ほぼ昨日の予想通りであるが、ただ株の調整速度は想定を超えるものだった。

FOMCでは2022年までの政策金利維持見通しが示されたが、先行きへの慎重な見方も同時に示されたことで材料一巡感が出たこと、世界的にコロナウイルスの感染が再び拡大していることで、経済活動の鈍化懸念が意識されたことが背景。

銅・金レシオなどと比較した場合、株価の上昇はやや過熱しすぎであり、四半期決算期末の月に売られる可能性があることは指摘してきたが、それが顕在化したと考えられる。

また、石油製品出荷などを見てみても、米経済は回復しているものの昨年の水準を回復している訳ではなく、株価が野放図に上昇していることは実態経済からはやはり肯定し難い。

※月次の世界商品需給と期間構造
https://marketrisk.jp/category/news-contents/contents/fundamentals

※ニュース解説は、不定期ですがFBでも行っていますので、ご興味のある方はフォローをお願いします。https://www.facebook.com/Market.Risk.Advisory/

※レポートのお申込みはこちらから
https://marketrisk.jp/news-contents/news/3592.html

※商品市場分析入門のお求めはこちらから
https://www.amazon.co.jp/dp/447810445X/

【本日の見通し総括】

本日は週末ということもあり、昨日の流れを受けて景気循環銘柄が売られる流れが続くと考えられる。ただし欧米の経済活動が回復している(前年を回復したわけではない)ことから、下落余地も限定されると考えている。

本日予定されている材料としては、米ミシガン大学消費者マインド指数に注目している。

市場予想は75.0(前月72.3)、現況指数が85.2(82.3)、先行指数が69.0(65.9)と改善見込みであり景気循環銘柄価格の下支え要因になると予想される。

【昨日のトピックス】

昨日発表された米新規出業保険申請件数は154万件(前週190万件)と減少しており、営業が通常通りに回復したり、再雇用を始めたりする企業が増加していることをうかがわせる内容だった。

ロックダウンの解除により、米国の経済活動が回復していることは間違いがなさそうだ。

しかし、経済活動が再開する中でコロナ問題が収束したかのような錯覚を覚えるが、感染者数などの数字を見ると決して収束しておらず、むしろ拡大している。

今回のグラフには付けていないが、先進諸国から新興諸国に感染地域が移行しており、医療レベルの低い地域が多いことから今後、経済活動が停滞する可能性はより高まっている。

実際、水曜日の夜間に発表された米石油統計では石油製品出荷・輸出の回復が示されたものの前年比や過去5年レベルと比較した水準は依然として▲20%近い低空飛行である。

石油製品の出荷動向は、車社会の米国経済の現状を表す指標であり、比較すべきは前月比ではなく、前年比であるべきだ。

p>そのように考えると、昨日の株価下落は「FOMCを受けた目先の材料出尽くし」と整理するのが妥当であり、ファンダメンタルズで説明可能な水準に株価は収れんすることになるだろう。

また、この株価の下落は「銅÷金レシオ」のコラムで解説した通りであり、その観点からもやはり是とされる(詳しくは2020年5月26日付MRA's Eye「銅・金レシオは株価の下落リスク・金下落リスクを示唆」をご参照ください)。

恐らく今後、株を中心とするリスク資産価格が上昇するならば、追加の対策やコロナの根絶やワクチン開発完了が必要になる。

しかし、人間が判断して対応し、ある程度のスケジュールが想定できる材料という意味では、選挙をにらんでなりふり構っていないトランプ政権が1兆ドル近い追加対策を検討していると報じられており、そういった財政出動などの対策実施のタイミングになると予想されている。

しかし、その協議も7月下旬に先送りされており、半期決算末ということもあってしばらくリスク資産価格に下押し圧力が強まる展開になるのではないか。

【景気循環銘柄共通の価格変動要因整理】

<<マクロ要因>>

・各国のPMI・ISMなどのマインド系指標の改善。

ロックダウン解除の動きが世界的に拡大しており、最悪水準まで低下したPMI・ISM指数には改善圧力が掛かり、景気循環銘柄価格の上昇要因に。ただし、本格解除には至らず、改善余地も限定される公算。

・世界景気の減速観測。IMFは2020年の経済見通しを大幅に引き下げ(+3.3%→▲3.0%)ている。ただし2021年には+5.8%への急回復を見込んでいる。

ただこの通りになるためには、コロナウイルス感染拡大終息が必要条件であり、第二次感染拡大となり得る冬場までの終息がなければ、それは難しかろう。

・各国中央銀行、特に先進国の中央銀行はコロナ対策で政策金利をほぼゼロ近傍まで引き下げており量的緩和規模も拡大、これ以上打てる手がなくなった状態。

もちろん、量的緩和規模の拡大や投資対象の拡大などの追加手段は考えられるが、経済への直接的な影響は、先行事例である日本や欧州を見るにそれほど大きくない。

クライシスが再び発生した場合のリスクはより高まっていると考えるべき。

・景気減速を受けた、各国政府・中銀の財政政策・金融緩和は価格の上昇要因(Q319の中国GDPは前年比+6.2%、前期+6.3%と1992年の統計発表以来の低水準となり、減速懸念が再び意識されている)。

※一方、鉱工業生産や固定資産投資などは政府の対策の影響が徐々に顕在化している形。

・2018年からインドが人口ボーナス期入りしており、構造的な需要の増加が見込めることは中長期的な価格の上昇要因。

<<特殊要因>>

・コロナウイルスの感染長期化の可能性。感染拡大ペース鈍化を受けて経済活動を再開させる動きが強まっているが、このウイルスは未知の部分が多く、再度感染拡大→経済活動自粛、という流れになるリスクも無視できず。

・米中の対立激化による新冷戦構造の発現。中国は全人代で、実質的に一国二制度を廃止する方向に舵を切っており、欧米諸国の反発は必至。

ハイテク分野や宇宙軍創設、自国ファースト政策による自国回帰など、米中の対立はコロナ前から加熱しており、コロナが最終的に引き金となった。

今後、米中が歩み寄るシナリオよりも、米中ブロック経済圏化への移行の可能性のほうが高く、貿易活動の停滞で景気循環銘柄価格の下押し要因に。

また、完成品に関してはブロック経済圏化に伴いサプライチェーンが大幅に見直される可能性が高く、コスト上昇で価格は上昇する可能性。

・生産拠点を自国に回帰させる動きや、リモートの定着による成長鈍化が、新興国(資源国の多くも新興国)の財政状況を悪化させ、自国を含む域内景気への悪影響を及ぼす懸念(価格の乱高下要因)。

・欧州の政治混乱(伊仏の対立、ポピュリズムの台頭、トルコと欧州の関係悪化、トルコの景気減速など)によるリスク回避の動きの強まり(下落要因)。

・英国のEU離脱が無秩序なものになるリスク。コロナウイルスの影響もあって、EUと英国が離脱を巡って建設的な議論はほとんどできていない状況で、移行期間中の条件合意が困難となっている。

今後は2020年12月末の移行期間までに条件で折り合えず、延期するのか、ハードブレグジットになるかが材料視されることになろう(下落要因)。

・中国地方政府・中堅中小企業の財政状況悪化に伴う景気減速(下落要因)。

<<投機・投資要因>>

・ロックダウンの動きを受けた株高による、リスク資産の再物色の流れ。

コロナウイルス対策のために大量に投入された資金が、コロナウイルス終息後にリスク資産買いに走り、暴騰するリスク。

・年後半に再度ロックダウンが始まり、投機の買いで上昇したリスク資産価格(特に株)が下落するリスク。

◆昨日の商品市場(個別)の総括


---≪エネルギー≫---

【原油市場動向総括】

原油価格は下落した。ロックダウン解除による景気への楽観から上昇していたが、FOMCの「利上げ先送り」と「景気の先行きに悲観的な見方表明」で目先の買い材料が一巡、半期決算末月ということもあり、手仕舞圧力が強まったためと考えられる。

なお、米石油製品出荷・輸出は回復してはいるが前年や過去5年水準を回復しておらず、構造的な需要の減少(リモートや、過剰な人の移動の回避の定着)が続いているとみられ、常に価格の下落リスクはある状態。

【原油価格見通し】

原油価格はOPECの減産幅縮小観測や四半期末決算を控えた手じまい売りの動きを受けて、一旦調整圧力が強まると考えられる。

DOEは2019年対比で元の水準に戻るのは2022年以降と想定しており、原油需要の戻りや価格の戻りは制限されると考えられるが、OPECの減産によって6月以降は原油需給バランスが供給不足になるとの見通しも示しており、下落余地も限定されるとみている。

テクニカルなサポートラインとしては、Brentは一目均衡表の雲の上限となる36ドル、WTIは31ドル程度。

しかし、米中対立やコロナの影響継続、実は世界のコロナ感染者数の増加ペースが加速していることを考えると、プレ・コロナの頃の水準に経済活動が戻るとは考え難く、常に価格急落への備え(場合によってはプットオプションの活用など)を検討すべき時期にあると考える。

一時、マイナス価格でやり取りされたWTIであるが、当局の投機取引に対する規制強化やクッシング在庫の減少もあり、再びマイナスとなる可能性は低下した。

今回のマイナス価格は米国の原油先物の受け渡しポイントが内陸のクッシングにあることが影響しており、今回のような事態発生を回避するには輸出が容易な湾岸地区(例えばヒューストンなど)に受け渡しポイントを移すべきである。

欧州や中東は自国消費があまりなく、輸出を前提としてインフラが整備されているためこのようないことが起きにくい。

なお、原油価格が低水準で推移した場合、米シェールオイルの生産者のコストは平均で45ドル近辺(30ドル~55ドル程度)、カナダのオイルサンドからの生産者のコストも40ドル程度であることから、時間経過とともに減産が進捗すると予想される。

場合によると経営破綻、という形で減産が進む可能性もあるが、価格下落リスクヘッジをしている生産者もファイナンスが困難になっているため、資金繰りが意識される3、6、9、12月末あたりではないだろうか。

特に6月は主要シェール企業の債務償還が多いため、6月危機のリスクはまだ過ぎ去っていない。

生産調整の議論の次に考えるべきは、「コロナ終息後の供給」である。今のところ夏頃から経済活動が再開されるとみられるが、この時の減産規模縮小のタイミングを誤ると、価格が大きく上昇するリスクが出てくる。

すでに全ての産油国が追加減産を実施しているが、減産後の稼働再開には時間が掛るため、供給が間に合わない可能性がある。中東の産油国でも1ヵ月程度、米シェール企業の場合は増産を決断してから実施されるまで、6~7ヵ月はかかる。

さらに価格低迷が産油国の体制を揺るがすため、供給が途絶して急騰、というリスクもあり得る。特に中東北アフリカ諸国ではコロナウイルスの感染が拡大した場合、治安の不安定化で政権の維持が困難になり、供給自体に支障をきたす可能性もある。

足元の価格上昇を受けてOPEC諸国が増産に転じれば、逆にその体制崩壊のリスク→価格上昇のリスクを高めることになる。

逆に、コロナウイルスの感染拡大防止に失敗し、「今年の冬に第二ラウンドに突入」となると需要の回復は難しく、かつ、信用リスクにも波及し企業倒産がべースの需要を減じることから、現在の世界各地の減産では不十分となる可能性も充分にあり得る。

各国政府・中央銀行が財政・金融政策の大盤振る舞いは、市場参加者のセンチメントの改善を通じて今のところエネルギー価格の押し上げ要因となっている。

しかし、先進国中央銀行は持てる政策をすべて使ってしまったため、冬場に再ロックダウンがあった場合などの事態の悪化があった場合、打てる手段はほとんどないことは下落リスクと考えるべきだ。

冬場に突入する南半球の感染状況は、今後注意すべき需要指標になるだろう。

原油価格の変動性は今後、需要が低迷するにも関わらず、さらに高まると考えておくべきである。

【石炭市場動向総括】

石炭先物市場は小幅に続落した。固有の材料に乏しい中、過去5年レンジの最低水準を季節性通りフォローする値動きとなっている。

【石炭価格見通し】

石炭価格は需給バランスの緩和観測で軟調な推移になると考える。ただし過去5年レンジの最低水準まで価格が下落しており、その観点での割安感からの買いが入り、下落余地は限定されると考える。水準は低いが、小じっかり、ということだ。

5月の中国石炭輸入は2,206万トン(前月3,095万トン)と過去5年平均程度まで急速に減少した。国内の経済活動の回復が一旦頭打ちとなったことや、国内生産が高水準(過去5年レンジを上回る)の増加が要因とみられる。

また、コロナ問題を受けて対中国批判を強める豪州に対し、牛肉や鉄鉱石、石炭輸入を削減ないしは停止すると中国政府が表明しており、実際にその通りとなれば豪州炭価格を押し上げよう(他国産石炭は上昇)。

【価格変動要因の整理】

<<マクロ要因>>

・OPECプラスの減産と、非OPECプラス諸国の自主減産で需給がタイト化する場合(価格上昇要因)。

・産油国の財政悪化による上流投資部門投資の減速は、インドなどの新興国需要顕在化時の価格上昇要因。

・最大消費国である米国の石油製品出荷は前年比▲3割の大幅減少の状態であり、短期的な需要の方向性はマイナス(原油価格の下落要因)。

世界2位の消費国である中国の需要の指標である工業生産は市場予想を上回るマイナス幅の縮小となったが、小売売上高は前月から改善

・1-4月期中国工業生産は前年比▲4.9%(1-3月期▲8.4%)とマイナス幅が縮小、月次ベースでは+3.9%(前月▲1.1%)と前年比プラスにまで回復(フロー需要の回復=価格の上昇要因)。

・EV普及による需要の伸び鈍化を、軽量化目的の樹脂向け需要増加が相殺(世界の需要が減少を始めるのは2050年頃からか)。

・世界的な石炭上流部門への投資規制強化による、供給減速懸念。価格上昇要因(石炭)。

・競合燃料である天然ガス・LNG価格が供給過剰で低迷、石炭価格の下落要因。

<<特殊要因>>

・原油価格下落とコロナウイルス感染拡大による治安悪化、コロナ問題を背景に米・欧軍が中東から撤退、それを受けたISの伸長が域内情勢を不安定化させ、原油生産・供給に悪影響を与える場合(価格の上昇要因)。

また、域内で武力衝突が発生し、難民が欧州に流入した場合欧州域内の政情が混乱するため景気を下押しし、原油価格の下落要因に。

<<投機・投資要因>>・WTIはロング・ショートとも増加したが、ロングが顕著に増加している。経済活動再開に伴う需要増加観測が支え。ショートの増加は価格上昇によるものとみられるが小幅。

Brentはロング・ショートとも増加しているが、ショートの増加が大きい。節目の40ドルに近付いていたことや、価格上昇に伴うOPECプラス減産解除観測が背景とみられる。

・直近の投機筋のポジションは以下の通り。

WTIはロングが729,172枚(前週比 +27,938枚)ショートが160,842枚(+2,182枚)ネットロングは568,330枚(+25,756枚)

Brentはロングが239,591枚(前週比+5,392枚)ショートが68,109枚(+7,106枚)ネットロングは171,482枚(▲1,714枚)

---≪LME非鉄金属≫---

【非鉄金属市場動向総括】

LME市場は大幅な下落。LME指定倉庫在庫の減少は金属にもよるが継続しており、株価の調整や感染第二波の拡大懸念が強まっていること、FOMCを終えて目先の材料が一巡したとして、四半期末を控えた利益確定の動きが強まったためと考えられる。

【非鉄金属価格見通し】

非鉄金属価格はFOMCを終えた目先の材料一巡と、需給タイト化観測と株対比での出遅れ感からの買戻しが、現物プレミアムの低下(銅など)や株安進行で是とされなくなったこと、四半期末を控えた利益確定の動きで軟調な推移に。

LME指定倉庫在庫とロックダウンの影響を背景とした回帰分析は、銅キャッシュで5,800ドル程度が上限であり、すでにこの水準に達していることからしばらくは調整圧力が強まることになるだろう。

今のところ、在庫水準から説明可能な銅レンジは現状5,300~5,800ドル程度(在庫水準で説明可能なレンジは変化。この数日の銅在庫減少継続で水準切り上がり)とみられるため、短期的な上昇リスクもさることながら、下落リスクも警戒すべきである。

ただしベンチマークである銅に関しては、今回、中国が力を入れるとみられるEVや5Gなどの政策的なメリットを需要面で受けることから下値も堅いと考える。

下値の目途としては、過剰流動性の供給と、ドルスワップ契約の拡充による決算期末のリスクが後退しているため、3月と同様の決算危機が発生しないという前提では、危機後に価格が初めて安定した4月上旬の水準が想定される。

具体的には銅が5,200ドル、亜鉛が1,900ドル、鉛が1,700ドル、アルミが1,460ドル、ニッケルが11,750ドル、錫が15,500ドル程度が下値の目途となる。

なお、米中が通商面で昨年・一昨年に行われたような「大規模な制裁」を実施することは両国にとってデメリットが大きいため、行われないと考えるのが常識的な見方だ。

中国政府による香港・台湾・ウイグル自治区問題の支配は露骨に進んでおり、コロナ問題での不満もあり、欧米諸国がこれを看過するとは考え難く、すでに米国は制裁強化を決定、これに対する報復を中国は決定している。

また、コロナウイルス問題も習近平国家主席のメンツ維持のため、情報隠ぺい工作に走ったことも事実であり、情報開示の遅れが死者の増加につながった、との見方をする欧米諸国は少なくない。

今後、世界的に中国とのビジネスが停滞する可能性は高まり、世界の工場のポジションにまだある中国の鉱物資源需要を減じることになるだろう。

各国政府・中央銀行が財政・金融政策の大盤振る舞いは、市場参加者のセンチメントの改善を通じて今のところ非鉄金属価格の押し上げ要因となっている。

しかし、先進国中央銀行は持てる政策をすべて使ってしまったため、冬場に再ロックダウンがあった場合などの事態の悪化があった場合、打てる手段はほとんどないことは下落リスクと考えるべきだ。

冬場に突入する南半球の感染状況は、今後注意すべき需要指標になるだろう。

長期的には環境面に配慮した「省エネ金属」需要が高まることから非鉄金属価格は上昇すると予想される。

具体例を挙げると、社会インフラとしてのバッテリー向け、電気自動車に使用される金属が対象となる(銅、アルミ、ニッケル、リチウム、コバルトなど)。

再び非鉄金属が持続的な上昇に転じるのは、インドの構造的な需要が顕在化するタイミングになるだろうが、中国が1994年に人口ボーナス期入りし、非鉄金属価格が上昇を始めたのが2000年頃からであることを考えると、2023~2024年頃になるのではないか。

【価格変動要因の整理】

<<マクロ要因>>

・5月中国製造業PMIは50.6(前月50.8)と2ヵ月連続で減速した。新規受注は国内を中心に回復しているとみられるが、輸出受注の減速を受け、生産が減速したことが影響したようだ。

しかし、新規受注在庫レシオは回復基調を持続しており、中国の完成品及び原材料需給はタイト化していると見られる。主に中国国内のインフラ投資と思われる需要が増加していることによるものと考えられ、生産活動がやや減速する中で完成品、原材料ともに在庫水準が低下したことが、レシオ上昇に寄与した。

また、欧米の経済活動再開も、非鉄金属価格にはプラスに作用され、「冬場の再ロックダウンリスク」を意識して、夏場が想定以上に需要増加で価格が上昇する可能性が出てきた。

・金属にもよるが、主要生産者がコロナウイルスの影響による生産調整が徐々に解除に向かう見通しであり、価格の下落要因に(影響を受けてきた主要鉱山は以下の通り)

(アルミ)Norsk Hydro Husnesアルミプラントの増産をQ320まで先送りアルゼンチン Aluar Puetro Madrynでの生産能力の▲50%を停止

(銅)南米の鉱山生産者(供給の約2割)は需要減と感染拡大防止のため、稼働率の引き下げを余儀なくされている状況Cerro Verde、Los Bronces、Constancia、Las Bambas、Collahuasi、Antaminaなど

(錫)PT Timah、需要の減少で当面錫生産を▲20%~▲30%減らす計画

(亜鉛)NewmontのPenasquito、Pan American SilverのLa Colorada、Grupo MexicoのBuenavistaとSan Martinなどが減産を決定

・6月中国銅線生産者 97.1%(前月101.7%、過去4年平均 87.1%) 銅棒生産者 77.8%(80.4%、76.1%)

・5月中国銅板生産者 64.8%(68.3%、72.2%) 銅管生産者 82.7%(84.4%、75.4%)

・4月中国銅精錬業者稼働状況 大規模事業者 90.3%(前月87.2%) 中規模事業者 65.9%(73.2%) 小規模事業者 73.1%(73.1%)

・1-4月期中国工業生産は前年比▲4.9%(1-3月期▲8.4%)とマイナス幅が縮小、月次ベースでは+3.9%(前月▲1.1%)と前年比プラスにまで回復(フロー需要の回復=価格の上昇要因)。

・1-4月期中国固定資産投資は前年比▲10.3%の13兆6,824億元(1-3月期▲16.1%の8兆4,145億元)とマイナス幅が縮小。

 公的部門は▲6.9%(▲12.8%)、民間部門とも▲13.3%(▲18.8%)マイナス幅を縮小。ただし前年比マイナスの状態は変わらず(ストック需要はマイナス=価格の下落要因)。

・1-4月期中国不動産開発投資は前年比▲3.3%の3兆3,103億元(1-3月期▲7.7%の2兆1,963億元)とマイナス幅を縮小。

ただし前年比マイナスの状態は変わらず(ストック需要の減少=価格の下落要因)。

・5月の中国の銅輸入は前年比+20.8%の44万トン(4月+12.6%の46万トン)、銅鉱石・精鉱輸入は前年比▲8.3%の169万トン(+22.2%の203万トン)となった。

銅地金の輸入は過去5年の最高水準を上回っていたが今月は減速、鉱石輸入も5年平均程度まで減速している。上海銅プレミアムの低下を見るに、中国の銅地金・鉱石輸入はいったん一巡したとみられる。

・環境規制の強化で特殊需要が増加する(軽量化目的のアルミ、EV向けのニッケル・銅(通常25キロ/台の銅が使われるが、EVは80キロ/台)、蓄電池としての鉛、コバルト、リチウムなど)

・中国の環境規制強化に伴うスクラップの調達難による、新塊需要の増加。

・上流部門投資不足並びに鉱石の品位低下による、鉱山供給の制限。

・亜鉛の精錬キャパシティ不足に伴う需給のタイト化。ただしTCが低下を始めており、徐々に需給は緩和方向へ。

・環境規制強化・米制裁の影響による石炭価格上昇が、中国の非鉄金属製造コストを高止まりさせる場合。

・インドをはじめとする新興国の構造的な需要増加(中長期的な要因)。

<<特殊要因>>

・環境問題や人権問題(コンフリクト・メタルの問題)を背景とする鉱山供給の減少。

・資源ナショナリズムの高まり。インドネシアのニッケル未処理鉱石禁輸措置再開(銅とボーキサイトは2022年から実施の予定)。

・インドとパキスタンの対立が武力衝突に発展、インドの人種差別問題が反政府行動に繋がり、インドが人口ボーナス期の成長メリットを生かせない場合(下落要因)

<<投機・投資要因>>

・6月5日付のLMEロング・ショートポジションは、総じてショートの買戻しが顕著だったが、新規にロングが積み増されるものも散見された。

投機筋のLME+CME銅ネット買い越し金額は▲11.4億ドル(前週▲27.2億ドル)と売り越し幅を縮小。売り越し額の減少率は▲57.9%。

買い越し枚数はトン数換算ベースで▲561千トン(前週▲1,002千トン)と売り越し数量を縮小。ネット売り越しの減少率は▲44.0%。

---≪鉄鋼原料≫---

【鉄鋼原料市場動向総括】

中国向け海上輸送鉄鉱石スワップは軟調、原料炭スワップ先物は小幅上昇、中国鉄鋼製品先物価格は中心限月が小幅に下落した。

株安の流れを受けて先物には全体的に売り圧力が強まる展開となった。

【鉄鋼原料価格見通し】

鉄鉱石価格は堅調な推移になると考える。中国鉄鉱石在庫が日数ベースで過去5年の最低水準で推移していること、中国の鉄鋼業PMIなどを見るに、中国国内の鉄鋼原料需給がタイト化しているため。

中国のインフラ投資(公的需要)、ブラジルの供給懸念も価格の押し上げ材料。

なお、足元のバルチック海運指数は上昇をはじめ、過去5年の最低水準を上回った。この数年、石炭の中国向け輸出の動向が同指数を左右しているが、豪州とブラジルの中国向け鉄鉱石週間輸出が過去3年レンジを上抜けして急速に回復しており、中国の在庫積み増し需要の増加を、バルチック海運指数が反映している可能性がある。

ただし、鉄鋼製品在庫の水準は例前年比でみても高く、貿易統計に見る鉄鋼製品輸出は440万トンと過去5年の最低水準を大きく下回っており、外需の回復には時間がかかりそうな状況。

ここで鉄鋼製品の増産があれば需給が緩和して鉄鋼製品価格が下落するため早晩鉄鉱石需要は減速すると予想され、上昇余地も限定されると予想される。

また、中国の香港国家安全法制定方針を受けた米国の中国に対する制裁強化と、それに対する中国の報復で今後さらに対立が激化する可能性があることも、鉄鋼製品価格を押し下げるため、転じて鉄鉱石価格を押し下げることになるとみる。

しかし両国経済に決定的な影響を与える相互制裁の実施はしばらく見送られる見通しであり、そのタイミングはもう少し後になるのではないか。

なお、現在は「夏場のコロナウイルス流行の狭間」であり、現在の鎮静化は一時的なものとなる可能性が高く、ワクチンの開発が終了するまでは「ロックダウン解除→ロックダウン→ロックダウン解除...」といった状態が続くと予想され、基本はレンジワークである。

中国河北省の高炉稼働率は6月5日時点で79.0%(前週78.8%)と小幅な上昇となった。まだ過去5年の最低水準を下回っている。

中国の鉄鋼製品は例年を上回るペースで在庫の取り崩しが進んでいるが、依然として例年よりは高い水準で推移している。外需が弱い中で高炉の稼働が上がれば在庫は高い水準のままとなり鉄鋼製品価格、ひいては鉄鉱石価格の上昇余地を限定させることになるだろう。

原料炭は中国の生産活動再開の影響もあるが、中国の国内生産の増加もあり、低調な推移になると考える。

ただし、中国の港湾在庫の水準は鉄鋼の最大生産省である河北省の主要港である、京唐港の港湾在庫は取り崩しが進んでおり、現在は過去5年平均を下回るなど、中国の国内需給がタイト化していることも事実であり、底堅い推移となるだろう。

先行指標であるバルチック海運指数は再び加速し、過去5年の最低水準を回復した。インドネシアや豪州の石炭の中国向け週間輸出は急速に増加しており、季節的な石炭輸入増加が影響しているとみられる。

【価格変動要因の整理】

<<マクロ要因>>

・5月の中国鉄鋼業PMIは50.9(前月45.9)と回復した。主に新規受注の回復(39.9→52.9)によるものであり、生産は好調ながらも緩やかな回復となった(53.4→56.4)。

この結果、完成品在庫指数は29.2(38.8)、原材料在庫指数は41.2(38.3)と非常に低い水準を維持、需給はタイト化している

しかし、需要はほとんどが国内向けとみられ、輸出向け新規受注は31.9(27.8)と低迷が続いている。欧米のロックダウンが解除の方向にあり、徐々に回復すると予想されるが、中国に対する欧米の風当たりが強まっており、順調な回復になるかどうかは不透明。

・1-4月期中国工業生産は前年比▲4.9%(1-3月期▲8.4%)とマイナス幅が縮小、月次ベースでは+3.9%(前月▲1.1%)と前年比プラスにまで回復(フロー需要の回復=価格の上昇要因)。

・1-4月期中国固定資産投資は前年比▲10.3%の13兆6,824億元(1-3月期▲16.1%の8兆4,145億元)とマイナス幅が縮小。

 公的部門は▲6.9%(▲12.8%)、民間部門とも▲13.3%(▲18.8%)マイナス幅を縮小。ただし前年比マイナスの状態は変わらず(ストック需要はマイナス=価格の下落要因)。

・1-4月期中国不動産開発投資は前年比▲3.3%の3兆3,103億元(1-3月期▲7.7%の2兆1,963億元)とマイナス幅を縮小。

ただし前年比マイナスの状態は変わらず(ストック需要の減少=価格の下落要因)。

・5月の中国の貿易統計では、鉄鋼製品の輸出は前年比▲23.3%の440万1,000トン(前月▲0.2%の631万9,000トン)大幅に減速した。

欧米各国がロックダウンしている影響によるものと考えられ、今後ロックダウンが徐々に解除される中で、緩やかに回復すると期待されるが実際にそうなるかどうかは不透明。

中国の鉄鋼製品在庫水準は前週比▲68.3万トンの1,531.3万トン(過去5年平均1,059.8万トン)と、工場の再稼働で例年通り在庫の取り崩しが続いている。

ただし、例年よりも取り崩しのペースは早く、鉄鋼生産者の稼働が最終需要家の回復よりも遅れている可能性があることを示唆している。

・5月の中国の鉄鉱石の輸入量は前年比+3.9%の8,703万トン(前月+18.5%の9,571万トン)と前年比プラスとなったが、過去5年レンジを下回り、過去5年平均程度まで落ち込んだ。しかし、ブラジル・豪州の週間鉄鉱石輸出は中国向けが増加しており、恐らく6月の統計は強めの数字となろう。

鉄鉱石の港湾在庫水準は、絶対水準ベース、在庫日数ベースとも過去5年平均を下回っており一定の在庫積み増し需要があると考えられる。

中国の鉄鉱石港湾在庫は前週比▲100万トンの1億850万トン(過去5年平均1億2,135万トン)、在庫日数は▲1.0日の22.8日(過去5年平均 28.1日)と例年と比較して在庫水準が低く、需給ファンダメンタルズはタイト。当面、鉄鉱石価格は高止まりしよう。

・5月の石炭輸入(燃料炭・原料炭の合算)は前年比▲19.7%の2,205万7,000トン(前月+22.3%の3,095万トン)と減速し、過去5年平均程度まで落ち込んだ。中国の石炭国内生産が増加しているためとみられる。

原料炭の輸入は4月は前年比▲15.4%の628万トン(前年比▲8.1%の564万トン)と急減速した。おそらく国内生産が増加したことによるもの。

・長期的には人口ボーナス期入りしているインドが、インフラ整備のための投資を拡大する方針(5年で約160兆円)であり、鉄鋼製品・鉄鉱石価格を押し上げ。

<<特殊要因>>

・世界的に広がる環境規制強化の流れで、鉄鉱石や原料炭などの生産に一定の影響が起きる場合。

・米国が中国に対する人権問題(香港・新疆ウイグル自治区問題)や、コロナウイルスへの対策に対する中国への不満が高まった場合、再び通商問題が議題に上がる場合(価格の下落要因)。

・コロナウイルスの感染拡大長期化による経済成長の鈍化。

<<投機・投資要因>>

・特になし。

---≪貴金属≫---

【貴金属市場動向総括】

金価格は全体的に軟調な推移となった。FOMCを終え、四半期末決算を目前に控え、株に大幅な利益確定の動きがみられたこと、リスク回避通貨としてドルが物色されたことで、金にも若干の換金売りが入ったものと考えられる。

銀は足元の金銀レシオが低下していることから金に対する価格感応度が上昇しており、金以上に水準を切り下げた。プラチナも同様。

なお、銀価格=金価格÷金銀レシオ であり、金銀レシオが低下することで金価格が変動した時の弾性値が上昇している。

(例)金が2,000ドル、銀が20ドルのとき 金銀レシオが100倍→金価格±1ドルの変化で銀価格は±1セント変化 金の変化率は±0.05%、銀は±0.05%

 金銀レシオが1倍→金価格±1ドルの変化で銀価格は±1ドル変化 金の上昇率は±0.05%、銀は±5%

パラジウムは金価格の下落と株価の下落を受けて同様に下落したが、需給バランスのタイトさが意識されたためか、下落幅は限定された。

【貴金属価格見通し】

金銀はやや軟調な推移になると予想する。感染第二波の影響やFOMCを受けた材料一巡で四半期末を控えた利益確定の動きが株式市場にみられる中、金にも決算を意識した利益確定の動きが強まると予想されるため。

ただし、FOMCでは2022年までの政策金利据え置きの見通しが示されており、金融面では金価格はサポートされるため下落するといっても3月のような決算危機にならない限り、大幅な調整にはならないと考える。

また、米中対立激化がほぼ確実な情勢になっていることや、コロナ不況を背景とした新興国経済の混乱も、安全資産需要を高めることになる。

コロナウイルス対策で各国とも財政支出を拡大しており、アルゼンチンで発生したようなデフォルト発生が意識されることが安全資産需要を高めることも、価格を押し上げると考える。

現在の金の実質金利で説明可能な価格からの乖離(リスクプレミアム)は222ドル(前日比▲13ドル)。現在の実質金利で説明可能な価格水準は長期金利の低下もあって、1,480~1,500ドル程度に切り上がっている。

※毎日回帰分析をアップデートし、リスクプレミアム自体の水準を見直しているため、前日比の整合性が取れていない場合があります。

銀価格は金価格との比較感で売買されるが、金銀在庫レシオを元にした分析では110倍程度が妥当、となっているが実際は100倍を下回った。

過去1年平均を基準にすると95倍程度が妥当であり、この水準への回帰の動きがみられていることから、銀の金に対しての上げ余地はあるとみられる。

なお、金銀在庫レシオ(銀在庫÷金在庫)はCOMEX金在庫の急増によって低下、金銀レシオに下押し圧力をかけており、徐々に銀価格は対金で水準を切り上げる展開になると予想される。

金価格の上昇余地がそろそろ限界では、との見方が強まっていることも、割安な大体安全資産として銀が物色される可能性は高い。

プラチナ価格は銀価格との連動性が高まっている。これは供給過剰で投機的な色彩が強まっているが、各国の準備金や市場取引の担保価値が認められている金のような安全資産としては認知されていないことによる。

しかし、値動きとしては銀価格と連動しやすく、銀価格が割安感から物色されやすい地合いとなっているため、プラチナ価格にも上昇圧力が掛かることになろう。

パラジウムは価格は景気の先行きが明確に悪いこと、少なくともQ220は景況感の低迷が続く見込みであることから、工業向け需要低迷がから実需面は価格を下押ししやすい。

その一方で、貴金属のベンチマークである金価格は堅調な推移が予想されるため、結果、パラジウムは神経質にレンジワークでの推移になると考える。

5月の米自動車販売は年率873万台(市場予想 1,104万台、前月 858万台)と、市場予想に到底届かないほどの低迷となった。足元、経済活動が再開されているが、米国の経済活動の正常化は、想定以上の時間がかかると考えるべきであり、PGM向けの需要の伸びは低迷しよう。

中国の5月の自動車販売は前年比pら14.7%の219万台(前月+4.4%の207万台)と前月比プラスとなった。景気テコ入れ(ただしその多くがEV車向け)の動きや、密を回避するための手段としての自動車の有用性が再確認されていることなどが材料とみられる。

中国の販売は欧米に先行して回復すると見るが、完全に経済活動が元に戻ることは難しく、回復ペースは緩慢なものに留まるだろう。

そして、コロナウイルスの影響が拡大する中で、日米欧も自動車販売が減速する可能性は高く、PGM価格の下押し要因になると予想される。

【価格変動要因の整理】

<<マクロ要因>>

・各国とも政策金利をゼロ近傍に下げており、量的緩和規模も拡大。あとは更に規模を拡大するか、量的緩和時の投資対象を拡大するぐらいしかなくなってきた。

これで追加の緩和手段はほぼなくなった状態であり、金価格の上昇余地は限定される。

・世界的な自動車販売の減速(米欧中)による、自動車向け排ガス触媒需要の減少(PGM)。

・コロナウイルスの感染拡大による、最大生産国の1つである南アフリカの鉱山稼働全面停止による供給懸念。

・排ガス規制強化に伴うパラジウムへのシフト観測(プラチナがパラジウムを代替するには数年単位で時間を要する)。

・パラジウム需要増加に伴うPGMの増産により、結果的にプラチナが供給過剰となり価格の下落要因に(プラチナ)。

パラジウムはロシアでは銅・ニッケルの、南アフリカ・米国ではプラチナの副産物として生産されるため(副産物としての供給が8割)、急な増産が困難であり供給面の制限が価格を下支えする状況に変わりはない。

<<特殊要因>>

・コロナ対策で過剰な財政出動が行われており、終息後に各国の財政・信用不安が意識される場合(価格の上昇要因)。

・米中の対立激化。米国は今回のウイルス問題で、中国の医療面、人工知能を含むIT面に脅威を感じた可能性は高く、対立が激化する場合(安全資産価格の上昇要因)。

・生産拠点を自国に回帰させる動きやリモートの定着による成長鈍化が、新興国の財政状況を悪化させる場合(価格の上昇要因)。

・原油価格低迷による財政状況の悪化、コロナウイルスの影響拡大に伴う国民の不満爆発、サバクトビバッタの大量発生による食糧危機などで、中東・北アフリカ有事が発生、それに伴う安全資産需要の高まり(上昇要因)。

・トルコとシリアのイドリブ県を巡る対立はロシアとトルコが停戦で合意したものの、再び衝突する可能性は排除できない。この場合、安全資産需要を高め、価格の上昇要因に。

・英国のブレグジットは、移行期間中の合意は容易ではなく、無秩序離脱の可能性はまだなくなっていない。

・中国地方政府・中堅中小企業の財政状況悪化に伴う景気減速による安全資産需要の増加。

<<投機・投資要因>>

・直近の投機筋のポジションは、金はロングが272,196枚(前週比 ▲15,952枚)、ショートが53,162枚(+2,928枚)、ネットロングは219,034枚(▲18,880枚)、銀が64,997枚(+3,472枚)、ショートが27,773枚(+3,437枚)、ネットロングは37,224枚(+35枚)

・直近の投機筋のポジションは以下の通り。

プラチナはロングが28,645枚(前週比 ▲1,279枚)ショートが7,053枚(+152枚)、ネットロングは21,592枚(▲1,431枚)

パラジウムが2,632枚(▲40枚)、ショートが2,232枚(+280枚)ネットロングは400枚(▲320枚)

---≪農産品≫---

【穀物市場動向総括】

シカゴ穀物市場はまちまち。トウモロコシと大豆は上昇、小麦は下落した。トウモロコシと大豆はドル安と需給報告での在庫見通し下方修正が素直に材料視された。

小麦は見通しよりも在庫水準は増えることとなったが、前月見通しからは大幅な上方修正であり、売り材料となった。

昨日発表された米需給報告は以下の通りとなっている。

・6月米生産見通しトウモロコシ 159億9,500万Bu(市場予想 159億1,736万Bu、前月 159億9,500万Bu)大豆 41億2,500万Bu(41億3,804万Bu、41億2,500万Bu)小麦 18億7,700万Bu(18億5,514万Bu、18億6,600万Bu)

・6月米在庫見通しトウモロコシ 33億2,300万Bu(33億5,554万Bu、33億1,800万Bu)大豆 3億9,500万Bu(4億2,861万Bu、4億500万Bu)小麦 9億2,500万Bu(9億500万Bu(9億900万Bu)

【穀物価格見通し】

トウモロコシ価格は米国のロックダウン解除の動きがエタノール向けの需要を増加させることが価格を押し上げるが、生産地の作柄が予想外に改善していることが価格の上昇を抑制するため、結局もみ合うものと考える。

大豆は国内の飼料向け需要の増加が予想されるが、米中対立の再燃による米国産大豆の中国向けの輸出減速が予想されること、作柄の改善を受けて軟調な推移に。

小麦は北米の冬小麦の作柄が悪化していること、トウモロコシに連れ高を見込む。ショートの水準が過去5年レンジを下回っており、買戻しが入りやすい。

だが例年通り最終的には供給は帳尻が合うと予想されるため、上昇余地も限定。

東アフリカ・中東地域で激増しているサバクトビバッタであるが、7月頃に終息の見込み。ただし西アフリカに飛来する、との指摘もあり予断を許さず。

また、東南アジアでもトウモロコシやイネの大害虫であるツマジロクサヨトウが繁殖し、深刻な食糧危機をもたらしている

コロナウイルスの影響で播種に必要な人員を確保できない農家があったが、今度は収穫期にコロナウイルスの影響で人員が確保できず、収穫に影響が出る可能性がある。年後半にかけて、穀物価格の見通しは強気だ。

【価格変動要因の整理】

<<マクロ要因>>

・トウモロ作付け意向面積トウモロコシ 9,699万エーカー(市場予想 9,412万エーカー)大豆 8,351万エーカー(8,502万エーカー)小麦 4,466万エーカー(4,495万エーカー)

・6月の米需給報告の生産見通し(今月/市場予想/前月)トウモロコシ 159億9,500万Bu(159億1,736万Bu、159億9,500万Bu)大豆 41億2,500万Bu(41億3,804万Bu、41億2,500万Bu)小麦 18億7,700万Bu(18億5,514万Bu、18億6,600万Bu)

・6月の米需給報告の在庫見通し(今月/市場予想/前月)トウモロコシ 33億2,300万Bu(33億5,554万Bu、33億1,800万Bu)大豆 3億9,500万Bu(4億2,861万Bu、4億500万Bu)小麦 9億2,500万Bu(9億500万Bu(9億900万Bu)

・3月末四半期在庫(実績/市場予想/前月)トウモロコシ 79億5,300万Bu(81億8,354万Bu、114億200万Bu)大豆 22億5,300万Bu(22億2,830万Bu、32億5,800万Bu)小麦 14億1,200万Bu(14億2,979万Bu、18億4,100万Bu)

<<特殊要因>>

・新型肺炎の影響拡大による、輸出活動の停滞(シカゴ定期を含む生産地価格の下落要因)。

・米・イランの対立激化により、穀物輸送に影響が出る場合(下落要因)。ただし非景気循環銘柄需要が高まり最終的には上昇要因に。

・夏場以降、北米の穀物生産に影響を与えるラニーニャ現象の発生の可能性があり、価格の上昇リスク要因に。

・中国の豚コレラ被害の拡大により、飼料需要が減少した場合は価格の下落要因(逆に終息すれば上昇要因)。

<<投機・投資要因>>

・直近の投機筋のポジションは以下の通り。

トウモロコシはロングが235,871枚(前週比 +12,510枚)、ショートが455,309枚(+11,873枚)ネットロングは▲219,438枚(+637枚)

大豆はロングが178,933枚(▲3,169枚)、ショートが107,097枚(+3,854枚)ネットロングは71,836枚(▲7,023枚)

小麦はロングが117,497枚(+8,139枚)、ショートが112,940枚(+4,130枚)ネットロングは4,557枚(+4,009枚)

◆主要ニュース


・日本企業景況判断BSI Q220/Q320/Q420 大企業製造業 ▲52.3/▲7.9/+6.6、大企業非製造業 ▲45.3/▲6.0/0.2、中堅企業全産業 ▲54.1/▲17.3/▲2.3、中小企業全産業 ▲61.1/▲27.2/▲12.2

・5月東京都心オフィス空室率 1.64%(前月 1.56%)

・5月米生産者物価指数 前月比+0.4%(前月▲1.3%)、前年比▲0.8%(▲1.2%)
 除く食品エネルギー 前月比▲0.1%(▲0.3%)、前年比+0.3%(+0.6%)
 除く食品エネルギー・貿易 前月比+0.1%(▲0.9%)、前年比▲0.4%(▲0.3%)

・米週間新規失業保険申請件数 1,542千件(前週 1,897千件)
 失業保険継続受給者数 20,929千人(21,268千人)

・Q120米家計純資産変化 6兆5,480億ドル(前期+3兆960億ドル)

・米共和党、追加景気刺激策の検討を7月下旬に先送り。

◆エネルギー・メタル関連ニュース


【エネルギー】
・DOE天然ガス稼働在庫 2,807BCF(前週比+93BCF)
 東部 563BCF(+27BCF)
 中西部 662BCF(+28BCF)
 山間部 148BCF(+8BCF)
 太平洋地区281BCF(+8BCF)
 南中央 1,153BCF(+22BCF)

・Moody's 東京ガスをA1に格下げ、見通しは安定的。

・Kpler、「6月8日時点の減産は▲763万バレルとOPECプラスの減産合意順守率は79%。サウジアラビアの減産が寄与。」

【メタル】
・Codelco鉱山労働者、コロナウイルスの対応をめぐり、労働環境の改善と健康対策を要求し場合によるとストライキへ。

・4月南アフリカ主要鉱石生産 総生産指数前年比▲47.3%(前月▲18.0%)
 金 ▲59.6%(+9.5%)
 鉄鉱石 ▲68.7%(▲48.6%)
 クロム ▲60.1%(▲27.7%)
 銅 ▲93.7%(▲61.0%)
 マンガン ▲57.6%(▲9.9%)
 PGM ▲62.0%(▲35.1%)
 ニッケル ▲85.0%(▲48.0%)
 石炭 ▲9.1%(▲1.8%)

◆主要商品騰落率


【上昇率上位5商品】

商品名(カテゴリー)/前日比上昇率/年初来上昇率
1.ICE欧州天然ガス ( エネルギー )/ +7.17%/ ▲59.09%
2.CBTオレンジジュース ( その他農産品 )/ +2.21%/ +33.02%
3.NYM米天然ガス ( エネルギー )/ +2.19%/ ▲16.90%
4.SHF 金 ( 貴金属 )/ +1.06%/ +13.37%
5.SHF銅 ( ベースメタル )/ +1.00%/ ▲3.76%

【下落率上位5商品】

商品名(カテゴリー)/前日比上昇率/年初来上昇率
70.CBTもみ米 ( 穀物 )/ ▲9.34%/ +10.89%
69.NYM WTI ( エネルギー )/ ▲8.99%/ ▲40.98%
68.ICE Brent ( エネルギー )/ ▲8.46%/ ▲42.12%
67.NYM RBOB ( エネルギー )/ ▲8.38%/ ▲34.71%
66.NYM灯油 ( エネルギー )/ ▲8.08%/ ▲46.84%

※弊社が重要と考える主要商品の前日比騰落率上位・下位5品目です。
※限月交代に伴う価格の不連続性は考慮されていません。予めご容赦ください。

◆主要指標


【為替・株・金利・ビットコイン】
NY ダウ :25,128.17(▲1861.82)
S&P500 :3,002.10(▲188.04)
日経平均株価 :22,472.91(▲652.04)
ドル円 :106.91(▲0.21)
ユーロ円 :120.70(▲1.14)
米10年債 :0.66(▲0.06)
中国10年債利回り :2.77(▲0.05)
日本10年債利回り :0.01(▲0.01)
独10年債利回り :▲0.41(▲0.08)
ビットコイン :9,283.77(▲583.83)

【MRAコモディティ恐怖指数】
総合 :36.74(+0.57)
エネルギー :53.95(+1.01)
ベースメタル :23.55(+0.46)
貴金属 :29.51(+1.16)
穀物 :27.64(+0.57)
その他農畜産品 :39.75(+0.24)

【主要商品ボラティリティ】
WTI :66.81(+10.39)
Brent :59.90(+7.37)
米天然ガス :38.11(▲10.99)
米ガソリン :58.72(+0.81)
ICEガスオイル :67.64(▲0.41)
LME銅 :19.93(▲0.2)
LMEアルミニウム :19.17(+2.03)
金 :11.20(▲1.61)
プラチナ :32.99(+2.7)
トウモロコシ :13.97(▲0.21)
大豆 :11.20(▲1.61)

【エネルギー】
WTI :36.04(▲3.56)
Brent :38.20(▲3.53)
Oman :39.48(▲3.40)
米ガソリン :110.85(▲10.14)
米灯油 :107.82(▲9.48)
ICEガスオイル :336.00(±0.0)
米天然ガス :1.82(+0.04)
英天然ガス :12.71(+0.85)

【貴金属】
金 :1728.65(▲10.05)
銀 :17.65(▲0.46)
プラチナ :814.88(▲26.89)
パラジウム :1945.58(▲9.10)
※ニューヨーククローズ。

【LME非鉄金属】
(3ヵ月公式セトル)
銅 :5,825(+3:23.5C)
亜鉛 :2,015(+3:11C)
鉛 :1,734(▲22:22.5C)
アルミニウム :1,606(▲33:23.5C)
ニッケル :12,681(▲271:66C)
錫 :16,855(▲245:130B)
コバルト :29,579(▲5)

(3ヵ月ロンドンクローズ)
銅 :5753.00(▲151.00)
亜鉛 :1992.50(▲36.50)
鉛 :1737.00(▲6.00)
アルミニウム :1594.00(▲33.00)
ニッケル :12650.00(▲360.00)
錫 :16940.00(▲280.00)
バルチック海運指数 :839.00(+75.00)
※C=Cash-3M コンタンゴ、B=Cash-3M バック

【鉄鋼原料】
62%鉄鉱石スポット(CFR中国、1営業日前) :104.16(▲0.65)
SGX鉄鉱石 :102.81(▲0.38)
NYMEX鉄鉱石 :102.75(▲0.14)
NYMEX原料炭スワップ先物 :110.04(+0.04)
上海鉄筋直近限月 :3,600(±0.0)
上海鉄筋中心限月 :3,593(▲9)
米鉄スクラップ :315(▲9.00)

【農産物】
大豆 :866.25(+0.75)
シカゴ大豆ミール :289.70(+0.90)
シカゴ大豆油 :27.47(▲0.53)
マレーシア パーム油 :2403.00(+23.00)
シカゴ とうもろこし :329.50(+3.25)
シカゴ小麦 :499.25(▲7.00)
シンガポールゴム :144.00(▲1.40)
上海ゴム :10460.00(+85.00)
砂糖 :11.94(▲0.29)
アラビカ :96.00(▲0.75)
ロブスタ :1196.00(▲28.00)
綿花 :60.02(▲0.49)

【畜産物】
シカゴ豚赤身肉 :47.88(+0.03)
シカゴ生牛 :96.85(+0.25)
シカゴ飼育牛 :131.50(▲1.18)

※全ての価格は注記が無い限り、取引所で取引される通貨建。
※限月交代に伴う価格の不連続性は考慮されていません。予めご容赦ください。