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リスク選好回復とドル需給緩和
  • MRA外国為替レポート

2020年5月11日号

◆先週の市場総括


この2週間、発表された米国の経済指標はきわめて悪い数字が続いた。

消費者信頼感(4月)は2014年以来の低水準。個人所得・消費支出は3月の段階で大幅悪化。各種企業の景況感指数も弱い。ISM製造業景気指数(4月)は41.5と予想ほどには悪化しなかったが、生産指数、雇用指数、新規受注指数はいずれも27ポイント台で70年ぶりの悪い数字となった。

ただ中国ではすでに経済活動が再開。欧州・米国でも外出制限の緩和や経済活動再開に向けて検討が進み一部は動き始めた。また治療薬の開発についても前向きな動きがみられた。

こうしたことから市場のリスク選好が回復。米中間で感染に関する対立がみられ、また貿易問題も取り沙汰される場面もあり株価が反落する場面もあったが、8日金曜日の週末にかけて株価は堅調さを取り戻した。

注目の米国・雇用統計(4月)は非農業部門雇用者数が前月比▲2,050万人の減少、失業率は14.7%に大きく上昇したが、いずれも想定の範囲内で、これを受けて株価下落など市場のネガティブな反応はみられなかった。

日経平均は4月30日には2万円の大台を回復したが、5月1日金曜日には19,600円に反落。その後連休に入ったが、連休明けには堅調な米国株に支えられ8日金曜日には2万円台を回復して引けた。

ドル円相場は107円台半ばから上値の重い展開。株価堅調ななかでもじり安となり、米中対立が嫌気されると一時106円を割り込んだ。ただ週末にかけては底固く、雇用統計の悪さも織り込み済みで、米国株の堅調推移、米長期金利が小幅ながら反発するなか、8日金曜日は106円70銭で取引を終えた。

4日月曜日のアジア時間のドル円相場は106円90銭で始まり70銭~80銭でもみ合い。ユーロは117円近辺からやや下げて116円60銭~90銭で上下。

欧米市場では株価が堅調。米国の製造業新規受注(3月)は前月比▲10.3%の大幅減。1992年の統計開始以来最大のマイナスとなり、一段の悪化が予想された。

一方、欧米で規制緩和の動きが広がりつつあることを好感して株価はしっかり。ハイテク関連中心に上昇。原油価格WTIも20ドル台を回復した。

ドル円相場は107円を一時回復したが反落して106円80銭近辺で引け。ユーロ円相場は116円30銭~40銭に下落。ユーロは対ドルでも下落し、アジア時間の1.096から1.090へ。

5日火曜日のドル円相場は106円80銭で始まり50銭に下落したが反発して106円80銭~90銭でもみ合い。ユーロ円相場は116円30銭中心にもみ合い。ウィルス感染拡大と対応を巡り米中対立は続いた。

欧州時間に入るとユーロが大幅安。ドイツ憲法裁判所がECBの資産買い入れプログラムについて政策の必要性を説明しなければドイツ連銀は3か月以内に国債買い入れを停止する必要がある、としたことが嫌気された。

ユーロドル相場は1.09台から1.083へ、ユーロ円相場は115円60銭へ下落。その後反発したが結局は押し戻されてユーロ円相場は115円台半ばでNYの取引を終えた。

ドル円相場は106円80銭~90銭近辺での推移からやや下落して106円50銭~60銭で引け。米国株は高寄りした後じり高も引けにかけて下落し上げ幅を縮めた。経済再開や治療薬への期待が下支え。

原油価格WTIは24.56ドルに大幅高。経済封鎖緩和の動きが世界全体で広がっていることを好感。

発表されたISM非製造業景気指数(4月)は41.8と前月52.5から悪化したものの、予想37.7ほどには悪化しなかった。FRBクラリダ副議長は、4-6月期の米経済は大幅縮小となり、失業率は1940年代以来の水準へ悪化する公算が大きい、と述べた。

6日水曜日のアジア時間のドル円相場は106円60銭で始まり軟調、30銭割れ、30銭~40銭で推移した。ユーロ円相場は115円50銭から下落して115円20銭近辺でもみ合い。ユーロドル相場は1.083近辺でもみ合い。欧米時間に入るとリスク回避がやや再燃して米国株がまとまった下げとなった。

発表された米国のADP雇用報告(4月)は雇用者数前月比▲2,023万人の減少となり史上最悪の数字。4月12日までの集計であることから、さらなる雇用情勢悪化に懸念が広がった。

経済活動再開への期待はあるものの、雇用悪化が現実となるなか、トランプ大統領が感染拡大で対中報復を検討との報道も嫌気されて株価は下落した。NYダウは前日比▲200ドルを超える下げで前日の上昇130ドルを吐き出した。

ユーロ円相場は一段安となり114円50銭。ドル円相場は一時106円ちょうどをわずかに割り込んだ。引けは106円10銭。ユーロドル相場は1.08近辺で上下。セントルイス連銀総裁は、雇用統計は過去最悪となり失業率は20%もありうる、と述べた。

7日木曜日、連休明けの東京市場では日経平均が19,400円台前半と連休前19,600円近辺から安寄りしたが、その後はジリ高となり19,700円に上昇。引けは19,670円近辺。

発表された中国の貿易統計(4月)では輸出が前年同月比+3.5%と想定外のプラス。企業活動再開とともに医療製品の輸出が寄与したとみられる。

ドル円相場はやや上昇して106円20銭~30銭で上下。ユーロ円相場も同様に114円50銭から小幅上昇して70銭中心にもみ合い。ユーロドル相場は1.080近辺で小動き。

欧米市場では、米国株が経済活動再開期待からハイテク関連中心にしっかり。

NYダウは前日比+211ドルと前日の下げを取り戻して23,875ドルで引け。ナスダックは一時9,000ドルをつけ引けは前日比+125ドル高の8,980ドル。

週次の新規失業保険申請件数は前週比+3,169千件、5週連続で増加幅は減少したがなお高水準。継続受給者数は22,674千人と前週の17,992千人から増加して2,000万人を超えた。ただ悪化は織り込み済みで反応は鈍い。

懸念されていた米中対立に関して、ライトハイザーUSTR代表、ムニューシン財務長官、劉鶴副首相、にて電話協議が実施されるとの報道にむしろ安心感が広がった。

ドルが軟調。ドル円相場は106円50銭~60銭に上昇してもみ合い、その後は20銭~30銭に反落。ユーロが対ドルで上昇。1.077から1.083へユーロ高ドル安。ユーロ円相場は114円90銭中心のもみ合いから115円10銭に上昇。

ECBラガルド総裁は、従来型の政策措置を超える以外選択肢はない、可能なすべての手段や政策を駆使してショックを乗り越える必要がある、と述べた。

サンフランシスコ連銀総裁は、2020年はマイナス成長、21年はプラス成長、V字回復は見込めず漸進的回復となるだろう、と述べた。

IMFは3週間前よりも経済見通しは悪化、感染鎮静化の遅れ、経済活動再開も元に戻らず2021年に再発リスクもある、とした。

8日金曜日の東京市場の為替相場は小動き。ドル円相場は106円30銭~40銭でもみ合い。ユーロ円相場は115円10銭で始まり40銭に上昇も10銭に押し戻された。ユーロドル相場は1.083で始まり1.082~1.084。

日経平均は19,900円で高寄りした後、2万円の大台を回復。後場はジリ高推移となり20,160円近辺で高値引け。前日比+500円の大幅高。米国株の堅調が支え。

欧米市場では米国の雇用統計(4月)に注目が集まった。

結果は非農業部門雇用者数が前月比▲20,500千人の減少、前月分が▲701千人から▲870千人に下方修正。雇用者数はかつてない規模で減少したが想定の21百万人減少の範囲内。失業率は14.7%に上昇したがこちらも予想16%よりは小さかった。

米国株は想定内の結果でネガティブな反応はせず。NYダウは高寄りした後もみ合い、さらに引けにかけて上昇して高値引け。前日比+455ドルの24,331ドルで週末の取引を終えた。

ナスダックは+141ドルの9,121ドル。引値で9,000ドルの大台を回復。VIX指数は前日に続き低下して27.98ポイントと、危機により急騰して以降で初めて30を割った。

ドル円相場は雇用統計を受けて106円7-0銭に上昇。その後40銭に下げたが反発、ジリ高となり106円70銭で引け。ユーロドル相場は1.082に下落した後1.087に反発、その後はユーロ安ドル高に押し戻されて1.084。ユーロ円相場は115円60銭~70銭でもみ合い引けた。

原油価格WTIは24.74ドルとしっかり。金価格はリスク選好の強まりに反落。米10年債利回りは小幅上昇し0.68%。

◆今週の3つの注目ポイント


1.中国の経済指標

今週は4月の重要指標が発表となる。経済活動再開による景気持ち直し傾向が確認されるか。

火曜日 消費者物価指数(前年同月比、予想+4.8%、前月+4.3%)生産者物価指数(同、予想▲1.1%、前月▲1.5%)※生産者物価指数のマイナス幅縮小が生産活動の再開、需給改善を示すか

金曜日 小売売上高(同、予想▲7.5%、前月▲15.8%) 鉱工業生産(同、予想+1.5%、前月▲1.1%)、都市部固定資産投資(同、予想▲10.0%、前月▲16.1%)

2.米国の経済指標

今週は景況感、実数値、双方の重要指標がいくつか発表となる。

火曜日 消費者物価指数(4月、前年同月比、予想+0.8%、前月+1.5%)水曜日 生産者物価指数(同、予想+0.1%、前月+0.7%)金曜日 小売売上高(4月、前月比、予想▲10.0%、前月▲8.7%)NY連銀製造業景気指数(5月、予想▲65.0、前月▲78.2)鉱工業生産(4月、前月比、予想▲11.6%、前月▲5.4%)設備稼働率(予想65.1%、前月72.7%)ミシガン大学消費者信頼感指数(5月、予想68.5、前月71.8)

3.経済活動再開と感染者動向

欧米各所で経済活動が徐々に再開されている。治療薬の開発と併せて、目下のところそれが市場の期待感の支え。足元では景気が極端に悪化しており、米国の失業率は20%に迫る可能性がある。

感染抑制から経済へと軸足を移したところで、再び感染が拡大する兆しがみえれば、各国政府が再び感染拡大防止へと舵を切り返す可能性もある。

ドイツでは「緊急ブレーキ」(感染者増加にともなう規制再強化)が定められている。仮にそうした兆しがみえれば市場にとっては大きなショックとなりかねない。今週の感染者動向は要注意だ。

◆今週のMRA's Eye


リスク選好回復とドル需給緩和

先週、米国株は米中対立の再燃から一時軟調となったものの、各国での経済活動再開の動きや感染治療薬開発の進捗を背景に、期待感で上昇した。総じて、大底を打ってから株価持ち直しの動きが続いている。

NYダウは底値からおよそ30%上昇。日経平均も2万円の大台を回復した。足元で発表されている米国の経済指標はかつてない悪い数字が並ぶ。4-6月期はなおも経済は低迷し、6月にかけて発表される経済指標はさらなる景気悪化を示しそうだ。

しかしそうした足元の現実よりも将来への期待感が上回って、リスク選好は回復基調にある。株価動向が落ち着きを取り戻したことでVIX指数(株価予想変動率指数、別名恐怖指数)は危機発生以来、初めて30ポイントを割った。

G7金融当局が緊急会合を開催し、FRBが緊急利下げを実施し、各国が協調緩和に動いた直後の3月16日には、米国株が史上最大の暴落となりVIX指数は80ポイントを超えていた。

そこからみれば相当な低下であり、20ポイント台後半は水準としてはなお高いものの、過去の値動きのなかでしばしばみられた水準。平時にもみられた水準まで鎮静化してきた。

一方、ドル円相場は株価持ち直し、リスク選好回復の傍らで、総じて軟調に推移し、先週は一時106円ちょうどをつけた。従来であれば、30%にも及ぶ株価上昇が示すリスク選好の回復局面では、リスク選好がドルにマイナスとはいえ、ドル高円安に振れただろう。

従来みられた株高・ドル高円安の動きとは逆行する動きだ。ユーロ円相場などクロス円相場の下落・円高が足かせとなった、との見方もある。しかし、原因はドルにもありそうだ。

各国金融当局の積極的なドル資金供給策によって、金融市場、銀行間取引におけるドル需給の引き締まりはようやく緩和した。

銀行間取引における上乗せ金利、いわば金融機関の信用スプレッドを示すLibor-OISスプレッドは、3月下旬には一時140ベーシスポイントまで拡大していたが、現在は40ベーシス、0.40%近辺まで低下した。

この水準はなおやや高いが、平時でも時折みられる水準だ。おそらく、こうしたドル需給の緩和傾向が、足元でドル円相場を軟調に推移させてきた要因のひとつだろう。

ドル円相場は原油価格が最初に暴落した3月9日に一時101円台に下落した。ユーロドル相場も1.14ドルにユーロ高ドル安となっていた。ドル全面安・円全面高だった。そこまでは通常の株安・リスク回避の円高だった。

しかしその後1週間で、投資家の急激なドルキャッシュ化、あらゆる資産の売却、ドル資金需要の急激な高まりが発生。

銀行間市場でドルが枯渇する事態となり、上記のとおり、3月16日に各国金融当局が協調してドル資金供給を行うに至る。ドル不足によってドルは急反発し、ドル円相場は111円台まで上昇した。

その後、市場が鎮静化し、ドル需給の逼迫は緩和、リスク選好が回復し株価が堅調に推移する流れとあいまって、ドル高が剥落してドル安円高にじわじわ動いたとみられる。

金融当局が市場のドル不足に対応、金融市場の混乱の鎮静化に努め、その結果、有事のドル高が緩和して、平時のレベルに戻ったというのがここまでの流れと考えられる。

問題はここから。

市場のリスク選好回復・株高傾向が続くとして、ドル需給の平常化を材料に、なおも株高とドル安円高の併存が続くのか。

仮に、市場の期待通り、リスク選好の回復・株価持ち直しがなお続くとしても、それによるドル安・円高は続かないのではないか。

ドル需給を材料とするドル安であれば、すでに平時のレベルまで到達したレベルから、さらなるドル安に動かす材料とはなりにくい。むしろリスク選好の回復・株高は円高にブレーキをかけ、極めて緩慢ながらドル高・円安方向へ動かすことになるのではないか。

一方、なおもドル安円高に振れるとすれば、リスク回避の再燃だ。ドル需給が緩和したなかでリスク選好が挫かれ、株価が下落する事態となれば、再びドル安円高に振れ105円割れを試すリスクがある。感染の再拡大や経済活動の再停止などが生じないか。

さらに鍵を握るのが信用市場の動向だ。ドル需給緩和・銀行間市場のスプレッド縮小、VIX指数の低下、とともに、信用スプレッドも縮小してきた。これが、今後の企業破綻などによって再び跳ね上がることはないか。

信用スプレッドが再拡大する場合には、ドル安円高に振れるリスクがある。もちろん、そうした事態を避けるべく、金融当局や政府が様々な手を打っているので、それは発生確度の低いリスクシナリオだ。ただ今後の動向、とくに5月から6月にかけては、なお留意を要する。

◆主要指標


【対円レート】
ドル :106.65(+0.37)
ユーロ :115.5(+0.40)
英ポンド :132.296(+0.93)
豪ドル :69.683(+0.65)
カナダドル :76.589(+0.53)
スイスフラン :109.801(+0.59)
ブラジルレアル :18.6142(+0.41)
中国人民元 :15.059(+0.03)
韓国ウォン(日本円=100) :8.74(+0.02)

【対ドルレート】
ユーロ :1.0839(+0.001)
英ポンド :1.241(+0.005)
豪ドル :0.6532(+0.004)
カナダドル :1.3927(▲0.005)
スイスフラン :0.9713(▲0.002)
ブラジルレアル :5.7309(▲0.105)
中国人民元 :7.0742(▲0.010)
韓国ウォン :1219.85(▲5.13)

【主要国政策金利】
米国 :0.25
ユーロ :0.00
日本 :0.00

【主要国長期金利】
米10年債 :0.68(+0.04)
米2年債 :0.16(+0.02)
日本10年債利回り :▲0.00(▲0.01)
日本2年債利回り :▲0.00(+0.01)
独10年債利回り :▲0.54(+0.01)
独2年債利回り :▲0.78(▲0.02)

【主要株価指数・ビットコイン】
NY ダウ :24,331.32(+455.43)
NASDAQ :9,121.32(+141.66)
S&P500 :2,929.80(+48.61)
日経平均株価 :20,179.09(+504.32)
ドイツ DAX :10,904.48(+145.21)
インド センセックス :31,642.70(+199.32)
中国上海総合 :2,895.34(+23.82)
ブラジル ボベスパ :80,263.40(+2,144.80)
英国FT250 :休場( - )
ビットコイン :9998.9(+197.59)

【主要商品価格】
WTI :24.74(+1.19)
Brent :30.97(+1.51)
米ガソリン :95.22(+2.08)
米灯油 :89.93(+6.22)

金 :1702.70(▲13.36)
銀 :15.48(+0.14)
プラチナ :771.76(+4.89)
パラジウム :1892.06(+28.41)
銅 :休場( - )
アルミニウム :休場( - )
※貴金属はニューヨーククローズ。ベースメタルは3ヵ月公式セトル価格。
※C=Cash-3M コンタンゴ、B=Cash-3M バック

シカゴ大豆 :848.75(+7.25)
シカゴ とうもろこし :319.00(+3.00)
シカゴ小麦 :529.50(+0.50)

※全ての価格は注記が無い限り、取引所で取引される通貨建。
※限月交代に伴う価格の不連続性は考慮されていません。予めご容赦ください。
※ 「休場」となっているものは、取引所が休場ないしはデータ更新時点で最新データを取得できなかった場合を指します。